尿素SCRシステム

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尿素SCRシステムを搭載したADG-RA273MAN(神奈川中央交通

尿素SCRシステム(にょうそSCRシステム)は排出ガス浄化技術の一つで、窒素酸化物(NOx)を浄化する技術である。SCRはSelective Catalytic Reductionの略であり、日本語では「選択(的)触媒還元」を意味する。

SCR(選択触媒還元、Selective Catalytic Reduction)なので尿素以外の還元剤を使用する物もあるが、そのなかで尿素水を使用するものが比較的多くなっている。

UDトラックス(旧・日産ディーゼル工業)がトラック向けに実用化し、欧州も同様にトラック等の商用車に採用されている。また、大型乗用ディーゼル向けにもドイツメーカーを中心に採用が進むと思われる。

なお、誤解されがちであるが、UDのFLENDSシステムとは、超高圧燃料噴射システム(GE13系ユニットインジェクターMD92系コモンレール式燃料噴射装置)と本装置を組み合わせたもので、触媒装置単体の呼称ではない。本稿で述べる。

歴史[編集]

システムの概要[編集]

原理としては、アンモニア(NH3)が窒素酸化物(NOx)と化学反応することで窒素(N2)と水(H2O)に還元されることを応用したもので、火力発電所船舶排気ガス処理システムにヒントを得ている。ただしアンモニアを車両に積むのは危険なので尿素水をタンクに入れて搭載し、これを排気中に噴射することにより高温下で加水分解させアンモニアガスを得る。

このアンモニアによりNOxを還元しN2(窒素ガス)とH2O(水蒸気)を得る。

日産ディーゼル・FLENDS(フレンズ)システム[編集]

「FLENDS」は「Final Low Emission New Diesel System」の略。バスとしては世界で初めて実用化に成功したユニットインジェクター式高圧燃料噴射システムと尿素SCR触媒、高精度クールドEGRを組み合わせたディーゼル排出ガス低減システム。 PMとNOxの大幅削減を達成し、排出するCO2を削減したディーゼルエンジン。 搭載車両を運用しているバス事業者では、バス車体に「世界No.1クリーンディーゼル このバスの排気は世界一キレイです」と書かれたステッカーを掲出していることもある。

ADG-RA273RBN(昭和自動車
「世界No.1クリーンディーゼル このバスの排気は世界一キレイです」のステッカー
  • コモンレール式燃料噴射システム - 燃料噴射圧力を高圧化することによって燃料が細微化してPMの発生を抑えるシステム。
  • 高精度クールドEGR - 排出ガスの一部を燃焼室に再循環させるシステム
  • AdBlue®[1] - 尿素32.5%の水溶液日産化学工業日本化成三井化学新日本化成等メーカーが製造する。トラックステーション、日本国内の大型トラックを扱うディーラー(全社)、AdBlue販売元拠点の約1500箇所で供給が可能。
  • NOx削減原理
CO(NH2)2+H2O (=AdBlue)
2NH3+CO2
4NO+4NH3+O2→4N2+6H2O
CO(NH2)2+H2O (=AdBlue)
2NH3+CO2
6NO2+8NH3→7N2+12H2O

長所と短所[編集]

長所[編集]

  • このシステム自体による燃費の悪化要因が少ない。排ガス対策にNOx吸蔵還元触媒を利用する方式の場合は、NOx吸蔵還元触媒の再生のために追加の燃料噴射(ポスト噴射と呼ばれる)を行うため、燃費の悪化や軽油によるエンジンオイルの希釈が問題になるが、尿素SCRシステムだけの場合は、そのような問題は発生しない。
  • 燃費の悪化要因が少ないため、燃料コストと尿素水のコストを合算しても、従来型車と比較してランニングコストの上昇はほとんどないか同等である。
  • NOx吸蔵還元触媒と比較して、排気温度が低い状態からでも浄化能力があり、耐久性も高い。また白金などの貴金属を使わなくてすむためSCR単体なら低コスト化が図れる一方、複合式であれば空気清浄能力がそれぞれの単体式よりも高くできる。なお日本国内で生産される大型車に関しては、2010年までに全てのメーカーが複合式(併用式)を採用してシステムのトレンドとなった。

短所[編集]

  • 実走行車は規制値を大幅に超えるNOxを排出することがある。[2]
  • 尿素水タンクおよび噴射システムに加え、システムの前後段に酸化触媒を装着する必要があり、重量増により積載量が減少する。
  • 結晶化したアンモニアが凝固してインジェクター詰まりを起こすことがあるため、定期的に清掃が必要となる。
  • アンモニアが排出される危険があるので、排気漏洩防止装置の取り付けが必要。
  • 尿素水切れを起こすとエンジンの再始動ができなくなる。
  • 乗用車に使用する場合は大型車と違い、尿素噴射に圧縮空気が使えない、また小型乗用車では尿素タンクや追加される触媒の取り付けスペースの確保が困難である。
  • 排気温度が低いと触媒作用が弱く、動作を停止することがある。低温の浄化作用については他の触媒でも同様の問題を抱える。低温でも効果を発揮するように改良が進められている。

各社の動向[編集]

  • 日産ディーゼル(→UDトラックス)は、自社のトラック・クオンや大型バス(スペースアロースペースランナーRA)のみならず三菱ふそうトラック・バスにもこの技術を供給することで同社と合意し、2007年に発売されたスーパーグレートおよび大型バス(エアロスター・エアロクイーンなど)に導入した。また、第40回東京モーターショーにおいて、DPFを併用した次世代型の尿素SCRシステムを出品している。2010年のクオンのマイナーチェンジで併用式システムを導入。さらに同年、中型トラック・コンドルのフルモデルチェンジ時にクラス初のシステム導入を行なった。
  • 三菱ふそうトラック・バスは、当初独自に開発を進めていたが、リコール問題で中止。日産ディーゼル(→UDトラックス)製の供給を受けることで合意した。その後、2010年にはダイムラーグループのメルセデス・ベンツと同じ「ブルーテック(BlueTec)」が同年に発売されたスーパーグレートおよび大型バスに搭載された。これも併用式。さらに同じく2010年には小型トラック・キャンターのフルモデルチェンジに合わせて、さらに2011年には中型トラック・ファイターマイクロバスローザ、中型バス・エアロミディMKのマイナーチェンジに合わせてそれぞれ導入された。
    • UD・ふそう両社の補給可能箇所を足し合わせると全国で1,500箇所に上る[3]が、下述するようにさらに追随するメーカーが増えたことにより、補給可能箇所は大幅に増加している。
  • 日野自動車2010年4月にDPF触媒と尿素SCRシステムを組みあわせた(併用式)独自の環境対策装置「AIR LOOP」を搭載したプロフィアを発売し、その後レンジャーにも搭載された。同年7月にはプロフィアと同様のシステムがセレガとセレガとの統合モデルであるいすゞ・ガーラ(いずれも12m車のみ)にも搭載されている。尿素SCRシステム単独のものよりもAdBlueの消費量を抑制することができるという。
  • いすゞ自動車は、既に第36回東京モーターショーに参考出品しているが、尿素水の供給インフラの整備が充分でないため、時期尚早と判断。その後第40回東京モーターショーにおいて、尿素水噴射に空気の圧縮を必要としない、次世代システムを出品。2010年5月、ギガ及びフォワードのマイナーチェンジ時にDPF触媒との併用式によるシステムを導入(フォワードは一部車種のみ。これにより日本国内の大型トラックメーカーが全て導入を完了したことになる)。同年8月には大型バスであるエルガとエルガとの統合モデルである日野・ブルーリボンIIにもギガ・フォワードと同じシステムが搭載された。
メルセデス・ベンツの「BlueTec5」装備車に取り付けられているエンブレム
  • ヒュンダイは日本に輸出される大型バス・ユニバースの2011年モデルよりDPF+SCRの併用式を採用することでポスト新長期規制をクリアしている。
  • メルセデス・ベンツは、「ブルーテック(BlueTec)」の名称で展開。2006年に北米で発売された「メルセデスベンツ E320 CDI」」は「ブルーテック」を名乗るものの、大市場であるカリフォルニア州ニューヨーク州を始めとする5州の排出ガス規制をクリア出来ず、それらの州での販売は不可能となっている。日本国内においては、乗用車で2010年2月に3リッターディーゼルエンジンを搭載した「E350 ブルーテック アヴァンギャルド」(セダン・ステーションワゴン)を発売しているほか、商用車で2007年以降に輸入されている「シターロG」(連節バス)がユーロ5対応の「ブルーテック5」を装備している。
  • 本田技研工業は、触媒中でアンモニアを生成することで尿素水溶液の補給がいらない、まったく新しいNOx触媒を開発。試作車を実験走行させている。
  • マツダは、2009年後半から欧州市場で発売されるCX-7のディーゼル仕様にこのシステムを搭載[4]

脚注[編集]

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関連項目[編集]