カキ (貝)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
| ?カキ | |||||||||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ヨーロッパヒラガキ Ostrea edulis Linnaeus, 1758 (背景は本種の名産地・ブロン川河口) |
|||||||||||||||
| 分類 | |||||||||||||||
|
カキ(牡蠣、英名:oyster)は、ウグイスガイ目イタボガキ科に属する二枚貝の総称、あるいはカキ目もしくはカキ上科に属する種の総称。海の岩から「かきおとす」ことから「カキ」と言う名がついたといわれる。古くから、世界各地の沿岸地域で食用、薬用として利用されてきた。
目次 |
[編集] 特徴
食用にされるマガキやイワガキなどの大型種がよく知られるが、食用にされない中型から小型の種も多い。どの種類も岩や他の貝の殻など硬質の基盤に着生するのが普通である。基盤に従って成長するため殻の形が一定せず、波の当たり具合などの環境によっても形が変化するため、外見による分類が難しく、野外では属さえも判別できないこともある。このため、未だに分類が混乱しているものも少なからずあり、外見に惑わされない分子系統などを使った分類がなされつつある。
養殖する方法はカキの幼生が浮遊し始める夏の初めにホタテの貝殻を海中に吊るす。すると、幼生が貝殻に付着し、後は餌が豊富な場所に放っておくだけというものである。野生のものは餌が少ない磯などに付着するため、総じて、養殖物の方が身が大きくて味も良い。
一旦、岩などに付着すると一生ほとんど動かないため、筋肉が退化し内臓がほとんどを占めている。日本テレビの科学番組『所さんの目がテン!』ではハマグリの内臓を寄せ集めてカキフライもどきを作ったところ、20人中18人が騙されたという結果が出た[1]。
干潮時には水が無い場所に住む場合が多く、グリコーゲンを多く蓄えている。これにより、他の貝と違って水が無い所でも1週間は生きていられる。
英語の"oyster"は日本語のカキよりも広義に使われ、岩に着生する二枚貝のうち、形がやや不定形で表面が滑らかでないもの一般を指し、アコヤガイ類やウミギク科、あるいはかなり縁遠いキクザルガイ科などもoysterと呼ばれることがある。
[編集] 日本での主な食用種
[編集] マガキ属 Crassostrea
- マガキ(真牡蠣) Crassostrea gigas(Thunberg,1793)
- 最も一般的な種で、日本でカキといえば本種。寒い時期に食べる。大型で夏でも生殖巣が発達しない「3倍体牡蠣」も開発され市場に出ている。広島県、宮城県、岡山県産が有名。韓国からの輸入品も相当量ある。
- イワガキ(岩牡蠣) Crassostrea nippona(Seki, 1934)
- 「夏ガキ」とも言われる。殻の色が茶色っぽく、マガキに比べて大きいものが流通する。天然物と養殖物の両方がある。
- スミノエガキ(住之江牡蠣) Crassostrea ariakesis(Fujita, 1913)
- 有明海沿岸で食用にされるが、他所へはほとんど出回らない。マガキにごく近縁な種で、殻の表面はやや滑らか。
[編集] イタボガキ属 Ostrea
- イタボガキ(板甫牡蠣) Ostrea denselamellosa(Lischke, 1869)
- かつては多く食用にされ、能登半島や淡路島周辺が有名な産地であったが、現在は瀬戸内海地方で僅かに市場に出回る程度で、絶滅危惧種状態。食用のみならず貝殻が最上質の胡粉の原料となる点でも重要であり、本種の復活と養殖技術開発の努力がなされている。
- ヨーロッパヒラガキ Ostrea edulis(Linnaeus, 1758)
- ヨーロッパ原産で、イタボガキに似た外観で輪郭が丸く平たい貝。別名:ヨーロッパガキ。市場ではフランス牡蠣、ブロン、フラットなどとも呼ばれる。日本では宮城県唐桑町の舞根(もうね)などで僅かに養殖され、高級食材としてフランス料理店などに卸される。
- かつてのヨーロッパ、特にフランスでカキと言えば本種のことであったが、1970年代以降、寄生虫などにより激減。需要をまかなうために日本産のマガキを輸入して養殖するようになった。それ以来フランスなどで流通するカキの相当部分は日本由来のマガキであるという。
[編集] アメリカで人気の日本原産の牡蠣
- クマモト(熊本牡蠣)
- 昭和21年頃熊本県八代市鏡町からアメリカに輸出された牡蠣の子孫が現在アメリカ西海岸でクマモトの名で養殖されている。クマモトは小振りながら味が濃く、クリーミーとしてアメリカ市場で最も人気が高い高級牡蠣。
[編集] 利用
[編集] 食材
タンパク質やカルシウム、亜鉛などのミネラル類をはじめ、さまざまな栄養素が多量に含まれるため、「海のミルク」とも呼ばれる。カキフライのような揚げものや、鍋物の具にして食べるほか、新鮮なものは網焼きにしたり生食したりする。
食用の歴史が非常に長く、世界中で食され、最も人類が親しんできた貝の一つである。一般的に肉や魚介の生食を嫌う欧米食文化圏において、カキは例外的に生食文化が発達した食材であり、古代ローマ時代から珍重され、養殖も行われていた。生ガキはフランス料理における定番のオードブルとなっている。また、生ガキをメニューの中心に据える「オイスターバー」と呼ばれるレストランも存在する。
日本では縄文時代ごろから食用されていたとされ、室町時代ごろには養殖も行われるようになったという。大坂では牡蠣船というものが明治時代まで、晩秋になると広島より来て、商いを土佐堀、堂島、道頓堀などで船上で行った。広島や東北などの地方が産地で、消費地まで輸送するのに時間がかかったこともあり、日本ではカキの生食は産地以外では一般化せず、もっぱら酢締めや加熱調理で食された。
日本人がカキを生で食べるようになったのは欧米の食文化が流入した明治時代以降であり、生食文化が欧米から輸入された珍しい食材でもある。
[編集] カキの喫食と食中毒
古来より喫食されているカキであるが、一方で「あたる」食品(食材)としても知られている。このことは非加熱状態で貝の身をまるごと喫食する機会が多いこととも関係が深い。
生食用のカキは汽水域で植物プランクトンを豊富に取った牡蠣を、紫外線殺菌された海水中で数日間飼育し、また、その間絶食状態にすることで無菌状態にする。生食用のカキは数日間餌を与えられないために身が痩せることから、生食する以外の用途では加熱用のものの方が美味い。
食中毒症状を引き起こす原因としては貝毒、細菌(腸炎ビブリオ、大腸菌)とウィルス(特にノロウィルス)がよく知られているが、どの原因も生育環境(海水)に由来するものであり、貝の摂餌行動などによって貝内部、消化器官(中腸腺など)に取り込まれ濃縮されるものである。
重要なことは、
- すべて二枚貝であれば共通する要因である
- 貝毒以外は充分に加熱処理することで食中毒を回避できる
という点であり、貝毒以外は「身をまるごと生食」、あるいは「加熱が不十分なものをまるごと喫食」した場合にはどの二枚貝でも危険度に何ら差はない。
[編集] 貝毒
詳細は「貝毒」を参照
これは貝が捕食する海水中の有毒プランクトンの毒を蓄積することであり、生育海水中の植物プランクトンの種類および貝に含まれる毒を定期的に検査することで対策がとられている(参照:マウスユニット)。有毒プランクトンの発生し易い時期は3月から5月。広島県立総合技術研究所の研究によれば、濾過海水中で一定期間飼育することで、毒の量を規制値以下に減毒できるとしている[2]。
[編集] 細菌
通常、細菌は海水中に一定数存在するものであり、ごく少量であれば食中毒症状を引き起こすことはない。ただし、気候や水質などによっては細菌が大量に増殖することがあり、そういった時期には注意が必要である。
しかし、貝表面や貝内部に取り込まれた細菌は紫外線照射および殺菌海水や人工海水などを充分に循環させることで、大部分が貝内から排出されることが知られており、現在では十分な対策がとられている。むしろ、残った少量の細菌を増殖させてしまうような環境に放置することの方が危険である。
- 腸炎ビブリオ
- 20℃付近でおよそ10分間に1回と活発に分裂・増殖するが、15℃以下では増殖は抑制される。また、経口摂取によって感染症状を引き起こす際には生菌100万個体程度が必要であるとされる。
- これらのことから、20℃以上の環境に数時間置いておくだけで食中毒を引き起こす可能性があると言えるので、家庭で調理する際には十分に注意されたい。夏期に海水温が20℃を超えるようような時期はやはり食中毒の原因となりやすい。70度以上1分間の加熱でほぼ死滅するとされている。
- 大腸菌
- 一般的には37℃付近でおよそ30分に1回と活発に分裂・増殖する。紫外線照射および殺菌海水などの循環によって同菌への対策がなされている。75度以上1分間の加熱でほぼ死滅するとされている。
- 赤痢菌
- 日本国内産についてはまず問題になることはないが、2001年に韓国ではカキが原因で1,000人規模の罹患者を出した。この際、韓国産のカキが産地偽装により国内産として流通されていることが発覚した。
- ノロウィルス
- 2000年頃より特に注目されている原因。抵抗力が弱い場合にはウィルス感染を起こし、激しい感染性胃腸炎を引き起こす。2006年現在、ノロウィルス感染力は85℃以上で1分間以上加熱されることにより無くなると考えられていることから、中心部まで十分に加熱することが重要であると言える。
- 厚生労働省や保健所は二枚貝を内臓も含めて、食す際には内部まで十分に加熱調理するように、また調理の際に使用した器具の十分な洗浄を呼びかけている。
- なお、ノロウィルスに関する情報として厚生労働省の公式サイト内にノロウイルスに関するQ&A[3]が用意されているので、こちらも参照されたい。
- 日本では報道により、「ノロウィルスと言えばカキ」という印象が広まり、特に2006年から2007年にかけてノロウィルス感染報道があるごとにカキの売上が減少した。
[編集] カキの食べられない月
産卵期にはカキは精巣と卵巣が非常に増大し、食用とはならない。一般にカキとして認識されているマガキの場合は秋〜冬にかけてが旬とされており、英名に「R」のつかない月、すなわちMay, June, July, Augustの5, 6, 7, 8月は産卵期であり食用には適さないとされている。ただし、春から夏に旬を迎えるイワガキと呼ばれる種類のカキもあり、それぞれ養殖も盛んであることからマガキに限らないならば通年食べることができる。
[編集] 料理
カキの殻の表面は剃刀の刃のように薄いものが重なっており、生食の際には軍手などの手袋を用いないと手のひらに無数の傷がつく。 網焼きや生食では身だけでなく汁もともに吸う。多くの人はカキの身にのみ栄養があると考えているが、身が浸されている殻の中の海水を含む汁にも多くの栄養素が含まれていることが知られている。
- 生食
- カキの殻を合わせ目からナイフ状のヘラを差し込み、貝柱を切断してこじ開け、身をつまみ出して食べる。生ガキとも呼ぶ。レモン汁、食酢等を使った酸味のある調味ダレを添えることもある。
- 網焼き
- 殻のままカキを網の上で焼き、殻が開いてから食べる。
- カキフライ
- カツレツの手法によって、生のカキに小麦粉をまぶし、溶き卵をくぐらせてからパン粉をつけて、油で揚げる。
- カキの天ぷら
- 中国広東省などでは、厚めの衣をつけた天ぷらが好まれている。
- 牡蠣の土手鍋
- 土鍋の内側の周囲全体に味噌を厚く塗ったなかに、カキ、ネギやその他の具材を入れて加熱し、味噌が溶け出してから食べる。
- カキご飯
- カキの煮汁でご飯を炊き、炊き上がったところでカキを混ぜ数分ほど蒸らしてつくる。
- カキ鍋
- 季節の具材とともに煮る鍋料理の一つ。
- カキカレー
- カレーライスの具にカキを使ったもので、広島県などで供されたり、レトルト食品として売られている。
- カキの燻製
- 缶詰や真空パックで流通している。
- カキ入り卵焼き(蚵仔煎 オーアチエン)
- 台湾や中国福建省、広東省の一部で一般的な料理で、お好み焼きのように平たく焼いてから、甘い味のたれをかけて食べる。
- カキ粥(台湾語:蚵仔粥 オーアティオッ)
- 台湾、広東省(特に汕頭市、香港などで好まれる料理のひとつ。カキのむき身を米の粥に入れ、揚げたネギ、広東セロリ、コリアンダーなどを添えたもの。
- カキスープ(台湾語:蚵仔湯 オーアトゥン)
- 台湾などではショウガの味を利かせたカキのすまし汁にも人気がある。
[編集] 調味料
- カキ油
- カキ油(オイスターソース)は中華料理の重要な調味料。中国マカオのものが著名。
- 干しガキ
- 干しガキ(蠔豉、ハオチー)は中国広東省で製造、使用されている調味用食材。カキのむき身を塩ゆでしてから日干しにしたもので、うま味を出すのに使われる。
[編集] 薬用
貝殻は牡蠣(ボレイ)といい、焼成してから粉砕した粉は日本薬局方に「ボレイ末」として記載の生薬である。ボレイの歴史は古く梁の陶弘景が『神農本草経』を修訂した『神農本草経集注』に収載されている。現在市販されているものはマガキの左殻が普通である。
「ボレイ末」は炭酸カルシウム(CaCO3)が主成分で、リン酸塩、他マグネシウム、アルミニウム、ケイ酸塩、酸化鉄などを含有する。
薬理作用として、かき肉には血糖低下 (カキ身エキス) 、免疫増強作用 (中性多糖類) 、牡蠣制酸などの作用があるとされる。
処方例として、安中散、桂枝加竜骨牡蠣湯、柴胡加竜骨牡蠣湯などに使われる。また、農薬として、長期的に使用すると除草効果(雑草の根張りが悪くなる)があるとされる。
薬用以外には天然炭酸カルシウムとして、あるいは1000℃程度に焼成すると牡蠣灰などとも呼ばれる酸化カルシウム(CaO)が主成分のものとなるので、消しゴムの添加剤などの工業用や食品添加物、砂糖精製用助剤などに利用することも行われている。
[編集] その他
- 養殖
- 海苔の養殖などに貝殻が利用される場合もある。
- 海水の浄化
- 水を綺麗にする効果があるといわれ、現在実験中である。
[編集] 流通に係わる法制度
東京都では食品として安全に流通させるために、生食用かきを取り扱う場合、保健所長への届出を必要とさせている。届け出を行うと『生食用かき取扱い届済』ステッカーが交される[4]。
同時に、大腸菌、腸炎ビブリオ、腸管出血性大腸菌O157、ノロウイルス、貝毒等の項目の検査と履歴の保存を指導している。また、生食用かきが原因となる食中毒が発生した際に、速やかな調査と食中毒事故の拡大を防止する目的で、採取海域の表示を義務付けている。
[編集] 産地
日本の2001年における生産量は37,000トンで、内訳は広島県56.0%、宮城県15.0%、岡山県12.0%、兵庫県4.2%、岩手県4.0%、その他9.0%となっている(「漁業・養殖業生産統計年報」・むき身換算)。同年の輸入量は14,892トンであり、輸入量の93%を韓国からのものが占めていた。
北海道厚岸町のシングルシード(蛎殻を砕いたものに各一匹の幼生を付着させて育てたもの)のカキ「カキえもん」、三重県の「的矢かき」、広島県の3倍体のカキ「カキ小町」、北海道寿都町の「寿(ことぶき)カキ」など、各産地ごとにブランド化した牡蠣を売り出すなど、新しい動きもみられる。特に三重県の的矢かきは生食かき養殖技術発祥の牡蠣である[5]。
香港郊外の流浮山は牡蠣の焼き物などの料理が有名な養殖地であったが、近くの深圳の工業化によって、海水の汚染がひどくなり、衰退している。
[編集] 言語
[編集] 派生義
[編集] 日本語のアクセント
植物のカキ(柿)とは同音だが、共通語ではアクセントの位置が異なる。カキ (貝) の場合はカキであり、これは「夏季」「夏期」「下記」「火気」「花器」「火器」「花卉」等の熟語などとも同じ。他方、カキ(柿)はカキである(それぞれ太字にアクセント)。
[編集] 漢字
「蠣」だけで牡蠣の意味を表す。しかし実際には「牡」の文字も用いて「牡蠣」と表記する。これは一般に貝は雌雄で色の異なる部分(サザエであれば「ふんどし」と呼ばれる部分)があり、白い物が雄と考えられていたのに対し、牡蠣は全身が白い(緑色をした牡蠣もあるがこれはえさの違いによるもので、あまり一般的ではない)ことから「牡しかいない貝」と誤解されたことに由来する。
実際に牡蠣の生殖巣においては精巣と卵巣がいりまじっていることもあり、その区別は肉眼では不可能で、顕微鏡を使用しなければならない。
中国語では「牡蠣」(ムーリー)も使われるが、専門用語的であり、口語では「蠔」、簡体字で「蚝」(ハオ)が用いられる。
閩南語や台湾語では「オーアー、台湾語仮名 オヲ
アア
」と別の語が使われる。中国では「蚝仔(蠔仔)」と表記し、台湾では同音の旁を使った「蚵仔」という漢字表記が作成された。
[編集] 色
カキの身のような色として、生牡蠣色がある。
[編集] 脚注
- ^ "驚き○○で カキフライ". 所さんの目がテン!. 日本テレビ放送網 (2004-11-07). 2008-12-30 閲覧。
- ^ 麻痺性貝毒により毒化したマガキのろ過海水中での蓄養による減毒日本水産学会誌 Vol.74, No.1(20080115) pp. 78-80
- ^ "ノロウイルスに関するQ&A". 食中毒に関する情報. 厚生労働省 (2007-12-20). 2008-12-30 閲覧。
- ^ "生かきの取扱いと届出制度". 百貝万魚 東京市場の水産物安全情報. 東京都市場衛生検査所. 2008-12-30 閲覧。
- ^ "的矢かき". 三重ブランド. 三重県. 2008-12-30 閲覧。
[編集] 参考画像
[編集] 外部リンク
- 日本オイスター協会(資格・オイスターマイスター)
- カキ肉 - 「健康食品」の安全性・有効性情報 (国立健康・栄養研究所)
- 生かきの衛生的な取扱い 東京都福祉保健局 健康安全室食品監視課

