移動販売

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中華料理の移動販売車(ハーバード大学にて)
ホットドッグ(アムステルダム)
吉野家 オレンジドリーム号
じゃがバーガー
リヤカーに専用釜を積んだ石焼き芋売り

移動販売(いどうはんばい、: mobile catering)は、住宅街オフィス街駅前、イベント会場など需要の見込まれる地域に自動車などで出向いて物品を販売する、小売業の形態。無店舗販売の一種。

概要[編集]

日本においては

  • 移動販売の手法は江戸時代以前より存在しており、屋台を含め歴史は長い。
  • 食品など低価格の商品が多く、基本的に売り切りで現物・現金取引である。
  • 店舗を有する販売者が、店舗とは別に移動販売を行うことはあるが、米穀店などに見られる、顧客から注文を受けて店舗から商品を配達する行為は移動販売とは称さない。
  • 訪問販売とは異なるため、戸別の家庭やオフィスへの訪問は行わない。
  • 個人による経営や零細業者が大半を占めるが、近年はフランチャイズ方式などによる大規模化を図る業者も増えつつある。

90年代までは駅前や「アーケード」街の通りでも路上販売する業種(たこ焼きやラーメンなど)が在ったが、路上占有規制の強化や臭気や排水に対する近隣住民などの苦情等が原因で、「近隣の認可」が取れた特定地域以外で営業する業者はほぼ皆無となり、中には前述の理由から許可を取らず営業している違法な業者も存在する。

この点で、街の賑わいを重視して「移動販売車」や「移動屋台」を認可制にしている欧米や、店舗を借りる余裕もない零細業者が需要を満たすために移動店舗として都市部に集まる新興国とは様子が異なり、先進国ながら新興国同様「実店舗営業>移動販売車」と一段下に見る風潮がある。

東日本大震災の被災地では、コンビニエンスストアが被害を受け営業できない店舗があることから、セブン-イレブンローソンがコンビニの商品を揃えた移動販売車を運行している。

拡声器騒音問題[編集]

スピーカーを使用する巡回販売については騒音のトラブルが多い。拡声器による商業宣伝については、1989年(平成元年)の旧環境庁の通達[1]により、各都道府県に条例によって音量や使用方法の規制が設けられている[2]。一般に、住居地域では音量が55ないし60デシベルまでとなっており、学校、病院等の周辺でのスピーカーの使用は禁止である。

住宅街を巡回する移動販売車(とりわけ大音量の灯油の巡回販売等)や廃品回収車はほとんどが規制に抵触しているのが現状であるが、対象が移動車両であり確保や音量測定が困難なこと、商業拡声器の規制が認知されていないこと、住民・地元自治会の苦情や行政の指導に従わない業者が多いこと、苦情や注意・指導を受けても単に当該地域のみの巡回を取りやめたり、別の地域に移動してしまうだけであること、日本においては拡声器の使用に比較的寛容な風土があり、近隣に利用客がいると騒音被害を訴えにくいことなどから、ほぼ野放しとなっているのが実状である。このような住宅街で拡声器を使用する巡回販売は諸外国には見られず[3]、選挙カーとあわせて、日本特有の奇妙な事象のひとつとして紹介されることも多い。

現在のところ、一部の地域を除いて能動的な取り締まりは行われていないが、近年、業者の組織化・大規模化により営業車両が増加していること(数百台という車両を所有する企業も存在する)、悪質な業者が多いことから、騒音苦情が増加しており、中野区・台東区等パトロールに乗り出している自治体もある。違反車両に対しては、住民の苦情相談や通報を受け、自治体の環境・公害担当課や警察が指導および取り締まりを行う。

環境省発表によると、2009年度の拡声機に係る苦情は対前年度で27.7%増加している[4]

以下に自治体への騒音苦情と対応の例を示す。

また、住民自治による対策として、町内会やマンション管理組合で警告の看板を設置したり(「拡声器使用による営業行為は禁止です」等)、巡回販売を利用しないよう回覧板等で示しあわせているケースも見られる。

主に扱われる商品[編集]

弁当
平日のオフィス街官庁街工業団地倉庫街などでは、サラリーマンOL等を対象に昼食が販売されている。
軽食
日本では石焼き芋(主に冬季)や蕨餅(主に夏季)が代表的だが、近年ではメロンパンいか焼きコロッケホットドッグケバブラーメン焼き鳥たこ焼きクレープソフトクリームなど品目が多様化している。住宅街の他、商店街やビジネス街、ショッピングセンターの店内入り口前等で販売されることも多い。イベント会場へのケータリングを兼ねることがある。
食料品
住宅街を中心に、豆腐惣菜パン牛乳、産地直送の野菜鮮魚鶏卵などが販売されている。在宅率の低下などの要因により減少気味であるが、高齢化買い物難民の増加による新たな需要も生じている。
灯油
住宅街を中心に、冬季に巡回販売が行われる。1990年代以降に急増。閉めきった住宅の中でも聴こえるように、規制違反の音量で音楽を流す営業が常態化しており、騒音問題となっている。
物干しざお
金物店が配達の道すがらに販売することもあるが、一部の悪徳業者による竿竹商法などトラブルになることもある。

移動スーパーマーケット[編集]

九州の移動スーパー「寿屋ママサン号」。
ファミリーマート南相馬小高店の「ファミマ号」(2013年)。

昭和30年代後半からの『高度経済成長』により三大都市圏郊外へとベッドタウンという名の新興住宅地や団地の造成が急激に進んだが、居住人口の激増に対して即在の商店街やスーパーマーケット百貨店などが需要を吸収出来ない事態が各地で発生するようになった。 そこで産み出されたのか本形態の移動販売手法である。1~4トン弱以下の小型トラックの荷台やマイクロバスの内部を改造し、鮮度保持用のショーケースを並べ、多様な食品や雑貨を扱うため『移動スーパーマーケット』と呼ばれるようになった。地場で複数店舗を構える個人商店や中堅スーパーなどが運営していたものが殆んどで、徒歩や自転車移動可能な近隣に商店街やスーパーの進出が遅れている新興団地を主な商圏とし、あらかじめ巡回する日時やコース、営業場所が設定されており、新居を手にした団塊世代の食品の購入に少なからず貢献を果たした。

また公共投資により各地に生まれた工業団地で昼食用の弁当や軽食と作業用小物を売る移動スーパーも現れたが、やがて日本でのモータリゼーションの発展や郊外スーパーの進出、食住一体型の大規模住宅団地開発増加により、昭和60年代~平成初頭までには「移動スーパー」による住宅街や団地への訪問販売の需要は薄れ、新業種「コンビニエンスストアー」定着によりこの業態は最早絶滅も時間の問題となる筈であった。

ところが、全国主要都市圏での「郊外大規模スーパーの飽和問題」と前後して、地方の山間部などで少子高齢化による過疎化が深刻な問題となりかけていた。平成10年度辺りまでは細々と残る路線バスなどの公共交通網のお陰で余り深刻に捉えられていなかったが、バブル崩壊後の長引く不況や『平成の大合併』により地方行政の公共サービスが薄まり、公共交通網の崩壊や大手スーパーの撤退、地元商店街の廃業により発生した「買い物難民」が地方の余裕を無くし、当世代で住民が居なくなる『限界集落』が現実化した事で、皮肉にも「移動スーパー」が見直されることとなった。

過疎化対策として復活した移動スーパーは地場で八百屋などを営んでた零細商店が多く、集落の中心部や特定の民家の軒先で販売を行う。過疎化の進む地方の集落や、路線バスの本数が少ない、撤退するなど交通手段の限られた地域に住む高齢者にとって、今や商品の貴重な入手手段となっている。

脚注[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]