定期観光バス

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定期観光バス(ていきかんこうバス)は大都市や観光地をバス事業者が設定したコースで巡る、バス旅行である。バスターミナルをはじめ空港ターミナル駅ホテルを始発点に3~8時間程度の日帰りコースが組まれ、一人でも気軽に利用できる。主に地域の公営交通事業者や大手バス事業者が運行することが多く、はとバス名古屋遊覧バスのように定期観光バスを事業の中心に据える事業者もある(ただし名古屋遊覧バスは2006年3月に廃業)。

運行内容[編集]

地域の名所や景勝地を巡り、コースによっては食事も加わるため、募集型企画旅行の一種である。旅行会社が主催するツアーと異なり、バス事業者が旅行の主催者となり、所定の経路で路線免許を受けて定期的に運行されるため、法的には路線バスの一種と見なされている。ただし観光地の路線バスでは駅やバスターミナルを起終点に観光地やホテルを巡る観光周遊バスも存在するが、バスガイドや添乗員が乗務・引率しないため異なる存在である。

見学地[編集]

車窓から見る場所とバスを降りて入場する場所に大別され、さまざまな見学地が設定される。

  • 自然景勝
  • 史跡
  • 公園・庭園、展望施設
  • 宗教施設
  • 博物館
    • 美術館、動物園、水族館、植物園、昆虫園
  • 他の交通機関
  • 演劇やコンサート、ショーの鑑賞、スポーツ観戦
    • 演目や時間帯によっては現地解散となる。
  • 映画やテレビドラマなどのロケ地、博覧会やオリンピック会場など
    • 年によってはNHK大河ドラマの舞台となった地域で運行されることがある。
  • アミューズメント施設
    • 遊園地・テーマパークなど。珍しい例ではナイトクラブやディスコ、ボウリング場などが見られた。
  • 産業観光
    • 企業の工場や資料館などの見学。地域によっては伝統工芸品の製作体験や名産品の試食・試飲が組み込まれることがある。観光農園・観光牧場が産業観光施設の要素を含む場合がある。
    • 2010年代からは工業地帯や港湾の景観を楽しむツアーも見られる。
  • 道路

食事[編集]

日中の5-6時間以上のコースや夜のコースでは食事または喫茶・軽食付きとなることがある。地域やコースによって内容はさまざまで、食事をメインにしたコースもある。乗務員や添乗員は別途に用意された専用メニューの場合もあれば、参加者と一緒に同じ料理を食べることもある。傾向としては下記の事例が挙げられるが、これらの条件が組み合わさることもある。

自由食として指定店舗のクーポンや優待割引券を配布し、参加者の自己負担で任意の店舗を選んでもらう場合や、単に食事休憩時間とする場合もある。

料金体系[編集]

乗客が支払う金額には、以下の運賃や料金が含まれる。

  • バス運賃(時間距離併用運賃で算出)
  • バスガイド添乗員の添乗料金
  • 駐車料金、有料道路の通行料金
  • コースに組み込まれる諸経費(団体割引を適用)
    • 施設の入場料金、拝観料
    • 他の交通機関の運賃
    • 演劇やスポーツの試合、コンサート、ショーのチケット(運賃に含まれる場合は、記載がある)
    • 食事代(記載がある場合。追加注文した場合は自己負担。自由食の場合は各自が現地で支払う)
    • 消費税・サービス料

なお、路線や事業者により、諸経費を運賃に含めている場合と、諸経費と運賃を別にしている場合がある。後者の場合、乗車の際に運賃のほかに諸経費を支払うことになる。

車両[編集]

基本的に観光バスが使われるが、専用車として2階建てバスボンネットバス輸入車などが採用され、特定のコースに投入することで差別化を図ることもある。また、事業者によっては上空の視界を楽しむことができるオープントップバスや、山岳地や都市部では環境保護のためにハイブリッド車を導入する例などもある。このほか、路線バス車両を予備車として、あるいは路線の間合い使用で配置している事業者もある。九州産交バスでは過去に夜行高速バスの車両を定期観光バスに使用する例もあった。

定期観光用に2階建てバスを保有する(していた)事業者
  • 阿寒バス
  • 北都交通
  • 北海道中央バス
  • 常磐交通自動車
  • はとバス
  • 日の丸自動車興業
  • 横浜市交通局
  • 名古屋遊覧バス
  • 北陸鉄道
  • 松本電気鉄道
  • 京阪バス
  • 大阪市交通局
  • 西日本鉄道(現・西鉄観光バス)
  • 長崎県交通局
定期観光用にオープントップバスまたはサンルーフ付きバスを保有する(していた)事業者
  • ジェイアールバス東北
    十和田湖・奥入瀬方面の定期観光バス廃止後は路線バスに転用
  • 東武バス日光
    東武鉄道時代、現在は廃車
  • はとバス
  • 日の丸自動車興業
    期間限定で他社にも貸し出し
  • 奈良交通
観光バス以外の定期観光専用車を保有する(していた)事業者
  • 北海道中央バス(ボンネットバス)
  • はとバス(シアターフロア車、ボルボ・アステローペ
  • 丹後海陸交通(ボンネットバス)
  • 四国交通(ボンネットバス)
  • 産交バス(レトロ調バス)
    元宮崎交通がシーガイア送迎用として使用していたもの

募集型企画旅行との差違[編集]

日帰りのバスツアーと似て非なる要素が多いので、対比すると以下のようになる。

項目 定期観光バス 募集型企画旅行
主催者 バス事業者 旅行会社(バス事業者が旅行業登録を行って旅行会社を兼ねることも多い)
運行形態 路線バス 貸切バス
適用される約款 一般乗合旅客自動車運送事業約款 旅行業約款・一般貸切自動車運送事業約款
最少催行人員 原則として1人でも申込があれば運行する 旅行商品により異なり(1人から20人程度)、その商品の最少催行人員に満たなければ中止される
申し込み締切日 コース内容にもよるが基本的に当日の出発直前まで受け付ける 原則として1週間前、実施が決定している場合は出発前日の窓口営業時間中まで
出発前の取り消し・払い戻し手数料 無料又は一定額(大半は当日の出発直前であっても数百円程度の小額である) 旅行業法に基づき、出発日までの残り日数により代金の20~100%の取消料が必要
連絡運輸 行っている場合あり なし
地方運輸局への許認可・届け出 必要(路線バスとして運行されるため) 不要(旅行を主催できる第1種・第2種旅行業者としての登録は必要)

歴史[編集]

地獄めぐり定期観光バス(1945年)
  • 現在の定期観光バスやバスツアーに由来する、案内人を添乗させた乗合馬車・乗合自動車は第一次世界大戦後(日本では大正年間)のヨーロッパで起こった古戦場巡りとされている。ほぼ同時期にロンドンやパリでは乗合の市内観光バスが運行されていた。
  • 東京で初めての定期遊覧乗合バスは、1925年(大正14年)12月15日運行開始された。東京乗合自動車による運行で、上野を起点として日比谷公園銀座通り愛宕山明治神宮などを遊覧した。戦時色が濃くなる1940年(昭和15年)9月18日まで運行されていた。
  • 女性バスガイド油屋熊八が発案した地獄めぐり遊覧バスが最初。亀の井遊覧自動車の運行で1928年(昭和3年)1月に始まり、別府温泉で現在も運行されている国内で最も長い歴史を持つ定期観光バスである。現在の亀の井バス別府地獄めぐりコースでも当時の七五調ガイドが一部に用いられている。
  • 京都市京都定期観光バスの歴史も長く1928年4月の開業である。
  • 国鉄時代からJR初期に発売されていた一般周遊券・グリーン周遊券では、周遊指定地だった地域で運行されている定期観光バスの指定コース[1]を周遊券に組み込むと、周遊指定地1箇所訪問の条件を満たしていた[2]こともあり、日本の主要観光地では定期観光バスが運行されていた。しかし後述する観光形態の多様化や1998年の周遊きっぷの登場に伴う一般周遊券・グリーン周遊券の廃止、バス業界の経営環境の変化などが影響して、定期観光バスが運行されている都市や観光地は減少傾向にある。

課題[編集]

近年は旅行形態の多様化で旅行者の定期観光バス離れが目立ち、各社とも対策に頭を痛めている。中には不振による採算割れのために定期観光バス事業を譲渡・撤退する事業者も現れている。

旅行形態の多様化
  • 旅行者の行動パターンの変化 - 自家用車レンタカーレンタサイクルの普及や新幹線航空機高速バスの進展、テーマパークの出現などで個人・家族・小グループ行動が増えた。
  • 特にテレビ・ラジオ番組や新聞・雑誌、インターネットなど情報メディアの充実で行動範囲が絞られる傾向にある。
  • コースの選択肢が限られ、見学地が硬直化しがちなことで定期観光バスが観光客に飽きられてしまった。
需要喚起
  • 旅行ガイドブックや旅行会社のパンフレット、地域の鉄道・路線バスの車内広告、バス事業者や観光振興団体のウェブサイトなど情報メディアでの広報・宣伝を強化する。
  • 乗車・下車地やコース(見学地)、発着時間帯を増やし、利用者に選択の余地を与える。
  • その他 - 特別車両を投入する、テレビ番組や映画、地域のビッグイベントなどと連動したコースを企画する例もあり、事業者のアイディアや定期観光バスに対する理解、力の入れ方が問われる。
外国人利用者への対応
  • 外国語に堪能なバスガイドや添乗員の養成、外国人専用コースの設定が求められる。見学地ごとに翻訳した説明を録音した携帯音楽プレーヤーを貸し出したり、車内オーディオのプログラムを外国語案内用に活用したりしている事業者もあるが、まだまだ普及率は乏しい。
ツアー専用バスとの競合
  • 大都市や観光地では空港・ターミナル駅・ホテルと観光スポットを独自のルートで運行されるツアー参加者専用のバスが貸切バス事業者によって運行されることが多く、定期観光バスにとって脅威となっている。定期観光バスを運行するバス事業者の貸切部門がこのツアーバスを運行することもあり得るため問題となる場面もある。
バス事業者の経営環境の変化
  • 定期観光バスは一般の路線バスや高速バス、貸切バスに比べると利益率は相対的に低い。そのため本業の路線バス事業が赤字の状態で定期観光バスを維持することが疑問視されることがある。[3][4]
  • また地方自治体が路線バス事業者に対して交付する路線維持補助金についても、定期観光バスは補助の対象外となっている。

日本国内で運行されている地域と事業者[編集]

季節運行を含め運行されているものを例示する。地域・観光スポットは大まかなもの。路線バスの一種である観光周遊バスは除外する。

北海道[編集]

東北[編集]

関東[編集]

中部[編集]

近畿[編集]

山陽・山陰[編集]

四国[編集]

九州・沖縄[編集]

募集型企画旅行扱いで運行されている地域[編集]

かつて運行されていた地域[編集]

北海道・東北
関東
中部
近畿
山陽・山陰
四国
九州

日本国外の場合[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 全国版時刻表で円または正方形で囲まれた「遊」マークのコース
  2. ^ 周遊指定地2箇所以上、特定周遊指定地は1箇所訪問が条件
  3. ^ 横浜市会議員・伊藤ひろたか公式サイト「伊藤ひろたかの1分でわかる市制レポート」2008年10月号(PDF)
  4. ^ 元京都市会議員・村山祥栄公式サイト「平成16年3月10日 京都市会公営企業(等)予算特別委員会」(第7回)委員会質疑(抜粋)
  5. ^ 両備バス・岡山電気軌道下津井電鉄中鉄バスなど共同出資した会社で、募集などを同社が行い、運行自体は各バス事業者に委託していた。
  6. ^ 2004年9月末をもって全コース廃止。その後2006年10月より土・日・祝日のみの運行として熊本市内の1コースが復活したものの2009年1月末日を以って再び廃止。2010年10月からは九州産交バスの子会社である産交バスに移行ならびに運行車両の小型化・バスガイドを置かないなど以前に比べ運行形態は異なるが事実上の復活となるも2014年3月末日をもって廃止。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]