肥料

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肥料(肥糧、ひりょう)とは、植物を生育させるための栄養分として、人間が施すものである。

概要[編集]

日本の法律では「肥料取締法第2条第1項」で、「植物の栄養に供すること又は植物の栽培に資するため土壌に化学的変化をもたらすことを目的として土地に施される物及び植物の栄養に供することを目的として植物に施される物をいう」と定義されている。したがって、土壌に施されるものだけではなく、葉面散布などの形で施されるものも、肥料と呼ぶ。反面、養分としてではなく、土壌の改質のみを目的としたものは、肥料とは呼ばない。

また、人間が施したものではなく、もともと土壌中に含まれていた栄養分については、一般に「肥料分」などと言い分けることが多い。

農業は、土壌から栄養を吸って生育した植物を持ち去って利用する行為であるため、減少した窒素リンなどを土壌に補給しなければ、持続可能な農業は不可能である。肥料はこの補給の目的で用いられる。

とりわけ、窒素リン酸カリは3大要素と呼ばれ、通常の配合肥料には必ずこれらが含まれる。この他に、後述するカルシウムマグネシウムなどの要素も肥料として施す必要がある。

人類が紀元前3000年の頃から始めた農業の歴史上、不足し続けているのがリン酸である。その原料のリン鉱石の枯渇がいま心配されている。リン鉱石の80%が肥料用に使用されており、英国硫黄誌 (British Sulphur Publishing) によると、最悪のシナリオとして過去の消費から年3%の伸びを見込むと消費量は2060年代には現在の約5倍になり、経済的に採掘可能なリン鉱石は枯渇してしまうことになる、という。現実的なシナリオでは2060年代に残存鉱量は50%になるとされている。国際肥料工業会 (International Fertilizer Industry Association) によると、リン酸肥料が使用される主な作物とその割合は、小麦が18%、野菜・果物が16%、米、トウモロコシがそれぞれ13%、大豆が8%、サトウキビが3%、綿花4%となっている[1]。肥料の3大要素といえばリン、窒素、カリウムであり、この3つがなければ日本の農業は成立しない。にもかかわらず、日本はリン鉱石の全量を輸入に頼っており、その多くを中国に依存している。

植物が必要とする元素[編集]

多少の異説はあるが、植物は一般的に次の元素を必要とするとされる。

以上の元素は必須元素と呼ばれる。これら16の元素はそのうち一つでも欠けると植物体の生長が完結しない。

なお、植物体に与えると、その生長を助ける元素としてナトリウム (Na)、ケイ素 (Si) があり、これらは有用元素と呼ばれる。

また、上記の元素の全てについて肥料として与える必要があるわけではない。鉄、亜鉛、銅などは植物の成長には微量で良く、通常の土壌ではあまり不足しない。しかしながら、アルカリ性が強い貝化石土壌等では、これらの金属イオンが水に溶けにくく植物が利用しにくいため、生育阻害を受けていることがある。この場合、肥料として与えることで、作物の生育を改善できる。また、水を構成する水素や酸素、空気中の二酸化炭素に含まれる炭素は、通常、環境中に存在する。養液栽培など、土壌からの供給が全く期待できない場合は、全て与えてやる必要がある。施設園芸などでは、二酸化炭素飢餓が発生することがあり、炭素さえも施用する事がある。ただし、上記のうち塩素については、塩害を生じることがあるため、日本ではわざわざ肥料として施すことはない。

肥料の三要素[編集]

窒素リン酸カリウムを、肥料の三要素と言う。特に植物が多量に必要とし、肥料として与えるべきものである。

窒素[編集]

主に植物を大きく生長させる作用がある。特に葉を大きくさせやすく、葉肥(はごえ)と言われる。過剰に与えると、植物体が徒長し、軟弱になるため病虫害に侵されやすくなる。逆に、軟らかい植物体を作りたいときは窒素を多用するとよい。
また、窒素はどのような性状の窒素であるかにより肥効が左右される。アンモニア態窒素(硫安、塩安など)は土壌に吸収・保持されやすいので肥効は高い。しかし、土壌でバクテリアにより硝酸態窒素に変化すると土壌に吸収・保持されにくいので流亡してしまいやすい。有機質の肥料や尿素などは土壌でアンモニア態窒素に変化し、さらに硝酸態窒素に変化する。アンモニア態窒素は多用するとアンモニアガスを生じ植物体に障害を与える場合がある。この現象は施設園芸でよりおこりやすい。

リン酸[編集]

主に開花結実に関係する。花肥(はなごえ)または実肥(みごえ)と言われる。可溶性リン酸とく溶性リン酸が植物に吸収される。このうち可溶性リン酸は、アルカリ性クエン酸アンモニウム溶液に溶けるリン酸で、この中には水溶性リン酸も含まれる。なお、化学分野では「P」は元素のリンを表すが、農業・園芸分野ではリン酸塩類を表すことが多くリン酸と略されることが多い。

カリウム[編集]

カリ(加里)と略すことも多い。主に根の発育と細胞内の浸透圧調整に関係するため根肥(ねごえ)といわれる。水溶性のため流亡しやすいので、追肥で小出しに与えるのがよい。細胞内ではイオンの形で存在するため、細胞が死ぬと細胞外へ流出しやすい。また、植物体内での転流も容易。

肥料の五要素[編集]

肥料の三要素にカルシウム石灰)とマグネシウムを加えて肥料の五要素と言う。

カルシウム(石灰)[編集]

主に細胞壁を強くし、作物体の耐病性を強化する働きがある。農業・園芸分野では石灰(せっかい)ともいい、土壌のph調整などに用いられる。生石灰(酸化カルシウム)または消石灰(水酸化カルシウム)または炭酸石灰(炭酸カルシウム)などのカルシウム含有の肥料をいう。「石灰」は文脈によっては元素のカルシウムのことの場合もある。牡蠣殻などが原料として使用される。

マグネシウム(苦土)[編集]

葉緑素形成に不可欠な物質である。農業・園芸分野では苦土(くど)ともいう。

その他の要素[編集]

前記の石灰、苦土に加え硫黄を足したものは中量要素と呼ばれている。硫黄が五要素に含まれていないのは通常土壌に含まれている量で十分であり、あえて肥料として施用する必要が少ないからである。

さらに他の鉄、マンガン、ホウ素、モリブデン、亜鉛、銅、塩素は微量要素と呼ばれている。これらは必要な元素であるが必要な量は微量であり、大抵土壌や肥料に含まれている量で十分な場合が多く過剰障害も生じやすいことから、微量要素肥料の施用には十分な配慮が必要である。葉面散布等で施用すると効果的な場合がある。

分類[編集]

肥料は多くの種類があり、分類の方法も何通りかある。

有機、無機での分類[編集]

大別して有機肥料と無機肥料に分類できる。両者を混合したもの(配合肥料)も存在する。両者の成分は大きく異なるが、植物に無機化合物として吸収される点は共通する。

有機肥料(有機資材)[編集]

1870年代中期のアメリカ合衆国。肥料用に集積されたアメリカバイソンの頭骨の山。

有機物有機資材)を原料とした肥料。有機質肥料ともいう。有機肥料を施用する事と、有機物を施用することも混同されがちであるので、注意が必要である。有機物により土壌内の微生物に栄養分が与えられるため、無機肥料よりも土壌に良いと考える人もいる。ただし農業は肥料だけでおこなうものでないため、一概に有機肥料が無機肥料より優れているとはいえない。例えば、完熟していない有機肥料では悪臭ガス発生、害虫発生等の問題が発生することがある。肥料を発酵させることによって、養分が分解され利用しやすくなり、有害菌が増殖して病害が起こることを防ぐことができる。

有機物は時間をかけて分解され、その後植物に吸収されるため即効性は低いが、そのかわり土壌に長期間蓄積される。従来、植物は基本的に無機物を吸収し栄養としていると考えられてきた。ほとんどの栄養分は無機物として吸収されるが、一部の有機物はエンドサイトーシスにより、養分として取り込まれることもある。タンパク質の場合、細胞内にタンパク質を取り込んでからタンパク質分解酵素で消化して利用する。アミノ酸では直接利用されるものがある。このため、有機物の肥料としての有効性も研究されてきた。2002年には、独立行政法人農業環境技術研究所が植物が根から無機質ではない有機質のタンパク質様窒素を吸収することを証明している[2]

ボカシ肥[編集]

ボカシ肥とは、有機肥料を発酵させて肥効をボカシた(穏やかにした)ものをいう。原料となる有機肥料は、油カス、米糠、鶏糞、魚カス、骨粉など多様である。無機肥料を加えることもある。ボカシボカシ肥料ともいう。

ボカシ肥には大別して、土を混ぜるもの、混ぜないものの2種類ある。

前者は、有機肥料に土(粘土質なものがよい)を混ぜ、50 - 55℃以上に温度が上がらないようにして発酵させる。(通常、堆肥などを発酵させる場合は、もっと高温で70℃以上になることがある。)

一方、後者は、有機肥料に水を加えて発酵させたもので市販のボカシ肥はこちらである。

無機肥料[編集]

無機物を主成分とした肥料で、工場で化学的に生産されたものが中心であるが、天然の鉱物もある。また、炭素をその組成に含まないものと理解する場合もあり、その場合、尿素は有機肥料とする。多くのものは、にとけやすく即効性があるが、同時に流れやすくもあるため、定期的に肥料を追加する必要がある。また有機物の量が少ないため、長期間使用すると土壌障害の原因となる。

悪臭、ガス発生、害虫発生などの問題は発生しない。

無機肥料の、持続性が無いという欠点を克服するものとして、遅効性肥料がある。これは肥料を樹脂、硫黄でコーティングしたものであり、コーティングの厚さにより有効日数(1か月 - 1年程度まで各種)が調節されている。また、窒素に限れば、硝化抑制剤などを尿素と混合し遅効性としたものもある。追肥するのが困難な道路斜面、治山砂防の現場の緑化資材として開発されたが、その手軽さから園芸資材としても広く普及している。

化学肥料[編集]

化学的に合成された無機肥料を化学肥料という。

化学肥料で肥料の3要素の1つしか含まないものを単肥という。(但し、有機、無機に関係なく、1種類の肥料という意味で単肥ということもある。)

単肥を混合して、肥料の3要素のうち2種類以上を含むようにしたものを複合肥料という。

複数の単肥に化学的操作を加え、肥料の3要素のうち2種類以上を含むようにしたものを化成肥料という。化成肥料で肥料の3要素の合計が30%以上のものを高度化成といい、それ以外を低度化成という。

化成肥料の成分は「窒素-リン酸-カリ」という表記で表される。例えば、「8-8-8」という表記であれば窒素、リン酸、カリが各8%の低度化成とわかる。

酸性、中性、アルカリ性による分類[編集]

肥料(主として化学肥料)を酸性肥料、中性肥料、アルカリ性肥料とペーハーにより分類することがある。このような分類を行う場合は、後述するが「化学的」なものと「生理的」なものの2通りの見方がある。

化学的酸性肥料、化学的中性肥料、化学的アルカリ性肥料
肥料の水溶液が酸性、中性、アルカリ性のいずれをしめすかにより、それぞれ化学的酸性肥料、化学的中性肥料、化学的アルカリ性肥料と分類する。
生理的酸性肥料、生理的中性肥料、生理的アルカリ性肥料
肥料の有効成分が植物に吸収された後、土壌が酸性に傾くか、酸性にもアルカリ性にも傾かないか、アルカリ性に傾くかにより、それぞれ生理的酸性肥料、生理的中性肥料、生理的アルカリ性肥料と分類する。

「化学的」と「生理的」な分類は一致する場合もあるが、一致しない場合がある。

例えば、

  • 硫酸カリは、水溶液は中性であるので化学的中性肥料、有効成分のカリが植物に吸収されると土壌には酸性の硫酸基が残るので生理的酸性肥料である。
  • 硝酸カリは、水溶液は中性であるので化学的中性肥料、有効成分のカリと窒素(硝酸基は窒素を含む)が植物に吸収されると特に酸性物質もアルカリ性物質も残らないので生理的中性肥料でもある。

肥料取締法による分類[編集]

肥料取締法によると、肥料は特殊肥料と普通肥料に分類される。

特殊肥料
堆肥、米糠などのように五感で識別できるもの、肥料分が少なく公定規格を設定できない肥料で、農林水産大臣が指定する。
成分表示は、肥料取締法(昭和25年法律第127号)第22条の2第1項の規定に基づき、特殊肥料についての表示の基準となるべき事項を定められ、平成12年10月1日から施行された。
成分表示内容の詳細は、特殊肥料の品質表示基準を定める件(平成12年8月31日 農林水産省告示第1163号)
普通肥料
特殊肥料以外の肥料

元肥、追肥による分類[編集]

元肥(もとごえ)
植物の植え付け時、あるいはそれに先立って与える肥料。遅効性で長期間肥効が続く肥料を使う。基肥(きひ、もとごえ)ともいう。
追肥(ついひ、おいごえ)
植物の生育途中に与える肥料。速効性のある肥料を使うことが多いが、樹木のように長期間生育するものについては遅効性で長期間肥効が続く肥料を使うのもよい。

その他[編集]

人糞動物家畜)の糞尿など自給できる肥料に対し、金を出して(金銭を払って)購入する肥料を金肥(かねごえ・きんぴ)と称される。

活力剤[編集]

活力剤、活力液などと呼ばれている物は肥料とは異なり、さらに、異なる2種類の物がある。

  • 法律上、肥料として販売できない低濃度の肥料。アンプル剤が多い。
  • 生理機能を高める物。水で希釈して使用するものが多い。

その他、肥料もどき(「酵素肥料」など)[編集]

法律上、肥料ではなく、肥料としての効果も認められないが、一般に肥料と誤解されているものとして以下のようなものがある。

「酵素肥料」と一般に言われるもの
第二次世界大戦終戦直後の、極度の肥料不足の時期に、神奈川県鎌倉市在住の祈祷師・柴田欣志が提唱した酵素農法が全国的に注目を集めた。酵素農法とは、「酵素は皇祖に通ずる」と言う理論(単なる語呂合わせ)に基づき、田畑に酵素を入れた肥料(酵素肥料)を施すことで、皇祖神の恩恵によって土中の栄養価が高まり、収穫高が増えると考える農法(一種の信仰)を言う。柴田欣志とその支持者(信者)たちは、「柴田酵素」[3]を推奨し、これを用いて「コオソ様」と唱えながら農業を行えば、収穫高が2 - 10倍増すると称していた。化学の研究者等専門家からは、柴田欣志は「神がかり」と言われて相手にされなかったが、敗戦後の極度の食糧難と社会経済情勢の大混乱を背景に一部の農民からは支持を集め、横浜市など推進する自治体まであった。しかし、1947年に当時の農林省(現在の農林水産省)が行った試験結果によって酵素肥料には効果が全く無いことが明らかとなり、廃れた。
ただし、近年の自然農法への関心の高まりから、再び酵素肥料に注目する人々も出ている。これらの支持者たちは、酵素は農薬の影響で弱ることがなく、農薬によって微生物の活動が弱った土壌を活性化させることができると主張しているが、その効能については今日に至るまで科学的根拠が示されておらず、また、1947年の農林省の試験結果を覆すような酵素肥料の効果を示す実証データすら存在しないため、単なる空想、妄想の域を出ない。宗教的な効果はいざ知らず、少なくとも法律上及び科学的には「酵素肥料」は肥料とは呼べない代物で、これを肥料として販売すれば違法行為となることに留意する必要がある。

脚注[編集]

  1. ^ [1]リン鉱石と食糧危機:日経ビジネスオンライン
  2. ^ 「作物の根、有機物を吸収-無機栄養説覆す?」(『日本農業新聞』、2002年7月31日)
  3. ^ 具体的には、果実や草木、野菜などから砂糖の浸透圧を利用して抽出したものを、粥や人参、バナナ、イチジクなどを入れた杉の樽に入れて培養することによってできた液体を「柴田酵素」と呼んでいた。柴田欣志は、長野県での結核療養中に「神」が夢枕に立ち「柴田酵素」の作成方法を授けてくれたと語っていた。なお、「柴田酵素」の実際の内容物は新発見の酵素ではなく、出芽酵母の一種サッカロミケス・ケレウィシエであるにすぎなかった。柴田欣志には化学の知識が全くなく、自分が作っている物の成分が何であるかすら全くわからなかった。また、柴田欣志は、「柴田酵素」を「神掛けて作る」と言っていたが、「柴田酵素」に含まれる酵母は早く死滅してしまうため、実用には役立たなかった。柴田欣志は、この「柴田酵素」を肥料用として製造したほか、これを乾燥させて粉末状にしたものを万能薬「ウントリー」と命名し、この薬学的効果の無い偽薬で「肺結核も治癒した」などと偽っていた。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]