カース・マルツゥ

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カース・マルツゥ

カース・マルツゥカース・マルツカス・マルズ (casu marzu) 、カッチョ・マルチョは、イタリアサルデーニャチーズの一種。別名カース・モッデ(casu modde)、カース・クンディードゥ(casu cundídu)、もしくはイタリア語フォルマッジョ・マルチョ (formaggio marcio) とも呼ばれる。その特徴は生きたが入っていることである。

カース・マルツはサルデーニャ語で「腐ったチーズ」を意味する。日常会話ではうじ虫チーズ、虫入りチーズとして知られている。イタリア語とは異なるサルデーニャ語の発音のため、日本語での表記ゆれが激しく、片仮名表記がいくつも混在している。

概説[編集]

  • 原産国 - イタリア
  • 原産地 - サルデーニャ
  • 原料乳 - 羊
  • 殺菌 - 無し
  • 食感 - 軟らかい
  • 熟成期間 - 3ヶ月
  • 認証 - 無し

元はペコリーノ・サルドというチーズである。カース・マルツゥの熟成はチーズバエ英語版の代表種Piophila caseiの幼虫の摂食に伴う体外消化により通常の発酵を超え、知らない者が見れば腐敗と思う段階まで進む。製造段階で意図的に成虫に卵を産み付けさせるため、ペコリーノにこの幼虫がつく[1][2]

チーズバエの活動は、高レベルの発酵とチーズの脂肪の分解を促進する[3]。チーズは非常に柔らかくなり、サルデーニャ語で「涙」を意味するラグリマ(lagrima)と呼ばれる若干の液体がにじみ出す。幼虫それ自身は、長さおよそ8ミリメートル程の半透明の白い虫である[1]。虫に触ると最高で15センチメートルほど飛び跳ねるため、チーズを食べるときは目を保護することが推奨される。食べる前にチーズの幼虫を取り除く人も、幼虫ごと食べる人もいる。

外見と味[編集]

ウォールストリート・ジャーナル』の2000年8月23日版でヤロスラウ・トロフィモフはこのチーズを次のように描写している。

舌をひりひりさせ、体の他の部分にも影響を与えるかもしれない、粘着性で刺激性のネトネトした物体[4]

スーザン・ハーマン・ルーミスは2002年にグルメ雑誌 Bon Appétit でカース・マルツゥとの遭遇を次のように報告している。

彼は……サルデーニャの伝統的な平パンパーネ・カラザウを一枚つかんで、柔らかくするために軽く湿らせてから、サイドテーブルの上の大きいガラス容器のところに行った。彼は容器を開けて、濃厚なクリームのように見えた何かの塊をすくい取り、パンにはさんだ。彼が食べ終わったあと、私は何を食べたのか彼に尋ねた。すると彼は私を見せるために立ち上がった。容器の内部にあったのは小さい白い虫が動き回っているペコリーノだった。このチーズについて噂を聞いたことはあったが、こんなに近づいたのはこれが初めてだった。彼の友人の曰く、「これがフォルマッジョ・マルチョ(腐ったチーズ)、虫入りチーズだ。これは珍味で、サルデーニャ人の羊飼いに贈るなら最も素敵な贈り物だ。」

このチーズはサルデーニャのパン(パーネ・カラザウ)と強い赤ワインであるカンノナウイタリア語版と一緒に食べるのが一般的である[3][5]

危険性[編集]

カース・マルツゥについてはいくつかの食品安全問題が提起された。

  • アレルギー反応を起こすらしいという伝聞報告。
  • 有毒な状態まで進んでいる腐敗の危険。 - サルジニア人の間の俗説によると、まだ生きている幼虫が存在するならば腐敗はしていない証拠であると言われる。
  • 蛆の腸内寄生の危険。 - Piophila casei の幼虫は通常、人間の胃酸では殺せず、生きたまま胃を通り過ぎて腸に一定期間住み着くことができる。そこでそれらが腸壁に穴を掘ろうとするので、重大な障害を起こすことがある。この徴候は吐き気、嘔吐、腹痛、出血性の下痢などである。

これらの健康障害の恐れがあり、また単に汚染された食品であると見なされているため、欧州連合の食品規制上、カース・マルツゥを売るのは違法である[6] 。しかし、サルデーニャの中では禁令はあまり守られておらず、闇市ではペコリーノのおよそ3倍の価格で取り引きされている[7]

他の地域での呼称[編集]

イタリアの他の地域にも、次のような生きた昆虫の幼虫を含むチーズが知られている[8][9][10]

ピエモンテ州、特にフランス国境のアルプス山脈(海のアルプス)では、発酵方法は必ずしもカース・マルツゥに類似しているとは限らない。例えば、 Piophila casei の幼虫がチーズに自然に湧くまでチーズを戸外に放置し、それから、チーズに強い味を付け、また幼虫が羽化するのを防ぐために、白ワインブドウ蜂蜜に漬けて熟成させる。

脚注[編集]

  1. ^ a b Berenbaum, May R (1993). Ninety-Nine More Maggots, Mites, and Munchers. University of Illinois Press. pp. 10–14. ISBN 0-252-06322-8. 
  2. ^ Stephens, Andrew (2008年8月30日). “Top five ... challenging foods; eat, drink, cook ... and be merry”. The Age: p. A2  Under "Casu marzu"
  3. ^ a b Overstreet, Robin M (December 2003). “Presidential Address: Flavor Buds and Other Delights”. Journal of Parasitology (Halifax, Nova Scotia, Canada: American Society of Parasitologists) 89 (6): 1093–1107. doi:10.1645/GE-236. PMID 14740894. http://www.bioone.org/perlserv/?request=get-document&doi=10.1645%2FGE-236&ct=1 2008年10月6日閲覧。.  Under the "Botflies and other insects" section.
  4. ^ ウォールストリート・ジャーナルよりヤロスラウ・トロフィモフのカース・マルツについての記事抜粋
  5. ^ Loomis, Susan Herrmann (2002年5月). “Sardinia, Italy”. Bon Appétit. 2006年4月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年10月8日閲覧。
  6. ^ Frauenfelder, Mark (2005). “Most Rotten Cheese”. The World's Worst: A Guide to the Most Disgusting, Hideous, Inept, and Dangerous People, Places, and Things on Earth. Chronicle Books. pp. 22–23. ISBN 978-0-8118-4606-6. 
  7. ^ Trofimov, Yaroslav (23 October 2000). “As a Cheese Turns, So Turns This Tale Of Many a Maggot --- Crawling With Worms and Illicit, Sardinia's Ripe Pecorinos Fly In the Face of Edible Reason”. Wall Street Journal (Eastern Edition) 236 (37): A1. ISSN 00999660. 
  8. ^ Comuni italiani. “Cacie' punt”. www.comuni-italiani.it. 2011年4月30日閲覧。
  9. ^ Prodotti tipici. “Formaggio saltarello (PDF)”. www.prodottitipici.com. prodottitipici.com. 2011年4月30日閲覧。
  10. ^ Prodotti tipici. “Pecorino marcetto (PDF)”. www.prodottitipici.com. prodottitipici.com. 2011年4月30日閲覧。
  11. ^ In questo sito si parla del cace fraceche ossia il cacio Marcetto
  12. ^ Notizie sul formaggio Salterello
  13. ^ Robiola, furmai nis”. 2014年3月7日閲覧。
  14. ^ Casu du quagghiu”. 2014年3月7日閲覧。
  15. ^ Cacie' punt”. 2014年3月7日閲覧。

関連項目[編集]

  • ミルベンケーゼ - ドイツ国ヴュルヒヴィッツの特産チーズ。生きたチーズダニを使って発酵させる。
  • ミモレット - フランス国リールのチーズ。チーズダニの活動で熟成させる。
  • 富井政章 - 蛆の湧いたチーズを好んで食したが、蛆は掻き分け、蛆ごと食すことはなかった。

参考文献[編集]