六価クロム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

六価クロム(ろっかクロム、英:hexavalent chromium)は、クロム化合物のうち、酸化数が +6 の Cr(VI) を含むものの総称である。

概要[編集]

単体のクロムは安定した極めて錆びにくい無害の金属で、との合金がステンレスとして広く利用されている。クロムの化合物を価数で分類したとき、Cr(III) 化合物と Cr(VI) 化合物がそれぞれ一般に「三価クロム」「六価クロム」と呼ばれる。

クロムは地球上の土中にクロム単体または三価クロムの形で広く存在する。人体を構成する必須元素の一つでもあり、体内に約2ミリグラム存在している。サプリメントの成分として使われる場合は三価クロムの形(おもにピコリン酸クロムとして)で添加される。

一方、六価クロムは極めて強い毒性を持つ。代表的な六価クロムの二クロム酸カリウムの致死量は約0.5-1グラムである。六価クロムは非常に強い酸化能力を持つ不安定な物質で、有機物と接触するとその有機物を酸化して、自身は三価クロムに変わる性質がある。六価クロムの強い毒性はこの性質に由来するものであり、自然界に通常は存在しないのもこのためである。

また、家庭用品のめっきにはほとんどクロムめっきが用いられる。めっきの部分はクロム金属の薄膜である。クロムめっきには原料として現在も六価クロムが多用されているが、毒性に配慮して三価クロムへの移行も進められている。

三価クロムが自然界に広く安定して存在するのに対して、六価クロムは自然界ではクロム鉱石として限定的に存在するに過ぎない。六価クロムは人工的には三価クロムを高熱で焼くことによって生成される。また、還元剤によって還元されると三価クロムとなるため、六価クロムを廃棄する際には主に還元処理によって無害化される。

クロムは高沸点重金属の化合物なので、融点沸点ともに高く、六価クロムそのものが常温気化することはない。一部の六価クロム化合物には(潮解性)がある。

代表的な六価クロム化合物に三酸化クロム (CrO3) や二クロム酸カリウム (K2Cr2O7) があり、酸化剤やめっき等に用いられる。また、六価クロム化合物のうちクロム酸塩(CrO42-イオンを含む化合物)は黄色のものが多く、に可溶なものとしてはクロム酸カリウム (K2CrO4) 等がある。また、水に不溶なクロム酸塩は黄色の顔料として使われる。クロム酸塩の黄色顔料でよく使われるものとしては黄鉛クロム酸鉛、PbCrO4)、ジンククロメートクロム酸亜鉛、ZnCrO4)、ストロンチウムクロメート(クロム酸ストロンチウム、SrCrO4)、バリウムクロメート(クロム酸バリウム、BaCrO4)がある。

毒性[編集]

強い酸化作用から、六価クロムが皮膚粘膜に付着した状態を放置すると、皮膚炎腫瘍の原因になる。特徴的な上気道炎症状として、クロム酸工場の労働者に鼻中隔穿孔が多発したことが知られている。これは飛散した酸化剤や顔料などの六価クロムの粉末を、長期間に亘って鼻腔から吸収し続けて、鼻中隔に慢性的な潰瘍が継続した結果と考えられる。

また、発癌性物質としても扱われている。多量にに吸入すれば呼吸機能を阻害し、長期的には肺癌に繋がる。消化器系にも影響するとされ、長期間の摂取は肝臓障害・貧血大腸癌胃癌などの原因になりうる。

六価クロムを粉末状で取り扱う職場は周囲への飛散を防いだ上に、目・鼻・口に入らないよう厳重に管理し、皮膚や衣服にも付着したままで置かないように厳重管理することが必要である。

環境問題[編集]

日本ではかつて「地盤強化剤」という名目で、クロム鉱滓(スラグ)を埋め立てることが奨励され、沖積低地で軟弱地盤である東京の下町地域(江東区など)に、広域に渡って埋め立てられていた。クロム鉱滓による土壌汚染地下水汚染は現在でも発生している。有名な例に、1973年(昭和48年)に地下鉄工事における調査で、都営地下鉄新宿線大島車両検修場用地から大量の六価クロムの鉱滓が発見され、土壌汚染問題として全国に知られることとなった一件がある。東京都交通局が買収したその用地は、元は日本化学工業の工場跡地であった。しかし、処理後の現在では同地から六価クロムは検出されなくなった。

国内事故では、JT日本たばこ産業)が2005年7月、JT徳島工場跡地でタンク処理の際に事故を起こし、400リットルもの六価クロムを漏洩させた事例がある。

アメリカ合衆国では、工場の敷地内に高濃度の六価クロム溶液を10年以上の長期に渡って大量に垂れ流していた企業があり、地域の地下水を汚染し続けた。周辺住民に癌などの健康被害が多発したことから事件として発覚し、会社は多額の賠償金を支払って和解している。これは巨額の公害賠償金支払いの最初のケースになった。大きな関心を集めた同事件は、後にジュリア・ロバーツ主演の『エリン・ブロコビッチ』として映画化されている。

インドのスキンダ英語版では、クロム鉱石の露天掘りが行われており、精錬から排出される六価クロムにより飲料水の6割が汚染されている。汚染により被害を受ける人口は潜在的に260万人にのぼると見られている[1]

脚注[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ Sukinda, India - The World's Most Polluted Places” (英語). TIME. 2010年4月1日閲覧。[リンク切れ]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]