コンパクトシティ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

コンパクトシティ(Compact City)とは、主にヨーロッパで発生した都市設計の動き、またその背景にある思想・コンセプト。アメリカではニューアーバニズム、イギリスではアーバンビレッジが同様の概念を打ち立てている。

文献によっては「コンパクトシティー」と「ー」を付けている場合もあるが、政府機関等の公文書をはじめ「コンパクトシティ」と表記されることが多い。

目次

[編集] 背景

[編集] 進む中心市街地の空洞化

日本の都市は高度成長期を経て拡大を続け、政策的にも郊外の住宅地開発が進められてきたが、1990年代より中心市街地空洞化現象が各地で顕著に見られるようになった。特に鉄道網の不十分な地方都市においては自動車中心社会(車社会)に転換し、巨大ショッピングセンターが造られ、幹線道路沿線には全国チェーンを中心としてロードサイド型店舗やファミリーレストランファーストフード店などの飲食店が出店し、競争を繰り広げるようになった。また商業施設のみならず公共施設や大病院も広い敷地を求めて郊外に移転する傾向が見られる。一方、旧来からの市街地は街路の整備が不十分で車社会への対応が十分でない場合が多い。昔から身近な存在であった商店街は、道路が狭く渋滞している、駐車場が不足している、活気がなく魅力ある店舗がないなどの理由で敬遠されて衰退し、いわゆるシャッター通りが生まれている。古い市街地は権利関係が錯綜しており、再開発が進まなかったことも一因である。

[編集] 郊外化の問題点

郊外化の進展は、既存の市街地の衰退以外にも多くの問題点を抱えている。

  1. 自動車中心の社会は移動手段のない高齢者など「交通弱者」にとって不便である。
  2. 無秩序な郊外開発は持続可能性、自然保護、環境保護の点からも問題である。
  3. 際限のない郊外化、市街の希薄化は、道路、上下水道などの公共投資の効率を悪化させ、膨大な維持コストが発生するなど財政負担が大きい。

[編集] コンパクトシティの発想

こうした課題に対して、都市郊外化・スプロール化を抑制し、市街地のスケールを小さく保ち、歩いてゆける範囲を生活圏と捉え、コミュニティの再生や住みやすいまちづくりを目指そうとするのがコンパクトシティの発想である。1970年代にも同様の提案があり、都市への人口集中を招くとして批判されていたが、近年になって再び脚光を浴びるようになった。再開発や再生などの事業を通し、ヒューマンスケールな職住近接型まちづくりを目指すものである。

交通体系では自動車より公共交通のほか、従来都市交通政策において無視に近い状態であった自転車にスポットを当てているのが特徴である。 (TOD:公共交通指向型開発

自治体がコンパクトシティを進めるのには、地方税増収の意図もある。例えば、地価の高い中心部に新築マンションなどが増えれば固定資産税の増収が見込まれ、また、都市計画区域内の人口が増えれば都市計画税の増収も見込まれる。すなわち、同じ自治体内の郊外から中心部に市民が住み替えるだけで地方税の増収に繋がることになり、経済停滞や人口減少が予想される自治体にとってコンパクトシティ化は有効な財源確保策と見られている。

[編集] 推進例

札幌市仙台市青森市稚内市富山市をはじめとした寒冷多雪の都市と神戸市などがコンパクトシティを政策に取り入れている。青森市では郊外の発展により膨大な除雪費用が市の財政を圧迫するようになったことなどから、郊外にあった公営住宅を中心部に移転させるなど、郊外の開発を抑制して中心市街地の再開発に重点を置く施策を取り、成果を上げているという。

ただし地域ごとの課題があり、全国一律に適用できるとは限らない。比較的コンパクトシティ化しやすい都市の条件として、

  1. 公共交通網がある程度充実していること
  2. 中心市街地である程度文化活動が盛んであること
  3. コミュニティが存在していること
  4. 観光地としても成立しうる資源を持ち人々が流入する要素があること

などが考えられる。

近年、地方都市において地価が下落したことや、工場跡地等の格好の更地が出現したこともあって、一定規模以上の都市(例:福井市大阪府枚方市鹿児島市)では中心市街地マンション開発が進むなど、コンパクトシティの方向への動きも見られる。結果、首都圏京阪神などといった大都市圏の中心部に顕著な都心回帰が、一部の地方都市においても見られるようになった。

[編集] コンパクトシティ誘導政策

国土交通省も、コンパクトシティを目指すべく政策転換を進めている。1998年制定のまちづくり3法(改正都市計画法大規模小売店舗立地法中心市街地活性化法)が十分に機能しておらず、中心市街地の衰退に歯止めがかかっていないとの問題認識から、見直しが行われ、そのうち都市計画法、中心市街地活性化法が改正された(2006年6月、2006年8月施行)。この改正については、福島県等で問題になった、郊外への大型量販店ショッピングセンターの立地抑制に狙いがあるのではないかとの批判がある。

[編集] 課題

コンパクトシティへの動きが目立つ一方、以下のような課題も多い。

  • 既に拡大した郊外をどう捉えるのか。
郊外の環境の良い、ゆとりのある住宅を好む住民も多く、必ずしも住民の支持を得られていないケースも多い中で、成功するのか。住民の意向を無視した上からの押し付けにならないか。また、平成の大合併で広大な自治体が次々と誕生した中で、コンパクトシティ化は郊外や旧自治体の中心街を切り捨てることに繋がらないかと不安がある。
  • 郊外の発展を抑えれば中心市街地が再生するのか
市街地拡大の抑制そのものが目的と誤解され、街のにぎわいを取り戻し再生させるという本来の目的が忘れ去られる恐れがある。例えば、郊外化を抑制する目的で郊外へのショッピングセンター立地を抑制するという名目での、活性化策を自ら企画実施しようとしない既存商店街保護へのすり替えの恐れがある。
  • 都市計画をツールとして有効に活用できるか
従来も、都市計画が真に有効に機能しておれば防げたことは多いのではないか。現状追認に終始してきたのではないか。都市計画が現状追認にならざるをえなかったのは、都市計画が国民、住民の希望・考えを無視した官僚・学者主導のものになっていたからではないか。
  • 自動車への依存を克服できるのか
通勤や買い物に事実上使えないほど公共交通が衰退している地方都市は多い。そのため、富山市の場合、高山本線の増発、臨時駅設置の社会実験や富山ライトレール等で自動車に頼らない街づくりを目指している。

[編集] 参考文献

  • 山本恭逸(編著)『コンパクトシティ 青森市の挑戦』(ぎょうせい、2006年)
  • 鈴木 浩『日本版コンパクトシティ 地域循環型都市の構築』(学陽書房、2007年)

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク