海洋深層水

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海洋深層水(かいようしんそうすい、deep ocean water:DOW, deep sea water)または単に深層水とは、深度200メートル以深の深海に分布する、表層とは違った特徴を持つ海水のことである[1]。よって、海水の90%以上は海洋深層水にあたると言える[1]。これは産業利用上の定義であり、海洋学上の定義とは異なる[1]

2つの「深層水」[編集]

海洋学上の深層水は大洋の深層に分布する海水で、地球上の2箇所(北大西洋グリーンランド沖と南極海)で形成される深層水(北大西洋深層水と南極低層水)のことを示す。これらの深層水は熱塩循環によっておよそ2000年かけて世界中の海洋を移動しており、千年単位の地球の気候にも重要な関わりを持っている(詳しくは熱塩循環及び還流参照)。

これと比べ、産業利用上の深層水は、分布や出自を問わず深度200メートル以深の海水をひとくくりに定義したものである。この定義に当てはめると、単純計算で海水の約95%は海洋深層水である。

以下、この記事では後者の深層水について説明する。

海洋深層水の特徴[編集]

表層水との違いは、清浄性、無機栄養塩類が豊富、低温安定性という特徴を有することである[2]

清浄性
人間の排水で汚染された河川水の影響を受けないため、化学物質による汚染がない。また、太陽光が届かないためプランクトン等が成育しないので、有害な雑菌等も表層水の千分の一以下と少ないことが特徴である。このため、深層水は表層水に比べて細菌学的にも化学的にもはるかに清浄である。ただし日本の衛生基準と比較すれば「汚れている」ため、飲料水とするためには濾過が必須である。
無機栄養塩類が豊富
表層水に比べて、植物プランクトンの成長に必要な無機栄養塩類(NO3-ショウ酸態窒素、PO4-リン酸態リン、Si ケイ素)が豊富である。これは海洋深層水中の植物プランクトンが少ないために、表層から沈降してくる魚類の死骸が分解されて生じた無機栄養塩類が消費されずに残っているためである。
低温安定性
水温をはじめ含まれる成分が年間を通して一定であり、水質が安定しているという特徴がある。

海洋深層水は、表層水との混合がおこなわれないため溶存酸素量が少ない。ただし、日本海固有水は太平洋側の海洋深層水とその成り立ち方が異なるため、溶存酸素量が表層水とほとんど同じであることが特徴である。

なお、深層水が特定の海域で表層へ上昇する(湧昇)ことがあるが、豊富な無機栄養塩類によりプランクトンが豊富に発生するため、非常に生物生産性の高い海域となり好漁場となる。

深層水の取水とその影響[編集]

自然に影響を及ぼすのは取水よりも利用後の排水の影響の方が問題となる。ノルウェーでは魚の養殖に深層水を利用しようとしていたが、フィヨルド内の海水の入れ替わりに10年前後かかることから中止した。

日本国内の取水施設は11都道県19施設あるが、取水施設の整備コスト面では陸地から急激に深くなる海底地形の方が取水管の設置距離が短くなり初期投資コスト面で有利になることから、取水地は新潟県佐渡島沖縄県久米島鹿児島県甑島)や半島の先端(高知県室戸神奈川県三浦北海道羅臼)に設置される場合が多い。例外としては、3千メートル級の立山連峰からの急峻地形が海底1千メートルまで続いている、富山湾に面した富山県滑川市や同入善町、同じく急峻地形の駿河湾に面した静岡県焼津市で、平野部にもかかわらず取水施設がある。これらの立地条件は、企業や一般人が取水施設を利用しやすい都市部が後背地としてあるかないか、交通インフラへのアクセスの良否による製造した深層水製品の消費地への輸送コストの増減といった事柄に影響することから、深層水の産業利用の成否を握ることになると思われる。

産業への応用[編集]

海洋学上の海洋深層水は、1930年ごろにフランスで低温性に着目した研究目的で取水されたのが始まりとされており、1981年にハワイで石油危機に対応するため低温安定性を利用した温度差発電、冷房への利用研究のために大規模な取水施設が整備された。しかし、豊富なミネラル分、清浄性、富栄養性といった海洋深層水の特性を活かした産業利用では、日本が最先端を行っている。ハワイで生産された深層水飲料は日本企業がハワイのイメージを利用して販売するために製造し、日本へ輸出しているものであることからも日本での海洋深層水の浸透度の高さがわかる。

日本における海洋深層水の利用研究は、科学技術庁(現文部科学省)が実施した「海洋深層資源の有効利用技術の開発に関する研究」(1986~89年実施)の中で、高知県室戸市に陸上型の海洋深層水取水施設が、富山県氷見市沖で洋上型海洋深層水有効利用システム(取水施設・温度差発電施設)が整備されたのが始まりである。 水産分野では、富山県と(社)マリノフォーラム21が、1992~1994年度に施工費約10億5600万円をかけて、海洋深層水利用研究施設を富山県水産試験場内に整備した。このほか、富山県では、県立大学、食品研究所、衛生研究所、工業試験場、林業試験場等で県立試験研究機関がそれぞれの専門分野で研究テーマを定めて多様な分野で研究を進めてきた。 高知県では県立高知県海洋深層水研究所が設置されている。

産業利用については、1995年に高知県が国の補助目的である水産利用に反して、取水した深層水の無償提供を始め、産業利用を行った。富山県では水産庁と協議して許可を得て2000年から非水産分野の企業への分水を始めた。 また、水産分野への利活用では水産庁の補助を受けて富山県入善町で無機栄養塩に富み雑菌が非常に少ないという特質を利用してアワビなどの養殖業に利用している。

健康増進分野では、1998年に、富山県滑川市に世界で初めての深層水体験施設「タラソピア」がオープンし、多くの人々の健康作りに利用されている。富山医科薬科大学医学部(現:富山大学医学部)と富山県衛生研究所が、タラソピアで共同研究を行い、深層水浴によるリラクゼーション効果の高さを研究し、成果について学会発表を行っている。現在は、深層水浴による皮膚への効果についての共同研究を行っている。

2006年には、高知県室戸市、静岡県焼津市にタラソテラピー施設が相次いでオープン、2007年現在では、沖縄県久米島にも海洋深層水を利用した温浴施設が整備されている。

冷熱源としての利用については、富山県入善町が設置した海洋深層水企業団地において、食品製造企業が製造した食品の冷却、工場内の空調に深層水を利用するため2008年12月の操業開始に向けて準備を進めている。これまでも深層水の低温性を活かした飼育槽の水の冷却や空調への利用は、研究機関である富山県水産試験場やサービス産業である深層水体験施設タラソピアで行われてきたが、製造業の民間企業による製造工程への利用実用化はこれが世界で初めてである。これによりCO2の排出削減が図られることになる。

海洋深層水を利用した商品[編集]

細菌学的にも化学的にも清浄、ミネラルが豊富な海洋深層水に着目した化粧品、飲料、食品業界などが、これを化粧品、バスグッズ、入浴剤、飲料水、アルコール類、水産加工食品などとして商品化している。

海洋深層水は、人が生きるために不可欠なミネラル分を陸水よりも多種類含むだけでなく、陸水のようにダイオキシン等の有害化学物質に汚染されていないという特性を持っており、その利活用方法は単純に飲料水に留まるものではない。

富山県農林水産総合技術センター食品研究所が大豆や里芋の加工時に出るヌメリが減るという実験結果を発表した。これはカルシウムやマグネシウムを含むためである。[3] しかし、魚介類や大豆などと比較して海洋深層水に含まれるカルシウム、カリウム、マグネシウムといったミネラルはごく微量であり、特に健康増進の効果は確認されていない。ミネラルウォーターも同様である。例えば1日のカルシウム必要量を補うためには、海洋深層水を数十リットルから数百リットル飲む必要がある。

各取水地では、その特性を活かすべく産学官の連携により様々な研究開発を行っている。その成果を特許として保護し、他の企業や取水地と差別化を図る努力が行われている。特許の都道府県別の出願件数は、東京、高知、富山の順となっており、他の取水地の企業は先行したこれらの特許に抵触しない製品開発を迫られている。これは韓国でも同様であり、本格取水開始前から特許の取得が競われており、先行した日本の研究開発や特許出願を参考に短期間で数多くの特許が出願されている。

  • 注意-1 : 海洋深層水は海水であるため、食品加工や添加物等に用いるのではなく、単純に飲料水に用いる場合はそのままでは飲用には適さない。飲料水として利用する場合は、塩分を除去したり、ミネラル分を濃縮した上で陸水を添加したりして製品化している。

ただし、深層水の取水が始まり、商品化が流通し始めたころには、一部業者が、海洋学上の海洋深層水の神秘的イメージや科学的に証明されていない「数千年間かけて熟成された水」等のイメージをPRに利用したり、或いは科学的エビデンスを明らかにすることなく海洋深層水というだけで健康に良くあたかも病気にも効くというような、薬事法に抵触するような販売手法をとった。

このような反社会的商品の根絶を図るため、2001年12月には公正取引委員会からガイドラインとして「飲用海洋深層水の表示について」が示されほか、良心的な事業者団体では独自のブランドマークを付与したりして、海洋深層水商品ののイメージ保護に努めている。

現在では一時的な深層水ブームにのって生産されていたこのような製品は淘汰されつつある。これは飲料以外の深層水利用商品についても同様である。

  • 注意-2 : 富山県深層水協議会では専門家による審査を経て、海洋深層水の利用効果が認められた商品にだけ有料で「富山の深層水」ブランドマーク(商標登録済)の使用を許可している。
  • 注意-3 : 海洋深層水利用として販売されている飲料水は、海水淡水化プラント(電気透析やRO膜)により塩分を取り除き、主にそのミネラル分を利用して製造されている。その製造方法は主に次の3種類に分けられる。
    1. 海洋深層水から塩分を取り除きミネラル分を濃縮した上で、陸水に添加し商品化したもの。
    2. 単純に塩分だけを取り除き、商品化したもの。
    3. ニガリ成分だけを取りだし原料とし、陸水に添加したもの。
  • 1.の製法により製造される製品は、ダイエット、スポーツ後のミネラル分補給、コーヒー・紅茶の飲用など目的に合わせてミネラル分を調整した製品作りが可能である。富山県の企業では、目的別に5種類の硬度の製品を開発・販売している。

商品開発の例[編集]

消費者に納得して海洋深層水製品を購入してもらうには、科学的裏付けのある商品開発が重要であることから各取水地で様々な研究開発が進められている。

飲料関係では、富山県立大学が化学企業と共同で研究し特許を取得した、深層水を電気分解することにより製造したアルカリイオン深層水飲料を製品化している。

また、富山市の製薬企業が、深層水のミネラル分を用いて、水関係では初めてとなる特定保健用食品(トクホ)を2003年に開発、販売したほか、栄養機能食品の飲料を2007年に開発した。ただしトクホ認定を受けたのはオリゴ糖を混ぜているためであり、海洋深層水そのものは関係がない。

アルコール類では、大手ビールメーカーが発泡酒の製造工程に富山湾の深層水を最適な量使用することにより、豊富な無機栄養塩を活かして酵母の発酵を促進させ、製品作りに活用している。

化粧品類では、大手化粧品メーカーから、深層水の保湿性を活かした化粧品が製造、販売されている。同社は化粧品関係の特許を取得している。

また、韓国でもハワイの深層水を輸入してミシャブランド化粧品の一部として販売しており、日本でも販売されている。

食品では、富山県射水市の加工食品メーカーが富山県食品研究所と協同研究を行い、食品添加物に代えて、深層水を用い、そのミネラル分を活かして、大豆、サトイモ、ゼンマイ等の食品加工の工程に深層水を用いることで、煮くずれを防止し、うま味成分を保持する技術を開発し特許を出願するなど、科学的効果を検証した、おいしく、見た目もよいとする製品作りを行っている。これら商品は大手スーパーにより全国で販売されている。

医薬分野では、海洋深層水のミネラルバランスが人の体液に近いことを活かして、富山市の企業が地元大学と臓器保存液として利用する研究を行ない、従来の生理食塩水に比べて遙かに保存効果が高いことを明らかにした。[要出典] この成果を活かし、国の委託事業で創傷ケア用の薬剤を開発しようとする研究が進められている。[要出典]

海外での深層水開発[編集]

海外では韓国台湾2006年6月設立)で深層水の産業利用を推進するため国立の研究機関を設立し、研究開発を進めている。

台湾では現在、複数の企業が台湾で取水された深層水を用いた深層水飲料の販売を行なっている。一部は中国へ高級飲料として輸出されている。また、飲料だけに留まっている利活用を活性化させようと、日本の深層水を利用した清酒製造技術の導入を図ろうとする取水地もある。

韓国では、2007年7月3日に国会で「海洋深層水の開発及び管理に関する法律」が成立し、2008年2月4日に施行された。これにより韓国で取水された海洋深層水を用いた製品開発が開始された。

アジア以外では、インド洋モーリシャス共和国でも海洋深層水を活用した産業振興のための調査・研究を進めている。

日本海[編集]

日本海などの縁海では、特徴的な性質を持った海水が分布する[4]。特に日本海の場合の深層水を日本海固有水と呼び、太平洋側の海洋深層水と異なる特質を持っている。まず、太平洋側の深層水は年間を通じて10℃前後だが、日本海固有水は2℃前後と低温である。また、太平洋側の深層水は深度が深くなるに従って海水中の溶存酸素量が減少するが、日本海固有水は深度が深くなっても溶存酸素量は表層水とほとんど変わらず豊富である。

このように異なる性質となるのは、日本海固有水の起源が日本海北部で冷却された表層水が水塊が底層に沈み込んだものだからである。日本海固有水がこのような起源を持つのは、海峡水深が深い通常の海域の場合には、外洋の深層水が流入するのに対して、日本海の場合は、外洋との通路となる対馬海峡が著しく浅く、外洋の深層水が流入しないためである。

脚注[編集]

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外部リンク[編集]