ヘリポート

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フィンランドヘルシンキにあるヘルネサーリ・ヘリポート

ヘリポート (英語: heliport) もしくはヘリ発着場(ヘリはっちゃくじょう)とは、ヘリコプター専用の離着陸場のことである。またその敷地内でヘリコプターが離着陸する場所のみを指す場合はヘリパッド: helipad)という。

なお、高層建築物の屋上に設置されるものは緊急離着陸場と呼ばれ、航空法に定めるヘリポートとは異なる非常用の設備である。

概要[編集]

ヘリポート上のベル 412
廃校跡に設置された飛行場外離着陸場(高浜町 旧音海小中学校)[1]
高層ビル屋上の緊急離着陸場(渋谷スクランブルスクエア

通常の(飛行機)の離着陸においては、長大な滑走路が整備された飛行場が必要となる。これに対して、ヘリコプターはその垂直離着陸性能を活かし、比較的狭隘な場所においても離着陸が可能である。このヘリコプター専用に整備された離着陸場をヘリポートと呼ぶ。

整備されたヘリポートにおいては、滑走路が非常に小規模で済む[注釈 1]以外は通常の空港と同様の航法保安設備および航空機材支援設備が求められる。すなわち、通信設備や気象観測機材、機体格納庫などである。ヘリコプターの離着陸コースの空域確保や駐機施設等も必要である。

簡易的なヘリポートいわゆる飛行場外離着陸場においても、ヘリコプターが離着陸できる十分な強度のある接地面が最低限必要となる。簡易的なヘリポートとして草原・耕地などが用いられることもある。また、ヘリポートとは別に火事や災害時のみにしか利用されない高層ビルの屋上に設置される緊急離着陸場および緊急救助スペースがあるが、繰り返し離着陸が可能なヘリポートとは構造的に大きく異なる。屋上ヘリポートへの繰り返し離着陸を前提とした場合、公共・非公共用ヘリポートの設置基準を準用するのが適当であり、設計にあたっては様々な配慮が必要になる[2]

日本における位置づけ[編集]

日本においては

  1. 航空法第38条ほかが適用される「公共・非公共用ヘリポート」[注釈 2]
  2. 航空法79条但し書きが適用される「飛行場外離着陸場」
  3. 消防庁の指導の下、各自治体消防の基準によって高層ビルの屋上に設置される「緊急離着陸場」および「緊急救助スペース」

の3種類に分類される[3]

空港等(公共・非公共ヘリポート、空港およびその他の飛行場)[4]
日本の航空法で定めるヘリポートとは「公共用ヘリポート」と「非公共用ヘリポート」のみを指す。
国土交通省が「公共用ヘリポート」として告示している施設は以下の12箇所である[5]
「非公共用ヘリポート」は各地の警察本部ドクターヘリの拠点病院など89箇所である[5]。非公共用ヘリポートについては日本の空港#非公共用ヘリポート参照。
ヘリポートの設置に関する基準は航空法並びに施行規則に細かく示されている。「公共用ヘリポート」と「非公共用ヘリポート」の最も大きな違いは法的な制限力にある。「公共用ヘリポート」の飛行ルート下には飛行障害となるようなビルやアンテナは建てることができない。樹木も飛行障害となるほど成長した場合は伐採等を求めることができる。一方「非公共用ヘリポート」にはそのような法的拘束力がなく、飛行ルート下にビルなどが建ち飛行障害となると「非公共用ヘリポート」の許可が取り消されることがある。
飛行場外離着陸場[6]
運航者が申請し、国土交通大臣の許可を受けたもののみが利用できる臨時ヘリポートで、空港等に分類されるヘリポートに比べると基準が緩和されている。「公共用ヘリポート」「非公共用ヘリポート」のほかに臨時的にヘリコプターの発着が許可される場所を「飛行場外離着陸場」と言う。農薬散布や物資輸送など飛行の目的を達成するために事前に申請し、国土交通大臣から離着陸を許可された場所を言う。事前申請し許可されたヘリ以外は離着陸できず、民間利用のヘリにあっては地上への離着陸だけが許可され、屋上への離着陸はドクターヘリ、消防防災ヘリ等の利用に限り許可される。ドクターヘリの離着陸などに繰り返し利用される病院施設には本来「非公共用ヘリポート」を設置すべきであり、国土交通省もそのように指導している。しかし飛行目的が一定であり限られたヘリコプターしか利用しないため最近ではこの「飛行場外離着陸場」で対応する事例が増えている。ただし、病院屋上等の構築物上の離着陸帯の強度や構造に関しては「非公共用ヘリポート」と同等の基準で設置する必要がある。
なお海上保安庁のヘリコプター搭載巡視船(PLH)では、ヘリコプター甲板に所定の設備を設置するとともに、船体にもフィンスタビライザーを設置するなどの配慮を施すことで、臨時ヘリポートとしての認可を取得している[7]
緊急離着陸場
災害時など、緊急の場合にしか利用できないヘリコプター離着陸場で、高層建築物の屋上等に設置されている。航空法上のヘリポートとは異なり、平常時の離着陸は禁止されている(平常時に利用する場合は非公共用ヘリポートの許可を受ける必要がある)。設置基準については統一されておらず、各自治体で異なっている。
類似のものとして、着陸はできないがホバリングによる災害活動に対応する「緊急救助用スペース」を設置する例もある。
2022年4月、東京消防庁では緊急離着陸場の設置基準を改定[8]し、航空法の飛行場外離着陸場の許可基準との整合を図るなど社会ニーズの変化に対応する見直しを行っている。

また、ドクターヘリが学校の校庭などの広場に着陸する場合があるが、これは航空法第81条の2(捜索又は救助のための特例)により、航空法施行規則第176条3項「救急医療用ヘリコプターを用いた緊急医療の確保に関する特別措置法」を適用したもので、これは緊急時には航空法によって制限された場所(空港等および場外離着陸場)以外にも離着陸することができるためである。

大きさ・強度・素材[編集]

大きさ(面積)[編集]

地上ヘリポートと屋上等の構築物上ヘリポートで着陸帯面積は異なる。

地上ヘリポートは着陸する機体の投影面の全長全幅以上、構築物上(屋上)ヘリポートは着陸する機体の投影面の全長全幅の1.2倍以上でなければならない。

地上・構築物上(屋上)ヘリポートの大きさ

強度[編集]

地上ヘリポートは着陸する機体の最大離陸重量とその利用頻度によって地盤厚が異なる。

構築物上(屋上)ヘリポートはICAO基準に準ずるもので最大離陸重量の3.25倍を支持できなければならない。(構造材も含む)曲げ応力としては(スキッドもしくは脚の)2点で、床面の超短期せん断応力(パンチングシャー)は1点にかかる荷重として、それに耐える強度が必要である。なお、ヘリポートは反復利用が前提であるため、防水層上の保護モルタルもこの強度に耐えなければならない。

ヘリポートと緊急離着陸場の断面比較図

素材[編集]

地上ヘリポートではコンクリート製、アスファルト製の2種類。比較的狭いヘリポートはコンクリートで、広いヘリポートはアスファルトで作られることが多い。全体はアスファルトだが、実際にヘリが接地する場所のみコンクリートで作られることもある。構築物上(屋上)ヘリポートではコンクリート製が多かったが、近年北米や欧州などでアルミデッキ製の普及が進んでいる。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ ヘリコプターが地面に滑走し、離着陸するエリアが「滑走路」となる。日本の公共・非公共用ヘリポートは使用する予定ヘリコプターの全長幅の1.2倍以上の大きさが必要であり、必要強度も定められた基準を満たしていることが必要となる。
  2. ^ 公共用ヘリポートは空港法第2条で定める空港である。非公共用ヘリポートは空港ではない飛行場である(航空法第2条第6項カッコ書き)。

出典[編集]

  1. ^ 高浜町地域防災計画(H28.7更新版) 高浜町地域防災計画(資料編)”. 高浜町. 2018年1月6日閲覧。資料<3-7-2>避難所位置図、ヘリポート位置図(ヘリポートH 音海小中学校(旧))
  2. ^ 屋上ヘリポート設計上の配慮について ~臨港消防署新庁舎の事例より~
  3. ^ あなたの病院に必要なタイプは?”. heliport.jp. エアロファシリティー. 2022年2月5日閲覧。
  4. ^ 航空法第38条、航空法施行規則75条
  5. ^ a b 空港一覧”. 国土交通省航空局. 2023年2月1日閲覧。
  6. ^ 航空法79条
  7. ^ 岡田 2001.
  8. ^ 屋上緊急離着陸場等の予防事務審査・検査基準の策定 概要”. 東京都建築士事務所協会. 2022年4月14日閲覧。

参考文献[編集]

  • 岡田, 裕「PLHのメカニズム (特集2 海上保安庁のPLH)」『世界の艦船』第590号、海人社、2001年12月、146-151頁、NAID 40002156216 

関連項目[編集]