風評被害

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風評被害(ふうひょうひがい)とは、風評によって、経済的被害を受けること[1]。狭義として「報道被害」もこれの一部にあたる。

概説[編集]

基本的には、の中でも、正確に事実や正確な情報を伝えていない噂が広まったことで、被害を蒙ったと考えられる場合に、その被害や一連の事象を呼ぶためにもちいている呼称である[2]。それが転じて、たとえ情報が正確であっても、当事者にとって都合の悪い情報であった時には、その情報の不正確性を主張するプロパガンダ目的のためにも使用される。

正確な情報を積極的に公表しなかったり隠蔽したりすると、結果としてこのような被害が生じることになる。学識者によって、人というのは情報が不足したり隠された時には、不安を感じ身を守ろうと慎重な行動を取るようになるのであり、それは当然のことであり、極めて正常な人間の社会活動、と指摘されている(後述)。不正確な噂がひとり歩きをするのは、基本的に、正確な情報が公表されていないときである。情報を不十分にしか公表しなかったり、情報を隠蔽したり、(時には改ざんしたり)するような行為が、人々にとっての正常な反応・社会活動を引き起こし結果が出ているわけなので、風評被害を防ぐには、消費者やユーザーの立場に立ってものごとを見つめ直し、正直で正確な情報を十分に集めそれを積極的に公表するのが賢い方法だということになる。

なお、上述の定義に合致しない事象に対しても「風評被害」という語が用いられることがあり、本項では風評被害として報道等がなされた事象全般について概説する。

対策[編集]

2000年6月、産業廃棄物の処理・溶融施設を持つ直島町において「風評被害対策条例」が設けられた。同町において事業を営むものが風評により経済的被害を受けた場合は、当該被害の範囲内で風評被害対策給付金を支給するとされている。

2011年公正取引委員会が、東日本大震災に伴い、実害(のうち主として独占禁止法関連の事象)と共に風評被害の一部についても下請法を根拠に対処に当たった[3]

インターネットへの書き込みによる被害について、風評被害の一つと位置づけ、対策のサービスを行うとしている弁護士法人がある。

また、経済産業省の医療機器分野の研究会において、風評被害が製造物責任法と共に、製造者にかかるリスク・コストの一つとして検討された事例がある[4]

言説[編集]

内閣府原子力委員会専門委員を務めた中部大学教授の武田邦彦は、福島第一原子力発電所事故を例に挙げ、「NHKが政府のコメントとして「この程度の放射線であれば大丈夫である」といった旨の紹介の報道を何度もやっており、また政府のコメントだけでなくアナウンサー自ら「安全である」と繰り返している。更には、福島県の海から規制値1250倍の放射性ヨウ素を検出した時に「ただちに健康への影響はない」という保安院のコメントのみ紹介している[5][6]。こういった事例から風評被害は正しい情報を伝えないことによって起きる」と結論付けている。具体的な理由としては情報が不完全な場合には人間の性質上自分の身の安全を守ろうとする際余計に不安になって慎重な行動を取るようになるからである。そして、風評被害を悪いこととしている風潮に対しても情報が不足した際に起こる「正常な人間の社会活動」であるとし、風評被害をなくすには「正確な情報を提供する」必要があると説いている[7]

事実ではないデマによるものではなく、商品が実害を被った場合、正しい情報を元に自己判断によって不買を決めた場合は風評被害ではないとする主張がある[8]

それに関して、磯山友幸が2011年05月25日の現代ビジネスにおいて、「消費者が買わないのは『風評被害』ではない。『健康被害よりパニックが怖い』という政府が信用できないからだ」と述べている。

風評被害とされた事例[編集]

1983年以前[編集]

1984年[編集]

  • 辛子蓮根による集団食中毒事件が発生、36名が中毒症状を起こし、内11名が死亡した。食中毒を発生させた辛子蓮根製造業者の株式会社三香のずさんな衛生管理が原因だったのだが、連日の報道により全く無関係の辛子蓮根製造業者までも風評被害を受け、休業・廃業に追い込まれるなど、辛子蓮根業界全体は多大な影響を受けた。

1985年[編集]

1993年[編集]

  • 1993年米騒動にて、日本側の要請(古米・古古米)にて緊急輸入したタイ米について「臭くてまずい」「ネズミの屍骸が発見された」などの偏向報道が強調された。官民あげての風評被害であり国際問題となった。

1995年[編集]

1996年[編集]

  • 堺市学校給食による学童のO157集団感染により死者3名が発生した事件で、「原因食材としてカイワレ大根が疑われる」という厚生省(現・厚生労働省)の中間発表(疫学調査によりカイワレが有意となった)により、カイワレ業界が壊滅的な打撃を受け、中には自殺する農家もいた。この事件以降、カイワレ大根の保管には新たに規定が設けられた。くわしくはO157の項目も参照のこと。

1997年[編集]

  • ナホトカ号重油流出事故によって、日本海沿岸の海洋が広範囲に亘り汚染された。これにより、カニシーズンを迎えていた加賀若狭北近畿山陰の各観光地で予約客のキャンセルが相次いだ。カニは海底に棲息するので重油被害を受けることはほとんどなく、また事故以前に水揚げされたものや、冷凍品のストック、その他の産地より直送されたものもあったため、事故とは無関係であると漁協や旅館組合が盛んに安全性をPRしたが、風評被害は免れず、一帯の観光客入り数は例年の半分以下に激減した。

1999年[編集]

2001年[編集]

  • アメリカ同時多発テロ事件の影響により、沖縄旅行を取り止めた人は、平成13年度末までで、修学旅行17万人、一般旅行5万人、合計22万人と言われている[9]。特に修学旅行の中止が多いのは、文部科学省が9月28日付けで各都道府県教育委員会に送付した「海外修学旅行先では米軍施設に近寄らないように」という内容の通達がきっかけである。これを受けた一部の教育委員会が、地域の公立校へ情報を転送する際「米軍基地がある韓国や沖縄への修学旅行は特に注意するように」という情報を追加したため、キャンセルが相次いだ[10]。10月10日、この事態を受けた観光業界団体が文部科学省初等中等教育局へ抗議を行なった結果、あらためて、沖縄への修学旅行を予定通り実施することと、海外への修学旅行の中止に伴う代理地として沖縄を検討することを薦める通達が出された[11]

2003年[編集]

2004年[編集]

2005年[編集]

  • 3月22日、カリフォルニア州の女が、ファーストフード店「ウェンディーズ」の料理の中に『人間の指が入っていた』と訴え、メディアの報道が過熱した。調査の結果、この女は過去にも他店に対して同様の訴訟を起こしており、この事件も産業事故で失った知人の指を女自らが混入させたものと判明。女は逮捕されたが、「ウェンディーズ」は風評被害により約250万ドルの経済損失が出た。
  • 韓国キムチの寄生虫問題により、無関係な日本国内産キムチの売り上げが減少した(「キムチ#事件」を参照のこと)。

2006年[編集]

  • 1月3日、平成18年豪雪により、新潟県湯沢町の有名スキー場など3か所で雪崩が起きた。翌々日には一部のリフトを除いて営業を再開したが、報道により「湯沢町全体のスキー場が全部危険である」という印象が広まり、安全が確認されているスキー場にも予約のキャンセルが相次いだ[12]

2008年[編集]

  • 6月14日に発生した「岩手・宮城内陸地震」において、大崎市では一部地域に被害が集中したが、不適切な報道により「大崎市全体が危険である」との印象がもたれ、被害が軽微だった鳴子温泉郷でも観光客のキャンセルが相次いだ[13]

2010年[編集]

  • 3月26日に宮崎県で発生した口蹄疫の流行(2010年日本における口蹄疫の流行を参照)において、徹底した消毒を行っているにも関わらず宮崎ナンバーであると言う事で宮崎県内の運送業が県外での積荷の受け取りを拒否される。

2011年[編集]

  • 3月11日に発生した東日本大震災を発端とした福島第一原子力発電所事故が原因で、避難民が放射能検査を要請される[14]、タクシーへの乗車を拒否される[15]いじめに遭う[16]などのケースが発生。同様に工業製品への風評被害も存在する[17][18]ほか、被曝を恐れてトラックドライバーが(原発事故とは無縁の)被災地に入ろうとせず結果として救援物資が被災者に行き渡らないというケースがおきた。[19]また風評被害を受けたとする住民やケアセンターの従業員の苦悩ぶりが報道番組などより明らかとなり放送されたケースもある[20]。更には農作物への風評被害があったとの主張もある[21]
  • 5月にドイツ北部を中心に起きている腸管出血性大腸菌感染事件で5月26日、ハンブルク市当局により、感染源がスペイン産のキュウリであると発表された後、その後キュウリが原因ではなかったと発表された[22]。これによる風評被害に対してホセ・ルイス・ロドリゲス・サパテロスペイン首相などは損害賠償を請求する意向を示しており[23]、ドイツのアンゲラ・メルケル首相はEUが財政支援を行うと述べている[24]

脚注[編集]

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  1. ^ 広辞苑第六版,「風評被害」
  2. ^ 注 : ただし、実際に問題のある製品・サービスが消費者やユーザに買ってもらえないことは、学術的には基本的に「風評被害」とは言わない。単に、品質相応の扱いを受けたということで、特に「被害」には当たらず、むしろ品質相応の(妥当な)扱いを受けた、ということになる。たとえば、ある工業製品 Aの実際に不良品率が60%と異常に高かった場合に、ユーザーの間で「Aは不良品率が高く、60%くらいが不良のようだ」という的確な情報・噂が広まり、その結果としてAが買われなくなった場合は、学術的には「風評被害」とは言いがたいものであり、単に「不良製品が(相応の扱いを受け)市場で淘汰された」ということにすぎない。時として、生産者側は、こうしたことまでも「風評被害」と騒ぎ立てることがあるが、学術的に見れば正しくない。学術的に見れば、不良品率が5%であったのにもかかわらず「不良品率が60%らしい」などと噂され売り上げが激減したようなケースは風評被害と呼んでよい。
  3. ^ 東日本大震災に伴う公正取引委員会の対応 (PDF)”. 公正取引委員会. p. 14 (2012年3月13日). 2013年1月12日閲覧。
  4. ^ 医療機器分野への参入・部材供給の活性化に向けた研究会(第3回)-配付資料”. 経済産業省. 2013年1月12日閲覧。
  5. ^ MSN 「ただちに健康に影響せず」 海水1250倍放射性ヨウ素検出で原子力安全委
  6. ^ 福島原発、放水口付近の海水から3355倍のヨウ素検出 一度は減少も再上昇
  7. ^ 原発 緊急情報(46) 「風評被害」を学ぶ
  8. ^ ロケットニュース 「風評被害」の使い方を間違っている人が多すぎる (ロケットニュース 2011年4月22日。)
  9. ^ 社団法人日本旅行業協会「平成13年度事業報告」
  10. ^ 朝日新聞9月29日付夕刊「修学旅行、沖縄敬遠-文部省通知、自粛を招く」
  11. ^ 13文科初第六八二号「米国における同時多発テロ後の状況を踏まえた沖縄県への修学旅行の実施について」(各都道府県教育委員会教育長各都道府県知事あて)
  12. ^ ほっとほくりく「平成18年豪雪特集」被災地からの声-新潟県湯沢町長
  13. ^ 大崎市議会の「平成20年  岩手・宮城内陸地震災害対策調査特別委員会」(2008年7月14日開催)によれば、695549000円と試算されている。また、7月9日には同市の市長である伊藤康志が気象庁を訪れ、地震の名称変更を申し入れている。岩手・宮城地震:地震名変更を…大崎市長が風評被害指摘(市長の写真のみ、記事はリンク切れ)
  14. ^ 原発避難者に放射線検査を要請 つくば市長、配慮不足は陳謝”. 47NEWS (2011年4月19日). 2011年5月16日閲覧。
  15. ^ 屋外活動制限 子どもを守れるのか”. 信濃毎日新聞 (2011年4月21日). 2011年5月16日閲覧。
  16. ^ 福島ナンバー拒否、教室で陰口…風評被害に苦悩”. YOMIURI ONLINE (2011年4月21日). 2011年5月16日閲覧。
  17. ^ 【放射能漏れ】工業製品の放射能測定開始 宮城、風評被害対策で”. MSN産経ニュース (2011年4月16日). 2011年5月16日閲覧。
  18. ^ 【【韓国BBS】日産キューブ、どう思う?「かわいいけど日本車…」”. Searchina (2011年8月10日). 2011年8月22日閲覧。同車が欲しいが放射能汚染が心配」と言う旨の書き込みが掲載されている。
  19. ^ 深刻風評被害、福島へガソリン輸送拒否 (1/2ページ)”. SANSPO.COM (2011年3月17日). 2011年5月16日閲覧。
  20. ^ テレビ朝日放送 スーパーモーニング3月21日放送分より
  21. ^ 【プレスリリース】風評被害に負けるな !「野菜を食べて農家・農業を応援しよう!」―応援イベントのご案内―”. JA全中 (2011年4月6日). 2011年5月16日閲覧。
  22. ^ “週234億円の損失 震える欧州「O104」風評被害も猛威 2/2”. (2011年6月2日). http://sankei.jp.msn.com/world/news/110602/erp11060210030003-n2.htm 
  23. ^ “欧州で大腸菌O104感染拡大、計18人死亡 独で発生”. 朝日新聞. (2011年6月2日). http://www.asahi.com/international/update/0602/TKY201106020652.html 
  24. ^ “ドイツ、O104のうわさでスペインに陳謝-EU財政援助を申し出”. アイビータイムズ英語版. (2011年6月3日). http://jp.ibtimes.com/articles/19279/20110603/76992.htm 

関連項目[編集]

関連書籍[編集]

  • 関谷直也『風評被害―そのメカニズムを考える』(光文社新書)2011年5月。ISBN 978-4334036249
  • 永峰英太郎・河岸宏和『日本の農業は“風評被害”に負けない』 (アスキー新書) 2011年6月。 ISBN 978-4048707008

外部リンク[編集]