カーボンニュートラル

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カーボンニュートラル (carbon neutral) は環境化学の用語で、直訳すればカーボンは炭素、ニュートラルは中立なので「環境中の炭素循環量に対して中立」となる。何かを生産したり、一連の人為的活動を行った際に、排出される二酸化炭素と吸収される二酸化炭素が同じ量である、という概念。

用語[編集]

排出される二酸化炭素が吸収される二酸化炭素を上回る場合は「カーボンネガティブ (carbon negative)」、排出される二酸化炭素が吸収される二酸化炭素を下回る場合は欧米においては「カーボンポジティブ (carbon positive)」 、前者は日本においては「カーボンマイナス」とも言う。

概念[編集]

カーボンニュートラルな植物利用と炭素量変化の流れ。
1. 何もない状態
2. 木を植え、木が生長する。二酸化炭素を大気中から吸収する。
3. 木が成長をほぼ終える。
4. 木を伐採し加工する。木材と木くずなどが出る。
5. 木材を紙、建材などに利用する。木くずはさらに増える。
6. 紙、建材などはやがて焼却処分される。二酸化炭素が大気中に戻る。木くずや燃えかすの灰は地中に入る。
7. 木くずや燃えかすの灰は微生物に分解されて、二酸化炭素やメタンとして大気中に戻る。
色の説明:
大気中の炭素 - 水色
植物の中、暮らしの中の炭素 - 薄いピンク色
地中の炭素 - 薄い茶色
このようなサイクルを持続的に繰り返すのがカーボンニュートラルである。
ただし、この図には木材加工時などに化石燃料を使った場合のCO2は含まれておらず、全般において再生可能エネルギーを使うものと仮定している。

例えば、植物のからだ(など)は全て有機化合物炭素原子を構造の基本骨格に持つ化合物)で出来ている。その植物が種から成長するとき、光合成により大気中の二酸化炭素の炭素原子を取り込んで有機化合物を作り、植物のからだを作る。そのため植物を燃やして二酸化炭素を発生させても、空気中に排出される二酸化炭素の中の炭素原子はもともと空気中に存在した炭素原子を植物が取り込んだものであるため、大気中の二酸化炭素総量の増減には影響を与えない。そのため、カーボンニュートラル(二酸化炭素=炭素循環量に対して中立である)と呼ばれる。

カーボンニュートラルとそうでないものの違い
  カーボンニュートラル カーボンネガティブ
(カーボンニュートラルでない)
炭素の大気中への排出 あり あり
炭素の大気中からの吸収 あり(速い、植物が芽生えてから成熟するまでの数十年で再生) ほとんどなし(非常に遅い、平均数十万年~数千万年)
大気中からの吸収方法 その植物があった土地に次に植えられる、または生える植物が吸収する 植物や炭酸カルシウムの地中・水中堆積など(生物圏大気圏から完全に離脱したものに限る)
主な例 植物由来の原材料 化石燃料、低再生性の原材料


カーボンニュートラルは、厳密には、植物由来燃料・原料の燃焼・分解に伴って排出される二酸化炭素の量を基準(排出量)にし、元となる植物が成長過程で吸収した二酸化炭素の量(吸収量)がそれと同じ量となることを指す。ここでは、元となる植物が成長過程で大気中以外(地中など)から吸収した炭素、落葉などによって成長過程で地中などに固定される炭素、植物由来燃料・原料が製造される際に製品化されずに余った炭素などは考慮に入れないが、ここまで考慮に入れた場合でも、カーボンネガティブになることは無い。

現在、地球温暖化の進行とそれによる諸影響が問題となっている。地球温暖化の主な原因の一つとして大気中の二酸化炭素の濃度が上昇していることが挙げられ、二酸化炭素の濃度の上昇を抑えることで地球温暖化の進行を抑えようとする動きがある。この動きの中でカーボンニュートラルという概念が頻繁に登場するようになった。

問題点[編集]

カーボンニュートラルには3つの大きな問題点がある。

1つ目は、(カーボンニュートラルの)植物由来の燃料を作って利用したとしても、「製造・輸送の過程で少しでも化石燃料を使えば排出量が上回る」ことである。植物の栽培、伐採、製造・輸送などのすべての過程をライフサイクルというが、ライフサイクル全体で排出量・吸収量を考え、そこで両者が同じ量になって初めてカーボンニュートラルになる。化石燃料は後述の通り、化石燃料の燃焼によって排出された二酸化炭素を地中に戻す手段が乏しく時間も長くかかるためカーボンニュートラルとはみなせず、化石燃料の燃焼によって排出された二酸化炭素のほとんどは大気中に残ると考える。そのため、化石燃料を少しでも使えば、「長期間地球を温暖化させる能力のある二酸化炭素」を大気中に長く滞留させることになる。実際、アメリカ合衆国で生産されるバイオエタノールは、生産段階で大量の化石燃料が使用されており、逆に環境負荷を増やす結果となっていることが指摘されている。結果的に、ライフサイクルアセスメントを通じてカーボンニュートラルを達成するには、再生可能エネルギーを導入するなど多面的な対策が必要となる。

2つ目は、カーボンニュートラルには再生力(再生性)が必要なことである。ここでの再生力(再生性)とは、植物由来製品を燃焼・分解して出た二酸化炭素を、「早く確実に地中に埋め戻す能力(性質)」のことである。具体的には、植物由来製品の原材料を生産する森林や農場を適切に管理し、植物の栽培や育成を維持することが必要である。これを行わなければ、植物由来燃料は化石燃料と同じように、「長期間地球を温暖化させる能力のある二酸化炭素」を大気中に長く滞留させることになる。

3つ目は、土地の問題である。カーボンニュートラルを拡大して、化石燃料・原材料を植物由来燃料・原材料に転換していくと、植物を育て保全するための広大な土地が必要になる。国家レベルでのカーボンニュートラル(後述)に必要な面積はカーボンフットプリントエコロジカル・フットプリント)で表すことができる。例えば日本では国土面積の約7倍にあたる269.7万haが更に必要(植物由来燃料・原材料の効率が化石燃料・原材料と同じ場合)だとされており、世界全体でも現存の耕作地・牧草地・森林の合計面積の1.2倍にあたる1.06ghaが更に必要(植物由来燃料・原材料の効率が化石燃料・原材料と同じ場合)だとされ、すべて賄うのは難しい。これを改善するためには、二酸化炭素吸収能力や生長サイクルの速い植物を採用したり、燃料や原材料の利用効率を高めて、生物生産力を向上させる必要がある。

本来ならば現在過剰に排出されている量と同じ量の二酸化炭素が吸収できるように植樹するなどして、国家あるいは地球全体で二酸化炭素の排出量を吸収量で相殺することが、真の意味でのカーボンニュートラルである。このようなことから、カーボンニュートラルを達成するのは容易ではない。ノルウェーが目指している国家単位でのカーボンニュートラル(後述)はこれにあたる。

取り組みの状況[編集]

近年の動きを見ると、カーボンニュートラルに近い植物由来のバイオマスエタノールなどが使われたり、持続可能性を考慮したうえで枯れ草・木質ペレットなど植物由来燃料の利用が行われたりしている。また廃棄後に焼却されて二酸化炭素を排出する一方で吸収はほとんどない石油由来のプラスチックの代替として、トウモロコシなどを原料とするバイオプラスチックが製造されている。

2007年4月、ノルウェーイェンス・ストルテンベルク首相は、カーボンニュートラルを2050年までに国家レベルで実現する政策目標を打ち出した。国家レベルでこのような政策が決定されたのは初めての例だとされている。また、同年12月、コスタリカオスカル・アリアス・サンチェス大統領は、2021年までに国家レベルのカーボンニュートラルを実現する目標を発表した。

海外においては、NIKEGoogleYahoo!Marks & Spencer香港上海銀行 (HSBC)Dellなど大手企業が自社の「カーボンニュートラル化宣言」を行い、温室効果ガス削減に取り組んでいる。日本においても、グリーン電力証書を活用した企業の温室効果ガス削減が行われている。しかしながら、グリーン電力証書については、追加性の要素が不足しているとの声もあり、環境省で取り扱い方針を検討中である。

課題[編集]

近年、カーボンニュートラルなエネルギー源として、バイオエタノールの需要が急速に高まっている。これが、穀物市場における食料とエネルギーの資源争奪を生み出し、穀物価格の高騰とそれによる貧困層に飢餓危機という新たな地球規模の課題が登場している。

出典[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]