ジビエ
ジビエ(仏: gibier)とは、狩猟によって、食材として捕獲された野生の鳥獣である。主にフランス料理での用語。
本来はハンターが捕獲した完全に野生のもの(仏: sauvage、ソバージュ)を指すが、供給が安定しない、また入手困難で高価になってしまうといった理由で、飼育してから一定期間野に放ったり、また生きたまま捕獲して餌付けしたものもドゥミ・ソバージュ(仏: demi sauvage、半野生)と呼び、ジビエとして流通している。
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工程 [編集]
ジビエのハンティングには、大変気を遣う。銃弾によって可食部分が大きく損傷してしまったり、また内臓が飛び散って味が悪くなってしまってはいけない。また仕止めた後も、血抜きや解体といった処理を適切に行う必要がある。 通常は獲ってすぐに食べるのではなく、数日をかけて熟成(仏: faisandage、フザンダージュ)させてから調理する。
旬 [編集]
野生の鳥獣は冬に備えて体に栄養を蓄えるため、秋がジビエの旬となる。これはジビエの胃の内容物を調べることでよくわかる。冬季にはジビエの餌となる果実などが減少するため、年越し頃から一般に肉質は低下する。古くから狩猟によって食料を得てきたヨーロッパの人々にとっては、身近であると同時に無くてはならない食材である。
主なジビエ [編集]
鳥類 [編集]
- マガモ(colvert、コルヴェール)
- 血の色が濃く、野趣に満ちた味を持つ。雌の方が脂肪層が厚く、風味も強いとされている。ちなみにコルヴェールとは「緑の首」という意味であり、日本語での鴨の異称である「青頸」と同義である。
- アヒル(canard、カナール)
- 鴨が家禽化されたものだが、ドゥミ・ソバージュによってジビエとなる。シャランデ鴨(Canard challandaise)が特に有名で、雛を一週間飼育した後に2か月ほど自然の中で生育させる。屠殺する場合は針を打って仮死状態にした後、窒息死させる。
- ヤマウズラ(perdreau、ペルドロー)
- 代表的な鳥のジビエ。1歳以下の若鳥をペルドローといい、それ以上をペルドリ(perdrix)と呼んで区別する。肉質は淡白な灰色のもの、野性味の強い赤色のものとがある。現在出回っているものはほとんどがドゥミ・ソバージュである。
- キジ(faisan、フザン)
- キジもポピュラーなジビエである。雄より雌の方が肉質が柔らかく、珍重される。なお、肉の熟成を意味する「フザンダージュ」は、キジのフランス名に由来している。
- ライチョウ(grouse、グルーズ)
- 日本では天然記念物であるため狩猟できないが、フランスでは比較的よくみかけるジビエ。肉は赤身で独特の香りがある。
- ヤマシギ(bécasse、ベカス/ベキャス)
- 肉質は柔らかく、ジビエにしては繊細。内臓が特に珍重され、付けたまま料理される。また、裏漉しした内臓をソースに加える料理も多い。非常に希少価値が高く、乱獲されたため、こちらは逆にフランスで禁猟となっている。
獣類 [編集]
- 野ウサギ(lièvre、リエーヴル)
- ジビエの中ではクセが強く、また肉質も硬くパサつきやすい。火の入れ方、スパイスやハーブの使い方など調理に気を遣う食材である。1匹を丸ごと煮込む、ロワイヤルと呼ばれる調理法が代表的である。また、血をソース(シヴェ・ソース)のつなぎに使って野性味を強調することも多い。一方、家禽のウサギはラパン(lapin)と呼ばれ、リエーヴルよりも淡白な味わいで知られる。
- シカ(chevreuil、シュヴルイユ)
- クセの少ない淡白な赤身肉。ヨーロッパでは2歳くらいのものを使う。頭や首の急所を狙って一発で即死させないと暴れて肉に血が回ってしまうため、ハンターの腕が問われるところである。血抜きも即座に行わなくてはならない。
- イノシシ(sanglier、サングリエ)、仔イノシシ(marcassin、マルカッサン)
- 日本では成獣を狩るが、フランスでは肉が硬くなるのを嫌って、まだウリ坊の幼獣を対象とする。味、料理法等は豚肉に準じる。
日本におけるジビエ [編集]
詳細は「日本の獣肉食の歴史」を参照
日本で一般的に肉食が広まったのは明治時代以降とされているが、それ以前に狩猟・肉食の文化が無かったわけではない。マタギやシカリといった猟師がシカやクマ、イノシシを獲っていたし、海から離れた山岳地ではツグミやキジなどの野鳥も食べられていた。ウサギを一羽二羽と数えるのも、鳥とうそぶきながら食べられていた名残である。そうした意味においては、日本人もジビエを食べてきたと言うことができる。
フレンチ食材としてのジビエは、1990年代の中頃から日本に輸入されるようになった。ピジョン、コルベール、ペルドロー、フザン、リエーヴル、シュヴルイエなどがフランスから入ってきている。ただし全てがフランス産という訳ではなく、ベルギー、イタリア、スペイン、ドイツ、さらにはオーストラリアなどで獲れたジビエがいったんフランスに集められる。これは日本における検疫の都合によるものである。テレビ番組「料理の鉄人」で「ジビエ対決」が組まれるなど、知名度が上がってくるにつれて、ジビエ料理を出すレストランも増えてきている。
長野県では、農作物のシカによる食害に悩まされていることから、生息密度をコントロールするために、毎年一定量の駆除を行っている。しかし捕獲されたシカが食肉として利用されることは少ない。例えば2006年に長野県で駆除されたニホンジカ約9,200頭のうち、食肉となったのは820頭で僅か9%に過ぎない。大半はハンターに自家消費されたり、山中に埋設されたりしている。そうした中、捕獲したシカを「モミジ鍋」ばかりではなくジビエとして消費を拡大し、地域振興につなげようという動きも出始めている。長野県大鹿村などでの取り組みが代表例としてあげられるが、近年は全国各地の自治体も取り組み始めている。2013年3月、徳島県がジビエ制度を開始、「阿波地美栄」という当て字を使ったキャッチコピーで、鹿肉をアピールしている[1]。
脚注 [編集]
- ^ “鹿の食害減らしたい ジビエ料理5店舗 認定”. 読売新聞. (2013年3月22日) 2013年3月24日閲覧。
参考文献 [編集]
- 谷昇 著 『ル・マンジュ・トゥー 素描するフランス料理』 柴田書店 2003 ISBN 978-4-388-05905-8