マスタードガス

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マスタードガス
マスタードガス
識別情報
CAS登録番号 505-60-2, 39472-40-7, 68157-62-0
KEGG C19164
特性
化学式 C4H8Cl2S
モル質量 159
外観 無色液体
密度 1.27, 液体
融点

217

沸点

14.4

特記なき場合、データは常温(25 °C)・常圧(100 kPa)におけるものである。

マスタードガス (Mustard gas) は、化学兵器のひとつ。2,2'-硫化ジクロロジエチル(2,2'-Dichloro Diethyl Sulfide)という化合物を主成分とする。びらん剤皮膚をただれさせる薬品)に分類される。硫黄を含むことから、サルファマスタード(Sulfur mustard gas)とも呼ばれる。

主にチオジグリコール塩素化することによって製造される。また、二塩化硫黄エチレンの反応によっても生成される。純粋なマスタードガスは、常温で無色・無臭であり、粘着性の液体である。不純物を含むマスタードガスは、マスタード(洋からし)、ニンニクもしくはホースラディッシュ(セイヨウワサビ)に似た臭気を持ち、これが名前の由来である(他にも、不純物を含んだマスタードガスは黄色や黄土色といった色がついている為に、マスタードの名が付けられたという説もある)。第一次世界大戦イープル戦線で初めて使われたため、イペリット(Yperite)とも呼ばれる。

実戦での特徴的な点として、残留性および浸透性が高いことが挙げられる。特にゴムを浸透することが特徴的で、ゴム引き布を用いた防護衣では十分な防御が不可能である。またマスクも対応品が必要である。気化したものは空気よりもかなり重く、低所に停滞する。

マスタードガスは遅効性であり、曝露後すぐには被曝したことには気付かないとされる。皮膚以外にも消化管や、造血器に障害を起こすことが知られていた。この造血器に対する作用を応用し、マスタードガスの誘導体であるナイトロジェンマスタード抗癌剤悪性リンパ腫に対して)として使用される。ナイトロジェンマスタードの抗癌剤としての研究は第二次世界大戦中に米国で行われていた。しかし、化学兵器の研究自体が軍事機密であったことから戦争終結後の1946年まで公表されなかった。一説には、この研究は試作品のナイトロジェンマスタードを用いた人体実験の際、白血病改善の著効があったためという。

[編集] 人体への作用

マスタードガスは人体を構成する蛋白質DNAに対して強く作用することが知られており、蛋白質やDNAの窒素と反応し(アルキル化反応)、その構造を変性させたり、DNAのアルキル化により遺伝子を傷つけたりすることで毒性を発揮する。このため、皮膚や粘膜などを冒すほか、細胞分裂の阻害を引き起こし、さらに発ガンに関連する遺伝子を傷つければガンを発症する恐れがあり、発癌性を持つ。また、抗がん剤と同様の作用機序であるため、造血器や腸粘膜にも影響が出やすい。

[編集] 歴史

  • 1859年ドイツの化学者アルベルト・ニーマンAlbert Niemann)により初めて合成。彼は皮膚への毒性を報告するが、2年後に中毒が原因と思われる肺疾患により死去。翌1860年にはイギリスフレデリック・ガスリーFrederick Guthrie)も合成して毒性を報告している。
  • 1886年、ドイツの研究者ヴィクトル・マイヤー農薬開発の過程で合成法を完成。彼はその毒性に手こずり、実験を放棄。
  • 1917年7月12日、第一次世界大戦中にドイツ軍がカナダ軍に対して実戦で初めて使用し、約3500人の中毒者のうち89人が死亡。その後、同盟国連合国の両陣営が実戦使用した。大戦中のドイツ・フランスイギリス・アメリカの4ヶ国での生産量は計1万1千tに及んだ。
  • 1938年(昭和13年) - 1945年(昭和20年):日中戦争(第二次世界大戦)中、大日本帝国陸軍731部隊はマスタードガスを研究し、毒ガス砲弾を使用した、中国抗日軍兵士と一般市民大多数が負傷と死亡、ハルビン731ベース廃墟では最近、古いマスタードガス砲弾が発見された。数年前に、中国各地でマスタードガス砲弾が発見され、地下に埋められてまだ発掘されていないものも未だに存在する。
  • 1943年12月、イタリア南部のバリ港にて、アメリカの貨物船「ジョン・ハーヴェイ号」がドイツ空軍の爆撃を受け、大量のマスタードガスが流出し、アメリカ軍兵士と一般市民617名が負傷、83名が死亡した。(ジョン・ハーヴェイ号事件
  • イラン・イラク戦争時、イラク軍はイラン軍および自国のクルド人に対し、マスタードガス、サリンタブンを使用したと言われる(但し異説あり)。このうちクルド人に対して行なわれたものを、事件の起こった町の名を取って「ハラブジャ事件」と呼ぶ。詳細はハラブジャ事件の項を参照。
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