昆虫食

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昆虫食(こんちゅうしょく、英語 Entomophagy、Insect eating )とは、イナゴの子など、昆虫を食料として食べることである。幼虫(さなぎ)を食べる事が比較的多いが、成虫も対象とされる。世界で食用にされる昆虫の種類を細かく集計すると1,200種にものぼるといわれる。

野生動物においては、アリクイセンザンコウなど、昆虫食が専門の動物のみならず、キツネタヌキ霊長類などの雑食性の動物においても昆虫は常に食べられている。

目次

[編集] 概要

市場で売られる食用昆虫。イナゴ、竹虫、蛹、コオロギ、サソリ、ゲンゴロウ、タガメ。(タイバンコク市内)

人間は世界中で昆虫食を行っており、中国には紀元前10世紀周代の書『周礼』にアリで客をもてなした記録、ヨーロッパにおいても古代ギリシャや古代ローマセミなどを食べたという記録が残っている。アフリカ諸国、南米アマゾンメキシコメラネシアなどの熱帯亜熱帯地域などの多くの地域で常食されている。アフリカ北部などでは、しばしばサバクトビバッタが大発生し、農作物を食い尽くす被害をもたらすが、こういう場合には、農作物の代わりにサバクトビバッタを緊急食料として食べ、飢饉の軽減が行われる。また、アジアにおいてもラオスベトナムタイ中国タガメを食べたり、中国、東南アジアなどでセミを食べたりするように、一部の民族、または民族集団の一部が食べる例がある。日本においても同様で、現代日本人の多くは日常的には昆虫食をしていないが、群馬県長野県宮崎県沖縄県等の一部地域において、地方の食文化として現存しており、また、土産物などとしても売られている。

現代社会では、一部地域、民族を除いて共通的、日常的には昆虫は食べられていないが、これは人口の大部分が昆虫から充分な栄養分をまかなえるだけの供給機構が構築されていないことと、他の食材が豊富となったためと考えられる。日常的な昆虫食が貧困の象徴や時代遅れの習慣と考えられていたり、ユダヤ教キリスト教セブンスデー・アドベンチスト教会など特定の宗教・宗派によっては特定の種類の昆虫がタブーとされている場合もある。しかし、近年では地域固有の食文化として積極的に見直されている例もある。タイの都市部では、調理済みの昆虫を屋台やレストランで観光客や都市部の住民に売っている光景がしばしば見られる。中国では、昔の質素な食事を再現した都市部のレストランで昆虫がメニューにのっていることがよくある。

栄養学的には、例えばの蛹や幼虫では、乾燥重量の50%以上がタンパク質であることも普通であり、ミネラル類にも富み、加熱することで雑菌等の問題もなくなるので、食品として摂取する事になんら問題はないと考えられる。生態学的に見ると、昆虫が食べた植物のエネルギーを体質量(ボディマス)に変換する二次生産の効率は平均40%で、魚類の10%や恒温動物の1〜3%に比べ非常に優れているため、昆虫類は生態学的および経済的に効率の良い動物性蛋白質の供給源となりうる。ただし、農地周辺から昆虫を採って食べる場合は、農作物を育てる過程で使用する農薬が昆虫に残留、蓄積している可能性があるため、健康への害に留意すべきである。

蜂の巣とはちみつ

加工食品などに使われる着色料光沢剤などの添加物に昆虫由来の成分が使われている場合もある。昆虫由来の着色料の中では、カイガラムシの一種エンジムシから採れる赤紫色のコチニール色素が最も有名である。はちみつはおそらく最も有名な昆虫由来の食品であり、はちのこは高級珍味として食される。

昆虫の中には、各種の寄生虫を持つ例もあり、また雑菌を保有していることも考えられるため、生食するのは他の動物同様それなりに危険である。ただし、昆虫を中間宿主とし、ヒトを終宿主とする寄生虫は知られていない。これはまた、昆虫食がヒトの食として恒久的かつ安定に存在していなかったことを意味するのかも知れない。

このほか、アリ、蛾の幼虫、ゴキブリ、昆虫ではないがサソリムカデなどを、蒸留酒に付けて、酒に溶け込んだ成分を飲む例もある。

[編集] 食用にされる主な昆虫と常食する地域

[編集] カメムシ目

油で揚げたタイワンタガメ、タイ
  • タガメ
    主にタイワンタガメなどの大型の種を用いる。タイワンタガメの雄の成虫にはキンモクセイにも似た芳香があり、珍重される。ベトナムタイ(メーンダーと呼ぶ)、中国広東省(桂花蝉 クワイファーシムと呼ぶ)、台湾(田龜 ティエングイと呼ぶ)など。タイでは、魚醤の香り付けに使われる例もある。
  • カメムシ
    ラオスで、そのままや炒め物、素揚げで食べる。南アフリカ共和国では、茹でて食べる。
  • セミ
    中国河南省山東省雲南省などや東南アジア、日本の沖縄県などではセミ成虫幼虫を食べる例がある。河南省では主に土からでたばかりの、羽化前の終齢幼虫(セミは蛹にならない不完全変態である)を捕まえて、素揚げにして塩を振って食べる。山東省では、河南省と同様の方法の他、羽化前の終齢幼虫を煮付けにしたり、揚げたり、炒めたりして食べる。雲南省のプーラン族は夕方に弱ったセミの成虫を拾い集め、ゆでて羽根を取り、蒸してからすりつぶして、セミ味噌を作って食用にする。このセミ味噌には腫れを抑える薬としての作用もあるという。アメリカ合衆国でもジュウシチネンゼミが大発生する年には、縁起物として成虫を揚げて食べる人が少なくない[要出典]。日本の長野県にある園芸試験場で、アブラゼミの幼虫を缶詰にしたものを試作したことがある[1]

[編集] コウチュウ目

ミールワーム - ゴミムシダマシの幼虫
  • ゴミムシダマシ
    幼虫(ミールワーム)は小鳥の餌にされるが、これを入れたキャンディーがアメリカ合衆国などで作られている。ただし、ゲテモノとして罰ゲーム的な食べ方をすることが多い。中国雲南省では、「竹虫」の代用品として、幼虫を素揚げし、塩をまぶして販売している。
  • カミキリムシ
    シロシジカミキリやゴマダラカミキリの幼虫は木の内部に穴をあけて育つ。薪などを割っている際にこの虫の幼虫が発見されることがあり、世界各地で食べられている。美味とされ、紀元前後のローマでは食用に小麦粉で養殖していた(『博物誌』)。日本でも林業・農業地域などでは、焚き火などで焼いて食べることがある。テッポウムシという。オーストラリアではウィッチェティ・グラブの一種とされる。

[編集] チョウ目

油で揚げたカイコガもしくはスズメガの蛹、タイ
ウィッチェティ・グラブ
油で揚げた竹虫、タイ
干したモパネワーム
  • カイコガ
    生糸生産の副産物である蛹を揚げたり、煮付けにする事が多い。韓国ポンテギと呼び、缶詰もよく売られている)、中国山東省(蚕蛹 ツァンヨンと呼ぶ)、広東省など(蚕蛹 ツァームヨンと呼ぶ)。日本でも長野県群馬県などの養蚕地域で行われていた。佃煮は今でも販売されており、コクがありまろやかな味。
  • ヤママユガ
    南部アフリカではヤママユガ科モパネガ(Gonimbrasia belina)の幼虫をモパネワームと呼んで食用にする。幼虫を捕まえて腸管の中身を抜いてから干したり、燻製にする他、缶詰にも加工される。加工したモパネワームはそのまま食べる他、かりっと油で揚げたり、水で戻してからタマネギやトマトと一緒に調理することもある。 中国では、サクサンをカイコガのように絹糸を取るために飼育しており、蛹は「柞蚕蛹」(ジャーツァンヨン)と呼ばれ、北京を含む華北地方で食用にされる。
  • スズメガ
    中国山東省では、トビイロスズメ(豆天蛾、ドウティエンオー)の幼虫を「豆蚒」(ドウダン)や「豆虫」(ドウチョン)と呼んで、幼虫を食べる。無農薬栽培大豆畑で採集する。江蘇省では、1ヘクタール当たり300kgも取れ、市場で売ると数千人民元の売上げになる例もあるという。
  • ボクトウガの幼虫、ヤガの幼虫
    オーストラリアアボリジニはウィッチェティ・グラブ(Witchetty grub)と総称する芋虫のひとつとして食べ、貴重なタンパク源としている。潅木の根元から掘り起こされ、そのまま木を燃やした灰の中に放り込み、蒸し焼きにして食べる。
    ヤガの幼虫はボゴン・モス(英語 Bogong moth)と呼ばれ、大量に採れる時期、場所があるので重宝される。
  • コウモリガ
    オーストラリアのアボリジニはウィッチェティ・グラブの一種として食べている。
    フユムシナツクサタケが寄生した状態の冬虫夏草としては、中国青海省四川省雲南省朝鮮半島などで獲られ、干してからアヒルなどと煮込んで食べられている。ただし、外観こそ「蛾の幼虫にキノコが生えたもの」であるが、内部は菌体のつまったものであり、正確には昆虫とはいいがたい。漢方薬としても利用され、抽出したエキスが健康ドリンクなどにも用いられている。
  • ツトガメイガ
    中国雲南省、タイ北部などで、竹の中に棲む幼虫を「竹虫」(ジューチョン)、「ロッドゥアン」、蛹を「竹蛹」(ジューヨン)と呼んで食用にする。塩水で下味をつけて、炒めたり、揚げたりする。

[編集] ハチ目

ミツツボアリ
  • ハチ
    スズメバチなどの幼虫を生で、成虫を佃煮などの煮付けで食べる。日本では長野県宮崎県で行われている(はちのこを参照)。また、成虫を素揚げにして塩をまぶしたものを中国雲南省などで食べる。
  • アリ
    成虫を食用、薬用に用いる。中国の薬膳料理に、揚げ胡麻団子ならぬ、揚げアリ団子がある。タイラオスなどの東南アジアでは、成虫と蛹(しばしば卵と呼ばれている)を用いた、アリのスープがある。メキシコでは、アリでサルサを作る。蟻酸を持つので、酸味がある。また、強心効果があるといわれている。
  • ツムギアリ
    植物の葉で樹上に巣を作るので、取りやすく、タイ北部では幼虫、蛹、成虫の区別なく、同時に生で食べるが、その方が甘酸っぱい味の調和がとれるという。
  • ミツツボアリ
    働きアリは前腸に蜜を蓄える性質があり、オーストラリアアボリジニが菓子代わりに腹部のみを噛みちぎって食べる。

[編集] バッタ目

チャプリネス - 油で揚げたイナゴ、メキシコ
  • イナゴ
    大量に取りやすいため、日本を含む各国で食用にされている。日本ではコバネイナゴが多い。日本では佃煮にすることが多いが、中国やタイでは素揚げが多い。中国雲南省のケラオ族ハニ族は、初夏に総出で稲田に出、イナゴやバッタを捕まえて食べ、五穀豊穣を祈る祭りを行っている。古代メソポタミアではイナゴやバッタで魚醤に似た醗酵調味料を作っていた。新約聖書では洗礼者ヨハネが常食したという記述があり(イナゴマメの果実キャロブであるとする説もある)、ユダヤ教の教義では、イナゴを含むバッタ類を昆虫の中では唯一不浄でない生き物としている。
  • バッタ
    大型の種がいる地域では、イナゴ同様に、食用にされる。
  • コオロギ
    中国で「蟋蟀」(シーシュワイ)というが、北京ではコオロギを決闘させる遊びがあり、養殖も盛んであるが、素揚げにして出す店がある。タイ北部やカンボジアではタイワンオオコオロギ(タイ語でジロー・トートと呼ぶ)などの炒め物が食べられている。
  • ケラ
    中国雲南省からタイ北部にかけて、コオロギなどと共に食べられている。

[編集] その他

カース・マルツゥ
  • カワゲラトビケラ
    日本の長野県伊那谷地方の一部で、佃煮にしたものを「ざざむし」と呼び、珍重されている。
  • ヘビトンボ
    日本の宮城県白石市斎川で採取されるヘビトンボの幼虫が孫太郎虫として、かつては全国的に販売されていた。
  • シロアリ
    中国雲南省からタイ北部にかけて食べられている。中国では、ハマグリの肉にシロアリの塩辛を添えたものを蜃蚳醢といい、祭祀の供物、王室の御料とした。ハチミツ漬けも珍重される。
酒のつまみのグサノス・デル・マゲイ(リュウゼツランにつくガやゾウムシの幼虫)、メキシコ
  • ゴキブリ
    ほぼ世界全域で食用・薬用に利用され、調理法も多岐にわたる。ただし近年は清潔な環境下で養殖したものを用いることが殆ど。
油で揚げたタランチュラ、カンボジア
  • 広義の虫ではあるが昆虫ではないもの
    • サソリの素揚げは、中国山東省の他、北京など広い地域で食べられているため、中国では養殖も盛んである。タイでもよく見られる。
    • ムカデの素揚げも中国北京などで出す店がある。
    • クモは捕獲しやすく、昆虫に比して外皮が柔らかく比較的美味と言われ、カンボジアなどで食用にされる。タランチュラカニに似た味がするという(ただし剛毛が生えており、種によっては刺激毛を持ち皮膚などに付着するとかぶれることがあるため、バーナー等で毛を焼く必要がある)。チョコレートに似た味とする書物もあるが実食によると誤りという。

[編集] 動物の場合

ほ乳類や鳥類で昆虫を食べるものを昆虫食という。昆虫は最も種類の多い動物であり、陸上の生物群集においては優占的に存在するから、それを食料とすることに何の不思議もない。タヌキなどは昆虫をよく食べることが知られるが、これは様々な食料の内の一つ、と言う位置づけである。このような形で昆虫を食べるものは多い。より専門的に昆虫を食べるものの場合、様々な独特の適応が見られる例も多い。中にはアリクイのように限られた対象を餌とし、特殊な適応を見せるものもある。


[編集] 関連項目

ウィキメディア・コモンズ

[編集] 参考文献

[編集] 脚注

  1. ^ 『虫を食べる文化誌』118頁

[編集] 外部リンク