特命全権大使

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特命全権大使(とくめいぜんけんたいし、: ambassadeur extraordinaire et plénipotentiaire: ambassador extraordinary and plenipotentiare)とは、外交使節団の長で最上級の階級である。接受国の元首に対して派遣され、外交交渉、全権代表としての条約の調印・署名、滞在する自国民の保護などの任務を行う。国際連合などの国際機関の政府代表部に対しても派遣される。

呼称[編集]

一般的には略して大使または全権大使と呼ばれるか、「在○○大使」(○○国に派遣されている大使)・「在○○××大使」(○○国に派遣されている××国の大使)と呼ばれる[1]。あるいは、「駐○○大使」(○○国に派遣されている大使)・「駐○○××大使」(○○国に派遣されている××国の大使)と呼ばれる。また、少々古語ではあるが、日本国外務省では「駐箚」(ちゅうさつ)の語を、今でも用いており、任命の辞令等には「○○駐箚特命全権大使」と記される[2]

駐箚とは、公務員が命により派遣されて駐在することの意であり、自ら名乗る場合「○○国駐箚××国特命全権大使(姓名)」と名のることがある。同様に、格式ある場では、例えば「日本国駐箚フランス共和国特命全権大使フィリップ・フォール閣下」(: Son Excellence, M. Philippe Faure, Ambassadeur Extraordinaire et Plénipotentiaire de France au Japon)と呼ばれる。また、公文書上の一人称は「本使」、二人称は「貴使」である(もっとも、英文では一人称は通常どおり「I」、二人称は「you」であるが、公式訳文ではそれぞれ「本使」、「貴使」と訳している)。

派遣[編集]

特命全権大使については、派遣国は派遣する者について、接受国からアグレマン(合意)を得なければならない(外交関係に関するウィーン条約 (: Convention de Vienne sur les relations diplomatiques) 4条1項)。特命全権大使は、接受国の元首 (chef d’Etat) に対し、派遣国の元首(日本国の場合は天皇)が派遣する。その際に派遣国の元首から信任状が託され、大使が接受国の元首に直接提出する儀式を信任状捧呈式という。大使の席次は、信任状の捧呈式の実施のときが大使の任務開始とされる(外交関係に関するウィーン条約第13条)ため、信任状捧呈式の順により定められる(外交関係に関するウィーン条約第16条第1項及び第2項)。

外交使節団長[編集]

接受国に駐在する外交使節の長 (: chef de mission) としての大使の中で最も在任期間の長い大使は、外交使節団長 (: Doyen du corps diplomatique) と呼ばれ、駐在国における各種外交行事の際は、全ての外交団の代表として振舞うことになる。もっとも、いくつかの国においては、外交関係に関するウィーン条約第16条第3項により、教皇の代表者 (: représentant du Saint-Siège) の席次に関する習律として教皇大使を、その在任期間の長短にかかわらず、外交使節団長としている。

来歴[編集]

ヨーロッパにおける外交は、貴族の手によりなされていたので、近代官僚制、つまり一般の家柄の者が外交に関わる時代になっても、長くその風習は残り、大使を筆頭とする外交官には貴族的な高い教養が求められた。そのため、社会主義政党による政権が、あえて貴族を大使に任命するという事例[要出典]もあった。現代でもプロトコールに、外交儀礼の伝統がとどめられており、フランス語が多用されている。

かつては、大使のほか、駐在使節 (resident)、派遣使節 (envoy)、特命派遣使節 (extraordinary envoy)、公使 (minister)、駐在公使 (minister resident)、全権公使 (plenipotentiary minister)、特命全権公使 (minisiter extraordinary and plenipotentiary)、などの階級が乱立し、席次に関する紛争が起こった。

1815年ウィーン会議で採択された「外交使節の階級に関する規則」では、大使 (ambassadeur, nonce)、公使 (envoyé, ministre, internonce)、代理公使(chargé d'affaires、外交使節団の長の代理者である臨時代理大使 (Chargé d'affaires ad interim) とは異なる。)の3階級とされ、1818年に弁理公使 (minister resident) の階級が認められた。

各国の制度[編集]

日本[編集]

日本の特命全権大使は原則として大使館または政府代表部在外公館の長(在外公館長)であるが、国連政府代表部など複数名の特命全権大使を擁する在外公館がある。その場合は上位者が館長に、次席が次席館員となる。新しい任期が決まるまで国内勤務の大使は待命大使と呼ばれ、「臨時本省事務従事」という特殊な業務に就く者もいる(担当大使)。

特命全権大使は特別職の国家公務員かつ外務公務員(=外交官)であり、その任免は、外務大臣の申出により内閣が行い、天皇がこれを認証する。また、特命全権大使の信任状及び解任状は、天皇がこれを認証する。

現在の日本では慣例的に外務省職員(特にキャリア官僚)からの任命が多くを占めているが、他省庁の職員が退官後に各国の大使に任命される例も多い。外務省職員にとって大使ポストは出世のキャリアに組み込まれているが、とりわけ外務省においては事務次官をつとめた後、主要国首脳会議参加国や近隣の大国の大使に転出する慣例が続いてきた。この点において事務次官が最高ポストである他省庁と一線を画し、次官以上のポストが多数存在するという一種の逆ピラミッド状態が最上部に出現している。他方、相対的に日本との関係で重要性が低いと見られる国の大使には、しばしば本省の課長相当職すら経験していない人物が赴任するケースがあったため、外務省改革の一環としてその運用が見直された。

その外務省改革では主要国以外の大使のポストに民間の人材が多く登用された。下記に例を挙げる。

ほかに戦後、外務省外から大使に登用された例としては、下記の通りである。

日本の特命全権大使一覧[編集]

以下は日本の特命全権大使の一覧である[3]

アジア地域
大洋州地域
北米地域
中南米地域
欧州地域
中東地域
アフリカ地域
政府代表部
日本国内
その他

バチカン[編集]

ローマ教皇の派遣する大使 (Diplomatie du Saint-Siège) には、かつては2階級あり、司教大司教がなる教皇大使 (Nonce apostolique) と枢機卿がなる教皇特派大使 (Légat apostolique) があった。現在は教皇大使のみである。

また、公使に相当する教皇大使代理 (internonce; pro-nonce) がある。

教皇大使は、主権国家であるバチカン市国との外交関係と、ローマ教皇庁との外交関係に基づいて大使の派遣及び接受の関係があるとされる。

1969年6月23日の教皇答書では教皇大使及び教皇大使代理に関してのみ規定されており、教皇特派大使は規定上も廃止されている。

教会法では、教皇の大使といえども、一般の司教が持つ権限のみで、駐在国における司牧上の権限は持たず、駐在国の司教協議会(Conférence des évêques catholiques 日本ではカトリック中央協議会)が当該国の司牧について決定すると定めている。

1961年の外交関係に関するウィーン条約では、同様に「ローマ法王の大使」及び「ローマ法王の公使」とのみ規定している。

イギリス連邦[編集]

イギリス連邦の所属国同士は大使を交換せず、高等弁務官 (High Commissioner) と呼ばれる外交使節団の長を交換する。また、大使館についても高等弁務官事務所と呼ばれる。

アメリカ[編集]

アメリカなどでは大使は政治任用ポストとされ、連邦議会上院による承認を要する。政治家や時には与党の有力支持者である実業家学者などが任命される(国務省官僚が任命される場合ももちろん存在する。湾岸戦争時の駐日大使マイケル・アマコストなど)。また、著名な人物が任命されることがあり、シャーリー・テンプルガーナ大使、チェコスロバキア大使)、レイモンド・スプルーアンスフィリピン大使)が代表例である。チャールズ・チャップリン第二次世界大戦中の一時期、「駐ソ大使に任命か」という噂が流れたことがあった(昭和17年8月6日付朝日新聞夕刊)。

脚注[編集]

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  1. ^ 政府が発行する『職員録』では、明治時代より現在に至るまで「在○○大使館特命全権大使」の表記がなされている。
  2. ^ 外務省が手書きや活字印刷の時代に用いていた「箚」の字体は、へんが「答」、つくりが「刂」(りっとう)の「劄」(Unicode U+5284)であった。
  3. ^ 日本の特命全権大使一覧” (日本語). 外務省. 2013年11月19日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]