馬肉
ウマは消化能力が低く食性も狭いため、食用として飼養した場合は牛(ウシ)や豚(ブタ)と比べて生産コストが高い。一方、廃用乗用馬があり、また一般的に消費者による選好性も牛肉や豚肉に比して低いことから、馬肉は安価な食肉として、ソーセージやランチョンミートのつなぎなどの加工食品原料や、ペットフード原料に利用される。ただし馬刺しなどで利用可能な部位は比較的高値で取引される。地域によってはタブー食とされる。(後述)
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食肉 [編集]
馬肉は、他の畜肉と比較すると栄養価が高く[1][2]、滋養強壮、薬膳料理ともされる。
- 牛豚鶏などの畜種より、低カロリー、低脂肪、低コレステロール、低飽和脂肪酸、高たんぱく質。
- たんぱく質が多いだけではなく、アミノ酸が20種類程と豊富。
- ミネラルは牛肉や豚肉の3倍のカルシウム、鉄分(ヘム鉄)はほうれん草・ひじきより多く、豚肉の4倍・鶏肉の10倍。
- 多種のビタミン類が豚肉の3倍、牛肉の20倍。ビタミンB12は牛肉の6倍、ビタミンB1も牛肉の4倍、ビタミンAやビタミンEも多い。
- 牛肉の3倍以上のグリコーゲンを含む。
食用とする部位は10以上に区分される。また、加熱用馬肉と生食用馬肉が存在する。
- 正肉(赤身)
- モモ、ロース、ヒレ、バラなど、ヘモグロビンやミオグロビンが多い赤身部分が空気に触れると桜色となることや、馬肉の切り身がサクラの花びらを想像させることから、サクラ(桜)やサクラ肉(桜肉)という俗称があり、その鍋料理の「桜鍋」や、刺身の「馬刺し」で食される部位である。地方によってはその肉を「けとばし」と呼ぶ。「生食」に関しては「馬刺し」を参照。
- 臓物
- 北海道と東北の一部地域では、馬の腸をなんこと呼び、その料理(炭鉱料理)「なんこ鍋」(味噌煮込み料理)がある。また、長野県伊那地方の郷土料理として馬のもつ煮「おたぐり」がある。
日本の馬肉食 [編集]
「日本の獣肉食の歴史」も参照
獣肉食が宗教上の禁忌とされ、食用の家畜を飼う文化が九州の一部などを除いて一般的ではなかった江戸時代の日本本土では、廃用となった役用家畜の肉を食すことは半ば非公然的ではあるが貴重な獣肉食の機会であった。
一部の地方では馬肉は400年以上も前から重要な蛋白源として重用されてきた。現代日本の馬肉は、牛肉が高かった時代の増量材、ニューコンミートに代表される加工食品等に使用されていた冷凍トリミング(主に南米産)、熊本県、長野県伊那地方、山梨県、福島県会津地方、山形県置賜地方、青森県南部地方などの郷土料理として供されることで知られている「馬刺し」や「桜鍋」用の生鮮肉(現在はほとんど北米産、若干欧州産)と用途も分かれている。
現代では流通している馬肉のほとんどはカナダやアメリカからのものとされているが、廃用となった競走馬の一部も食用に回されている。こうした背景から、競馬・乗馬関係者を中心に、馬肉を食べることに対して抵抗感をもつ人も少なからず存在する。ただ、競走馬として育てられていた馬は肉質や風味が食用には向いておらず、流通量も非常に少ない。
- 馬肉の生食については「馬刺し」を参照
馬肉食 [編集]
仔牛のカットレットのように馬肉を調理する場合もある。日本、フランス語圏の他に、オーストリア、イタリア、スイス、ベルギー、ルーマニア、アイスランド、カザフスタン、マルタ、モンゴル、オランダ、ノルウェー、スロベニア、スウェーデン、カナダのケベック州などがある。これらの国や地域では、食用の馬肉が生産され、ソーセージなどに加工するなどして消費されている。ベルギーは多くの馬肉をアメリカから輸入している。
アメリカ [編集]
様々な国から移民を受け入れてるアメリカでは、馬肉を好む人もおり、メキシコやカナダの処理場に馬を輸出し、馬肉を輸入する人々もいる。2013年3月19日、農務省は「馬の解体処理場の操業を承認するうえで必要な作業はほぼ済んでいる」と表明、アメリカで馬の屠殺が復活する可能性が出てきている[3]。
フランス [編集]
フランスでは、馬肉食は一般的であり、馬の頭部を店頭に並べることもある。ただ、フランス国内の馬肉業者は、ソ連崩壊後に東欧から安い馬肉が流入したことで壊滅状態となっており、フランス産馬肉が減った結果、フランス人の馬肉消費量も減りつつある。食肉業界の統計によれば、フランスで消費される食肉のうち、馬肉が占める割合はわずか0.4%程度で、1年に1回以上馬肉を食べるという家庭も5世帯に1世帯にも満たない。ただし、BSE問題で牛肉を避けて馬肉を選ぶ者が増えており、店舗によっては客足が戻りつつあるという[4]。
イギリス [編集]
イギリスでは、食用馬肉の屠畜と消費は法律で禁じられていない。18世紀から19世紀にかけてはペットフード用の肉を扱う猫肉屋が馬肉も用いていた。複雑に入り組んだヨーロッパの食品流通経路により、イギリスの食卓にも長年、馬肉が使用されている。2013年1月、アイルランドの食品基準監督当局により、イギリス・アイルランドの大手スーパーマーケットで販売されている牛肉に、最大で100%の馬肉が使用されている事例が発覚した。この食品偽装の事件は、イギリスでは一大スキャンダルとなり、その騒ぎはヨーロッパ全体に広がっている[5]。
英語で「馬を食べる」(eat a horse)といった場合、(丸々一頭食べられるほど)空腹であるという意味で、あくまで比喩表現である。「a」が付いているので「馬肉」という肉の種類を表すのではなく個体として「馬」を表すので「eat a chicken」と言っても同じである(鶏を丸々一羽食べられるほど空腹)。
否定 [編集]
ウマは歴史的に農耕や馬車の牽引、乗用に使用されており、家畜であると共に狩猟や戦場における足ともなって来た。これらから、肉食に供することに嫌悪感や抵抗感を持つ人もいる。アメリカ、イギリスで、馬肉食をタブー視する傾向が強い[6]。
日本 [編集]
日本の乗馬及び競馬に携わる人の中には馬肉を食べる事を忌避する人達が少なからずいる。しかし、競馬雑誌の競走馬の異動欄には、現役を引退する馬の異動先が記されている。地方競馬への移籍や種牡馬・繁殖入りの他に乗馬になる馬がいる。それが全て乗馬になるわけではない。それ以外にも「用途変更」という名称で姿を消す馬が相当数おり、その「用途」の中には食用もあるといわれている。実際に、廃止された上山競馬場や中津競馬場に在籍していた競走馬の末路は食肉処分だった。また、北海道で行われているばんえい競馬では、競走に出るための能力試験(または能力検定ともいう。入厩馬に課せられる模擬競走、地方競馬のみの制度)を突破できなかったり、あるいは満足な競走成績が残せなかったりした競走馬が食肉向けに転用されており、公式サイトでも包み隠すことなくそのことが解説されている。通常、平地競馬の能力試験は、一定の制限時間をクリアすれば良いため、力一杯走る必要がなく、「馬なり」で能試を走らせることもあるが、ばんえいの場合は能試の結果がいわば「生死を分ける」ため、実戦さながらに行われる。
アメリカ [編集]
第二次世界大戦中に、牛肉価格の高騰のためニュージャージー州で食用馬肉の販売を一時的に合法化したが、戦後禁止された。またハーバード大学のFaculty Clubでは、1983年まで100年以上、メニューに馬肉があった。しかし、「馬は開拓時代からの数少ない文化」とする動物保護団体等の活動が盛んで、2006年9月7日、下院は、食用を目的とした馬の屠畜を禁止する法案を可決した。さらに2007年1月、テキサス州では屠畜生産停止の裁判所仮命令が発令され実質的生産停止された。背景には、アメリカ人自身が馬肉を食さず、産業への影響が少ないといった国内事情がある。
米国の馬の食肉処理工場はテキサス州に2カ所、イリノイ州に1カ所あり、フランスとベルギーの会社が所有している。米国農務省によると、1989年には342,977頭、2003年には49,325頭の馬が米国内で屠殺されている。また、全米馬臨床獣医師協会(American Association of Equine Practitioners:AAEP)は「現在(2004年)、毎年、約5万頭の馬が米国の屠場で殺され、3万頭が殺処分のためカナダに輸送され、更に、無数の馬はメキシコへ送られ闇に葬られている」と主張していた[7]。動物愛護協会によれば、全米で毎年、約9万頭分=18,000トン=6,100万ドルの馬肉が生産されている。アメリカ馬肉の主要輸入国は、フランス、ベルギー、日本などである。
イギリス [編集]
1930年代以降、戦時中の食糧難の時期を除き馬肉食はタブーとなっている。フランス料理店用と、一部のサラミソーセージの原料用に、フランスから輸入されているのみである。
アイルランド [編集]
馬肉食はタブーとなっている。2013年に大手スーパーマーケット・テスコが扱っていたビーフハンバーガーから馬肉が検出され問題となった(馬肉混入問題)[8]。
イスラエル [編集]
ユダヤ教では食物規定により非反芻動物を食せないため、正統派ユダヤ教徒は馬肉を食べない。ただしイスラエルでは憲法の政教分離規定により、政府が宗教上の理由で食品の製造流通を禁止することはできない。
中華人民共和国 [編集]
中華人民共和国では馬肉食を特に指弾する勢力はないものの、一部の地方を除いて伝統的に馬肉はあまり食べられない。本草綱目によると、馬肉は体を冷やす食品とされる。中国では、馬肉はソーセージの原料として利用される。また、広西チワン族自治区では、馬肉は一般的な食材である[6]。
馬肉についての文化摩擦を題材にした創作作品など [編集]
- ゴルゴ13第59巻「マシン・カウボーイ」は、馬肉食を否定するアメリカ国民の考え方を題材としている。
民間療法 [編集]
民間療法として筋を痛めたり打撲の患部に馬肉を貼り付けるというものが存在する。1936年、日本プロ野球巨人の藤本定義監督は、登板が続いて肩を痛めたエース沢村栄治に馬肉を肩にあてさせたという[9]。時代は下り、福岡ダイエーホークスの王貞治監督が足の打撲で途中交代した秋山幸二に贈ったところ、彼は「これを食べて英気を養ってくれ」というメッセージだと勘違いし、平らげてしまったという(秋山の出身地熊本では滋養強壮食として馬肉が食されているため)。
脚注 [編集]
- ^ 肉類
- ^ 馬肉
- ^ Amanda J.Crawford (2013年4月6日). “米、馬肉生産再開に賛否両論”. サンケイビズ (ブルームバーグ) 2013年4月7日閲覧。
- ^ Angus MacKinnon (2013年2月17日). “フランスの馬肉業界、偽装牛肉問題に負けず食の伝統守る”. AFPBB News 2013年2月17日閲覧。
- ^ CASSELL BRYAN-LOW; RUTH BENDER (2013年2月12日). “欧州で馬肉混入スキャンダル 食品のラベル表示に不信高ま”. ウォール・ストリート・ジャーナル 2013年2月12日閲覧。(詳しくは馬肉混入問題を参照)
- ^ a b “馬肉偽装問題、食文化を考える契機に”. ナショナルジオグラフィック. (2013年2月13日) 2013年2月13日閲覧。
- ^ 米国の馬屠殺防止法案を取巻く情勢(アメリカ) - (財)競馬国際交流協会
- ^ “「ビーフバーガー」に馬肉混在、競馬サークルにも波紋”. NET KEIBA.com (NET KEIBA.com). (2013年1月15日) 2013年2月10日閲覧。
- ^ 『巨人軍5000勝の記憶』p.18
参考文献 [編集]
- 『食と文化の謎(第4章 馬は乗るものか、食べるものか)』 マーヴィン ハリス (Marvin Harris)、板橋作美 訳 岩波現代文庫 岩波書店 ISBN 4006030460
- 『巨人軍5000勝の記憶』 読売新聞社、ベースボールマガジン社、2007年。ISBN 9784583100296。