市町村防災行政無線

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市町村防災行政無線(しちょうそんぼうさいぎょうせいむせん)とは、日本行政(主に地方行政)における防災無線の一種。日本国内の市町村および防災行政のために設置・運用するものである。

同報系・移動系・テレメーター系の3系統がある。無線局としての電波利用料に減免措置がある。

同報系防災行政無線[編集]

同報系防災行政無線は、住民に同報を行う放送同報無線)として整備されるものであり、いわゆる昔の「有線放送」(有線)を発展解消したものである。

過去に津波水害などの大災害のあった地域、東海地震警戒地域、原子力発電所などの原子力関連施設近辺ではほとんどの市町村に整備されている。しかし、過去に災害が少なかった地域では整備が遅れている。

周波数帯は60MHz帯がほとんどであるが、規制緩和でMCA無線を利用したものもある。

屋外スピーカー

構成[編集]

  • 固定局(送信機と司令卓。送信機はアンテナと可能な限り接近していることが望ましいため、市町村役場の上層階に設置される。司令卓は総務部や危機管理室など防災部門のほか、消防本部にも遠隔制御装置が配備され、戸別・屋外受信機への放送・制御等を行なう)。
  • 屋外拡声子局(市町村内各所に設置され、拡声スピーカーから放送内容が流される。専用の有線回線を用いる場合もある)。
  • 戸別受信装置(各支所・公民館、各小中学校や地滑り急斜面崩壊危険地域の個人宅などに配備。原子力発電施設等緊急時安全対策交付金などの補助金を活用し、全世帯への配布を行っている市町村もある。また、ケーブルテレビ回線を活用した戸別音声告知端末を設置することで代える例もある)。一部の地方自治体では、コミュニティ放送局と接続し、緊急時にはFMの一般放送に割り込んで放送が流れるシステムもある(緊急告知FMラジオと連動して放送を行う場合もある)。

放送内容[編集]

放送は「こちらは広報(市町村名)です」から始まることが多い。「防災」とアナウンスしたり、役場名から始まる地域も[2]。遠方にある屋外スピーカーからの声が重なって聞き取りにくくなる(ドップラー効果)のを防ぐため、語間を大きく空けてゆっくり話すのが特徴。複数のエリアに分割し、放送区域を時間差で切り替える手法もある(時差放送)。一部の市町村では、放送内容をケーブルテレビの自主放送(コミュニティ)チャンネルに提供することもある。[3]

屋外のスピーカーからは流れないが、アナログ方式では放送開始前と終了後に、受信機器の電源を操作する信号が送信される。

問題点[編集]

  • 屋外スピーカー設置場所周辺世帯への騒音被害が著しい。音は遠くに行くほど小さくなるため、必然的にスピーカー近くの世帯には過剰音量となり、家屋全体が震えるような大音量となっていることもある。
  • 市区町村の境界に近い地区では隣接する自治体の放送が聞こえることもある。
  • 家屋の気密性が増したため、屋外スピーカーの声が聞き取りにくい。一方で、音量を上げると気密性の低い住宅の住民には騒音被害となる。戸別受信装置の配布で対応する自治体もあるが、基地局から距離が離れていたり地形等によって受信が不安定な世帯用に屋外へアンテナを設置するなどの工事が必要となる場合がある。これに加え、耳の遠い高齢者等から「声が聞き取れない」との苦情が来ることにより過剰音量となる傾向があり、騒音被害が増大している(近年は聞き漏らしたりした人のために、テレホンサービスを用いた再放送を行なう自治体が現れている)。
  • 有線放送電話オフトーク通信を置き換える場合、広告放送はコミュニティ放送など別の手段が必要である。
  • 本来、有事や大規模災害のためのシステムであり、その目的においては騒音公害は当然許容される性質のものであるが、一部行政機関の緊急性・重大性・広域性の低い内容における濫用により騒音公害が問題となっており、過去に茨城県勝田市(現・ひたちなか市)や愛知県西枇杷島町(現清須市)では住民から放送差し止めを求める訴訟も起こされている(いずれも原告の請求を棄却)。防災無線は環境音などと異なり聞き流す事ができない性質のため、特に耳障りとなりやすい上、乳幼児を持つ家庭や、夜間勤務で日中睡眠を取っている住民等にとっては深刻な実害となり得る。また騒音被害による苦情の声は公共の利益の名目により抑圧されやすく、職業・感受性・生活スタイルの個人差・スピーカーとの距離・家屋の気密性による音量の違いによって、被害の程度を理解してもらいにくい。こうした実情に鑑み慎重な運用が求められる。
  • とりわけ近年、「子どもの見守り放送」等の防犯目的の定時放送が「子供のため」「安全・安心のため」という大義名分のため表立って反対しにくくクレームが少ないことから、多くの自治体で濫用される傾向にある。防災無線はその名の通りあくまで防災のための緊急設備であり、上記のように騒音被害の発生が避けられないこと・放送が市民生活の統制に繋がること[4]、また、「この地域では犯罪が多いから子供を見守ろう」というアピールが果たして実情に沿っているか[5]、そうした文言を毎日聞かされることが当の子供や市民の精神面にどのような影響を及ぼすか等について、慎重に検討する必要がある。
  • 火災や水害についての放送を行うと、野次馬を呼び寄せてしまい被災地周辺の渋滞二次災害などの危険を招く恐れがある。
  • 戸別受信機に代えてケーブルテレビ回線による戸別音声告知端末を設置する場合は、設置拡大を図りやすい反面、耐震性や停電時の機能確保が課題となっている(電柱が倒れて回線断絶が起きた場合、有線通信は無力)。
  • 伝送使用周波数とキーとなる重畳音声周波数が割り出せれば電波ジャックが可能となる。詳細は杉並区防災無線電波ジャック事件の項を参照。

移動系防災行政無線[編集]

移動系防災行政無線は、他の通信手段が途絶した場合に防災担当者間の情報伝達手段を確保する目的で設置されるシステムである。役場などに設置される基地局、山上等に設置する中継局移動局(簡単に持ち出しできる携帯型以外に、より大出力の可搬型(半固定型)や自動車搭載の車載型や車から取り外し可能な車携帯型もある)があり、移動局相互間の直接交信も可能である。

災害発生時には防災関係業務に優先して使用されるほか、普段は各現場から本庁宛などへ一般行政事務の連絡にも使用されている。

平時・災害時を通じて、加入電話携帯電話が使用できない場面で活用できるよう数多くの市町村で整備されている。災害時には救援活動の連絡手段としてスムーズな運用が出来るよう相互協定を結んでいる自治体もある(被災地では全国共通波を使用する)。

周波数帯は150MHz帯と400MHz帯、同報系と同じく規制緩和でMCA無線を使用している地方自治体もある。

テレメーター系防災行政無線[編集]

テレメーター系防災行政無線は、降水量・河川水位・地すべりなどの無人観測所と制御局とを結び、データを収集するものである。 同報系防災行政無線のアンサーバック機能を利用しデータを収集している場合がある。

市町村合併による統合と問題点[編集]

市町村合併に伴うシステムの統合が進められている。

問題点

  • メーカーが違うシステム同士での統合運用となる場合が多く、特に旧市町村での導入年に大きく差がある場合は制御方式や動作条件で問題が発生する場合が多い。
  • 主指令卓(役所)と副指令卓(消防本部)を有線通信(自営線やNTT専用線)で結ぶ構成では、断線時や回線不良等で通信途絶となる恐れがある。
  • 移動系では周波数の統一が必要であり、相互連絡に不都合が生じる(共通波で相互連絡を取ることも可能だが、既設システムに当該周波数が導入されていない場合、新たに免許申請や無線機の改修等が必要になる)。

デジタル化とその問題点[編集]

デジタル化が国の方針として決定された。

利点

  • 電波の利用効率が向上する。
  • 複数チャネル化や複信通話(電話のように話せる)での運用が可能になる(※複信通話はアナログ方式でも可)。
  • 静止画像・ファクシミリ・文字情報などのデータ通信も可能である(※静止画像以外、アナログ方式でも可)。
  • 全国瞬時警報システムと接続が可能である。(※アナログ方式でも可)。

問題点

  • 国の施策により、使用可能なアナログシステムを地方公共団体が破棄する必要がある(特に800MHz帯地域防災無線は2011年[平成23年]6月で使用不可となった)。
  • 多額の導入費用・長期間のアナログ-デジタル併用運用などの負担が大きい。
  • 戸別受信機の補完もしくは代用を目的として、自主的に一般販売されている広帯域受信機(防災ラジオ)を購入して聴取する方法がアナログでは可能だったが、デジタルでは専用受信機以外での受信が実質不可能である。
  • 全国瞬時警報システムと接続が可能であるが、移動系では国民保護法サイレンの音や通常のサイレンなど、音声以外の音源がコーデックの関係で元の音源通り復元できない。
  • 利点で上げた項目はアナログ方式でも可能な部分も多く、現在、アナログ方式を導入している地方自治体は新たにデジタルシステムへ更新するメリットが少ない。

脚注・出典[編集]

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  1. ^ a b c d e f g 他機関すなわち警察一部事務組合選挙管理委員会教育委員会等首長部局以外からの依頼により通報するものは、正確には電波法違反となる。
  2. ^ 「広報〜」・「防災〜」の違いは、各総合通信局から交付される無線局免許状の識別信号による。
  3. ^ 静岡県伊東市の例で、防災無線で放送する内容を、伊豆急ケーブルネットワーク(IKC)とシーブイエー(CVA)の2局に提供し、文字で流す(両方)かそのまま音声で流す(CVA)ようにしている。
  4. ^ 青梅市 - 防災無線放送
  5. ^ 犯罪不安社会 誰もが「不審者」?

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

  • ふくおかコミュニティ無線MCA無線を活用した市町村向けの防災無線システム。2005年(平成17年)に福岡県で開発され、同県内市町村を中心に導入が進められている。2009年(平成21年)には、FMラジオ程度の小型の受信機を使用する戸別受信方式も開発された[1]
  • 大夢多コミュニティ無線 :福岡県大牟田市2007年(平成19年)から導入したMCA無線利用の市町村防災行政無線システムで、ふくおかコミュニティ無線の改良型[2]。移動系無線機にGPSによる位置管理機能を設けている。