ニシン

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ニシン
Clupea pallasii
ニシン Clupea pallasii
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 条鰭綱 Actinopterygii
: ニシン目 Clupeiformes
: ニシン科 Clupeidae
: ニシン属 Clupea
: ニシン C. pallasii
学名
Clupea pallasii
Valenciennes, 1847
和名
ニシン(鰊・鯡)
英名
Pacific herring
Clupea pallasii
分布

ニシン(鰊・鯡、学名:Clupea pallasii)は、ニシン目ニシン科の海水魚。別名、春告魚(はるつげうお)。欧米で ヘリング Herring, Häring といえばニシンも含むが、普通はタイセイヨウニシン(C. harengus)のことをいう。2種を区別したいときは、ニシンを パシフィックヘリング Pacific herring、タイセイヨウニシンを アトランティックヘリング Atlantic herring という。種小名は、ドイツの生物学者ペーター・ジーモン・パラスにちなむ。

分布[編集]

冷水域を好む回遊魚で北太平洋北極海白海バレンツ海南西部、日本海黄海北部の渤海湾に分布する。魚体は細長く、体長は30-35cmほど。背側は青黒色、腹側は銀白色。日本付近では春、産卵のために北海道沿岸に現れる。日本の太平洋側では犬吠埼付近が南限。

分布域は広いが回遊範囲が狭く固有の湾内などを生息域とする地域性の群れ(地域群)と広範囲の海洋を回遊する群れ(広域群)が存在している[1]が、それぞれの回遊範囲等については十分に解明されていない。

日本付近では、地域群:それぞれ石狩湾能取湖風蓮湖厚岸湖湧洞沼尾鮫沼万石浦[1]などを主な産卵場とする群と広域群:「北海道・サハリン系」、「本州系」が分布する。サハリン周辺の地域群は、オホーツク海北部沿岸に産卵するオホーツク系統群、シェレホフ湾内とカムチャッカ半島北西部に産卵するギジガ・カムチャッカ系統群[2]

生態[編集]

動物性プランクトンやオキアミ類(日本付近では、ツノナシオキアミ)を主なエサとする。 回遊魚であるが同じ海域に戻り産卵する性質がある(産卵回遊性)。産卵は水深 1m 以下の浅い海で行われる。メスが海藻に沈性で粘着性のある直径 1mm程度の卵を産み付け、オスが放精して受精させる。この際に海水が白濁する状態となる。

地域群と広域群では成熟に至までの年数が異なる。

  • 石狩湾系:石狩湾を中心とした沿岸で生まれ、湾内を回遊し成長する。成長が早く、2歳で成熟し産卵する。
  • 北海道・サハリン系:産卵は北海道西岸で春に孵化した仔魚は、オホーツク海から千島列島を経て金華山沖まで南下、三陸沿岸、北海道太平洋沿岸を回遊し、3年で成熟し千島列島からオホーツク海を経て北海道西岸に戻り産卵する。
  • 本州系:岩手県宮古湾などを産卵場として夏期に噴火湾に回遊する群[3][4]

日本における漁業[編集]

鰊御殿・旧青山家住宅(北海道開拓の村

主に刺網漁や巻網漁によって漁獲される。1890年頃から1917年頃まではの漁場は富山県沿岸から秋田県沿岸であったが、年々漁場が北上し1920年頃には青森県沖から北海道まで北上していたが、1923年には青森県沖の漁場も不漁となり本州日本海側の漁は消滅した[2]。 1910年以降急激に漁獲量が増えた北海道沿岸(小樽から稚内にかけて)の漁は明治末期から大正期の最盛期には春先の産卵期に回遊する北海道・サハリン系を主対象として100万t近くの漁獲高があり、北海道ではニシン漁で財を成した漁師による「ニシン御殿」が建ち並ぶほどであった。しかし、1953年昭和28年)から減少が始まり1955年には5万tまで激減し衰退した。その後はロシアカナダからの輸入品が大半を占めるようになった。激減の原因としては海流あるいは海水温の上昇[2]、乱獲[5]、森林破壊などとする諸説があるが解明されていない。しかし、1890年代から2000年代までの海水温と漁獲量の変化を分析したところ、北海道-サハリン系ニシンの資源量変動と海水温の長期変動には強い相関があり[6]乱獲だけが資源量減少の理由ではないとする研究者もいる。

激減以降、減少した漁獲を増加させるために人工孵化や稚魚放流も行われている[1]2002年から2011年間の10年間のニシンの平均水揚げ数量は4千tにとどまり[5]、根本的な解決に至っていない[7]。それにもかかわらず、日本の魚介類の漁獲枠対象魚種にはいまだリストアップされていない[5]。しかし、1990年代に石狩湾系群を対象として漁網の網目を大きくするなどの2年級未満を捕獲しない保護策や稚魚放流が実施された結果、2003年から資源量が増加したとする報告がある[8]

ノルウェー沿岸のニシン漁は、1970年から1990年の約20年間不漁が続いたが、資源管理を行ったところ漁獲量が復活したというデータがある[5]が、過去400年の間に50年から80年間の豊漁期間と30年から60年間の不漁期間をくり返してきたとする研究もあり[2]漁獲量回復の原因が、資源管理の成果であるのかは不明である。

利用[編集]

日本[編集]

子持昆布

産卵期の春から初夏にかけてが脂が多くのる。身を塩焼き、フライマリネにするほか、身欠きニシン燻製コンブで巻いて煮締めた「こぶ巻き」などの加工品とされる。卵の塩蔵品は数の子(かずのこ)と呼ばれる。

冷凍・冷蔵技術や輸送の発達していなかった時代、身欠きニシンは山間地では重要な食材であった。京都名物に、にしん料理があるのもこのような理由による。北海道からニシンを空輸し南座横の名物として知られるにしんそばは明治時代に誕生したものである。

食通で知られる北大路魯山人は著書「魯山人味道」(平野雅章 編)で、「煮たもの焼いたものはさほどでも無いが、乾物を水でもどしたものを上手く料理すると美味しくなる」と言っている。

江戸時代・明治時代には、北海道日本海沿岸で生産された鰊粕北前舟本州へ移出され、菜種綿花などの商品作物の栽培に欠かせない高窒素肥料金肥のひとつとして販売され、農村への貨幣経済の浸透を促した。しかし生産時には大量のを必要とするため、生産地では森林破壊が進んだ[9]

『守貞漫稿』には、「鯡江戸食之者稀也専ら猫の食するのみ京坂にては自家に煮之或は昆布巻にす唯陌上担ひ売は昆布まきに製す」とあり、『年中番菜録』には、「鯡こんふ巻また平こんふに取り合せたきてむかふつけにしてよし下品なれとも酒のさかなには時によりをかし白水につけおき砂糖あめなといるれはしふみなし」という。

ヨーロッパ[編集]

Rollmops
Kippered "split" herring

ニシンの甘酢漬け(〆鯡(しめニシン))がロールモップ(Rollmops)としてヨーロッパの代表的な食べ物の1つである。

オランダでは塩味を付けたニシンを生で食べる(ハーリング (料理)の項を参照)。トマトとすり下ろし人参で作ったソースにつけ込んで酢じめにする。食べる人は顔を上げ、ニシンの尻尾を持ってぶら下げ頭から飲み込むように食べる[10]

チェコではアットマーク(@)を「ニシンを巻いたもの」(zavináč) と呼ぶ。

スウェーデン北部の有名な缶詰であるシュールストレミングは、生のニシンの身を缶詰にして缶内発酵させたもので、嫌気性細菌発酵による強烈な臭気がある。

ポーランド料理のシレチ・ポ・ヤポンスク( śledź po japońsku/日本風ニシン)とは、 酢漬けにしたニシンをゆで卵入りのマヨネーズで和えたもの。ポーランドではポピュラーなニシン料理となっている。「日本人はニシンの卵(数の子)が好きだ」というのが、「日本人はニシンと卵が好きだ」と誤ってポーランドに伝わったため、ニシンと卵をあわせた料理が「日本風」と呼ばれるようになった。

英語でニシンの燻製(Red herring)は、注意をそらすもの、偽の手がかりという意味がある。これは燻製が強い臭いを発して、猟犬が獲物の通り道を間違えたり、見失ってしまうことによる(燻製ニシンの虚偽)。

北アメリカ[編集]

北米ネイティブ・アメリカン、クリンギット族は、日本のニシンと生物学的には同種にあたる太平洋ニシン (Clupea pallasii) を利用し、ハリング・クランとよばれるニシンをトーテムとして崇めるグループもある。

歴史[編集]

かつての日本では、乾物の身欠きニシン40(約150キロ)を1石と計測していた。生魚の場合には、身欠きニシン40貫に必要な200貫を1石と換算している。この石高換算は、松前藩の石高には反映されていないが、各地に千石場所といったニシン漁の盛んであったことを示す呼び名として残った。北海道のニシン漁の漁獲量は1897年にピークを迎え、130万石(約97万5千トン)を記録した。これは個体数で換算すると30億尾から40億尾と見込まれている[11]

文芸[編集]

参考画像[編集]

脚注[編集]

  1. ^ a b c 大河内裕之、中川雅弘:北海道噴火湾周辺海域で漁獲されるニシンの系群構造 日本水産学会誌 Vol.78 (2012) No.1 P8-14
  2. ^ a b c d 内島立郎:北海道沿岸のニシン漁の変せんと気候変動 農業気象 Vol.41 (1985-1986) No.4 P386-387
  3. ^ 宮古湾で産卵を終えたニシンの回遊生態と翌年の産卵回帰 日本水産学会誌 Vol.74 (2008) No.3 P389-394
  4. ^ 北海道噴火湾周辺海域で漁獲されるニシンの系群構造 日本水産学会誌 Vol.78 (2012) No.1 P8-14
  5. ^ a b c d 「魚はどこに消えた?」 急がれる資源管理 北海道から消えたニシンは何処にいった?、片野歩(マルハニチロ水産)、WEDGE2012年7月19日配信、同日閲覧
  6. ^ 北海道西岸における世紀の沿岸水温およびニシン漁獲量の変遷 北海道立水産試験場研究報告 (62), 41-55, 2002-03
  7. ^ ニシン:種苗放流の考え方〜生態的知見を基礎とした資源増殖の試み〜 日本水産学会誌 Vol.76 (2010) No.2 P252-253
  8. ^ 増えたニシンを管理する(石狩湾系ニシン) 地方独立行政法人 北海道立総合研究機構
  9. ^ 北海道における海岸林造成に関する基礎的研究 北海道林業試験場研究報告第23号
  10. ^ “オランダで「ニシンの酢漬け」初競り、45匹に史上最高値940万円”. AFPBB News (フランス通信社). (2012年6月9日). http://www.afpbb.com/article/life-culture/life/2882430/9067253?ctm_campaign=txt_topics 2012年6月10日閲覧。 
  11. ^ 吟醸百選2007-2008(佐藤水産パンフレットp22)

関連項目[編集]

外部リンク[編集]