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(かみ)とは、植物などの繊維を絡ませながら薄く平(たいら)に成形したもの。日本工業規格 (JIS) では、「植物繊維その他の繊維を膠着させて製造したもの」と定義されている[1]

白紙

概要[編集]

広義の紙は、直径100マイクロメートル以下の細長い繊維状であれば、鉱物金属動物由来の物質、または合成樹脂など、ほぼあらゆる種類の原料を用いて作ることができる[2]。例えば、不織布は紙の一種として分類されることもある。しかし一般には、紙は植物繊維を原料にしているものを指す[2]。製法からも、一般的な水に分散させてから簀の子の上に広げ、脱水乾燥工程を経て作られるもの以外に、水を使用しない乾式で製造したものも含まれる。

紙の用途は様々で、原初の紙は単純に包むための包装用に使われた[3]。やがて筆記可能な紙が開発され、パピルス羊皮紙またはシュロ木簡貝葉などに取って代わり情報の記録・伝達を担う媒体として重宝された[3]

やがて製法に工夫がこらされ、日本では和紙の技術確立とともに発展し、江戸時代には和傘提灯扇子など建築工芸材料にも用途を広げた[4]西洋では工業的な量産化が進行し、木材から直接原料を得てパルプを製造する技術が確立された[3]

19世紀に入るとイギリスでフルート(段)をつけた紙が販売され、ガラス製品の包装用途を通じて段ボールが開発された。さらにクラフト紙袋など高機能化が施され、包装用としての分野を広げ現在に至る[5]

紙の原料[編集]

紙の原料は、現在の洋紙では木材と古紙がほとんどを占める。木材が紙の原料となったのは19世紀後半からで、それより前は非木材植物原料が主流だった。また、近年では製紙による森林伐採を抑制する観点から、ケナフサトウキビタケなどの非木材植物が注目される場合もある。

紙の原料である植物繊維は、セルロースが主成分である。植物繊維細胞壁の成分を細分するとセルロース・ヘミセルロース・リグニンの分けられる。セルロースが骨格を、ヘミセルロースが接続を、リグニンが空隙充填を担う[2]。セルロースは、水素結合によって結びつく性質がある。紙を構成する繊維がくっつき合うのは、主にこうした水素結合のためである。一方、水素結合は水が入るとすぐ切れるため、防水加工していない紙は水濡れに弱い。

非木材植物[編集]

紙の原料として使われた非木材植物には、次のものがある。いずれも、安定供給や品質の面から木材の代替にはならないとされており、現在では特別な用途で使われている。

アサ
アサやそのぼろは、中国で紙が発明されたときの主原料だった(リネンパルプ)。
カジノキ・ガンピ・コウゾ・マユミ・ミツマタ
カジノキガンピコウゾマユミミツマタはいずれもその樹皮が紙の原料として、中国・日本などで使われた。このうち栽培が比較的容易なコウゾは、現在和紙の主原料となっている。また、ミツマタは日本紙幣の原料として混ぜられている。
竹紙は、中国で時代(7世紀)から作られ、時代(10世紀以降)には竹が紙の主原料となった。その後、藁や木材に取って代わられたが、近年ふたたび見直され、四川省などで大規模な工場も建設されている。
(稲わらや麦わら)は、中国では唐時代から紙の原料として使われた。また、日本では1890年代頃は洋紙の主原料だった。藁には、繊維が細くて短すぎるため弱い紙しかできない、年に1回しか収穫できず腐りやすいため保管が難しい、などの問題点があるが、中国などでは、まだ原料として使用されている。
亜麻
亜麻やそのぼろは、イスラム世界で紙の主原料となった。ヨーロッパでも木材以前はよく使われた。
木綿
木綿のぼろ(ラグ)は、欧米で木材以前は紙の主原料であった。しかし、15世紀に印刷技術が確立して紙への需要が大きくなると供給不足になり、木材からの製紙方法が開発される契機となった。日本でも、製造開始直後の1880年代頃は洋紙の主原料だった。また、綿花の加工途中で生ずる地毛などの短繊維(リンター)を原料として紙を漉くこともできる。木綿のぼろから作られるパルプをラグパルプ、綿花の地毛などの短繊維から作られるパルプをリンターパルプという。なお、通常の木綿は、繊維が長過ぎるため、製紙には使いにくい。
サトウキビ
インド・中国や南米諸国では、製糖時に発生したサトウキビの絞りかす(バガス)からパルプを製造している。バガスパルプは多くの場合、製糖工場に隣接したパルプ工場で生産される[6]
マニラアサ
マニラアサ(アバカ)は、フィリピンなどで栽培されているバショウ科の植物。アバカパルプは繊維が細長いため、しなやかで強い紙を作ることができる。現在、日本紙幣の主原料となっているほか、ティーバッグ掃除機の紙パックの原料となっている。
ケナフ
ケナフは木に近い性質を持ち、成長が非常に早いため、木材の代替候補として注目されたが、普及は進んでいない。
バナナ
バナナの茎の繊維を用いて、和紙をつくる要領で紙を作ることができる。生産廃棄物の再利用として途上国での利用が期待されている[7]
アブラヤシ
アブラヤシは実からパーム油を絞るために栽培されているが、この絞りかすの繊維は強度が高いため、これを用いて紙をつくることが中国などで実用化されつつある。
金属
金属そのものが紙になるわけではないが、金属の酸化物などを紙に漉き込むことで、従来の紙よりも薄く丈夫で透けない高品質の紙を作ることが可能である。元々、白い色合いを持つ酸化チタンなどが使用される場合が多く、長期間に渡って使用、保存される本に使用される[8]

木材[編集]

木材は、1840年代に木材パルプの製造方法が確立して以来、紙の原料として使われるようになった。日本では、1889年に最初の木材パルプ工場が建設された。木材パルプの原料にはもともとマツ科を主とする針葉樹が使われていたが、日本では1960年代から広葉樹も使われるようになり、現在は広葉樹の方が多くなっている。針葉樹の繊維は広葉樹の繊維より太く長いため、一般的に針葉樹から製造した紙の方が強い。強度が求められる新聞巻取紙や紙袋、封筒、飲料用紙パックなどでは針葉樹が使われることが多い。一方、現在の印刷・情報用紙の多くは、広葉樹が主原料になっている。

針葉樹では仮道管が、広葉樹では木繊維細胞が主に使われる。その他の組織も紙の中に入り込むが、広葉樹の場合、導管要素は細胞が大きく、成形の不揃いや印刷適性の劣化を生じてしまう[2]

輸入木材チップ
日本では1965年から、大型専用船でアメリカオーストラリアニュージーランドチリ中国などから輸入した木材チップを紙の原料として使うようになった。輸入木材チップは、1980年代以降の円高などの影響もあって割安なことから、現在では国内の木材より多く使われている。木材チップは、製材の背板などの残りや間伐材、廃材などから製造される物もあるが、製紙原料用に植林されたユーカリアカシアなどの木材から生産されたものが多くなっている。
古紙
古紙を元に紙を作ることは紙の発明直後から行われていたと考えられ、1100年頃の中国では古紙再生が奨励されている[2]。日本では平安時代故人が生前に書いた手紙などを漉き直し、法華経を筆写して供養することがあり、これは「故紙」と呼ばれた[2]。紙は排出されるゴミに占める比率が高く、家庭では25%、オフィスからは46%(1988年度)が相当する。これらが古紙として再生されることはゴミ軽減の効果が大きい[2]。現在、古紙の利用率は世界で約50%と推定されている。日本では約60%である。

紙の分類と用途[編集]

紙は、原料により和紙と洋紙に分類される。割合をみると、現在は木材原料としたパルプから、機械を使って製造した洋紙が多くの割合を占めている。

和紙[編集]

和紙は、7世紀初めまでに中国から伝来した紙が日本独自に発展したもので、ガンピコウゾカジノキなどが原料である。和紙は現在でも手漉きで作られているほか、1900年代からは機械抄き和紙も製造されている。

洋紙[編集]

現在の洋紙は、主に木材を主原料に機械を使って製造する。日本では1873年に、欧米の機械を導入した初の洋紙工場が設立された。なお、木質紙が主流になる以前、洋紙の主原料は木綿のぼろやだった。

紙と板紙[編集]

紙の中で、主に包装用に使われる厚い紙を板紙(ボール紙)という。

経済産業省による分類[編集]

さまざまな紙製品

経済産業省(旧通産省)では1948年以来、紙・板紙・パルプの品種分類を所管しており、「生産動態統計分類」で紙を分類している。2002年以降の分類は次の通り。

新聞巻取紙[編集]

新聞に使用される新聞紙のこと。「新聞用紙」とも呼ばれる。

印刷・情報用紙[編集]

印刷用紙は印刷されることを前提とした紙を、情報用紙は情報システム用の紙を指す。経済産業省の分類では、以下の5つに分類されている。

非塗工印刷用紙
表面を顔料などで塗工していない印刷用の紙。ただし、筆記性や表面強度を改善するため、デンプンなどの薬品が表面に塗布されることも多い。
化学パルプの使用割合により、上級印刷用紙(100%、上質紙)、中級印刷用紙(40%から100%、中質紙および上更紙)、下級印刷用紙(40%未満、更紙)に分類される。辞書本文などに使われるインディア紙などの薄葉紙も含まれる。
塗工印刷用紙
上級印刷用紙や中級印刷用紙を原紙とし、表面に塗料を塗布した印刷用紙。塗料の量などにより、アート紙・コート紙・軽量コート紙などに分類される。詳細は塗工紙を参照。
微塗工印刷用紙
1987年頃に登場した比較的新しい品種で、塗料の量が塗工印刷用紙よりも少ない。
特殊印刷用紙
色上質紙・官製はがきなどを指す。
情報用紙
コピー用紙インクジェット用紙ノーカーボン紙感光紙感熱紙などを指す。
包装用紙の例

包装用紙[編集]

印刷用紙より強度があり、包装紙封筒に使用される紙である。

未晒し包装紙は漂泊されておらず茶褐色。重袋用両更クラフト紙、両更クラフト紙などの種類がある。晒し包装紙は晒しクラフトパルプが原料で、純白ロール紙、晒しクラフト紙などの種類がある。

衛生用紙[編集]

ティッシュペーパートイレットペーパー紙おむつ生理用品などの用途に使用される吸水性を持つ紙である。

雑種紙[編集]

工業用と家庭用に分類される。トレーシングペーパー合成紙絶縁紙剥離紙、ライスペーパー(紙巻きたばこの巻紙)、書道用紙などが該当する。


生産・消費量[編集]

日本製紙連合会の調べによれば、2012年における世界の紙・板紙の生産量は、前年比0.4%増の約4億トン。国別生産量のトップは中華人民共和国で10,250万トン。次いでアメリカ合衆国の7,438万トン、日本2,608万トンは世界3位に位置している。国民1人当たりの消費量のトップはベルギーで約318kg。次いでオーストラリアの約252kg、ドイツの約243kgが続く。日本は約218kg。

紙の作り方[編集]

『天工開物』での竹紙の作り方

紙は、植物繊維から次の手順で作る。

  1. 植物繊維を取り出す
  2. 紙をすく
  3. 脱水・乾燥する

こうした紙の作り方は、古代中国で発明されて以来、基本的には変わっていない。中国で末の1637年に書かれた『天工開物』では、竹紙の作り方を次のように記述している。

  1. 斬竹漂塘 - 竹を切り、ため池に漬ける
  2. 足火 - 十分に煮る
  3. 蕩料入簾 - 竹麻を簾(れん)ですく
  4. 覆簾壓紙 - 簾をひっくり返し、紙を積み重ねる
  5. 透火焙乾 - 火を通し、紙を焙り乾かす

植物繊維を取り出す[編集]

伝統的な製紙方法では、原料となる植物や木綿やアサのぼろを、アルカリ性の溶液で煮て、軟らかくする。こうして取り出した植物繊維は、パルプに相当する。また、古紙を水につけてパルプを作ることもできる。例えば、牛乳パックからパルプを作ることができる。

叩解(こうかい)[編集]

植物から繊維を取り出して紙をすくときには、パルプを叩き、繊維が切断・水和・膨潤・絡み合うようにする作業が必要である。こうした作業を叩解という。パルプを叩解すると、繊維はまず内部フィブリル化し、次に外部フィブリル化する。

内部フィブリル化
繊維の組織がゆるみ、軟らかくなる。
外部フィブリル化
繊維の表面から、ごく短い繊維の束(フィブリル)が出てくる。
紙漉き。イタリアモンセーリチェの中世祭にて

紙をすく[編集]

水に溶かしたパルプを簀の子すのこ)や網の上に広げることを「すく」という。「すく」は、手で行う場合は「漉く」、機械で行う場合には「抄く」と表記する。手漉きの場合、紙は1枚ずつすく。一方、機械抄きの場合は連続して紙をすくため、高速で紙を製造できる。

洋紙の製造[編集]

洋紙の製造では、幅広の紙を機械を使って連続的に抄くため、大量生産が可能となっている。洋紙製造には、次の工程がある。

  1. パルプ化工程
  2. 調成工程
  3. 抄造工程
  4. 塗工工程
  5. 仕上・加工工程

パルプ化工程[編集]

右手の高い塔が蒸解釜

パルプは、その後の工程と同じ工場の中で製造する場合と、別の工場で製造する場合がある。パルプ製造とその後の工程を両方とも行う工場は、紙パルプ一貫工場と呼ばれる。

洋紙の製造過程では多くの場合、木材からパルプを製造する。木材から製造するパルプは、製造方法により機械パルプと化学パルプに大別される。現在、化学パルプでは、クラフトパルプが一般的である。また、古紙から作るパルプも多く用いられており、古紙脱墨パルプと呼ばれる。白い紙を作る場合、パルプ製造過程でパルプを漂白する。漂白したパルプは、晒しパルプと呼ばれる。

近代的な工場では一般に蒸解釜が使われるが、1950年代までは蒸気加熱したチップを蒸解釜に仕込む1ベッセル方式が主流であった。スウェーデンカミヤ社が開発した連続式パルプ化方式が実用化されたあとは現在に至るまでチップを蒸気加熱後に、浸透タワーを経由してから蒸解釜に仕込む2ベッセル方式が主流となった。木材からパルプを取り出すにはまず、パルプを煮て柔らかくする必要があり、長時間高温・高圧で煮込む。この方式には釜の大きさに応じた量を1回ごとに煮込む「バッチ式」と、連続して煮込む「連続式」があるが、チップを縦に細長い円筒容器の頂部から投入し、薬液と混入し煮たのち、底部から連続的に取り出す方式が連続蒸解釜であり、カミヤ式連続蒸解釜が主流となった。2ベッセル方式のメリットは、薬液浸透の難しい樹種にも蒸解薬液(白液)をチップに充分にしみ込ませることが可能である点であり、1970年代に開発された[9]。製紙会社によく見る、巨大な塔はこの蒸解釜である。

調成工程[編集]

調成工程では、各種パルプを混合し、叩解し、薬品を添加する。叩解には、かつてはビーター、現在はリファイナーという機械が使われる。調成工程を経たパルプを、紙料という。

抄紙工程[編集]

抄紙工程では、抄紙機を使い、紙料を1%程度に水で薄めたものを原料に、次の工程で紙を抄く。

  1. ワイヤーパート
  2. プレスパート
  3. ドライヤーパート

ワイヤーパート[編集]

紙料を、網(ワイヤー)の上に流して薄く平(たいら)にすることで、湿紙を作る。この工程で水分が重力によって脱落し、紙料の水分は99%(濃度1%)だったのが、湿紙では80%程度になる。

プレスパート[編集]

湿紙にフェルト(毛布)を当てて上下から圧縮することで、水分を搾り取る。この工程で、湿紙の水分は55%程度になる。

ドライヤーパート[編集]

湿紙を加温して水分を蒸発させ、水分が8%程度になるまで乾燥させる。

塗工工程[編集]

塗工紙の場合は、コーターを使い、紙の表面を顔料などで塗工する。コーターには、抄紙機と直結することで抄紙・塗工を1工程とするオンマシン式と、抄紙とは別工程とするオフマシン式がある。

ロール状の原紙

仕上・加工工程[編集]

乾燥し、抄紙機またはコーターから出てきた紙は、次の工程で仕上・加工する。

  1. カレンダリング
  2. リールによる巻き取り
  3. ワインダーやカッターで断裁
  4. 包装
  5. 出荷

カレンダリング[編集]

紙の表面に、カレンダー(calender)を使って圧力をかけ、光沢や平滑性を高める。ただし、このとき紙の厚さは減少する。カレンダーは、金属ローラーと弾性ローラーの組み合わせ(ニップ)から構成される機械である。コーターと同様に、カレンダーにも抄紙機と直結させたオンライン式と別工程としたオフライン式がある。

カレンダーには、スーパーカレンダーとソフトカレンダーの2種類がある。

スーパーカレンダー
一般に用いられるカレンダー。ニップ数が大きくなるほど紙の光沢や平滑性は高くなる。通常の印刷用紙では8から12ニップ、アート紙などでは10から12ニップのものが用いられる。
ソフトカレンダー
紙の厚さが減少するのをできるだけ避けたい場合に用いる。紙は表面の温度を高くすると光沢が出るため、圧力を小さくする代わりにローラーの表面温度を100度から200度程度にする。ニップ数は、2から4である。

紙に添加される薬品[編集]

各種洋紙に添加される主な薬品は次の通り。薬品は、調成工程でパルプに混合されたり、塗工工程で紙の表面に塗工されたりする。機械抄き和紙にも合成ねり(粘剤)などの薬品が用いられている。詳細は製紙用薬品を参照。

サイズ剤
水性インクなどのにじみを防ぐ。かつてはロジンと硫酸バンド(硫酸アルミニウム)が広く使われており、そうした紙は酸性紙という。酸性紙は寿命が50年から100年で、図書館での蔵書の保管などで寿命が短すぎることが大きな問題になった。中性紙は、硫酸バンドの代わりに、AKDASAなどの中性サイズ剤を用いており、寿命は酸性紙の4倍から6倍といわれている。現在、印刷用紙やPPC用紙では中性紙が使われることが多く、酸性紙は新聞や雑誌など長期保存の必要がない用途で使われる。
填料
繊維間の隙間を埋め、不透明度・白色度・平滑度・インク吸収性を向上させる。従来からカオリンなどのクレー(白色粘土)やタルク(滑石)が使われているほか、中性紙では炭酸カルシウムが使われる。填料は、印刷用紙やPPC用紙などには5%から20%程度、辞書などに使う薄葉印刷用紙では25%程度が含まれる。
紙力増強剤
紙の強度を高くする。紙が乾いた状態での強さを上げる乾燥紙力増強剤と濡れた状態での強さを上げる湿潤紙力増強剤に分かれる。主にデンプンポリアクリルアミドが使われる。
染料
染料は、紙に色を付けたり、白さを高めたりする。白さを高めるには、繊維の黄色の補色である青色の染料が使われる。また、書籍などでは、文字を読みやすくするため、淡い黄色の染料を使う。蛍光染料は、白さを特に高めるために使う。
塗料
高級印刷用紙などの美感や平滑さを高める目的で塗料が紙の表面に塗布されることがあり、そうした紙は塗工紙という。塗料は、カオリン炭酸カルシウムなどの白色顔料と、デンプンやラテックスなどのバインダー(接着剤)を混合して作る。

紙の歴史[編集]

紙発明以前[編集]

紙が発明され普及する前から、人間は世界各地でさまざまなものを文字などを筆記する媒体として利用してきた。例えば、次のものが知られている。

筆記媒体 地域 説明
粘土板 古代メソポタミア 泥を、板の形にして干したもの
パピルス 古代エジプト、のち西アジア・ヨーロッパ パピルス(植物)の幹を薄く削ぎ、直角に交叉させ、おし叩いて接着したもの。なお、「papyrus」は英語で紙を意味する「paper」の語源となっている。
羊皮紙 西アジア・ヨーロッパ 動物の皮を筆記用に加工したもの。
貝多羅葉 インド 椰子の葉を筆記用に加工したもの。写経などに使われた。かさばるため、大量の筆記には不向き。
アマテ樹皮紙 中南米(アステカ・マヤ・オルメカ文明など) Ficus insipidaなどのクワ科の木の樹皮を煮て石でたたきのばしたもの。
木簡竹簡 中国・日本 木や竹を、で筆記できるように細長い板にしたもの。丈夫であり、削って再利用できる利点があることから、紙が普及してからも荷札などで使われた。
絹帛 中国・日本 絹の布。

中国での紙の発明と改良[編集]

世界最古の紙は現在、1996年に中国甘粛省放馬灘(ほうばたん)から出土したものだとされている[3]。この紙は、前漢時代の地図が書かれており、紀元前150年頃のものだと推定される。次いで古いのは、紀元前140年87年頃のものとされる灞橋麻紙(はきょうまし)である。灞橋麻紙は陝西省西安市灞橋鎮で出土した。

史書に残された記録では『後漢書』で、105年蔡倫が樹皮やアサのぼろから紙を作り和帝に献上したという内容の記述がある。こうした記述から、紙の発明者は蔡倫だとされたこともあったが、現在では蔡倫は紙の改良者であるといわれることが多い。しかし、この「蔡侯紙」は軽くかさばらないため、記録用媒体として、従来の木簡竹簡、絹布に代わって普及した。西晋の時代(3世紀)には、左思の『三都賦』を写すために紙の価格が高騰したという記録が『晋書』に記載されており、「洛陽の紙価を高からしむ」という故事成語になっている。

紙はその後も改良され、時代(8世紀)には樹皮を主原料とした紙や、竹や藁を原料として混ぜた紙が作られるようになった。の時代(10世紀以降)には、出版が盛んとなったため大量の紙が必要となり、竹紙が盛んに作られた。明末の1637年に刊行された『天工開物』には、製紙の項目で、竹紙と樹皮を原料とした紙の製法を取り上げている。

紙は、上流階級を中心に広く使われる高価なものであった。11世紀の詩人であった蘇舜欽は、自分が勤めていた役所で出た反古紙(書き損じの使い物にならない紙)を売って、その代金で宴会を開いたために横領で糾弾されている。反古紙であっても高値で取引されていた様子がうかがえる。清の第5代皇帝は質素・倹約を掲げていたので、重要な公文書などでない限り、紙は裏返して使うように勧めていた。

日本
7世紀までに伝えられ、その後は和紙として独自の発展を遂げた。また、『百万塔陀羅尼』は現存する世界最古の印刷物である。

イスラム世界への伝播[編集]

紙の製法が中国からイスラム世界に伝わった契機は751年タラス河畔の戦いで、アッバース朝軍に捕えられたの捕虜に紙職人がいたことである。サマルカンドでは、757年に製紙工場が造られた。イスラム人は、紙の原料として亜麻を使ったり、サイズ剤として小麦粉から作ったデンプンを使うなどの工夫をした。こうした紙はイスラム世界で広く知られるようになった。

その後、バグダッドダマスカスカイロフェズなどイスラム世界の各都市に製紙工場が造られ、その技術は1100年にはモロッコまで伝わった[3]。紙は、イスラム世界で主要な筆記媒体となり、ヨーロッパへも輸出された。1144年には、当時タイファ(イスラム諸王国)の支配下にあったイベリア半島シャティヴァ英語版に、ヨーロッパ初の製紙工場が造られた。

ヨーロッパへの伝播[編集]

1102年にはシチリアに(シチリアの征服(1061年–1091年)完了後間もない頃)、1189年にはフランスエロー[3]1276年にはイタリアファブリアーノで製紙工場(Paper mill)が造られた。これ以降14世紀までの間、ヨーロッパでの紙の供給地は、イタリアとなった。1282年には、ファブリアーノで透かしイタリア語: Filigrana)が発明されている。その後、製紙工場はヨーロッパ各地で造られ、アメリカでも1690年フィラデルフィアに設立されている(フィラデルフィアの建設は1682年に始まったばかりであった)。

印刷技術の確立と原料不足[編集]

1450年頃にグーテンベルクにより活版印刷が実用化されると、印刷物が大量に造られるようになった。1473年には機械で印刷された楽譜が初めて登場した。1488年にはイタリアのソンチーノに作られた印刷所"Casa degli Stampatori"(it:Soncino#Musei)でヘブライ語聖書タナハ旧約聖書)が印刷された。こうして印刷物が世界中に広がり、紙の需要は増大した一方で、慢性的な紙の原料不足を引き起こし始めた。

製紙工業の確立[編集]

ユグノー戦争1562年 - 1598年)の終わりに、アンリ4世ナントの勅令1598年)を発したことで、多くのユグノーがフランスから亡命した。特にオーヴェルニュアングモアのユグノーが亡命したことは、フランス製の紙を輸入していたイギリス・オランダにも大きな影響を与え、ヨーロッパでは製紙の機械化が進められた。叩解(英語: beating process)には、紙の製法がヨーロッパに伝播した時点から、水車を動力源に石臼を動かすスタンパー英語: stamp mills)が使われており、1680年にはより効率的なホランダーオランダ語版ドイツ語版英語版オランダ語: maalbak または オランダ語: Hollander)が発明された。連続型抄紙機は、1798年にはフランスのエンジニアルイ=ニコラ・ロベールフランス語版英語版(発明家ロベール兄弟は別人)によって小型模型が作られ、1826年にイギリスのエンジニアブライアン・ドンキン英語版が完成させた。

一方、紙の原料不足については、特に19世紀には大きな問題となった。当時、紙の主原料は亜麻や木綿のぼろであったが、木材を使うことで解決された。1719年にフランスのルネ・レオミュールフランス語: René Antoine Ferchault de Réaumur)は、スズメバチが木材をかみ砕いて巣を作っている様子を観察した結果として、木材から紙を作ることができるという内容の論文を発表した。ドイツのフリードリッヒ・ケラードイツ語版英語版1840年)とカナダCharles Fenerty1844年)は砕木パルプを作るためのグラインダーを考案し、グラインダーは1846年に実用化された。また、1851年には苛性ソーダを用いた化学パルプの製造がイギリスで成功し、1854年に実用化した。当時、木材には針葉樹の丸太が使用された。尚、当時はまだ紙は貴重であった。

1844年、イギリスでピール銀行条例によってイングランド銀行中央銀行として銀行券スターリング・ポンド紙幣」の発券を独占した(通貨学派銀行学派)。贋金偽造防止技術として従来の透かし以外の技術が開発され始めた。

20世紀にかけて砕木パルプ・化学パルプともに改良が加えられ、木材を原料とした紙が機械で大量生産されるようになった。1940年代以降、クラフトパルプ製造法が確立され、広葉樹を利用できるようになった。また、1960年には木材チップをパルプ化する方法が開発された。

製紙用薬品の普及[編集]

1970年ごろから、酸性紙は50年を超えるような長期保存ができないことが問題となり、硫酸バンドロジンサイズ剤を使わず、石油を原料とした中性サイズ剤を使う方法が考案された。

同じく1970年代ごろから、強度を高める目的で従来のデンプン類に代えてポリアクリルアミド紙力増強剤として使う方法が考案され、また、公害防止のために、排水中のBOD、COD、微細固形物を削減する取り組みが進められ、ポリアクリルアミドを歩留まり剤凝集剤として使うことが広がった。

1980年代以降、古紙リサイクル比率が高まり、古紙に付着している印刷インクを除去する脱墨剤として合成の界面活性剤が応用されるようになった。

寸法・単位[編集]

紙の製造管理や商取引上では、次の寸法や単位が用いられる。

  • 寸法
  • 枚数 - 連(れん)
  • 重量 - 坪量(つぼりょう)と連量(れんりょう)

寸法[編集]

紙の寸法には、断裁に必要なまわりの余白を含めた原紙寸法と、製品に仕上げたときの寸法である紙加工仕上げ寸法がある。こうした寸法は、日本工業規格やISOにより規格化されている。

原紙寸法には次の種類がある。

種類 寸法(mm)
A列本判 625×880
B列本判 765×1085
四六判 788×1091
菊判 636×939
ハトロン判 900×1200

仕上げ寸法には、A列とB列がある。

枚数の単位[編集]

[編集]

1連とは一定寸法に仕上げられた紙1,000枚(板紙の場合は100枚)のことで、紙取引の基準となる枚数である。小数点を使い、2.5連(2,500枚)のように表す場合もある。

重量の単位[編集]

坪量[編集]

坪量は、紙や板紙の基準となる重さを、単位面積である1m²あたりの重量で表す。単位はg/m²。坪量は紙の基本品質を表す、重要な項目である。米坪ともいう。元は1四方あたりの単位の重量のことを坪量と呼んだ(を参照)。厚さについて言及する際、単に「グラム」と言った場合は坪量(米坪)を指す。

連量[編集]

連量は、一定寸法に仕上られた紙1,000枚(1連)の重量。寸法は日本の場合、板紙では実際に取引する紙の寸法、板紙以外では四六判(788mm×1,091mm)が一般的である。1連が1,000枚でないのが通常(例えば100枚)である用紙の場合には連量も変わる。

連量は、紙の重みだけでなく、厚みを比較する目安としても捉えられている。厚い紙は、郵便はがき[10]で209.3kg、薄いものは純白ロール紙34kgがある。ただし、紙質によって同じ厚みでも密度は異なるため、あくまで目安。同質の紙同士で厚みを比較する際にはよい参考になる。厚さについて言及する際、単に「キロ(グラム)」と言った場合は(四六判にした時の)連量を指す。

紙の物性[編集]

基本物性[編集]

紙の基本物性と評価には、以下のような項目がある。[11]

こわさ
紙が自重を支える性質(紙のこし)を表す。幅2cmのテープ状に切った紙を水平に保持し、垂れ下がり始める長さで測る。また、垂直に保持して左右に傾け、それぞれの方向で垂れ下がる角度の計が直角になった時の長さをcm単位で計測し、長さの3乗を100で割った値をクラークこわさと言う。紙箱など、紙のみで形を維持させるような場合には強いこわさが求められる。
引張り強さ
紙が引きちぎる力に抵抗する性質を表す。幅15mm、長さ20cmの試験片を用意し、両端各1cm幅を挟んで引張り試験機で測定する。破断時の荷重やエネルギーおよび紙の伸びを計測し、単位面積当たりの仕事量をタフネスとして示す。また、この結果から断裂長を導くこともある。これは、紙を非常に長いテープ状にして吊り下げた場合に破断を起こす長さに換算したもので、km単位で表される。
耐磨耗強さ
紙同士、または紙と他の物質が繰り返し摺り合わさった場合に生じる紙表面のムケなどを調べる。テーパー型磨耗試験などを用いて一定の時間・速度・圧力で摺り合わせを行い、単位重量の減少で測定する。
引裂強さ
紙が横方向に引き裂かれる時の強さを表す。4枚重ねて両端を固定した紙の中央下部端に2mmの切れ目を入れ、片方に振り子をつけて揺らす。これにより起こる引裂きの抵抗値を測定する。この数値を16枚重ね相当に換算した値をエレメンドルフ引き裂き強さ(内部引裂強さ)と言う。
破裂強さ
内容物がある紙袋の破裂に対する強さを表す。中央に円形の穴があるドーナッツ状の抑え板で紙を挟み、穴の部分にゴム製の風船を当てて膨らます。やがて紙が破れた際の圧力を破裂強さと言う。
衝撃引張り強さ
紙に強い衝撃が加わった際に抵抗する強さを表す。アイゾット衝撃試験を行う。
耐折れ強さ
繰り返し折りたたみ、開かれることに対する紙の強さを表す。
実際に折り開くことを繰り返して、紙の強さを測定する。また、折りたたみによって起こり紙の破断は、背側に亀裂が入り起こることが多い。そこで、紙に罫線(表面だけに加わった切り込み)を入れて、それを背に折りたたみ割れの状態を観察する方法もある。

要求物性[編集]

紙は、その用途に応じた性能が求められる。印刷を前提とした紙にはインクを沁み込ませる機能が必要となり、吸水度をクレム法やコップ法などで計測する。逆に包装材料の中には防水や耐水性を付与した紙もある。食品包装用には油や脂質への耐性が求められるものも多くある。壁紙では難燃性が求められる。[11]

また、作業性や機械適性も紙の要求機能に入る。製函・段ボール製造などでは生産機械を用いて大量製造される際、紙がカールしていては使用に耐えにくい。印刷では、紙の表面硬度や平滑性、印刷時の圧縮性やインクとの適正(チョーキングや裏抜け)、紙粉発生によるパイリングの防止、オフセット印刷における紙中の水分が原因となるブリスタリングなどがある。その他、OA用紙では給排紙機能や走行機能、耐候性、トナーやインクの定着や解像度なども問題となる。[11]

紙に関係する法令・規格[編集]

紙とコンピュータ[編集]

かつて、コンピュータが普及すると情報の記録や伝達はコンピュータに置き換えられるため、紙の消費は減るであろうとする予想があった。こうした紙の消費量を減らすことをペーパーレス化といい、情報伝達の効率が高くなることや、文書を保存・管理するコストが小さくなることが期待されていた。

しかし、コンピュータが高度に普及した現代においても、紙の使用量は減少することはなく、むしろ増加しているという現実がある。Abigail SellenとRichard Harperは、著書"The Myth of the Paperless Office"で、現在では仕事の多くが知識労働になっているため、紙の有効性は高まっていると主張した[12]

紙と環境問題[編集]

紙は、環境問題で議論の対象となることが多い。日本国内で生産される紙の原料の約6割は古紙だが、残りの約4割は木材などを原料としたバージンパルプである。バージンパルプの原料には、丸太を製材に加工する際に発生する残材(端材)なども使われるが、丸太を2~3cmの大きさに砕いた木材チップが用いられている。木材チップは国内産のものもあるが、日本国外から輸入されるものの方が多い。木材チップの原料には、主にユーカリやアカシアなどの植林木が用いられている。しかし、植林を行なうためにその土地の天然林を伐採している事例もあるとの指摘がある。また、木材チップの原料の一部には天然林から伐採された丸太も用いられており、環境団体からは、天然林の伐採対象には生物多様性が豊かな原生林も含まれていることが指摘されている。

脚注[編集]

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  1. ^ 日本印刷技術協会編、『製本加工ハンドブック 〈技術概論編〉』日本印刷技術協会(2006/09 出版)、ISBN: 9784889830880
  2. ^ a b c d e f g 原 p.71-147 4.洋紙のレシピ
  3. ^ a b c d e f 原 p.15-33 1.紙の来た道“ペーパーロード”
  4. ^ 原 p.35-59 2.文化が育てた“紙”、紙が育てた“文化”
  5. ^ 日本包装技術協会 『包装の歴史、3.包装産業の発達』 日本包装技術協会、1978年、111-125頁。
  6. ^ 三島製紙 - 砂糖キビの絞りかすから生まれたバカス紙について
  7. ^ バナナ・グリーンゴールド・プロジェクト
  8. ^ 化粧紙 - 注目商品 - 事業案内 - 日本紙パルプ商事株式会社
  9. ^ 公益財団法人紙の博物館
  10. ^ 民営化前における官製はがきのこと。
  11. ^ a b c 原 p.149-180 5.紙に要求される機能
  12. ^ ペーパーレス神話と現実

参考文献[編集]

外部リンク[編集]

関連項目[編集]