軽便鉄道

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軽便鉄道(けいべんてつどう)とは、一般的な鉄道よりも規格が低く、安価に建設された鉄道である。

概要[編集]

近鉄内部線260系の車内
三笠鉄道記念館に保存されている炭鉱用機関車

軽便鉄道は、建設費・維持費の抑制のため低規格で建設される。例えば、軽量なレールが使用され、地形的制約の克服に急曲線・急勾配が用いられる。このため、運行時は最高速度が低く輸送力も小さい。日本では、産業の未成熟な地方において限定的な発展を遂げた事例が多い。

日本における軽便鉄道は、最も狭義には「軽便鉄道法」に基づいて建設された鉄道のみを指すが、通常は同法に代わって制定された地方鉄道法の監督下に置かれた、軌間1067mm(3フィート6インチ)未満の鉄道を指して用いられる。広義には軌間1067mm未満の軌道や、森林鉄道殖民軌道鉱山鉄道など、鉄道法規の規定によらない低規格の鉄道も含まれる。

軌間は、軽便鉄道法による路線では762mm(2フィート6インチ)の事例が多いが、同法には軌間の規定がなかったため、1,067mmや1,435mm(4フィート8 1/2インチ)の路線も存在した。軌間にはこの他に、ポール・ドコービル の可搬式軌道システムに由来し、陸軍鉄道連隊でも採用された600mmあるいは610mm(2フィート)、九州北部で1930年代まで盛んに使われた914mm(3フィート)など多様である。

日本における歴史[編集]

黎明期[編集]

日本で最初に1,067mm未満の軌間を採用した鉄道は、1880年工部省釜石鉱山鉄道である。同路線はイギリスからの資材輸入で建設され、同国の一部で見られた838mm(2フィート9インチ)軌間を採用した鉱石輸送用鉄道であった。

もっともこの釜石鉱山鉄道が導入した蒸気機関車は1872年の新橋 - 横浜間開業時に用意された機関車よりも牽引力が大きく動軸重も重い[1]18.75t級B型機[2]であった。また、線路規格も京浜間や阪神間の官設鉄道と比較しても遜色が無く、現在の「軽便鉄道」とは性格の異なるものであった。

同路線は開業から間もない1882年に廃線になり、車両や資材の一部は当時官営だった三池炭鉱と、1885年に開業した民間資本による阪堺鉄道[3]に転用された。阪堺鉄道は車両や資材をそのまま使用したため、1,067mm未満の軌間を採用した日本初の私鉄となった。しかし、接続する南海鉄道との直通の必要性があり、1897年12月には1,067mmに改軌している。

その後、私設鉄道条例1887年制定)、私設鉄道法1900年制定)により、鉄道の軌間は原則として国鉄と同じ1,067mmとすることが政府の方針[4]となった。このため、1888年に開業した伊予鉄道[5]などを除いて、簡易規格の鉄道は軌道条例に基づいた路線を除き、ほとんど開業しなくなった。

拡大期[編集]

1906年鉄道国有法公布後、私設鉄道法は開業条件があまりに厳しいため、私設鉄道がほとんど建設されなくなった。私鉄の国有化で地方開発に大きな資金を使えない政府としては由々しき事態となる。そこで、1909年に条件を大幅に緩和した「軽便鉄道法」が公布され、次いで国鉄線収益を財源とした補助を規定する軽便鉄道補助法が制定される。その結果、軽便鉄道が北海道を除く全国に爆発的に普及していった。国も、地方路線建設のために同法を利用し、鉄道敷設法に規定されていない小規模路線を「軽便線」として多数計画・建設した。

一方、北海道では開拓入植の促進のため、北海道庁の主導で主に762mm規格の「殖民軌道」が1920年代中期以降盛んに敷設された。湿地や泥濘地の多い未開拓地域では大規模な土木工事を必要とする道路建設よりも軌道敷設の方が容易であり、自動車交通の普及以前でもあることから普及した手法であった。

モータリゼーション以前は、物資輸送のために各地の工場・鉱山で鉄道が用いられ、その多くは設備投資が容易な762mm以下の軌道で敷設された。また、林業の発展と共に木曽森林鉄道津軽森林鉄道など森林鉄道が日本全国各地に敷設された。その他、大規模河川改修やトンネル工事などでも作業用に簡易軌道が利用された。この種の簡易軌道では常願寺川水系の砂防事業のために2013年現在も使用されている国土交通省立山砂防工事専用軌道が有名である。

衰退期[編集]

軽便鉄道は、鉄道の長所である高速大量輸送能力に乏しい。そのため、1920年代以降は路線バスの普及によって縮小傾向を迎え、1930年代に入ってからの新規開業例はほぼ途絶える。さらに、1930年代末期までに多くの零細軽便鉄道が淘汰されている。第二次世界大戦中の戦時体制下では、一部路線が不要不急線として廃止された。

第二次世界大戦後は、燃料不足で自動車輸送が機能不全に陥っていた1940年代後半こそ輸送量が増大したものの、1950年代以降はモータリゼーションの進展によって経営が悪化し、1970年代までにほぼ全てが廃止された。

北海道の殖民軌道は、敷設地域の道路事情の劣悪さのため、第二次世界大戦後も地元町村に運営移管される形で多くが存続した。1960年代中期には路線延長された例もあるが、モータリゼーション進展によって急速にその役割を失う。最後まで残った浜中町営軌道は1972年3月限りで廃止された。

軽便鉄道の改軌・規格向上[編集]

軽便鉄道が輸送需要の増大などに応えるため、1,067mm以上の軌間への改軌電化など、より高い規格に改修される例は古くから見られた。

特に客貨車の全国直通が可能な体制構築に努めていた鉄道省→日本国有鉄道は、私鉄買収によって国鉄線となった762mm軌間路線について、買収後早期に改軌工事を進めており、それは資材供給状況の厳しかった戦時中にも松浦線(現・松浦鉄道西九州線。旧・佐世保軽便鉄道)などで敢行されていた。1950年10月の釜石線全通に伴う旧・釜石西線区間(旧・岩手軽便鉄道)の改軌および一部廃止を最後に、762mm軌間の国鉄線は消滅している。

しかしこのような工事は、新線建設に近い投資を必要とするため、資本力に乏しい民営鉄道では着手困難なことが多く、規格向上に踏み切れないうちにモータリゼーションの影響を受けるようになって廃止された軽便鉄道も多い。

非電化軽便鉄道が、軌間はそのままに電化のみ行った例は多数存在する。戦前には輸送力増強目的で、また戦中戦後には石炭・石油燃料不足への対策として実例が多数生じた。だが1067mm以上へ改軌した例と比較すると、輸送力や速度の制約が大きいために、根本的な体質改善を遂げたとは言い難かった。電化された軽便鉄道もその後の改軌を伴わなかった場合、三重交通から近畿日本鉄道に移管された一部路線を例外として、結局全て廃止されている。

なお762mm軌間からより高規格への改軌を行ったもっとも遅い例は、1962年の同和鉱業小坂鉄道[6]、1964年の三重電気鉄道三重線(湯の山線区間)[7]であるが、前者は大規模な新鉱床発見に伴う貨物輸送能力の強化策、後者は観光開発需要に伴う規格向上であった。

保存活動ほか[編集]

軽便鉄道については、施設規模や車両の小ささを生かして、各地で動態保存の活動が活発に行われている。

代表的な保存事例[編集]

1971年に廃止になった新潟県の頸城鉄道の車輌のうち数両は、これを譲り受けた熱心な鉄道愛好者によって兵庫県内の山中に長年保管されていたが、2004年にその存在が明らかにされ、大きな反響を呼んだ。現車は新潟県に里帰りしている。

他にも鉱山軌道を利用した紀州鉱山跡の湯ノ口温泉にあるトロッコ列車等のいくつかの保存活用例がある。

遊覧鉄道等[編集]

その他、遊戯鉄道の部類ではあるものの、福島県伊達市やながわ希望の森公園や、千葉県東京ディズニーランド静岡県虹の郷愛知県愛知こどもの国などには、軽便鉄道規格の鉄道が設けられて蒸気機関車が運行され、往時の雰囲気を偲ばせている。スカイピアあだたら(旧グリーンピア二本松)にも同様の施設はあったが、赤字のため廃線となった。

伊予鉄道では、復刻した軽便鉄道の機関車を、明治時代松山に滞在していた夏目漱石にちなんで「坊っちゃん列車」として走らせている。牽引車両は当時の蒸気機関車そっくりの外見であるが、現代の都市の路面を走行することからディーゼル動力であり、また軌道は既存の1,067mm軌間である。

軽便鉄道関連のイベント[編集]

  • 毎年、秋に軽便鉄道模型祭が開催されており、研究発表や愛好家の交流が行われる。[8]
  • 特殊狭軌をナロー(狭い)ゲージとも言うため、愛好家の間でナ・ロの語呂合わせで7月6日をナローの日にしようとする動きもある。

脚注[編集]

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  1. ^ 京浜間開業時に用意された各形式は軸配置1Bで先輪が付いているため動軸重は合計17t程度となる。
  2. ^ シャープ・スチュアート社製のサドルタンク機。3両が輸入され、路線廃止後、譲渡を重ねて全車1,067mm軌間へ改軌されており、内2両は第二次世界大戦後まで長く使用された。
  3. ^ 南海電気鉄道の前身。路線は現在の南海本線の一部。
  4. ^ 国鉄との直通運転を前提とし、将来は国有化する方針であったため。
  5. ^ 国鉄線と接続しない独立路線であり、かつ創業者がドコービルのシステムに感銘を受けたのが、採用の理由であったという。
  6. ^ 軌間の1,067mmへの変更および電化区間の非電化への変更を実施。
  7. ^ 軌間の1,435mm化と架線電圧の直流750Vから直流1,500Vへの昇圧を実施。
  8. ^ 軽便鉄道模型祭 公式ブログ

関連項目[編集]

外部リンク[編集]