煙霧

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ビル群をかすませている煙霧、シンガポール
濃い煙霧により、遠くのビルがうっすらとしか見えない。シンガポール
煙霧の天気記号(日本式)
海面に近い低空に広がる海辺の煙霧。海塩粒子によるもの。アメリカ カリフォルニア州
煙霧でかすむ太陽
東アジアの広範囲を覆う煙霧。2002年1月11日の衛星画像。NASA

煙霧(えんむ、: haze、ヘイズ)とは、目に見えないほど小さい乾いた固体微粒子エアロゾル粒子)が空気中に浮いていて、視程が妨げられている現象のこと。

定義[編集]

気象現象としての「煙霧」は、以下の現象を包含する総称である。

  • によってちりぼこりが地面から巻き上げられる現象(風じん
    • 特に激しいものを砂じんあらし(日本では視程1km以下の場合と定義されている)と呼び、気象観測では風じんと区別する。
  • 風で巻き上げられたちりや砂ぼこりが、風が止んでからも浮遊する現象(ちり煙霧
    • 特に日本では、中国モンゴル等の乾燥地帯由来のちりや砂ぼこりが飛来するものを黄砂と呼び、気象観測でもちり煙霧と区別することがある。
  • 山火事火災工場排気、自動車排気などから出た燃焼物由来の微粒子が浮遊する現象(ばい煙
  • 物の破砕や産業活動等によって主に人工的に生じる微粒子(粉じん粉粒体)が浮遊している状態
  • 工場排気、自動車排気等に含まれる気体成分が大気中で変質した固体の微粒子が浮遊している状態
  • 火山から噴出した火山灰が降下する現象(降灰)
  • 海塩粒子等の自然由来の微粒子が浮遊している状態

観測者の周りの大気が上記のような状態であるときの天気を煙霧という。なお、浮遊している微粒子が主に固体である場合に限られ、主に液体である場合はもやとして区別する(次節参照)。

気象観測天気予報においては、以下の定義がある。なお、煙霧単独の場合であり、霧、雨、雪、雷などがある場合にはそちらが優先されて煙霧としては記録されない。

  • 日本の気象庁が観測・記録する際の定義(15種天気):煙霧が発生していて、視程が1km未満あるいは視程1km以上だが空全体が煙霧等に覆われて雲が見えない(雲量10)とき。ちり煙霧、黄砂、煙、降灰を含める。ただし、視程1km未満の砂じんあらしを除く。
  • 国内気象通報日本式天気図における定義(21種天気):煙霧が発生していて、視程が10km未満あるいは空全体が煙霧等に覆われて雲が見えないとき。ちり煙霧、黄砂、煙、降灰を含める。ただし、視程2km未満のちり煙霧および、視程1km未満の砂じんあらしを除く。
  • SYNOPなどの国際気象通報式における定義(96種天気):煙霧(日本では視程10km未満)。砂じんあらし、ちり煙霧、風じん、発生源が明らかな煙を除く。

気象学では煙霧や霧などの区分を明確にする必要がある。しかし、その必要がない他の分野では「煙霧」は一般的な用語ではなく、「煙霧」に該当するものを靄(もや)や霞(かすみ)と呼ぶことがある。文学上の表現としてはこちらのほうが多用される。また、航空惑星科学の分野においては、慣習的に煙霧・スモッグ・靄・霧などをすべてひっくるめて視程を悪化させるもの全般を煙霧の英称である「ヘイズ」(haze)と呼ぶ場合がある。

煙霧と霧とスモッグの区別[編集]

類似の現象として、液体の微粒子(おもに微小な水滴からなる)が浮遊している「」や「もや」がある。目視だけでは、これらと煙霧を区別できない場合があり、以下のように湿度を基準に区別する。

気象庁は、煙霧または霧・もやと見られる現象が発生しているとき(視程10km未満のとき)、湿度が75%以上ならば霧・もや、75%未満ならば煙霧と定義している。

煙霧の発生後に気温の低下によって湿度が高くなったりすると、煙霧と同時に霧やもやが発生することがある(個体の微粒子と液体の微粒子が同時に浮遊している状態)。よって、たとえ煙霧が発生していたとしても、霧が混じっている時は霧、もやが混じっているときはもやとして、それぞれ扱われる。そのため煙霧として扱われる場合には湿度が低い場合が多い。

また大気汚染による煙霧は「スモッグ」とも呼ばれる。スモッグ(smog)は煙(smoke)と霧(fog)を合成したことばであり、元来は燃焼物に由来する煙と自然に発生する霧の混合したものを指していたが、現在は排気ガスの変質により人体に有害な気体成分を含むものを「光化学スモッグ」と呼ぶようになった。そのため、初めてそれが問題となった地域の名前を冠して、前者を「ロンドン型スモッグ」、後者を「ロサンゼルス型スモッグ」と呼ぶ。両者とも固体の微粒子成分を含むが、「ロンドン型スモッグ」は液体成分が多いため気象観測上「霧」や「もや」に分類される。「ロサンゼルス型スモッグ」は固体成分が多いため気象観測上は「煙霧」に分類される。

原因と影響[編集]

煙霧が起きやすいのは、湿度が低く大気や地面が乾燥した状態が続いた後である。この状態で風が吹くと、微粒子が舞い上がって浮遊し始める。

煙霧には地域性があり、一般的に、砂漠や乾燥地帯では激しい煙霧(砂嵐)が発生する一方、湿潤な森林草原では煙霧は発生しにくい。ただし、季節により植物や地表の乾燥度が変わることで、煙霧が発生しやすくなる。

上や海岸では、しぶきの蒸発によってできる海塩粒子、砂漠や乾燥地域では砂嵐、工業地帯都市では排煙などの大気汚染によって、それぞれ煙霧がおきやすい。

森林や草原でも、雨量が少なく乾燥が続く乾期に大規模な森林火災が発生することがあり、この煙が風に流されて運ばれ煙霧となることがある。東南アジアでは熱帯雨林焼畑に伴う煙が離れた都市部や隣国にまで達し、国際的な社会問題となっている。

砂嵐によって上空高くに達したちりや砂の微粒子は、遠方まで運ばれることがある。東アジア黄砂西アフリカハルマッタン北アフリカ中東シムーンハムシン地中海沿岸のシロッコギブリペルシャ湾岸のシャマールオーストラリア南部のブリックフィールダーなどは、こうしたちりや砂を主成分とした煙霧を、発生地から数千km離れた地域にもたらすことで知られる。

また、「ロサンゼルス型スモッグ」である光化学スモッグは、日本でも都市部で1970年代から発生して社会問題となった。一方、2000年代には国内全般で光化学スモッグの発生が増加している。国内の観測点のNOxや非メタン炭化水素(NMHC)の濃度が長期的に減少傾向にあるのに対して、Ox濃度やNOx中に占めるNO2の比率が上昇傾向にある。また従来より関西関東の都市部ではを中心に濃度上昇がみられたが、国内の排出の影響を受けにくい日本海側離島部では西風が卓越するを中心に濃度上昇が観測されている。その原因として主に中国沿岸部など東アジアからの越境輸送が挙げられ、例えば本州付近でのオゾン濃度の1~2割は日本を除く東アジア由来、また離島では東アジア由来が2~3割・ヨーロッパ北アメリカ由来がそれぞれ1割との推定があり、地球規模での汚染物質の輸送も関与している[1]

湿度が低く霧や靄に分類されない霧でも、液体の微粒子が多少は含まれており、視程の低下に寄与している。そのため、例えば黄砂のかすみは、黄砂だけではなく、靄によるかすみも含まれている。

出典[編集]

脚注[編集]

関連項目[編集]