専用鉄道

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専用線を走行する工場所属の単行機関車(広島県福山市JFEスチール西日本製鉄所福山地区専用線)

専用鉄道(せんようてつどう)とは、一般的意味では特定の経済主体が専ら自己の用に供するため専用している鉄道のこと[1]。ただし、日本の法制度上は公共の用に供する鉄道に接続するなど一定の条件を満たすもののみを専用鉄道として定義している[1]。ここでは専用線(せんようせん)についても記述する。

一般的意味での専用鉄道[編集]

専用鉄道は、一般的意味では特定の経済主体が専らその用に供するため専用しており、不特定多数の旅客や荷主が利用するものではない鉄道をいう[1]。例えば工場経営のために工場内に敷設され専ら経営者が利用する鉄道、鉱山経営のために坑道内に敷設されるものなどをいう[1]。また、みかん農家などで多用されている産業用モノレールも広義の専用鉄道である。

中国[編集]

中国では一般の国内鉄道網のほかに約3万kmの地方鉄道と専用鉄道があり、その多くが工業企業内部で運用されている専用鉄道である[2]。これらの比率は大型企業のものが77%、中型企業のものが23%となっている[2]。専用鉄道の多い地域は黒竜江省山西省遼寧省河南省河北省である[2]

産業別では工業系統(石炭、冶金、石油、電力、化工、建材などの企業)が74%、運輸通信企業が4%(港専用鉄道2%)、貿易商業企業が3.5%、貨物貯蔵供給企業が3.5%、その他用途の専用鉄道が15%で、ほかに森林鉄道が7,260㎞ある[2]

オーストラリア[編集]

オーストラリアの鉄道網の多くは州政府の所有であるが、西オーストラリア州北部やクイーンズランド州などの地下資源地帯には鉱物専用鉄道があるほか、クイーンズランド州には製糖工場によるサトウキビ鉄道もあり、これらは私企業によって所有運営されている[3]

オーストラリアの鉄鉱山は西オーストラリア州に多く、鉄鉱石のほとんどが専用鉄道で港まで運ばれ輸出されている[4]

日本の法制度の専用鉄道[編集]

法律上の定義[編集]

専用鉄道は鉄道事業法において、「専ら自己の用に供するため設置する鉄道であつて、その鉄道線路が鉄道事業の用に供される鉄道線路に接続するものをいう」と定義されている(鉄道事業法第2条第6項)。接続とは必ずしも既存の鉄道への直通運転を行うことではなく、積み替えによる輸送も実在していた。

専用鉄道は特定の法人または個人が保有する鉄道で、線路延長が3 kmを超えることが可能。また他の鉄道と直通接続する必要はなく、なおかつ運輸局長の免許・監督のもと、特定人(従業員等)の輸送もできるものを指す。

専用鉄道の設置者は、国土交通省令で定める技術上の基準に従い、施設や車両の維持・管理をしなければならない(鉄道事業法第39条)。

一方「専用線」は基本的に「一般交通の用に供せざる」鉄道で、日本国有鉄道専用線規則では「特定貨主が自己の専用に供するため、その負担において敷設した日本国有鉄道の側線」(日本国有鉄道専用線規則第2条)を指し、原則として3 km以内とされていた。そのため用地を含めて国鉄に無償で提供され、廃止後に元の所有者へ返還されるシステムとなっている。

鉄道国有主義の下では専用鉄道の設置にあたって国から専用鉄道免許を受ける必要があったが、現在の鉄道事業法では免許や許可、届出などの手続条文は削除されている[1][5]

歴史[編集]

専用鉄道や専用線は、規模の大きな工場炭鉱鉱山港湾地区の倉庫などと最寄を結ぶものが多かった。鉄道貨物輸送の全盛期であった1960年代 - 1970年代までは、京浜中京などの工場地帯や港湾地区を中心に多数存在していたが、1984年昭和59年2月1日の国鉄ダイヤ改正)以降、貨物列車コンテナ化によるシステムチェンジ[注 1]により、ほとんどの路線が廃止された。なお、運行や管理は、設置者から日本通運などの運輸企業に委託されていた。

日本の専用線・専用鉄道の例[編集]

現役路線[編集]

運行休止中の路線も含まれている。 また以下全てにおいて専用線と専用鉄道の区別が明確化されていないため注意(修正)を要する。

北海道地方[編集]

東北地方[編集]

青森県[編集]
岩手県[編集]
宮城県[編集]
山形県[編集]
福島県[編集]

関東地方[編集]

茨城県[編集]
栃木県[編集]
群馬県[編集]
埼玉県[編集]
千葉県[編集]
東京都[編集]
神奈川県[編集]

中部地方[編集]

電気化学工業青海工場専用鉄道(2008年10月)
新潟県[編集]
富山県[編集]
山梨県[編集]
長野県[編集]
静岡県[編集]
愛知県[編集]
三重県[編集]

近畿地方[編集]

大阪府[編集]
兵庫県[編集]

中国地方[編集]

JFEスチール西日本製鉄所所属のDD402機関車
鳥取県[編集]
広島県[編集]
山口県[編集]

四国地方[編集]

愛媛県[編集]

九州地方[編集]

福岡県[編集]
  • 日本製鉄八幡製鉄所専用鉄道 - 鹿児島本線黒崎駅より分岐(福岡県北九州市。うち戸畑第一操車場-八幡第二操車場間の電化区間は、くろがね線の通称で知られる)
  • 三菱ケミカル福岡事業所専用線 - 鹿児島本線黒崎駅より分岐
宮崎県[編集]

独立路線(広義の専用鉄道)[編集]

主な廃線[編集]

北海道地方[編集]

東北地方[編集]

青森県[編集]
岩手県[編集]
宮城県[編集]
  • 丸昭工業専用線 - 東北本線岩沼駅より分岐(2007年度廃止)
秋田県[編集]
山形県[編集]
福島県[編集]

関東地方[編集]

茨城県[編集]
栃木県[編集]
  • 日本たばこ産業矢板倉庫専用線 - 東北本線矢板駅より分岐(2000年頃廃止)
  • 高崎製紙日光工場専用線 - 東北本線岡本駅より分岐(1984年1月廃止)
  • 日鉄鉱業羽鶴専用線 - 東武会沢線上白石駅より分岐(1991年11月25日廃止)
    • この東武会沢線は、1997年10月1日に廃止されている。
群馬県[編集]
埼玉県[編集]
千葉県[編集]
東京都[編集]
神奈川県[編集]

中部地方[編集]

新潟県[編集]
富山県[編集]
福井県[編集]
長野県[編集]
岐阜県[編集]
住友大阪セメント岐阜工場から電化セメントの出荷基地へ向かうセメント貨物列車(2001年12月)
静岡県[編集]
愛知県[編集]
三重県[編集]

近畿地方[編集]

滋賀県[編集]
京都府[編集]
大阪府[編集]
兵庫県[編集]
和歌山県[編集]

中国地方[編集]

鳥取県[編集]
  • 神鋼JFE機器株式会社上井工場専用線 - 山陰本線倉吉駅より分岐(1983年頃廃止)
島根県[編集]
岡山県[編集]
広島県[編集]
山口県[編集]

四国地方[編集]

徳島県[編集]
  • 板西農業協同組合専用線 - 高徳線板野駅より分岐(1982年11月15日廃止)
  • 東邦レーヨン徳島工場専用線 - 高徳線勝瑞駅より分岐(1984年2月1日廃止)
  • 東亞合成化学工業徳島工場専用線 - 高徳線吉成駅より分岐
  • 日本専売公社小松島原料工場専用線 - 牟岐線中田駅より分岐
  • 日本専売公社池田工場専用線 - 土讃線阿波池田駅より分岐
  • 天真醤油専用線 - 土讃線阿波池田駅より分岐
香川県[編集]
  • 大日本木材防腐四国工場専用線 - 予讃線坂出港駅より分岐
  • 東亜化学工業坂出工場専用線 - 予讃線坂出港駅より分岐
  • 丸紅坂出油槽所専用線 - 予讃線坂出港駅より分岐
  • 観音寺農業協同組合専用線 - 予讃線観音寺駅より分岐
愛媛県[編集]
高知県[編集]

九州地方[編集]

福岡県[編集]
佐賀県[編集]
長崎県[編集]
熊本県[編集]
大分県[編集]
宮崎県[編集]
  • 旭化成延岡工場専用線(レーヨン線) - 日豊本線延岡駅より分岐
  • 旭化成延岡工場専用線(火薬線) - 日豊本線延岡駅より分岐
鹿児島県[編集]
  • 出水製紙出水工場専用線 - 鹿児島本線出水駅より分岐(1981年6月2日廃止)
  • 日本アルコール産業九州工場専用線 - 鹿児島本線出水駅より分岐(1984年2月1日廃止)
  • 共同石油・伊藤忠燃料専用線 - 鹿児島本線出水駅より分岐(1984年2月1日廃止)
  • 鶏協飼料専用線 - 鹿児島本線出水駅より分岐(1984年2月1日廃止)
沖縄県[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ コンテナ化に伴い貨車を工場内に引き込む必要がなくなった。
  2. ^ 出光昭石グループの石油保管会社
  3. ^ 河間駅廃止の日

出典[編集]

  1. ^ a b c d e 日本国有鉄道『上巻』復刻版(同朋舎メディアプラン、2013年)943頁
  2. ^ a b c d 孟健軍、張紅咏「中国の鉄道物流構造変化に関する実証分析」 - 独立行政法人経済産業研究所、2020年12月29日閲覧。
  3. ^ 玉井哲也「第6章 オーストラリアの食料需給をめぐる諸問題- 需給、水資源、輸送・輸出及びGMO -」 - 農林水産省、2020年12月29日閲覧。
  4. ^ 日本機械輸出組合「豪州と中国、韓国、米国、インド等との経済連携推進調査報告書」 - 日本機械輸出組合、2020年12月29日閲覧。
  5. ^ 寺前秀一「鉄道・軌道法体系の再構築に関する考察」 高崎経済大学地域政策学会『地域政策研究』第9巻第2・3合併号115頁-129頁、2020年6月3日閲覧。
  6. ^ 旧陸軍軍用鉄道鉄橋精華町 2021年2月6日閲覧
  7. ^ 『さよなら5両の「炭鉱電車」 三井化学大牟田工場、専用線廃止で「引退」』 産経新聞 2020年5月8日

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]