高速道路

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ミシガン州ワイオミング国道131号線M-6および68th Streetのインターチェンジ。中央線を境に通行方向が区分され、上下分離による交差点除去や出入り口制限の実施といった高速道路の特徴を示している。

高速道路(こうそくどうろ、英語: expressway)、ハイウェイインド英語: highway)とは迅速な交通移動を達成することを主目的にした道路であり主に自動車が高速かつ安全に走行できるような構造になっている。地域の道路網の中で基幹的な役割を担うことが多い。

概要[編集]

高速道路とは交差点をなくすなどの出入り口・合流箇所制限の実施や、上下分離することで高速走行を可能とした道路のことである。国や地域によって名称や規格などは異なっている。高速道路の役割としては国や地域の道路網の中核を担う役割を担っている。また、平行して走る一般道路渋滞緩和の効果もある。具体的な安全実現の例として一般道路とは出入口によって隔てることで歩行者や高速での移動が不可能な小型車両の進入を防ぐなどの工夫が挙げられる。

世界で最初に高速道路が建設された国は1924年のイタリアで、次いでアメリカと続き、その後世界各国で高速道路が建設された[1]

高速道路の名称は、世界各国で異なっている。ドイツ・オーストリアは「アウトバーン」、アメリカ・オーストラリアは「フリーウェイ」、カナダは「トランスカナダハイウェイ」、フランスは「オートルート」、イギリスは「モーターウェイ」、イタリアは「アウトストラーダ」と呼んでおり、日本では俗に「ハイウェイ」と呼ばれることもある[1]

日本[編集]

日本では高速自動車国道と広義の自動車専用道路都市高速道路なども含む)とを指して「高速道路」と位置付けている[2]

建設・運営に関しては国土交通大臣が内閣決議を経て予告・告知を行う義務を有する。高速自動車国道自動車専用道路では、構造規格、通行車両制限、速度制限などが異なる。

大都市圏内の移動を目的とする高速道路は都市高速道路と呼ばれる。都市高速道路では用地取得などに制約が多く、都市間を結ぶ道路と比較すると線形が悪く速度規制も厳しい場合が多い。都市高速道路の役割としては都市間を結ぶ道路とは異なり、通勤通学買い物などの日常的な利用が多いとされている。

路面に関しては特殊な溝や凹凸加工を施して音を出す、意図的に粗い路面にすることで居眠り運転や通行が許可された範囲を逸脱する通行への警告を示す等の対策が施されていることもある。(ランブルストリップス、高輝度レーンマーク(商標:バイブラライン)など)

アメリカ合衆国[編集]

アメリカにおいては1956年(昭和31年)に承認した連邦補助高速道路法により州間高速道路網が整備された。各州間高速道路にはそれぞれ個別の路線番号が付加されており、州間高速道路XX号線 (IH-XX; Interstate Highway XX) もしくは単に州間道XX号線 (I-XX; Interstate XX) と表記される。

ドイツ連邦共和国[編集]

ドイツには自転車専用の高速道路がある。道路には信号機や凹凸がない。現在開通しているのはデュイスブルクボーフムハム等ドイツ西部の10都市と4大学を結ぶ計画の道路(100 km以上)のうち5 kmで、同道路の大部分は線路(現在不使用)に沿って建設される予定。この他にも2つの自転車用高速道路が計画されている他、2つの自転車用高速道路が「実現可能性の調査」が行われている[3]

歴史[編集]

1924年に建設された世界初の高速道路である、現在のイタリアA8及びA9に当たる区間の路線図。

1908年アメリカにおいて世界初の自動車専用道路とされるロング・アイランド・モーター・パークウェイ(Long Island Motor Parkway)がニューヨークで開通している。1920年代に入ると、ニューヨークのパークウェイはニューヨークのマスタービルダーと呼ばれるロバート・モーゼスによって広い範囲へと拡大が進められた。モーゼスはパークウェイを、アメリカ合衆国を自動車指向社会へと発展させるための道具であり、混雑の激しい都市地域からロング・アイランドの開発途上地域へと人口を分散させるための手段であると位置づけ、積極的な拡大方策を採った。

初期の高速道路は軍事目的の側面が強かった(アウトバーン滑走路としても使うことが検討された)が、次第に経済発展の目的が強くなっていった。

ドイツでは、1932年にアウトバーンのボン - ケルン線が初開通し、1933年アドルフ・ヒトラーが政権につくと、第一次世界大戦で自動車が活躍したことを背景に、アウトバーンの建設計画が推し進められ、第二次世界大戦前までに3859キロメートル (km) の高速道路網を完成させていった[4]。アメリカでは、1940年ペンシルベニア州のペンシルベニア・ターンパイク開通を皮切りに高速道路時代に入り、目覚ましい発展をみせていくこととなった[4]。また、世界では道路先進国でありながら、高速道路では一歩後れを取っていたイギリスでは、本格的な高速道路建設が始められたのは1957年以降のことであった[4]

一方で、日本の道路事情は欧米諸国に大きく遅れをとっていたが、戦後の高度経済成長期にあたる1963年昭和38年)7月16日に、日本初となる高速自動車国道として、名神高速道路栗東IC - 尼崎ICが開通した[4]

アメリカの州間高速道路網は長らく世界最長の高速道路であったが、急速にインフラ整備を推し進める中国の高速道路の総延長が2011年に世界最長になった[5]

幾何構造[編集]

カナダオンタリオ州Highway 401. トロントに通じる4重高速道路が特徴のコレクター・エクスプレス・フリーウェイ構造の例。

高速道路は高速走行を容易にするため、設計上カーブの曲率や勾配(アップダウン)を緩和した線形としている。また、対向車線の自動車との衝突をさけるために中央分離帯が設けられることもある。故障した場合に停車できるために路肩のスペースも広く設けられている場合が多い。

高速道路は原則として信号機交差点を極力設けないなど他の道路とは独立しており、他の道路や鉄道とは立体交差されている。高速道路への流入は交差点を用いず、インターチェンジ(IC)を用いる。また信号機も使用しない。特に高速道路同士での交差は、ジャンクション(JCT)と呼ばれる。

そのため高架盛土などの構造物を建設して、その上に作られる場合もある。山間部のような地形では、トンネルも多用される。

高速道路では駐停車ができないので、パーキングエリア(PA)やサービスエリア(SA)といった休憩スペースやガソリンスタンドなどが設けられている[6]サービスエリアなどでは駐車し、休憩や食事などが行えるほか、地域のおみやげものなどが購入できる[6]

交通運用[編集]

高速道路の管理はその高速道路によって様々であり、事業主体も異なる。ただ全体的に見た傾向では、政府の管理下にあるものが多い。

開発途上国においては建設費の財源として世界銀行政府開発援助による融資を受けて、公共事業として行われることが多々ある(日本においても名神高速道路などが世界銀行融資によって整備された[7])。

高速道路は出入り口制限されているために料金を徴収する場合がある。料金については日本のように有料だったものを低価格化している場合もあれば、ドイツのように長年無料だったものが料金徴収を始めたケースもあるなど様々である。有料の場合ではITSの導入の一環としてや料金徴収所での渋滞を緩和するために無線通信による自動料金収受システム(ETCなど)の導入が進んでいる。

料金[編集]

有料の場合と無料の場合がある。ドイツなどでのアウトバーンイギリスなどでのモーターウェイでは基本的に無料である。またアメリカやオーストラリアフリーウェイも基本的に無料である。

世界の高速料金比較[編集]

1kmあたりの高速料金を世界各国と比較すると、日本は世界で最も高速料金が高い国である。以下に主要国の料金を掲示する。(2019年7月時点のレートで算出)

世界の高速料金比較(普通車)
1km当たり料金 国籍
24.6円/km 日本の旗 日本
15.6円/km フランスの旗 フランス
7円/km ギリシャの旗 ギリシャ
0円/km ドイツの旗 ドイツ
0円/km イギリスの旗 イギリス

フランスのオートルートも「道路は無料」という原則に基づくものであるが、高速道路法によって許可会社(SEMなど)が有料で道路を建設できるとされたため、事実上有料制が採られている。ただし、公共性の観点から無料であるべき道路や機能上重要な路線、いわゆる都市内高速道路や港湾道路、国境近郊の道路は無料である。

ポーランドアウトストラーダも原則無料である。それに対し、イタリアアウトストラーダは有料である。

日本では地方の路線などで一部無料の場合があるが、一般に有料である。民主党は高速道路無料化マニフェストで提唱し、2010年度には高速道路無料化社会実験を一部路線で実施した。しかし、東日本大震災の復旧費用をまかなうために、2011年6月19日をもって終了し、一時凍結となった。

高速道路の事故[編集]

高速道路は一般道路と比較すると線形などの条件が良好で、交差点なども少ないため交錯する危険性も少ないことから一般道より走りやすく事故の発生率そのものは低い[8]。しかし、戦前には弾丸道路と例えられるほどの高速走行下での事故となるために死亡事故などの重大事故となりやすいといった問題がある。

事故原因の一例として高速道路では直線区間が長く続く状況下に由来する催眠現象がある。現象の影響により運転者には眠気を催す、或いは現実感の喪失等といった症状が認められ、結果として交通事故につながる要因となり得る。

事故防止策として日本では直線道路が建設が可能な地形であっても意図的にカーブ部分を造る等の対策をとる場合がある[9]。これは道路の直線を減らして連続する緩やかなカーブを作ることによって風景に変化を持たせ、ドライバーの集中力を持続させる効果を狙うものである[9]。また過剰な速度での通行を抑制する目的がある。 日本の高速道路の多くの区間は、こうした緩やかなカーブを連続させてあることが多く、純粋な直線区間は少ない。こうした設計手法は、高速道路の先進地であるドイツアウトバーンの技術が導入されている[9]

世界の高速道路[編集]

北米・南米[編集]

アジア・オセアニア[編集]

ヨーロッパ[編集]

アフリカ[編集]

国家間をまたぐ高速道路[編集]

大陸規模の高速道路

高速道路建設がもたらす諸影響[編集]

高速道路建設と二酸化炭素排出量

新しい道路を建造すると次のような直接・間接のことが起き、二酸化炭素排出量(カーボンフットプリント)が増えるという[10]

  • 建設作業(整地作業で排出される二酸化炭素。道路を建造するのに必要なコンクリート、アスファルト、鋼材などの素材を作るために排出される二酸化炭素。建機から出される二酸化炭素)による増加。[10]
  • 樹木を切り倒すことで、樹木を切らなければ樹木に吸収されるはずだった二酸化炭素の量が減ることによる二酸化炭素の増加。[10]
  • 建設後の道路のメンテナンス作業やサービス業務による二酸化炭素排出の増加。[10]
  • 新しい道路ができることで自動車の走行が増え、人々の移動が増え、走行速度が上がることによる二酸化炭素排出の増加。[10]

道路の建造に伴う二酸化炭素の排出量の増加を抑制するには次のようなことが必要になるという[10]

  • メンテナンス作業に電気自動車など二酸化炭素の排出量がゼロあるいは極めて小さい自動車を使う[10]
  • 道路の更新や補修の工事の際には二酸化炭素の排出量が多い機材を使わない[10]
  • 供給業者(下請け業者)との契約の中に、二酸化炭素排出量の基準も入れる[10]
  • 道路標識やトンネルの照明については、エネルギー効率の高い照明を使う[10]
  • 道路建設のために切り倒す樹木に相当する量の樹木を、計画した道路の近くに植樹する[10]
高速道路建設と「借金の罠」

経済効果を期待して借金で高速道路を建設するとその借金が重荷になってしまい、国の経済が抜き差しならない状況に陥ることがある。インドは高速道路の建設のために2014年-2015年に膨大な借金を行ってしまい、2020年1月には「借金の罠」に陥りそうになっている、と分析された[11]

アメリカの金利とアメリカでの高速建設

1929年以降で米国の経済成長率が最も高かったのは1950年代と1960年代だった。この時期には大規模な高速道路網の構築に多額の政府支出がなされた[12]

2015年時点であるが、経済学者のロバート・シラーが2015年時点の米国の30年インフレ連動債の利率が0.86%との状況を見て述べたところによると、その時点ではアメリカ政府はお金を借りて新しい高速道路を建造する良い機会で、アメリカで高速道路を建設すれば健全な投資になると説明した[12]。(その後状況は一変し、2020年春には世界的なコロナ禍が起き、世界経済は予想外の状況になった。数年間、多くの国で外出禁止令が発令され、高速道路の利用率はその間のみ一挙に低くなった。人々はできるだけ物理的な移動や直接会うことはできるだけ控え、テレビ電話アプリやZoomなどのWeb会議アプリなどIT技術を使い、リモートでコミュニケーションをするようになり、買い物はネット通販で済ませることが増えた。2022年2月には、ロシアがウクライナに侵攻し、西側諸国はロシアに対して大規模な経済制裁を行い、世界経済は前例のない展開を見せた)ウクライナ侵攻後アメリカでは物価の異常な高騰が起き、その物価高騰を抑えるためにアメリカ政府はそれまで維持していた低金利政策を改め金利を上げた。2022年7月時点には、アメリカ金融当局は、年末には政策金利を3.75% - 4.00%にするというような方針を打ち出すまでになった[13]。つまり2015年の状況とは全然異なった状況になった)。

脚注[編集]

参考文献[編集]

  • 浅井建爾『道と路がわかる辞典』(初版)日本実業出版社、2001年11月10日。ISBN 4-534-03315-X 
  • 浅井建爾『日本の道路がわかる辞典』(初版)日本実業出版社、2015年10月10日。ISBN 978-4-534-05318-3 

関連項目[編集]