ISIL

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ISIL(IS)の勢力範囲   事実上支配下にある地域   領有を主張する地域の位置
ISIL(IS)の勢力範囲
  事実上支配下にある地域
  領有を主張する地域
主都 ラッカ[1]
公用語 アラビア語外国人戦闘員が多数いるため、英語
政府
 -  カリフ アブー・バクル・アル=バグダーディー
独立 イラクシリアより 
 -  独立宣言 2014年1月3日[2] 
 -  カリフ宣言 2014年6月29日 
面積
 -  総計 32,133 km2 
12,407 sq mi 
人口
 -  2014年6月12日見積もり年推計 約8,000,000 
時間帯 (UTC+3)
1 現在、独立を承認した国家はない。
2 人口値は見積もり[3]で、面積値は推定[4]である。
ISIL
対テロ戦争イラク戦争シリア内戦に参加
Islamic state of iraq.jpg
活動期間 2006年10月15日 - 現在
氏族 / 部族 スンナ派アラブ人
指導者 アブー・アイユーブ・アル=マスリー 
アブー・ウマル・アル=バグダーディー 
アブー・バクル・アル=バグダーディー
活動地域 イラクの旗 イラク
シリアの旗 シリア
リビアの旗 リビア
レバノンの旗 レバノン
前身 ムジャーヒディーン諮問評議会
関連勢力 アンサール・アル・スンナ軍
アル=ヌスラ戦線
敵対勢力 イラク駐留軍
イラク治安部隊
覚醒評議会
イスラム革命防衛隊
ヒズボラ
シリア軍
インドネシア国軍
自由シリア軍
トルコ軍
シリアイラク両地域における勢力状況
  ISILの制御下
  アル=ヌスラ戦線の制御下
  シリア政府(アサド政権)の制御下
  イラク政府の制御下
  シリアにおけるクルド人勢力の制御下
  イラクにおけるクルド人勢力の制御下
  その他のシリア反政府勢力の制御下
※シリア国内の情勢について「シリア内戦」も参照

ISIL (アイシル、アイエスアイエル)とは、アルカイダから分派した過激派組織である。 ISIS (アイシス、アイエスアイエス)や DAIISH (ダーイシュ)とも呼称される[5]。また、組織側が主張する名称の英語表記“Islamic State”の訳として「イスラム国」略称として IS (アイエス)などと呼ばれることもある(呼称についての詳細は後節の「#名称とその表記に関する問題」を参照)。

概説[編集]

ISILは、アルカイダから分派・絶縁した過激派組織と旧フセイン軍の軍人ら(残党)が融合して成立したもので、アブ・バクル・アル・バグダディが指揮していると言われている組織である。ISILはイラクとシリア両国の国境付近を中心とし両国の相当部分を武力制圧し、国家樹立を宣言したが、後述の通り外交関係の相手として国家の承認を行った国家は無い。

バクダディは米国イラクを攻撃していた2004年頃(イラク戦争)、身柄を拘束され収容所に入れられていた。この時は模範囚であったが、その後、米軍がイラクから撤退した時に囚人に関する情報がイラクに十分に引き継がれず、イラク政府は囚人を釈放したという[6]。バグダディ自身ははそれまで特に悪いことをしていたということはなく、あくまでフセインと同じバース党員だったため収容所に入れられたとされるが、米軍はその収容所の同一の棟に、イスラム過激派や旧フセイン軍の軍人を、その他のイラク人と一緒に収容していため、結果として、バグダディが過激思想に染まったという。結果的に、米軍は図らずも、巨大な過激派養成学校のようなものを作りだしてしまっていたという[7]。それまで穏健な市民だったバグダディが、過激派や旧フセイン軍の者と交流して利害の一致を見出し、一緒に活動しはじめたとされる[7]。バグダディ以外にも当時その棟を担当していた監視員や、同一棟に収容されていて親しく交流していた面々が、そのままISILの幹部の面々になっている。 「イスラム過激派と旧フセイン軍のハイブリッド」と言われることもある[要出典]

AFPの記事によると、2014年6月29日、カリフイスラム国家の樹立を宣言し、名称を الدولة الاسلامية في العراق والشامIslamic State in Iraq and the Levant, 略称:ISIL)から الدولة الإسلاميةIslamic State, 略称:IS)に変更すると宣言した[8]

ただし、国家を自称しているものの、他国から国家の承認(本当の意味は、英語の表現にあるように、diplomatic recognition 外交上の承認、という意味で、実際にもその通りの内容)は得られていない。当事国であるイラクシリアはもちろんのこと、日本や米国、欧州諸国などの政府が承認を行っていない。さらに、周辺のシーア派スンナ派(スンニ派)イスラム教諸国の政府などからも国家としては承認されていない2015年1月時点で、ISILに対し公式に外交上の承認を行った国家は一つも無く、当然国連への加盟も果たしていない。

2014年9月21日、イスラム教スンナ派最高教育機関として知られるアル=アズハル大学のイスラム法学者団体は「イスラム国」と呼ぶ事についてイスラム教およびイスラム教徒に対する侮辱であるとして批判した[9]

イスラム法との関係[編集]

ISIL側の主張では、独自に解釈したシャリーアイスラム法)の下に活動をしているとしている[10]。 週刊新潮の情報によると、ISILは自らに都合よく解釈したシャリーアイスラム法)を住人にのみ厳格に適用しており、イスラム教を悪用した恐怖政治で支配地域の住民らを支配している[10]。尚、自分たちでは、イスラムの教えに反する行為(焼殺)[11]などを行っており、自分たちに対しては厳格に運用しておらず、どちらかと言えば住民を抑圧弾圧したり虐殺行為を正当化する為にイスラム法の文言を利用している。

世界中のイスラム教徒からは「あれはイスラム教を詐称したただの犯罪集団だ。断じてイスラム教ではない。」とされ、世界各国のイスラム教団体が、ISILがイスラムを勝手に名乗ることに憤慨している[12] [13] [14] [15] [16] [17] [18] [19]

支配体制と「国家モデル」[編集]

イラクの旧フセイン体制で政権を担っていた政治家・軍人・公務員などが(アメリカの攻撃によって政権が崩壊し、イラク内部での居場所を失った結果、そのメンバーが形をかえて)ISILの中核を担っている、とたびたび指摘されている。

アメリカのヘーゲル国防長官も、2014年8月14日にISILについて次のように語ったという[20]

テロリスト集団の域を超え、イデオロギーと、戦略や戦術に長けた高度な軍事力、そして資金力がある。これまで目にしてきたどの組織とも違う。 われわれは万全を期さなければならない[20]

そして、『アメリカの敵対国リストの「ナンバーワン」に急浮上した』と語ったという[20]

ISILはラッカ首都と宣言している。ロイターの記者が取材によって2014年9月に明らかにしたことによると、ISILは、次世代を見据えて「国家モデル」を構築しており[21]。たとえばシリア北東部の砂の平原にある町々においては、電気の供給、水の供給、銀行(イスラム銀行)・学校裁判所などだけでなく礼拝所パン屋にいたるまでがISILによって制圧されており、ISILにより姑息な集金方法として利用されている。また、住民らは、かつてない理不尽極まりない恐怖政治に不満を募らせている[22][21]。現地の住民らは、ISILの勢力拡大の大きな要因は、効率的で極めて現実的な統治能力にこそあると語った、という[21]。また、活動家たちはISILが大規模で組織的な仕事をやっていることに感嘆していると言い、さらに、ISILに批判的な活動家までが、ISILがわずか1年足らずで近代国家のような構造を作り上げて来たことに言及せずにはいられないという[21]。ISILは「カリフ国家」(カリフの指導下で運営される国家)が中東から東は中国、西は欧州まで広がることを望んでいるとされるが、彼らが言う「カリフ国家」がどのようなものなのか、ラッカなどで実例を示そうとしているようだという[21](→#指導体制#理念・目標・政治的主張#経済を参照)。

2014年11月の朝日新聞の記事によると、ISILは支配地域の住民のために 独自のパスポートも発行しているという[23]が、承認した国家は存在しないので使える国は無い[24]。2014年11月13日には、ISILは、独自の金貨銀貨銅貨を発行すると発表した[23]が、金や銀をどう調達するかは不明である[25](→#通貨#経済、資金調達の節も参照)。

住民[編集]

ISILは、シリアとイラクの支配地域で、少なくとも800万人を支配下に置いているという[26]

理念・目標・政治的主張[編集]

下記の理念はあくまでもISILのプロパガンダを記載した物である。これらのプロパガンダを信じてしまう人が存在する為、米オバマ政権は、ISILの主張を否定する宣伝動画を制作した[27]日本エネルギー経済研究所中東研究センターの保坂修司副センター長は「イスラーム国の思想を理解するには、イスラームの基本的な思想、基本的な法学理論・政治理論を知らなければならない」と述べた[28]。ISILの者たちは、自分たちの存立の根拠を古い古典的な議論の中に見出そうとする傾向があり、例えばサラフィー主義カリフ制についてある程度理解する必要があると指摘した[28]

復古主義的でイスラム法の厳格な適用を求め、宗教警察などを置いて違反者を逮捕したり、祈りを強要などしているという。

また西欧列強が秘密協定によって引いた国境線によって作られた国々の枠組みは「サイクス・ピコ体制」と呼ばれており[29]、ISILは、目標の一つとしてサイクス・ピコ体制の打破を掲げている[29]。いわば「押しつけられた国境」を消し去ろうとしているという事になる[29](→#理念・目標・政治的主張を参照)。

人権侵害[編集]

2014年9月にISILのイラクでの人権侵害を非難する決議が国連人権理事会で全会一致で採択された[30]

特に、欧州などからやって来ている戦闘員は残虐な行為する者が多いことが指摘されている[要出典](→#人権侵害と事件を参照)。

戦闘員[編集]

シリア人など現地の人々だけで組織が構成されているわけではなく、外国の傭兵を随時募集しており、2015年1月現在、兵士約31,000人のうち、ほぼ半数の16,000人が外国人である。プロパガンダ動画には空撮スローモーションなどの演出が盛り込まれている[31](→#兵力を参照)。

週刊新潮』2015年2月5日号特集記事『「イスラム国」大全』によると、「こうしたプロパガンダや過激なイスラム思想に共鳴し、志願したものの現実に嫌気がさしている兵士も多くいる。あるフランス人兵士は、イスラムの教えに則った生活ができると参加したが、食事は1日1-2回で薄いパンチーズ羊肉だけで給料も出なくなった。正義のために闘ってきたが、殺戮の繰り返しに単なるテロリストに過ぎないと気付き始めた。2015年1月12日には禁止されているサッカー観戦をした少年13名が銃殺されたが、これをきっかけにそういった考えを持つ外国人兵士が多くなっている。しかし母国へ帰ればテロリストとして逮捕されるためできない者も多くいる。部隊での昇進の基準は「たくさん人を殺すこと」であり、対象は民間人でも女性でも子供でもよくISILの理念に賛同しない者である。これを制度化している。下級兵士が昇進するためには「10人を殺害する」ことが条件になる。9人は殺害できたが、10人目が達成できないある兵士は妻を殺害して目的を達成した」のだという[10]

拉致と各国政府に対する脅迫行為[編集]

週刊新潮2015年2月5日号の特集記事『「イスラム国」大全』によると、ISILはさまざまな人々を拉致して人質としており、人質の国籍も多岐にわたる。元人質のフランス人ジャーナリスト、ニコラ・エナンの証言によると以下のような状態である。

「2013年6月、車から降りてきた男らに頭からコートを被せられ、わずか10秒足らずで拉致され、ラッカ近郊の石油採掘所に連行される。採掘所の事務所が刑務所になっており、シャワー室に監禁される。鉄格子の窓をこじ開け逃走するが再度捕えられ、激しい拷問を受ける。刑務所は転々とし、計10回ほど移動する。シリア人の囚人もおり、ほとんどは飲酒、麻薬売買、政治的理由によるものであり終日拷問を受けていた。エナンは20人の人質と同房で女性も6人いた。国籍は、米国、スペインデンマークベルギーイタリアなど全員が白人であった。牢は20㎡ほどで裸足で電灯、暖房、家具はなく、夏は暑く冬は寒い。窓から雪が舞い込むこともあった。食事は1日2回。昼過ぎに出る1ダースのオリーブヨーグルト、夜はカップ1杯のご飯だけと毎食ごとにパンで最低限の食事であった。トイレの時間も厳格に決められ、看守に見守られながら1日2-3回、各1分と決められていた。同室の人質が連れ出されると数日後、看守がパソコンを持ってやってきては、処刑場面を見せられた。また、オレンジ色の服はイラク戦争で捕まったテロリストが収容先のグアンタナモ米軍基地で着せられていたものと同色で、ジハード主義者にとっての復讐を意味している。すなわちこれを着せられることは、死刑囚を意味する」のだという[10]

名称とその表記に関する問題[編集]

旧称由来[編集]

旧称はアラビア語で、 الدولة الاسلامية في العراق والشام翻字: Al-Dawlatu al-ʾIslāmiyyati fii al-'Iraaq wa al-Shaam カタカナ転写: アッ=ダウラ・ル=イスラミーヤ・フィル=イラーク・ワル=シャーム)、英語に訳すと Islamic State in Iraq and the Levant (イラクとレバントのイスラム国、略称:ISIL)もしくは Islamic State of Iraq and Syria (イラクとシリアのイスラム国、略称:ISIS)となる。この他、 شام をそのままシャームと訳して Islamic State in Iraq and the Sham (イラクとシャームのイスラム国、略称:ISIS)とすることもある。レバント(シャーム)とは、主に地中海東部のエリアを指す語である[注釈 1]

国際連合日本国政府アメリカ合衆国連邦政府は、国家としての独立を宣言した現在の組織を認めないとする立場から、旧称の ISIL日本語発音:アイシル 英語発音: /ˈsəl/)を使用している。

ダーイシュ[編集]

アラビア語圏の中でも、イラクやシリアなどにおいては旧称である الدولة الإسلامية في العراق والشام の頭字語をとって داعش (翻字:Dā'ish カタカナ転写:ダーイシュ)と略され、新聞などでも一般的に使用されてきた。CNNによると、この「ダーイシュ」という言葉は否定的なニュアンスがあり、組織側は用いておらず、主に組織外部の反対派が使用している、とのことである[5]

また、 داعش 由来のラテン文字表記としては「DAISH」のほか、アラビア語翻字を省略した DAIISH 、発音から英語的な綴りに直した DAESH という表記も用いられる。

現称由来[編集]

現名称はアラビア語で、 الدولة الإسلامية (翻字:Al-Dawlatu al-ʾIslāmiyyati 音訳:アッ・ダウラ・ル・イスラミーヤ)、英語に訳すと Islamic State (略称:IS)、日本語に訳すとイスラム国となる。この名称は西側諸国で使われていたが、2014年9月21日、イスラム教スンナ派最高教育機関として知られるアル=アズハル大学のイスラム法学者団体がこのテロ組織を「イスラム国」と呼ぶ事はイスラム教およびイスラム教徒に対する侮辱であるとして強く批判し、アラブ諸国のメディアでは使わないよう求めた[9]

日本においてもアズハル大学の声明を受けて 2015年2月9日、およそ30のモスクの代表者やイスラム団体などが連名で「イスラム国という名称の変更を希望します」と題した以下の文書を、あわせて21のメディアに対して送付した[32]

日本のメディアにおいて「イスラム国」と称されている過激派組織の行いは、イスラームの教えとはまったく異なるものです。イスラームにおいて、テロ行為や不当な殺人、迫害は禁じられており、また女性や子どもの権利は尊重されなければなりません。「イスラム国」という名称にイスラムという語が入っているために、本来の平和なイスラームが誤解され、日本に暮らす大勢のムスリム(イスラーム教徒)への偏見は大変深刻です。

エジプトにあるイスラームスンニ派最高権威のアズハルからは、昨年9月、この過激派組織に「イスラム国」の名称を使用するのは不適切であり、イスラームとムスリムに対して不当であるとの声明が発表され、海外のメディアに「イスラム国」の名称を用いないよう要請がありました。しかし、日本のメディアでは、この要請が実現されておらず、国際社会が国家と認めていないただのテロ集団に対して「イスラム国」の名称が使用され続けています。(中略)

日本の皆さま、どうか「イスラム国」という名称の使用中止をお願いいたします。

「イスラム国」という名称の変更を希望します - 名古屋モスク公式サイト

NHKでは、2015年2月13日夜から「イスラム国」という呼び方を完全に廃止し、過激派組織IS=イスラミックステートという表記に変更を行った[33]朝日新聞東京新聞毎日新聞では記事中の初出ではイスラム過激派組織「イスラム国」(IS=Islamic State)として残し、2回目以降は IS とした[34]

なお、変更を躊躇するメディアが存在する理由として、トヨタ自動車が販売するレクサスISアイシス(Isis)の売り上げなどへの影響に配慮しているとする見方もある[35]。また、日本以外のメディアは Islamic State を主に使用し、文中で「ISILとも呼ばれる」と注釈をつける場合もある[36]

指導体制[編集]

アブ・バクル・アル・バグダディをトップで最高指導者とし、「財務担当」「国防担当」「広報担当」という役割を持つ行政機関の「評議会」が存在し、さらにその下にはシリア担当とイラク担当の副官が半数ずつおり、副官に任命された24人の県知事がその下におり、彼らが支配地域に配属され治安徴税などを行っている[10]シャリーアイスラム法)の厳格な運用で戒律が極端に厳しく、タバコが厳禁、女性には全身を隠し目だけを出す黒い服装の着用を義務付け、一人での外出も禁止、さらに夜7時以降は男女を問わず全員外出禁止令を発令。ヒスバと呼ばれる宗教警察が市民を関し、検問所を各所に設け、住民の出入りは厳格に管理される。警察官らは、トヨタピックアップトラックで巡回し、警戒する。肌を露出している女性を見かけるとその場で鞭打ち100回の刑を課し、飲酒や喫煙が発覚すると刑務所へ入れられたり、指を切り落とされたりする。こうした厳罰により住民に恐怖心を植え付けることで支配していると週刊新潮は分析している[10]。「評議会」の構成員にいるのは旧イラク軍元将校や政治・行政経験のあるバース党員などイラク人である。サッダーム・フセイン政権時代の元将校や元政治家が現指導体制の中核を担っており[37]、バグダディの下の最高指導部に「シリア担当」のアブ・アリ・アンバリと「イラク担当」のアブ・ムスリム・トゥルクマニがおり、どちらも旧イラク軍将校である。

イスラム法とこれらの体制が合致しているか審査する宗教機関が存在する。仮に現体制がイスラム法に背いた場合、退陣を迫る権利を有しているという[38]。役所、裁判所、警察署などの行政機関は従来からの建物を使用しているが、職員の多くはISIL側の人間に代わっている。ただし発電所浄水場など専門知識を要する施設では、元の職員がそのまま勤務している。ジャラーブルスマンビジュといった町はユーフラテス川という水源から近いため水道は24時間使えるが、電気の使用は1日3〜4時間に制限されている。また、ラッカでは電気、水道ともに1日3時間程度しか使えない状況である[10]

教育は様変わりし、ロンドンに拠点を置くシリア人権監視団体の職員の証言では、哲学や現代政治の授業は廃止され、コーランを読み込む授業が増え、語学はアラビア語だけで歴史はイスラム史のみとなっている。自然科学分野では、現実に役立つエネルギー、資源に関する授業だけである[10]

2014年11月には、ディナールという金貨の新通貨の使用を開始、ラッカではすでに一部で流通が始まっているが、供給量は少なく他の街ではほとんど見られず、シリア・ポンド米ドルが中心である[10]

イラクイランシリア弱体化を狙うサウジアラビア王族バンダル・ビン・スルターン(又はその背後のサウジアラビア総合情報庁)が陰から資金提供をしていたとも言われ、イランや駐シリアヨルダン大使、一部のジャーナリスト、学者は、バンダルこそがアルカイダやISILなどの過激派の真の指導者だと主張している[39][40][41]。ただし、バンダルが解任された2014年頃からそれまでISILを静観してきたサウジアラビアもISILを非難するようになった(#対外関係)。

理念・目標・政治的主張[編集]

ISILの広報組織「アル・ハヤート[注釈 2]」のロゴ。巧みな広報戦略を用いて世界各国から兵士を獲得している。

概説で触れたように、日本エネルギー経済研究所中東研究センターの保坂修司は、ISILの思想を理解するには、イスラムの基本的な思想、基本的な法学理論・政治理論を知らなければならない、と指摘した[28]。ISILの者たちは、自分たちの存立の根拠を古い古典的な議論の中に見出そうとする傾向があり、例えば、サラフィー主義や、カリフ制について ある程度理解する必要がある[28]と指摘されているのである。

サラフィー主義[編集]

サラフィー主義》というのは、サウジアラビアなどのワッハーブ派とほぼ同一視することができる、「ムハンマドの没後3世代(あるいは300年間)に見られた世の状態が理想的であった」とする復古主義的な思想である。《反シーア派》、[28]すなわち「シーア派が悪い」と考えるので、サウジなどを攻撃する時も、シーア派に対する攻撃を優先すべきだと考え、サウジアラビアの王族ではなくシーア派である同国の民衆を攻撃するという選択をした[28]。サラフィー主義の他の特徴としては、「アッラーのみを信じなければならない」と厳格に考え、イスラムの他派が作った 聖者廟(聖者を記念するための「お墓」)や崇拝対象となった樹木などを、偶像だとして破壊して回る行為がある[28]。イスラム的な「勧善懲悪」を重視し、サウジアラビアのように宗教警察を置き、1日5回のお祈りをしなければならないとして、それを守らない人を逮捕して暴力で強要してでもお祈りをさせたり、クルアーン(コーラン)やハディースに内容の書かれている刑罰、「ハッド刑」(書物に書かれてはいるにしても、他の多くの現代のイスラム諸国では、さすがに導入することはためらわれている刑罰の規定)をサウジアラビア同様に導入し[28]、(多くの国々の人々からすると驚くような内容だが)「窃盗をしたら左手首を切り落とす」「姦通をすれば石打ち刑に処す」などといった刑罰を実際に行ったりしている[28]。こうしたことが、他国においては人権を侵害しているように映り、大きな問題として扱われるという結果を生むことになる[28](→#人権侵害と事件を参照)。

カリフ制[編集]

カリフ》というのは、632年にアブーバクルがカリフに就任して以降続くイスラムにおける政治制度のことである[28]。ただし、1258年にアッバース朝がモンゴル軍に滅ぼされて以降「カリフ」は有名無実になり、オスマントルコの「スルタン=カリフ制」も虚構的なものであったので、ISILはオスマントルコのそれは無視している。《カリフ制》というのは、多くのイスラム諸国、多くのイスラム教徒(ムスリム)から「理想の国家」「理想の政治体制」と認識されている[28]。初期のイスラム運動の指導者 ラシード・リダームスリム同胞団などでも、《カリフ制》を理想の国家として、カリフ制度の復活を目指しており、アルカイダにとっても《カリフ制》が理想的国家である[28]

ただし、カリフ制が廃止されてからずいぶん長い年月が経っているため、ほとんどのムスリムにとって、その役割などに関して具体的なイメージが湧かず、漠然としていて、曖昧な考えしか持っていない[28]。そういう状況の中、ムスリム同胞団から分岐した解放党などは、《カリフ制度》を明確に理論化し、イスラムの国家制度の中に組み込もうとしている[28]。このことについて「イスラーム国がカリフ制度が実現したかのようにみせたということに大きな意義がある」と保坂修司・日本エネルギー経済研究所中東研究副センター長は語っている[28]

2014年時点で、ISIL側が支配すべきと主張している地域(オレンジ色の場所)[42]

主張する領土[編集]

第一次世界大戦中の1916年に、イギリスはフランスやロシアとともにオスマン帝国の領土を、アラブ人やクルド人などの現地住民の意向を無視して、自分たちの勢力圏を決める秘密協定「サイクス・ピコ協定」を締結し、戦後その協定に修正を加えて国境線を引いた。オスマン帝国領から西欧列強植民地となった地域はその後独立したが、シリア、レバノン、イラク、ヨルダンといった国々に分割されたという歴史がある[29]。西欧列強は中東の古い秩序を根こそぎひっくり返してしまった[29]。西欧列強が秘密協定によって引いた国境線によって作られた国々の枠組みは「サイクス・ピコ体制」と呼ばれている[29]。ISILは、目標の一つとしてサイクス・ピコ体制の打破を掲げている[29]。「押しつけられた国境」を消し去ろうとしているかのようである[29]

ISILは、イラクやシリアなどの中東諸国を、サイクス・ピコ協定に代表されるヨーロッパの線引きにより作られた「サイクス・ピコ体制」だとしてこれを否定し[43]、武力によるイスラム世界の統一を目指している。

2014年、ISILは、「5年後に占拠する領土のプラン」を発表したと報道された[44](異論もある[45])。彼らが発表したとされる「領土」はスペインからアフリカ北部、中近東を経てインド中国にまで及んでおり、歴代のイスラム王朝の領土と重なっている。そしてその区割りは現在の国境とは異なっている。

2014年7月に行われた最高指導者アブー・バクル・アル=バグダーディーの演説では、ISILは将来的にはローマへ侵攻するとしている[46]

彼らが発表したとされる「領土」には、イラクを除いて古称によると思われる独自の名称が付されている[注釈 3]

ただし、中東調査会の高岡豊は、2014年11月の段階で、領土の主張は大義名分に過ぎず、ISILは支配した領域の統治を考えず、イナゴの大群のように移動しながら殺人、誘拐、略奪などを繰り返す運動体にすぎない、とした[48]。また池内恵は、2014年11月の雑誌で「イスラーム国はオスマン帝国の復活を望んでいるのではなく、初期イスラム帝国のように、スンニ派アラブ人のカリフのもとに、イスラム教徒の諸民族や異教徒(キリスト教徒とユダヤ教徒)を支配下におく体制を目指している」とした[49]

イスラム法の重視・実行[編集]

ISILは、実効支配地域において、従来の教育制度を大きく改めることを表明している。歴史哲学公民体育音楽図工などの世俗的学校教育を全面的に禁止し、イスラム法の極端な解釈に基づく過激な思想教育を児童に教えている。教師にも、イスラム法の講座を受けることを義務づけている。また、学費を無償としていたアサド政権と異なり、学費として1000シリア・ポンドを徴収する[50][51]

2014年、ISILはコーランに従って[52]奴隷制度の復活・運用を国際社会に公表した[53]。ISILは、奴隷の取引額のガイドラインを発表しており、これに違反した者は処刑される。ガイドラインによれば、外国の出身でない限り、購入できる奴隷の数は3人までで、40歳から50歳のヤジディ教徒キリスト教徒の女性は27ポンド(約5千)、10歳から20歳の少女は80ポンド(約1万4千円)、1歳から9歳の女児は100ポンド(約1万8千円)以上で売られ、年齢が若くなるにつれ奴隷の価格も増すようになっている[54]

歴史[編集]

2000年頃にアブー・ムスアブ・アッ=ザルカーウィーがヨルダンなどで築いた Jama'at al-Tawhid wal-Jihad(アラビア語:جماعة التوحيد والجهاد /タウヒードとジハード集団という意味、 略称: JTJ)を前身とする。この集団はアフガン戦争後、 イラクに接近し、2003年のイラク戦争後はイラク国内でさまざまなテロ活動を行った。2004年にアル=カーイダ(アルカイダ)と合流して名称を「イラクの聖戦アル=カーイダ組織」と改めたが、外国人義勇兵中心の彼らはイラク人民兵とはしばしば衝突した。

2006年1月にはイラク人民兵の主流派との対立をきっかけに名称を「ムジャーヒディーン諮問評議会」と改め、他のスンニ派武装組織と合流し、さらに2006年10月には解散して他組織と統合し、「イラクのイスラム国」と改称した。また、のちに指導者となるアブバクル・バグダディは、この2006年ごろにアメリカ軍によって一時拘束されて、収容所に入れられていたという。バグダディは、収容所の中で存在感を示し、後にISILの幹部となる者達と関係を築いた可能性が指摘されている[55]

2009年10月25日と12月8日、「イラクのイスラム国」は首都バグダードで自爆テロを実行し、両日合わせて282人が死亡、1169人が負傷した[56][57]アメリカ軍は「イラクのイスラム国」がインターネット上の組織に留まり、実際にバグダーディー師と呼ばれる組織内の人物は存在しないと主張していたが[58]2010年4月18日、イラクのヌーリー・マーリキー首相はISILの首長アミールアブー・ウマル・アル=バグダーディーと同戦争相アブー・アイユーブ・アル=マスリーティクリート近郊で行われたアメリカ軍とイラク軍の合同作戦により死亡したと発表した[59]

2012年3月20日には、バグダードを含む数十都市で連続爆弾テロを実行し、52人が死亡、約250人が負傷した[60]

2013年4月、アブー・ウマル・アル=バグダーディーの後を継いで首長(アミール)に就任したアブー・バクル・アル=バグダーディーアル=ヌスラ戦線が「イラクのイスラム国」の下部組織であり、今後はアル=ヌスラ戦線と合併して組織を「イラクのイスラム国」から「イラクとレバントのイスラム国」(略称: ISIL)、別称「イラクとシリアのイスラム国」(略称: ISIS)に改称するとの声明を出し[5][61][62]シリアへの関与強化を鮮明にした[63]。同年7月、検問所での通行許可を巡り口論となった自由シリア軍の司令官を殺害した[64]

2013年7月21日、アブグレイブ刑務所とバグダード近郊のタージにある刑務所を襲撃し、500人あまりの受刑者が脱獄、治安部隊21人と受刑者20人が死亡した[65]。脱獄者の中には、武装勢力の戦闘員や幹部も多数含まれているとされる。組織側によると、今回の襲撃をもってイスラム教徒を牢獄から解放する一連の作戦は終了したとしている[66]

2013年8月、アレッポ近郊のシリア空軍基地を制圧[67]。同年9月、自由シリア軍がシリア軍から奪還し1年近く支配下に置いていたトルコ国境沿いのアッザーズ英語版を戦闘の末に奪取、制圧した[68][69]。アッザーズ制圧の際、現地で活動していたドイツ人医師を拘束している[70]

「イラクとレバントのイスラム国」は、アルカイダと関連のある武装集団だが、2013年5月に出されたアイマン・ザワーヒリーの解散命令を無視してシリアでの活動を続けているなど、アルカイダやアル=ヌスラ戦線との不和が表面化している[71][注釈 4]。この不和の原因は「イラクとレバントのイスラム国」の残虐行為が挙げられており[73]、実際にアルカイダを上回る残虐な組織であるとの指摘するメディアもある[74]。2014年2月には、アルカイダ側が「イラクとレバントのイスラム国」とは無関係であるとの声明を出した[75]シリア内戦の反政府派とも衝突しており、一部のシリアの反政府派は連合を組んで「イラクとレバントのイスラム国」を攻撃している。シリア反体制活動家は、「イラクとレバントのイスラム国」について「アサド大統領よりも酷い悪事を働いている」と語っている[76]

2014年2月には支配地域のラッカでキリスト教徒に対して、課税(ジズヤ)及び屋外での宗教活動の禁止を発表した[77]

また、シリアの油田地帯を掌握し、原油販売も行っていると伝えられている[78]

イラクへの侵攻[編集]

2014年に入り、シリアの反アサド政権組織から武器の提供や、戦闘員の増員を受けたため、急速に軍事力を強化した。その軍事力を使い政権奪取を目指して、イラクの各都市を攻撃し始めた[79]。2013年12月30日のイラク西部アンバール県ラマーディーの座り込み運動の解散をきっかけとして侵攻を開始し、1月にラマーディーと同県の都市であるファルージャを掌握[80][81]、3月にサマラを襲撃した[82]。サマラからは6月5日のイラク軍の空爆により追放されたが[82]、6月6日、モースルに複数の攻撃を実施した[83]。6月10日、モースルを陥落させた。武装集団は、数百人規模で9日夜からモースル市街地を攻撃し、10日までに政府庁舎や警察署、軍基地、空港などを制圧した。過激派系のウェブサイトは、武装集団が刑務所から約3千人の囚人を脱走させたとしている[84]。6月11日にモースルのトルコ領事館を制圧し、同国の在モースル総領事を含む領事館員ら48人を誘拐した[85]。6月15日政府軍との戦闘の末、タルアファル英語版を制圧[86]、6月17日にはバグダッド北東約60キロのバアクーバまで進撃し[87]、6月20日までにバイジ英語版の油田施設を包囲した[88]。6月25日、イラク戦争で「キャンプ・アナコンダ」として知られているバラッド統合基地英語版を攻撃しアジール油田地帯を制圧した[89]。また、ニーナワー県断水させた[90]。「イラクとレバントのイスラム国」は占領したモースルでシャリーアの強制による支配を行い、イラク政府への協力者に対する殺害ならびに盗みや強盗をした者の手足を切る刑罰を課しており[90][91]、モースルの住民は退去を迫られている[90]

国際政治学者の酒井啓子は、これらの攻撃に対してマーリキー首相は全く対応できていないと指摘している[92]。一方、6月17日にイラク首相府は「イラクとレバントのイスラム国」をスンナ派サウジアラビアが財政的に支援し、大量虐殺を引き起こした責任があると非難する声明を発表した[87]。これに対してはサウジアラビアとアメリカから反発が出ている[87][93]米共和党ランド・ポール上院議員は「イラクとレバントのイスラム国」が強化された理由の一つとして、アメリカ政府がシリア政権打倒のため「イラクとレバントのイスラム国」に武器を移送したことを挙げている[94]。また、オーストラリアジュリー・ビショップ英語版外務大臣は150人のオーストラリア人が「イラクとレバントのイスラム国」に加入していると明らかにし、彼らの帰国の懸念を表明した[95]。6月20日、国連人権理事会は「イラクとレバントのイスラム国」の侵攻によって100万人の住民が避難を余儀なくされていると声明を出した[96]

「イスラム国」の樹立宣言[編集]

2014年6月29日、「イラクとレバントのイスラム国」は同組織のアブー・バクル・アル=バグダーディーが「カリフ」であり、あらゆる場所のイスラム教徒の指導者であるとし、イスラム国家であるカリフ統治領をシリア・イラク両国の「イラクとレバントのイスラム国」制圧地域に樹立すると宣言した。また同声明において組織名からイラクとレバントを削除し、「イスラム国」と改変することを発表した[8]

ISILに対抗する有志連合の結成[編集]

ヤズィーディー教徒への援助と、ISILへの空爆を宣言するオバマ大統領

8月8日、アメリカ軍がISILの武装勢力に対して、限定的な空爆及びヤズィーディーなどに対して支援物資の供給を開始。初日は、クルディスタン地域アルビル近郊に展開していた野砲や車列が攻撃対象となった[97]。アメリカは、空爆の期限を設けず、今後も空爆を実施することを示唆している[98]。同年10月に入って、空爆の作戦名は「生来の決意」(Operation Inherent Resolve) と名付けられていることが明らかになっている。

ただし、アメリカ軍の空爆は、ISILのイラク支配地域に限定されており、ISILの本拠地であるシリアでは実施されていないため空爆の効果を疑問視する人もいた。シリア国内のISIL拠点を攻撃しないのは、ISILと対立するアサド政権を支援する形になるためと指摘されている[99]。8月22日、アメリカはシリア国内の拠点に対する空爆の検討を開始したと発表した[100]。この時点で、ISILの支配領域の合計面積は、イギリスより広くなっている[101]

2014年8月16日にドイツハノーファーで行われたISILへの抗議デモ

8月24日、ISILはシリア北東部のラッカ県にあるシリア政府軍の空軍基地を制圧、ラッカ県のほぼ全てを手中に収めた[102]。この時、ISILは先日、シリア兵500人を捕らえたが、8月28日、このうち160名を処刑したと発表、処刑映像を公開した[103]

8月25日、アメリカ合衆国のバラク・オバマ大統領は、アメリカ軍によるシリア上空での偵察飛行を承認した[104]

シリアのアサド政権は、ISILの勢力拡大に対して国際社会と協力する用意があると表明した。これまでアサド政権打倒を目指してきた反政府派を支援してきたイギリスアメリカ合衆国の協力も歓迎するとしている[105]。8月31日、ドイツはISILが自国の安全保障の脅威になるとして、ISILと対峙するクルド人勢力に武器を供与する方針を発表した[106]。ドイツは世界第3位の武器輸出国である一方で、これまでは紛争地域への武器輸出を見送ってきたが、方針を転換した[107][108]

9月1日、国際連合人権理事会は、ISILのイラクでの人権侵害を「最も強い言葉」で非難する決議を全会一致で採択[109]、ISILの行為は戦争犯罪人道に対する罪に当たるとした[110]

9月19日、国連安全保障理事会は、全会一致でISILの壊滅に向けて対策強化を求める議長声明を採択した[111]。また同日、フランスはISILのイラク北東部の補給所に対して、初の空爆を実施した[112]

9月23日にはアメリカ主導による有志国がシリア国内でも空爆作戦を開始した[113]。さらに11月8日にはアメリカ軍などによって、ISILの幹部たちが乗る車列が空爆された。アル=アラビーヤが地元部族の話として伝えたところによると、この中に、最高指導者のアブバクル・バグダディが乗っており、バグダディは致命傷を負ったという[114]。ただし、アメリカ中央軍は、この車にバグダディが乗っていたかどうかについて不明としている[115]

2014年11月24日、アメリカ政府はチャック・ヘーゲル国防長官の辞任を発表した。辞任発表の場にはヘーゲル国防長官も立ち会い、円満な辞任であるという形での発表であったが、ヘーゲルはオバマ大統領と対ISIL政策が対立したため辞任に追い込まれた面が強く、事実上の更迭と見られている[116]。ヘーゲル国防長官は、泥沼の中東から、アメリカが足抜けするための出口戦略を後押しすることが期待されて国防長官に就任した人物であり、ISILとの戦争には消極的で、そのために再び中東への介入を強めるように転換しつつあるオバマ政権と対立していたとウォールストリートジャーナルは推測している[117]。一方で国防総省はISILの危険性を早期に認識し地上部隊の派遣を具申したものの、あくまで軍事予算の削減により財政再建を目指し、軍事介入は限定的な空爆に留めたいホワイトハウスと対立していたとの見方もある[118]

2014年12月、イランのF4ファントム戦闘機がイラク東部でISILに対する空爆を行った[119]

2014年12月24日、ISILは、米軍主導の有志連合の戦闘機撃墜ヨルダン人の操縦士を拘束したと発表した[120]

2015年1月26日、パキスタン・ターリバーン運動(TTP)元幹部とみられる人物を、ホラサン(ホラーサーン)州知事に勝手に任命した[121]ターリバーンはISILと協力関係にないが、TTPを脱退してISILに参加した人物とみられている。

2015年1月26日、コバニ包囲戦にて、ISILと戦っていたクルド人民兵部隊が、コバニをISILから奪還したと発表した。クルド人部隊と、アメリカなどの有志連合の空爆の連携が、有効に機能した結果とされる[122]。世界的に注目されていたコバニの攻防で、ISILが敗北したことは、ISILの士気や、各地の支配に影響を及ぼすとの意見がある[123]。コバニでの戦いでは、クルドとISIL双方の戦闘員や、住民など約1600人が犠牲となったとされる[124]

イラク・シリア国外への動き[編集]

2015年1月26日、ISILは、支持者に対し、各地での攻撃を呼びかける声明を出した[125]

これを受けての攻撃と思われる動きが世界各地で起きており、1月27日にはリビアの高級ホテルが武装勢力に襲撃され、9人が死亡する事件が起こった。この事件では、イスラム国「トリポリ州」を名乗る集団が犯行声明を出した[126]。この事件では、現地の者だけでなく、アメリカ合衆国韓国フランスフィリピンなどの者も犠牲となった[127]

1月29日には、エジプト北部の北シナイ県の軍事基地や警察署などを、武装集団が襲撃し、少なくとも26人が死亡する事件が発生した。ISILに忠誠を誓い、ISILのエジプト部門となった過激派エルサレムの支援者英語版が犯行声明を発している[128]。なおエジプト軍の報道官は、軍によって結社禁止となったムスリム同胞団が関与していると主張した[129][注釈 5][130]

支配地域の推移[編集]

※2014年10月まではシリア国内の状態のみ表示

対外関係[編集]

対立[編集]

国家樹立宣言も2014年6月に済ませてあるが、今のところISILを承認している政府はない。

ISILはアジアや西洋のほとんどすべての国の政府と敵対している。ロシアにも宣戦布告している[131]日本政府もこれらの国とISIL包囲網に加わる共同声明を発表している[132]

ISIL側は、中国インドパキスタンソマリアモロッコインドネシアアフガニスタンフィリピンチュニジアリビアアルジェリアミャンマーなどを「攻撃対象」として名指ししている[133]

米国[編集]

2014年9月22日、アメリカの国防総省はアメリカ軍がシリア北部のラッカにて、「ISILに対する空爆を実施した」と明らかにした[134]。アメリカの国防総省は「攻撃には戦闘機、爆撃機が参加したのに加え、巡航ミサイル「トマホーク」も使用された」と説明[135]

湾岸諸国など[編集]

ISILが支配することを目標としている場所にある国々の政府は全て、(国土をほとんど奪われかねないので、ある意味、当然のことであるが)ISILを敵視している。ただしサウジアラビア総合情報庁は、シリア、イラク、イラン弱体化のために、影でISILなどの過激派に資金提供を行ってきたとされる(→#指導体制を参照)。

シーア派のイランはイラク軍と協力して越境攻撃も行い[136][137]、反ISILの戦いを続けるイラクのクルド人勢力に武器を提供しており[138]、かつては同じスンニ派を信じるためにISILの動きを静観していたサウジアラビア(前記の通りISILの陰のスポンサーとの指摘あり)などの湾岸諸国もまた、自国に対するテロの温床になりかねないとしてISILを強く批判するようになっている[139]

アラブ連盟は2014年9月7日に会合を開き、ISILを含む過激派勢力に対抗するために「必要なあらゆる措置を取る」という声明を発表した[140]

2014年9月11日、ヨルダンエジプトトルコサウジアラビアUAEオマーンクウェートバーレーンカタールの外相が、ジョン・ケリー国務長官と会談し、アメリカの軍事作戦に協力することを約束した[141]。2014年9月19日、トルコは、シリアとの国境にある有刺鉄線を排除し、国境を開放、ISILから逃げてくるクルド人などをトルコ領内に受け入れた[142]

ISILはスンニ派を信仰しているとされるが、同じスンニ派であっても敵対する者は容赦なく排除する。イラクのスンニ派部族の中には、ISILと相容れずに戦っている者も少なくないが、ISILは彼らを大量に処刑、殺害している[143][144]

ISILと同じくサラフィー・ジハード主義を掲げるイエメンイスラム過激派組織「アラビア半島のアルカイダ」は、ISILがイエメンの地を「自国領土」としているために対立しており、ISILを非難する声明を出している[145]

支持[編集]

勢力を伸ばすISILを支持したり、傘下に入ったりする過激派組織は増えている。2014年6月、イスラム国の樹立を宣言した時、ナイジェリアボコ・ハラムは支持を表明している[146]。2014年9月には、フィリピンの過激派組織アブ・サヤフがISILとの共闘を宣言した[147]。2014年10月14日、ISILと対立するターリバーンと関係の深いパキスタン・ターリバーン運動の幹部6人がISILの傘下に入った[148]。2014年11月10日、エジプトの過激派エルサレムの支援者英語版が、ISIL最高指導者アブバクル・バグダディへの忠誠を表明した[149]。「エルサレムの支援者」は、後に「イスラーム国シナイ州」と名を変えた[150]。他にも、リビアの過激派「イスラム青年シューラー会議」が、イスラーム国出身の者に指導され、「イスラーム国キレナイカ州」と名乗るようになっている[151]

2014年12月、環球時報東トルキスタンイスラム運動に所属するウイグル族中国人約300名がISILに参加したと発表した[152]。その後エルサレムの支援者たちはISILのエジプト部門となり、同様にアルジェリア部門の中心となったカリフの兵士リビア部門となったイスラーム青年シューラ評議会といった組織もある。

その他、ヨルダンではタヒドの息子たちレバノン自由スンニのバールベック大隊インドネシアではファクシという組織がISILを支持している。

テロ指定の状況[編集]

2015年1月時点でISILをテロ組織として認定しているのは、国連[注釈 6]、EU[159]、イギリス[160]、アメリカ[161]、ロシア[162]、オーストラリア[163]、カナダ[164]、インド[165]、エジプト[166]、サウジアラビア[167][168]、UAE[169]、日本[170][171][172]である。

軍事[編集]

兵力[編集]

ISILの構成員は、1万数千人と言われているが、そのうち、約6300人はイスラム国の建国を宣言してからの加入者だと言われており、建国宣言から急速に勢力を拡大している。新規参加者のうち大半はシリア人とされる。アメリカ合衆国CIAは、戦闘員の数は2万人から3万1500人に上るとする見方を示している[173]

戦闘員の人数は最小で3万、最大で15万人との推計もある[174][175]

外国人戦闘員[編集]

外国人戦闘員は、アラブ諸国欧州中国(特にウィグル自治区)などから参加している[176]

アメリカやフランスの研究機関によると、(2014年11月時点の分析で)チュニジアからは3000人、サウジアラビアからは2500人が戦闘員としてISILに参加している[177]

ヨーロッパ諸国では、ISILをはじめとするイスラム過激派に加わった自国民が、帰国した後にテロを起こす可能性を危惧している[178]。イギリスのキャメロン首相は、2014年8月29日、イギリス国籍のISILの戦闘員は少なくとも500人にのぼると語り、国外でテロ行為に関わった疑いのあるイギリス国民の出入国を抑制する方針を発表した。ただし、移動の自由を侵害しかねない懸念もあり、イギリスの自民党国際法違反と指摘している[179]。2014年8月、ドイツメルケル首相によれば、ISIL要員は約2万人で、うち欧州出身者が約2000人を占めると語った[180]。ドイツからは、400人超の若者がISILの戦闘員となり、このうち100人はドイツに帰国しているとされる。ドイツのデメジエール内相は、ISILを支援するあらゆる活動を禁止する方針を発表した[181]アメリカ国防総省は、10人ほどのアメリカ人がISILに参加しているらしいと発表した[182]。 非イスラム教国の中では、ロシアから最も多くの戦闘員が出ており、ロシア出身の戦闘員数は800人という説がある[177]

日本人

田母神俊雄イスラエル訪問時に「9人の日本人がISILに参加している」という情報を得たとブログで発表した[183]が、中山泰秀外務副大臣がイスラエルに確認した所、そのような情報は無いという回答であった[184]

2014年10月6日、警視庁北海道大学の学生がISILに加わろうとしたとして、私戦予備および陰謀の疑いで事情聴取をした。学生はISIL司令官と太いパイプを持っているイスラム法学者中田考の紹介によって、ISIL幹部と接触しようとした。中田は幹部に学生を紹介し、ルートや通訳の手配をしたことについて公安の事情聴取と家宅捜索を受けた。

戦闘員の募集手段、戦闘員の出身階層

ISILの構成員はTwitterYouTubeにアカウントを開設し、画像や動画を投稿するなどしてプロパガンダ活動を展開している。TwitterやYouTubeなどから相次いでアカウント停止処分を受けたため[185][186]、2014年8月にはインターネット上での活動を分散型SNSのDiasporaへ移行する動きを見せたという報道もある[185]が、2015年1月の「イスラム国日本人拘束事件」に際しても犯行声明動画がYouTubeに投稿され、その動画を宣伝するためにTwitterへの投稿が行われている[187]など、SNSを利用したプロパガンダ活動は続いている。これに対し、TwitterやYouTubeなどはISIL関連アカウントを凍結する措置を継続しており、Twitterでは1万8000件以上のアカウントが凍結されたという[188]。このように、ISILは、インターネットを使った巧みな宣伝術を持っているため、これが欧米からも若者が加わる要因にもなっている[74]

かつて、ヨーロッパ人でイスラム過激派に加わる者は、不遇な生活環境や家庭的に恵まれない若者が多かったとされるが、現在は中流・富裕層も多くいるとされる。フランス24によれば、ISILは、アルカイダと比較して、領土的地盤があり、資金が豊富で、巧みな広報戦略などの点で、参加者にとって魅力的に映っているとされる[189]。FBIの調査によると、アメリカからのISIL参加者の人種・民族・職業・年齢に特有の特徴は見られないという[190]。マレーシアからの参加者には一般公務員、軍人、研究職なども多く含まれており、特に公務員への浸透が問題となっている[191]。またISILの元戦闘員の証言によると、ヨーロッパ出身者など、中東以外から来た戦闘員が、主に残虐な犯罪を犯すという[192]

ヨーロッパの家庭で子が戦闘員になった場合の状況

ヨーロッパに残された家族は、家族を失ったことの悲しみの他、社会からは「親の教育のせい」という批判を受けるという二重の苦しみを味わっている。ベルギーでは、子供が過激派に参加している家族の会が、若者の過激派入りを予防する運動を行っていたが、ベルギー社会からは「過激派の仲間」として扱われ、リンチじみた中傷を受けて、家族の会は解散に追い込まれた[193]

細胞組織

中東北アフリカの全域でISILの細胞組織の増加を示す証拠が増えてきており、リビアにはすでに3000人の戦闘員がいるとされる[177]

少年兵

ISILは、13歳の少年兵も動員しているとされ、国連は懸念を示している[194]

装備[編集]

初期の段階では、戦闘員の多くはAK-47RPG-7を装備し移動にはテクニカルを利用するなど、テロリスト然とした装備であったが、その後 事態が長期化するにつれてイラク軍から鹵獲したアメリカ製およびヨーロッパ製の武器(M4カービンFN MAGなど)や、欧米からの志願兵が持ち込んだ戦闘服タクティカルベスト暗視ゴーグルなどの近代的な装備を利用し始めている。またイラク軍の基地を制圧した際には、ハンヴィーMRAPなどの装甲車、T-5559-I式カノン砲ZU-23-2などの地上戦力だけでなく、MiG-21UH-60 ブラックホークといった航空機までも入手しているとされる[195]

ISILは、数的には決して圧倒的ではないが、優れた西側の兵器やシリア内戦で得た戦闘経験を持ち、攻撃目標の適切な選択をすることで、不必要な犠牲を出さない効率的な戦い方を心得ており、志願兵の流入と相まって勢力を拡大している[196]

2014年6月には、ISILはイラクフセイン時代に建設された化学兵器関連施設を制圧した[197]。2014年10月24日には、ISILが、イラクで有毒の塩素ガスを化学兵器として戦闘に用いた可能性が報じられた[198]。この化学兵器関連施設は、2014年12月1日に、イラクが奪還した[199]

2015年2月10日化学兵器禁止機関東京記者会見を開き、イスラーム国が、イラク兵士に対して塩素ガスを使ったと、イラク当局から通報を受けたことを明らかにした。化学兵器禁止機関は、この通報について「疑いを持つ根拠はない」とする一方、イスラーム国による化学兵器の保有については把握していないとした[200]

評価[編集]

2014年8月22日、チャック・ヘーゲル国防長官は記者会見で、ISILの特徴として野蛮な思想と洗練された軍事力、潤沢な資金を併せ持つことを挙げ、「これまでに見たどの組織よりも洗練され、資金も豊富で、単なるテロ組織を超えている」と評した[201][202]。ISILは、アメリカ合衆国の最大の敵として急浮上している[203][204]。豊富な資金源を持つISILは、アル・カーイダをしのぐ影響力を持つ可能性も指摘されている[205]

アメリカのマーティン・デンプシー統合参謀本部議長は、2014年11月の段階で、ISILの掃討にかかる時間は、3年から4年の長期戦になるとの見方を示した[206]

経済、資金調達[編集]

資金調達、経済運営[編集]

かつては、ISILは湾岸諸国の(イスラムの)富裕層からの寄付(資金援助)や、イスラム世界全体からの寄付で資金を得ている(依存している)と考えられていた[26]

しかし2014年8月の段階ですでに、資金面ではほぼ自立している状態になっているという[26]。米国の国務省当局者の分析では、外部からの資金供与の割合はほんのわずかなのだという[26]

ウォールストリートジャーナルに掲載された情報によると、ISILの主な資金獲得方法は次のようなものだという(2014年8月時点)[26]

イラクイランシリア弱体化を狙うサウジアラビア王族バンダル・ビン・スルターン(又はその背後のサウジアラビア総合情報庁)が影から資金提供をしていたとされ、イランや駐シリアヨルダン大使、一部のジャーナリスト、学者は、バンダルこそがアルカイダやISILなどの過激派の真の指導者だと主張している[207][208][209]。ただし、バンダルが解任された2014年頃からそれまでISILを静観してきたサウジアラビアもISILを非難するようになった。

自立的収入

商人や農民に寄付をさせ、公共交通機関から手数料をとり、支配地域にとどまる選択をしたキリスト教徒などからは「安全保証料」を徴収しているという[26]

石油・小麦・古代遺物の取引の管理と闇市場の運営をしている[26](取引相手には、意外なところではアサド政権派のシリア人、シーア派、クルド人ビジネスマンまで含まれる[26])。

シリアとイラク内のISIL支配地域で、経済はおおむね安定しているという。 ISILには、組織内に資金を管理する「財務相」と財政委員会を置いているという[26]

シリアの反体制派の者が語ったことによると、ISILはラッカ県とデリゾール県の8カ所の油田・ガス田を管理しており、(シリアやレバノンの石油取引業者の話では)重質油は1バレルを26〜35ドルで、軽質油は最高60ドルで、地元やイラクの石油取引業者などに売り渡しているという(2014年8月時点)[26]

ISILは、原油販売や、支配地住民への略奪や課税密輸などを通じて、2014年には1日当たり100万ドルを調達していたが[210]、その後、制圧した原油が増加し、2014年8月下旬時点では1日当たり200万ドル(約2億800万)余りの資金を調達していると見られている[101]。ISILは、1日あたり3万バレルの原油を産出しているとされる[210]。また、遺跡盗掘も資金源になっていることが判明した[211]

2014年11月27日、石油輸出国機構の総会で、減産を見送り、12カ国の生産目標をいまの日量3千万バレルで据え置くことを決めた。これに伴って、原油価格が急落した[212]。この原油安は、ロシアではロシア・ルーブルが暴落し、急遽、ロシア政府が12月16日に政策金利を10.5%から17%に大幅に引き上げたり、ベネズエラでは債務不履行の懸念が高まる[213][214]など、原油輸出国に大きな打撃を与えている[215]。この原油安について、各所で陰謀論が唱えられており、代表的な所ではロシアプーチン大統領アメリカサウジアラビアによって仕組まれた可能性を示唆している[216]。また、イランハサン・ロウハーニー大統領も陰謀論を唱える代表的人物である[217]。同時期にアメリカホワイトハウスが出した発表において、オバマ大統領サウジアラビアアブドラ国王とISILへの対応に関して話し合いをした[218]とのことだが、原油価格について触れられたかどうかのデータは無い。

外部からの資金

西側当局の分析では、ISILは、収入を増やすために、人質身代金)を組織的に活用している、とのことである。ただし、解放した人質の数(=身代金を得た件数)は少ないため、結局 身代金による収入は安定したものになってはいないと見られている[26]

外部からの資金である 「湾岸諸国の富裕層からの寄付」は急減しているという(2014年8月時点)。ISILが湾岸諸国にとっても脅威であると認識されるようになったからだという[26]

制圧による支配[219]

ISILは住民からあらゆる物を略奪している。銀行発電所礼拝所パン屋に至るまで制圧している。利があると見れば、敵対するはずのアサド政権と親しい業者とも取引を行う他、元アサド派や、多数いる外国人にも要職を任せており、貧困層や母子家庭への支援も行っている[220]

通貨[編集]

2014年11月13日、ISILは独自の金貨銀貨銅貨を発行すると発表した[23]。ISIL自身の説明[221]においては(オスマン帝国のことには一切触れられておらず)ウマイヤ朝のカリフであるアブドゥルマリクによる金貨が起源である、とする説明がなされている。ISILは、支配する域内で今まで流通してきた(そして「専制国の通貨システム」として彼らが忌み嫌っている)米国のドルイラク・ディナールを使用することは止めて、今回発行することになった独自通貨を使用するよう勧めている、という[23][222]。2014年11月13日に朝日新聞の採用した分析・推測では、独自通貨を発行・流通させることは経済の統制を強める狙いもあるが、国家としての正統性を高める狙いもあるとされる[23]。これらのお金の単位は、(ISILのメンバーらが、この地域の本来の あるべき姿だと思っている)オスマン帝国が用いていた通貨名・硬貨名と同じ、「ディナール」や「ディルハム」などである[23]。硬貨のデザインとしては、アルアクサー・モスクなどイスラム教に関係する絵柄が描かれており、(通貨名および)図柄により、ISILのことを、イスラム国家であったオスマン帝国を継承している正統性のある存在として、各地のムスリムたちに認めてもらおうとする狙いがある、と朝日新聞は分析した[23]

2014年11月には、ラッカの一部で流通が始まっているが、供給量は少なく他の街ではほとんど見られず、シリア・ポンド米ドルが中心である[10]

プロパガンダ戦略[編集]

ISILの英語版ネット機関誌「Dabiq」には2014年7月、創刊時に「アラーの戦士は村々を開放するだけではない。住民のニーズも無視しない。預言者は代理人を指名し、残された住民の面倒を見るよう命じた。たとえ苛烈な戦時にあってもムスリムたちを放置はしない。そのニーズには応える」と謳っている。また地域のインフラの整備を行っているとし、電気の復旧、農業地域での灌漑設備の建設・整備、高速道路、一般道路の補修などを手がけ、橋の修復工事の写真を載せるなどしている。同時に、小児がん対策や老人ホームの拡充など福祉、厚生、医療の充実を謳う記事や写真と、捕虜への虐待シーン、処刑地までの死の行進の写真などを同時に載せるなどしている[10]

人権侵害と事件[編集]

2014年10月10日、オーストリアウィーンで行われた、亡命クルド人によるISILを批判するデモ

2014年6月11日、イラクモースルにあったトルコ領事館にいたトルコの外交官や軍人、その子どもたち49人が、ISILによって拉致された。のちにイラク人スタッフ3人は解放されたが、トルコ人たち46人は3ヶ月後の9月20日まで拘束されていた。解放後、トルコ人たちは無事に母国へと戻った。この拉致事件の解決には、詳細は不明であるが、トルコの情報機関と軍、警察当局が取り組んだとされる。身代金の支払いは無かったという[223]

2014年7月、イラクのモースルにあったイスラム教徒とキリスト教徒の双方が崇敬[注釈 7]する預言者ヨナの墓があるナビ・ユヌス (Nabi Yunus) 聖廟を爆破したほか、盗掘も行っており、これに関しユネスコイリナ・ボコヴァ事務局長が「カルチュラル・クレンジング(文化浄化)」であると批判した[224]

8月19日、拘束していた米国人ジャーナリスト、ジェームズ・フォーリー斬首し、処刑動画が投稿された。ISILは米軍による空爆への報復と主張している[225]8月20日ホワイトハウスはこの動画が本物であると発表した[226]。フォーリー記者の処刑を担当した兵士は、動画の中で英語を話していたが、その発音イギリスの特徴のあることから、イギリス人の可能性が指摘されている。イギリスの警察などは、身元の調査を開始した[227]

国連人権理事会でISILの人権侵害を非難する決議が全会一致での採択される

2014年9月に国連人権理事会でISILのイラクでの人権侵害を非難する決議が全会一致で採択された[228]

だがその後も9月2日に米国人ジャーナリスト[229]、9月13日に英国人の人道支援活動家[230]。10月3日に英国人のタクシー運転手の人道支援活動家[231]、11月16日に米国人の人道支援活動家[232]の処刑映像が配信されているが、処刑された人物は全てオレンジ色の服が着せられている。オレンジ色の服の由来は、イラク戦争後、イラクの旧アブグレイブ刑務所では拘束されたイラク人捕虜がオレンジ色の服を着せられたことに因る[233][234]。ISILは人質にオレンジ色の囚人服を着せてひざまづかせるという構図によってアブグレイブの報復を示唆しており、ISILの宣伝につなげている。

2014年11月3日、オーストラリアシドニーで、シーア派の信者が銃で撃たれる事件が起こった。事件前、車に乗った男たちが「イスラム国は永遠」「シーアの犬め」と叫ぶ姿が目撃されており、トニー・アボット首相は、ISIL支持者による犯行との見方を示した[235]

日本人の拘束と殺害[編集]

2014年8月、「民間軍事会社のCEO」としてシリア入りしていた日本人 湯川遥菜(ゆかわ はるな)がISILに拘束された。流血している彼を尋問している様子を撮影した動画が動画投稿サイトYouTubeにアップロードされ、波紋を呼んだ。当初は日本政府などに対する身代金要求はなく[236]、シリア政府や武装組織「イスラム戦線」を通じて解放への交渉が行われている[237]と報道された。2014年10月に湯川を追ってシリア入りしたフリージャーナリストの後藤健二も捕らえられ、2015年1月20日、「72時間以内に身代金の支払いがないとこの二人の日本人人質を殺害する」とISILメンバーが述べている動画が公開された[238]。1月24日にISILは静止動画により湯川を殺害したというメッセージを流すとともに、身代金の要求は取りやめ、代わりに後藤とヨルダンで収監されていたサジダ・リシャウィ死刑囚との交換を要求した。しかし人質交換も行われることはなく2月1日に後藤を殺害したとする内容の動画が公表された[239]

アレッポの町

アレッポの小児病院から惨殺死体100体[編集]

トルコ国境に近いシリア第2の都市であるアレッポは激戦地となったが、ISILが刑務所として使用していた小児病院からは後に両手両足を縛られ目隠しをされた男性の遺体が100体以上発見された。原型をとどめないほど顔面を殴られた遺体や、口の中から頭に銃弾が貫通している遺体もあった。そのほとんどは一般市民であった。また、町の各所に爆弾を仕掛け無差別殺人をも行っていた[10]

脚注[編集]

[編集]

  1. ^ 「Levant(レバント)」とは、トルコからシリアエジプトパレスチナヨルダンレバノンをも含む大シリアを指したり、ダマスカスを指すときに用いられることもあるなど、様々な概念を有する単語であるので、専門家からはこの訳し方は不適切だろう、と指摘されることもある。一方で、「ISIS」という音は Isis (=イシス神)と同じで、英語圏の人にも聞き取りやすく記憶しやすいので、英語圏の人は好む、とも指摘されることがある。
  2. ^ ロンドンに本部を置くアラビア語日刊紙のアル・ハヤートと同名であるが、無関係である。
  3. ^ 報道されたラテン文字表記の地図には、アラビア語のラテン文字転写に様々な誤りがある、と指摘されている。地図にある Orobpa は Oroba ないし Ouroba、Qoozaz は Qoqaz、また Anathol は Anaṭol が正しいという[47]
  4. ^ この声明に対して、ヌスラ戦線のリーダーであるアブー・ムハンマド・アル=ジャウラニ (Abu Mohammad al-Jawlani) は「イラクとレバントのイスラム国」との関係は認めたものの、合併については否定したうえアルカイダのリーダー、アイマン・ザワーヒリーに対する忠誠を誓約した。しかしシリアで活動するヌスラ戦線のメンバーによると、多くのメンバーが「イラクとレバントのイスラム国」に合流したという[72]
  5. ^ エジプトのシーシー政権は、ムスリム同胞団をテロ組織と見なしているため、「テロリスト同胞団」と表記している。
  6. ^ 国連安保理決議1267[153][154]および決議1989[155][156]では、タリバンおよびアルカイダをテロ組織に指定し、制裁措置を取ることが確認されている。前述の決議に基づいて設置された制裁委員会[157]の制裁対象者リストにISILも掲示されている[158]
  7. ^ キリスト教、イスラム教における聖人「崇敬」(≠崇拝)については「聖人#崇敬と歴史」、「聖人#イスラム教」を参照。

出典[編集]

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外部リンク[編集]