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|和名 = '''タコ目'''('''八腕目''')
* {{Sname|Octobrachia}} {{Small|{{AU|sensu}} {{AUY|Boletzky|1992}}}}
|英名 = Octopus
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* [[ヒゲダコ亜目|ヒゲダコ亜目(有触毛亜目]] {{sname||Cirrina}}
* [[有触毛亜目]] {{sname||Cirrata}}
* [[マダコ亜目|マダコ亜目(無触毛亜目]] {{sname||Incirrina}}
* [[無触毛亜目]] {{sname||Incirrata}}
<center>詳しくは[[#分類|本文]]を参照
<center>詳しくは[[#分類|本文]]を参照
}}
}}
'''タコ'''(蛸、鮹、章魚、鱆、{{lang-en-short|octopus}})は、[[頭足類|頭足綱]]{{仮リンク|鞘形類|en|Coleoidea|label=鞘形亜綱}}[[八腕形類|八腕形上目]]の'''八腕形目'''(八腕目、[[学名]]:{{sname||Octopoda}})に分類される[[軟体動物]]の総称である{{Sfn|前田|2005|p=709}}。角質環や柄のない吸盤を付けた、多様な機能を持つ筋肉に富んだ8本の[[腕 (頭足類)|腕]]と、脊椎動物に匹敵する大きな[[脳]]を持つ頭部を前方に具え、厚い[[外套膜]]に覆われた内臓塊からなる胴を後方に持つことを特徴とする。
{{栄養価 | name=タコ、生| water =80.25 g| kJ =343| protein =14.91 g| fat =1.04 g| carbs =2.2 g| fiber =0 g| sugars =0 g| calcium_mg =53| iron_mg =5.3| magnesium_mg =30| phosphorus_mg =186| potassium_mg =350| sodium_mg =230| zinc_mg =1.68| copper_mg=0.435| manganese_mg =0.025| selenium_μg =44.8| vitC_mg =5| thiamin_mg =0.03| riboflavin_mg =0.04| niacin_mg =2.1| pantothenic_mg =0.5| vitB6_mg=0.36| folate_ug =16| choline_mg =65| vitB12_ug =20| vitA_ug =45| betacarotene_ug =0| lutein_ug =0| vitE_mg =1.2| vitD_iu =0| vitK_ug =0.1| satfat =0.227 g| monofat =0.162 g| polyfat =0.239 g| tryptophan =0.167 g| threonine =0.642 g| isoleucine =0.649 g| leucine =1.049 g| lysine =1.114 g| methionine =0.336 g| cystine =0.196 g| phenylalanine =0.534 g| tyrosine =0.477 g| valine =0.651 g| arginine =1.088 g| histidine =0.286 g| alanine =0.902 g| aspartic acid =1.438 g| glutamic acid =2.027 g| glycine =0.933 g| proline =0.608 g| serine =0.668 g| taurine =0.520 g|right=1 | source_usda=1 }}
'''タコ'''([[wikt:蛸|蛸]]、[[wikt:鮹|鮹]]、[[wikt:章魚|章魚]]、[[wikt:鱆|鱆]]、[[学名]]:{{sname||octopoda}})は、[[頭足類|頭足綱]] - {{仮リンク|鞘形類|en|Coleoidea|label=鞘形亜綱}} - [[八腕形類|八腕形上目]]の'''タコ目'''に分類される[[軟体動物]]の総称。


== 呼称 ==
== 呼称 ==
=== 和名と漢名 ===
英名 {{lang|en|[[w:Octopus|octopus]]}} は、直接的にはラテン語 {{lang|la|[[wikt:en:octopus#Latin|octopus]]}}(オクトープースまたはオクトープス)の借用であり、その元は[[古典ギリシア語]]の「8本足」{{lang|el|[[wikt:en:ὀκτώπους|ὀκτώπους]]}}({{lang|el-latn|oktōpous}})から来ている。日本語では、標準和名の他に'''たこ'''、'''蛸'''、'''鮹'''、'''章魚'''、'''鱆'''とも記す。中国語では通称として{{lang|zh|章魚}}、古称として{{lang|zh|蛸}}、ほか別名として{{lang|zh|八爪魚、八帶魚}}<ref>{{Cite web|title=“八帶魚”字的解释 {{!}} 汉典|url=https://www.zdic.net/hans/%E5%85%AB%E5%B8%B6%E9%AD%9A|website=www.zdic.net|accessdate=2021-06-10|language=zh-cn}}</ref>などと呼ばれている。
日本語では、'''たこ'''、'''[[:wikt:蛸|蛸]]'''{{Sfn|前田|2005|p=709}}{{Sfn|藤堂ほか|2011|p=1396}}{{Sfn|奥谷|2002|p=148}}{{Sfn|『せたかむい』12月号|2004|p=2}}、'''[[:wikt:鮹|鮹]]'''{{Sfn|前田|2005|p=709}}{{Sfn|奥谷|2002|p=148}}{{Sfn|藤堂ほか|2011|p=1826}}{{Sfn|『せたかむい』12月号|2004|p=2}}、'''[[:wikt:章魚|章魚]]'''{{Sfn|前田|2005|p=709}}{{Sfn|奥谷|2002|p=148}}{{Sfn|藤堂ほか|2011|p=1832}}{{Sfn|加納|2007|p=228}}、'''[[:wikt:鱆|鱆]]'''{{Sfn|藤堂ほか|2011|p=1832}}{{Sfn|加納|2007|p=227}}とも記す。「多古」{{Sfn|『せたかむい』12月号|2004|p=2}}、「多胡」{{Sfn|『せたかむい』12月号|2004|p=2}}、「太古」{{Sfn|『せたかむい』12月号|2004|p=2}}<ref name="wamyosho"/>のような音写のほか、「潮魚」{{Sfn|『せたかむい』12月号|2004|p=2}}、「八梢」{{Sfn|『せたかむい』12月号|2004|p=2}}{{Efn|なお、「八梢魚」は特に[[クモダコ]]を表すとされる<ref name="tessai">[[平瀬徹斎]] (1754)『[[日本山海名物図会]]』</ref>。}}、「章挙」{{Sfn|加納|2007|p=228}}{{Sfn|『せたかむい』12月号|2004|p=2}}、「章拒」{{Sfn|加納|2007|p=228}}{{Sfn|『せたかむい』12月号|2004|p=2}}、「章巨」{{Sfn|加納|2007|p=228}}、「章花魚」{{Sfn|『せたかむい』12月号|2004|p=2}}{{Efn|なお、「章花魚」は[[イイダコ]]とも読む<ref>{{Cite book|和書|editor=三省堂編修所|title=何でも読める難読漢字辞典|publisher=三省堂|date=1995-09-10|isbn=4385135916|page=40}}</ref>。}}、「海蛸」{{Sfn|加納|2007|p=72}}、「海蛸子」{{Sfn|加納|2007|p=190}}{{Sfn|『せたかむい』12月号|2004|p=2}}<ref name="wamyosho">[[源順]]([[承平 (日本)|承平]])『[[和名類聚抄]]』</ref>、「海和魚」{{Sfn|『せたかむい』12月号|2004|p=2}}<ref>{{Cite book|和書 |title=難訓辞典 |editor=井上頼圀 等|year=1907 |publisher=啓成社}}</ref>、「海肌子」{{Sfn|『せたかむい』12月号|2004|p=2}}<ref name="wamyosho"/>、「小鮹魚」{{Sfn|加納|2007|p=190}}、「望潮魚」{{Sfn|『せたかむい』12月号|2004|p=2}}{{Efn|なお、「望潮魚」は普通[[イイダコ]]を表すとされる{{Sfn|奥谷|2002|p=148}}<ref name="tessai"/>。}}、「望潮」{{Sfn|加納|2007|p=228}}{{Efn|なお、「望潮」は[[シオマネキ]]とも訓ずる<ref>{{Cite book|和書|editor=三省堂編修所|title=何でも読める難読漢字辞典|publisher=三省堂|date=1995-09-10|isbn=4385135916|page=38}}</ref>。}}など、約30表記が知られる{{Sfn|『せたかむい』12月号|2004|p=2}}。


タコの語源は以下のような様々な説が知られる{{Sfn|前田|2005|p=709}}。
== 生物的特徴 ==
# タは[[手]]を示し、コは「[[:wikt:許多|許多]](ここら)」<ref name="shakumyo">[[貝原益軒]] (1699)『[[日本釈名]]』</ref><ref name="daigenkai">[[大槻文彦]] (1932)『[[大言海]]』</ref>または助語(子)で、手が多いことからの命名<ref>[[新井白石]] (1717)『[[東雅]]』</ref>{{Sfn|前田|2005|p=709}}{{Sfn|加納|2007|p=228}}。
主に[[岩礁]]や砂地に生息する。海洋棲で、[[淡水]]を嫌うため[[河口]]などの[[汽水域]]には棲息しない。
# タは手を示し、コは[[:wikt:海鼠|海鼠]](こ、[[ナマコ]])の義<ref name="daigenkai"/><ref>賀茂百樹 (1943)『日本語源』</ref>、または[[ナマコ]]や[[カイコ]]のコに通じ、手を持った[[動物]]の意<ref>[[坂部甲次郎]] (1962)『たべもの語源抄』</ref>{{Sfn|前田|2005|p=709}}。
# 動詞「[[:wikt:綰|綰く]](たく)」に由来し、手を縦横に動かすことから<ref>[[吉田金彦]] (2001)『語源辞典 動物編』</ref>{{Sfn|前田|2005|p=709}}{{Sfn|奥谷|2002|p=148}}。
# 「手長(テナガ)」の略転<ref name="shakumyo"/>。
# 「手瘤(テコブ)」の義<ref>[[松永貞徳]] (1662)『[[和句解]]』</ref><ref>[[和泉屋吉兵衛]] (1835)『[[名言通]]』</ref><ref>[[林甕臣]] (1932)『[[日本語原学]]』</ref>{{Sfn|前田|2005|p=709}}。
# タは[[手]]を示し、コはコ(凝)の義で、手が物に凝りつくことから<ref>[[菅泰翁]](江戸後期)『紫門和語類集』</ref>{{Sfn|前田|2005|p=709}}。
# 「膚魚(ハタコ)」の義で、鱗のない魚であることから<ref>[[大石千引]] (1830–1834)『[[言元梯]]』</ref>{{Sfn|前田|2005|p=709}}。
# 「多股(タコ)」の義で、足が多いところから<ref>『[[和語私臆鈔]]』</ref>{{Sfn|前田|2005|p=709}}{{Sfn|奥谷|2002|p=148}}{{Sfn|『せたかむい』12月号|2004|p=1}}。
# 「足る(たる)」と「壺(こ)」を意味する「タルコ」の略転で、丸く膨れた腹に餌をため込み満足する様子から{{Sfn|『せたかむい』12月号|2004|p=1}}。


[[種 (分類学)|種]]をイカよりも見分けにくいことから、地方名は少ない{{Sfn|奥谷|2002|p=147}}。その地域の最有力種は「真」を冠して「まだこ」と呼ばれる{{Sfn|奥谷|2002|p=147}}。標準和名[[ヤナギダコ]]や[[クモダコ]]は方言名に由来するものである{{Sfn|奥谷|2002|p=147}}。
複数の[[吸盤#動物の例|吸盤]]がついた8本の[[腕 (頭足類)|腕]]を特徴とする。[[動物学]]的には足であり、一般には「[[足]]」と呼ばれるが、物を掴む機能などにより、特に[[頭足類]]における足は「[[腕 (頭足類)|腕]]」とも表現される(英語でも {{lang|en|arm}} [[腕]]と呼ぶ)。


中国語では通称として{{lang|zh|章魚}}、古称として{{lang|zh|蛸}}、ほか別名として{{lang|zh|八爪魚、八帶魚}}{{Sfn|加納|2007|p=228}}<ref>{{Cite web|title=“八帶魚”字的解释 {{!}} 汉典|url=https://www.zdic.net/hans/%E5%85%AB%E5%B8%B6%E9%AD%9A|website=www.zdic.net |accessdate=2021-06-10|language=zh-cn}}</ref>などと呼ばれている。漢字「[[:wikt:蛸|蛸]]」は「蠨蛸」で[[アシナガグモ]] {{Snamei||Tetragnatha predonia}} を指す{{Sfn|藤堂ほか|2011|p=1396}}{{Sfn|加納|2007|p=72}}。これが日本では本草和名で「海蛸」と表記してからタコを意味する漢字として用いられるようになった{{Sfn|加納|2007|p=72}}。この海蛸は、コウイカの甲を本草で「海螵蛸」と表記することと混同したとも、8本の足をクモに見立てて海のクモの意に由来するとも説明される{{Sfn|加納|2007|p=72}}。また、漢字「[[:wikt:鮹|鮹]]」がタコを表すのは日本での用例(半国字)で、中国では[[ヤガラ]]([[アカヤガラ]] {{snamei||Fistularia petimba}})を示す{{Sfn|藤堂ほか|2011|p=1826}}{{Sfn|加納|2007|p=190}}。
見た目で頭部に見える丸く大きな部位は実際には胴部であり、本当の頭は腕の基部に位置して、[[目|眼]]や[[口|口器]]が集まっている部分である。すなわち、頭から足(腕)が生えているのであり、同じ構造を持つ[[イカ]]の仲間とともに「'''[[頭足類]]'''」の名で呼ばれる理由である。


=== octopus ===
イカの仲間との違いは腕の数(タコは4対8本なのに対し、イカは触腕1対2本を加えた5対10本)のほか、ミミ(鰭)がないことであるが、これらには例外もある(腕が8本のタコイカやミミのある[[メンダコ]]など)<ref name="vol8">{{Cite web|和書|url= http://taste.marinelearning.org/wp-content/themes/taste/pdf/umimon/08taco.pdf |title=vol8.タコ - 南三陸味わい開発室 |publisher=海の自然史研究所 |accessdate=2019-10-18 |format=PDF }}</ref>。このほか吸盤の構造もイカの仲間とは異なる(後述)。
英名 {{En|[[:en:Octopus|octopus]]}}(オクトパス)は、直接的には[[新ラテン語]] {{lang|la|[[wikt:en:octopus#Latin|octōpūs]]}}(オクトープース)の借用であり、その元は[[古典ギリシア語]]の {{lang|grc|[[wikt:en:ὀκτώπους|ὀκτώπους]]}}({{lang|grc-Latn|oktōpous}})、{{lang|grc|ὀκτώ}} ({{lang|grc-Latn|oktṓ}})「8」 + {{lang|grc|πούς}} ({{lang|grc-Latn|poús}}) 「足」に由来する{{Sfn|カレッジ|2014|p=10}}。ラテン語の {{en|octōpūs}} の複数形は {{en|octōpodēs}} であり、英語の {{en|octopus}} の複数形は {{En|octopuses}} である{{Sfn|カレッジ|2014|p=10}}。時に、ラテン語の第2変化名詞の語尾と誤解釈されて {{En|octopi}} という複数形が用いられることもあるが、これは正しくない{{Sfn|カレッジ|2014|p=10}}{{Efn|ラテン語の男性第2変化名詞は {{La|[[:wikt:en:focus#Latin|focus]]}} のように {{La|-us}} という語尾で終わり、複数形は {{La|foci}} のように {{La|-i}} で終わる。{{en|octōpūs}} はギリシア語由来の第3変化名詞であり、これとは異なる変化を持つ。}}。


{{Snamei||Octopus}} は[[マダコ属]]の学名としても用いられる。{{snamei||Octopus}} {{Small|{{AUY|Cuvier|1797}}}} は、[[ジョルジュ・キュヴィエ]]が1979年に ''{{lang|fr|Tableau Elémentaire de l’Histoire Naturelle des Animaux}}'', 380. 中で記載したものである{{Sfn|Norman ''et al.''|2016|p=40}}。[[タイプ種]]は日本の[[マダコ]] {{Snamei||Octopus sinensis}} {{Small|{{AUY|d'Orbigny|1841}}}} に近縁な地中海の種、{{Snamei|ja|Octopus vulgaris|Octopus vulgaris}} {{Small|{{AUY|Cuvier|1979}}}} である{{Sfn|Norman ''et al.''|2016|p=40}}。[[分類学]]の父、[[カール・フォン・リンネ]]はタコを認識していたが、[[1758年]]の''Systema Naturæ''『自然の体系』第10版では、[[コウイカ属]]の一種 {{snamei||Sepia octopodia}} {{small|{{AUY|Linnaeus|1758}}}} としていた。
その柔軟な体のほとんどは[[筋肉]]であり、ときには強い力を発揮する。体の中で固い部分は眼球の間に存在する脳を包む軟骨とクチバシのみである<ref name="natio201611" />。そのため非常に狭い空間を通り抜ける事ができ、[[水族館]]で飼育する場合は逃走対策が必要である<ref name="natio201611">ナショナルジオグラフィック 2016年11月号</ref>。


== 外部形態 ==
血液中には[[ヘモシアニン]]という緑色の色素が含まれており、そのため血液は青く見える。ヘモシアニンは魚類のもつ[[ヘモグロビン]]に比べ[[酸素]]運搬能力に劣るため、長距離を高速で移動し続けることができない{{sfn|Schweid|2014|p=18}}。さらに、海水のpH濃度にも影響を受けやすく、海水が酸性化すると酸素運搬能力が低下する{{sfn|Katherine|2014|p=79}}。
{{Multiple image
|align=center
|total_width=750
|image1=Schematic lateral aspect of octopod features.jpg
|caption1=タコの外部形態
|footer=<hr />eye: 眼, outer gill lamellae: 鰓葉, aperture: 外套開口, funnel: [[漏斗 (頭足類)|漏斗]], ocellus: 眼状紋, web: 傘膜, arms: 腕, dorsal: [[体軸#背腹軸|背側]], suckers: 吸盤, hectocotylus: 交接腕, ligula: 舌状片
|image2=Octopus vulgaris2.jpg
|caption2={{Snamei|ja|Octopus vulgaris|Octopus vulgaris}} の体。
}}
{{See also|頭足類の体}}
タコやイカなどの[[頭足類の体]]は、頭足部(頭足塊)と胴部(内臓塊)からなり{{Sfn|土屋|2002|p=6}}{{Sfn|佐々木|2008|pp=86–95}}{{Sfn|佐々木|2010|p=182}}{{Sfn|上島|2000|p=169}}、タコの内臓塊は[[外套膜]]に覆われた[[外套腔]]と呼ばれる空所に取り囲まれる{{Sfn|土屋|2002|p=6}}{{Sfn|佐々木|2010|p=189}}。頭足塊は'''腕'''と'''頭部'''からなり、前方にある{{Sfn|佐々木|2010|p=189}}。内臓は後方に偏っている{{Sfn|佐々木|2010|p=189}}。見た目で頭部に見える丸く大きな部位は実際には胴部であり{{Sfn|前田|2005|p=709}}{{Sfn|奥谷|2013|p=3}}、本当の頭は腕の基部に位置して、[[目|眼]]や[[口|口器]]が集まっている部分である。すなわち、頭から足(腕)が生えているのであり、同じ構造を持つ[[イカ]]の仲間とともに「'''[[頭足類]]'''」の名で呼ばれる理由である{{Sfn|奥谷|2013|p=3}}{{Sfn|土屋|2002|p=6}}{{Sfn|池田|2020|p=28}}。


外套膜の腹縁は大きく開口し、外套開口 ({{En|pallial aperture, mantle opening}}) といい、外套腔内に海水を取り込む{{Sfn|瀧|1999|p=329}}。
[[鰓]]は[[外套膜]]内に格納されており、[[漏斗 (頭足類)|漏斗]]のポンプで海水を取り入れて鰓に当てることにより酸素と[[二酸化炭素]]の交換をする。漏斗から噴き出す水は遊泳時の主な推進力となるほか、二酸化炭素のみならず排泄物や後述の墨の排出に利用される。


体サイズは種によって異なり、最大のものは全長3 m{{small|([[メートル]])}}に達する[[ミズダコ]] {{Snamei||Enteroctopus dofleini}} やその近縁種である{{Sfn|土屋|2002|p=94}}。これまでの確実な記録では生きているミズダコで、全長4 m、体重71 kg{{Small|([[キログラム]])}}のものが知られる{{Sfn|カレッジ|2014|p=83}}<ref name="Guinness">{{Cite web|url=https://www.guinnessworldrecords.jp/world-records/79291-largest-octopus|title=Largest octopus|website=Guinness World Records Limited 2024|accessdate=2024-08-24}}</ref>。あくまで説話上であるが、腕を広げた長さが9.75 m、重さは272 kg のミズダコの逸話もある{{Sfn|カレッジ|2014|p=83}}<ref name="Guinness"/>{{Sfn|窪寺|峯水|2014|p=235}}。それに次いで大きいのは、2002年に[[ニュージーランド]]沖で引き揚げられた[[カンテンダコ]] {{Snamei||Haliphron atlanticus}} の死骸で、体重60 kg、全長2.9 m であった{{Sfn|カレッジ|2014|p=83}}。
墨を墨汁嚢に蓄えており危険を感じると括約筋を使って[[漏斗 (頭足類)|漏斗]]から黒い墨を吐き姿をくらます<ref name="vol8" /><ref name="natio201611" />。タコ墨はイカ墨よりアミノ酸や多糖類、脂質が少なくさらさらしている<ref name="vol8" />。タコはさらさらの墨を[[煙幕]]のように利用しており敵を一時的に[[麻痺]]させる成分を含んでいる(イカの場合は墨の塊を出現させ敵から逃げる)<ref name="vol8" />。タコ墨が料理にあまり用いられないのは、イカ墨と比べて墨汁嚢が取り出しにくく、さらに1匹から採れる量もごく少量であることが理由である<ref name="ameba">[http://news.ameba.jp/20140204-456/ もしもタコ墨パスタを作るなら「1人前7,200円超」] アメーバニュース、2014年2月4日</ref>。


最小クラスの種として知られるのは熱帯の "{{En|pygmy octopus}}" と呼ばれるタコで、外套長2 cm{{small|([[センチメートル]])}}程度で成熟する{{Sfn|土屋|2002|p=94}}。日本近海産のものでは[[マメダコ]] {{Snamei|en|Octopus parvus|'Octopus' parvus}} が全長15 cm 程度で最小である{{Sfn|土屋|2002|p=94}}{{Efn|なお[[種小名]]の {{Snamei|parvus}} はラテン語で「小さい」を意味する形容詞である。}}。
外敵に襲われた際、捕らえられた腕を切り離して逃げることができ、その後、腕は再生するが、切り口によって2本に分かれて生えることもあり、8本以上の腕を持つタコも存在する。極端なものでは、日本で96本足のあるタコが捕獲されたことがあり、三重県の[[志摩マリンランド]]に標本として展示されていた。志摩マリンランドの休館により2022年現在では同県の[[鳥羽水族館]]で展示されている。


=== 腕 ===
[[マダコ]]では自分の腕を食べる行動が観察されている。この行動は何らかの病原体によって引き起こされると考えられており、腕を食べ始めたタコは数日以内に死亡する<ref>{{cite journal|title=Autophagy in octopus|author=Budelmann BU|journal=South African Journal of Marine Science|volume=20|issue=1|pages=101-108|year=1998|doi=10.2989/025776198784126502}}</ref>。
{{Multiple image
|image1=Octopus Arm Slice.png
|caption1=タコの腕の横断面。複数の筋肉層からなる。<hr />EP: 表皮; LM: 縦走筋繊維; TR: 小柱(縦走筋束の隙間に広がる横走筋繊維の束); CT: 結合組織; CM: 輪走筋層; TM: 横走筋繊維; ANC: 軸神経索(腕神経{{Sfn|広島大学生物学会|1971|loc=Plate 80}}); OME: 外側斜走筋層; OMM: 中間斜走筋層; OMI: 内側斜走筋層; SU: 吸盤。
|image2=Suckers of octopus by steve lodefink.jpg
|caption2=マダコ類の吸盤。2列に並んでいる。
}}
{{See also|腕 (頭足類)}}
複数の[[腕 (頭足類)#吸盤|吸盤]]がついた8本の'''[[腕 (頭足類)|腕]]'''(うで、{{En|arm}})を特徴とする{{Sfn|佐々木|2010|p=190}}{{Sfn|池田|2020|p=21}}。ほかの[[軟体動物]]における「[[足]]」に相当すると考えられているが{{Sfn|佐々木|2010|p=190}}、物を掴む機能などにより、特に[[頭足類]]における足は生物学的には「腕」と呼ばれる{{Sfn|奥谷|2013|p=6}}{{Sfn|佐々木|2010|p=189}}{{Sfn|小西|2010|p=21}}。[[イカ]]では普通、タコの持つ8本の腕に加えて[[触腕]]と呼ばれる2本の腕を持つため、合計10本の腕を持つ{{Sfn|佐々木|2010|p=190}}{{Sfn|奥谷|2013|p=6}}{{Efn|しかし、イカ類でも[[ヤツデイカ]]や[[タコイカ]]の成体では触腕を失い、8本の腕を持つ{{Sfn|佐々木|2010|p=190}}{{Sfn|土屋|2002|p=117}}。}}。8本の腕は左右相称で、背側中央から外に向かって順に左右第1腕から第4腕までが数えられる{{Sfn|池田|2020|p=21}}{{Sfn|佐々木|2010|p=190}}{{Sfn|奥谷|2013|p=6}}。ただし、雄はある決まった腕の一部が変形し、[[交接腕]]になる{{Sfn|池田|2020|p=21}}(「[[#生殖]]」節も参照)。

腕の間には'''[[傘膜]]'''(腕間膜)と呼ばれる広い膜が発達する{{Sfn|佐々木|2010|p=190}}。

==== 吸盤 ====
[[File:Octopus sucker operation EN.svg|thumb|250px|left|タコの吸盤の断面の模式図。]]
'''吸盤'''(きゅうばん、{{En|sucker}})の構造はイカ類とは異なり、柄や[[角質環]]を欠く{{Sfn|佐々木|2010|p=192}}{{Sfn|池田|2020|p=24}}{{Sfn|奥谷|2013|p=7}}。これがイカとタコを区別する、もっとも重要で確実な違いである{{Sfn|佐々木|2010|p=192}}{{Sfn|土屋|2002|p=46}}{{Efn|腕の本数や、鰭の有無には例外もある。}}。

タコの吸盤は非常に多機能であり、移動や体の固定、餌の捕獲などに用いられる{{Sfn|佐々木|2010|p=192}}。タコの吸盤の付着面には筋肉が放射状と同心円状に配置しており、放射状筋の上にさらに微小な吸盤が並ぶ{{Sfn|奥谷|2013|p=6}}。タコの吸盤は外側の'''外環部'''(がいかんぶ、{{En|infundibulum}})と呼ばれる付着部と内側の半球状のくぼみである'''内環部'''(ないかんぶ、{{En|acetabulum}})の2領域からなる{{Sfn|佐々木|2010|p=192}}。内環部が他物に密着した時の[[陰圧]]により吸着を行う{{Sfn|佐々木|2010|p=192}}。

この構造の違いは、生態を反映していると考えられている{{Sfn|池田|2020|p=24}}。遊泳性の餌を捕らえ、暴れる餌を抑え込む必要があるイカに対し、タコは待ち伏せ型の狩猟を行うため、角質環のような爪が不要であると考えられる{{Sfn|池田|2020|pp=25–26}}{{Sfn|奥谷|2013|p=7}}。また、底生であるため、海底を移動する際に引っかかることを避ける必要もあると考えられている{{Sfn|池田|2020|pp=25–26}}。

また、吸盤には感覚細胞(受容体細胞)が分布し、全部の腕を合わせると2億4000万個になる{{Sfn|奥谷|2013|p=6}}{{Sfn|池田|2020|p=167}}。物の形状が識別できる[[触覚]](機械刺激受容)と[[化学受容器]]による[[味覚]]を持つ{{Sfn|奥谷|2013|p=6}}{{Sfn|池田|2020|p=167}}。

吸盤列は1列のものと2列のものが知られる{{Sfn|佐々木|2010|p=56}}{{Sfn|土屋|2002|p=87}}。[[ジャコウダコ属]] {{snamei||Eledone}} や [[ナンキョクイチレツダコ属]] {{Snamei||Pareledone}} といったイチレツダコ類は吸盤列が1列である{{Sfn|瀧|1999|p=379}}。[[メンダコ科]]、[[ジュウモンジダコ科]]、[[ヒゲダコ科]]からなる[[有触毛亜目]]では、吸盤列が1列であるが、代わりに腕に'''{{Vanchor|触毛}}'''(しょくもう、{{lang|en|cirrus}})が生えている{{Sfn|佐々木|2010|p=56}}{{Sfn|土屋|2002|p=119}}。白亜紀の[[ムカシダコ]] {{snamei||Palaeoctopus newboldii}} も触毛を持ち、吸盤列が1列である{{Sfn|瀧|1999|p=374}}。

タコの吸盤は切断されたものであっても、自分の体には吸着することはなく、この原理については判明していない。ただしタコの皮膚を取り除き、同じタコの腕を切断して近づけると、その腕の吸盤は皮膚を除去した部分に吸着する。また皮膚を貼り付けた物体に、切断されたタコの腕を近づけると、その部分にはくっつかず、皮膚のない場所にはくっつくという現象が確認できることから、皮膚に何らかの自己認識機構が存在するという説がある<ref>{{cite news |title=タコの腕はなぜ絡まってしまわないのか |newspaper=[[ナショナルジオグラフィック (雑誌)|ナショナルジオグラフィック]] |date=2014-5-16 |url=https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/9241/ | author = Jane J. Lee |accessdate=2014-5-17}}</ref>。吸盤の表面は古くなると剥がれて更新される。古い吸盤表面を剥がすために激しく腕をくねらせて互いにこすり合わせることがある。

=== 鰭 ===
[[File:Dumbo-hires (cropped).jpg|thumb|200px|1対の鰭を持つ[[ジュウモンジダコ属]] {{snamei||Grimpoteuthis}} の1種。]]
タコ類の多く(無触毛亜目)は、イカが持つような'''[[鰭]]'''(肉鰭、{{En|fin}}{{Sfn|瀧|1999|p=331}})を欠く{{Sfn|土屋|2002|p=6}}。有触毛亜目(有鰭亜目)に属する[[ヒゲダコ科]]や[[メンダコ科]]([[メンダコ]]など)には鰭がある{{Sfn|土屋|2002|p=119}}{{Sfn|池田|2020|p=17}}。この鰭は俗に「ミミ(耳)」と呼ばれる{{Sfn|土屋|2002|p=119}}。鰭は筋肉からなり、水中で機動力を生み出す器官である{{Sfn|池田|2020|p=17}}。

=== 漏斗 ===
腹側には'''[[漏斗 (頭足類)|漏斗]]'''と呼ばれるチューブ状の構造がある{{Sfn|佐々木|2010|p=192}}。これは漫画では口のように描かれるが、実際の口は上述するように腕の付け根に存在する{{Sfn|池田|2020|p=28}}。漏斗から外套腔内の海水を強く噴き出して、ジェット推進により移動する{{Sfn|佐々木|2010|p=192}}{{Sfn|池田|2020|p=28}}。漏斗を自在に動かし、その向きを変えることで泳ぐ方向を調節する{{Sfn|佐々木|2010|p=192}}。また、漏斗からは、雄は精包を放出し、雌は産卵の際、卵を放出する{{Sfn|池田|2020|p=28}}。墨や排泄物も漏斗を通じて放出される{{Sfn|池田|2020|p=28}}。

漏斗は発生の過程では左右2[[葉 (解剖学)|葉]]に開いた構図をしており、それが癒合して形成される{{Sfn|佐々木|2010|p=192}}。

漏斗の左右には漏斗軟骨器と呼ばれる構造があり、外套膜と頸部を固定している{{Sfn|佐々木|2010|p=192}}。

=== 眼 ===
{{Multiple image
|total_width=400
|image1=Evolution eye 2.svg
|caption1=脊椎動物の眼とタコの眼の比較。<hr />1. 網膜、2. 神経束、3. 視神経、4. 盲点
|image2=Octopusv cropped.JPG
|caption2={{Snamei|ja|Octopus vulgaris|Octopus vulgaris}} の眼。
}}
タコの眼は[[解剖学]]的に[[脊椎動物]]のものに似た[[レンズ眼]]であり、非常に発達している{{Sfn|池田|2020|p=50}}{{Sfn|佐々木|2010|p=250}}{{Sfn|土屋|2002|p=123}}。これは[[発生学]]的には異なるもので{{Sfn|池田|2020|p=50}}、相似である{{Sfn|佐々木|2010|p=250}}。発生の際、眼胞が発達して完全に閉じ、前方にレンズを生じる{{Sfn|瀧|1999|p=349}}。レンズを連ねる[[虹彩]]を持ち{{Sfn|瀧|1999|p=349}}、そのため様々な表情を示す{{Sfn|土屋|2002|p=123}}。後方には[[硝子体]]を持ち、これらは[[角膜]]によって包まれる{{Sfn|瀧|1999|p=349}}。中央部は[[コウイカ目]]、[[閉眼類]]と同様に完全に閉じる{{Sfn|瀧|1999|p=350}}{{Efn|例外もあり、[[ヤワハダダコ]]などでは開眼となる{{Sfn|瀧|1999|p=350}}。}}。その外側には1枚の[[眼瞼]]ができる{{Sfn|瀧|1999|p=350}}。

頭足類のレンズは[[外胚葉]]に由来し、[[視神経]]が[[網膜]]の外側から伸びるため、[[盲点]]が存在しない{{Sfn|佐々木|2010|p=250}}。眼のレンズは前後に仕切られ{{Sfn|佐々木|2010|p=250}}、2枚が貼り合わさった構造となっている{{Sfn|土屋|2002|p=123}}。ヒトの[[視細胞]]は光の入射方向とは反対を向き、神経節細胞などのいくつかの細胞層を通って光を受容するが、タコの視細胞は頭部が光の入射方向を向いている{{sfn|池田|2020|p=155}}。また、脊椎動物の眼とは違い、[[正立像]]が得られる{{Sfn|土屋|2002|p=123}}。

視細胞には[[桿体]]や[[錐体]]のような区別はなく、単一の種類の細胞である{{sfn|池田|2020|p=155}}。その[[視物質]]は[[ロドプシン]]のみであり、そのため[[色覚]]を欠くとされる{{sfn|池田|2020|pp=157–159}}。視覚情報を利用した実験などから、コントラストは見分けることができると考えられる{{sfn|池田|2020|pp=157–159}}。タコの視細胞の分光感度は、マダコ{{Efn|なお、本項における「マダコ」は[[日本]]近海の[[マダコ]] {{Snamei||Octopus sinensis}} であることもあれば、[[地中海]]の {{snamei|ja|Octopus vulgaris|Octopus vulgaris}} や[[アメリカ]]東海岸の {{snamei||Octopus americanus}} である場合も含まれると考えられる。何れも {{snamei|O. vulgaris}} 種群に含まれ、かつては汎存種とされていたが、近年は分類の整理が進み、隠蔽種が分離された{{Sfn|Avendaño ''et al.''|2020|pp=909–925}}。元の出典でマダコや {{Snamei|O. vulgais}} と表記されている種は、生息海域等により適宜正しいと考えられる方を用いているが、長らく同種とされてきたことからどちらか不明な曖昧もある。}}で475 nm{{small|([[ナノメートル]])}}、[[イイダコ]]で477 nm、[[ジャコウダコ]]で470 nm であることが分かっており、何れも青色に相当する{{sfn|池田|2020|pp=157–159}}。これはタコが底生であるため、海中で光が減衰し、海底では短波長の青や紫が届くことと整合的である{{sfn|池田|2020|pp=157–159}}。視細胞の頭部には[[偏光]]の受容に関与する'''感桿'''という微絨毛が整列した構造を持つ{{sfn|池田|2020|p=155}}。

ほかの軟体動物と異なり、眼には[[動眼筋]]が付着する{{Sfn|佐々木|2010|p=250}}。そのため眼を筋肉で動かすことができる{{Sfn|佐々木|2010|p=250}}。

[[ヒゲダコ属]] {{Snamei||Cirrothauma}} の眼は単純なカップ状で、角膜と[[瞳孔]]は持つが、[[虹彩]]とレンズを欠く{{Sfn|佐々木|2010|p=250}}。[[ボルケーノ・オクトパス]] {{snamei||Vulcanoctopus hydrothermalis}} の眼は皮膚下に埋没し、視覚機能をほとんど欠く{{Sfn|窪寺|峯水|2014|p=247}}。[[スカシダコ]] {{Snamei||Vitreledonella richardi}} の眼球は楕円形の凸レンズで、体の横方向に伸びる長い柄を持つ{{Sfn|窪寺|峯水|2014|p=188}}。[[クラゲダコ]] {{Snamei||Amphitretus pelagicus}} の眼は球面レンズを持ち、赤褐色の眼が望遠鏡のように背面に隣り合って並ぶ{{Sfn|窪寺|峯水|2014|p=190}}。
{{-}}
== 内部形態 ==
=== 消化器官 ===
[[消化器官]]は[[消化管]]とそれに付属する腺組織からなる{{Sfn|佐々木|2010|p=214}}。タコの消化管は口-食道-胃-腸-肛門のように連続し{{Sfn|佐々木|2010|p=214}}、背腹方向に折れ曲がったU字状の構造で、墨汁嚢が付属する{{Sfn|佐々木|2010|p=221}}。

=== 口 ===
{{Multiple image
|total_width=500
|image1=Boca polp. 2016-02-24-2303.jpg
|caption1=腕に囲まれた中央に口がある。
|image2=Enteroctopus? (YPM IZ 056705) 003.jpeg
|caption2={{Snamei||Enteroctopus}} の顎板を取り出した様子。
|image3=Octopus vulgaris (YPM IZ 096646).jpeg
|caption3={{snamei|ja|Octopus vulgaris|Octopus vulgaris}} の歯舌。9本の歯舌が並ぶ。
}}
'''[[口]]'''は腕に囲まれた内側の付け根に存在する{{Sfn|奥谷|2013|p=3}}{{Sfn|池田|2020|p=28}}。口にはよく発達した口球(こうきゅう、{{En|buccal bulb}})を持ち、その中に上下1対の嘴状の[[顎板]]と[[歯舌]]を具える{{Sfn|上島|2000|p=183}}{{Sfn|佐々木|2010|p=221}}{{Sfn|池田|2020|p=28}}。

'''顎板'''(がくばん、{{en|jaw plate}})は嘴 ({{En|beak}}) とも呼ばれ、俗に'''[[カラストンビ]]'''と呼ばれる{{Sfn|佐々木|2010|p=221}}{{Sfn|池田|2020|p=28}}{{Sfn|小西|2010|p=23}}。背腹が対になっており、構造はほかの軟体動物が持つものとは異なっている{{Sfn|佐々木|2010|p=221}}。背側の顎板を上顎板、腹側の顎板を下顎板と区別し、それぞれカラスとトンビと呼び分けられる{{Sfn|小西|2010|p=23}}。下顎板が上顎板より突出している{{Sfn|瀧|1999|p=336}}。顎板の先端は鋭く、餌を咬み切るために用いられる{{Sfn|佐々木|2010|p=221}}{{Sfn|瀧|1999|p=336}}。

'''歯舌'''(しぜつ、{{En|radula}})は餌を引きちぎり、食物を運搬するために用いられる{{Sfn|佐々木|2010|p=222}}。タコの歯舌はイカやアンモナイトと同様に、1本の[[中歯]]({{En|central tooth}})に加え2対の[[側歯]]({{En|laterl tooth}})、1対の[[縁歯]]({{En|marginal tooth}})と1対の縁板の9本の[[歯]]を持つ{{Sfn|佐々木|2010|p=221}}{{Sfn|瀧|1999|p=337}}。タコの歯舌は三叉状、五叉状のものもみられ、特にフクロダコ科では櫛状の歯尖を持つ{{Sfn|瀧|1999|p=337}}。

=== 消化管 ===
[[File:Eledone Fig.17.png|thumb|300px|[[イチレツダコ]] {{Snamei||Eledone cirrosa}} の消化管。<hr />''m.'' 口; ''J.'' 上顎板; ''J.''' 下顎板; ''r.s.g.'' (右)前唾腺; ''B.M.'' 口球; ''r.b.'' 歯舌嚢の基部; ''r.s<sub>1</sub>g<sub>1</sub>'' (右)後唾腺; ''cr.'' 嗉嚢; ''oes.'' 食道; ''St.'' 胃; ''Liv.'' 肝臓 (中腸線); ''l.h.d.'' 左肝膵管; ''r.h.d.'' 右肝膵管; ''Sp.Coe'' 胃盲嚢(螺旋盲嚢); ''int.'' 腸; ''i.s.'' 墨汁嚢; ''i.d.'' 墨汁管; ''an.'' 肛門{{Efn|省略した各部の略称は次の通り:''r.s.g.d.'' 右の前唾腺管; ''s<sub>1</sub>g<sub>1</sub>d<sub>1</sub>'' 後唾腺管; ''r.s<sub>1</sub>g<sub>1</sub>d<sub>1</sub>'' 右の後唾腺管}}]]
[[食道]]({{En|oesophagus}})は脳軟骨と脳を貫通する単純な管状の構造である{{Sfn|佐々木|2010|p=222}}{{Efn|ほかの軟体動物でも食道が食道神経環を貫いている{{Sfn|佐々木|2010|p=222}}。}}。食道中央部は膨らみ、[[嗉嚢]](そのう、{{En|
crop, proventriculus}})となる{{Sfn|佐々木|2010|p=222}}{{Sfn|瀧|1999|p=339}}{{Sfn|Kozloff|1990|pp=447–462}}。[[胃]]は単純だが大きく発達し、2巻きの螺旋状の[[盲嚢]](胃盲嚢、{{En|spiral caerum, gastric diverticulum}})が付属する{{Sfn|佐々木|2010|p=222}}{{Sfn|瀧|1999|p=339}}。腸は単純で短く、胃の後部から外套腔の開口部に向けてまっすぐ伸びる{{Sfn|佐々木|2010|p=223}}。

[[中腸腺]]({{En|midgut gland}})は1対で部分的に癒合し、卵形の一塊となっている{{Sfn|瀧|1999|p=339}}。中腸腺はよく発達し、[[肝臓]]域と[[膵臓]]域が分化する{{Sfn|上島|2000|p=183}}。タコの膵臓は中腸腺(肝臓)に埋没し、切り離せない構造となっている{{Sfn|瀧|1999|p=339}}{{Sfn|広島大学生物学会|1971|loc=Plate 79}}。中腸腺は1対の輸管(肝膵管、{{En|hepatic duct, hepatopancreatic duct}})を持ち、合一して胃に開口する{{Sfn|瀧|1999|p=339}}{{Sfn|広島大学生物学会|1971|loc=Plate 79}}。

==== 唾液腺 ====
[[File:Hapalochlaena lunulata.JPG|thumb|200px|left|後唾液腺に強い毒を持つ[[オオマルモンダコ]] {{snamei||Hapalochlaena lunulata}}([[ヒョウモンダコ属]])。]]

[[唾液腺]]は2種類あり、口球の側方に1対の'''前唾液腺'''(前唾腺、{{En|anterior salivary gland}})、口球の後方に毒が含まれる'''後唾液腺'''(後唾腺、{{En|posterior salivary gland}}、[[毒腺]])を持つ{{Sfn|佐々木|2010|p=222}}{{Sfn|瀧|1999|p=337}}。この後唾液腺から分泌される[[セファロトキシン]]を用いて餌を[[麻痺]]させる{{Sfn|佐々木|2010|p=222}}{{Sfn|土屋|2002|p=120}}{{Sfn|瀧|1999|p=338}}{{Sfn|窪寺|峯水|2014|p=241}}。ほぼ全てのタコは毒を持っているとされ{{sfn|カレッジ|2014|p=225}}、[[マダコ]]、[[サメハダテナガダコ]] {{Snamei||Callistoctopus luteus}} や[[ワモンダコ]]から[[セファロトキシン]]が検出されている{{Sfn|土屋|2002|p=93}}{{Sfn|窪寺|峯水|2014|p=241}}。この毒は人間に対しても患部に麻痺症状や炎症を引き起こすが{{Sfn|窪寺|峯水|2014|p=241}}<ref>{{Cite journal|author1=島袋晃一|author2=金城政樹|author3=白瀬統星|author4=大中敬子|author5=仲宗根素子|author6=大久保宏貴|author7=赤嶺良幸|author8=西田康太郎|title=タコ咬傷による難治性潰瘍を形成した3例|journal=整形外科と災害外科|volume=72|issue=1|date=2023|pages=112-114|doi=10.5035/nishiseisai.72.112}}</ref>、命に別状はない程度である{{sfn|カレッジ|2014|p=225}}。

[[ヒョウモンダコ属]]のタコは例外で、分泌腺内に住むバクテリアに由来する[[テトロドトキシン]]を持っており、人間でも噛まれると命を落とすことがある{{Sfn|土屋|2002|p=87}}{{Sfn|瀧|1999|p=353}}{{Sfn|窪寺|峯水|2014|p=242}}。毒の産生は分泌腺内に共生するバクテリアが行っている{{sfn|カレッジ|2014|p=226}}。孵化前の幼生もバクテリアによって雌から毒が受け渡されるため、毒を持っている{{Sfn|窪寺|峯水|2014|p=241}}。これは解毒剤は見つかっていない{{sfn|Schweid|2014|p=179}}{{sfn|カレッジ|2014|p=226}}。

また、タコは口球の腹側に筋肉質の[[唾液乳頭]]が突出し、その下に'''下顎腺'''がある{{Sfn|佐々木|2010|p=222}}。唾液乳頭は動かすことができ、二次的な歯舌として機能し、貝殻に穿孔して貝類を捕食する{{Sfn|佐々木|2010|p=222}}{{sfn|カレッジ|2014|p=225}}([[#食性]]も参照)。

==== 墨汁腺 ====
{{See also|#墨による防衛}}
タコは危険を感じると[[漏斗 (頭足類)|漏斗]]を通じて墨を吐きだすが、これは[[直腸]]に付属する[[墨汁腺]]から分泌される{{Sfn|上島|2000|p=183}}{{Sfn|佐々木|2010|p=223}}。墨汁は[[墨汁嚢]]に蓄えられ、墨汁管と肛門を通って漏斗から体外へ放出される{{Sfn|上島|2000|p=183}}{{Sfn|佐々木|2010|p=223}}。深海性の[[ホッキョクワタゾコダコ]] {{snamei||Bathypolypus arcticus}} などでは墨汁嚢を欠く{{Sfn|窪寺|峯水|2014|p=256}}。

=== 神経系 ===
軟体動物の[[神経系]]の中心は[[脳神経節]]、[[側神経節]]、[[足神経節]]が食道を囲むように位置してできた[[食道神経環]]である{{Sfn|佐々木|2010|p=239}}。とくに頭足類では食道神経環が発達し、[[内臓神経節]]とも癒合して'''[[脳]]'''を形成する{{Sfn|佐々木|2010|p=242}}。脳は頭蓋軟骨(脳軟骨)により取り囲まれており、白く硬い塊を形成する{{Sfn|佐々木|2010|p=242}}。この頭蓋軟骨は脳を保護するためのものであり{{Sfn|奥谷|2013|p=3}}、[[中胚葉]]組織から発達する{{Sfn|瀧|1999|p=350}}。

脳は食道上脳塊と食道下脳塊の2つからなり、それぞれが側方で縦連合によって連結される{{Sfn|佐々木|2010|p=242}}。また脳は、24個の[[脳葉]]と呼ばれる瘤状の領域から構成されており、更に細分すると36–37個が数えられる{{Sfn|佐々木|2010|p=242}}。タコ類の脳葉には名前が付けられており、[[頭頂葉]]、上位前額葉、下位前額葉、上位口球葉、視柄下葉、内臓葉、外套葉、後部色素胞葉、前部色素胞葉などが区別される{{Sfn|佐々木|2010|p=242}}。眼の基部にある脳葉は'''[[視葉]]'''で、眼の発達と関連し、脳葉中で最大である{{Sfn|佐々木|2010|p=242}}{{Sfn|池田|2020|p=30}}。視葉以外の脳葉は中央部分に集まっている{{Sfn|池田|2020|p=30}}。また、学習能力は'''垂直葉'''とその周辺の脳葉が担っている{{Sfn|池田|2020|p=71}}。

また、脳以外にも小規模な[[神経節]]が9つ存在する{{Sfn|佐々木|2010|p=243}}。[[星状神経節]]は鰓の基部付近から外套膜に神経を放射状に伸ばす神経節であり、頭足類にのみ知られる{{Sfn|佐々木|2010|p=243}}{{Sfn|瀧|1999|p=342}}。

平衡器の近くに生じた足神経節からは、[[腕神経節]]が前方の先から分岐して生じ、後部からは[[漏斗神経節]]が対をなして形成される{{Sfn|瀧|1999|p=350}}。腕神経節から伸びる[[腕神経]](神経束)はそれぞれの腕の中央を貫通する{{Sfn|カレッジ|2014|p=184}}。それぞれの腕を伸ばす動作は脳による指令ではなく、腕そのものの神経によりコントロールされている{{Sfn|カレッジ|2014|p=184}}。

=== 筋系 ===
その柔軟な体のほとんどは、他の多くの動物と同様に、[[筋肉]]組織が占めている{{Sfn|池田|2020|p=19}}{{Sfn|佐々木|2010|p=211}}。タコの主要な筋肉はイカに比べて多く、[[頭部牽引筋]]、[[漏斗牽引筋]]、外套収縮筋、中央外套収縮筋を持つ{{Sfn|佐々木|2010|p=212}}。漏斗から噴き出される水によるジェット推進は外套膜の筋肉の運動が大きな影響を与えており{{Sfn|佐々木|2010|p=212}}。放射状筋が弛緩して環状筋が収縮することにより体の直径が小さくなって水が噴出され、環状筋が弛緩して放射状筋が収縮すると外套腔へ水が取り入れられる{{Sfn|佐々木|2010|p=212}}。

またタコの腕は異なった向きに配向する3–4層の筋肉組織からなり、収縮と弛緩を組み合わせて向きを自在に変形する{{Sfn|Kier|2016|pp=6–8}}{{Sfn|佐々木|2010|p=190}}。

=== 循環系 ===
[[File:Eledone Fig.11.png|thumb|250px|[[イチレツダコ]] {{Snamei||Eledone cirrosa}} の外套膜の腹側を開いた様子。<hr />''f.ant.'' 漏斗開口部; ''F.'' 漏斗; ''M<sub>l</sub>'' 外套膜; ''h.'' 頭部; ''coll.'' 襟(外套膜縁辺部); ''an.'' 肛門; ''F.D.'' 漏斗下制筋; ''g.'' 鰓; ''od.ap.'' 輸卵管開口部; ''Ur.p.'' 尿乳頭(腎門); ''Br.ht.'' 鰓心臓; ''G.'' 生殖腺{{Efn|省略した各部の略称は次の通り:''m.s.'', ''e.m.'' 筋性の隔膜; ''m<sub>1</sub>'', ''m.l.'', ''m.p.'', ''m.p.ex.'' 筋膜; ''P.C.'' 外套腔の後方連絡部; ''M.ep.'' 外套膜内面上皮; ''m.s.a.'' 隔膜の付属体; ''L.M.'' 側筋}}]]
[[循環系]]はよく発達してほぼ[[閉鎖血管系]]となる{{Sfn|上島|2000|p=183}}{{Sfn|佐々木|2010|p=237}}{{Sfn|Schmidt-Nielsen|1997|p=117}}。それに対し、頭足類以外の軟体動物は開放血管系である{{Sfn|Schmidt-Nielsen|1997|p=117}}。収縮して血流を送る器官は[[心臓]]だけでなく、1対の[[鰓心臓]]を持つ{{Sfn|上島|2000|p=183}}{{Sfn|佐々木|2010|p=237}}。心房の数は1対で、心室が発達し、内部の弁により隔てられる{{Sfn|佐々木|2010|p=237}}。

血管は外皮・中皮・内皮の3層構造である{{Sfn|佐々木|2010|p=237}}。頭部と外套膜に血液を送る前大動脈、内臓の後方に血液を送る後大動脈、前側から腎嚢に伸びる[[腎動脈]]、心房の前側から心臓を横切る形で[[生殖器官]]に向かう動脈を持つ{{Sfn|佐々木|2010|p=237}}。[[血圧]]は比較的高く、活動時は10 [[kPa]] (75 [[mmHg]]) 以上となる{{Sfn|Schmidt-Nielsen|1997|p=117}}。

血液中には[[ヘモシアニン]]という[[呼吸色素]]が含まれており、そのため血液は青く見える。ヘモシアニンは鰓の付着膜と入鰓血管の間にある'''鰓腺'''で合成される{{Sfn|佐々木|2010|p=208}}。ヘモシアニンは[[ヘモグロビン]]に比べ[[酸素]]運搬能力に劣るため、長距離を高速で移動し続けることができない{{sfn|Schweid|2014|p=18}}。さらに、海水の pH 濃度にも影響を受けやすく、海水が酸性化すると酸素運搬能力が低下する{{sfn|カレッジ|2014|p=79}}。

=== 鰓 ===
[[鰓]]はほかの軟体動物と同様に[[櫛鰓]]で、1つの鰓は1対の鰓軸から鰓葉が交互に突出した構造をしている{{Sfn|佐々木|2010|p=203}}。鰓は1対で{{Sfn|佐々木|2010|p=206}}{{Sfn|瀧|1999|p=350}}、それゆえ鞘形類は[[二鰓類]] {{Sname||Dibranchia}} とも呼ばれた{{Sfn|巌佐ほか|2013|p=988d}}。[[背側]]に入鰓血管、[[腹側]]に出鰓血管が走るため、鰓葉内部では腹から背側に向かって血流が流れる{{Sfn|佐々木|2010|p=206}}。鰓は付着膜({{En|gill ligament, dorsal membrane}})によって外套膜から吊り下げられ{{Sfn|佐々木|2010|p=206}}、[[外套腔]]にある{{Sfn|瀧|1999|p=350}}。

発生においては初め、外套膜原基の隆起の前方に1対の乳頭状突起として生じるが、外套膜の発達とともに外套腔内に入って前後に伸び、櫛鰓となる{{Sfn|瀧|1999|p=350}}。

=== 排出器官 ===
[[File:Dicyema japonicum.png|thumb|150px|left|[[マダコ]] {{Snamei||Octopus sinensis}} の腎嚢に生息する[[ヤマトニハイチュウ]] {{Snamei||Dicyema japonicum}}(染色)。]]
タコは1対の'''腎嚢'''(じんのう、{{En|renal sac}})と呼ばれる袋状の排出器官を持ち、その内部にある大静脈が膨出してできた腎嚢付属体(腎臓)が腎嚢内に血中の老廃物を排出する{{Sfn|佐々木|2010|p=233}}。原尿は鰓心臓後端に付属する囲心嚢腺で濾過され、腎囲心嚢連絡管を通じ、腎嚢から体外に排出する{{Sfn|佐々木|2010|p=233}}。外套腔内に開いた腎嚢の出口は腎門(腎口{{Sfn|瀧|1999|p=350}}、尿乳頭{{Sfn|広島大学生物学会|1971|loc=Plate 80}}、{{en|urinary papilla}})と呼ばれる{{Sfn|瀧|1999|p=341}}{{Sfn|広島大学生物学会|1971|loc=Plate 80}}。

腎嚢内には、[[ニハイチュウ]]が寄生している{{Sfn|古屋|1996|pp=209–218}}。これは1787年にイタリアの博物学者[[フィリッポ・カヴォリーニ]]により発見された{{Sfn|カレッジ|2014|p=80}}<ref>{{cite journal|author=古屋秀隆|author-link=古屋秀隆|title=中生動物ニハイチュウの形態と生活史の適応|date=2004a|publisher= 日本比較生理生化学会|journal=比較生理生化学|volume=21|number=3|pages=128–134|doi=10.3330/hikakuseiriseika.21.128}}</ref>。ニハイチュウは体皮細胞の表面にある繊毛の[[繊毛運動]]により、尿中を遊泳したり腎嚢内の腔所を移動する{{Sfn|古屋|1996|pp=209–218}}。ニハイチュウ類の寄生率は、温帯海域の砂泥に生息するタコで高く、成熟したマダコやイイダコではほぼすべての個体に寄生している{{Sfn|古屋|2010|pp=128–134}}。

=== 貝殻 ===
[[File:Argonauta nodosus 139081161.jpg|thumb|200px|貝殻(卵殻)を持つ {{Snamei||Argonauta nodosus}}([[アオイガイ属]])の雌。]]
また、[[頭足類]]は[[貝類]]であり、内在性の[[甲 (頭足類)|貝殻]]を持つが、タコ類では完全に退化するか、軟骨質(寒天質)になる{{Sfn|佐々木|2010|p=56}}{{Sfn|上島|2000|p=183}}{{Sfn|瀧|1999|p=374}}。軟骨質の貝殻は'''スタイレット'''{{Sfn|奥谷|2013|p=2}}(棒状軟骨、{{En|stylet}}{{Sfn|瀧|1999|p=336}})と呼ばれ、棒状かU字状、H字状をしている{{Sfn|佐々木|2010|p=149}}。この貝殻の喪失は、体色変化による隠蔽、墨の利用、ジェット推進による遊泳、強い腕や顎などと関連していると考えられている{{Sfn|佐々木|2010|p=175}}。大きな鰭を遊泳に利用する[[ヒゲダコ科]]ではスタイレットがこれを支えている{{Sfn|Collins|Villaneuva|2006|p=310}}。

タコでも[[アオイガイ]] {{snamei||Argonauta argo|A. argo}} や[[タコブネ]] {{snamei||Argonauta hians}} などの[[アオイガイ科]]は螺旋状の外在性で[[炭酸カルシウム|石灰質]]の貝殻をもつが、これは雌の第1腕から分泌されたものであり、オウムガイなどの貝殻とは直接的な起源が異なる{{Sfn|上島|2000|p=183}}{{Sfn|佐々木|2010|p=149}}。また、アオイガイ属の貝殻は内部に隔壁を持たない{{Sfn|佐々木|2010|p=149}}。この貝殻は卵を保持する機能を持ち、雄は形成しない{{Sfn|佐々木|2010|p=149}}。

== 生態と行動 ==
[[File:Tuberculate Pelagic Octopus.jpg|thumb|200px|left|[[サルパ]]内に住む[[アミダコ]] {{Snamei||Ocythoe tuberculata}}]]
ほかの軟体動物は間隙性や付着性など海底面に接して生活するものが多いのに対し{{Sfn|佐々木|2010|p=295}}{{Sfn|土屋|2002|p=8}}、タコはイカとともに海面直下から[[深海]]域までの3次元的な生息域を持っている{{Sfn|土屋|2002|p=8}}。特にタコ類は潮間帯から水深6000 m 以深まで幅広く分布する{{Sfn|土屋|2002|p=87}}。最大水深は8,100 m とも言われる{{Sfn|奥谷|2013|p=8}}。しかし[[淡水]]生のものは知られておらず{{Sfn|土屋|2002|p=8}}、[[狭鹹度性]]で塩分は30‰以上を求める{{Sfn|瀧|1999|p=354}}。そのため、「蛸の真水嫌い」や「梅雨時に雨の多い年は蛸、烏賊が少ない」と言われる<ref name="kaiseiken">{{Cite web|和書|url=https://www.kaiseiken.or.jp/umimame/lib/umimame_02.pdf|title=海の豆知識 Vol. 2 魚のことわざ〈その1〉|publisher=海洋生物環境研究所|date=1999-12-01|accessdate=2024-08-24}}</ref>。また、[[夜行性]]のものが多いとされる{{Sfn|窪寺|2014|p=48}}{{Sfn|奥谷|2013|p=9}}。

[[マダコ]] {{snamei||Octopus sinensis}} などタコ類の大半は底生で、腕が発達し匍匐生活を送る{{Sfn|佐々木|2010|p=56}}{{Sfn|土屋|2002|p=87}}{{Sfn|池田|2020|p=18}}。底生のものでも、好む底質などの生息環境は種によって異なる{{Sfn|奥谷|2013|p=8}}。岩礁にあるクレバスや転石の間隙には底生のタコ類が生育し{{Sfn|土屋|2002|p=9}}、マダコなどが巣穴として利用する{{Sfn|奥谷|2013|p=8}}。[[潮間帯]]にできる[[タイドプール]]には小型のタコ類がみられ、昼間はクレバスに身を隠している{{Sfn|土屋|2002|p=8}}。[[カジメ]]の根元には[[マメダコ]]などの小形のタコ類が生息する{{Sfn|土屋|2002|p=8}}。[[イイダコ]] {{Snamei||Amphioctopus fangsiao}} や[[ミミックオクトパス]] {{Snamei||Thaumoctopus mimicus}} などでは内湾寄りの砂泥地に落ちている貝殻や甲殻類が形成する穴などを棲み家として生息する{{Sfn|土屋|2002|p=9}}{{Sfn|奥谷|2013|p=8}}。[[サメハダテナガダコ]] {{Snamei||Callistoctopus luteus}} では砂底中に埋没して隠れている{{Sfn|奥谷|2013|p=8}}。[[珊瑚礁]]棲の[[ワモンダコ]] {{snamei|en|Octopus cyanea|'Octopus' cyanea}} などは、その複雑な地形を利用し身を隠している{{Sfn|奥谷|2013|p=8}}。深海性の底生のタコは巣穴などを利用せずに、泥質の海底を匍匐していると考えられる{{Sfn|奥谷|2013|p=8}}。

その一方で漂泳性の種も多く知られている{{Sfn|佐々木|2010|p=295}}。[[ムラサキダコ]] {{snamei||Tremoctopus violaceus}}([[ムラサキダコ科]])は表中層を浮遊する{{Sfn|土屋|2002|p=87}}{{Sfn|佐々木|2010|p=295}}。[[アミダコ科]]も浮遊性で、雄は[[サルパ]]の皮殻内に入る{{Sfn|佐々木|2010|p=56}}{{Sfn|佐々木|2010|p=295}}。[[クラゲダコ]] {{Snamei||Amphitretus pelagicus}}([[クラゲダコ科]])、[[カンテンダコ]] {{Snamei||Haliphron atlanticus}}(カンテンダコ科)、[[ナツメダコ]] {{snamei||Japetella diaphana}}([[フクロダコ科]])などは表層を浮遊する{{Sfn|佐々木|2010|p=296}}。クラゲダコや[[スカシダコ]] {{Snamei||Vitreledonella richardi}} が透明であるのは、隠れる場所が少ない海の水柱の中層で、影を消したりクラゲへのカモフラージュによって捕食者に見つかりにくくする効果があると考えられている{{Sfn|窪寺|峯水|2014|pp=188–190}}。[[アオイガイ科]]も浮遊生活を送り、雌は卵を保護するための貝殻を作る{{Sfn|佐々木|2010|p=56}}。

=== 巣と移動 ===
多くのタコ類で鉛直方向または水平方向の移動を行うことが知られている{{Sfn|瀧|1999|p=354}}。

マダコ類の多くは海底に巣穴(デン、{{En|den}}、蛸穴{{Sfn|新村|1998|p=1641}})を持つ{{Sfn|土屋|2002|p=104}}{{Sfn|池田|2020|p=73}}{{Sfn|奥谷|2013|p=23}}。マダコや[[ワモンダコ]] {{snamei|en|Octopus cyanea|'Octopus' cyanea}} は岩の隙間や礫の下に巣穴を持つ{{Sfn|土屋|2002|p=104}}。マダコは単独で行動し、海底の巣穴を[[塒]]として、夜になると[[索餌]]のために海底を這って動き回り、[[帰巣]]する{{Sfn|池田|2020|p=73}}{{Sfn|奥谷|2013|p=23}}。この際に学習や[[記憶]]を行っていると考えられている{{Sfn|池田|2020|p=73}}。[[バミューダ諸島|バミューダ]]のマダコ{{Efn|恐らく {{snamei||Octopus americanus}}。}}では、巣穴から出て2 m 以上の移動を10分以上かけて行い、往復路で違う道を用いて帰巣した{{Sfn|池田|2020|p=74}}<ref>{{Cite journal|last1=Mather |first1=J.A. |title=Navigation by spatial memory and use of visual landmarks in octopuses |journal=J. Comp. Physiol. A |volume=168 |pages=491–497 |date=1991|doi=10.1007/BF00199609|issn = 0340-7594 }}</ref>。これは[[池田譲]]によると、全く同じ道を戻る[[トレイル・フォロー]]ではなく海底の岩などを道標として、景観を見て帰巣しているのだと考えられている{{Sfn|池田|2020|p=75}}{{Sfn|奥谷|2013|p=14}}。

マダコ漁業に用いられる[[蛸壺]]はこの巣穴に隠れる習性を利用したものである{{Sfn|奥谷|2013|p=23}}。自分の巣穴から遠く離れた場所で餌を捕まえた場合、運搬の途中で隠れ場所を見つけるとそこに持ち込んで食べる{{Sfn|奥谷|2013|p=23}}。自分の巣穴まで持ち帰るにはコストがかかり、その低減のために行う行動であるが、巣穴からどれだけ離れているかという判断も行ったうえで、蛸壺を利用することが知られている{{Sfn|奥谷|2013|p=23}}。また、蛸壺の内部は綺麗でないと入らないとされる{{Sfn|奥谷|2013|p=23}}。

小形のタコは[[サザエ]]や[[アカガイ]]、[[ヒメスダレガイ]]などの[[貝殻]]を用いて巣穴とする{{Sfn|土屋|2002|p=104}}。スナダコは様々なものを巣穴といて利用し、時には人工物をも用いる{{Sfn|土屋|2002|p=104}}。[[イイダコ]]でも、二枚貝の貝殻を2つ合わせて身を隠し、その中で抱卵する{{Sfn|池田|2020|p=82}}{{Sfn|土屋|2002|p=100}}。メジロダコは[[サツマアカガイ]]などの二枚貝を腕に挟んで海底を移動し、「貝持ち行動」として知られている{{Sfn|窪寺|峯水|2014|p=265}}([[#道具の使用]]も参照)。

[[インドネシア]]の[[ウデナガカクレダコ]] {{Snamei||Abdopus aculeatus}} では、「[[二足歩行]] {{En|bipedal walking}}」をとることが[[クリスティン・ハッファード]]により報告されている{{Sfn|池田|2020|p=171}}<ref>{{Cite journal|last1=Huffard|first1=Christine L. |title=Locomotion by ''Abdopus aculeatus'' (Cephalopoda: Octopodidae):walking the line between primary and secondary defenses |journal=J. Exp. Biol. |date=2006|volume=209 |issue=19|pages=3697–3707|doi=10.1242/jeb.02435}}</ref>。胴体をボール状に丸くし、腕のうち2本を用いて交互に動かし、移動する{{Sfn|池田|2020|p=171}}。これは防衛行動の一種だと考えられている{{Sfn|池田|2020|p=172}}。

また、種によってはタコも'''[[渡り]]'''を行うことが知られている{{Sfn|池田|2020|p=39}}。[[津軽海峡]]の[[ミズダコ]]で渡りが観察されており、海底を移動し、水深200 m に達する津軽海峡を越えて[[北海道]]と[[青森県]]を行き来する個体が報告されている{{Sfn|池田|2020|pp=40–41}}。日本の[[マダコ]] {{snamei||Octopus sinensis}} も渡りを行い、渡り群と地着き群が存在することが知られている{{Sfn|水口|出月|2016|pp=1–68}}{{Sfn|土屋|2002|p=90}}。特に[[常磐市|常磐]]地方のマダコで渡りが知られ、多数のタコが群れを成して南北移動を行う{{Sfn|奥谷|1991|p=28}}{{Sfn|瀧|1999|p=354}}。

=== 平衡感覚 ===
タコは軟骨でできた'''[[平衡胞]]'''と呼ばれる器官を左右1対持ち、中に[[炭酸カルシウム]]でできた[[平衡石]]を具える{{Sfn|池田|2020|p=65}}。平衡胞内壁表面に生える[[微絨毛]]に平衡石が触れることで姿勢を認識する{{Sfn|池田|2020|p=65}}。移動の際は[[加速度]]も検知することができる{{Sfn|池田|2020|p=66}}。

平衡胞を[[外科]]的に破壊すると、平衡感覚が失われる{{Sfn|池田|2020|p=66}}。タコの眼の向きは体の向きにかかわらず常に水平方向を向くようになっているが、平衡胞を破壊するとタコの向きに依存して眼の向きが変化してしまう{{Sfn|池田|2020|p=67}}。平衡胞を破壊したタコでも「回り道」の認識には大きな影響がないが、図形の向きの認識には支障を来す{{Sfn|池田|2020|p=66}}。また、平衡胞は50–400 [[ヘルツ|Hz]] の[[低周波]]の音によっても損傷を受けることが分かっている{{Sfn|カレッジ|2014|p=220}}。

=== 食物網 ===
==== 食性 ====
[[File:Veined Octopus - Amphioctopus Marginatus eating a Crab.jpg|thumb|300px|カニを食べる[[メジロダコ]] {{Snamei||Amphioctopus marginatus}}。]]
鞘形類はイカもタコも大型[[肉食性]]の[[捕食者]]で、[[魚]]や[[甲殻類]]を食べる{{Sfn|上島|2000|p=185}}{{Sfn|佐々木|2010|p=229}}{{Sfn|瀧|1999|p=351}}。特に底生のタコは[[カニ]]や[[二枚貝]]を好んで捕食する{{Sfn|佐々木|2010|p=229}}。タコはカニにとっての天敵であり、カニの一種 {{snamei||Carcinus maenas}} では、[[歩脚]]を木製ピンセットをつまんでも起こらないが、タコの腕を吸いつかせると直ちに[[自切反射]]が起こることが知られている{{Sfn|巌佐ほか|2013|p=585h}}。マダコやイイダコでは貝類を食べる際、まずは[[腕 (頭足類)|腕]]の力でこじ開けを行い、それで開けられなかった場合、歯舌で貝殻に穿孔して唾液腺の毒を注入し、餌を麻痺させてから捕食する{{Sfn|佐々木|2010|pp=229–230}}{{Sfn|瀬川|2013|p=138}}。海底に落ちている魚の死骸を食べることもあり{{Sfn|土屋|2002|p=121}}、[[イチレツダコ]] {{snamei||Eledone cirrhosa}} は生きた甲殻類だけでなく死んだ魚を食べる{{Sfn|瀧|1999|p=351}}。

吸盤には[[化学受容]]細胞が分布し、[[触覚]]により餌を探ることができる{{Sfn|佐々木|2010|p=230}}。[[テナガダコ]] {{Snamei||Callistoctopus minor}} は海底の泥中に埋没して、[[第1腕]]を水中に伸ばして餌を捕獲する{{Sfn|佐々木|2010|p=230}}。[[ホワイト・ブイ・オクトパス]]と通称される種 {{snamei||Abdopus}} sp. は、他の生物の巣穴に腕を差し込んで捕食する{{Sfn|土屋|2002|p=109}}。

深海棲の[[ホッキョクワタゾコダコ]] {{snamei||Bathypolypus arcticus}} では、胃内容物から大量の[[後鰓類|有殻翼足類]]と少量の甲殻類が見つかっている{{Sfn|瀧|1999|p=351}}。遊泳性の[[アオイガイ属]] {{snamei||Argonauta}} は小型甲殻類や魚類を捕食する{{Sfn|瀧|1999|p=351}}。中でも[[チヂミタコブネ]] {{snamei||Argonauta boettgeri}} は浮遊性[[翼足類]]の[[カメガイ]]を捕食することが観察されている{{Sfn|瀧|1999|p=351}}。南極海に棲む[[オオイチレツダコ]] {{snamei||Megaleledone sebastos}} (≡{{Snamei|Graneledone setebos}} ={{snamei|Megaleledone senoi}}) は胃内容物からは、由来不明の固形内容物のほか[[クモヒトデ]]の骨格も見つかっており、別の記録では例外的に大量の[[海藻]]が占めていた{{Sfn|瀧|1999|p=351}}。{{Snamei|en|Octopus filamentosus|"Octopus" filamentosus}} では干潮時に半海洋性の[[ウシオグモ]]類 {{snamei|en|Desis (spider)|Desis martensi}} を捕食しているのを観察されたこともある{{Sfn|瀧|1999|p=351}}。漂泳性で歯舌が消失している[[ヒゲダコ科]]は[[デトリタス|微小物]]食性となっている{{Sfn|瀧|1999|p=351}}。

漂泳性のムラサキダコは、若齢時に表層を漂う猛毒の[[カツオノエボシ]]を好んで捕食し、その[[刺胞]]を含む触手を第1腕から第2腕の吸盤に付着させる[[盗刺胞]]を行い、武器として利用する{{Sfn|窪寺|峯水|2014|p=210}}{{Sfn|カレッジ|2014|p=39}}。この刺胞は天敵からの防御や捕食の際に用いられる{{Sfn|窪寺|峯水|2014|p=210}}{{Sfn|カレッジ|2014|p=39}}。

鞘形類では[[共食い]]も一般に観察される{{Sfn|瀧|1999|p=351}}。そのため、同類のものが互いに食い合うことを喩えて「蛸の共食い」という{{Sfn|尚学図書|1981|p=1547}}{{Sfn|新村|1998|p=1641}}。

==== 被食者として ====
[[食物連鎖|食物網]]の中でのタコは[[捕食|捕食者]]であると同時に[[捕食-被食関係|被食者]]でもあり、[[海洋生態系]]中で非常に重要な餌生物となっている{{Sfn|土屋|2002|p=122}}。人間にとってタコは食品として利用されているが、海洋の捕食者にとっても優れた餌となる{{Sfn|土屋|2002|p=122}}。硬い殻や骨を持たず、ほぼすべて消化可能であり、効率が良い{{Sfn|土屋|2002|p=122}}。そのため、[[カマス]]、[[ハタ (魚類)|ハタ]]、[[フエダイ]]、[[イットウダイ]]、[[アイナメ]]、[[カサゴ]]、[[サメ]]といった魚類だけでなく、[[ラッコ]]、[[アザラシ]]、[[シャチ]]といった海棲哺乳類、鳥類もタコの天敵である{{Sfn|カレッジ|2014|p=38}}。ただし[[クジラ]]や[[マグロ]]などの重要な餌生物であるイカに比べると、タコは底生で隠れ家を持つものが多く、被食されにくい{{Sfn|土屋|2002|p=122}}。

タコの[[天敵]]として最もよく知られているのは[[ウツボ]]である{{Sfn|土屋|2002|p=122}}{{Sfn|瀧|1999|p=352}}。ウツボは大型の底生魚類であり、クレバスの奥にも潜り込めるため、タコの捕食者になりやすい{{Sfn|土屋|2002|p=122}}。また、鱗がなく皮膚が強靭で硬く、歯も鋭いためマダコと格闘し腕などを食いちぎる様子がよく観察されている{{Sfn|瀧|1999|p=352}}。マダコはウツボに襲われると、腕を翻して丸まり、防御の姿勢を取る{{Sfn|窪寺|峯水|2014|p=269}}。そしてその後隙を見て逃走を図るが、腕の先を咬まれ腕を失うこともある{{Sfn|窪寺|峯水|2014|p=269}}。[[アナゴ]]などほかの[[ウナギ目|ウナギ類]]もタコの天敵となる{{Sfn|カレッジ|2014|p=36}}。

ほかの魚種からも報告があり、[[ホッキョクワタゾコダコ]] {{snamei||Bathypolypus arcticus}} が[[タイセイヨウオヒョウ]] {{snamei||Hippoglossus hippoglossus}} の胃内容物から見つかっている{{Sfn|瀧|1999|p=352}}。またイギリスでは、[[イチレツダコ]] {{snamei||Eledone cirrhosa}} が[[タラ]]類や[[アンコウ]]類に捕食されていることが知られているほか、水槽で飼育されている卵はカニに捕食されている{{Sfn|瀧|1999|p=352}}。

大型のタコや有触毛亜目のタコは[[サメ]]や[[アザラシ]]、[[鯨類]]に捕食される{{Sfn|瀧|1999|p=352}}{{Sfn|Collins|Villaneuva|2006|p=310}}。そのため、[[青森県]][[下北半島]]では「[[アシカ|海驢]]は蛸の群れについて来る」という[[諺]]が伝わる<ref name="kaiseiken"/>。しかしこの捕食-被食関係も一方的なものではなく、稀にではあるが、大型のタコが小型のサメを捕食することがある。また[[シアトル水族館]]では、[[ミズダコ]]が同じ[[水槽]]で飼われていた[[アブラツノザメ]]を攻撃し、死亡させた例もある{{Sfn|カレッジ|2014|p=38}}<ref>{{Cite AV media ja |url=https://www.youtube.com/watch?v=RdILQ5BBg_8 |title=サメを喰らうミズダコ {{!}} ナショジオ |date=2020-04-17 |medium=YouTube |access-date=2023-11-29}}</ref><ref>{{Cite tweet ja|user=natgeotv_jp|author=ナショナル ジオグラフィック TV|number=1159237787452956674|title=サメを襲うタコ|date=2019-08-08|access-date=2023-11-29}}</ref>{{Sfn|土屋|2002|p=120}}。

深海棲の有触毛亜目では天敵となる捕食者の記録は少ないが、これは食べられていないというわけではなく、[[カラストンビ|顎板]]から種を見分けるのが難しいためであると考えられている{{Sfn|Collins|Villaneuva|2006|p=310}}。漂泳性の種も重要な餌生物となっていることが知られており、[[ナツメダコ]] {{snamei||Japetella diaphana}} は寒天質にも拘らず、[[マグロ]]類や[[ミズウオ]]の胃の内容物から頻繁に見つかる{{Sfn|土屋|2002|p=88}}。

ミズダコのような最大のタコでも、大抵は臆病で[[潜水士|ダイバー]]を見ると墨を吐いて逃げるが、その力は強く、もし絡まれると危険な目に遭う可能性もある{{Sfn|窪寺|峯水|2014|p=236}}。[[レギュレータ (ダイビング)|レギュレーター]]に腕を絡ませ、ダイバーの呼吸を阻害した事例も知られている。

=== 腕の自切と再生 ===
[[File:Octopus with 60 arm branches (1).jpg|thumb|300px|多腕の奇形マダコ。]]
{{See|腕 (頭足類)#腕の再生と奇形}}
頭足類の腕は捕食や移動、[[自切]]、交接や競争に加え、攻撃や共食いにより傷つくことがあり、再生能力を持つ{{Sfn|Zullo|Impedadore|2019|pp=193–199}}{{Sfn|野呂|2017|pp=131–133}}。体が損傷すると、それに応答して再生を始める{{Sfn|Zullo|Impedadore|2019|pp=193–199}}。

[[カクレダコ属]] {{Snamei||Abdopus}} は捕食者に襲われると腕を自切し、[[デコイ]]として利用してその隙に逃げることが知られている{{sfn|土屋|2002|p=10}}。[[テギレダコ]] {{snamei||Callistoctopus mutilans}} は捕らえようとすると腕を自切して逃げることから、その和名や学名が名付けられた{{sfn|土屋|2002|p=94}}{{Efn|種小名 {{Snamei|mutilans}} は手足の切断を示すラテン語の[[分詞]]である{{sfn|土屋|2002|p=94}}。}}。

[[Octopus vulgaris|オクトプス・ウルガリス]] {{Snamei||Octopus vulgaris}} や[[マダコ]] {{snamei||Octopus sinensis}}、[[カリフォルニアツースポットダコ]] {{Snamei||Octopus bimaculoides}} では自分の腕を食べる行動が観察されている{{Sfn|瀧|1999|p=353}}{{Sfn|カレッジ|2014|p=151}}。[[瀧巌]]の観察によると、[[アサリ]]などの餌生物を与えていても起こるため飢餓ではないことが分かっている{{Sfn|瀧|1999|p=353}}。この行動は何らかの病原体によって引き起こされる感染性の致死的疾患であると考えられている{{Sfn|Budelmann|1998|pp=101–108}}。腕を食べ始めたタコは数日以内に死亡する{{Sfn|瀧|1999|p=353}}。消化管内には腸内で消化されておらず、小肉片となって腸内を充填してしまう{{Sfn|瀧|1999|p=353}}。この行動の多くはストレスによるものではないと考えられることもある一方{{Sfn|Budelmann|1998|pp=101–108}}、精神の異常によるものだと考えられることもある{{Sfn|瀧|1999|p=353}}{{Sfn|カレッジ|2014|p=151}}。例えば、豊かな環境の水槽とごく普通の水槽にカリフォルニアツースポットダコを入れて行動を比較した研究では、後者でのみ自食行動が観察された{{Sfn|カレッジ|2014|p=151}}。

傷ついた腕が再生する際、2叉または3叉に分枝し異常な腕となることがある{{Sfn|Zullo|Impedadore|2019|pp=193–199}}。[[鳥羽水族館]]には[[三重県]]沖から漁獲された多腕となった[[マダコ]]が度々持ち込まれ、うち85本のものは[[1955年]]の開館直後から展示されている<ref>{{Cite web|和書|title=あわせて141本足!「多足ダコ」の標本展示再開 |url=https://www.aquarium.co.jp/topics/index.php?id=62&archive=2012 |publisher=鳥羽水族館|date=2012-04-29 |accessdate=2020-03-31|archiveurl=https://web.archive.org/web/20211027034253/https://www.aquarium.co.jp/topics/index.php?id=62&archive=2012 |archivedate=2021-10-27}}</ref>。

=== 生殖 ===
{{Multiple image
|total_width=350
|align=right
|image1=Hectocotylized arm of an octopod.jpg
|caption1=タコの交接腕の模式図<hr />ligule: 舌状片、calamus: 円錐体、succer: 吸盤。
|image2=Argonauta bottgeri hectocotylus-2.jpg
|caption2=[[チヂミタコブネ]] {{snamei||Argonauta bottgeri}} の交接腕
}}

タコは[[雌雄異体]]で、体の後部に単一の[[生殖巣]]を持つ{{Sfn|佐々木|2010|p=261}}{{Sfn|瀧|1999|p=341}}。卵は大型であるため、発達した[[卵巣]]と[[精巣]]ははっきりと区別できる{{Sfn|佐々木|2010|p=261}}。

[[輸精管]]は左側にのみある{{Sfn|佐々木|2010|p=261}}。[[輸卵管]]は無触毛亜目のタコでは対になるが{{Sfn|佐々木|2010|p=261}}、有触毛亜目のタコでは左側にしかない{{Sfn|佐々木|2010|p=262}}。輸卵管の末端には輸卵管腺が付属し、[[卵殻]]を分泌する{{Sfn|佐々木|2010|p=262}}。

雄の[[精子]]は、'''[[精包]]'''(精莢)として雌に渡される{{Sfn|佐々木|2010|p=262}}{{Sfn|土屋|2002|p=107}}。精包は精包腺からの分泌物で精子が固められて形成され、輸精管末端の[[精包嚢]](精莢嚢{{Sfn|広島大学生物学会|1971|loc=Plate 80}}、ニーダム嚢{{Sfn|佐々木|2010|p=262}})に貯蓄される{{Sfn|佐々木|2010|p=262}}{{Sfn|瀧|1999|p=342}}。集められた精包は陰茎から発射される{{Sfn|瀧|1999|p=342}}。精包は包膜の中に精子の塊が螺旋状に畳まれて入っており、受精時に飛び出す{{Sfn|佐々木|2010|p=263}}。

また、タコの雄は腕の1本が変形して[[交接腕]](生殖腕、{{En|hectocotylus}})となり{{Sfn|佐々木|2010|p=263}}{{Sfn|巌佐ほか|2013|p=452b}}{{Sfn|奥谷|2013|p=16}}{{Sfn|池田|2020|p=21}}、先端に舌状片と円錐体(交接基、交接翮{{Sfn|広島大学生物学会|1971|loc=Plate 80}})を持つ{{Sfn|奥谷|1991|p=35}}{{Sfn|奥谷|2013|p=16}}。舌状片に至るまでには細く狭い溝が通っており、これを精莢溝(精溝{{Sfn|瀧|1999|p=344}}{{Sfn|広島大学生物学会|1971|loc=Plate 80}})という{{Sfn|奥谷|2013|p=16}}{{Sfn|奥谷|1991|p=35}}。この交接腕を雌の外套腔に挿入し、精包を渡す{{Sfn|佐々木|2010|p=263}}{{Sfn|巌佐ほか|2013|p=452b}}{{Sfn|土屋|2002|p=107}}{{sfn|Schweid|2014|p=19}}。この行動を'''交接'''という{{Sfn|池田|2020|p=21}}{{Sfn|土屋|2002|p=107}}{{Sfn|奥谷|1991|p=36}}。[[マダコ]]などでは右[[第3腕]]が交接腕となるが{{Sfn|佐々木|2010|p=263}}{{Sfn|窪寺|2014|p=51}}、[[オオメダコ]] {{snamei||Paroctopus megalops}} などでは左第3腕が交接腕となる{{Sfn|池田|2020|p=23}}。テナガダコは交接腕が匙状となることから、「しゃくしだこ」と呼ばれた{{Sfn|奥谷|2002|p=147}}。

[[アオイガイ科]]、[[アミダコ科]]、[[ムラサキダコ科]]の交接腕は千切れ、雌の外套腔内に残される{{Sfn|佐々木|2010|p=263}}{{Sfn|巌佐ほか|2013|p=452b}}{{Sfn|瀧|1999|p=343}}。そのため、[[アオイガイ]] {{Snamei|Argonauta argo}} の交接腕断片は[[寄生虫]]と誤解されて、1825年に[[ステファーノ・デッレ・チアジェ]]により {{snamei||Trichocephalus acetabularis}} として記載された{{Sfn|瀧|1999|p=343}}。同様に[[アミダコ]]の雌の体内に残された交接腕は[[ジョルジュ・キュヴィエ]]に[[寄生虫]]と誤解されて、1829年、[[ヘクトコチルス]] {{Snamei||Hectocotylus octopodis}} として「記載」された{{Sfn|佐々木|2010|p=263}}{{Sfn|巌佐ほか|2013|p=452b}}{{Sfn|瀧|1999|p=343}}。

[[File:FMIB 48548 Egg capsules of A, Sepia elegans Org, and B, Octopus vulgaris Lam.jpeg|thumb|200px|[[ヨーロッパヒメコウイカ]] {{snamei||Sepia elegans}} (左、イカ類)と[[オクトプス・ウルガリス]] {{Snamei||Octopus vulgaris}} (右、タコ類)の卵塊。{{Snamei|O. vulgaris}} の卵塊は藤の花序のように房状となり、海藤花と呼ばれる。]]
たいていのタコの雌は、生涯に1回のみ産卵し、卵が孵化したのちに死んでしまう{{Sfn|池田|2020|p=35}}{{Sfn|土屋|2002|p=90}}。卵サイズは種によって多様である{{Sfn|土屋|2002|p=128}}。卵は卵黄に富み、卵嚢に包まれる{{Sfn|佐々木|2010|p=263}}。卵殻には柄があって、房状の卵塊をまとめて産み付ける{{Sfn|佐々木|2010|p=263}}{{Sfn|池田|2020|p=35}}{{Sfn|土屋|2002|p=128}}。多くのタコの雌は、卵塊を岩棚などに産み付ける、基質産卵型の産卵を行う{{Sfn|池田|2020|p=35}}。雌は卵塊を抱き、汚れを吸盤で掃除したり、海水を吹きかけたりして世話をする{{Sfn|池田|2020|p=35}}。漂泳性の[[ムラサキダコ]] {{snamei||Tremoctopus violaceus}} や[[ナツメダコ]] {{snamei||Japetella diaphana}} は基質産卵型ではなく、口を膜で覆って卵塊を腕で包み込み、保持し続ける{{Sfn|池田|2020|p=35}}{{Sfn|土屋|2002|p=88}}{{Sfn|土屋|2002|p=129}}{{Sfn|窪寺|峯水|2014|p=201}}。

タコには性差があることも多く、一般に雌の方が大型になる{{Sfn|佐々木|2010|p=263}}。[[ムラサキダコ]]では雌は全長56 cm であるが、[[矮雄|雄]]は3 cm より小さい{{Sfn|佐々木|2010|p=263}}。ムラサキダコの雄の交接腕は発達する{{Sfn|奥谷|1991|p=39}}。この'''[[性的二形]]'''は交接時に泳ぐ抵抗を減らし、捕食などのリスクを減らす効果があると説明される{{Sfn|窪寺|峯水|2014|p=205}}。[[アミダコ]] {{Snamei||Ocythoe tuberculata}} でも雌は全長52 cm であるが、雄は 16 cm 程度である{{Sfn|佐々木|2010|p=263}}。[[マダコ]]では、雄の成熟すると特定の吸盤が平たく大きくなり、雌と区別する特徴となる{{Sfn|土屋|2002|p=90}}。{{Snamei|Octopus vulgaris}} 種群の他の種である、{{Snamei|Octopus vulgaris}} や {{Snamei|Octopus americanus}} でも吸盤が大きくなるが、大きくなる吸盤の位置は異なる{{Sfn|Avendaño ''et al.''|2020|pp=909–925}}。

=== 発生 ===
[[File:Fish3566 - Flickr - NOAA Photo Library.jpg|thumb|left|200px|タコの稚仔 (paralarva)。]]
[[卵割]]は[[部分卵割]]で、[[盤割]]を行う{{Sfn|瀧|1999|p=346}}。

軟体動物は一般的に[[トロコフォア幼生]]や[[ベリジャー幼生]]を経て成体に成長するが、タコは直接親と似た姿の稚仔になる'''[[直達発生]]'''を行う{{Sfn|池田|2020|p=36}}{{Sfn|瀧|1999|p=349}}。タコの稚仔は一時[[プランクトン]]として生活し{{Sfn|池田|2020|p=36}}、このような稚仔を特に'''擬幼生'''(ぎようせい、{{En|paralarva}})という{{Sfn|土屋|2002|p=130}}{{Efn|これは Young & Harman (1988) により提唱された用語である{{Sfn|瀧|1999|p=349}}{{Sfn|奥谷|2013|p=20}}。{{En|paralarva}} は定訳がなく、パララーバ{{Sfn|奥谷|2013|p=20}}、稚仔、稚ダコ{{Sfn|土屋|2002|p=90}}、浮遊幼生{{Sfn|水口|出月|2016|p=76}}、仔稚期<ref>{{Cite journal|author=奥谷喬司 |title=頭足類の仔稚期 Paralarva とその周辺|journal=海洋と生物|volume=11|issue=3|pages=192–195|date=1989}}</ref>なども訳される。}}。孵化したてのタコは腕は8本揃っているものの、外套膜長に対する相対的な腕の長さは短い{{Sfn|池田|2020|p=37}}。また、最初は1本の腕当り3個ずつしか吸盤を持たない{{Sfn|奥谷|1991|p=38}}。成長とともに次第に腕は伸長し、海底に着底する{{Sfn|池田|2020|p=37}}。マダコでは、孵化してから着底するまでに15–30日の期間を要する{{Sfn|池田|2020|p=37}}。

[[イイダコ]]や[[テナガダコ]]のように大きな卵を少数産む種では、孵化した稚仔はプランクトンを経ずそのまま匍匐生活に入る{{Sfn|土屋|2002|pp=129–130}}{{Sfn|奥谷|1991|p=39}}。イイダコの稚仔は孵化直後でも1本の腕当り20個以上の吸盤を持つ{{Sfn|奥谷|1991|p=39}}。

=== 寿命 ===
成長は迅速で、寿命も比較的短い{{Sfn|瀧|1999|p=351}}{{Sfn|カレッジ|2014|p=232}}。これを形容し、「タコは太く短く生きる」{{Sfn|カレッジ|2014|p=232}}や"{{en|live fast die young}}". と言われる{{Sfn|池田|2020|p=38}}。

変温動物であるタコは取り込んだエネルギーを成長に回すことができるため、成長は非常に早い{{Sfn|カレッジ|2014|p=82}}。[[瀬戸内海]]の[[マダコ]]では生後4か月で体重が1 kg、1–2年後には3 kg にまで成長する{{Sfn|カレッジ|2014|p=83}}。最大の種であるミズダコも、米粒サイズの幼生期から3–5年で腕を広げた長さが3.6 m にも達する{{Sfn|カレッジ|2014|p=83}}。ワモンダコの稚仔では毎日4%ずつ体重が増加し、8.6 kg にも達する{{Sfn|カレッジ|2014|p=83}}。[[ピグミー・オクトパス]] {{Snamei||Paroctopus digueti}} では0.04 g から 40 g まで1000倍に成長する{{Sfn|カレッジ|2014|p=84}}。

タコでは[[平衡石]]を用いた年齢推定が行えないため、一部の種を除いて、どれくらい生きるのかはわかっていないことが多い{{Sfn|奥谷|2013|p=21}}{{Sfn|池田|2020|p=38}}{{Sfn|土屋|2002|p=86}}。タコの平衡石は層の重なり方が魚と比べて不規則であるためである{{sfn|カレッジ|2014|p=258}}。{{Snamei|en|Octopus pallidus|'Octopus' pallidus}} や[[ワモンダコ]] {{snamei|en|Octopus cyanea|'O.' cyanea}} を用いた研究により、外套膜に埋没する棒状軟骨(貝殻)に日縞が見られることが分かり、これを用いた齢査定が行われている{{Sfn|池田|2020|p=38}}。その他、飼育や統計学的な手法でも推定されている{{Sfn|土屋|2002|p=86}}。

熱帯性のものより寒冷性のものが長寿であるという傾向が知られている{{Sfn|土屋|2002|p=86}}。タコ類の寿命は[[マダコ]] {{Snamei||Octopus sinensis}} は1年から1年半、熱帯性のワモンダコで1年など、1年とされることが多い{{Sfn|土屋|2002|p=86}}。それに対し、[[ミズダコ]]は2–3年と推定されている{{Sfn|土屋|2002|p=86}}。更に高緯度深海性の[[ホッキョクワタゾコダコ]] {{Snamei||Bathypolypus arcticus}} では産卵するまで約4年、寿命は5年程度だと考えられている{{Sfn|土屋|2002|p=86}}。飼育下の {{Snamei|ja|Octopus vulgaris|O. vulgaris}} では、ドイツの[[水族館]][[シー・ライフ]]で飼育された[[パウル (タコ)|パウル]]の3年などの例がある{{Sfn|池田|2020|p=39}}。

=== 墨による防衛 ===
危険を感じると、[[漏斗 (頭足類)|漏斗]]を通じて墨汁(墨)を吐き出す{{Sfn|佐々木|2010|p=223}}。

タコの墨は、一般的に食用に供される[[イカ墨|イカの墨]]とほぼ同じ成分であり、タンパク質、セピア[[メラニン]]、多糖類、脂質を含む<ref name="TBS">{{Cite web|和書|author=奥谷喬司|title=(3)【タコの墨と、イカの墨】この差って何?|website=この差って何ですか?|publisher=TBSテレビ.html|url=https://www.tbs.co.jp/konosa/old/20150816.html|date=2015-08-16|archiveurl=https://web.archive.org/web/20240810150704/https://www.tbs.co.jp/konosa/old/20150816.html|archivedate=2024-08-10|accessdate=2024-08-11}}</ref>。しかし、タコの墨はイカのものに比べ、粘液物質である[[ムコ多糖]]や脂質が少ないため、さらさらとしている{{Sfn|土屋|2002|p=92}}<ref name="TBS"/>。そのためタコは墨を[[煙幕]]として拡散させ敵から逃げる{{Sfn|佐々木|2010|p=223}}{{Sfn|土屋|2002|p=92}}<ref name="TBS"/>{{Efn|それに対し、イカの墨は拡散しにくく、墨の塊を「ダミー」として捕食者の眼を逸らせ、敵から逃げる{{Sfn|佐々木|2010|p=223}}{{Sfn|土屋|2002|p=92}}。}}。遊泳性のイカに比べ、底生のタコは隠れ場所に困らないため、このような戦略を用いていると考えられる{{Sfn|土屋|2002|p=92}}。また、この墨には[[モノフェノールモノオキシゲナーゼ|チロシナーゼ]]が含まれ、敵の眼や受容器を刺激する機能もあり{{Sfn|カレッジ|2014|p=38}}、また魚の鰓などに絡まってダメージを与える働きもあると考えられている{{Sfn|カレッジ|2014|p=39}}。

タコ墨が料理にあまり用いられないのはイカ墨と比べて絡まりにくいためであり{{Sfn|奥谷|2013|p=27}}、料理に不向きとされることもあるが{{Sfn|土屋|2002|p=92}}、一方成分はほぼ同じであることから美味ともされる<ref name="TBS"/>。墨汁嚢が肝臓(中腸腺)中に埋没するため取り出しにくく、さらに1匹から採れる量もごく少量であることが、タコ墨が料理にあまり用いられない真の理由だとされる{{Sfn|奥谷|2013|p=26}}<ref name="TBS"/>。

漂泳性のムラサキダコの墨は粘り気が強く、イカのものに類似している{{Sfn|窪寺|峯水|2014|p=207}}。

=== 擬態とコミュニケーション ===
[[File:Mimic Octopus 5.jpg|thumb|200px|擬態中の[[ミミックオクトパス]] {{Snamei||Thaumoctopus mimicus}}。]]
頭足類は[[聴覚]]が発達しないことから、視覚情報を重要なコミュニケーションの方法として用いている{{Sfn|土屋|2002|p=124}}。

タコの体表には体表の色彩を変化させる'''色素胞器官'''を持つ{{Sfn|佐々木|2010|p=192}}{{Sfn|土屋|2002|p=124}}{{Sfn|瀧|1999|p=352}}。これは黄、橙、赤、茶、黒と様々に色を変化させる色素細胞と放射状の筋肉、神経などのいくつかの異なる細胞からなる複合体である{{Sfn|佐々木|2010|p=192}}{{Sfn|瀧|1999|p=352}}。神経によって直接支配されるため、内分泌系に制御される魚類の色素胞とは異なり機敏に体色を変化させることができる{{Sfn|土屋|2002|p=101}}{{Sfn|土屋|2002|p=124}}。単に色だけでなく、反射性や質感、明るさを周囲の環境に合わせて変化させることができる{{Sfn|カレッジ|2014|p=96}}。この色素胞は、擬態(カモフラージュ)と意思疎通(コミュニケーション)に機能すると考えられている{{Sfn|土屋|2002|p=124}}。

また、タコはイカに比べ、表皮層が厚く、肌の凹凸を変えることができ、これも体色の変化に加え背景に溶け込む隠蔽的擬態に寄与する{{Sfn|佐々木|2010|p=192}}{{Sfn|土屋|2002|p=101}}。単に背景と同じ模様にするというより、目印を選んで擬態することが明らかになっている{{Sfn|カレッジ|2014|p=105}}。例えば、[[ヘアリーオクトパス]]と呼ばれる未記載種は、体表の突起を分枝させて伸ばし、海藻の生えた石に擬態する行動が知られている{{Sfn|土屋|2002|p=101}}{{Sfn|土屋|2002|p=108}}。

また、有毒生物などに似せて身を守る[[標識的擬態]]を行うものも知られている{{Sfn|土屋|2002|p=101}}。[[ホワイト・ブイ・オクトパス]]と通称される種 {{snamei||Abdopus}} sp. は[[カレイ目|カレイ類]]に擬態し{{Sfn|土屋|2002|p=109}}、[[ミミックオクトパス]] {{Snamei||Thaumoctopus mimics}} は[[ウシノシタ]]や[[ミノカサゴ]]、[[ウミヘビ]]などの有毒生物に擬態([[ベイツ型擬態]])し、動きを似せることが知られる{{Sfn|土屋|2002|p=112}}{{Sfn|土屋|2002|p=101}}{{Sfn|池田|2020|p=33}}{{Sfn|カレッジ|2014|p=107}}。また、多くの種で第1腕を持ち上げ腕の先端を丸めて体全体を漂わせる姿勢を取るフランボワイヤン・ディスプレー ({{En|flamboyant display}}) を行うが、これも標識的擬態であると考えられる{{Sfn|土屋|2002|p=126}}{{Sfn|カレッジ|2014|p=156}}。

沿岸域に生息する種では、[[眼状紋]](眼紋、{{En|ocellate pattern}})を[[威嚇]]行動に用いる{{Sfn|土屋|2002|p=124}}{{Sfn|瀧|1999|p=353}}。イイダコは会敵した際、外套膜背面に4縦帯、各腕の両側に黒帯、第2腕・第3腕の基部に眼状紋を生じる{{Sfn|瀧|1999|p=352}}。[[ヨツメダコ]] {{Snamei||Amphioctopus areolatus}} も同様の眼状紋を生じ、会敵の際に眼をカモフラージュするのに用いると考えられている{{Sfn|窪寺|峯水|2014|p=226}}。また、横縞をネオン状に前後に動かす行動を行う種も知られ、この行動は警戒行動に用いたり、採餌中の興奮状態に現れる{{Sfn|土屋|2002|p=124}}。

=== 認知能力と学習 ===
タコは脳が発達し、視覚や触覚、遊泳能力などに優れる{{Sfn|佐々木|2010|p=242}}。また、[[学習]]能力さえ持っている{{Sfn|佐々木|2010|p=242}}。頭足類の神経系と感覚器官は[[無脊椎動物]]の中で最も発達し、全体重に対する脳の重量の割合は[[爬虫類]]も上回っている{{Sfn|佐々木|2010|p=242}}。

タコの脳には5億個の[[ニューロン]]があり、犬や3歳の子供と同じくらいの知能で<ref>{{Cite web |url=https://www.scotsman.com/news/opinion/columnists/octopus-farming-is-immoral-given-everything-we-know-about-this-highly-intelligent-and-solitary-animal-philip-lymbery-3412887 |title=Octopus farming is immoral, given everything we know about this highly intelligent and solitary animal – Philip Lymbery |access-date=20221125}}</ref>、一説には最も賢い[[無脊椎動物]]であるとされている{{sfn|Schweid|2014|p=44}}{{sfn|カレッジ|2014|p=134}}。

タコは物体の形や大きさ、色の明暗を区別し、学習することができる{{Sfn|池田|2020|pp=59–61}}。{{仮リンク|ジョン・ザッカリー・ヤング|en|John Zachary Young}} ([[1963年|1963]]) は {{Snamei|ja|Octopus vulgaris|Octopus vulgaris}} に白い玉に触れた場合に餌という報酬を与える[[オペラント条件付け]]による学習訓練を行った{{Sfn|池田|2020|p=60}}<ref>{{Cite journal|last1=Young|first=J.Z.|date=1963|title=Some essentials of neural memory systems. Paired centres that regulate and address the signals of the results of action |journal=Nature |volume=198|issue=626–630|doi=10.1038/198626a0}}</ref>。これにより、タコは白い玉が現れると触るようになる{{Sfn|池田|2020|p=60}}。そのうえで白い玉と赤い玉を提示すると、白い玉を触る行動をとる{{Sfn|池田|2020|p=59}}。大きさが異なる玉も区別することができる{{Sfn|池田|2020|p=60}}。また、図形も区別することができる{{Sfn|池田|2020|p=61}}。[[正方形]]を選ぶように訓練されたタコは、[[菱形]]と正方形を提示すると正方形を選ぶことができる{{Sfn|池田|2020|p=61}}。これは三角形や十字形でも同様に学習でき、枝分かれや、向きについても見分けることができる{{Sfn|池田|2020|p=61}}。ただし、十字形と十字にさらに線が交差した図形や、円と正方形の区別は苦手とする{{Sfn|池田|2020|p=61}}。また、形状は視覚だけでなく触覚によっても学習することができ、溝を刻んだ物体と滑らかな表面の物体を区別できる{{Sfn|池田|2020|p=61}}{{Sfn|奥谷|2013|p=14}}。重さについては識別できないと考えられている{{Sfn|池田|2020|p=62}}。

また、新規の課題を学習し解決することができる{{Sfn|池田|2020|p=63}}。例えば、密閉されたねじ蓋式のガラス瓶に入った餌を[[視覚]]で認識し、瓶の蓋をねじって餌を取ることができる{{Sfn|池田|2020|p=62}}。ほかにも、「回り道」が理解できる実験結果が得られている{{Sfn|池田|2020|p=64}}。{{Snamei|ja|Octopus vulgaris|Octopus vulgaris}} に餌のカニ入りガラス瓶がある部屋とカニ無し部屋の二枚のガラスの壁が提示され、通路を進み突き当りを曲がらなければ餌に辿り着けない状況が与えられた{{Sfn|池田|2020|p=64}}。29個体中8個体が初回の施行で餌まで到達できた{{Sfn|池田|2020|p=64}}。さらに、10回正解したタコに対し餌の瓶を煉瓦で遮蔽して課題を与えたところ、ガラス越しに餌を見ながら進み、同様に餌に辿り着くことができた{{Sfn|池田|2020|p=64}}。外科手術により片眼を除去すると誤った部屋に入ることや、振動や臭いの影響をなくした実験を行っても正しい部屋に辿り着けたことから、視覚情報を指標として課題を解決したことが示された{{Sfn|池田|2020|p=65}}。

飼育されているタコでは、人間の顔の見分けがついていると考えられる経験による実例がいくつか知られ、人間の行動に応じて状況を判断し、行動していると言われる{{Sfn|カレッジ|2014|p=136}}。[[シアトル水族館]]で飼われていたミズダコに対し、2週間「良い警官」役が餌を与え、「悪い警官」役が棒でいじめると、それに慣れたタコは前者には近寄ってきて餌をもらえる体勢を取ったのに対し、後者には敵意を示す体色を示したり、水を噴きかける行動を取るようになった{{Sfn|カレッジ|2014|p=138}}


=== 吸盤 ===
=== 道具の使用 ===
[[File:Octopus marginatus.jpg|thumb|300px|種類の異なる2枚の貝殻を組み合わせ、護身用として持ち歩く[[メジロダコ]]<br />[[東ティモール]]の[[ディリ県]]近海にて[[2006年]]撮影。]]
[[ファイル:Suckers of octopus by steve lodefink.jpg|thumb|180px|タコの吸盤]]
[[1998年]]には、[[インドネシア]]近海に棲息する[[メジロダコ]] {{Snamei||Amphioctopus marginatus}} が、人間が割って捨てた[[ココナッツ]]の殻を持ち運び、組み合わせて防御に使っていることが確認され、[[2009年]]12月、「無脊椎動物の中で[[道具]]を使っていることが判明した初めての例」として、[[二枚貝]]の[[貝殻]]や持ち運び可能な人工物を利用して身を守る様子が[[ジュリアン・フィン]]らにより[[イギリス]]の[[科学雑誌]]『カレント・バイオロジー ({{lang|en|''Current Biology''}}) 』で報告された{{Sfn|池田|2020|pp=81–82}}{{Sfn|カレッジ|2014|p=154}}<ref>{{Cite journal|last1=Finn |first1=Julian K. |last2=Tregenza |first2=Tom |last3=Norman |first3=Mark D. |date=2009|title=Defensive tool use in a coconut-carrying octopus|journal=Curr. Biol. |volume=19 |issue=23|pages=R1069–R1070|url=http://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(09)01914-9}}</ref><ref>{{cite news |title=Aussie scientists find coconut-carrying octopus |url=https://www.google.com/hostednews/ap/article/ALeqM5jfq6qUad8oMqjmm0UKjxvMrFGaaAD9CJIGO80 |first=Kristen |last=Gelineau |date=2009-12-15 |accessdate=2009-12-15 |publisher=The Associated Press}}</ref><ref>{{cite news |title=A tool-wielding octopus? This invertebrate builds armor from coconut halves |url=http://www.scientificamerican.com/blog/post.cfm?id=a-tool-wielding-octopus-this-invert-2009-12-14 |date=2009-12-14 |publisher=Scientific American |first=Katherine Harmon |last=Courage |archiveurl=https://web.archive.org/web/20091217043236/http://www.scientificamerican.com/blog/post.cfm?id=a-tool-wielding-octopus-this-invert-2009-12-14 |archivedate=2009-12-17}}</ref>(動物の道具使用については別項「[[文化 (動物)]]」も参照)。これは「タコの貝持ち行動」と呼ばれている二枚貝を用いて身を守る行動の転用だと考えられている{{Sfn|池田|2020|pp=81–82}}{{Sfn|窪寺|峯水|2014|p=265}}。二枚貝を用いる行動自体は[[イイダコ]] {{Snamei|en|Amphioctopus fangsiao|A. fangsiao}} において以前から知られていた{{Sfn|池田|2020|pp=81–82}}。
オスは4本の腕の吸盤の大きさが、メスに比べてばらつきがある。タコの吸盤は、たいていのものには吸着できる。切断された腕であってもその活動は約1時間続く。しかし、タコの吸盤は切断されたものであっても、自分の体には吸着することはなく、この原理については判明していない。ただしタコの皮膚を取り除き、同じタコの腕を切断して近づけると、その腕の吸盤は皮膚を除去した部分に吸着する。また皮膚を貼り付けた物体に、切断されたタコの腕を近づけると、その部分にはくっつかず、皮膚のない場所にはくっつくという現象が確認できることから、皮膚に何らかの自己認識機構が存在するという説がある<ref>{{cite news |title=タコの腕はなぜ絡まってしまわないのか |newspaper=[[ナショナルジオグラフィック (雑誌)|ナショナルジオグラフィック]] |date=2014-5-16 |url=https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/9241/ | author = Jane J. Lee |accessdate=2014-5-17}}</ref>。吸盤には味覚を司る感覚器があるとされる<ref name="natio201611" />。吸盤の表面は古くなると剥がれて更新される。古い吸盤表面を剥がすために激しく腕をくねらせて互いにこすり合わせることがある。[[ファイル:Octopus marginatus.jpg|thumb|180px|種類の異なる2枚の貝殻を組み合わせ、護身用として持ち歩くメジロダコ<br />[[東ティモール]]の[[ディリ県]]近海にて[[2006年]]撮影。]]タコの吸盤は主に筋肉の収縮を利用しており、歯の付いた角質の環を利用することで張り付くイカの吸盤とは構造が異なる<ref name="vol8" />。


=== 生殖寿命 ===
=== 好奇心遊び ===
[[アリストテレス]]の『[[動物誌 (アリストテレス)|動物誌]]』には、タコは水の中に下ろした人の手の方に歩み寄ってくるため捕獲しやすく、「利口ではない」と記述されている{{Sfn|カレッジ|2014|p=144}}。この行動はアリストテレスが考えたように愚かであるわけではなく、その好奇心故に水中に現れた人間の手に興味を持ったことによる行動だと考えられている{{Sfn|カレッジ|2014|p=144}}。目新しいものが現れると、腕やその吸盤、口などで「調べる」行動をとる{{Sfn|カレッジ|2014|p=144}}。水中を泳ぐ人についても近づいて絡みつき、「身体検査」を行う{{Sfn|カレッジ|2014|p=144}}。
8本の触腕のうち1本は[[交接腕]]と呼ばれ、先端が[[生殖器]]になっている。これがメスの体内に挿入され[[精莢]]が受け渡されることで[[受精]]が成立する{{sfn|Schweid|2014|p=19}}。たいていのタコの雌は、生涯に1回のみ産卵し<ref name="natio201611"/>、卵が孵化したのちに死んでしまう<ref name="natio201611"/>。タコでは平衡石を用いた年齢推定が行えないため、一部の種を除いて、どれくらい生きるのかはわかっていない{{Sfn|奥谷|2013|p=21}}。


好奇心には同種内でも個体差が存在する{{sfn|池田|2020|p=144}}。[[タムセン・デヴィッド]]が[[スミソニアン国立動物園]]のタコに様々なおもちゃを与えたところ、個体によってその好みが異なることが観察されている{{Sfn|カレッジ|2014|p=145}}。目新しいものにすぐ飽きてしまう個体もいれば、しばらく同じものにずっと興味を示す個体も存在する{{Sfn|カレッジ|2014|p=146}}。
=== 認知能力・感受性 ===
タコの脳には 5 億個の[[ニューロン]]があり、犬や 3 歳の子供と同じくらいの知能で<ref>{{Cite web |url=https://www.scotsman.com/news/opinion/columnists/octopus-farming-is-immoral-given-everything-we-know-about-this-highly-intelligent-and-solitary-animal-philip-lymbery-3412887 |title=Octopus farming is immoral, given everything we know about this highly intelligent and solitary animal – Philip Lymbery |access-date=20221125}}</ref>、一説には最も賢い[[無脊椎動物]]であるとされている{{sfn|Schweid|2014|p=44}}{{sfn|Katherine|2014|p=134}}。形を認識することや、問題を学習し解決することができる。例として、密閉されたねじぶた式のガラスびんに入った餌を[[視覚]]で認識し、ビンの蓋をねじって餌を取ることができる。また、白い物体に強い興味を示す。身を守るためには、[[保護色]]に変色し、地形に合わせて体形を変える、その色や形を2年ほど記憶できることが知られている。また、[[1998年]]には、[[インドネシア]]近海に棲息する[[メジロダコ]]([[w:Amphioctopus marginatus|en]]。右列に関連する画像あり)が、人間が割って捨てた[[ココナッツ]]の殻を組み合わせて防御に使っていることが確認され<ref name="natio201611" />、[[2009年]]12月、「無脊椎動物の中で[[道具]]を使っていることが判明した初めての例」として、[[イギリス]]の[[科学雑誌]]『カレント・バイオロジー ({{lang|en|''Current Biology''}}) 』に特集され<ref>{{cite journal|author=Julian K. Finn, Tom Tregenza, and Mark D. Norman|year=2009|title=Defensive tool use in a coconut-carrying octopus|journal=Current Biology|volume=19|issue=23|pages=1069-70}} {{doi|10.1016/j.cub.2009.10.052}}</ref><ref>Finn, Julian K.; Tregenza, Tom; Norman, Mark D. (2009), "Defensive tool use in a coconut-carrying octopus", Curr. Biol. 19 (23): R1069–R1070 http://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(09)01914-9</ref><ref>{{cite news |title=Aussie scientists find coconut-carrying octopus |url=https://www.google.com/hostednews/ap/article/ALeqM5jfq6qUad8oMqjmm0UKjxvMrFGaaAD9CJIGO80 |first=Kristen |last=Gelineau |date=2009-12-15 |accessdate=2009-12-15 |publisher=The Associated Press}}</ref><ref>{{cite news |title=A tool-wielding octopus? This invertebrate builds armor from coconut halves |url=http://www.scientificamerican.com/blog/post.cfm?id=a-tool-wielding-octopus-this-invert-2009-12-14 |date=2009-12-14 |publisher=Scientific American |first=Katherine |last=Harmon}}</ref>、[[二枚貝]]の[[貝殻]]や持ち運び可能な人工物を利用して身を守る様子が詳しく紹介された。(動物の道具使用については別項「[[文化 (動物)]]」も参照のこと)。


タコは「遊び」をすることが知られている{{Sfn|池田|2020|p=85}}。タコの遊びはジェニファー・メイザーとロナルド・アンダーソンにより[[ミズダコ]] {{snamei||Enteroctopus dofleini}} で最初に報告された{{Sfn|池田|2020|p=85}}{{Sfn|カレッジ|2014|p=146}}<ref>{{Cite journal|last1=Mather |first1=J. A. |last2=Anderson|first2=R. C. |date=1999|title=Exploration, Play, and Habituation in Octopuses (''Octopus dofleini'')|journal=Journal of Comparative Psychology |volume=113|issue=3|pages=333–338|doi=10.1037/0735-7036.113.3.333}}</ref>。水槽内で飼育されていたミズダコが、自分の近くにある物体を漏斗から海水を噴出して吹き飛ばす行動をとった{{Sfn|池田|2020|p=85}}{{Sfn|カレッジ|2014|p=146}}。飛ばされた物体が水槽内の水流によりタコの近くに戻ってくると、タコは再び海水を噴出した{{Sfn|池田|2020|p=85}}{{Sfn|カレッジ|2014|p=146}}。この個体は何日も定期的に同じ行動をとっていた{{Sfn|カレッジ|2014|p=147}}。
2021年、イギリスの専門家チームは、300以上の科学的研究を調査に、タコは「感性のある存在」であり、喜び、興奮だけでなく、痛み、苦痛、害も経験できるという「強力な科学的証拠」があると結論付けた<ref>{{Cite web|url=https://www.lse.ac.uk/News/News-Assets/PDFs/2021/Sentience-in-Cephalopod-Molluscs-and-Decapod-Crustaceans-Final-Report-November-2021.pdf|title=Review of the Evidence of Sentience in Cephalopod Molluscs and Decapod Crustaceans|accessdate=20211227|format=PDF}}</ref>。この調査を受け、2021年11月に、イギリス政府の審査委員会は「タコやカニや大型エビにも苦痛の感覚がある」として、同国で審議されている動物福祉法案の保護対象に感覚をもつ動物として追加した<ref name=":0">{{Cite web|url=https://www.bbc.com/news/science-environment-59667645|title=The world's first octopus farm - should it go ahead?|accessdate=20211227}}</ref>。


メイザーとミカエル・クバらにより、さらに高度な遊びが {{Snamei|ja|Octopus vulgaris|Octopus vulgaris}} で観察されている{{Sfn|池田|2020|p=85}}<ref>{{Cite journal|last1=Kuba |first1=M. J. |last2=Byrne|first2=R. A. |last3=Meisel|first3=D. V. |last4=Mather |first4=J. A. |title=When do octopuses play? Effects of repeated testing, object type, age, and food deprivation on object play in ''Octopus vulgaris''|journal=J. Comp. Psychol. |date=2006 |volume=120|issue=3|pages=184–190|doi=10.1037/0735-7036.120.3.184}}</ref>。タコに[[レゴブロック]]を与えると、それを掴んで移動したり、腕を使って近付けたり遠ざけたりする行動を繰り返す{{Sfn|池田|2020|p=86}}。タコはレゴブロックを餌とは認識せず、捕食や生残に関係なく「遊び」の行動をとる{{Sfn|池田|2020|p=86}}。日本の[[ソデフリダコ]] {{Snamei|en|Octopus laqueus|'Octopus' laqueus}} 類似種「トロピダコ」では、[[番 (動物学)|番]]でない2個体が抱き着いたり振り払ったりしてじゃれ合う様子が観察されている{{Sfn|池田|2020|pp=87–88}}。
前述の報告書の著者らは、次のように述べ、高い動物福祉が要求されるタコ養殖は「不可能」としている<ref>{{Cite web |url=https://www.bbc.co.uk/news/science-environment-64814781 |title=World's first octopus farm proposals alarm scientists |access-date=20230326}}</ref>。<blockquote>大量のタコは決して近接して一緒に飼うべきではありません。これをすると、ストレス、衝突、高い死亡率につながります...死亡率10~15%という数字は、どんな種類の養殖でも受け入れられるものではありません。</blockquote>また、タコの商業養殖の実現が間近となっていることを受け、[[イギリス政府]]は将来「輸入養殖タコの禁止を検討する可能性がある」ともいう<ref name=":0">{{Cite web|url=https://www.bbc.com/news/science-environment-59667645|title=The world's first octopus farm - should it go ahead?|accessdate=20211227}}</ref>。アメリカのワシントン州は世界で初めてタコ養殖を法的に禁止<ref>{{Cite web |url=https://ali.fish/blog/washington-state-prohibits-octopus-farming-a-major-victory-for-animals |title=Washington State Prohibits Octopus Farming: A Major Victory for Animals |access-date=20240321}}</ref>。[[カリフォルニア州]]、[[ハワイ州]]では、タコの養殖を禁止する法案が提出されている<ref>{{Cite web |url=https://aldf.org/article/octopus-farming-ban-introduced-in-california/ |title=Octopus Farming Ban Introduced in California |access-date=20240223}}</ref>。


=== 睡眠 ===
=== 睡眠 ===
タコは2つの睡眠段階を持ち、そのうちの1つは[[レム睡眠]]に相当することが発見された<ref name="nature">{{cite web |url=https://www.nature.com/articles/d41586-023-02198-0 |title=First glimpses inside octopus’s sleeping brains reveals human-like patterns |author=Nature Video |date=2023-06-30 |accessdate=2023-07-02}}</ref><ref name="sciencedaily">{{cite web |url=https://www.sciencedaily.com/releases/2023/06/230628130356.htm |title=Octopus sleep is surprisingly similar to humans and contains a wake-like stage |author=Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University |date=2023-06-28 |accessdate=2023-07-02}}</ref><ref name="nature2">{{cite web |url=https://www.nature.com/articles/d41586-023-02169-5 |title=Do octopuses dream? Neural activity resembles human sleep patterns |author=Elizabeth Gibney |date=2023-06-28 |accessdate=2023-07-02}}</ref>。この段階では、タコは体色や筋肉の動きを変えることがあり、「夢」を見ている可能性がある<ref name="nature" /><ref name="sciencedaily" /><ref name="nature2" />。これはレム睡眠が認知能力や進化に関係する一般的な特徴である可能性を示唆している<ref name="nature" /><ref name="sciencedaily" /><ref name="nature2" />。
タコは2つの睡眠段階を持ち、そのうちの1つは[[レム睡眠]]に相当することが発見された<ref name="nature">{{cite journal |author=Shamini Bundell|url=https://www.nature.com/articles/d41586-023-02198-0 |title=First glimpses inside octopus’s sleeping brains reveals human-like patterns |journal=Nature Video |date=2023-06-30 |accessdate=2023-07-02| doi=10.1038/d41586-023-02198-0}}</ref><ref name="sciencedaily">{{cite web |url=https://www.sciencedaily.com/releases/2023/06/230628130356.htm |title=Octopus sleep is surprisingly similar to humans and contains a wake-like stage |author=Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University |date=2023-06-28 |accessdate=2023-07-02}}</ref><ref name="nature2">{{cite web |url=https://www.nature.com/articles/d41586-023-02169-5 |title=Do octopuses dream? Neural activity resembles human sleep patterns |author=Elizabeth Gibney |date=2023-06-28 |accessdate=2023-07-02}}</ref>。この段階では、タコは体色や筋肉の動きを変えることがあり、「夢」を見ている可能性がある<ref name="nature" /><ref name="sciencedaily" /><ref name="nature2" />。これはレム睡眠が認知能力や進化に関係する一般的な特徴である可能性を示唆している<ref name="nature" /><ref name="sciencedaily" /><ref name="nature2" />。


=== 社会性 ===
== 食物網における位置 ==
[[File:Larger Pacific Striped Octopus.jpg|thumb|250px|社会性を持つと言われるオオシマダコ。]]
[[食物連鎖|食物網]]の中でのタコの位置(cf. [[生態ピラミッド]]、[[捕食-被食関係]])は、おおむね中間位の[[捕食|捕食者]]である。タコの[[天敵]]として最もよく知られているのは[[ウツボ]]であるが、[[サメ]]や[[鯛|タイ]]の仲間もタコを好む。しかしこの捕食-被食関係も一方的なものではなく、稀にではあるが、大型のタコが小型のサメを捕食することがある。また水族館では、[[ミズダコ]]が同じ[[水槽]]で飼われていた[[アブラツノザメ]]を攻撃し、死亡させた例もある<ref>{{Cite AV media ja |url=https://www.youtube.com/watch?v=RdILQ5BBg_8 |title=サメを喰らうミズダコ {{!}} ナショジオ |date=2020-04-17 |medium=YouTube |access-date=2023-11-29}}</ref><ref>{{Cite tweet ja|user=natgeotv_jp|author=ナショナル ジオグラフィック TV|number=1159237787452956674|title=サメを襲うタコ|date=2019-08-08|access-date=2023-11-29}}</ref>。
[[アオリイカ]]などのイカが群れで行動し、社会性を持つのに対し{{Sfn|池田|2020|p=106}}、多くのタコは単独で行動する{{Sfn|カレッジ|2014|p=17}}{{Sfn|池田|2020|p=107}}。飼育されている[[マダコ]]では、等間隔に環状に配置された巣穴の鉢をある個体がずらすと、残りの個体はそれから遠ざかるようにずらし、再び鉢が等間隔に移動する行動が観察されている{{Sfn|池田|2020|p=109}}。しかし、種によっては社会性を示すものも知られている{{Sfn|池田|2020|p=110}}。


[[マーティン・モイニハン]]と[[アラディオ・ロダニーチェ]]は、1982年、{{仮リンク|オオシマダコ|en|larger Pacific striped octopus}}{{Efn|{{En|larger Pacific striped octopus}}(大型の太平洋シマダコ)または {{En|Harlequin octopus}}(道化ダコ)という英名から、{{Harvtxt|池田|2020|p=110}} で用いられた和名。}}と呼ばれる未記載種が社会性を持つ例を報告した{{Sfn|池田|2020|p=110}}<ref>{{Cite book|last=Moynihan |first=Martin|date=1982|title=The Behavior and Natural History of the Caribbean Reef Squid, ''Sepioteuthis Sepioidea'', With a Consideration of Social, Signal, and Defensive Patterns for Difficult and Dangerous Environments|publisher=P. Parey |isbn=9783489619369}}</ref>。オオシマダコは30–40匹が集団で生息し、1 m 程度の間隔を空けた巣穴で暮らしている{{Sfn|池田|2020|p=110}}。3つの巣穴を2匹が共同で利用している様子も見られた{{Sfn|池田|2020|p=110}}。
他方、タコは[[甲殻類]]や[[二枚貝]]にとっての天敵であり、好んで捕食する傾向が強い。獲物に比して体格で勝るタコであれば、腕が持つ強靭な筋力によって甲殻類の殻を砕き、きつく閉じた二枚貝の殻をこじ開けることができる。


また、[[シドニーダコ]] {{Snamei||Octopus tetricus}} でも狭い範囲に多くの個体が巣穴を作っていることが観察され、[[デイビッド・シール]]や[[ピーター・ゴドフリー=スミス]]らにより報告されている{{Sfn|池田|2020|p=111}}<ref>{{Cite journal|last1=Scheel |first1=D. |last2=Chancellor |first2=S. |last3=Hing |first3=M. |last4=Lawrence |first4=M. |last5=Linquist |first5=S. |last6=Godfrey-Smith |first6=P. |date=2017 |title=A second site occupied by ''Octopus tetricus'' at high densities, with notes on their ecology and behavior |journal=Marine and Freshwater Behaviour and Physiology |volume=50|issue=4|pages=285–291|doi=10.1080/10236244.2017.1369851}}</ref>。巣穴外で他個体に遭遇した場合、互いに威嚇したりする[[社会的干渉]]が観察された{{Sfn|池田|2020|p=111}}。ゴドフリー=スミスはこの集団を「{{仮リンク|オクトポリス|en|Octopolis and Octlantis}} ({{En|octopolis}})」と表現している{{Sfn|池田|2020|p=112}}。
人間もタコの天敵であるが、人間を見たことがない大型のタコは、潜水中の人<!--潜水士に限定はおかしい-->を[[威嚇]]したり、[[潜水士|ダイバー]]の[[レギュレータ (ダイビング)|レギュレーター]]に腕をからませ、結果としてダイバーの呼吸を阻害することもある。


[[ソデフリダコ]] {{Snamei|en|Octopus laqueus|'Octopus' laqueus}} はタコ類では珍しく、水槽内で他個体間で身体を密着させる行動を示し、[[愛着行動]]の一種であると考えられている{{sfn|池田|2020|p=119}}。こういった行動は人為的にも引き起こされ、[[カリフォルニアツースポットダコ]] {{Snamei||Octopus bimaculoides}} は単独性が強いタコであるが、[[MDMA]]を投与すると行動が社会的なものに変化し、腕を伸ばして他個体に触れる行動を示した{{Sfn|池田|2020|pp=115–116}}<ref>{{Cite journal|last1= Edsinger |first1=E. |last2=Dölen|first2=Gül |title=A Conserved Role for Serotonergic Neurotransmission in Mediating Social Behavior in Octopus|journal=Current Biology|volume=28|issue=19|date=2018|pages=3136–3142|doi=10.1016/j.cub.2018.07.061}}</ref>。これは[[セロトニントランスポーター]]に MDMA が結合し、過剰に放出された[[セロトニン]]が同種他個体への強い関心を引き起こしたと解釈されている{{Sfn|池田|2020|pp=115–116}}。
ほぼ全てのタコは毒を持っているが、人間には無害である{{sfn|Katherine|2014|p=72}}。ただし、[[マダコ]]の唾液はヒトにもかなりの毒性を発揮し、咬まれた場合は相当な期間、痛みが続くことがあるという。さらに[[ヒョウモンダコ]]属のタコは例外で、分泌腺内に住むバクテリアに由来する[[テトロドトキシン]]を持っており、人間でも噛まれると命を落とすことがある。解毒剤は見つかっていない{{sfn|Schweid|2014|p=179}}{{sfn|Katherine|2014|p=225}}。


== 分類 ==
=== 発光と燐光 ===
[[File:Callistoctopus macropus en colère (photo de nuit).jpg|thumb|250px|(発光ではなく)燐光する性質を持つ白点に覆われた[[シマダコ]]。[[レユニオン島]]にて。]]
現生種はヒゲダコ亜目、マダコ亜目の2亜目に大別される<ref>{{cite web|url=http://www.marinespecies.org/aphia.php?p=taxdetails&id=11718|title=Octopoda in WoRMS|accessdate=2014-1-12}}</ref>。300種類を超えるタコが見つかっているが、約半数は分類が確定しておらず{{Sfn|奥谷|2013|p=179}}、DNAを用いた[[分子系統学|分子系統分類]]が待たれる。
イカは多くのものが発光し、約半数にあたる210種程度に知られているが、タコでは以下の3種しか知られておらず、何れも漂泳性である{{Sfn|奥谷|2013|p=14}}{{Sfn|大場|2015|pp=102–103}}。中層浮遊性のエビや魚類では([[カウンターシェーディング|カウンターイルミネーション]]を行うため{{Sfn|大場|2015|p=9}})発光するものが多いが、タコは底生のものが多いため、発光する種が少ないと考えられる{{Sfn|奥谷|2013|p=15}}。なお、タコに近縁な[[コウモリダコ]]では鰭の後ろに[[発光器]]を持つ{{Sfn|大場|2015|p=100}}。


[[イイジマフクロダコ]](フクロダコ) {{Snamei||Bolitaena pygmaea}} の成熟雌の口の周りを[[過酸化水素]]で刺激すると発光する{{Sfn|奥谷|2013|p=14}}{{Sfn|大場|2015|p=103}}。イイジマフクロダコの発光器は黄緑色に光り、雄を誘引するためであると考えられている{{Sfn|大場|2015|p=103}}。同じ[[フクロダコ科]]の[[ナツメダコ]] {{snamei||Japetella diaphana}}でも、同じく雌の口の周りが[[ドーナツ]]状に発光する{{Sfn|大場|2015|p=103}}。このような発光器を持つのはこの2種のみである{{Sfn|大場|2015|p=103}}。
=== ヒゲダコ亜目 ===
ヒゲダコ亜目(有触毛亜目) {{sname||Cirrina}} <small>Grimpe, [[1916年|1916]] ''[[sensu]]'' [[w:Felley|Felley]] ''et al.'', [[2001年|2001]]</small>
* {{Sname||Cirroctopodidae}} - 1属4種
* [[ヒゲダコ科]] {{sname||Cirroteuthidae}} - 3属6種
* [[ジュウモンジダコ属]] {{sname||Grimpoteuthididae}} - [[ジュウモンジダコ]]等3属20種
* [[メンダコ科]] {{sname||Opisthoteuthidae}} - [[メンダコ]]等1属20種


また、[[ヒカリジュウモンジダコ]] {{Snamei||Stauroteuthis syrtensis}} では雌雄ともに吸盤が発光するという報告がある{{Sfn|奥谷|2013|p=15}}{{Sfn|大場|2015|p=102}}。刺激により、比較的明るい青緑色(最大波長 470 nm)の発光を行う{{Sfn|Johnsen ''et al.''|1999|pp=113–114}}{{Sfn|大場|2015|p=102}}。光は1–2秒おきに点滅したり、5分間発光し続けるこおが観察されている{{Sfn|大場|2015|p=102}}。雌雄ともに発光するのはタコで唯一である{{Sfn|大場|2015|p=102}}。
=== マダコ亜目 ===
マダコ亜目(無触毛亜目) {{sname||Incirrina}} <small>Grimpe, [[1916年|1916]] ''[[sensu]]'' Felley ''et al.'', [[2001年|2001]]</small>
* マダコ上科 {{Sname|Octopodoidea}}
** クラゲダコ科 {{Sname||Amphitretidae}} - [[クラゲダコ属]][[クラゲダコ]]、[[スカシダコ属]][[スカシダコ]]等5属7種
** [[マダコ科]] {{sname||Octopodidae}} - [[マダコ]]、[[ミズダコ]]、[[イイダコ]]、{{仮リンク|メジロダコ|en|Octopus marginatus}}、[[ヒョウモンダコ]]、[[ミミックオクトパス|ゼブラオクトパス]]、等。
* アオイガイ上科 {{Sname||Argonautoidea}}
** カンテンダコ科 {{Sname||Alloposidae}} - 1属1種 [[カンテンダコ]]
** [[アオイガイ科]] {{Sname||Argonautidae}} - 現生種は[[アオイガイ]](カイダコ)等1属4種
** アミダコ科 {{Sname||Ocythoidae}} - 1属1種 [[アミダコ]]
** [[ムラサキダコ科]] {{Sname||Tremoctopodidae}} - 1属4種 [[ムラサキダコ属]]


発光ではなく[[燐光]]を発することは底生のタコ類で知られている{{Sfn|瀧|1999|p=354}}。[[シマダコ]] {{snamei||Callistoctopus ornatus}} は刺激を受けると燐光を発することが飼育水槽下で観察された{{Sfn|瀧|1999|p=354}}。燐光細胞を持っていると考えられ、生時は淡い虹色の斑紋として現れる{{Sfn|瀧|1999|p=354}}。
== 食文化におけるタコ ==
{{節スタブ}}
タコは手近で美味な[[タンパク質]]の供給源として、世界各地の沿岸地方で食用されている。[[ユダヤ教]]では食の規定[[カシュルート]]によって、タコは食べてはいけないとされる「[[鱗]]の無い魚」に該当する。[[イスラム教]]や[[キリスト教]]の一部の教派でも類似の規定によって、タコを食べることが[[タブー|禁忌]]に触れると考えられている。
[[ヒョウモンダコ]]など小型で毒を持つ種も知られているが、これらは人間の生活に深く関わることはない。


=== アジア ===
== 分類と系統 ==
==== 日本 ====
=== 分類群名と学名 ===
一般的な分類体系では、タコ類は全て'''八腕形目'''(はちわんけいもく){{Sname|Octopoda}} という[[目 (分類学)|目]]に含まれる{{Sfn|佐々木|2010|p=56}}{{Sfn|池田|2020|p=16}}。目の和名は'''八腕目'''{{Sfn|瀧|1935|pp=141–145}}{{Sfn|佐々木|2010|p=54}}、'''タコ目'''{{Sfn|大場|2015|p=102}}ともされる。ただし、腕に触毛を持つ有触毛亜目を除いたタコからなる単系統群、無触毛亜目について {{Sname|Octopoda}} の名前が使われることもある{{Sfn|Kröger ''et al.''|2011}}{{Sfn|Sanchez ''et al.''|2018|ps=: e4331}}。
[[ファイル:Octopuses in Tsukiji.JPG|thumb|260px|日本の[[築地市場]]に並べられたタコ([[茹で物|茹で蛸]])]]


また、八腕形目は[[コウモリダコ目]] {{sname||Vampyromorpha}} と合わせて、[[八腕形上目]] {{Sname||Octopodiformes}}(八腕型上目、八腕形類{{Sfn|佐々木|2010|p=54}})という単系統群を構成する{{Sfn|池田|2020|p=15}}。
タコは日本の食生活に深く根付いている。[[2000年]]前後の時代<!--「近年」は「WP:DATED」に抵触。-->には[[北アフリカ]]の[[モロッコ]]からの輸入が増加し、全体の6割を超えていたが、[[乱獲]]による生物量の減少を受けてたびたび禁漁が行われ([[2003年]]9月からの8ヶ月間、等)、他産地からの輸入が増加している<ref name="科技振.blog">[http://www.kagakunavi.jp/document/show/131/news かがくナビ]([[科学技術振興機構]]ブログ)</ref>。
タコ類は多様な種が知られているが、日本では一般的に「タコ」と言えば、食用などで馴染み深い[[マダコ]]を指す場合が多い。日本人とタコの関係は古く、[[池上・曽根遺跡]]などの[[大阪府]]下の[[弥生時代]]の遺跡からは、[[蛸壺]]形の[[土器]]が複数出土している<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.kannousuiken-osaka.or.jp/zukan/station/osakawan/tako.html|title=大阪湾の生き物カタログ マダコ|publisher=大阪府立環境農林水産総合研究所|accessdate=2014-1-12}}</ref>。


=== 系統関係 ===
加熱調理されることが多く、多くの種は茹でると[[紅色|鮮紅色]]を呈する。[[料理]]では[[刺身]]、[[寿司]]、煮だこ、[[酢蛸]]、酢味噌あえ、[[おでん]]の具材などに用いられる。[[たこ焼き]]やその原形とされる[[玉子焼 (明石市)|明石焼き]]の具材としても親しまれている。また、[[瀬戸内海]]周辺地域などでは[[たこめし|蛸飯]]に供される。なお、下処理として表面のぬめりを取るために塩もみされることも多い。低カロリーで、[[タンパク質]]、特に[[タウリン]]が豊富である。また、[[亜鉛]]も多く含む。夏場のものが特に美味とされる。[[関西]]地方には、[[半夏 (仏教)|半夏]]<!--現状「半夏」は生薬「半夏」に飛び、不適当。-->{{efn|ここで言う「半夏」は[[仏教]][[専門用語|用語]]の「半夏(はんげ)」。90日にわたる[[安居|夏安居]](げあんご)の中間。45日目のことを言う。}}にタコを食べる習慣があるが、これはタウリンを補給して[[夏バテ]]を防ぐと言われる。秋口にメスの体内にある[[卵]]は[[アイボリー|象牙色]]の袋に包まれており、タコの袋児(ふくろご)と呼ばれ、[[煮る|煮付けて]]食べる。また、産卵後の卵はその形状から[[海藤花]](かいとうげ)と呼ばれ、[[塩漬け]]にする。なお、[[イカ]]の吸盤が環状に並んだ微細で鋭利な歯を持つのに対してタコの吸盤にはそれが無く、大きく肉付きも良いため、それ自体の食感が喜ばれる。この他、[[青森県]]の[[下北半島]]ではタコの内臓を茹でたものを「道具」の愛称で呼び、刺身や鍋の具などにして食べている<ref>『[[秘密のケンミンSHOW]]』の2015年2月5日放送分より。{{信頼性要検証|date=2016-01-14|title=事実確認の機能を欠く情報源}}</ref>。
分子系統解析と化石記録に基づいた、{{Harvtxt|Kröger ''et al.''|2011}} による頭足類の系統樹を示す{{Efn|ただし、{{Harvtxt|Kröger ''et al.''|2011}} では八腕形上目の学名は {{sname||Vampyropoda}}、有触毛亜目は {{sname||Cirroctopoda}}、無触毛亜目は {{Sname||Octopoda}} となっている。また下記では、近年の分子系統解析で分離されるヒメイカ目を分離している。}}。[[多分岐]]となっている部分の系統関係は解けておらず、用いるデータセットや解析方法により、様々な分岐順序の系統樹が得られている。八腕類と十腕類はそれぞれ単系統群であるが、内部の系統関係やさまざまな化石鞘形類との類縁関係は十分に理解されていない。
{{Clade
|label1=[[頭足綱]]
|sublabel1={{Sname||Cephalopoda}}
|1={{Clade
|1=[[絶滅|†]][[エレスメロケラス目]] {{Sname||Ellesmerocerida}}
|2=†[[オンコケラス目]] {{Sname||Oncocerida}}
|3={{Clade
|label1=[[オウムガイ亜綱]]
|sublabel1={{sname||Nautloidea}}
|1=[[オウムガイ目]] {{sname||Nautilida}}
|2={{clade
|1=†[[直角石目]] {{sname||Orthocerida}}
|2={{clade
|1=†[[アンモナイト亜綱]] {{sname||Ammonoidea}}
|2={{clade
|1=†[[バクトリテス目]] {{sname||Bactritida}}
|2=†{{sname||Hematitida}}
|3=†{{sname||Donovaniconida}}
|4=†{{sname||Aulacocerida}}
|label5=[[鞘形亜綱]]
|sublabel5={{Sname||Coleoidea}}
|5={{clade
|label1=[[八腕形上目]]
|sublabel1={{Sname||Octopodiformes}}
|1={{clade
|1=[[コウモリダコ目]] {{sname||Vampyromorpha}}
|label2='''八腕形目'''
|sublabel2={{sname||Octopoda}}
|2={{clade
|1=[[有触毛亜目]] {{sname||Cirrata}}
|2=[[無触毛亜目]] {{Sname||Incirrata}}
}}
}}
|2=†[[フラグモテウチス目]] {{sname||Phragmoteuthida}}
|3=†[[ベレムナイト目]] {{sname||Belemnitida}}
|4=†{{Sname||Diplobelida}}
|label5=[[十腕形上目]]
|sublabel5={{sname||Decabrachia}}
|5={{clade
|1=[[開眼目]] {{sname||Oegopsida}}
|2=[[閉眼目]] {{sname||Myopsida}}
|3=[[コウイカ目]] {{Sname||Sepiida}}
|4=[[ダンゴイカ目]] {{Sname||Sepolida}}
|5=[[ヒメイカ目]] {{Sname||Idiosepiida}}
|6=[[トグロコウイカ目]] {{Sname||Spirulida}}
}}
}}
}}
}}
}}
}}
}}
}}


=== 下位分類 ===
タコの繊維は切れやすく、茹でる前に[[ダイコン]]で叩いたり[[日本酒]]に漬けておくと茹でた後も柔らかいままとなる。また、茹でる際[[茶葉]]をひとつまみ入れると臭みがとれるとされている<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.hakatanoshio.co.jp/contents/recommended-recipe/page_532.html|title=蛸(たこ)のゆで方|publisher=伯方塩業|accessdate=2017-1-6}}</ref>。
現生種は'''有触毛亜目'''と'''無触毛亜目'''の2亜目に大別される{{Sfn|佐々木|2010|p=56}}<ref>{{cite web|url=http://www.marinespecies.org/aphia.php?p=taxdetails&id=11718|title=Octopoda in WoRMS|accessdate=2014-1-12}}</ref>。250種{{Sfn|池田|2020|p=17}}から300種類を超えるタコが見つかっているが、未記載種も多く{{Sfn|土屋|2002|p=87}}、約半数は分類が確定していない{{Sfn|小野|2013|p=179}}。


以下、{{Harvtxt|Sanchez ''et al.''|2018}} による分子系統樹を示す。
==== 日本以外の東アジア、東南アジア ====
{{Clade
[[大韓民国|韓国]]<!--北も含み「朝鮮」ではないの?-->、[[タイ王国|タイ]]では日常的な食材である。特に、[[テナガダコ]](Octopus minor)を生きたままぶつ切りにし、塩と[[ごま油|胡麻油]]および[[ゴマ|胡麻]]と和えて[[踊り食い]]にする[[サンナクチ]]({{lang-ko-short|산낙지}}(語義:活きたテナガダコ)、{{lang-en-short|sannakji}})は有名である。[[台湾]]や[[中華人民共和国|中国]]で消費されるタコは、大部分が現地の日本料理店や朝鮮料理店の食材であり、[[中華料理]]の伝統食に蛸料理は無い。
|label1=八腕形目
|sublabel1={{Sname||Octopoda}}
|1={{clade
|1={{Clade
|1={{clade
|barbegin1=black
|barlabel1= 有触毛亜目 {{sname||Cirrata}}
|1=[[ヒゲダコ科]] {{sname||Cirroteuthidae}}
|2={{sname||Stauroteuthidae}}
|barend2=black
}}}}
|2={{clade
|1={{clade
|barbegin1=black
|barlabel1= 有触毛亜目 {{sname||Cirrata}}
|1=[[メンダコ科]] {{sname||Opisthoteuthidae}}
|2={{sname||Cirroctopodidae}}
|barend2=black
}}
|label2=無触毛亜目
|sublabel2={{Sname||Incirrata}}
|2={{clade
|1={{sname||Eledonidae}}
|2={{clade
|1={{clade
|barbegin1=green
|barlabel1=[[アオイガイ上科]] {{Sname||Argonautoidea}}
|barend2=green
|1=[[ムラサキダコ科]] {{Sname||Tremoctopodidae}}
|2=[[カンテンダコ科]] {{Sname||Alloposidae}}
}}
|2={{clade
|1={{clade
|1=[[フクロダコ科]] {{Sname||Bolitaenidae}}
|2={{clade
|1=[[スカシダコ科]] {{sname||Vitreledonellidae}}
|2=[[クラゲダコ科]] {{Sname||Amphitretidae}}
}}
}}
|2={{clade
|1={{Sname||Megaleledonidae}}
|2={{clade
|1=[[マダコ科]] {{sname||Octopodidae}}
|2={{clade
|1={{clade
|barbegin1=blue
|barlabel1="Megaleledonidae"
|barend2=blue
|1={{Snamei||Velodona}}
|2={{Snamei||Thaumeledone}}
}}
|2={{clade
|1={{sname||Bathypolypodidae}}
|2={{clade
|1=[[ミズダコ科]] {{sname||Enteroctopodidae}}
|2={{clade
|barbegin1=green
|barlabel1=[[アオイガイ上科]] {{Sname||Argonautoidea}}
|barend2=green
|1=[[アミダコ科]] {{Sname||Ocythoidae}}
|2=[[アオイガイ科]] {{Sname||Argonautidae}}
}}
}}
}}
}}
}}
}}
}}
}}
}}
}}
}}
}}


==== 有触毛亜目 ====
なお、中国や[[ベトナム]]は、乱獲によって漁獲量を減らしたモロッコに替わって日本向けの漁獲量を増やしている<ref name="科技振.blog"/>。
[[File:Expn3476.jpg|thumb|250px|水深3,874 m から見つかった[[ヒゲナガダコ]] {{snamei||Cirrothauma murrayi}}([[ヒゲダコ属]])]]
[[File:Opisthoteuthis depressa Sunshine3.jpg|thumb|250px|[[メンダコ]] {{Snamei||Opisthoteuthis depressa}}([[メンダコ属]])]]
'''有触毛亜目'''{{Sfn|佐々木|2010|p=56}}は、有触毛類{{Sfn|瀧|1970|pp=72–73}}、有毛亜目{{Sfn|瀧|1935|pp=141–145}}、触毛亜目{{Sfn|瀧|1999|p=374}}{{small|または}}有鰭亜目{{Sfn|池田|2020|p=16}}ともよばれ、腕に吸盤だけでなく触毛の列を持つ特徴がある{{Sfn|佐々木|2010|p=56}}。何れも[[深海]]棲で、寒天質の体からなる{{Sfn|佐々木|2010|p=56}}。[[分子系統解析]]の結果、有触毛亜目は側系統群であることが示唆されている{{Sfn|Sanchez ''et al.''|2018|ps=: e4331}}。学名は研究者によりさまざまなものが用いられる。{{Harvtxt|瀧|1935}}、{{Harvtxt|土屋|2002}} や {{Harvtxt|佐々木|2010}} では、{{sname||Cirrata}} {{small|{{AUY|Grimpe|1916}}}} が用いられる。{{Harvtxt|Strugnell ''et al.''|2013}} でも {{sname||Cirrata}} の学名が用いられるが、階級は目に置かれる。{{Harvtxt|Sanchez ''et al.''|2018}} では目の階級に置かれ、{{Sname||Cirromorphida}} という学名が用いられる。{{Harvtxt|Kröger ''et al.''|2011}} では {{Sname||Cirroctopoda}} {{small|{{AUY|Young|1989}}}} が用いられる。


以下、科や属は {{Harvtxt|Sanchez ''et al.''|2018}} に基づく。学名の[[著者名の引用 (動物学)|著者]]等は {{Harvtxt|Norman ''et al.''|2016}} に基づく。
==== インド、中東 ====
[[File:Coucous au poulpe, Sayada, Tunisia.jpg|thumb|250px|[[チュニジア]]のタコの[[クスクス]]]]
[[インド]]ではタコを食べる文化は無い。[[ユダヤ教]]ではタコなど軟体動物を食べることが禁じられているため、[[イスラエル]]ではタコは食べない。[[イスラム圏]]では[[モルディブ]]、[[チュニジア]]、[[トルコ]]などでタコが食べられている。


;[[有触毛亜目]] {{sname||Cirrata}} {{small|{{AUY|Grimpe|1916}}}}(側系統であることが示唆されている{{Sfn|Sanchez ''et al.''|2018|ps=: e4331}})
=== ヨーロッパ ===
* {{Sname||Stauroteuthidae}} {{Small|{{AUY|Grimpe|1916}}}}{{Efn|かつてジュウモンジダコ科と呼ばれたが{{Sfn|瀧|1999|p=374}}{{Sfn|佐々木|2010|p=56}}、ジュウモンジダコが別属に移されて {{Snamei||Grimpoteuthis hippocrepium}} となり、[[ジュウモンジダコ属]]は {{snamei||Grimpoteuthis}} を指す和名となった。}}
[[ファイル: Naxos port4.JPG|thumb|[[ナクソス島|ナクソス港]]の店先に吊されたタコ]]
** {{Snamei||Stauroteuthis}} {{Small|{{AUY|Verrill|1879}}}} - [[ヒカリジュウモンジダコ]] {{Snamei|en|Stauroteuthis syrtensis|S. syrtensis}}{{Sfn|大場|2015|p=102}}<ref>{{Cite web|和書|url=https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/23/062100310/|title=映画『リトル・マーメイド』の魔女はタコ? イカ? 真剣に考えた|date=2023-06-23|website=ナショナル ジオグラフィック 日本版|accessdate=2024-08-05}}</ref>{{Efn|{{Harvtxt|瀧|1999}} ではこの種が「ジュウモンジダコ」と呼ばれた{{Sfn|瀧|1999|p=374}}。}}
[[ファイル:Octopus and Ouzo.jpg|thumb|タコの脚を使った[[メゼ]]と[[ウーゾ]]]]
* [[ヒゲダコ科]]{{Sfn|窪寺|2017|p=1143}}{{Sfn|佐々木|2010|p=56}}(ヒゲナガダコ科{{Sfn|瀧|1999|p=374}}) {{sname||Cirroteuthidae}} {{Small|{{AUY|Keferstein|1866}}}}
南欧・地中海沿岸地域([[スペイン]]、[[イタリア]]、[[ポルトガル]]、[[ギリシア]]、[[プロヴァンス]]地方など[[フランス]]南部の一部)ではタコを伝統的な食品としている。ギリシア等の正教徒の多い地域の場合、[[東方正教会]]では[[正教会#斎(ものいみ)について|斎]]の間は肉を、[[大斎]]の際には魚をも食べるのを禁じてきたが、タコや[[イカ]]、貝類などは問題が無いとされてきたため、これらを使った伝統料理が多い。東地中海では[[メゼ]]としてグリルしたタコの足が出される。
** [[ヒゲダコ属]]{{Sfn|佐々木|2010|p=250}} {{Snamei||Cirrothauma}} {{Small|{{AUY|Chun|1911}}}} - [[ヒゲナガダコ]] {{Snamei|en|Cirrothauma murrayi|C. murrayi}}{{Sfn|土屋|2002|p=135}}
** {{snamei||Cirroteuthis}} {{Small|{{AUY|Eschricht|1836}}}}
* [[メンダコ科]]{{Sfn|窪寺|2017|p=1144}}{{Sfn|佐々木|2010|p=56}} {{sname||Opisthoteuthidae}} {{Small|{{AUY|Verrill|1896}}}}
** [[メンダコ属]] {{Snamei||Opisthoteuthis}} {{Small|{{AUY|Verrill|1883}}}} - [[メンダコ]] {{Snamei|en|Opisthoteuthis depressa|O. depressa}}、[[オオメンダコ]] {{Snamei|en|Opisthoteuthis californiana|O. californiana}}、[[センベイダコ]] {{Snamei|en|Opisthoteuthis japonica|O. japonica}}、[[オオクラゲダコ]] {{Snamei|en|Opisthoteuthis albatrossi|O. albatrossi}}{{Sfn|窪寺|2017|p=1144}}{{Sfn|土屋|2002|p=135}}
** [[ジュウモンジダコ属]] {{snamei||Grimpoteuthis}} {{Small|{{AUY|Verrill|1883}}}} - [[ジュウモンジダコ]] {{Snamei|en|Grimpoteuthis hippocrepium|G. hippocrepium}}{{Sfn|窪寺|2017|p=1144}}
** {{Snamei||Luteuthis}} {{Small|{{AUY|O'Shea|1999}}}}
* {{Sname||Cirroctopodidae}} {{Small|{{AU|Collins}} & {{AUY|Villanueva|2008}}}}
** {{Snamei||Cirroctopus}} {{Small|{{AUY|Naef|1923}}}}

==== 無触毛亜目 ====
[[File:Japetella diaphana2.jpg|thumb|300px|[[ナツメダコ]] {{snamei||Japetella diaphana}}([[フクロダコ科]])]]
[[File:Enteroctopus dolfeini.jpg|thumb|300px|[[カリフォルニア州]]の海中に生息する[[ミズダコ]] {{Snamei||Enteroctopus dolfeini}}([[ミズダコ科]])]]
[[File:Octopus (Graneledone boreopacifica) Monterey Bay National Marine Sanctuary (43101889980).jpg|thumb|300px|水深1,972 m で発見された[[ホクヨウイボダコ]] {{snamei||Graneledone boreopacifica}}([[イボダコ属]])]]
[[File:Eledone schultzei.jpg|thumb|300px|{{snamei||Eledone schultzei}}([[ジャコウダコ属]])]]
'''無触毛亜目'''{{Sfn|佐々木|2010|p=56}}{{Sfn|瀧|1999|p=374}}は、無触毛類{{Sfn|瀧|1970|pp=72–73}}、無毛亜目{{Sfn|瀧|1935|pp=141–145}}{{small|または}}無鰭亜目{{Sfn|池田|2020|p=16}}ともよばれ、腕に触毛を持たない{{Sfn|佐々木|2010|p=56}}。普通目にするタコは無触毛亜目の[[マダコ科]]に属するものが殆どである{{Sfn|佐々木|2010|p=56}}。[[上部白亜系]]の[[ムカシダコ]]{{Sfn|瀧|1970|pp=72–73}} {{snamei||Palaeoctopus}} は無触毛亜目の側系統群とされる{{Sfn|Sutton ''et al.''|2016|pp=297–307}}。{{Harvtxt|瀧|1935}}、{{Harvtxt|土屋|2002}} や {{Harvtxt|佐々木|2010}} では、{{sname||Incirrata}} {{small|{{AUY|Grimpe|1916}}}} が用いられる。{{Harvtxt|Strugnell ''et al.''|2013}} でも {{sname||Incirrata}} の学名が用いられるが、階級は目に置かれる。{{Harvtxt|Kröger ''et al.''|2011}} では {{Sname||Octopoda}} が用いられる。{{Harvtxt|Sanchez ''et al.''|2018}} でも目の階級に置かれ、{{Sname||Octopodida}} という学名が用いられる。

以下、科や属は {{Harvtxt|Strugnell ''et al.''|2013}}、{{Harvtxt|Sanchez ''et al.''|2018}} および {{Harvtxt|Leite ''et al.''|2021}} に基づく。学名の[[著者名の引用 (動物学)|著者]]等は {{Harvtxt|Norman ''et al.''|2016}} に基づく。

;[[無触毛亜目]] {{sname||Incirrata}} {{small|{{AUY|Grimpe|1916}}}}
* [[マダコ上科]] {{Sname|Octopodoidea}} {{Small|{{AUY|d'Orbigny|1839}}}}
** [[フクロダコ科]]{{Sfn|窪寺|2017|p=1144}} {{Sname||Bolitaenidae}} {{Small|{{AUY|Chun|1911}}}}
*** {{Snamei||Bolitaena}} {{Small|{{AUY|Steenstrup|1859}}}} (={{Snamei||Eledonella}}) - [[イイジマフクロダコ]](サヤナガフクロダコ{{Sfn|瀧|1999|p=377}}) {{Snamei|en|Bolitaena pygmaea|B. pygmaea}}{{Efn|フクロダコ{{Sfn|瀧|1999|p=377}} {{snamei|Bolitaena microcotyla}} はシノニム<ref>{{Cite web|url=https://www.marinespecies.org/aphia.php?p=taxdetails&id=1259152|title=''Bolitaena microcotyla'' Steenstrup, 1886|website=WoRMS|accessdate=2024-08-09}}</ref>。}}
*** {{Snamei||Japetella}} {{Small|{{AUY|Hoyle|1885}}}} - [[ナツメダコ]]{{Sfn|瀧|1999|p=377}} {{Snamei|en|Japetella diaphana|J. diaphana}}
** [[スカシダコ科]] {{Sname||Vitreledonellidae}} {{Small|{{AUY|Robson|1932}}}}
*** [[スカシダコ属]] {{Snamei||Vitreledonella}} {{Small|{{AUY|Joubin|1918}}}} - [[スカシダコ]] {{Snamei|en|Vitreledonella richardi|V. richardi}}
** [[クラゲダコ科]]{{Sfn|窪寺|2017|p=1144}} {{Sname||Amphitretidae}} {{Small|{{AUY|Hoyle|1886}}}}{{Efn|{{Harvtxt|Strugnell ''et al.''|2013}} ではスカシダコ科、フクロダコ科を内包する。}}
*** [[クラゲダコ属]] {{snamei||Amphitretus}} {{Small|{{AUY|Hoyle|1885}}}} - [[クラゲダコ]] {{Snamei|en|Amphitretus pelagicus|A. pelagicus}}{{Sfn|窪寺|2017|p=1144}}、[[テナガヤワラダコ]] "{{Snamei|en|Idioctopus gracilipes|I. gracilipes}}"{{Efn|[[テナガヤワラダコ科]] {{sname||Idioctopodidae}} {{Small|{{AUY|Iw.Taki|1962}}}} [[テナガヤワラダコ属]] {{snamei||Idioctopus}} {{Small|{{AUY|Iw.Taki|1962}}}} を内包し、クラゲダコとテナガヤワラダコは同種とされることもある<ref>{{Cite web|url=https://marinespecies.org/urmo/aphia.php?p=taxdetails&id=341433|title=''Idioctopus'' Iw. Taki, 1962|website=UNESCO-IOC Register of Marine Organisms (URMO)|accessdate=2024-08-27}}</ref>。}}
** [[マダコ科]]{{Sfn|窪寺|2017|p=1145}} {{sname||Octopodidae}} {{Small|{{AUY|d'Orbigny|1840}}}}
*** [[マダコ属]] {{Snamei||Octopus}} {{Small|{{AUY|Cuvier|1797}}}} - [[マダコ]] {{Snamei|en|Octopus sinensis|O. sinensis}}、{{Snamei|ja|Octopus vulgaris|O. vulgaris}}、[[マヤダコ]] {{Snamei|en|Octopus maya|O. maya}}、[[シドニーダコ]] {{snamei|en|Octopus tetricus|O. tetricus}}{{Efn|かつては[[イイダコ]]や[[テナガダコ]]など、本項で[[マダコ科]]とされる属の多くがマダコ属に含まれ、本項ではミズダコ科に置かれる[[ミズダコ]]でさえこの属に入れられていたが、分子系統解析の結果[[多系統]]であることが明らかとなった{{Sfn|Norman ''et al.''|2016|p=40}}。そのため分割され、{{Harvtxt|Norman ''et al.''|2016}} などでは、マダコ近縁種群のみを含む属として扱われる{{Sfn|Norman ''et al.''|2016|p=40}}。しかし、このように取り扱うと、分子データのない種がどの属に含まれるか分からないため、{{Harvtxt|Norman ''et al.''|2016}} では所属不明の旧マダコ属を {{Snamei|'Octopus'}} と表記している{{Sfn|Norman ''et al.''|2016|p=40}}。}}
*** {{Snamei||Amphioctopus}} {{Small|{{AUY|Fischer|1882}}}} - [[イイダコ]] {{Snamei|en|Amphioctopus fangsiao|A. fangsiao}}、[[イイダコモドキ]] {{Snamei|en|Amphioctopus ovulum|A. ovulum}}、[[ヨツメダコ]] {{Snamei|en|Amphioctopus areolatus|A. areolatus}}、[[スナダコ]] {{Snamei|en|Amphioctopus kagoshimensis|A. kagoshimensis}}、[[メジロダコ]] {{Snamei|en|Amphioctopus marginatus|A. marginatus}}{{Sfn|吉郷|2024|pp=36–43}}
*** [[ヒョウモンダコ属]]{{Sfn|瀧|1999|p=378}} {{Snamei||Hapalochlaena}} {{Small|{{AUY||}}}} - [[ヒョウモンダコ]] {{Snamei|en|Hapalochlaena fasciata|H. fasciata}}{{Sfn|瀧|1999|p=379}}、[[オオマルモンダコ]] {{Snamei|en|Hapalochlaena lunulata|H. lunulata}}{{Sfn|瀧|1999|p=378}}{{Sfn|土屋|2002|p=136}}、[[オオマルモンダコ]] {{Snamei|en|Hapalochlaena maculosa|H. maculosa}}{{Sfn|瀧|1999|p=378}}
*** {{Snamei||Ameloctopus}} {{Small|{{AUY|Norman|1992}}}}
*** {{Snamei||Cistopus}} {{Small|{{AUY|[[ジョン・エドワード・グレイ|Gray]]|1849}}}} - [[インドダコ]] {{Snamei|en|Cistopus indicus|C. indicus}}{{Sfn|瀧|1999|p=378}}
*** [[カクレダコ属]]{{Sfn|金子|窪寺|2007|pp=38–43}} {{Snamei||Abdopus}} {{Small|{{AU|Norman}} & {{AUY|Finn|2001}}}} - [[カクレダコ]] {{snamei|en|Abdopus abaculus|A. abaculus}}{{Sfn|金子|窪寺|2007|pp=38–43}}、[[ウデナガカクレダコ]] {{Snamei|en|Abdopus aculeatus|A. aculeatus}}{{Sfn|金子|窪寺|2007|pp=38–43}}
*** {{Snamei||Macrotritopus}} {{Small|{{AUY|Grimpe|1922}}}} - {{Snamei|en|Macrotritopus defilippi|M. defilippi}}
*** {{Snamei||Thaumoctopus}} {{Small|{{AU|Norman}} & {{AUY|Hochberg|2005}}}} - [[ミミックオクトパス]] {{snamei|en|Thaumoctopus mimicus|T. mimicus}}{{Sfn|窪寺|2017|p=1148}}
*** {{Snamei||Wunderpus}} {{Small|{{AU|Hochberg}}, {{AU|Norman}} & {{AUY|Finn|2006}}}} - [[ワンダーパス]]{{Sfn|カレッジ|2014|p=86}}(ワンダーパス・オクトパス{{Sfn|窪寺|峯水|2014|p=247}}) {{snamei|en|Wunderpus photogenicus|W. photogenicus}}
*** {{Snamei||Grimpella}} {{Small|{{AUY|Robson|1928}}}}
*** [[シマダコ属]]{{Sfn|瀧|1999|p=379}}(テナガダコ属{{Sfn|倉持|倉持|2019|pp=110–112}}) {{Snamei||Callistoctopus}} {{Small|{{AUY|Iw.Taki|1964}}}} - [[サメハダテナガダコ]] {{Snamei|en|Callistoctopus luteus|C. luteus}}、[[シマダコ]] {{Snamei|en|Callistoctopus ornatus|C. ornatus}}、[[ヒラオリダコ]] {{Snamei|en|Callistoctopus aspilosomatis|C. aspilosomatis}}{{Sfn|池田|2020|p=127}}、[[テナガダコ]] {{Snamei|en|Octopus minor|C. minor}}{{Efn|{{Harvtxt|Norman ''et al.''|2016}} では{{Snamei|'Octopus' minor}} とされる。}}、[[テギレダコ]] {{Snamei|en|Callistoctopus mutilans|C. mutilans}}{{Sfn|吉郷|2024|pp=36–43}}{{Efn|テギレダコは {{Harvtxt|土屋|2002}} ではカクレダコ属 {{snamei||Abdopus}} に含められ、{{Snamei|Abdopus mutilans}} とされた。{{Harvtxt|Norman ''et al.''|2016}} では {{Snamei|'Octopus' mutilans}} とされる{{Sfn|Norman ''et al.''|2016|p=213}}。}}、[[タイセイヨウテナガダコ]] {{snamei|en|Callistoctopus macropus|C. macropus}}
*** {{Snamei||Paroctopus}} {{Small|{{AUY|Naef|1923}}}} - [[ヤナギダコ]] {{Snamei|en|Paroctopus conispadiceus|P. conispadiceus}}、[[オオメダコ]] {{snamei|en|Paroctopus megalops|P. megalops}}{{Efn|かつてミズダコは {{snamei|Paroctopus}} に分類されたため、この属がミズダコ属と呼ばれたこともある{{Sfn|瀧|1999|p=378}}。}}
*** {{Snamei||Robsonella}} {{Small|{{AUY|Adam|1938}}}}
*** {{Snamei||Macroctopus}} {{Small|{{AUY|Robson|1928}}}}
*** [[イッカクダコ属]]{{Sfn|瀧|1999|p=378}} {{Snamei||Scaeurgus}} {{Small|{{AUY|Troschel|1857}}}} - [[イッカクダコ]] {{Snamei|en|Scaeurgus patagiatus|S. patagiatus}}{{Sfn|窪寺|2017|p=1149}}{{Efn|{{Harvtxt|瀧|1999}} ではイッカクダコは {{Snamei||Scaeurgus unicirrhus}} とされた{{Sfn|瀧|1999|p=378}}。}}
*** {{Snamei||Grimpella}} {{Small|{{AUY|Robson|1928}}}}
*** {{Snamei|'Octopus'}} - かつてはマダコ属とされたが、マダコ近縁種ではない種を表現するために {{Harvtxt|Norman ''et al.''|2016}} などにより行われている便宜的な表記。[[ワモンダコ]] {{Snamei|en|Octopus cyanea|'O.' cyanea}}{{Sfn|Norman ''et al.''|2016|p=196}}、[[アナダコ]] {{Snamei|en|Octopus oliveri|'O.' oliveri}}{{Sfn|Norman ''et al.''|2016|p=213}}、[[マメダコ]] {{Snamei|en|Octopus parvus|'O.' parvus}}{{Sfn|Norman ''et al.''|2016|p=214}}、[[アマダコ]] {{snamei|en|Octopus hongkongensis|'O.' hongkongensis}}{{Sfn|Norman ''et al.''|2016|p=210}}、[[クモダコ]] {{Snamei|en|Octopus longispadiceus|'O.' longispadiceus}}{{Sfn|Gleadall|2004|pp=99–112}}
** [[ミズダコ科]]{{Sfn|吉郷|2024|pp=36–43}} {{Sname||Enteroctopodidae}} {{Small|{{AUY|Strugnell ''et al.''|2013}}}}{{efn|旧来マダコ科に含まれていたが、{{Harvtxt|Strugnell ''et al.''|2013}} により独立させられた{{Sfn|吉郷|2024|pp=36–43}}。}}
*** [[ミズダコ属]] {{Snamei||Enteroctopus}} {{Small|{{AU|Rochebrune}} & {{AUY|Mabille|1889}}}} - [[ミズダコ]] {{Snamei|en|Enteroctopus dofleini|E. dofleini}}
*** {{Snamei||Muusoctopus}} {{Small|{{AUY|Gleadall|2004}}}}([[チヒロダコ属]] ={{Snamei||Benthoctopus}}) - [[チヒロダコ]] {{Snamei|en|Muusoctopus profundorum|M. profundorum}}、[[エゾダコ]] {{Snamei|en|Muusoctopus hokkaidensis|M. hokkaidensis}}{{Efn|[[スミレダコ]]{{Sfn|窪寺|2017|p=1150}}{{Sfn|土屋|2002|p=136}} {{Snamei|en|Benthoctopus violescens|B. violescens}} はエゾダコの[[新参異名]](ジュニアシノニム){{Sfn|Gleadall ''et al.''|2010|pp=528–553}}。}}、[[クロダコ]] {{Snamei|en|Muusoctopus fuscus|M. fuscus}}、[[キシュウチヒロダコ]] {{snamei|en|Muusoctopus abruptus|M. abruptus}}
*** {{Snamei||Vulcanoctopus}} {{Small|{{AUY|González ''et al.''|1998}}}} - [[ボルケーノ・オクトパス]]{{Sfn|窪寺|峯水|2014|p=247}}(ウルカノクトプス・ヒュドロテルマリス{{Sfn|カレッジ|2014|p=21}}) {{snamei|en|Vulcanoctopus |V. hydrothermalis}}
*** {{Snamei||Sasakiopus}} {{Small|{{AUY|Jorgensen|2009}}}} - [[ワタゾコダコ]] {{Snamei|en|Sasakiopus salebrosus|S. salebrosus}} 1種
** {{sname||Bathypolypodidae}} {{Small|{{AUY|G. C. Robson|1929}}}}
*** {{Snamei||Bathypolypus}} {{small|{{AUY|Grimpe|1921}}}} - [[ホッキョクワタゾコダコ]] {{Snamei|en|Bathypolypus arcticus|B. arcticus}}{{Sfn|窪寺|峯水|2014|p=256}}、[[コシキワタゾコダコ]] {{Snamei|en|Bathypolypus validus|B. validus}}{{Sfn|土屋|2002|p=136}}{{Efn|ただし、{{Harvtxt|Norman ''et al.''|2016}} では、[[佐々木望 (動物学者)|佐々木望]]の記載したコシキワタゾコダコ {{Snamei|Polypus validus}} {{Small|{{AUY|[[佐々木望 (動物学者)|Sasaki]]|1920}}}}(={{Snamei||Bathypolypus validus}} ({{Small|{{AUY|[[佐々木望 (動物学者)|Sasaki]]|1920}}}})) は系統関係が不明とされている。}}{{Efn|ワタゾコダコ {{Snamei||Sasakiopus salebrosus}} が {{Snamei||Bathypolypus}} 属に所属していたときは、本属がワタゾコダコ属と呼ばれた{{Sfn|瀧|1999|p=379}}。}}
** {{Sname||Megaleledonidae}} {{Small|{{AUY|Iw.Taki|1961}}}}(多系統であることが示唆されている{{Sfn|Sanchez ''et al.''|2018|ps=: e4331}})
*** [[オオイチレツダコ属]]{{Sfn|窪寺|奥谷|1993|pp=70–71}}(オオヒトエダコ属{{Sfn|瀧|1999|p=379}}) {{snamei||Megaleledone}} {{Small|{{AUY|Iw.Taki|1961}}}}
*** {{Snamei||Adelieledone}} {{Small|{{AU|Allcock}}, {{AU|Hochberg}}, {{AU|Rodhouse}} & {{AUY|Thorpe|2003}}}}
*** [[ナンキョクイチレツダコ属]]{{Sfn|窪寺|奥谷|1993|pp=70–71}} {{Snamei||Pareledone}} {{Small|{{AUY|Robson|1932}}}} - [[パレレドネ・トゥルクエティ]] {{Snamei|en|Pareledone turqueti|P. turqueti}}{{Sfn|カレッジ|2014|p=21}}
*** {{Snamei||Praealtus}} {{Small|{{AU|Allcock}}, {{AU|Collins}}, {{AU|Piatkowski}} & {{AUY|Vecchione|2004}}}}
*** [[イボダコ属]]{{Sfn|窪寺|奥谷|1993|pp=70–71}} {{Snamei||Graneledone}} {{Small|{{AUY|Joubin|1918}}}} - [[ホクヨウイボダコ]] {{snamei|en|Graneledone boreopacifica|G. boreopacifica}}、[[サンリクイボダコ]]{{Sfn|窪寺|2017|p=1150}}
*** {{Snamei||Thaumeledone}} {{Small|{{AUY|Robson|1930}}}}(科を構成するほかの属とは異なる系統で、{{Snamei||Velodona}} と姉妹群をなすことが示唆されている{{Sfn|Sanchez ''et al.''|2018|ps=: e4331}})
*** {{Snamei||Velodona}} {{Small|{{AUY|Chun|1915}}}}(科を構成するほかの属とは異なる系統で、{{Snamei||Thaumeledone}} と姉妹群をなすことが示唆されている{{Sfn|Sanchez ''et al.''|2018|ps=: e4331}})
** [[ジャコウダコ科]]{{Sfn|守安|1984|pp=189–192}} {{Sname||Eledonidae}} {{Small|{{AUY|Rochebrune|1884}}}}
*** [[ジャコウダコ属]]<ref>{{Cite report|和書|url=https://openjicareport.jica.go.jp/pdf/11130713_01.pdf |title=トルコ共和国水産資源調査報告書|date=1993-11|publisher=[[国際協力事業団]]|accessdate=2024-08-07}}</ref> {{snamei||Eledone}} {{Small|{{AUY|[[:en:William Elford Leach|Leach]]|1817}}}} - [[ジャコウダコ]] {{Snamei|en|Eledone moschata|E. moschata}}、[[イチレツダコ]] {{snamei|en|Eledone cirrhosa|E. cirrhosa}}{{Sfn|守安|1984|pp=189–192}}
*** {{Snamei||Aphrodoctopus}} {{Small|{{AU|Roper}} & {{AUY|Mangold|1992}}}}{{Efn|{{Harvtxt|Strugnell ''et al.''|2013}} の解析に含まれるが、{{Harvtxt|Norman ''et al.''|2016}} では {{snamei||Eledone}} に内包される{{Sfn|Norman ''et al.''|2016|p=37}}。}}
* [[アオイガイ上科]] {{Sname||Argonautoidea}} {{Small|{{AUY|Cantraine|1841}}}}(側系統であることが示唆されている{{Sfn|Sanchez ''et al.''|2018|ps=: e4331}})
** [[アオイガイ科]]{{Sfn|佐々木|2010|p=56}}(カイダコ科{{Sfn|窪寺|2017|p=1150}}) {{Sname||Argonautidae}} {{Small|{{AUY|Tryon|1879}}}}
*** [[アオイガイ属]](カイダコ属){{snamei||Argonauta}} {{Small|{{AUY|Linnaeus|1758}}}} - [[アオイガイ]] {{snamei|en|Argonauta argo|A. argo}}、[[タコブネ]] {{snamei|en|Argonauta hians|A. hians}}、[[チヂミタコブネ]] {{snamei|en|Argonauta boettgeri|A. boettgeri}}{{Sfn|土屋|2002|p=136}}{{Efn|{{Harvtxt|Norman ''et al.''|2016}} では {{snamei||Argonauta boettgeri}} は {{snamei|A. hians}} のシノニムとされる{{Sfn|Norman ''et al.''|2016|p=232}}。}}
** [[アミダコ科]]{{Sfn|窪寺|2017|p=1150}}{{Sfn|佐々木|2010|p=56}} {{Sname||Ocythoidae}} {{Small|{{AUY|[[ジョン・エドワード・グレイ|Gray]]|1849}}}}
*** [[アミダコ属]] {{Snamei||Ocythoe}} {{Small|{{AUY|Rafinesque|1814}}}} - [[アミダコ]] {{Snamei|en|Ocythoe tuberculata|O. tuberculata}} 1種{{Sfn|土屋|2002|p=136}}
** [[カンテンダコ科]]{{Sfn|窪寺|2017|p=1150}} {{Sname||Alloposidae}} {{Small|{{AUY|Verrill|1881}}}} (={{Sname||Haliphronidae}}{{Sfn|窪寺|2017|p=1150}} {{Small|{{AUY|Hochberg ''et al.''|1992}}}})
*** [[カンテンダコ属]]{{Sfn|窪寺|2017|p=1150}} {{Snamei||Haliphron}} {{Small|{{AUY|Steenstrup|1859}}}} (={{snamei||Alloposus}}) - [[カンテンダコ]] {{Snamei|en|Haliphron atlanticus|H. atlanticus}} 1種
** [[ムラサキダコ科]]{{Sfn|窪寺|2017|p=1150}}{{Sfn|佐々木|2010|p=56}} {{Sname||Tremoctopodidae}} {{Small|{{AUY|Tryon|1879}}}}
*** [[ムラサキダコ属]] {{snamei||Tremoctopus}} {{Small|{{AUY|Delle Chiaje|1830}}}} - [[ムラサキダコ]] {{snamei|en|Tremoctopus violaceus|T. violaceus}}{{Sfn|土屋|2002|p=136}}

=== 化石記録 ===
[[File:Muensterella_scutellaris_348.jpg|thumb|300px|ジュラ紀の {{snamei||Muensterella scutellaris}} の化石。]]
これまでに記載されている最古の化石記録は、[[ジュラ紀]]のものである{{Sfn|Fuchs|Günter|2018|pp=203–217}}{{Sfn|Fuchs ''et al.''|2019|pp=31–92}}。

[[中部ジュラ系]][[カロビアン]]階の[[オックスフォード]]粘土層 ([[:en:Oxford Clay|Oxford Clay Fm.]]) から {{snamei||Muensterellina johnjagti}} や {{Snamei||Pearceiteuthis buyi}} などが記載されている{{Sfn|Fuchs ''et al.''|2019|pp=31–92}}。それよりやや後の[[上部ジュラ系]][[キンメリッジアン]]階の{{仮リンク|ヌスプリンゲン|de|Nusplingen}}石灰岩 ([[:en:Nusplingen Limestone|Nusplingen Plattenkalk]]) からは、{{snamei||Patelloctopus ilgi}} が記載されている{{Sfn|Fuchs|Günter|2018|pp=203–217}}。

また、[[白亜紀]]の[[ムカシダコ科]] {{Sname||Palaeoctopodidae}} がよく知られる{{Sfn|瀧|1999|p=374}}。[[ムカシダコ]] {{snamei||Palaeoctopus newboldi}} は[[レバノン]]の[[上部白亜系]]の[[石灰岩]]から知られ、現生の両亜目の中間的な形質状態であるとされる{{Sfn|瀧|1999|p=374}}。

これらより古い[[古生代]][[石炭紀]]には、[[アメリカ合衆国]][[イリノイ州]]の[[ラーゲルシュテッテン]]である[[メゾンクリーク]]から[[ポルセピア]] {{Snamei|Pohlsepia}} が知られ、最古のタコの化石だとされたこともあるが{{Sfn|カレッジ|2014|p=14}}<ref>{{Cite journal|last1=Kluessendorf|first1=Joanne |last2=Doyle |first2=Peter |date=2000|title=''Pohlsepia mazonensis'', An Early 'Octopus' From The Carboniferous Of Illinois, USA|journal=Palaeontology |volume=43 |issue=5|pages=919–926|doi=10.1111/1475-4983.00155}}</ref>、近年の見解では支持されない<ref>{{Cite journal|last1=Klug |first1=Christian |last2=Landman |first2=Neil H. |last3=Fuchs |first3=Dirk |last4=Mapes |first4=Royal H. |last5=Pohle |first5=Alexander |last6=Guériau |first6=Pierre |last7=Reguer |first7=Solenn |last8=Hoffmann |first8=René |date=2019|title=Anatomy and evolution of the first Coleoidea in the Carboniferous |journal=Communications Biology |volume=2|pages=280|doi=10.1038/s42003-019-0523-2}}</ref><ref>{{Cite journal|last1=Whalen |first1=Christopher D. |last2=Landman |first2=Neil H. |date=2022|title=Fossil coleoid cephalopod from the Mississippian Bear Gulch Lagerstätte sheds light on early vampyropod evolution |journal=Nature Communications |volume=13 |pages=1107|doi=10.1038/s41467-022-28333-5}}</ref>。

== 食文化と調理法 ==
{{See also|:en:Octopus as food}}
{{栄養価 | name=タコ、生| water =80.25 g| kJ =343| protein =14.91 g| fat =1.04 g| carbs =2.2 g| fiber =0 g| sugars =0 g| calcium_mg =53| iron_mg =5.3| magnesium_mg =30| phosphorus_mg =186| potassium_mg =350| sodium_mg =230| zinc_mg =1.68| copper_mg=0.435| manganese_mg =0.025| selenium_μg =44.8| vitC_mg =5| thiamin_mg =0.03| riboflavin_mg =0.04| niacin_mg =2.1| pantothenic_mg =0.5| vitB6_mg=0.36| folate_ug =16| choline_mg =65| vitB12_ug =20| vitA_ug =45| betacarotene_ug =0| lutein_ug =0| vitE_mg =1.2| vitD_iu =0| vitK_ug =0.1| satfat =0.227 g| monofat =0.162 g| polyfat =0.239 g| tryptophan =0.167 g| threonine =0.642 g| isoleucine =0.649 g| leucine =1.049 g| lysine =1.114 g| methionine =0.336 g| cystine =0.196 g| phenylalanine =0.534 g| tyrosine =0.477 g| valine =0.651 g| arginine =1.088 g| histidine =0.286 g| alanine =0.902 g| aspartic acid =1.438 g| glutamic acid =2.027 g| glycine =0.933 g| proline =0.608 g| serine =0.668 g| taurine =0.520 g|right=1 | source_usda=1 }}
タコは手近で美味な[[タンパク質]]の供給源として{{Sfn|土屋|2002|p=122}}、世界各地の沿岸地方で食用とされ、特にアジアや地中海では古くから定番料理として供される{{Sfn|カレッジ|2014|p=43}}。一方[[ユダヤ教]]では食の規定[[カシュルート]]によって、タコは食べてはいけないとされる「[[鱗]]の無い魚」に該当するなど<ref>{{Cite journal|author=山我哲雄|title=旧約聖書とユダヤ教における食物規定(カシュルート)|journal=宗教研究|volume=90|issue=2|date=2016|pages=183–207|doi=10.20716/rsjars.90.2_183}}</ref>、禁忌とされている地域もある。

タコの身85 g は139 calと低カロリーで、[[脂肪]]は鶏肉では3 g なのに対し、タコでは2 g しかない{{Sfn|カレッジ|2014|p=54}}。[[タンパク質]]は25 g 含み{{Sfn|カレッジ|2014|p=54}}、全体の約20%である{{Sfn|カレッジ|2014|p=43}}。[[鉄分]]は1日の摂取目安量の45%、[[銅#摂取|銅]]も1日の摂取目安量の19%であり、それぞれ6%と3%の鶏肉を大きく上回る{{Sfn|カレッジ|2014|p=54}}。[[ビタミンB12|ビタミンB<sub>12</sub>]]に関しては1日の摂取目安量の510%に達する{{Sfn|カレッジ|2014|p=54}}。また、特に[[タウリン]]が豊富であるとされる{{Sfn|土屋|2002|p=122}}<ref name="Akashi"/><ref name="hokuei">{{Cite web|和書|url=https://www.hokuei.or.jp/hotnews/detail/00000204.html|title=たこザンギ|website=公益社団法人 北海道栄養士会|accessdate=2024-08-26}}</ref>。ただし、茹でて食べるとタウリンが茹で汁に溶出してしまうと言われる{{Sfn|奥谷|2013|p=26}}。[[亜鉛]]も多く含む<ref name="hokuei"/>。

身は噛み切りにくいため、様々な地域で叩いて柔らかくして下処理されてきた{{Sfn|カレッジ|2014|p=54}}。昔ながらの方法は形がなくなるまで岩に叩きつけるという方法で、[[スペイン]]の[[ビーゴ (スペイン)|ビーゴ]]ではタコを捕まえると「石で30–40回叩くべきだ」と言われる{{Sfn|カレッジ|2014|p=55}}。また、日本では「女と蛸は叩けば叩くほどよくなる」の言い回しが知られ<ref name="reference1000083735">{{Cite web|和書|url=https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000083735|title=食べ物のタコ、イカにまつわることわざやそれを詠んだ和歌、俳句、川柳などがあれば何でも知りたい|website=レファレンス協同データベース|date=2011-04-01|publisher=国立国会図書館|accessdate=2024-08-26}}</ref>、[[ダイコン]]で叩いてタコの筋線維を切るとよいとされる<ref name="hakatanoshio_532">{{Cite web|和書|url=http://www.hakatanoshio.co.jp/contents/recommended-recipe/page_532.html|title=蛸(たこ)のゆで方|publisher=伯方塩業|accessdate=2017-01-06|archiveurl=https://web.archive.org/web/20121014222620/http://www.hakatanoshio.co.jp/contents/recommended-recipe/page_532.html|archivedate=2012-10-14}}</ref>。業務用のタンブラーを用いて機械化されることもある{{Sfn|カレッジ|2014|p=54}}。近年では冷凍技術が普及し、凍結により細胞組織を破壊することで身を柔らかくすることも多い{{Sfn|カレッジ|2014|p=55}}。また、表面のぬめりを取り柔らかくするために、塩もみをして下処理される<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.hakatanoshio.co.jp/recipe/%E3%82%BF%E3%82%B3%E3%81%AE%E8%8C%B9%E3%81%A7%E6%96%B9/|title=タコの茹で方|website=伯方塩業株式会社|accessdate=2024-08-26}}</ref>。

タコは加熱調理されることが多く、多くの種は茹でると[[紅色|鮮紅色]]を呈する<ref name="kotobank-651999">{{Cite kotobank|word=茹で蛸|encyclopedia=デジタル大辞泉|accessdate=2024-08-27}}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=https://umito.maruha-nichiro.co.jp/article41/|title=かつては悪魔の魚と呼ばれていたタコ 今では世界の人気食材に|website=umito.|publisher=[[マルハニチロ]]|accessdate=2024-08-24}}</ref>。[[日本酒]]に漬けておくと茹でた後も柔らかいままとなると言われる<ref name="hakatanoshio_532"/>。また、茹でる際[[番茶]]の[[茶葉]]をひとつまみ入れると臭みがとれるとされている<ref name="hakatanoshio_532"/>。

タコの絞め方は地域によって異なるが、主に脳軟骨を破壊することによって行われる{{Sfn|小西|2010|p=206}}。日本では胴を掴み、眉間に手鉤や目打ちを打ち込んで絞めることが多い{{Sfn|小西|2010|p=206}}{{Sfn|小西|2010|p=217}}。ただし北海道の市場では、ミズダコやヤナギダコは氷水に漬けて絞める{{Sfn|小西|2010|p=212}}。[[スペイン]]の[[ガリシア]]ではタコの口に白いプラスチック製の長い棒状の道具を差し込み絞める{{Sfn|小西|2010|p=206}}。[[イタリア]]の[[プッリャ州]]では、頭を嚙んでタコを絞める{{Sfn|カレッジ|2014|p=57}}。

=== 日本 ===
{{multiple image
|align=center
|total_width=700
|image1=Octopuses in Tsukiji.JPG
|caption1=日本の[[築地市場]]に並べられたタコ([[茹で物|茹で蛸]])
|image2=Akashi Octopus fried.JPG
|caption2=タコの[[唐揚げ]]
|image3=Homemade takoyaki 2.jpg
|caption3=代表的なタコ料理、[[たこ焼き]]を作っている様子。
}}
タコは日本の食生活に深く根付いている{{Sfn|池田|2020|p=13}}。タコ類は多様な種が知られているが、日本では一般的に「タコ」と言えば、食用などで馴染み深い[[マダコ]]を指す場合が多い{{Sfn|『せたかむい』12月号|2004|p=2}}。ただし、マダコ {{snamei|Octopus sinensis}} が分布しない[[北海道]]では、「マダコ」は[[ミズダコ]]や[[ヤナギダコ]]の地方名である{{Sfn|奥谷|1991|pp=27–28}}{{Sfn|北海道立水産試験場研究員|1991|p=283}}{{Sfn|『せたかむい』12月号|2004|p=2}}。特に雌をマダコと呼び、雄は肉質が水っぽいことからミズダコと呼ぶ{{Sfn|北海道立水産試験場研究員|1991|p=283}}{{Sfn|『せたかむい』12月号|2004|p=2}}。[[福島県]]の[[いわき市|いわき地区]]([[小名浜地区|小名浜]]など)では、ミズダコを「アマダコ」、ヤナギダコを「ミズダコ」と呼ぶ{{Sfn|石田|遠藤|2003|pp=27–48}}。

日本人とタコの関係は古く、[[池上・曽根遺跡]]などの[[大阪府]][[堺市]]にある[[弥生時代]]の遺跡からは、[[イイダコ]]を獲る[[蛸壺]]形の[[土器]]が複数出土している{{Sfn|奥谷|2013|p=22}}<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.kannousuiken-osaka.or.jp/zukan/station/osakawan/tako.html|title=大阪湾の生き物カタログ マダコ|publisher=大阪府立環境農林水産総合研究所|accessdate=2014-1-12}}</ref>。[[三重県]][[桑名市]]の[[蛎塚新田]]にある[[古墳時代]]の[[貝塚]]からも蛸壺が出土している<ref name="maff_mie">{{Cite web|和書|url=https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/tako_meshi_mie.html|title=たこ飯 三重県|website=うちの郷土料理|publisher=農林水産省|accessdate=2024-08-26}}</ref>。また、967年の『[[延喜式]]』には乾蛸が[[肥後国|肥後]]・[[讃岐]]から献納されていた記録がある{{Sfn|奥谷|2013|p=22}}。文禄4年(1595年)に[[徳川家康]]が[[豊臣秀吉]]を迎えた御膳にはタコがあった{{Sfn|奥谷|2013|p=22}}。神事にも用いられ、[[伊勢神宮]][[式年遷宮]]の一つである[[山口祭]]の饗膳には、干しサメやエビとともに供される<ref name="maff_mie"/>。[[津八幡宮]]の10月の祭礼にも[[里芋]]とともにを炊き合わせた料理が神饌として供えられ、現在でも[[八幡町 (津市) |八幡町]]の古い氏子の家では祭にこれを調える<ref name="maff_mie"/>。

夏場のものが特に美味とされ、[[旬]]の梅雨時から7月下旬にかけてのものは「麦わらダコ(麦藁蛸)」と俗称される<ref name="Akashi"/>。7月25日の[[大阪天満宮]]の[[天神祭]]では「天神蛸」として[[ハモ]]とともに食され<ref name="weathernews">{{Cite web|和書|title=「半夏生」ってどんな日か知ってる? 関西で半夏生にタコを食べる人が多い理由|url=https://weathernews.jp/s/topics/202406/260165/|website=ウェザーニュース|date=2024-07-01|accessdate=2024-08-23}}</ref>、この旬は「麦藁蛸に祭鱧」(むぎわらだこにまつりはも)という成句でも知られる<ref>{{Cite report|和書|url=https://www.pref.osaka.lg.jp/documents/19717/00-00.pdf|title=序章 大阪エコライフ(魚庭(なにわ)の水編)|publisher=大阪府|accessdate=2024-08-23}}</ref>。[[関西]]地方には、[[半夏生|半夏]]{{efn|ここで言う「半夏」は[[仏教]][[専門用語|用語]]の「半夏(はんげ)」。90日にわたる[[安居|夏安居]](げあんご)の中間で、45日目のことを言う。}}にタコを食べる「半夏蛸」の習慣があるが、これはタウリンを補給して[[夏バテ]]を防ぐと言われる<ref name="Akashi"/><ref name="weathernews"/>。また、夏の土用のころのタコは特に美味で、ほかの誰にも食べさせるわけにはいかないとの意から「土用の蛸は親にも食わすな」や「[[アカエイ]]の[[吸い物]]蛸の足」という格言も知られる<ref name="kaiseiken"/>。[[愛媛県]]では春先に200–400 g の小さいタコが漁獲され、「木の芽だこ」と呼ばれて出回る<ref name="maff_ehime">{{Cite web|和書|url=https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/tako_meshi_ehime.html|title=たこめし 愛媛県 |website=うちの郷土料理|publisher=農林水産省|accessdate=2024-08-26}}</ref>。

[[料理]]では[[刺身]]{{Sfn|小西|2010|p=208}}{{sfn|平野|2000|p=212}}、[[寿司]]{{Sfn|カレッジ|2014|p=11}}、煮だこ(煮付け{{sfn|平野|2000|p=212}})、[[酢蛸]]{{Sfn|小西|2010|p=214}}、酢味噌和え<ref name="weathernews"/>、[[天婦羅]]{{sfn|平野|2000|p=212}}、[[揚げ物]]{{sfn|平野|2000|p=212}}、[[塩辛]]{{sfn|平野|2000|p=212}}、[[おでん]]の具材{{Sfn|奥谷|1991|p=27}}{{sfn|平野|2000|p=212}}など様々に用いられる。

[[たこ焼き]]やその原形とされる[[玉子焼 (明石市)|明石焼き]]の具材としても親しまれている{{Sfn|池田|2020|p=11}}。たこ焼きは大阪から広まり、全国的に食される{{Sfn|池田|2020|p=11}}{{Sfn|新村|1998|p=1642}}。小麦粉と卵を混ぜた生地の中にタコの小片を入れて球形に焼き上げたものである{{Sfn|池田|2020|p=11}}{{Sfn|新村|1998|p=1642}}。明石焼きは地元明石では玉子焼と呼ばれる{{Sfn|池田|2020|p=11}}。

[[File:Octopus rice (8191066778).jpg|thumb|left|200px|たこ飯の弁当。]]
また、[[瀬戸内海]]地域([[兵庫県]]<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/40_27_hyogo.html|title=たこめし 兵庫県 |website=うちの郷土料理|publisher=農林水産省|accessdate=2024-08-26}}</ref>・[[愛媛県]]<ref name="maff_ehime"/>・[[香川県]]<ref name="maff_aichi">{{Cite web|和書|url=https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/takomeshi_aichi.html|title=たこ飯 愛知県 |website=うちの郷土料理|publisher=農林水産省|accessdate=2024-08-26}}</ref>・[[広島県]]<ref name="maff_hiroshima">{{Cite web|和書|url=https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/42_18_hiroshima.html|title=たこめし 広島県 |website=うちの郷土料理|publisher=農林水産省|accessdate=2024-08-26}}</ref>・[[岡山県]]<ref name="maff_okayama">{{Cite web|和書|url=https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/41_10_okayama.html|title=たこめし 岡山県 |website=うちの郷土料理|publisher=農林水産省|accessdate=2024-08-26}}</ref>)や[[伊勢湾]]([[三重県]]<ref name="maff_mie"/>・[[愛知県]]<ref name="maff_aichi"/>)、[[熊本県]][[天草諸島]]<ref name="maff_kumamoto">{{Cite web|和書|url=https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/tako_meshi_kumamoto.html|title=たこ飯 熊本県 |website=うちの郷土料理|publisher=農林水産省|accessdate=2024-08-26}}</ref>では[[たこめし|蛸飯]](たこ飯、たこめし)に供される<ref name="maff_aichi"/>。地域や店によって、作り方や具材、味付け等が異なる<ref name="maff_aichi"/><ref name="maff_okayama"/>。愛知県のたこ飯は茹で蛸ではなく生のタコを米と一緒に炊き込むことで[[桜色]]に染まるため「桜飯」とも呼ばれる<ref name="maff_aichi"/><ref name="prefaichi">{{Cite web|和書|url=https://www.pref.aichi.jp/shokuiku/shokuikunet/mind/recipe/recipe001.html|title=たこ飯|website=食育ネットあいち|publisher=農業水産局農政部食育消費流通課|accessdate=2024-08-26}}</ref>。天草諸島では干しダコをたこ飯に用いる<ref name="maff_kumamoto"/>。

関西では[[タコぶつ]]として[[わさび醤油]]や[[酢味噌]]をつけたり、タコと[[キュウリ]]の[[酢もみ]]などとして食される<ref name="weathernews"/>。[[奈良県]]ではタコとキュウリの酢もみは「蛸もみうり」と呼ばれ、[[早苗饗]]に稲の成長を願って食される<ref name="maff_nara">{{Cite web|和書|url=https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/tako_momiuri_nara.html|title=蛸もみうり 奈良県 |website=うちの郷土料理|publisher=農林水産省|accessdate=2024-08-26}}</ref>。マダコの皮は茹でてキュウリと和え、酢味噌をかけて[[ぬた]]として食される{{Sfn|小西|2010|p=211}}。[[香川県]]ではテナガダコを里芋とともに煮た「いもたこ」が作られ、かつては[[正月]]や[[婚礼]]などの[[ハレ]]の日に用意されていたが、現在は日常的に食べられる<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/imotako_kagawa.html|title=いもたこ 香川県 |website=うちの郷土料理|publisher=農林水産省|accessdate=2024-08-26}}</ref>。

ミズダコのように筋肉が柔らかい種は[[酢蛸]]などに加工して用いられることが多い{{Sfn|土屋|2002|p=99}}{{Sfn|北海道立水産試験場研究員|1991|p=279}}。また、冷凍したミズダコの腕は[[しゃぶしゃぶ]]として商品化されている{{Sfn|北海道立水産試験場研究員|1991|p=279}}。ヤナギダコの小さいものは1匹まるごと「一杯ダコ」に加工され、珍味として食される{{Sfn|北海道立水産試験場研究員|1991|p=283}}。またミズダコは北海道では郷土料理の揚げ物であるたこ[[ザンギ]]としても食される<ref name="hokuei"/>。

[[File:It seems to dry the octopus.JPG|thumb|left|200px|[[下津井地区|下津井]]の干しダコ」]]
また、[[保存食]]として'''{{Vanchor|干しダコ}}'''に加工される<ref name="maff_kumamoto"/><ref name="hyogo-nourinsuisangc">{{Cite web|和書|author=水産技術センター|url=https://hyogo-nourinsuisangc.jp/kenmin_minasama/mame/suisan_mame/02/18/969/|title=干しダコの作りかた|webiste=兵庫県⽴農林⽔産技術総合センター|accessdate=2024-08-26}}</ref>。[[兵庫県]][[明石市]][[二見町 (明石市)|二見町]]周辺<ref name="hyogo-nourinsuisangc"/>や[[岡山県]][[倉敷市]][[下津井地区]]<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.okayama-kanko.jp/gourmet/10253|title=下津井のたこ・干しだこ|website=岡山観光WEB|accessdate=2024-08-26}}</ref>、[[三重県]][[鳥羽市]]<ref name="maff_mie"/><ref name="toba">{{Cite web|和書|url=https://jf-tiss.net/tako.html|title=海産物_たこ|website=鳥羽磯部漁業協同組合|accessdate=2024-08-26}}</ref>、[[熊本県]][[天草市]][[有明町 (熊本県)|有明町]]<ref name="maff_kumamoto"/>のものがよく知られる。かつては夏場に大量にとれた安価なマダコを加工し、魚の水揚げが少ない冬の保存食として利用していたが<ref name="maff_kumamoto"/><ref name="hyogo-nourinsuisangc"/>、最近では作る漁家が減少している<ref name="hyogo-nourinsuisangc"/>。腕一本ずつを洗濯バサミに吊して干す場合もあるが、多くはタコの姿そのままに竹串で足をぴんと張って干し<ref name="hyogo-nourinsuisangc"/>、いわゆる「ひっぱりだこ」に加工される<ref name="himaka">{{Cite web|和書|url=https://www.himaka.net/sightseeing/m15|title=ひっぱりだこ|website=日間賀島観光ナビ|accessdate=2024-08-26}}</ref>。

秋口に雌の体内にある[[卵巣]]は[[アイボリー|象牙色]]の袋に包まれており、タコの袋児(ふくろご)と呼ばれ、[[煮る|煮付けて]]食べる。特に[[イイダコ]]は卵巣が重要な部分として食されるほか、[[ミズダコ]]の卵巣も取り出されて販売される{{Sfn|土屋|2002|p=84}}。[[イイダコ]]の和名は外套腔に米粒状の卵が含まれる卵巣を持つことからとされる{{Sfn|奥谷|2002|p=147}}。また、マダコの産卵後の卵塊はその形状から[[海藤花]](かいとうげ)と呼ばれ{{Sfn|土屋|2002|p=129}}{{Sfn|小西|2010|p=211}}、[[塩漬け]]にする。

[[青森県]][[下北半島]]では魚介類の内臓を「生きるための道具」の意から「道具」と呼ぶ<ref name="ATV">{{Cite web|和書|url=https://newsdig.tbs.co.jp/articles/atv/340338?display=1|title=タコのホルモン!?「タコの道具」知ってますか?見た目のインパクト大!その味と食感を大学生が体験|website=ATV|date=2023-02-21|accessdate=2024-08-26}}</ref>。タコの内臓は「タコの道具」の愛称で食用にされ、野菜とともに煮た「道具汁」などの郷土料理として食べられる<ref name="ATV"/>。
{{-}}
=== 東アジア ===
[[File:Korean.cuisine-Sannakji.hoe-01.jpg|thumb|180px|テナガダコの踊り食いである[[サンナクチ]]。]]
[[朝鮮半島]]では日常的な食材である{{Sfn|カレッジ|2014|p=181}}。特に、[[テナガダコ]] {{snamei|en|Octopus minor|Callistoctopus minor}} はナクチと呼ばれ、生きたままぶつ切りにし、塩と[[ごま油|胡麻油]]および[[ゴマ|胡麻]]と和えて[[踊り食い]]にする[[サンナクチ]]({{lang-ko-short|산낙지}}「活きたテナガダコ」、{{lang|ko-Latn|sannakji}})は有名である{{Sfn|カレッジ|2014|p=181}}{{Sfn|小西|2010|p=144}}。また、[[ニンニク]]、[[ワケギ]]、[[ニンジン]]や[[ごま油]]とともに[[粥]]にしたムノチュク({{lang|ko|문어죽}}、{{lang|ko-Latn|Muneo-juk}})にしても食される<ref>{{Cite web|url=https://www.tasteatlas.com/muneo-juk|title=Octopus Porridge (Muneo-juk)|website=tasteatlas|pubisher=AtlasMedia Ltd.|accessdate=2024-08-26}}</ref>。

[[台湾]]の[[澎湖諸島]]では、テナガダコに近縁な「{{lang|zh|[[:zh:澎湖章鱼|澎湖章魚]]}}」や「{{lang|zh|石鮔}}」と呼ばれる未記載種<ref>{{Cite journal|first1=Chuan-Wen |last1=Ho|first2=Chen-Cheng |last2=Cheng|first3=Chung-Cheng |last3=Lu |title=Species complex of ''Octopus minor'' (Cephalopoda: Octopodidae) from Taiwan waters, including two new species |journal=Cephalopod International Advisory Council Symposium 2006|page=36|date=2006|url=https://cephalopod.wordpress.com/wp-content/uploads/2017/03/2006-hobart-program.pdf}}</ref>が食用とされ、干しダコに加工される<ref name="newsmarket">{{Cite web|url=https://www.newsmarket.com.tw/blog/116932/|title=在地澎湖味─石鮔燉排骨湯|author=Chiamer|date=2019-02-14|website=上下游News&Market|accessdate=2024-08-26}}</ref>。「{{lang|zh|石鮔排骨湯}}」や「{{lang|zh|石鮔五花肉}}」と呼ばれる伝統料理となる<ref name="newsmarket"/>。

[[中華人民共和国]][[福建省]]の[[廈門市|廈門]]などでは、タコは茹でて氷水で締めた「{{lang|zh|白灼章鱼(白灼八爪鱼)}}」として消費される<ref>{{Cite web|和書|url=https://w-foods.com/asia/china/bai_zhuo_zhang_yu.html|title=白灼章魚 bái zhuó zhāng yú [ゆでだこ]|website=世界の食べ物|accessdate=2024-08-26}}</ref>。

=== 地中海 ===
{{multiple image
|align=center
|total_width=750
|image1=Festa da Istoria 2011 (6089203513).jpg
|caption1=[[ガリシア州]]の伝統料理、[[ポルボ・ア・フェイラ]]
|image2=Naxos port4.JPG
|caption2=[[ギリシャ]]、[[ナクソス島|ナクソス港]]の店先に吊されたタコ
|image3=Ahtapot Salatası Octopus salad.JPG
|caption3=[[トルコ]]のタコの冷製メゼ。[[イスタンブール]]にて。
}}
[[南欧]]・地中海沿岸地域([[スペイン]]、[[イタリア]]、[[ポルトガル]]、[[ギリシャ]]、[[プロヴァンス]]地方など[[フランス]]南部の一部)ではタコを伝統的な食品としている{{Sfn|瀧|1999|p=329}}{{Sfn|奥谷|2013|p=22}}{{Sfn|Pita ''et al.''|2021|ps=: 105820}}。

スペインの[[ガリシア州]]では、「お祭り風のタコ」を意味する[[ポルボ・ア・フェイラ]](プルポ・ア・フェイラ)と呼ばれる伝統料理が食され、「タコのガリシア風」の名でも知られる{{Sfn|池田|2020|p=212}}{{Sfn|カレッジ|2014|pp=22–24}}。タコをジャガイモとともに煮て、パプリカを加え、オリーブオイルと塩で味付けした料理である。腕は[[鉄板焼き]] ({{lang|es|Pulpo a la plancha}}) にも料理される{{Sfn|カレッジ|2014|p=25}}。[[スペイン料理]]の[[パエリア]]にもタコが用いられる{{Sfn|池田|2020|p=212}}。

イタリアでは{{仮リンク|ソプレッサータ|en|Soppressata}}{{Sfn|カレッジ|2014|p=256}}や[[テリーヌ]]{{Sfn|カレッジ|2014|p=11}}などに調理することもある。[[カンパーニャ州]][[ナポリ]]の[[サンタルチア地区]]では[[トマト煮]]にされ、[[ポルピ・アッラ・ルチャーナ]]({{lang|it|Polpi alla Luciana, Polpo alla luciana}})と呼ばれる<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.sankei.com/article/20160831-IFDMUMC4IFOMNLHX4SWTUCOBZI/|title=伊サンタルチアの伝統料理 タコのマリネ ポルピ・アッラ・ルチャーナ|date=2016-08-31|author=速水裕樹|website=産経新聞|publisher=産業経済新聞社|accessdate=2024-08-26}}</ref><ref>{{Cite web|url=https://www.tasteatlas.com/polpo-alla-luciana|title=Polpo alla luciana|website=tasteatlas|pubisher=AtlasMedia Ltd.|accessdate=2024-08-26}}</ref>。[[モリーゼ州]]では、仔ダコを辛いソースで煮込んだ[[ポルピ・イン・プルガトリオ]] ({{lang|it|Polpi in purgatorio}}「煉獄のタコ」、{{仮リンク|モリーゼ方言|it|Dialetti molisani}}:{{lang|it|i pulepe 'npregatorie}})が食べられ、タコの墨の色と唐辛子([[ペペロンチーニ|ペペロンチーノ]])が特徴的な料理である<ref>{{Cite web|url=https://www.tasteatlas.com/polpi-in-purgatorio|title=Polpi in purgatorio |website=tasteatlas|pubisher=AtlasMedia Ltd.|accessdate=2024-08-26}}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=https://www.peperosso.co.jp/blog/20190315/8822/|title=Cucina molisana Ricette della Cucina molisana|date=2019-03-15|website=池ノ上のイタリアン「ペペロッソ(PepeRosso)」|accessdate=2024-08-26}}</ref>。

[[ポルトガル]]では、タコを茹でてからぶつ切りにしてグリルし、[[オリーブオイル]]を塗った[[ポルボ・ア・ラガレイロ]]({{lang|pt|Polvo à Lagareiro}})が食べられる<ref>{{Cite web|url=https://www.tasteatlas.com/polvo-a-lagareiro |title=Polvo à Lagareiro|website=tasteatlas|pubisher=AtlasMedia Ltd.|accessdate=2024-08-26}}</ref>。

[[マルタ]]では、[[ピザ]]の具材となる{{Sfn|カレッジ|2014|p=11}}。また、[[マルタ料理|マルタの伝統料理]] {{lang|mt|Quarnita-bit-tewm}} では、細かく切った茹でタコを[[ネギ]]、[[ニンニク]]、[[パプリカ]]などとともに[[オリーブオイル]]でソテーし、冷やして食べられる<ref>{{Cite web|url=https://www.tasteatlas.com/quarnita-bit-tewm|title=Quarnita-bit-tewm|website=tasteatlas|pubisher=AtlasMedia Ltd.|accessdate=2024-08-26}}</ref>。

フランスの[[ラングドック=ルシヨン地域圏|ラングドック=ルシヨン]]では、[[ジャガイモ]]や[[タマネギ]]、[[ウイキョウ]]や[[パセリ]]とともに[[サラダ]] ({{lang|fr|Salade de poulpe}}) にして食される<ref>{{Cite web|url=https://www.tasteatlas.com/salade-de-poulpe-languedoc|title=Salade de poulpe|website=tasteatlas|pubisher=AtlasMedia Ltd.|accessdate=2024-08-26}}</ref>。

ギリシャ等の正教徒の多い地域の場合、[[東方正教会]]では[[正教会#斎(ものいみ)について|斎]]の間は肉を、[[大斎 (正教会)|大斎]]の際には魚をも食べるのを禁じてきたが、タコや[[イカ]]、貝類などは問題が無いとされてきたため、これらを使った伝統料理が多い。特に[[ペロポネソス半島]]の{{仮リンク|ギシオ|en|Gytheio}}は「ギリシャのタコの都」とも称され、レストランの店先の綱にタコをぶら下げて[[干しダコ]]を作っている様子がよく見られる{{Sfn|カレッジ|2014|p=62}}。ギシオでは[[トマト]]や[[チーズ]]、[[ハーブ]]とともに一口大に切ったタコがギリシャ風サラダにして食べられることもある{{Sfn|カレッジ|2014|p=65}}。東地中海では[[メゼ]]としてグリルしたタコの腕が出され、ギリシャでは[[フタポディ・スティ・スハラ]]({{lang-el-short|χταποδι στη σχαρα}}、{{lang|el-Latn|Chtapodi sti schara}})と呼ばれる{{Sfn|カレッジ|2014|p=65}}<ref>{{Cite web|url=https://www.tasteatlas.com/chtapodi-sti-schara|title=Grilled Octopus (Chtapodi sti schara)|website=tasteatlas|pubisher=AtlasMedia Ltd.|accessdate=2024-08-26}}</ref>。[[トルコ]]ではタコの冷製メゼ({{lang|tu|[[:tr:ahtapot salatası|ahtapot salatası]]}})が知られる<ref>{{Cite book|first=François |last=Rémillard|title=New York City 2000-2001|url=https://books.google.com/books?id=V90uJa1dn-8C|date=2000|publisher=Ulysses Travel Guides|isbn=978-2-89464-236-8}}</ref>。

[[File:Hobotnica na salatu 0909.jpg|thumb|left|200px|[[ダルマチア]]のタコのサラダ({{lang|hr|Salata od hobotnice}})]]
[[クロアチア]]でも干しダコ({{lang|hr|Štokalj}})が作られる<ref name="stokalj-s-jajima">{{Cite web|url=https://www.tasteatlas.com/stokalj-s-jajima|title=Štokalj s jajima|website=tasteatlas|pubisher=AtlasMedia Ltd.|accessdate=2024-08-26}}</ref>。[[ラブ島]]で作られる[[ボーラ]]で乾かした干しダコは、{{lang|hr|Sušeni štokalj}} と呼ばれる<ref name="suseni-stokalj">{{Cite web|url=https://www.tasteatlas.com/suseni-stokalj|title=Sušeni štokalj|website=tasteatlas|pubisher=AtlasMedia Ltd.|accessdate=2024-08-26}}</ref>。{{lang|hr|Sušeni štokalj}} は{{仮リンク|フリターヤ|en|Fritaja}} {{lang|hr|Fritaja}} などにして食べられる<ref name="suseni-stokalj"/>。[[クヴァルネル湾]]に面した[[プリモリェ=ゴルスキ・コタル郡]]では、干しダコにオリーブオイルで炒めた卵と玉ねぎを混ぜ合わせ、卵が好みの固さになるまで煮込んだ {{lang|hr|Štokalj s jajima}} が作られる<ref name="stokalj-s-jajima"/>。{{lang|hr|Hobotnica na novaljski}} は、[[パグ島]]にある[[ノヴァリャ]]発祥の[[クロアチア料理]]である<ref name="hobotnica-na-novaljski">{{Cite web|url=https://www.tasteatlas.com/hobotnica-na-novaljski|title=Hobotnica na novaljski|website=tasteatlas|pubisher=AtlasMedia Ltd.|accessdate=2024-08-26}}</ref>。柔らかく煮たタコを適当な大きさに切り、煮汁にオリーブオイルと少しマッシュしたジャガイモを合わせて作られる<ref name="hobotnica-na-novaljski"/>。[[ダルマチア]]地方では、大きな鐘のような蓋を被せ、新鮮なタコを丸ごと野菜とともに暖炉で煮込んだ鍋料理である {{lang|hr|Hobotnica ispod peke}} や<ref>{{Cite web|url=https://www.tasteatlas.com/hobotnica-ispod-peke|title=Octopus under the bell (Hobotnica ispod peke) |website=tasteatlas|pubisher=AtlasMedia Ltd.|accessdate=2024-08-26}}</ref>、タコのサラダ({{lang|hr|Salata od hobotnice}})が食される<ref>{{Cite web|url=https://www.tasteatlas.com/salata-od-hobotnice|title=Octopus salad (Salata od hobotnice)|website=tasteatlas|pubisher=AtlasMedia Ltd.|accessdate=2024-08-26}}</ref>。[[コルチュラ島]]では、タコを[[ニンニク]]や[[タマネギ]]などとともに[[白ワイン]]で煮込んだ {{lang|hr|Pijana hobotnica}} (「酔っ払いタコ」)が食べられる<ref>{{Cite web|url=https://www.tasteatlas.com/pijana-hobotnica|title=Pijana hobotnica|website=tasteatlas|pubisher=AtlasMedia Ltd.|accessdate=2024-08-26}}</ref>。

[[File:Coucous au poulpe, Sayada, Tunisia.jpg|thumb|200px|[[チュニジア]]のタコの[[クスクス]]]]
[[チュニジア]]でもタコは[[クスクス]]などにして食される<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.asahi.com/and/article/20190702/400672442/|title=スープもタコのクスクスも濃厚。太陽のようなチュニジア食堂「Tounsia」|date=2019-07-02|author=川村明子・室田万央里|website=朝日新聞デジタル|accessdate=2024-08-23}}</ref>。[[カンモーニーヤ]] ({{lang|fr|Kamounia au poulpe}}) と呼ばれる煮込み料理でも食べられる。

イイダコは[[オクオパス・ガーデン・カクテル]] ({{en|Octopus's Garden Cocktail}}) に利用され、[[ジン]]とドライ[[ベルモット]]を 3:4 で[[シェイカー (調理器具)|シェイク]]したものに、焦げ目をつけたイイダコとブラック[[オリーブ]]を添えて供される{{Sfn|カレッジ|2014|p=9}}。

[[イチレツダコ類]]はスペインやイタリアでは底曳網で混獲されて利用されるが、積極的に漁獲されることはない{{Sfn|窪寺|奥谷|1993|pp=70–71}}{{Sfn|カレッジ|2014|p=20}}。スペインでは[[イチレツダコ]] {{snamei||Eledone cirrhosa}} はマダコの「不肖の弟」と表現される{{Sfn|カレッジ|2014|p=20}}。ガリシアではイチレツダコは缶詰に加工し、海外向けに輸出される{{Sfn|カレッジ|2014|p=20}}。[[ヴェネツィア]]では[[ジャコウダコ]] {{Snamei||Eledone moschata}} は {{It|Folpetti}} と呼ばれ、茹でたり、衣をつけて揚げたり、焼いたりと、さまざまな調理法で調理される<ref>{{Cite web|url=https://www.greatitalianchefs.com/recipes/folpetti-recipe|author=Valeria Necchio|title=Folpetti Recipe |date=2017|website=Great Italian Chefs|accessdate=2024-08-23}}</ref>。

=== ゲルマン・スラヴ諸国 ===
一方、アルプス以北のヨーロッパ諸国では、漁業が盛んな局所を除いて、伝統的には食用にはされてこなかった{{Sfn|瀧|1999|p=330}}。例えば[[ドイツ]]や[[スイス]]、[[フランス]]の大部分では、蛋白源を獣肉に頼る地域では伝統料理にタコを見ることはまずない{{Sfn|奥谷|2013|p=22}}。また、[[イギリス]]では「悪魔の魚 {{lang|en|devilfish}}」などと呼ばれ、避けられていたことは良く知られている{{Sfn|池田|2020|p=91}}。例えば、イギリスの[[王立協会フェロー]]である[[マルコム・R・クラーク]]は1963年に、タンパク質含量は魚と比べても申し分なく、理論的には食用となっての良いものの、こんな奇妙な生き物が食卓に忍び寄ってくるのは気が進まないという人もいるかもしれないと述べている{{Sfn|カレッジ|2014|p=44}}。しかし、これらの地域でも、現代では南欧料理やアジアの料理(日本の寿司など)が入ってきており、タコを食べる機会は増えてきている{{Sfn|奥谷|2013|p=22}}。

=== インド洋 ===
[[File:Drying octopus.jpeg|thumb|250px|left|[[タンザニア]][[ザンジバル諸島]]{{Efn|[[ペンバ島]]近隣のミサリ島}}で[[乾物]]加工されるタコ]]
[[東アフリカ]]の海岸地域の集落、特に[[タンザニア]]沿岸([[ザンジバル]])では、タコの零細漁業が経済的に、また生計的に重要となっている{{Sfn|Guard|Mgaya|2002|pp=528–536}}。[[スワヒリ語]]ではタコは pweza と呼ばれる{{Sfn|Guard|Mgaya|2002|pp=528–536}}{{Sfn|竹村|2004|pp=31–65}}。漁獲されるのは主に[[ワモンダコ]] {{snamei|en|Octopus cyanea|'Octopus' cyanea}} で、[[潮間帯]]や[[潮下帯]]から[[シュノーケリング]]などで巣穴に隠れているタコに銛を掴ませ、引き抜いて採集される{{Sfn|Guard|Mgaya|2002|pp=528–536}}。伝統的には、女性と子供を中心とした漁が行われていたが、近年では、需要が高まり、男性もタコ漁に参加するようになっている{{Sfn|Guard|Mgaya|2002|pp=528–536}}。タコは主にあぶり焼き ({{lang|sw|Pweza wa kuchoma}}) やから揚げ ({{lang|sw|Pweza wa kukayanga}})、[[シチュー]] ({{lang|sw|Mchuzi wa maji wa pweza}}) などにして食される。屋根の上で天日干しにして[[干しダコ]] ({{lang|sw|Pweza mkavu}}) にしたものなども食べられる{{Sfn|竹村|2004|pp=31–65}}。巻き網漁では小さなタコが混獲されることもあり、各家庭で晩御飯のおかずなどに利用される<ref>{{Cite journal|author=藤本麻里子|date=2017|title=ザンジバルの漁村で出会える極上おやつ|journal=フィールドで出会う風と人と土|pages=65–70|publisher=総合地球環境学研究所|url=https://chikyu.repo.nii.ac.jp/record/1115/files/kaze_hito_tsuchi_15.pdf|}}</ref>。

[[モーリシャス]]や[[セーシェル]]ではインドやフランスの影響を受けた[[クレオール料理]]が食され、タコはオクトパスカレーや{{仮リンク|ヴィンダイ|fr|Vindaye}} ({{lang|mfe|Vindaye ourite}}) などの{{仮リンク|モーリシャス料理|en|Mauritian cuisine|label=料理}}で食される<ref>{{Cite report|和書|url=https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000480555.pdf |title=セーシェル共和国|publisher=外務省 |pages=7|accessdate=2024-08-23}}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=https://e-food.jp/map/nation/mauritius.html|title=モーリシャスの料理|website=e-food.jp|author=青木ゆり子|accessdate=2024-08-23}}</ref><ref>{{Cite web|url=https://chefsimon.com/gourmets/chef-papounet/recettes/vindaye-ourite-mauricien|title=Vindaye ourite mauricien|website=Chef Simon.com|author=Chef Papounet|accessdate=2024-08-23}}</ref><ref name="Kari">{{Cite web|url=https://www.tasteatlas.com/kari-koko-zourit|title=Kari koko zourit|website=tasteatlas|pubisher=AtlasMedia Ltd.|accessdate=2024-08-26}}</ref>。[[ココナッツ]]を加えたセーシェルのオクトパスカレーは {{lang|crs|Kari koko zourit}} と呼ばれる<ref name="Kari"/>。

[[モルディヴ]]ではタコの腕をカレー風味の {{lang|dv|[[:en:Miruhulee boava|Miruhulee boava]]}} にして食す<ref>{{Cite book|last=Masters |first=Tom |date=2006 |title=Maldives |publisher=Lonely Planet |isbn= 978-1-74059-977-1}}</ref><ref>{{Cite web|url=https://www.tasteatlas.com/miruhulee-boava|title=Miruhulee boava|website=tasteatlas|pubisher=AtlasMedia Ltd.|accessdate=2024-08-26}}</ref>。

=== オセアニア ===
[[File:Kimchee-Tako-Da-Poke.jpg|thumb|200px|[[キムチ]]風味のタコのポキ]]
[[ミクロネシア]]、[[ポリネシア]]、[[メラネシア]]などの地域ではタコを食べる文化がある{{Sfn|奥谷|2013|p=22}}。

[[ワモンダコ]] {{snamei|en|Octopus cyanea|'Octopus' cyanea}} は[[南西諸島]]以南の[[太平洋]]-[[インド洋]]全域に分布し、分布域では広く食用として用いられている{{Sfn|土屋|2002|p=96}}{{Sfn|カレッジ|2014|p=46}}{{Sfn|Willer ''et al.''|2023|pp=179–189}}。[[ハワイ諸島]]では一口大に切って野菜サラダと和えた[[ポキ]]として調理されたり、干物や冷凍、燻製などの調理をされたりして食べられる{{Sfn|カレッジ|2014|p=46}}。

またこの地域では、ワモンダコとともに[[シマダコ]] {{Snamei|en|Callistoctopus ornatus|C. ornatus}} も重要な種である{{Sfn|Willer ''et al.''|2023|pp=179–189}}。

[[グアム]]では、タコをぶつ切りにし、微塵切りにした[[タマネギ]]や[[ミニトマト]]とともに鍋に入れ、[[ココナッツミルク]]を加えた[[チャモロ族]]の伝統料理 {{lang|ch|Kadon gamson}} として食べられる<ref>{{Cite web|url=https://www.tasteatlas.com/kadon_gamson|title=Kadon gamson|website=tasteatlas|pubisher=AtlasMedia Ltd.|accessdate=2024-08-26}}</ref>。

=== アメリカ ===
[[File:Wood grilled octopus tostadas (28953812153).jpg|thumb|200px|[[メキシコ]]の{{仮リンク|バジェ・デ・グアダルーペ|en|Valle de Guadalupe}}で食べられるタコの[[トスターダ]]]]
[[アメリカ]]の食卓には滅多に登場せず{{Sfn|カレッジ|2014|p=43}}、身近な存在ではない{{Sfn|カレッジ|2014|p=16}}。しかしやはり近年では高タンパク質食品として人気が現れ{{Sfn|カレッジ|2014|p=44}}、主に[[フィリピン]]から年間3750 t 程度、タコを輸入している{{Sfn|カレッジ|2014|p=46}}。しかし種の識別はされず、まとめて「タコ」とのみ表示されて流通する{{Sfn|カレッジ|2014|p=46}}。

[[プエルトリコ]]では、タコはありふれた食材として流通する{{Sfn|カレッジ|2014|p=60}}。腕のぶつ切りが加熱済みの冷凍食品として販売されるが、中には[[チリ]]産のイカがそれに交じって出回っている{{Sfn|カレッジ|2014|p=60}}。[[マリネ]]([[セビチェ]])などにして食べられる{{Sfn|カレッジ|2014|p=255}}。

[[メキシコ]]をはじめとする中南米では、タコを食べる文化がある{{Sfn|奥谷|2013|p=22}}。メキシコでは、熱帯地域で最大のタコ漁獲量(42,400 t)を誇るが、消費量(49,900 t、いずれも2017年)もそれを上回る値を示す{{Sfn|Willer ''et al.''|2023|pp=179–189}}。メキシコ湾周辺の伝統料理では、アーモンドソースとともに火を通した {{lang|es|Pulpo almendrado}} が知られる<ref>{{Cite web|url=https://www.tasteatlas.com/pulpo-almendrado|title=Octopus in Almond Sauce (Pulpo almendrado)|website=tasteatlas|pubisher=AtlasMedia Ltd.|accessdate=2024-08-26}}</ref>。

[[南アメリカ]]の[[ブラジル]]と[[コロンビア]]では、タコは輸出されず輸入のみであり、食品として消費される量は漁獲量を上回っている{{Sfn|Willer ''et al.''|2023|pp=179–189}}。ブラジルでは、2017年に783.7 t のタコが漁獲されているが、消費量は3,192 t である{{Sfn|Willer ''et al.''|2023|pp=179–189}}。コロンビアでも153.1 t の漁獲量に対し534.5 t のタコが消費されている{{Sfn|Willer ''et al.''|2023|pp=179–189}}。[[ブラジル料理]]では、タコは[[ムケッカ]] ({{lang|pt-BR|Moqueca}}) と呼ばれる海鮮シチューにして食される<ref name="brasilagosto">{{Cite web|url=https://www.brasilagosto.org/en/octopus/|title=Octopus|website=Instituto Brasil a Gosto|accessdate=2024-08-26}}</ref>。[[ヴィネグレットソース]]を和えたり、[[カルパッチョ]]にして前菜としても食べられる<ref name="brasilagosto"/>。

[[ペルー]]や[[エクアドル]]では、生のタコに[[タマネギ]]を加え、[[ライム]]汁、[[コリアンダー]]、油や塩、[[唐辛子]]などの調味料と混ぜてタコの[[セビチェ]] ({{lang|es|Ceviche de pulpo}}) にして食べられる<ref>{{Cite web|url=https://www.tasteatlas.com/ceviche-de-pulpo|title=Octopus ceviche (Ceviche de pulpo)|website=tasteatlas|pubisher=AtlasMedia Ltd.|accessdate=2024-08-26}}</ref>。ペルーではタコの[[アンティクーチョ]] ({{lang|es|Anticuchos de pulpo}}) と呼ばれる[[串焼き]]でも振舞われる<ref>{{Cite web|url=https://www.tasteatlas.com/anticucho-de-pulpo|title=Anticuchos de pulpo|website=tasteatlas|pubisher=AtlasMedia Ltd.|accessdate=2024-08-26}}</ref>。調味料に漬けたタコに[[小麦粉]]をまぶし、高温の油でカリカリになるまで揚げたタコの{{仮リンク|チチャロン|en|Chicharrón}} ({{lang|es|Chicharrón de pulpo}}) もペルーの伝統料理である<ref>{{Cite web|url=https://www.tasteatlas.com/chicharron-de-pulpo|title=Chicharrón de pulpo|website=tasteatlas|pubisher=AtlasMedia Ltd.|accessdate=2024-08-26}}</ref>。
{{-}}
== 各地の漁業 ==
タコ漁には何千年もの歴史があり、2014年現在の漁獲量は世界全体で30 t{{Small|([[トン]])}}に及んでいる{{Sfn|カレッジ|2014|p=11}}。漁法も様々で、[[蛸壺|壺]]、網、[[ルアー]]や[[銛|ヤス]]といった道具を用いるほか、素手で獲られることもある{{Sfn|カレッジ|2014|p=11}}。

=== 日本の漁業 ===
[[ファイル:Takotubo_akasi-si_PC012375.jpg|thumb|180px|[[蛸壺]]の並ぶ夕方の漁港<br />([[明石市]]、[[二見港 (兵庫県)|二見港]])]]
[[ファイル:TAKO Ferry 01.JPG|thumb|230px|明石淡路フェリーの「あさしお丸」<br />[[明石港]]、2008年5月撮影。]]
2018年(平成30年)では、日本の海面漁業でタコは36,100 t が漁獲されている{{Sfn|池田|2020|p=11}}。半数は蛸壺や蛸箱による罠漁、1/3は曳網漁、残りは空釣りや定置網漁などにより漁獲されている{{Sfn|奥谷|2013|p=24}}。


日本のタコ漁獲量は[[北海道]]が突出し、24,500 t のタコが漁獲されている{{Sfn|池田|2020|p=11}}。この値には世界最大級のタコである[[ミズダコ]] {{snamei||Enteroctopus dofleini}} や[[ヤナギダコ]] {{Snamei||Paroctopus conispadiceus}} の水揚げが反映されている{{Sfn|池田|2020|p=11}}{{Sfn|奥谷|2013|p=24}}。北海道でのタコ漁業の歴史は古く、明治中期には[[渡島総合振興局]]や[[檜山振興局|檜山]]、[[後志総合振興局|後志]]などで副業としてヤス突き、鉤、銛や延縄によるタコ漁が行われていた{{Sfn|北海道立水産試験場研究員|1991|p=271}}。[[大正時代]]には[[#空釣り|空釣り縄]]が普及した{{Sfn|北海道立水産試験場研究員|1991|p=271}}。道南では明治末期では[[甕]]が用いられていたが、それに代わって蛸箱が使われる等になり、昭和以降[[網走支庁|網走]]や[[日高振興局|日高]]沿岸などの各地に広まった{{Sfn|北海道立水産試験場研究員|1991|p=271}}。
一方、アルプス以北のヨーロッパ諸国では、漁業が盛んな局所をのぞいて、伝統的には食用にはされてこなかった。例えば[[ドイツ]]や[[スイス]]、[[フランス]]の大部分では、伝統料理にタコを見ることはまずない。また、イギリスでは「悪魔の魚 {{lang|en|devilfish}}」などと呼ばれ、避けられていたことは良く知られている。しかし、これらの地域でも、現代では南欧料理やアジアの料理(日本の寿司など)が入ってきており、タコを食べる機会は増えてきている。


[[瀬戸内海]]では古くから蛸壺漁が行われてきた{{Sfn|石田|2017|pp=56–58}}。また、漁獲高では北海道に次いで[[兵庫県]]が第2位であり、[[明石市]]で獲れるマダコはブランド「[[明石ダコ]]」として知られる{{Sfn|池田|2020|p=12}}<ref name="Akashi">{{Cite web|和書|url=http://www.akashi-cci.or.jp/event/takoma.pdf|title=「明石だこ」と半夏生|website=明石商工会議所|accessdate=2024-08-23}}</ref>。またこれに因み、[[明石淡路フェリー]]が「たこフェリー」という愛称で運行されていた<ref>{{cite web|和書|url=https://www.kobe-np.co.jp/news/awaji/202107/0014505671.shtml|title=海賊気分で明石海峡を周遊 旧たこフェリー乗り場発着、16日就航|date=2021-07-16|website=神戸新聞NEXT|publisher=[[神戸新聞社]]|accessdate=2024-08-26}}</ref>。
=== アフリカ ===
[[ファイル:Drying octopus.jpeg|thumb|250px|海辺で[[乾物]]加工されるタコ([[アフリカ大陸]]東岸、[[タンザニア]]の[[ペンバ島]]近隣のミサリ島)]]
[[ファイル:TAKOTSUBO.JPG|thumb|250px|木製の蛸箱<br />(日本、[[北海道]]稚内市宗谷漁港[[[宗谷岬]]])]]<!--「日本のタコ漁」に係る-->
<!--[[ファイル:Takotubo_akasi-si_PC012375.jpg|thumb|180px|[[蛸壺]]の並ぶ夕方の漁港<br />([[明石市]]、[[二見港]])]]-->
[[北アフリカ]]西部の[[モロッコ]]では1980年代後半から日本向け輸出産物として[[マダコ]]漁が盛んである。しかし、乱獲による漁獲量の減少が問題視されている<ref>[http://www.wwf.or.jp/activities/2009/09/623914.html 魚種別にみる水産資源の現状と問題/タコ WWFジャパン]</ref>。
また、[[モーリタニア]]では[[1990年代]]半ば<!--「2009年の約13年前」を基に換算-->に日本企業の経済援助等によって港湾が整備され、以後、日本向け輸出用のマダコ漁が行われるようになった<ref name=TBS2009/>。日本のタコ壺漁の技法が導入されているものの、現地の一般消費者にはタコを食べる習慣が無く、タコについて問い合わせても通じないことが多い。現地の漁業関係者の間でタコは「プルプル」と呼ばれている<ref name=Maeno2017>{{Cite book|和書|author=前野ウルド浩太郎 |authorlink=前野ウルド浩太郎 |title=バッタを倒しにアフリカへ |publisher=[[光文社]] |year=2017 |page=246 |isbn=978-4-334-03989-9}}</ref>。モーリタニア産のタコはもっぱら日本で消費されている。[[2009年]](平成21年)時点で、日本にて消費されるタコの約7割がアフリカ産であり、そのうちの5割がモーリタニア産となっている<ref name=TBS2009>モーリタニア産、および、アフリカ産の割合については、[[TBSテレビ|TBS]]『[[情報7days ニュースキャスター]]』 2009年12月26日放送回に基づく。{{信頼性要検証|date=2016-01-14|title=事実確認の機能を欠く情報源}}</ref>。財務省が公表した2015年の貿易統計によれば、日本のタコ輸入先第1位はモーリタニアの36%、第2位はモロッコの34%、第3位は中国の16%となっている。


[[伊良湖水道]]で獲られた[[三重県]][[鳥羽市]]にある[[神島 (三重県)|神島]]のマダコはブランド「潮騒タコ」として知られる<ref name="maff_mie"/><ref name="toba"/>。ほかにも、[[広島県]]の[[三原市]]漁業協同組合では、地元の伝統行事「[[三原やっさ祭り]]」に因んで「三原やっさタコ」と名付け、ブランド化している<ref name="maff_hiroshima"/>。
== 漁業 ==
=== 漁法 ===
狭い岩の隙間に潜り込む習性を利用した[[蛸壺]]、蛸箱漁業<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.fishexp.hro.or.jp/shidousyo/fishery/gyogyou/takohako/takohako.htm|title=北海道の漁業図鑑 たこ漁業 (たこ箱)|accessdate=2014-1-12}}</ref>は、タコ漁業独特のものである。
;日本のタコ漁<!--日本限定の記述は区別あるべし。-->
日本には<!--朝鮮・中国などにもあるなら「日本」の節から繰り上げに。以下、イイダコ漁(遊漁含む)についても同様。-->餌をつけない[[針金]]で引っ掛ける「から釣り漁法」<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.fishexp.hro.or.jp/shidousyo/fishery/gyogyou/yanagikara/yanagikara.htm|title=(やなぎだこ空釣り縄))|accessdate=2014-1-12}}</ref>も存在する。空の蛸壺が浜辺に積まれている光景は、一部の地域では漁村景観の一つともなっている。また、[[イイダコ]]は白色を好む傾向が強く、[[ラッキョウ]]、豚肉の白身等の白色の物体に[[釣り針]]をつけ、それに抱きつくイイダコを釣る変形の[[ルアー]]釣りも有名である。


=== 日本の陸揚げ漁港 ===
日本の陸揚げ漁港は下記の通りで、第1種共同[[漁業権]]の対象魚種である。
第1種共同[[漁業権]]の対象魚種である。
* [[2002年]]度
* [[2002年]]度
: 第1位 - [[松川浦漁港]]([[福島県]][[相馬市]])
: 第1位 - [[松川浦漁港]]([[福島県]][[相馬市]])
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: 第4位 - [[八戸漁港]]([[青森県]][[八戸市]])
: 第4位 - [[八戸漁港]]([[青森県]][[八戸市]])
: 第5位 - [[庶野漁港]](北海道[[幌泉郡]][[えりも町]]庶野)
: 第5位 - [[庶野漁港]](北海道[[幌泉郡]][[えりも町]]庶野)

日本近海では1960年から1980年代にかけてタコの漁獲量がピーク時の半分にまで激減し、これを改善するため国を挙げて長期プロジェクトが行われた{{Sfn|カレッジ|2014|p=45}}。産卵海域の環境を改善し、個体数を増やすため、瀬戸内海を中心に増殖事業が行われ、毎年12,000–17,000個の産卵用の蛸壺や[[魚礁|岩]]が沈められている{{Sfn|カレッジ|2014|p=45}}<ref name="Akashi"/>増殖事業や資源の維持{{Sfn|竹内ほか|2004|p=192}}。兵庫県では漁業者に対し、100 g 以下のタコの禁漁や共同漁業権区域内の禁漁を定めた兵庫県漁業調整規制が敷かれている<ref name="Akashi"/>。明石商工会議所では一般遊漁者に対しても釣り具の数や形状の規制のタコ釣りルールの周知や、釣り過ぎたタコの放流によるタコマイレージ制度などの導入が行われている<ref name="Akashi"/>。

ミズダコはやや増加傾向にある{{Sfn|竹内ほか|2004|p=192}}。資源管理策としては成長乱獲を防ぐために3歳以上の個体を漁獲することが好ましい{{Sfn|竹内ほか|2004|p=192}}。北海道のミズダコ漁では、各地で2 kg 以下のものは海にリリースするように取り決められている{{Sfn|北海道立水産試験場研究員|1991|p=272}}。青森県でも自主規制として3 kg 未満の個体は水揚げせず、放流している{{Sfn|竹内ほか|2004|p=192}}。

[[山形県]]や[[新潟県]]では、タコが住む巣穴である[[#巣と移動|蛸穴]]の一つ一つに権利の占有があった{{Sfn|新村|1998|p=1641}}。[[飛島 (山形県)|飛島]]ではその占有権を持って嫁ぐこともあったとされる{{Sfn|新村|1998|p=1641}}。

=== アジアの漁業 ===
東南アジアでは主に[[ワモンダコ]] {{snamei|en|Octopus cyanea|'Octopus' cyanea}} が漁獲される{{Sfn|Willer ''et al.''|2023|pp=179–189}}。

[[インドネシア]]の[[水産業]]は中国に次ぐ世界第2位漁獲量を持つ大規模なものである{{Sfn|Willer ''et al.''|2023|pp=179–189}}。また、タコの漁獲量は2017年の小規模タコ漁獲量は17,900 t であり、メキシコに次ぐ第2位である{{Sfn|Willer ''et al.''|2023|pp=179–189}}。そのうち食料として消費される量は4,970 t、輸出量は13,200 tである{{Sfn|Willer ''et al.''|2023|pp=179–189}}。インドネシアにおいてタコの販売と輸出は経済的に重要であり、2017年12月の平均所得は漁師1人当たり150,000 [[インドネシア・ルピア|IDR]]/日 であり、平均純賃金96,000 IDR/日 を上回る{{Sfn|Willer ''et al.''|2023|pp=179–189}}。

=== ヨーロッパの漁業 ===
[[File:Octopus catching pots,Tavira, Portugal (14419911279).jpg|thumb|200px|[[ポルトガル]]で用いられる蛸壺。]]
ヨーロッパ諸国では、自国の漁業水域には比較的厳しい規制をかけており、450 g 未満のタコの捕獲は禁止されている{{Sfn|カレッジ|2014|p=48}}。国によってはさらに厳しい制限が設けられている場合もある{{Sfn|カレッジ|2014|p=49}}。[[スペイン]]の[[ガリシア州]]では、蛸籠漁で捕獲できるタコが750 g から1 kg に引き上げられ、更に厳格なローカルルールが定められている{{Sfn|カレッジ|2014|p=49}}。これにより多くの雌が生き延び、新たな世代の生産を可能にしている{{Sfn|カレッジ|2014|p=49}}。

ガリシアでは大規模なタコ漁が行われるが、その漁獲高の大半は小さな漁村の漁船により獲られたものである{{Sfn|カレッジ|2014|p=26}}。中でも[[ビーゴ (スペイン)|ビーゴ]]と呼ばれる町は[[リアス海岸]]の[[入江]]にあり、深層海水が湧昇流によって沿岸に流れ、豊かな漁場が形成されている{{Sfn|カレッジ|2014|p=26}}。この地域では、生き餌を入れた蛸籠による漁が行われている{{Sfn|カレッジ|2014|p=27}}。

イタリアの[[プッリャ州]]で行われる零細漁業では、素潜りやヤスによるタコ漁を行っている{{Sfn|カレッジ|2014|p=57}}。

=== 北アフリカの漁業 ===
[[File:Octopus capture.png|thumb|200px|left|世界全体の {{snamei|Octopus vulgaris}} の漁獲量の推移。]]
[[File:Back from octopus fishing - Mauritania.jpg|thumb|200px|left|[[モーリタニア]]でタコ漁を終えた舟と漁師。]]
[[北アフリカ]]西部では長年魚を中心とした漁業が行われていたが、1960年代以降標的を転換し、頭足類の商業的な漁業が盛んとなっている{{Sfn|カレッジ|2014|p=47}}。[[モロッコ]]、[[モーリタニア]]、[[セネガル]]などが {{Snamei|ja|Octopus vulgaris|Octopus vulgaris}} の供給元となっている{{Sfn|カレッジ|2014|p=47}}。[[ヌアディブ|現地]]の漁業関係者の間でタコは「プルプル」と呼ばれている<ref name=Maeno2017>{{Cite book|和書|author=前野ウルド浩太郎 |authorlink=前野ウルド浩太郎 |title=バッタを倒しにアフリカへ |publisher=[[光文社]] |year=2017 |page=246 |isbn=978-4-334-03989-9}}</ref>。

[[モロッコ]]では、1960年代に他の魚が乱獲や海洋環境の変化により獲れなくなり、タコ漁が盛んとなった{{Sfn|カレッジ|2014|p=47}}。乱獲により[[1980年]]代から漁獲量が激減し、規制や外国漁船の締め出しが行われるようになった{{Sfn|カレッジ|2014|p=47}}。一時的に回復したものの、20世紀末に再び年間5万 t を超える水揚げが行われ、[[国際連合食糧農業機関]](FAO)により[[乱獲]]地域に指定された{{Sfn|カレッジ|2014|p=47}}。それ以降規制が厳しくなり、漁獲割当量が年間2.5万 t に制限されたほか、禁漁区域の指定や450 g 以下の稚ダコの捕獲禁止などが定められた{{Sfn|カレッジ|2014|p=47}}。近年ではやや回復傾向にあるとされる{{Sfn|カレッジ|2014|p=47}}。2017年では9,884 t のタコが漁獲されている{{Sfn|Willer ''et al.''|2023|pp=179–189}}。

[[モーリタニア]]では水産物を食べる文化はほとんどなかったが<ref name="NHK240121">{{Cite web|和書|url=https://www.nhk.or.jp/radio/magazine/article/gr/cik20240121.html|title=【モーリタニア】実は日本から伝わった!? モーリタニアのタコ漁|website=ちきゅうラジオ|publisher=NHK|date=2024-01-21|accessdate=2024-08-24}}</ref>、モロッコのタコ資源の激減以降、タコの漁獲量を増やし始めた{{Sfn|カレッジ|2014|p=47}}。モロッコのタコは1970年代ごろから日本に輸出されるようになった<ref name="NHK240121"/>。[[国際協力機構]](JICA)によって派遣された[[中村正明]]により蛸壺漁が伝えられ<ref name="NHK240121"/>、それが普及している<ref name="mofa">{{Cite report|和書|url=https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/kuni/12_databook/pdfs/05-45.pdf |format=PDF |title=政府開発援助(ODA)国別データブック 2012|publisher=外務省 |pages=659–665 |accessdate=2024-08-23 }}</ref>。今ではタコ漁に使われる蛸壺はモーリタニア国内で生産されており、[[ピローグ]]と呼ばれるカヌーで漁が行われる<ref name="NHK240121"/>。2017年では、11,679 t のタコが漁獲されている{{Sfn|Willer ''et al.''|2023|pp=179–189}}。最盛期には年間約2–3万 t が日本へ輸出されていたが<ref name="NHK240121"/>、2000年代半ばに日本向けの輸出が25%減少し{{Sfn|カレッジ|2014|p=48}}、2024年現在ではその6割程度となっている<ref name="NHK240121"/>。[[2012年]]現在、モーリタニア産のタコの約6割が日本に輸出され、日本へ輸入されているタコの約4割がモーリタニア産である<ref name="mofa"/>。モーリタニアでも監督当局の取り締まりが甘いこともあり、乱獲されている{{Sfn|カレッジ|2014|p=48}}。ヨーロッパの漁船ではトロール漁が行われ、基準未満のタコの捕獲や、漁獲量の詐称が行われているとされる{{Sfn|カレッジ|2014|p=48}}。しかしモーリタニアは2006年に補償金86,000,000[[ユーロ]]で[[欧州連合]]と漁業協定を結び、ヨーロッパ船籍の漁船の操業を認めている{{Sfn|カレッジ|2014|p=48}}。{{仮リンク|モントレー湾水族館|en|Monterey Bay Aquarium}}が行っている[[シーフードウォッチ]]では、モーリタニアの状況は危機的であるとされ、モーリタニア産のタコは食べないことを推奨している{{Sfn|カレッジ|2014|p=48}}。

2国のタコ漁獲量の減少により、[[セネガル]]でもタコ漁が行われるようになっている{{Sfn|カレッジ|2014|p=48}}。ただし、サイズ制限や休漁期間の設定など既に資源管理が行われている{{Sfn|カレッジ|2014|p=48}}。

=== オセアニアの漁業 ===
[[ハワイ]]では、「ヘエ ({{lang|Haw|He`e}})」(タコの意)や"イカ"と呼ばれ、主にワモンダコなどが漁獲される{{Sfn|カレッジ|2014|p=46}}。ただし漁業としては小規模で、ヤスやジグにより捕獲され、2000年の漁獲量は11.7 t{{Small|([[トン]])}}程度である{{Sfn|カレッジ|2014|p=46}}。

オセアニア地域の[[ニューカレドニア]]、[[ロイヤルティ諸島]]、[[マーシャル諸島]]、[[マリアナ諸島]]、[[トンガ]]や[[サモア]]などでは、ネズミ形の漁具を用いて、タコを獲る漁法が行われている<ref>{{Cite journal|author=塚本晃久|title=ネズミとタコ―ニューカレドニア島イヤンゲーヌの民話―|journal=南半球評論|date=2014|pages=45–56|url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/anzshr/30/0/30_45/_pdf/-char/ja}}</ref>。[[ミクロネシア連邦]]では、タコが年間5 t 漁獲されている<ref>{{Cite report|和書|url=https://www.maff.go.jp/j/budget/yosan_kansi/sikkou/tokutei_keihi/seika_h22/suisan_ippan/pdf/60100139_10.pdf|title=ミクロネシア連邦水産業の現状|publisher=農林水産省|page=4}}</ref>。

=== アメリカの漁業 ===
北アメリカではタコ漁の伝統は古いわけではないが、比較的大きな漁場がいくつかある{{Sfn|カレッジ|2014|p=45}}。南北アメリカでは、主に[[マダコ属]]の {{snamei||Octopus insularis}} と {{snamei||Octopus americanus}} が漁獲される{{Sfn|Willer ''et al.''|2023|pp=179–189}}<ref name="brasilagosto"/>{{Efn|原文では {{snamei|O. vulgaris}} であるが、細分化された {{snamei|O. vulgaris}} のうち、アメリカ大陸近海には {{snamei||O. americanus}} が分布する{{Sfn|Avendaño ''et al.''|2020|pp=909–925}}。}}。

[[メキシコ]]は2017年のタコ漁獲量が42,400 t で、熱帯地域の中で最大である{{Sfn|Willer ''et al.''|2023|pp=179–189}}{{Efn|順に[[インドネシア]]、[[モーリタニア]]、[[モロッコ]]がそれに次いで多いタコの漁獲量となっている{{Sfn|Willer ''et al.''|2023|pp=179–189}}。}}。輸出量も6,700 t と高い値を示す{{Sfn|Willer ''et al.''|2023|pp=179–189}}。[[カリフォルニア湾]]ではマダコ属の1種が漁獲される{{Sfn|カレッジ|2014|p=45}}。2–3人の漁師がパンガと呼ばれる小舟で出航し、1人が舟に残り、もう1人が長いホースで圧縮空気を送り込む潜水で、素手によりタコを捕獲する{{Sfn|カレッジ|2014|p=45}}。[[ハリスコ州]]北部、[[ナヤリット州]]、[[シナロア州]]、[[ソノラ州]]などの浅瀬ではダイバーが[[ギャフ]](魚鉤)でひっかけてタコを捕獲する{{Sfn|カレッジ|2014|p=45}}。[[バハ・カリフォルニア・スル州]]では、水深20–50 m の岩場に5–50個の罠を仕掛ける漁が行われる{{Sfn|カレッジ|2014|p=45}}。カニを付けた30本の引き縄を小舟で曳き、タコが上ってきた際に網で掬って獲る漁法も行われる{{Sfn|川上|1975|pp=143–147}}。

[[アメリカ合衆国]]では南東部の沿岸にはマダコ属の1種、太平洋岸の北西部にはミズダコが分布しているが、漁業としてはあまり整備されていない{{Sfn|カレッジ|2014|p=46}}。

[[カリブ海]]や[[メキシコ湾]]では蛸壺による漁が行われている{{Sfn|川上|1975|pp=143–147}}。

== 漁法 ==
=== 蛸壺漁法 ===
[[File:二枚貝のイイダコ仕掛けP9166509.JPG|thumb|200px|イイダコ漁に用いられる貝殻を利用した「蛸壺」。]]
[[File:TAKOTSUBO.JPG|thumb|200px|[[北海道]]稚内市[[宗谷岬|宗谷漁港]]で積まれる木製の蛸箱。]]
現代では[[ヨーロッパ]]の西海岸から[[東アジア]]にかけて、広く'''[[蛸壺]]'''(たこ壺、タコつぼ)を用いたタコ漁が行われている{{Sfn|カレッジ|2014|p=18}}。これには4000年以上の歴史があり、[[古代エジプト]]でも海中に沈めた[[素焼き]]の壺を用いてタコを漁獲していたことが知られている{{Sfn|カレッジ|2014|p=18}}。古くは陶器であり、プラスチック製の蛸壺に置き換わったが、さらに近年では軽くて扱いやすい籠罠(蛸籠)に移行しつつある{{Sfn|石田|2017|pp=56–58}}。

日本で漁獲されるタコの半分は蛸壺または蛸箱などトラップによる漁法で漁獲されたものである{{Sfn|奥谷|2013|p=24}}。狭い岩の隙間に潜り込む習性を利用した[[蛸壺]]漁業や蛸箱漁業は、タコ漁業独特のものである。蛸壺の内部が汚れていると入らないため、内部の付着生物や餌の残滓を清掃して用いる{{Sfn|奥谷|2013|p=23}}{{Sfn|石田|2017|pp=56–58}}。同様に、潮流が激しく石の表面が掃除されるような環境を好むため、北海道では「あぶら石のあるところには蛸がいる」といわれる<ref name="kaiseiken"/>。蛸壺漁は1500 m 程度の[[延縄]]に、約150個の壺を吊るして行われる{{Sfn|奥谷|2013|p=24}}。そのうち1割程度に入っていれば大漁であるとされる{{Sfn|奥谷|2013|p=24}}。[[マダコ]]漁獲に用いる蛸壺は伝統的には素焼きの壺であったが、戦後から[[かまぼこ]]型の[[セメント]]製蓋付きトラップや、[[硬質ビニル]]製トラップも用いられるようになった{{Sfn|奥谷|2013|p=24}}{{Sfn|石田|2017|pp=56–58}}。蛸壺には地域性があり、瀬戸内海東部では素焼きのものであるが、[[周防灘]]では[[釉薬]]をかけたものが用いられる{{Sfn|石田|2017|pp=56–58}}。

[[イイダコ]]のような小型のタコには、小型の蛸壺のような人工物だけでなく、[[アカニシ]]などの[[腹足類]]や大型[[二枚貝]]の貝殻も利用される{{Sfn|奥谷|2013|p=24}}{{Sfn|石田|2017|pp=56–58}}。インドや[[マレー半島]]でも巻貝の貝殻を用いたタコ漁が行われる{{Sfn|川上|1975|pp=143–147}}。

[[ミズダコ]]のような大型のタコには蛸箱(タコ箱)が用いられる{{Sfn|奥谷|2013|p=24}}{{Sfn|佐野ほか|2017|pp=361–366}}。蛸箱は縦45 cm、横33 cm、高さ19 cm の箱に、16×12 cm の楕円か一辺19 cm の正方形の穴が開いた構造をしており、餌などは用いられない{{Sfn|佐野ほか|2017|pp=361–366}}。木製だけでなくポリエチレン製の蛸箱もある{{Sfn|北海道立水産試験場研究員|1991|p=272}}。ミズダコはそのほか、[[#樽流し|樽流し]]や蛸籠(たこ篭)などでも漁獲される{{Sfn|佐野ほか|2017|pp=361–366}}。

=== 曳網漁 ===
近代的なタコ漁では、底曳網によるタコ漁も行われる{{Sfn|カレッジ|2014|p=19}}。しかし、目的外の生物の混獲や、[[珊瑚]]や[[海藻]]などの損傷など、底生生物の生息環境を攪乱してしまうため、不買運動や規制が行われている{{Sfn|カレッジ|2014|pp=19–20}}。また、幼いタコも捕獲してしまい、リリースされたとしてもダメージを受け死んでしまうことが多い{{Sfn|カレッジ|2014|p=49}}。

日本で漁獲されるタコの1/3は[[曳網]]漁で獲られたものである{{Sfn|奥谷|2013|p=24}}。これには沿岸の小型[[底曳網]]、沖合底曳網、船曳網などが含まれる{{Sfn|奥谷|2013|p=24}}。[[福島県]]では、[[ミズダコ]] {{snamei||Enteroctopus dofleini}} や[[ヤナギダコ]] {{Snamei||Paroctopus conispadiceus}} はほとんどが底曳網により漁獲されている{{Sfn|石田|遠藤|2003|pp=27–48}}。

=== 釣り ===
[[File:Octopus ocellatus (catch).jpg|thumb|200px|テンヤで釣られる[[イイダコ]]。明石市にて。]]
古くから釣りによるタコ漁(蛸釣{{Sfn|尚学図書|1981|p=1547}})も行われている。古代ギリシアでは生き餌を用いた釣りが行われており、[[梁 (漁具)|簗]]による漁とともに[[アリストテレス]]による記録がある{{Sfn|カレッジ|2014|p=19}}。

日本では伝統的に'''蛸賺し'''(たこすかし)と呼ばれる漁法が行われ、竿の先に餌や疑似餌をつけて誘い寄せてタコを獲った{{Sfn|新村|1998|p=1642}}{{Sfn|尚学図書|1981|p=1547}}。蛸賺しは蛸おらぎや蛸さぶき、蛸ねりなどとも呼ばれる{{Sfn|新村|1998|p=1642}}{{Sfn|尚学図書|1981|p=1547}}。

[[イイダコ]]は釣りで漁獲され、イイダコ[[テンヤ]]と呼ばれるおもりのついた針を用いる方法が一般的である{{sfn|平野|2000|p=50}}<ref name="yomiuri201005">{{Cite web|和書|title=イイダコ漁獲量、10年前の1割以下に激減…釣り客にも注意呼びかけ|url=https://www.yomiuri.co.jp/national/20201004-OYT1T50054/|website=読売新聞オンライン|publisher=読売新聞社|date=2020-10-05|archivedate=2020-10-05|archiveurl=https://web.archive.org/web/20201005000601/https://www.yomiuri.co.jp/national/20201004-OYT1T50054/|accessdate=2024-08-11}}</ref><ref name="honda">{{Cite web|和書|url=https://www.honda.co.jp/fishing/picture-book/iidako/trap01/|title=イイダコの仕掛け|website= Honda釣り倶楽部|publisher=[[本田技研工業]]|archiveurl=https://web.archive.org/web/20240418075747/https://www.honda.co.jp/fishing/picture-book/iidako/trap01/|archivedate=2024-04-18|accessdate=2024-08-11}}</ref>。イイダコは好物の二枚貝と似た白色のものを好む傾向があるとされ、テンヤには[[ラッキョウ]]や白いラッキョウ形の陶器を用いるのが主流である{{sfn|平野|2000|p=50}}{{Sfn|小西|2010|p=139}}<ref name="honda"/>。前者は特に関東地方、後者は関西から中国地方にかけてで一般的である{{sfn|平野|2000|p=50}}。ネギの白い部分、豚の脂身などが用いられることもある{{sfn|平野|2000|p=50}}<ref name="honda"/>。[[香川県]]ではテンヤが底曳網に絡まり、漁業に支障を来す被害が続いているほか、漁獲量の激減により、釣り客への呼びかけが行われている<ref name="yomiuri201005"/>。

沖縄では[[ワモンダコ]]が「島だこ」と呼ばれて親しまれ、釣りなどで漁獲される{{Sfn|小西|2010|p=163}}。対し、同音の標準和名を持つ[[シマダコ]]は「しがや」や「しーがい」と呼ばれ、こちらも釣りで捕獲される{{Sfn|小西|2010|p=161}}。

ハワイ近海では疑似餌を用いたタコ漁が行われる{{Sfn|カレッジ|2014|p=19}}。古くはタカラガイの貝殻をルアーとして用いており、現代ではカニを模したルアーを用いる{{Sfn|カレッジ|2014|p=19}}。長い釣り糸に疑似餌を取りつけて海底近くを這わせ、返しのない針数本で引き揚げる{{Sfn|カレッジ|2014|p=19}}。

=== 流し釣り ===
餌をつけない[[針金]]で引っ掛ける'''{{Vanchor|空釣り}}'''(からづり)漁法も行われる{{Sfn|奥谷|2013|p=24}}。[[北海道]]の太平洋沿岸(主に[[道東]])では、冬から春にかけて、[[ヤナギダコ]]が空釣り縄で漁獲される{{Sfn|安東|2023|pp=10–13}}<ref name="hro">{{Cite web|和書|url=https://www.hro.or.jp/fisheries/h3mfcd0000000gsj/marine/o7u1kr000000019q/o7u1kr000000d0kz/o7u1kr000000d4fu/o7u1kr000000cxgq.html|title=ヤナギダコ:たこ漁業(やなぎだこ空釣り縄)|website=地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 水産研究本部|date=2013-03-01|accessdate=2024-08-11}}</ref>。これは餌の付いていない針を海底に這わせ、移動するタコを引っ掛けることにより漁獲する漁法である{{Sfn|安東|2023|pp=10–13}}。空釣り縄では、ヤメと呼ばれる針と枝縄のセットが笊に100本分ずつ仕掛けられ、縄を繋いで投縄される<ref name="hro"/>。1放しの縄(約1,800 m)には笊50鉢分の仕掛けが取り付けられ、両端にはボンデンと呼ばれる浮標が立てられる<ref name="hro"/>。

'''{{Vanchor|いさりびき}}'''では、「イサリ」と呼ばれる鉤が付いた漁具に餌を付けてタコのいる海底を曳き、釣り上げる{{Sfn|北海道立水産試験場研究員|1991|p=278}}{{Sfn|『せたかむい』12月号|2004|p=1}}。北海道[[古平町]]では、明治45年([[1912年]])に自家用としていさりびきの記録が残っている{{Sfn|『せたかむい』12月号|2004|p=1}}。[[北海道におけるニシン漁史|ニシン漁]]の終わるころから出漁し、それぞれの漁期のつなぎ漁として漁獲されていた{{Sfn|『せたかむい』12月号|2004|p=1}}。盛漁期は5–6月{{Sfn|『せたかむい』12月号|2004|p=1}}。手釣りのいさりびきは明治時代から行われていたが、1958年に[[茨城県]]の漁法を改良した'''{{Vanchor|樽流し}}'''が北海道のタコ漁に導入された{{Sfn|北海道立水産試験場研究員|1991|p=278}}。樽流しは[[宗谷総合振興局|宗谷]]北部や道南日本海の主要な漁法となっている{{Sfn|北海道立水産試験場研究員|1991|p=278}}。海底を引きずる長さの釣り糸の先に樽といさりを1個ずつ付け、小型船から20個ほど流す{{Sfn|北海道立水産試験場研究員|1991|p=278}}。

また、北海道で[[アブラツノザメ]]や[[シャコ]]などを餌とした[[延縄]]漁が空釣りに並び盛んに行われていたが、1955年以降にはほとんど行われなくなった{{Sfn|北海道立水産試験場研究員|1991|p=272}}。

=== 銛 ===
[[File:Octopus Fishing In Malindi, Kenya.jpg|thumb|200px|[[ケニア]]でタコを棒で捕えている様子。]]
[[銛]]やヤス(簎)、鉤による漁も行われる{{Sfn|川上|1975|pp=143–147}}。これが最も古い漁法であるとされ、熱帯地域で行われる{{Sfn|川上|1975|pp=143–147}}。例えば、[[モーリシャス]]などでは銛や徒手によりタコを捕獲する{{Sfn|カレッジ|2014|p=19}}。

タコを捕らえるのに用いる鉤は'''蛸鉤'''(たこかぎ)と呼ばれ、長い竿の先に鉤を取り付けて用いられる{{Sfn|新村|1998|p=1641}}{{Sfn|尚学図書|1981|p=1547}}。

=== その他のタコ漁 ===
[[定置網]]漁も行われる{{Sfn|奥谷|2013|p=24}}。

[[長崎県]][[五島市]]の[[福江島]]では、干潮の時に、岩礁に生息する[[マメダコ]]に塩を吹きかけて捕らえるマメダコ捕りが行われる<ref name="NHK230919">{{Cite web|和書|url=https://www3.nhk.or.jp/lnews/nagasaki/20230919/5030019027.html|title=“塩を吹きかけ捕まえる”「マメダコ」漁が シーズン 五島市|date=2023-09-19|website=長崎 NEWS WEB|publisher=NHK|archiveurl=https://web.archive.org/web/20230927003351/https://www3.nhk.or.jp/lnews/nagasaki/20230919/5030019027.html|archivedate=2023-09-27|accessdate=2024-08-11}}</ref>。かつては家庭の竈から出た[[灰]]を吹きかけて捕まえられ、「灰吹きダコ」や「ヒャーダコ」などの方言名で知られる<ref name="NHK230919"/>。


=== 養殖 ===
=== 養殖 ===
[[日本]]、[[オーストラリア]]、[[スペイン]]、[[メキシコ]]、[[イタリア]]、[[中華人民共和国|中国]]など、世界中で養殖の研究が行われているが、商業用の養殖には長年にわたって成功していなかった{{sfn|Schweid|2014|p=103}}{{sfn|Katherine|2014|p=257}}。稚ダコの成長には生き餌が必要であり、養殖には場所も人手もかかるためである{{sfn|Katherine|2014|p=85}}。
漁獲圧が高まってタコが減少し、タコ[[養殖]]への関心が高まった{{sfn|カレッジ|2014|p=257}}。[[日本]]、[[オーストラリア]]、[[スペイン]]、[[メキシコ]]、[[イタリア]]、[[中華人民共和国|中国]]など、世界中で養殖の研究が行われているが、商業用の養殖には長年にわたって成功していなかった{{sfn|Schweid|2014|p=103}}{{sfn|カレッジ|2014|p=257}}。稚ダコの成長には生き餌が必要であり、養殖には場所も人手もかかるためである{{sfn|カレッジ|2014|p=85}}{{Sfn|池田|2020|p=216}}。

メキシコでは[[オクトパス・マヤ]]という種類のタコの養殖が試みられており一定の成果が上がっている<ref>{{Cite web|url=http://blogs.scientificamerican.com/octopus-chronicles/first-octopus-farms-get-growing/|title=First Octopus Farms Get Growing|accessdate=2015-06-16}}</ref>。日本では2017年に世界で2番目に[[ニッスイ]](当時の旧日本水産)がマダコの完全養殖に成功している<ref>[http://www.nissui.co.jp/news/20170608.html マダコの完全養殖の技術構築に成功]</ref><ref>[https://mainichi.jp/articles/20170609/ddm/008/020/024000c 日本水産 マダコの完全養殖成功 事業化目指す]</ref><ref>[https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1706/08/news136.html 日本水産、世界で類を見ない「マダコの完全養殖」に成功]</ref><ref name="TSURINEWS20211221">{{Cite web |author=脇本哲朗 |url=https://tsurinews.jp/120924/ |title=タコの養殖が商業的に成功していないワケ 技術自体は確立されている? |website=TSURINEWS |publisher=[[週刊つりニュース#発行会社|株式会社週刊つりニュース]] |language=ja |date=2020-08-13 |accessdate=2024-07-27}}</ref>。しかし、後述のように倫理的問題もあることから、いずれも2020年代に入るまで商業ベースには到達していなかった。
養殖にかかわる一つ目の課題は孵化後の餌の供給であり、これは日本で[[1960年代]]に解決された{{Sfn|池田|2020|p=214}}{{Sfn|伊丹ほか|1963|pp=514–520}}。マダコの稚仔に甲殻類の幼生を餌として与えると、浮遊期の幼生を着底まで育てることができる{{Sfn|池田|2020|p=214}}{{Sfn|伊丹ほか|1963|pp=514–520}}{{Sfn|竹内ほか|2004|p=352}}。しかし、甲殻類の幼生の親を野外で捕獲して利用する天然頼みのもので、多くの餌生物を必要とし、完全養殖には至らなかった{{Sfn|池田|2020|p=214}}{{Sfn|伊丹ほか|1963|pp=514–520}}{{Sfn|竹内ほか|2004|p=352}}。

また、稚ダコの安定した飼育法はタコの養殖のボトルネックの一つであり、活発に研究されてきた{{Sfn|池田|2020|p=215}}。1960年代以降の研究では人工的に孵化させた[[アルテミア]]でも飼育できるようになった{{Sfn|池田|2020|p=214}}。アルテミア単体では必要な栄養素が不足するため、[[ドコサヘキサエン酸]]や[[エイコサペンタエン酸]]をアルテミア幼生に与えてからそれを食べさせることで、大量培養可能な飼料での育成が可能になった{{Sfn|池田|2020|p=214}}。2000年代の日本では、[[浜崎活幸]]と[[竹内俊郎]]らにより、浮遊期の生残率と成長率を上げる研究が行われた{{Sfn|池田|2020|p=215}}。餌としてアルテミア以外に[[イカナゴ]]のスライスを与え、飼育水に[[ナンノクロロプシス]] {{Snamei||Nannochloropsis}} を添加することでマダコが摂取する餌の栄養価を高めることに成功した{{Sfn|池田|2020|p=215}}。

世界初のタコの完全養殖は2004年に {{snamei|[[Octopus vulgaris]]}} で、8か月を経て孵化から成体までの飼育成功が報告された{{Sfn|池田|2020|p=215}}<ref>{{Cite journal|last1=Iglesias|first1=J. |last2=Otero|first2=J.J. |last3=Moxica|first3=C. |last4=Fuentes|first4=L. |last5=Sánchez|first5=F.J. |date=2004|title=The Completed Life Cycle of the Octopus (''Octopus vulgaris'', Cuvier) under Culture Conditions: Paralarval Rearing using Artemia and Zoeae, and First Data on Juvenile Growth up to 8 Months of Age|journal=Aquaculture International|volume=12 |pages= 481–487|doi=10.1023/B:AQUI.0000042142.88449.bc}}</ref>。日本では2017年に世界で2番目に[[ニッスイ]](当時の旧日本水産)がマダコの完全養殖に成功している{{Sfn|池田|2020|p=216}}<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP447502_Y7A600C1000000/ |title=日本水産、マダコの完全養殖の技術構築に成功|website=日本経済新聞|date=2017-06-08|accessdate=2024-08-23}}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1706/08/news136.html |title=日本水産、世界で類を見ない「マダコの完全養殖」に成功|website=ITmedia ビジネスオンライン|date=2017-06-08|accessdate=2024-08-30}}</ref><ref name="TSURINEWS20211221">{{Cite web |author=脇本哲朗 |url=https://tsurinews.jp/120924/ |title=タコの養殖が商業的に成功していないワケ 技術自体は確立されている? |website=TSURINEWS |publisher=[[週刊つりニュース#発行会社|株式会社週刊つりニュース]] |language=ja |date=2020-08-13 |accessdate=2024-07-27}}</ref>。しかし、いずれも2020年代に入るまで商業ベースには到達していなかった。

浮遊期から着床期に至るまでの生残率は低いままで{{Sfn|池田|2020|p=216}}、餌以外の要因が考えられた{{Sfn|池田|2020|p=217}}。[[團重樹]]らは水槽内のマダコ稚仔を観察し、[[エアレーション]]による下降流が稚仔の成長を妨げていることを明らかにし{{Sfn|池田|2020|p=217}}、2018年にこれを改善する設計の水槽を発表した{{Sfn|池田|2020|p=218}}。浮遊期の擬幼生は外套腔の海水を漏斗から噴出して得られるジェット推進により水中に留まっている{{Sfn|池田|2020|p=217}}。餌を捕獲して水槽の底に運ばれた擬幼生は浮上するために餌を捨てて上昇を試みるが、餌を十分に摂取できず衰弱してしまう{{Sfn|池田|2020|p=217}}。そこで、水槽の中央にパイプを設置して水槽底面から水流を生み出すことで{{Sfn|池田|2020|p=217}}、水槽内に[[湧昇流]]を生み、生残率が格段に上昇した{{Sfn|池田|2020|p=218}}。

メキシコではマダコ属の[[マヤダコ]]{{Sfn|土屋|2002|p=94}} {{snamei||Octopus maya}} の養殖が試みられており一定の成果が上がっている<ref>{{Cite web|url=http://blogs.scientificamerican.com/octopus-chronicles/first-octopus-farms-get-growing/|title=First Octopus Farms Get Growing|accessdate=2015-06-16}}</ref>。タコの商業的な養殖は2021年から世界で初めて[[カナリア諸島]]において、[[スペイン]]の水産会社{{仮リンク|ヌエバペスカノバ|en|Nueva Pescanova}}により行われている<ref>{{Cite web |author= |url=https://gigazine.net/news/20211221-world-first-octopus-farm/ |title=世界初のタコ養殖場がオープンしたというニュースに「知性を持つ生き物が食用に養殖されるべきではない」と科学者が落胆 |publisher=[[GIGAZINE]] |language=ja |date=2021-12-21 |accessdate=2024-07-27}}</ref>。

==== 養殖反対活動 ====
タコを食べる文化がない英米圏では、研究における規制や養殖の禁止を求める動きが相次いだ。

頭足類の研究者の一部はタコを高等動物として配慮を要するとする主張を行っている{{Sfn|カレッジ|2014|p=177}}。2012年に国際的な脳科学者のグループが発表した「ケンブリッジ意識宣言」では、タコの神経系は、鳥類や哺乳類と同様に意識と看做すのに十分な主観的体験ができると明記された{{Sfn|カレッジ|2014|p=178}}。イギリスでは、タコを含む頭足類は研究対象としては脊椎動物と同様に扱われ、「痛み、苦しみ、ストレス、持続する苦痛」を与えかねない実験から法的に保護された動物となっており、EUも脊椎動物と同様の規制を求めている{{Sfn|カレッジ|2014|p=178}}。しかし別の科学者からは、タコの神経系や痛覚の経路の仕組みは完全には理解されておらず、どのように扱えば実験条件として適切かや、実際にタコの不快感を和らげるのに効果があるのかすら分からないという指摘もある{{Sfn|カレッジ|2014|p=178}}。

2021年、イギリスの Jonathan Birch らは、300以上の科学的研究を調査に、タコは「感性のある存在」であり、喜び、興奮だけでなく、痛み、苦痛、害も経験できるという「強力な科学的証拠」があると結論付けた<ref>{{Cite web|url=https://www.lse.ac.uk/News/News-Assets/PDFs/2021/Sentience-in-Cephalopod-Molluscs-and-Decapod-Crustaceans-Final-Report-November-2021.pdf|title=Review of the Evidence of Sentience in Cephalopod Molluscs and Decapod Crustaceans|accessdate=20211227|format=PDF}}</ref>。この調査を受け、2021年11月に、イギリス政府の審査委員会は「タコやカニや大型エビにも苦痛の感覚がある」として、同国で審議されている動物福祉法案の保護対象に感覚をもつ動物として追加した<ref name=":0">{{Cite web|url=https://www.bbc.com/news/science-environment-59667645|title=The world's first octopus farm - should it go ahead?|accessdate=20211227}}</ref>。前述の報告書の著者らは、大量のタコを近接して飼うと、ストレスや衝突を生み、10–15%という高い死亡率に繋がるため、容認出来ないと述べ、高い動物福祉が要求されるタコ養殖は「不可能」と論じている<ref>{{Cite web |url=https://www.bbc.co.uk/news/science-environment-64814781 |title=World's first octopus farm proposals alarm scientists |access-date=2023-03-26}}</ref>。
また、タコの商業養殖の実現が間近となっていることを受け、[[イギリス政府]]は将来「輸入養殖タコの禁止を検討する可能性がある」ともいう<ref name=":0">{{Cite web|url=https://www.bbc.com/news/science-environment-59667645|title=The world's first octopus farm - should it go ahead?|accessdate=20211227}}</ref>。

アメリカのワシントン州は世界で初めてタコ養殖を法的に禁止した<ref>{{Cite web |url=https://ali.fish/blog/washington-state-prohibits-octopus-farming-a-major-victory-for-animals |title=Washington State Prohibits Octopus Farming: A Major Victory for Animals |access-date=20240321}}</ref>。[[カリフォルニア州]]、[[ハワイ州]]では、タコの養殖を禁止する法案が提出されている<ref>{{Cite web |url=https://aldf.org/article/octopus-farming-ban-introduced-in-california/ |title=Octopus Farming Ban Introduced in California |access-date=20240223}}</ref>。

タコの完全養殖に成功し、養殖は技術的には確立されていたが、高い知能を持つとされていることから、倫理的問題が指摘されていて、商業化には単に技術的な問題だけでなく、なお高いハードルが存在していた<ref name="TSURINEWS20211221" />。実際に商業的な養殖がおこなわれるようになったことを受けて、[[2024年]][[7月25日]]にはアメリカ合衆国議会において、「非倫理的な方法で生産されたタコの養殖および取引に反対する法律 (Opposing the Cultivation and Trade of Octopus Produced through Unethical Strategies Act{{Efn|略してOCTPUS Actで「タコ法」}})」案が提出された。これは[[絶滅危惧種]]の保護のように天然漁業を規制するものではなく、[[動物の権利]]の観点からアメリカにおける商業的なタコ養殖事業を禁止したり、[[アメリカ海洋大気庁]]にタコの漁獲方法に関するデータの収集を義務づけることなどが盛り込まれている<ref>{{Cite web |author= |url=https://gigazine.net/news/20240726-octopus-farming-ban-us/ |title=タコの養殖を禁止する「オクトパス法案」がアメリカ議会に提出される、「タコに自由を」と科学者 |publisher=[[GIGAZINE]] |language=ja |date=2024-07-26 |accessdate=2024-07-27}}</ref>。

== 利用 ==
=== 飼育と展示 ===
[[File:Paul the Octopus 1.jpg|thumb|200px|南アフリカワールドカップ準決勝のドイツ対スペイン戦の結果を予言するパウル]]
底生の無触毛亜目のタコは、日本では[[マダコ]]<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.kaiyukan.com/area/exhibition/067.html|title=マダコ|常設展示|展示・館内紹介|website=海遊館|accessdate=2024-08-29}}</ref><ref name="shikoku">{{Cite web|和書|url=https://shikoku-aquarium.jp/kannai/exhibition/creature/213.html|title=マダコ - いきもの紹介|website=[[四国水族館]]|accessdate=2024-08-27}}</ref>や[[ミズダコ]]<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.kaiyukan.com/connect/blog/2015/02/post-640.html|title=ミズダコを展示しています|website=海遊館|date=2015-02-19 |accessdate=2024-08-29}}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=https://www.muromin.jp/news.php?id=87714|title=「吸盤くっついた」 ミズダコ触って観察、むろみん水族館|website=Webむろみん 電子版|publisher=室蘭民報社|date=2023-06-05|accessdate=2024-08-27}}</ref><ref name="yomiuri240129">{{Cite web|和書|url=https://www.yomiuri.co.jp/national/20240128-OYT1T50133/|title=水族館にミズダコ専門館、1億2000万円で建設した施設は巨大なタコが侵入してくるデザイン|website=読売新聞オンライン|publisher=読売新聞社|date=2024-01-29|accessdate=2024-08-27}}</ref>などが、海外でも {{snamei||Octopus vulgaris}}<ref>{{Cite web|url=https://www.visitsealife.com/london/explore/creatures/octopus/|title=Octopus|website=SEA LiFE London Aquarium|accessdate=2023-11-22}}</ref><ref>{{Cite web|url=https://www.visitsealife.com/paris/en/whats-inside/our-animals/octopus/|title=Octopus|website=SEA LiFE Paris|accessdate=2023-11-22}}</ref><ref>{{Cite web|url=https://tonmo.com/threads/octopus-vulgaris-cognitive-expriment-tank-in-austria-europe.81063/|title=Octopus vulgaris cognitive expriment tank in Austria (Europe)|author=Wolfgang_Slany|website=TONMO: The Octopus News Magazine Online|date=2023-09-18|accessdate=2023-11-22}}</ref> や {{snamei||Octopus bimaculoides}}<ref>{{Cite web|url=https://www.aquariumofpacific.org/onlinelearningcenter/species/california_two_spot_octopus|title=California Two-spot Octopus|website=Online Learning Center|publisher=Aquarium of the Pacific|accessdate=2024-08-28}}</ref>が[[水族館]]でよく飼育される。[[ドイツ]]・[[オーバーハウゼン]]の水族館 {{lang|en|Sea Life Oberhausen}} では、「タコの[[パウル (タコ)|パウル]] ({{lang|de|Paul der Krake}})」と呼ばれる {{snamei|Octopus vulgaris}} が飼育され、[[2010 FIFAワールドカップ]] の結果の「予言」を行ったことでよく知られている{{sfn|池田|2020|p=39}}{{Sfn|カレッジ|2014|p=138}}。[[ヒョウモンダコ]]も長期間ではないが、飼育されることがある<ref>{{Cite web|和書|url=https://aquarium.co.jp/diary/2022/01/56930|title=ヒョウモンダコを展示しています|date=2022-01-25|author=森滝丈也|website=鳥羽水族館 飼育日記|accessdate=2024-08-29}}</ref>。それに対し、浮遊性の無触毛亜目や深海性の有触毛亜目のタコの飼育例は少なく、前者では[[アオイガイ]]や[[タコブネ]]<ref>{{Cite web|和書|url=https://mainichi.jp/articles/20191108/k00/00m/040/067000c|title=貝かぶったタコ 貴重なお披露目 「アオイガイ」・新潟の水族館|website=毎日新聞|date=2019-11-08|accessdate=2024-08-29}}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=https://aquarium.co.jp/diary/2016/09/26600|title=タコブネを展示しました|date=2016-09-27|author=森滝丈也|website=鳥羽水族館 飼育日記|accessdate=2024-08-29}}</ref>が、後者では[[メンダコ]]や[[オオメンダコ]]がごく短期間飼育されるのみである<ref>{{Cite web|和書|url=https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1607/01/news123.html|title=沼津港深海水族館が”メンダコ”展示の世界記録更新中 カメラを向け続けると死ぬくらい繊細、記録更新の秘訣は?|website=ねとらぼ|date=2016-07-01|accessdate=2024-08-29}}</ref><ref>{{Cite web|url=https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000624.000020364.html|title=サンシャイン水族館飼育「メンダコ」死亡のお知らせ 国内最長展示76日間|author=株式会社サンシャインシティ|website=PR TIMES|date=2022-03-15|accessdate=2024-08-29}}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=https://www.tokyo-zoo.net/topic/topics_detail?kind=news&inst&link_num=26367|title=世界初! メンダコが孵化する瞬間の撮影に成功!! 葛西|website=東京ズーネット|date=2020-08-20|accessdate=2024-08-29}}</ref><ref>{{Cite web|url=https://www3.nhk.or.jp/lnews/fukushima/20231221/6050024852.html|title=いわき市の水族館の「オオメンダコ」飼育が国内最長記録を更新|website=福島 NEWS WEB|publisher=NHK|date=2023-12-21|accessdate=2024-08-29}}</ref>。しかし、前述の通りマダコでも完全養殖は難しく、稚仔の飼育の難易度が高いため、ミズダコなどでは世代を回した飼育は行われていない<ref name="yomiuri240129"/>。

哺乳類の動物飼育の現場では、その飼育環境を良くする「エンリッチメント」が叫ばれているが、タコについても知能が高いため、退屈しないように刺激を絶やさないようにする工夫が行われることがある{{Sfn|カレッジ|2014|p=145}}。

タコは[[脊椎動物]]のような[[骨]]を持たず柔軟であるため{{Sfn|池田|2020|p=19}}、口器が通る大きさなら非常に狭い空間でも通り抜ける事ができ{{Sfn|カレッジ|2014|p=73}}、水族館で飼育されているタコが脱走することもある<ref name="shikoku"/><ref>{{Cite web|和書|author=Wajeeha Malik|translator=三枝小夜子|url=https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/041800141/|title=水族館脱走タコ、愛嬌ある性格で人気の若者だった|website=ナショナルジオグラフィック日本版|date=2016-04-19|accessdate=2024-08-07}}</ref>。

=== バイオミメティクス ===
タコの腕はあらゆる方向に自在に曲げることができ、2倍にも伸長することができるうえ、失っても完全に再生する能力を持つため、[[神経学]]の研究やロボットのモデルにも用いられている{{Sfn|カレッジ|2014|p=180}}。しなやかに曲がり、吸盤を具えたタコの腕に着想を得た、あらゆるものを掴むことのできるソフトロボットなどが開発されている<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2006/10/news040.html|title=タコのように曲がり吸盤を駆使する触手ロボット ハーバード大など開発|date=2020-06-10|website=ITmedia NEWS|accessdate=2024-08-29}}</ref>。

腕は脳神経節がすべて制御しているわけではなく、それぞれの腕の先端にまで神経索が通り、脳と無関係に運動できる{{Sfn|カレッジ|2014|p=180}}。また、繊細な作業も力強い行動も行うことができ、それぞれの腕同士を連携させることもできる{{Sfn|カレッジ|2014|p=180}}。この腕同士のコミュニケーションや分散知能システムについても自律型ロボットへの応用が期待され、研究されている{{Sfn|カレッジ|2014|p=180}}。

腕に並んだ吸盤も工学的に研究され、ロボットのモデルとなっている。吸盤はそれぞれに思い思いに伸びたり、物を撮んだり放したりすることができる{{Sfn|カレッジ|2014|p=180}}。タコの吸盤を模倣したロボットハンド(真空グリッパ)が開発されている<ref>{{Cite web|和書|url=https://www2.itc.kansai-u.ac.jp/~t100051/r_gripper_j.html|title=タコの吸盤を模倣したロボットハンド|website=関西大学システム理工学部 機械工学科 ロボット・マイクロシステム研究室|accessdate=2024-08-29}}</ref>


また、タコは素早く精巧な体色変化を行い、反射性や質感、明るさを周囲の環境に合わせて変化させることができる{{Sfn|カレッジ|2014|p=96}}。[[超音波]]による探知器は古くから軍事的な研究がなされてきたため、それを回避する技術の開発が進められている{{Sfn|カレッジ|2014|p=123}}。しかし、そういった仕組みを用いないタコの擬態も軍事利用を目指して、[[アメリカ海軍]]などから資金提供を受けた研究が進んでいる{{Sfn|カレッジ|2014|p=124}}。タコは瞬時に周囲の背景に合わせた体色変化ができるため、眼を経由した視覚情報以外にも、皮膚で光や色を感知できる仕組みがあるのではないかと考えられている{{Sfn|カレッジ|2014|p=127}}。タコの擬態の仕組みを[[バイオミメティクス|模倣]]し、色や光を感じ取ってその通りに模倣できる新素材の開発が進められている{{Sfn|カレッジ|2014|p=124}}。
=== 養殖にかかる倫理的問題と保全活動 ===
タコの商業的な養殖は2021年から世界で初めて[[カナリア諸島]]において、{{仮リンク|ヌエバペスカノバ|en|Nueva Pescanova}}により行われている<ref>{{Cite web |author= |url=https://gigazine.net/news/20211221-world-first-octopus-farm/ |title=世界初のタコ養殖場がオープンしたというニュースに「知性を持つ生き物が食用に養殖されるべきではない」と科学者が落胆 |publisher=[[GIGAZINE]] |language=ja |date=2021-12-21 |accessdate=2024-07-27}}</ref>。タコの完全養殖に成功し、養殖は技術的には確立されていたが、高い知能を持つとされていることから、倫理的問題が指摘されていて、商業化には単に技術的な問題だけでなく、なお高いハードルが存在していた<ref name="TSURINEWS20211221" />。実際に商業的な養殖がおこなわれるようになったことを受けて、[[2024年]][[7月25日]]にはアメリカ合衆国議会において、「非倫理的な方法で生産されたタコの養殖および取引に反対する法律(Opposing the Cultivation and Trade of Octopus Produced through Unethical Strategies Act、略してOCTPUS Actでタコ法)」案が提出された。これは[[絶滅危惧種]]の保護のように天然漁業を規制するものではなく、[[動物の権利]]の観点からアメリカにおける商業的なタコ養殖事業を禁止したり、[[アメリカ海洋大気庁]]にタコの漁獲方法に関するデータの収集を義務づけることなどが盛り込まれている<ref>{{Cite web |author= |url=https://gigazine.net/news/20240726-octopus-farming-ban-us/ |title=タコの養殖を禁止する「オクトパス法案」がアメリカ議会に提出される、「タコに自由を」と科学者 |publisher=[[GIGAZINE]] |language=ja |date=2024-07-26 |accessdate=2024-07-27}}</ref>。


== 文化 ==
== 文化 ==
[[File:Octopus @ Asukayama Park @ Oji (9531916664).jpg|thumb|left|180px|[[飛鳥山公園]]にある鉢巻を巻いたタコの[[遊具]]。]]
{{雑多な内容の箇条書き|section=1|date=2013年9月21日 (土) 05:43 (UTC)}}
{{Multiple image
[[ファイル:AMI - Oktopusvase.jpg|thumb|200px|タコが描かれた前期[[ミノア文明]]の[[土器]]<br />[[クレタ島]][[イラクリオン]]にて[[紀元前1500年]]の地層より出土。ギリシャ、[[アテネ国立考古学博物館]]所蔵。]]
|align=right
日本ではその形態、生態がきわめて特徴的でユーモラスでもあり、また、茹でると真っ赤になるなどといった性質から、漫画・映画・テレビ番組などでキャラクター化されることが多い(茹でたあとの赤色で表現されることがほとんど。しばしば、胴体を頭部になぞらえ、目や突き出た口を持ち、足は極端に短く、額に当たる部分に[[鉢巻]]を巻いた姿で描かれる)。足の数である八が縁起がよいとされ、「多幸」との字を当てて縁起物としても扱われた。単純に馬鹿にする言葉としても「タコ」という呼称が使われ、転じて、[[馬鹿]]や[[初心者]]、ハゲを指して「タコ」という表現もあちこちで見られる。同じ墨を吐く動物として、[[イカ]]と対比されることが多い。
|total_width=400
|image1=AMI - Oktopusvase.jpg
|caption1=タコが描かれた前期[[ミノア文明]]の[[土器]]{{Efn|[[クレタ島]][[イラクリオン]]にて[[紀元前1500年]]の地層より出土。ギリシャ、[[アテネ国立考古学博物館]]所蔵。}}。
|image2=Fontana della Ninfa, Bologna.jpg
|caption2=[[ボローニャ]]のモンタニョーラ公園にあるニンフの噴水の彫刻。
}}
[[File:Kisaburō Ohara, Europe and Asia Octopus Map, 1904 Cornell CUL PJM 1145 01.jpg|thumb|250px|[[小原喜三郎]]の『滑稽欧亜外交地図』。ロシアが黒蛸に描かれる。]]
タコはその見た目から、世界各地でキャラクターのモチーフとなっており、神話や伝承にも登場する。


地中海沿岸諸国では古来、タコは食用であり、身近な存在であった{{Sfn|瀧|1999|p=329}}。例えば、[[紀元前16世紀|紀元前1,600年頃]]の[[クレタ文明]]や[[ミノア文明]]では[[貨幣]]にタコが描かれ、[[紀元前12世紀|紀元前1,200年頃]]の[[ミケーネ文明]]でも[[鐙壺]]の図案に用いられた{{Sfn|カレッジ|2014|p=14}}。また、[[アリストテレス]]([[紀元前384年]] - [[紀元前322年]])は著作『[[動物誌 (アリストテレス)|動物誌]]』 (''Historia Animalium'') の中で[[アオイガイ属]] {{snamei||Argonauta}} や[[イチレツダコ]] {{Snamei||Eledone}} について述べている{{Sfn|瀧|1999|p=329}}。[[ボローニャ]]の{{仮リンク|モンタニョーラ公園|en|Park of Montagnola, Bologna}}にある[[ニンフ]]の噴水の彫刻には、乙女の[[太腿]]に腕を巻き付かせるタコが彫られている{{Sfn|カレッジ|2014|p=239}}。近年では[[入れ墨|タトゥー]]や[[ネクタイ]]、[[クッション]]の柄など様々なところでタコが描かれ、図案として用いられる{{Sfn|カレッジ|2014|p=14}}。
先述([[#ヨーロッパ]])のとおり、地中海沿岸諸国では古来、タコは食用であり、身近な存在であった。しかし、ヨーロッパ中北部では「悪魔の魚」とも呼ばれ、忌み嫌われてきた。タコは潜水夫を丸飲みにするともいわれる{{誰2|title=主語が無い。それを言っているのはどの範囲の人々なのか。|date=2009年10月}}。イラストに描かれる際も、足を強調してグロテスクに描かれ、紫色に塗られることが多い。

日本では食材としての身近さから、「タコ文化」が根付いている{{Sfn|池田|2020|p=13}}。その形態がユーモラスであり、様々なキャラクターに用いられる{{Sfn|池田|2020|p=13}}。飾り切りをした[[ソーセージ]]は「[[たこさんウィンナー]]」と呼ばれ、しばしば[[弁当]]に入れて親しまれる{{Sfn|池田|2020|p=3}}。また、茹でると真っ赤になるなどといった性質から、茹でたあとの赤色で表現されることがほとんどで、しばしば、胴体を「頭」に、漏斗を突き出た「口」に準え、額に当たる部分に[[鉢巻]]を巻いた姿で描かれる<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.nichibun.ac.jp/cgi-bin/YoukaiGazou/card.cgi?identifier=U426_nichibunken_0227_0009_0000|title=蛸;タコ,鉢巻き;ハチマキ|website=怪異・妖怪画像データベース|publisher=国際日本文化研究センター|accessdate=2024-08-26}}</ref>。タコの姿を模した[[公園]]の[[遊具]]([[すべり台|滑り台]])は「[[タコの山|タコ滑り台]]」や「タコ遊具」と呼ばれ、日本各地に200基ほど見られる<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.yomiuri.co.jp/national/20220501-OYT1T50206/|title=タコ滑り台の「聖地」足立区、誕生のきっかけは区担当者の「頭をつけてタコにしろ」|date=2022-05-02|website=読売新聞オンライン|publisher=[[読売新聞社]]|accessdate=2024-08-26}}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=https://www.city.kitakyushu.lg.jp/files/000759428.pdf|title=タコ遊具がある公園|publisher=北九州市|accessdate=2024-08-26}}</ref>。

日本ではタコは縁起物として用いられ、[[おせち料理]]などにも入れられる<ref name="japanpost">{{Cite web|和書|url=https://www.shop.post.japanpost.jp/column/osechi/osechi_iware17.html|title=「酢だこ」の意味・いわれ|website=おせちの豆知識 - 郵便局のネットショップ|publisher=日本郵政グループ|accessdate=2024-08-24}}</ref><ref name="sanspo230518">{{Cite web|和書|url=https://www.sanspo.com/article/20230518-S2WY4VESVRLM5EUDP2MXVU4NAY/|title=若元春が初の無傷5連勝 染め抜きのデザインを「蛸」に 凧のように舞い上がる?/夏場所|date=2023-05-18|website=[[サンケイスポーツ]]|publisher=産業経済新聞社|accessdate=2024-08-26}}</ref>。ゆで上げると赤くなり、めでたい紅白模様であるとされるほか、赤は魔除けの意味があり、墨を吐く生態を「苦難を煙に巻く」と捉え、また名は「多幸」に通ずるとされる<ref name="japanpost"/><ref name="sanspo230518"/>。

それに対し、ヨーロッパ中北部では「悪魔の魚」とも呼ばれ、忌み嫌われてきた{{Sfn|池田|2020|p=91}}{{Sfn|新村|1998|p=1641}}。[[#神話・伝承|下記]]のクラーケンが船を襲うとされるように{{Sfn|カレッジ|2014|p=68}}、悪役のモデルとなることもある{{Sfn|カレッジ|2014|p=180}}。また、多くの長い腕を持つ姿から、1877年に[[イギリス]]の[[フレデリック・ローズ]]によりを敵国である[[ロシア]]を巨大なタコの姿に描いた[[風刺画|風刺地図]]が描かれた<ref name="natgeo161006">{{Cite web|和書|url=https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/100500377/|title=20世紀の戦争プロパガンダ地図12点、敵はタコ|date=2016-10-06|website=ナショナルジオグラフィック日本版|accessdate=2024-08-27}}</ref>。それを基にフランスや日本、[[ナチス政権]]下のドイツなどで、多くの地図製作者に踏襲され、[[プロパガンダ]]の意図を持ち侵略者をタコに準えた地図が制作された<ref name="natgeo161006"/>。日本でも、[[日露戦争]]開戦直後の1904年に発行された『[[滑稽欧亜外交地図]]』がよく知られる<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.library.pref.gifu.lg.jp/uploads/2019/10/11.pdf|format=pdf|title=授業で使える当館所蔵地図 ・ No.11 『滑稽欧亜外交地図』|website=岐阜県図書館|accessdate=2024-08-27}}</ref>。


=== 神話・伝承 ===
=== 神話・伝承 ===
[[File:Naturalistslibra25-p326a-kraken.jpg|thumb|300px|船を襲う[[クラーケン]]。「コロッサル蛸」と呼ばれるもの。]]
[[ファイル:Hunting the Giant Octopus of Namekawa in Etchu Province (orange).jpg|サムネイル|[[滑川市|滑川]]の大蛸([[歌川広重 (3代目)|三代広重]]作「大日本物産図会」から)]]
[[File:Hunting the Giant Octopus of Namekawa in Etchu Province (orange).jpg|thumb|250px|[[歌川広重 (3代目)|三代広重]]『大日本物産図会』に描かれる[[滑川市|滑川]]の大蛸]]
; 日本
その特徴的な姿から、世界各地の様々な伝承に登場し、またモチーフとされる{{Sfn|カレッジ|2014|p=10}}。
* 蛸神社(たこじんじゃ) :明浜の蛸神社。[[愛媛県]][[西予市]]明浜町にある。cf. [[明浜町#文化]]。
* [[衣蛸]](ころもだこ) :[[京都府]]に伝わる蛸の[[妖怪]]。大蛸に変化して舟を海中に引きずり込むとして恐れられる。
* ヤザイモン蛸(やざいもんだこ) :[[香川県]]に伝わる大蛸の[[怪物|怪]]。八左兵門という男が昼寝している大蛸の足を1日1本ずつ足を切って持って帰っていた。あと1本というときに、大蛸が八左兵門を海に引き込んだという<ref>{{Cite journal|和書|author=北條令子|year=1985|title=海と山の妖怪話|journal=香川の民俗|issue=通巻44号|pages=4頁|publisher=香川民俗学会}}</ref>。
* [[蛸地蔵]](たこじぞう) :[[天性寺 (岸和田市)|天性寺]]。[[大阪府]][[岸和田市]]にあり、[[岸和田城]]落城の危機に、大蛸に乗った地蔵の化身が城を救ったという伝説がある。又、[[南海本線]][[蛸地蔵駅]]の由来にもなっている。
* [[蛸薬師]](たこやくし) :[[永福寺 (京都市)|永福寺]]。[[京都市]][[中京区]]に所在。僧が病の母を思って、母の好物のタコを戒律を破ってまで買ってきたところ、そのタコが池に飛び込んで光明を放ち、病がたちまち快癒したとの伝承があり、この異名で知られる。[[蛸薬師通]]の由来にもなった。
* タコは芋が好物で、海から上がってイモ畑のイモを盗むという俗説があった。
* [[アイヌ]]の伝承には[[ラートシカムイ]]と呼ばれる巨大な蛸が登場する。


例えば、何本もの腕を持つ[[北ヨーロッパ|北欧]]の[[伝説]]に登場する海の[[怪物]]、[[クラーケン]]はよく知られ、文学や伝説、絵画や映画の至る所に登場する{{Sfn|カレッジ|2014|p=10}}。巨大なタコとイカを合体させたような姿で描かれ、深海に潜んで船を追いかけ、船員を貪り食うとされる{{Sfn|カレッジ|2014|p=68}}。ただしこれは[[中世]]から[[近代]]にかけて語られた怪物であり、[[古代]]の[[北欧神話]]には登場しない。
; 日本以外
* [[クラーケン]] :[[北ヨーロッパ|北欧]]の[[伝説]]に登場する海の[[怪物]]。[[中世]]から[[近代]]にかけて語られた怪物であり、[[古代]]の[[北欧神話]]には登場しない。
* [[カナロア]] :[[ハワイ]]の[[創造神話]]に登場する[[海神]]<ref name=Dixon>{{cite book | title = The Mythology of All Races | subtitle = Oceanic | volume = 9 | last = Dixon | first = Roland Burrage | year = 1916 | publisher = Marshall Jones | page = 15 | authorlink = :en:Roland Burrage Dixon}}</ref>。


[[大プリニウス]](紀元[[23年]]–[[79年]])の『[[博物誌]]』には、270 kg 以上の体重を持ち、村人から魚を奪う巨大な蛸についての記述もある{{Sfn|カレッジ|2014|p=10}}。[[イタリア]][[リグーリア州]]の{{仮リンク|テッラーロ|en|Tellaro}}では、巨大蛸が[[教会]]の鐘を鳴らして迫りくる敵の侵攻を報せ、村を救ったと伝わる{{Sfn|カレッジ|2014|p=10}}。そのため、テッラーロではドアの装飾など様々なところでそのオマージュが見られる{{Sfn|カレッジ|2014|p=10}}。
=== 言語 ===
; 故事成語
* 土用の蛸は親にも食わすな
* 麦わらダコ(蛸)に祭りハモ


[[ハワイ]]の神話では、タコは神代の唯一の生き残りとされる{{Sfn|カレッジ|2014|p=10}}。ハワイの[[創造神話]]に登場する[[海神]]は[[カナロア]]と呼ばれる<ref name=Dixon>{{cite book |last=Dixon|first=Roland Burrage |authorlink=:en:Roland Burrage Dixon |title=The Mythology of All Races |subtitle=Oceanic |volume=9 |date=1916 |publisher=Marshall Jones |page=15}}</ref>。[[キリバス]]の[[ギルバート諸島]]では、タコの神[[ナ・キカ]]が海底から島々を強く押し上げたと伝わる{{Sfn|カレッジ|2014|p=10}}。
;タコのつく言葉<!--並びはおおよそで歴史の古い順-->
* [[蛸壺]]
* {{Anchors|ひっぱりだこ}}ひっぱりだこ - 人気のある人物や物が多くの人に求められる状態を言う日本語。また、[[近世]]以前は、[[磔|磔刑]]およびその受刑者を意味する[[転義法|比喩表現]]であった。「引っ張り蛸」とも「引っ張り[[凧]]」とも記すが、語源は、タコの乾物を作る際に足を四方八方に広げて干す、その形に由来しており、したがって、前者が本来の用法と言える。
* 蛸入道(たこにゅうどう) - 【[[仏教]]関連用語、ほか】 仏教における[[入道|入道者]]に対して、強いからかいの意を持って用いられる[[侮蔑#侮蔑表現の分類と種類|蔑称]]。[[頭髪]]を剃り上げた[[スキンヘッド|坊主頭]]がタコの胴と似ていることから呼ばれる。転じて、ファッションとしてのスキンヘッドや、薄毛の人に対しても言う。これらは事実上、男性に対してのみ用いられる。また、動物のタコを[[愛称]]的含みを持ってそのように呼ぶこともある。
* 蛸、たこ、タコ - 【[[土木工学|土木]]用語・[[農業]]用語】 重さをもって地面等の基盤を突き固める道具([[棍棒]]・[[槌]]などといった突き棒)、すなわち、撞槌(とうつい)などの俗称的呼称。蛸木(たこぎ。たこ木、タコ木)の略称。名の由来は、大型で専用の撞槌には数本の持ち手が付いていて、形状全体が複数の足を持つタコの姿に似ていることにある。[[英語]]で {{lang-en-short|rammer}}<ref>{{cite encyclopedia|year=1960|edition=4|title=ram|page=1472|encyclopedia=新英和大辞典|publisher=研究社}}</ref>及び{{lang-en-short|punner}}<ref>{{cite encyclopedia|year=1960|edition=4|title=punner|page=1442|encyclopedia=新英和大辞典|publisher=研究社}}</ref> (その一語義)と同義であり、よって、「ランマー」「ラマー」「ラム」「プンナー」とも呼ぶ。
* すかんたこ - 【[[方言]]】 好かん蛸。[[京都弁|京言葉]]で「好きではない人」「好きになれない人」の意。[[関西弁]]で言う「すかんたれ(好かん垂れ)」の異形。漫画『[[ドラえもん]]』にも「[[ドラえもんのひみつ道具_(す)#スカンタコ|スカンタコ]]」というひみつ道具がある。
* [[タコ部屋労働]]
* タコ棒 - 【[[内燃機関]]】 [[ポペットバルブ]]の[[気密]]を保つために研磨を行う際、持ち手として取り付ける棒。先端に吸盤があり、これでバルブを吸いつけて作業する。
* 蛸足(たこあし)
** 【電気関連用語】 [[たこ足配線|蛸足配線]]。原型は[[二股ソケット]]。
** 【動力機械関連、俗語】 等長化された[[エキゾーストマニホールド]]を指す俗称。等長化のためタコの足のようにうねっている。
** 【建築関連用語】 施設が分散している形態。
* [[蛸足大学]]
* [[蛸配当]] - 【[[株式]]用語】 自らの足を食うタコになぞらえて、経営状況の悪化を取り[[wikt:繕|繕い]]ごまかすことを目的とした「株主への自殺的な[[配当]]行為」を言う。
* タコ[[麻雀]] - 漫画『[[ぎゅわんぶらあ自己中心派]]』で挙げられていた奇怪な打ち筋、言動など。
* タコ - 【[[野球]]用語】 [[安打]]が打てないことを指す言葉として使われる。例えば、4[[打席]]4[[打数]]無安打の場合は「'''4タコ'''」と言う。


日本でも、古くから大蛸の伝説などの説話や俗信が伝わる{{Sfn|尚学図書|1981|p=1547}}。例えば、[[京都府]][[与謝郡]]には、「[[衣蛸]]」(ころもだこ)という蛸の[[妖怪]]が伝わる<ref name="kotobank-1696245">{{Cite kotobank|word=衣蛸|encyclopedia=デジタル大辞泉プラス|accessdate=2024-08-27}}</ref>。船が近づくと、大蛸に変化して海中に引きずり込むとして恐れられる<ref name="kotobank-1696245"/>。
=== 派生した俗語 ===
*タコになる
:[[大相撲]]の[[隠語]]で、思い上がって[[天狗]]になり周囲の言うことを聞かなくなること。若いうちに[[関取]]になったり[[三役]]・[[横綱]]に昇進した場合に、兄弟子や[[年寄|親方]]のいうことを聞かなくなったりする[[力士]]のことを指す。「タコ釣る」ともいう。
*タコ殴り
:日本の[[俗語]]で、袋叩きにすること、または原型をとどめないほどにボコボコに数多く殴ることを指す。「タコにする」ともいう。
*ゆでダコのようになって怒る
:顔を真っ赤にして怒っている様子から、茹でて赤くなったタコを連想してこう言われる。


[[香川県]]には、「[[ヤザイモン蛸]]」という大蛸の[[怪物|怪]]が伝わる<ref name="kagawa">{{Cite journal|和書|author=北條令子|year=1985|title=海と山の妖怪話|journal=香川の民俗|issue=通巻44号|page=4|publisher=香川民俗学会}}</ref>。八左兵門という男が昼寝している大蛸の足を1日1本ずつ足を切って持って帰り、あと1本というときに、大蛸が八左兵門を海に引き込んだという<ref name="kagawa"/>。
=== 因んだ名称 ===

[[ファイル:TAKO Ferry 01.JPG|thumb|230px|明石淡路フェリーの「あさしお丸」<br />[[明石港]]、2008年5月撮影。]]
[[愛媛県]][[西予市]][[明浜町]](旧[[狩江村]])にある[[明浜町#文化|春日神社]]では、あるとき御神体が上方に移そうと船で盗み出された際、[[三崎村 (愛媛県)|三崎村]]名取で神罰を受けて難破し、御神体を海中に落してしまったところ、それを大蛸が海上に持ちあげ、地元の住民が拾って海岸に祀り、翌年狩江村民が現存する元の所に祀ったという伝承がある<ref name="Kasuga">{{Cite web|和書|url=http://ehime-jinjacho.jp/jinja/?p=1254|title=春日神社|website=愛媛県神社庁|accessdate=2024-08-21}}</ref>。そのため狩江村民は蛸を捕まえず、今日に至るもタコを食べない習慣が残っている、と伝わる<ref name="Kasuga"/>。
;生物

* [[タコノキ]]などのタコノキ類([[タコノキ目]]):タコが足を伸ばすように[[根#さまざまな根|気根]]を伸ばして立つ姿から、「蛸の木」の意で呼ばれる。
[[愛知県]][[知多郡]][[南知多町]]の[[三河湾]]に浮かぶ[[日間賀島]]にある[[曹洞宗]][[安楽寺 (愛知県南知多町)|安楽寺]]は、地震で沈んだ寺の仏像が漁師によって引き上げられた時、仏像を守るように一匹の大蛸が巻きついていたという逸話から「たこ阿弥陀」と通称される<ref name="maff_aichi"/>。また日間賀島は「タコの島(多幸の島)」と呼ばれ<ref name="maff_aichi"/><ref name="himaka"/><ref name="prefaichi"/>、モニュメントや[[マンホール]]の蓋など、至る所でタコのキャラクターが見られるほか、夏にはタコの供養と豊漁を祈願するたこ祭りが行われる<ref name="maff_aichi"/>。
; 人物

* [[たこ八郎]]
[[大阪府]][[岸和田市]]にある[[天性寺 (岸和田市)|天性寺]]は[[蛸地蔵]]とも呼ばれ、[[岸和田城]]落城の危機に、大蛸に乗った法師が数千のタコを従えて現れ、城を救ったという伝説がある<ref name="Kishiwada">{{Cite web|和書|url=https://www.city.kishiwada.osaka.jp/site/kishiwada-side/tensyouji.html|title=天性寺|website=きしわだSIDE|publisher=岸和田市|author=観光課 観光振興担当|date=2009-03-03|accessdate=2024-08-26}}</ref>。この法師は地蔵の化身であり、後日城の堀から矢傷・玉傷を無数に負った地蔵が発見されたと言われる<ref name="Kishiwada"/>。また、[[南海本線]][[蛸地蔵駅]]の由来にもなっている<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.nankai.co.jp/traffic/station/takojizo.html|title=蛸地蔵駅 |website=[[南海電鉄]]|accessdate=2024-08-26}}</ref>。
* [[横山ノック]]:禿げ上がった頭から[[漫才]](漫画トリオ)で「タコ」と呼ばれた。

* タコ社長:[[日本映画]]『[[男はつらいよ]]』に登場する[[太宰久雄]]が演じた零細企業の[[社長]](cf. [[男はつらいよ#レギュラー|男はつらいよの主要人物]])の[[愛称]]。
[[アイヌ]]の伝承には[[ラートシカムイ]]や[[アッコロカムイ|アッコㇿカムイ]]と呼ばれる巨大な蛸が登場する<ref>{{Cite book|和書|author=松谷みよ子|authorlink=松谷みよ子|title=松谷みよ子の本 第9巻 伝説・神話|year=1995|publisher=[[講談社]]|isbn=978-4-06-251209-1}}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=https://ainugo.nam.go.jp/siror/dictionary/detail_sp.php?book_id=A0258|title=アイヌ語辞典 動物編 §258 タコ|webiste=アイヌと自然 デジタル図鑑|publisher=[[アイヌ民族博物館]]|accessdate=2024-08-27}}</ref>。
* [[中河美芳]]:[[日本プロ野球|プロ野球]]選手。一塁守備で足を大きく前後に開くさまと、どんな送球も吸い付くように捕球することから、「タコ足」「タコの中河」と呼ばれていた。

* [[新海幸藏]]:[[力士]]。足癖を得意としたため、「タコ足の新海」のあだ名が付いた。
タコは陸上でも30分以上動き回ることができるため、「夜中に畑の[[大根]]を盗む」という逸話が知られる{{Sfn|奥谷|2013|p=10}}<ref name="Akashi"/>。[[三重県]][[鳥羽市]]にある[[畦蛸]](あだこ)では、「嵐の日に大波に乗って蛸が[[田圃]]の畦にやってきた」や「月夜になると蛸が畦の水路まで泳ぎ登ってきた」などの伝承が伝わり、その地名に名を残している<ref name="maff_mie"/><ref name="toba"/>。[[2002年]]に放送されたテレビ番組『[[フューチャー・イズ・ワイルド]]』では、空想上の1億年後の未来の生物として「[[フューチャー・イズ・ワイルドの生物一覧#ベンガル沼地|スワンパス]] ({{En|swampus}})」と呼ばれる半陸生のタコが登場する<ref>{{Cite web|url=https://www.bbc.co.uk/programmes/b0078sp5|title=The Future is Wild, Waterland|website=BBC Two|accessdate=2024-08-27}}</ref>。
* [[工藤由愛]]:[[ハロー!プロジェクト]]の女性アイドルグループ・[[Juice=Juice]]のメンバー。無類のタコ好きで、自ら「タコ(ちゃん)」という愛称を付けている<ref>[https://ameblo.jp/juicejuice-official/entry-12493114761.html 初めまして!工藤由愛] - [[Juice=Juice]]オフィシャルブログ([[サイバーエージェント]]) 2019年7月12日</ref>。

=== 作品 ===
[[File:Cthulhu sketch by Lovecraft.jpg|thumb|200px|ラヴクラフトによる[[クトゥルフ]]のスケッチ。]]
{{See also|Category:タコを題材とした作品}}
日本ではタコは多くの場合、コミカルで親しみやすいキャラクターとして描かれる{{Sfn|奥谷|1991|p=27}}。タコはそのものでなくても様々なキャラクターのモチーフとして登場する。例えば、日本では[[田河水泡]]の漫画『[[蛸の八ちゃん]]』や[[古谷三敏]]の『[[ダメおやじ]]』のキャラクター「タコ坊」などが挙げられる{{Sfn|池田|2020|p=13}}。[[巡音ルカ]]の頭部だけをデフォルメし、髪の毛を脚に見立てたキャラクターは「[[VOCALOIDの派生キャラクター#巡音ルカをモチーフとしたキャラクター|たこルカ]]」と呼ばれる<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.itmedia.co.jp/news/articles/0902/09/news105.html|title=巡音ルカが“たこ化” 「たこルカ」人気|author=[[ねとらぼ]]|website=ITmedia|date=2009-02-09|accessdate=2024-08-26}}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1310/29/news058.html|title=「たこルカのガチャガチャ作ってみた」がかわいすぎて生きるのがつらいレベル ロット買いしたいくらい。|date=2013-10-29|author=haruYasy.|website=ねとらぼ|accessdate=2024-08-26}}</ref>。

[[ハワード・フィリップス・ラヴクラフト]]の[[クトゥルフ神話]]描かれる邪神[[クトゥルフ]]はタコの頭部に[[コウモリ]]の翼を持った巨大な軟体動物のような姿をしている{{Sfn|カレッジ|2014|p=10}}。これは他の作品にもオマージュされ、『[[サウスパーク]]』でもネタとして取り上げられている{{Sfn|カレッジ|2014|p=10}}。

==== 映画 ====
『[[水爆と深海の怪物]]』(''It Came from Beneath the Sea'', 1955)でもジェット推進する巨大なタコが描かれている{{Sfn|カレッジ|2014|p=87}}。アメリカのパニック映画『[[オクトパス (映画)|オクトパス]]』(''Octopus'', 2000)では、船や潜水艦を襲い、恐ろしい歯が生えた口に取り込むクラーケンが登場する{{Sfn|カレッジ|2014|p=83}}。[[ジェムソン・アイリッシュ・ウイスキー]]のコマーシャル映像でも巨大な酒好きのタコが登場する{{Sfn|カレッジ|2014|p=83}}。『[[メガ・シャークVSジャイアント・オクトパス]]』(''Mega Shark vs Giant Octopus'', 2009)では巨大なタコがサメをも仕留めている{{Sfn|カレッジ|2014|p=55}}。

2009年の[[アカデミー賞]]短編アニメ賞にノミネートされた『[[オクタポディ]]』(''[[:en:Oktapodi|Oktapodi]]'', 2007)では、タコの[[番 (動物学)|番]]が登場する{{Sfn|カレッジ|2014|p=15}}。[[1973年]]にぬいぐるみ劇として放送された日本の[[特撮]]テレビ番組『[[クレクレタコラ]]』では、公害によって[[怪獣]]化し陸に上がったフテクサレタコ「タコラ」が登場する<ref>{{Cite web|和書|url=https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000351.000009136.html|title=特撮TV番組『クレクレタコラ』CROSSクラウドファンディングより手帳型スマートフォンケース、トートバッグ、Tシャツの申込受付スタート!|author=そらゆめ|website=PR TIMES|date=2016-11-28|accessdate=2024-08-27}}</ref>。2003年のディズニー映画『[[ファインディング・ニモ]]』には[[オオメンダコ]]のパールが{{Sfn|カレッジ|2014|p=70}}<ref>{{Cite web|和書|url=https://kids.disney.co.jp/character/pearl|title=パール|website=ディズニーキッズ|accessdate=2024-08-27}}</ref>、『[[ファインディング・ドリー]]』には[[ミズダコ]]のハンクが登場する<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.disney.co.jp/movie/dory/character/character04|title=ハンク|ファインディング・ドリー|website=ディズニー|accessdate=2024-08-27}}</ref>。[[ニコロデオン]]のアニメ『[[スポンジ・ボブ]]』シリーズに登場するキャラクター「[[イカルド・テンタクルズ]] ({{en|Squidward J. Q. Tentacles}})」は、どの言語でも名前からイカに間違われるが、タコがモチーフである<ref>{{Cite web|url=https://www.nick.com/info-page/c2e5s0/squidward-j-q-tentacles|title=SQUIDWARD J. Q. TENTACLES|website=Nickelodeon|archiveurl=https://web.archive.org/web/20240809204755/https://www.nick.com/info-page/c2e5s0/squidward-j-q-tentacles|archivedate=2024-08-09|accessdate=2024-08-27}}</ref>。2010年の『[[トイ・ストーリー3]]』では「ストレッチ ({{En|strech}})」という名の紫色のタコのおもちゃが登場し、腕を伸ばしてお金をかき集める{{Sfn|カレッジ|2014|p=73}}<ref>{{Cite web|和書|url=https://kids.disney.co.jp/character/stretch|title=ストレッチ - トイ・ストーリー|website=ディズニーキッズ|accessdate=2024-08-29}}</ref>。

映画「[[ジェームズ・ボンド]]」シリーズの『[[007/オクトパシー]]』には、女性窃盗密輸団の古い秘密指令の印に[[ヒョウモンダコ]]が用いられている{{Sfn|カレッジ|2014|p=71}}。シカゴ・フード映画祭で2011年に最優秀フード・ポルノ映画賞を受賞した短編映画『アモール・プルポ』(''Amor pulpo'', 2011)は女性がデートの支度をする場面の合間にタコが捕獲され調理されるシーンが映され、レストランにて供されるという作品である{{Sfn|カレッジ|2014|p=59}}。

1989年に[[ディズニー]]が制作した映画『[[リトル・マーメイド]]』では、魔女アースラというキャラクターが登場するが、その動きは[[ジャック・クストー]]が撮影したタコの動きがモデルであると言われる{{Sfn|カレッジ|2014|p=76}}。モバイルゲーム「[[ディズニー ツイステッドワンダーランド]]」では、『リトル・マーメイド』をテーマとした寮オクタヴィネルに、アースラのように[[ディズニー ツイステッドワンダーランドの登場キャラクター|アズール・アーシェングロット]]というタコ脚(オクトピット)のキャラクターが登場する<ref>{{Cite web|和書|url=https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000063.000018639.html|title=『ディズニー ツイステッドワンダーランド』コレクションジュエリー第6弾☆「オクタヴィネル寮」「スカラビア寮」の寮生たちをイメージしたリングが登場!|author=株式会社テイクアップ|website=PR TIMES|date=2023-10-26|accessdate=2024-08-27}}</ref>。

==== 俳句 ====
「蛸」や「章魚」は夏(三夏)の[[季語]]、「麦藁章魚」は[[仲夏]]の季語となっている<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.thr.mlit.go.jp/miharu/introduction/region/Files/2021/10/27/99ec02b6e3854c3bb8ed859babcb62ebada4b8a2.pdf|title=~5000季語 一覧集~|website=[[国土交通省]] [[東北地方整備局]]|format=pdf|accessdate=2024-08-27}}</ref>。

江戸時代の俳人である[[松尾芭蕉]]は、明石にて「蛸壺や はかなき夢を 夏の月」という俳句を詠み、[[柿本神社 (明石市)|柿本神社]]にその句碑が残っている<ref name="Akashi"/>。出典は『[[猿蓑]]』で、「笈の小文」に収録されている<ref name="reference1000083735"/>。

[[正岡子規]]は「飯蛸の 手をひろげたる [[:wikt:ja:檐|檐]]端哉」や「冬枯や 蛸ぶら下る 煮賣茶屋」の句を詠み、『寒山落木』に収録される<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.aozora.gr.jp/cards/000305/files/1896.html|title=寒山落木 卷一|author=正岡子規|website=青空文庫|accessdate=2024-08-27}}</ref>。

[[熊本県]]の俳人[[上村占魚]]は「章魚沈む そのとき海の 色をして」という句を詠んだ<ref name="reference1000083735"/>。

==== 楽曲 ====
1969年の『[[アビー・ロード]]』に収録された[[ビートルズ]]の「[[オクトパス・ガーデン]]」はタコが蒐集したものを巣穴の周りに並べる様子がきっかけに生まれた楽曲である{{Sfn|カレッジ|2014|p=152}}。[[リンゴ・スター]]は『[[ビートルズアンソロジー]]』の中で当時を振り返り、[[サルデーニャ島]]での休暇中に船長から聞いた話を基に歌詞を書いたと語っている{{Sfn|カレッジ|2014|p=153}}。

==== ドキュメンタリー ====
{{仮リンク|ジャン・パンルヴェ|en|Jean Painlevé}}は、海洋生物のドキュメンタリーを得意としていた映画監督であり、タコを主題としたドキュメンタリーを制作している{{Sfn|カレッジ|2014|p=73}}。パンルヴェはタコの特性をしなやかな[[チューインガム]]のようだと形容した{{Sfn|カレッジ|2014|p=73}}。彼の処女作はまさに、『タコ』(''{{Fr|La Pieuvre}}'', 1928)であり、10分間の[[シュールレアリスム]]風な[[モノクロ]]の短編[[サイレント映画]]であった{{Sfn|カレッジ|2014|p=73}}。パンルヴェによる短編映画『[[タコの性生活]]』(''Les amours de la pieuvre'', 1967)では、雄が雌の漏斗に交接腕を挿入する様子が描かれる{{Sfn|カレッジ|2014|p=235}}。

[[ドイツ]]・[[オーバーハウゼン]]の水族館 {{lang|en|Sea Life Oberhausen}} で飼われていた{{snamei|[[Octopus vulgaris]]}} の「タコの[[パウル (タコ)|パウル]] ({{lang|de|Paul der Krake}})」を主題とした長編ドキュメンタリー『[[超能力タコ、パウルの生涯]]』(''The Life and Times of Paul the Psychic Octopus'', 2012)が制作されている{{Sfn|カレッジ|2014|p=12}}。

『[[オクトパスの神秘: 海の賢者は語る]]』(''My Octopus Teacher'', 2020)は、[[南アフリカ]]の[[藻場]]で野生の {{snamei|[[Octopus vulgaris|O. vulgaris]]}} との信頼関係を築こうとする様子を映したドキュメンタリー映画である。

=== タコをモチーフとしたキャラクター ===
また、企業や自治体のキャラクターとなることもある。宮城県の[[南三陸町|南三陸]]復興ダコの会では、タコをモチーフにした「オクトパス君」という[[ゆるキャラ]]が存在する<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.yurugp.jp/jp/vote/detail.php?id=00000471|title=オクトパス君|website=ゆるキャラグランプリ公式サイト|accessdate=2024-08-27}}</ref>。

[[町田製薬]]の[[軟膏]]「吸出し青膏」は、「まるで蛸が吸い付くように[[癤|おでき]]の膿を吸い出す」というイメージから「たこの吸出し」の愛称が付けられている<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.hmaj.com/kateiyaku/matida/|title=たこの吸出し|website=家庭薬ロングセラー物語|publisher=日本家庭薬協会|accessdate=2024-08-27}}</ref><ref name="machida">{{Cite web|url=https://machidaseiyaku.co.jp|title=町田製薬公式サイト|website=町田製薬|accessdate=2024-08-27}}</ref>。たこ美とたこ之助という2匹のキャラクターが作られている<ref name="machida"/>。

[[サンリオ]]のキャラクターには「[[チューチューターコ]]」がおり、ボーイフレンドはイカのコータくんである<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.sanrio.co.jp/characters/chuchutaako/|title=チューチューターコ|website=サンリオ|accessdate=2024-08-27}}</ref>。

ゲーム「[[ポケットモンスター]]」のシリーズでは、『[[ポケットモンスター 金・銀]]』から[[オクタン (ポケモン)|オクタン]]が登場する<ref name="inside">{{Cite web|和書|url=https://www.inside-games.jp/article/2022/04/11/137676.html|title=『ポケモン』史上最も不可解!?魚からタコに進化するテッポウオとオクタンの謎|date=2022-04-11|website=インサイド|accessdate=2024-08-27}}</ref>。オクタンの名はオクトパスと[[戦車|タンク]]を掛け合わせたものだとされる<ref name="inside"/>。また、『[[ポケットモンスター ソード・シールド]]』には、[[タタッコ]]と、それが[[ポケットモンスター (架空の生物)#進化|進化]]した[[オトスパス]]が登場する<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.pokemon-card.com/card-search/details.php/card/38561/regu/all|title=タタッコ|website=ポケモンカードゲーム公式ホームページ|accessdate=2024-08-29}}</ref><ref name="pokemon-card38745">{{Cite web|和書|url=https://www.pokemon-card.com/card-search/details.php/card/38745/regu/all|title=オトスパス|website=ポケモンカードゲーム公式ホームページ|accessdate=2024-08-29}}</ref>。オトスパスは[[ポケットモンスター (架空の生物)#わざ|わざ]]「たこがため」を使う<ref name="pokemon-card38745"/>。

=== 腕と触手 ===
{{Multiple image
|align=right
|total_width=400
|image1=Tako to ama (detail).jpg
|caption1=葛飾北斎の描いた春画『[[蛸と海女]]』の一部。
|image2=Spicy-Adventure Stories August 1936.jpg
|caption2=''Spicy-Adventure Stories'' (August 1936) の表紙。
}}
タコの腕はスーパーヒーローや悪役のモデルになっている{{Sfn|カレッジ|2014|p=180}}。[[マーベル・コミック]]の作品にシリーズに登場する[[スパイダーマン]]の宿敵、[[ドクター・オクトパス]]は独立して動く腕を駆使する様子が描かれる{{Sfn|カレッジ|2014|p=184}}。この腕は3 t の物を持ち上げられるという設定がある{{Sfn|カレッジ|2014|p=221}}。

また、この腕はしばしば淫らなイメージを持って扱われ、「[[触手責め|触手もの]]」という一大ジャンルとなっている{{Sfn|カレッジ|2014|p=238}}。触手もののはじまりは19世紀初頭の日本の木版画である{{Sfn|カレッジ|2014|p=238}}。[[葛飾北斎]]は女体に絡みつくタコの[[春画]]『[[蛸と海女]]』を描いている{{Sfn|奥谷|1991|p=27}}{{Sfn|カレッジ|2014|p=238}}。『蛸と海女』では[[海女]]が岩場で仰向けになり、両脚の間に大蛸が、口元には小蛸が、乳首や肢体には蛸の腕の先が巻き付いており、海女の両腕は大蛸の2本の腕を握りしめている{{Sfn|カレッジ|2014|p=238}}。昔の西洋の研究者はこれを凌辱の場面と誤解したが、合意のうえでの快楽を描いている{{Sfn|カレッジ|2014|p=238}}。[[根付]]のモチーフなどにもなっている{{Sfn|カレッジ|2014|p=238}}。現代でも、[[佐伯俊男]]や[[寺岡政美]]などの作品に受け継がれている{{Sfn|カレッジ|2014|p=239}}。

20世紀半ばにはアメリカの[[パルプマガジン]]や[[アメコミ|コミック]]の表紙にタコが用いられるようになった{{Sfn|カレッジ|2014|p=238}}。1936年8月号の[[スパイシー・アドベンチャーズ]]誌の表紙には赤い水着姿の女性に腕を巻き付けるタコが描かれている{{Sfn|カレッジ|2014|p=238}}。

[[漫画]]や[[アニメーション]]の世界でも触手ものは広がり、[[ロボット]]の腕が登場することもある{{Sfn|カレッジ|2014|p=239}}。更に暴力的な表現は「[[触手責め]]」と呼ばれ、[[フェティシズム]]の一つとなっている{{Sfn|カレッジ|2014|p=239}}。これは[[男性器]]を直接描写できない検閲規制から発展したと考えられることもある{{Sfn|カレッジ|2014|p=239}}。

=== タコと火星人 ===
フィクションにおける[[火星人]]の姿はしばしば頭が大きく手足は細長く描かれ、「タコ型」と言及される<ref name="honda__mars">{{Cite web|和書|url=https://www.honda.co.jp/kids/explore/mars/|title=火星人はなぜタコ型? 最接近はいつ? ふしぎな惑星「火星」のナゾ |website=Honda Kids|publisher=[[本田技研工業]]|accessdate=2024-08-27}}</ref><ref name="kahaku">{{Cite web|url=https://www.kahaku.go.jp/exhibitions/vm/resource/tenmon/space/mars/mars05.html|title= 宇宙の質問箱 火星編 V. 火星人はいるのですか?|website=[[国立科学博物館]]|accessdate=2024-08-27}}</ref>。これは[[イギリス]]のウェルズが書いた1898年の[[サイエンス・フィクション|SF]]小説『[[宇宙戦争 (H・G・ウェルズ)|宇宙戦争]]』の挿絵に由来するとされる<ref name="honda__mars"/><ref name="kahaku"/>。

タコ型宇宙人は後世の様々な作品に転用されている。例えば、1939年の[[海野十三]]『[[火星兵団]]』に登場する火星人は「大蛸のような」と形容されている<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.aozora.gr.jp/cards/000160/files/3368_25725.html|author=海野十三|title=火星兵団|website=青空文庫|accessdate=2024-08-27}}</ref>。2021年の[[タイザン5]]の漫画『[[タコピーの原罪]]』に登場するキャラクター「タコピー」などにもその影響がみられる<ref>{{Cite web|和書|author=足立守正|url=https://qjweb.jp/column/71029/|title=タイザン5『タコピーの原罪』が導く、正解のない人生|website=クイック・ジャパン・ウェブ|date=2022-05-28|accessdate=2024-08-27}}</ref>。

=== 日本語とタコ ===
[[File:EYE Film Institute Netherlands - Main building with octopus kites - 2017.jpg|thumb|250px|「蛸」の「凧」。[[オランダ]]にて。]]
タコは特徴的な姿や生態を持つため、様々な物事がタコに喩えられて用いられてきた。[[玩具]]の「[[凧]](たこ)」は、長い尻尾を付けた様がタコに似ることから名付けられたとされる{{Sfn|前田|2005|p=708}}。凧は「いか」や「いかのぼり」とも呼ばれる{{Sfn|新村|1998|p=1641}}。また、体にできる「[[胼胝]](たこ)」も一説にはタコの手の裏に似ていることからともされる{{Sfn|前田|2005|p=709}}。

==== 胴体に由来する表現 ====
蛸の「頭(胴体)」が[[坊主頭]]に似ていることから、坊主頭の者を嘲り、'''蛸入道'''や'''蛸坊主'''(たこ坊主)という{{Sfn|新村|1998|p=1642}}{{Sfn|尚学図書|1981|p=1547}}{{Sfn|藤木|1958|pp=46–55}}。蛸入道はタコそのものを指すこともあり、[[坊主]]を[[侮蔑#侮蔑表現の分類と種類|蔑んで]]「蛸」ということもある{{Sfn|尚学図書|1981|p=1547}}。[[蛸薬師]](たこやくし) は、[[禿頭]]の人が祈願すると霊験があると信じられている{{Sfn|尚学図書|1981|p=1547}}。蛸薬師には、タコを食べないと誓ったり、蛸の絵の[[絵馬]]を上げたりして祈願される{{Sfn|尚学図書|1981|p=1547}}。[[京都市]][[中京区]]に所在する[[永福寺 (京都市)|永福寺]]の薬師や、[[東京都]][[目黒区]]の[[成就院 (目黒区)|成就院]]の薬師、[[深川 (江東区)|深川]]の[[不老山薬師寺]]などが知られる{{Sfn|尚学図書|1981|p=1547}}。京都のものは[[蛸薬師通]]の由来にもなった。

また、タコの胴のように頂辺を丸く縫い上げた[[頭巾]]を'''蛸頭巾'''(たこずきん)という{{Sfn|尚学図書|1981|p=1547}}{{Sfn|新村|1998|p=1642}}。蛸頭巾には紫色を用いた{{Sfn|尚学図書|1981|p=1547}}。[[オーバーコート]]や[[レインコート]]に付けて頭に被るフードを「蛸」ということもある{{Sfn|尚学図書|1981|p=1547}}。

==== 姿に由来する表現 ====
[[File:JapanHomes005 POUNDING DOWN FOUNDATION STONES.jpg|thumb|200px|蛸胴突による礎石搗き固め。]]
[[杭]]を打ったり土や割栗石を突き固めるのに用いる[[道具]]([[撞槌|胴突き]])は'''蛸'''(たこ、'''タコ''')または'''蛸胴突'''(たこどうつき)と呼ばれる{{Sfn|新村|1998|pp=1641–1642}}{{Sfn|尚学図書|1981|p=1547}}。'''蛸搗'''(たこつき)とも呼ばれる{{Sfn|尚学図書|1981|p=1547|loc=「蛸搗」}}<ref name="岡本2021">{{Cite journal|author=岡本直樹|title=締固め機械史 2:突固め系の機械化|journal=建設機械施工 |volume=73 |issue=1 |date=2021|pages=78–85 |url=https://jcmanet.or.jp/bunken/kikanshi/2021/1/078.pdf}}</ref><ref name="房前・竹林1995">{{Cite journal|author1=房前和朋|author2=竹林征三|date=1995|title=労働歌 ・どんつき節の変遷からみる築堤工法の土木史|journal=土木史研究|volume=15|pages=491–498}}</ref>。直径30–40 cm の[[樫]]や[[欅]]の材を円筒形の棒にし、2–4本の把手を付け、先端に金輪をはめてできる{{Sfn|尚学図書|1981|p=1547}}{{Efn|[[英語]]では {{lang|en|rammer}}<ref>{{cite encyclopedia|year=1960|edition=4|title=ram|page=1472|encyclopedia=新英和大辞典|publisher=研究社}}</ref>及び {{lang|en|punner}}<ref>{{cite encyclopedia|year=1960|edition=4|title=punner|page=1442|encyclopedia=新英和大辞典|publisher=研究社}}</ref> と呼ばれ、日本語でも「ランマー(ランマ<ref name="岡本2021"/>・ラマー・ラム)」や「プンナー」とも呼ばれることもある。}}。数人で持ち上げるため柄が多くついており、それをタコに喩えたものであるとされる{{Sfn|尚学図書|1981|p=1547|loc=「蛸搗」}}。石製の土搗きの道具は「石蛸」と呼ばれる<ref name="岡本2021"/><ref name="房前・竹林1995"/>。

まだ、上代の[[旗]]には'''蛸旗'''(鮹旗、たこはた)と呼ばれるものがあり、旗の足が割れている様子を、タコの腕が垂れている様子に喩えたものであるとされる{{Sfn|尚学図書|1981|p=1547}}{{Sfn|新村|1998|p=1642}}。[[吹流し]]に類するものとされる{{Sfn|尚学図書|1981|p=1547}}{{Sfn|新村|1998|p=1642}}。

着物の[[裾]]の周囲をまくり上げることを'''蛸絡'''(蛸絡げ、たこからげ)という{{Sfn|新村|1998|p=1641}}{{Sfn|尚学図書|1981|p=1547}}。蛸が腕を広げた姿に喩えたものである。また、古くは蛸(章魚)は[[脚絆]]を指すこともあり、'''蛸片'''(たこびら)と呼ばれた{{Sfn|藤木|1958|pp=46–55}}。蛸片は[[囚人服|獄衣]]を指すこともある{{Sfn|藤木|1958|pp=46–55}}。

一つ(または少ない)ものを手に入れようと四方八方から争って引っ張るさまや、人気のある人物や物が多くの人に求められる状態を'''{{Vanchor|ひっぱりだこ}}'''(引っ張り蛸、引張蛸)と言うが<ref name="kotobank_2077617">{{Cite kotobank|encyclopedia=精選版 日本国語大辞典|word=引っ張り蛸|accessdate=2024-08-26}}</ref>、これは腕を竹串で張って干される[[干しダコ]]の姿に由来するとされる<ref name="himaka"/><ref name="kotobank_2077617"/>。また、[[近世]]以前は、「ひっぱりだこ」は[[磔|磔刑]]およびその受刑者を意味する[[転義法|比喩表現]]であり、[[1687年]]の[[浮世草子]]『[[色道大皷]]』に見られる「三人の女房の敵おぼへたるかとひっはり蛸にして突通し捨ぬ」のように[[17世紀]]に用例が知られる<ref name="kotobank_2077617"/>。前者の初出の実例は[[1802年]]の『[[俳諧觿]]』で、「引はり凧に風邪の流行医」の[[雑俳]]が知られる<ref name="kotobank_2077617"/>。このように「引っ張り[[凧]](引張凧)」と表記されることもある<ref name="kotobank_2077617"/>。

[[大阪市]][[北区 (大阪市)|北区]][[中之島 (大阪府)]]の[[堂島川]]に面して生えていた[[クロマツ]]は、タコが泳ぐ姿に似ていることから「[[蛸の松]]」という愛称で呼ばれている<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.takonomatu.jp/towa.htm|title=「蛸の松」の由来|website=「蛸の松」HP|accessdate=2024-08-27}}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=https://www.yomiuri.co.jp/local/osaka/feature/CO033271/20180518-OYTAT50043/|title=〈6〉蛸の松 1世紀経て「二代目」|date=2018-05-19|website=読売新聞オンライン|publisher=読売新聞社|accessdate=2024-08-27}}</ref>。

==== 腕に由来する表現 ====
器物の足が蛸の足(腕)のような形になっているものや、1箇所からいくつも分岐している形をタコの腕に喩えて、'''蛸足'''(タコ足、たこあし)という{{Sfn|尚学図書|1981|p=1547}}{{Sfn|新村|1998|p=1641}}。特に1つのコンセントから多数のコードを引き、電気器具を接続することを[[たこ足配線|蛸足配線]]という{{Sfn|新村|1998|p=1641}}。また、[[内燃機関]]において、等長化された[[エキゾーストマニホールド]]は俗にタコ足と呼ばれる<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.automesseweb.jp/2022/03/01/932107/2#/2|title=「鬼キャン」「タコ足」「USDM」! もはや「暗号化」された自動車カスタム用語7つ|date=2022-03-01|author=土田康弘|website=Auto Messe Web|publisher=株式会社交通タイムス社|accessdate=2024-08-27}}</ref>。[[キャンパス]]が複数の箇所に分散している[[大学]]は[[蛸足大学]]と揶揄される。[[腎臓]]の[[糸球体]]にある[[足細胞]] ({{En|podocyte}}) は、数本の突起を放射状に[[毛細血管]]壁へ伸ばしていることから、「タコ足細胞」とも呼ばれている<ref>{{Cite journal|author1=藤田恒夫|author2=徳永純一|author3=三好萬佐行|title=走査電子鏡による腎糸球体のタコ足細胞の観察|journal=Archivum histologicum japonicum|date=1970|volume=32|issue=2|pages=99–113|doi=10.1679/aohc1950.32.99}}</ref><ref>{{Cite web|和書|author=矢尾板永信|url=https://www.med.niigata-u.ac.jp/contents/info/news_topics/66_index.html|title=腎臓のタコ足細胞を培養で再現することに成功 -糸球体濾過調節の研究に新たな道を拓く|date=2017-10-30|publisher=新潟大学医学部医学科 大学院医歯学総合研究科|accessdate=2024-08-27}}</ref>。

[[香港]]の公共交通機関が発行している[[ICカード]]は[[八達通]](オクトパスカード)と名付けられ、様々な機能を持ち、タコの長く便利な腕を想起させるネーミングとなっている{{Sfn|カレッジ|2014|p=184}}。

また、[[伊万里焼|古伊万里]][[唐草模様|唐草]]に見られる、蔓に突起状の葉を加えた蛸の腕のような文様は、「蛸唐草」と呼ばれる<ref>{{Cite press release|和書|url=https://www.toguri-museum.or.jp/tenrankai/pdf/pdf_42.pdf|title=古伊万里唐草 -暮らしのうつわ- 展|publisher=[[戸栗美術館]]|date=2016-07-02|accessdate=2024-08-27}}</ref>。

タコは自分の腕を食べるという逸話から、[[株主]]が自分の資本を食いつぶすことをそれに準えて、配当するだけの利益を上げていない[[株式会社]]が架空の利益を計上して資産から不当に株主へ配当することを「[[蛸配当]]」という{{Sfn|尚学図書|1981|p=1547}}{{Sfn|新村|1998|p=1642}}。「蛸配」や単に「蛸」ともいう{{Sfn|尚学図書|1981|p=1547}}{{Sfn|新村|1998|p=1642}}。

==== 蛸壺に由来する表現 ====
蛸を捕らえる蛸壺を元にした言葉もある。「[[蛸壺壕|蛸壺]]」は原義から転じ、戦場で兵士が一人だけ立ったまま潜み、そこから射撃できるように掘った[[塹壕]]を指す語としても用いられる{{Sfn|尚学図書|1981|p=1547}}{{Sfn|新村|1998|p=1642}}。また、[[第二次世界大戦]]前に北海道や[[樺太]]の[[炭鉱]]に見られた、労働所を収容して重労働を強制した部屋を「[[タコ部屋労働|蛸部屋]](タコ部屋)」と呼ぶ{{Sfn|尚学図書|1981|p=1547}}。これは蛸壺のタコのように抜け出せないことからと言われる{{Sfn|尚学図書|1981|p=1547}}。蛸部屋は単に「蛸」とも呼ばれ、そこで働かされる人のことも「たこ」という{{Sfn|尚学図書|1981|p=1547}}{{Sfn|新村|1998|p=1642}}。

==== その他 ====
風呂に入ったり、酒に酔ったりして赤くなる様子を、茹でて赤くなったタコに喩えて「茹で蛸」と表現する<ref name="kotobank-651999"/>。「怒って茹で蛸になる」という表現も用いられる<ref name="kotobank-651999"/>。また、叱責することを「蛸釣る(蛸吊る、たこつる)」という{{Sfn|前田|2005|p=709}}{{Sfn|藤木|1958|pp=46–55}}。これは叱られた者が茹で蛸を吊るしたように赤くなることからと考えられている{{Sfn|前田|2005|p=709}}。兵舎の窓から[[おでん]]屋の煮蛸を釣り上げるところを見つかって叱られたことに起因するという談もある{{Sfn|前田|2005|p=709}}。また「[[下着泥棒|蛸釣]](たこつり)」は、先端に鉤を付けた竹竿で外から[[格子窓]]などを通じて室内の衣類などを盗み出すことを指す{{Sfn|尚学図書|1981|p=1547}}{{Sfn|新村|1998|p=1642}}。

[[大相撲]]の[[隠語]]で、思い上がって[[天狗]]になり、周囲の意見に聞く耳を持たなくなることを「タコになる」という<ref name="sanspo230518"/><ref>{{Cite web|和書|url=https://isegahama.net/%E7%9B%B8%E6%92%B2%E7%94%A8%E8%AA%9E/|title=相撲用語|website=伊勢ヶ濱部屋|accessdate=2024-08-26}}</ref>{{Efn|若いうちに[[関取]]になったり[[三役]]・[[横綱]]に昇進した場合に、兄弟子や[[年寄|親方]]のいうことを聞かなくなったりする[[力士]]のことを指す。}}。自惚れて得意顔でいるが、他人からは卑しめられていることを「蛸の糞で頭へ上がる」という表現を用いる{{Sfn|尚学図書|1981|p=1547}}{{Sfn|新村|1998|p=1641}}。

「タコ」は、バカやアホに類する、相手を蔑む悪口にも用いられる<ref name="reference1000306036">{{Cite web|和書|url=https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000306036 |title=悪口で「タコ」と言うのはなぜか。|date=2021-10-23|website=レファレンス協同データベース|publisher=国立国会図書館|accessdate=2024-08-26}}</ref>。この悪口の由来は諸説あり、[[江戸時代]]に[[将軍]]に謁見できない「御目見以下」である[[御家人]]のことを揶揄して[[旗本]]の子が「以下」と言ったことに対して、御家人の子が「タコ」と言い返したことから来た、という説明がなされることがある<ref name="reference1000306036"/><ref>{{Cite book|和書|author=大野敏明|title=知って合点江戸ことば|series=文春新書 145|publisher=文藝春秋|date=2000-12-01|pages=32–35|isbn=978-4166601455}}</ref>。[[野球]]では、[[安打]]が打てないことや[[凡打]]を「タコ」という<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.nikkansports.com/baseball/news/202401210001063.html|title=【DeNA】 たこ焼き大好き平良拳太郎、マウンドでは「27タコ」目標に凡打の山築く|date=2024-01-21|website=日刊スポーツ|author=小早川宗一郎|accessdate=2024-08-26}}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=https://www.sanspo.com/article/20170331-TOLHWUSTZFJGXCOLNSLYXY42KY/|title=ヤクルト・真中監督、「験担ぎしないことが験担ぎ」もタコは×|date=2017-03-31|website=[[サンケイスポーツ]]|publisher=産業経済新聞社|accessdate=2024-08-26}}</ref>。例えば、4[[打席]]4[[打数]]無安打の場合は「4タコ」と言う<ref name="soso-gyokyo">{{Cite web|和書|url=https://soso-gyokyo.jp/landnews/3747|title=(2021/01/13)本日の水揚&「〇タコ」の語源について。|date=2021-01-13|website=水揚げNews|publisher=相馬双葉漁業協同組合|accessdate=2024-08-26}}</ref>。相手[[ピッチャー]]の手玉に取られ、骨抜きにされることを骨を持たない「タコ」に喩えたものだとされる<ref name="soso-gyokyo"/><ref>{{Cite book|和書|author=奥谷喬司|title=タコは、なぜ元気なのか タコの生態と民俗|publisher=草思社|date=1994-02-25|isbn=978-4794205438|pages=44–46}}</ref>。また、悪口、野球用語ともにタコは自分の腕を食べるという逸話に基づくという説もある<ref name="soso-gyokyo"/><ref name="reference1000306036"/>。[[麻雀]]においても、下手な人を「[[麻雀用語一覧#た行|タコ]]」という<ref name="mj-news">{{Cite web|和書|author=麻雀ウォッチ編集部|url=https://mj-news.net/column/tsuchida-mjall/tsuchida_dictionary/2016091140820 |title=麻雀用語辞典 78.卓割れ、竹屋の火事、タコ、タコ和了、タコツッパ、タコ鳴き|website=麻雀ウォッチ|date=2016-09-11|accessdate=2024-08-26}}</ref>{{Efn|漫画『[[ぎゅわんぶらあ自己中心派]]』でも「日本タコ友の会」が登場する。}}。同様に、自分の順位のことを考えないで[[和了]]ることを「タコ和了」、根拠なしにただ要らない牌を切っていくことを「タコツッパ」、考えが全くない[[副露]]を「タコ鳴き」という<ref name="mj-news"/>。

「蛸」という言葉は上記以外にも、[[女性器|女陰]]の特殊なものを指して用いることもある{{Sfn|尚学図書|1981|p=1547}}{{Sfn|藤木|1958|pp=46–55}}。[[私娼]]を指す例もある{{Sfn|藤木|1958|pp=46–55}}。

[[京都弁|京言葉]]で「好きではない人」「好きになれない人」を「すかんたこ(好かん蛸)」という{{要出典|date=2024-08}}。[[関西弁]]で言う「すかんたれ(好かん垂れ)」の異形{{要出典|date=2024-08}}。漫画『[[ドラえもん]]』にも「[[ドラえもんのひみつ道具_(す)#スカンタコ|スカンタコ]]」というひみつ道具がある。

[[ポペットバルブ]]の[[気密]]を保つために研磨を行う際、持ち手として取り付ける[[バルブラッパー]]はタコ棒という俗称で呼ばれる。先端にタコのような吸盤があり、これでバルブを吸いつけて作業する<ref>{{Cite web|和書|url=https://news.webike.net/maintenance/80856/|title=吸排気バルブ分解時はクリーニング。「タコ棒」使って擦り合わせよう|website=Webikeプラス|date=2021-10-29|accessdate=2024-08-26}}</ref>。

袋叩きにすること、または原型をとどめないほどにボコボコに数多く殴ることを俗に「タコ殴り」という。「タコにする」ともいう{{要出典|date=2024-08}}。


==== タコに因んだ生物 ====
; 地名
[[File:Labidiaster annulatus 59636276.jpg|thumb|250px|[[タコヒトデ科]]の1種 {{snamei||Labidiaster annulatus}}。]]
* [[三重県]][[鳥羽市]]畦蛸(あだこ)町:田んぼの畦道にタコが歩いていたことに由来する。
タコはまた、その姿に喩えて他の生物の和名にも用いられる。下記のものが挙げられる。
* [[タコノキ]] {{snamei||Pandanus boninensis}} などのタコノキ類([[タコノキ目]]):[[単子葉植物]]。「蛸ノ木」の意で、茎の下部から[[根#さまざまな根|気根]]斜めに出す様子をタコの腕に見立てたもの{{Sfn|新村|1998|p=1642}}<ref>{{Cite book|和書|author=牧野富太郎|title=原色牧野植物大圖鑑 続編|editor=本田正次|publisher=北隆館|date=1987-10-31|edition=3版||page=234}}</ref>。
* [[タコノアシ]] {{Snamei||Penthorum chinense}}([[ユキノシタ目]]):「蛸ノ足」の意で、[[花序]]に花が並んだ様子をタコの足(腕)に吸盤が並ぶ様子に見立てたもの{{Sfn|尚学図書|1981|p=1547}}{{Sfn|新村|1998|p=1642}}<ref>{{Cite book|和書|author=牧野富太郎|title=原色牧野植物大圖鑑|editor=本田正次|publisher=北隆館|date=1986-10-30|edition=5版||page=161}}</ref>。
* [[タコヒトデ]] {{Snamei||Plazaster borealis}}([[マヒトデ目]]):22–39本のタコの腕を思わせる細長い腕を持つことから<ref>{{Cite kotobank|author=今島実|word=タコヒトデ|encyclopedia=改訂新版 世界大百科事典|publisher=平凡社|accessdate=2024-08-11}}</ref>。
* [[タコクラゲ]] {{Snamei||Mastigias papua}}([[根口クラゲ目]]):口腕と付属器が8本あり、外見がタコに似ていることから<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.kaiyukan.com/connect/news/202208_post-499.html|title=タコ?クラゲ?「タコクラゲ」を展示中!|website=海遊館ニュース|publisher=[[海遊館]]|date=2022-08-24|accessdate=2024-08-11}}</ref><ref>{{cite web|和書|url=https://www.asahi.com/articles/ASPC53QDMPC4TIPE00K.html|author=島崎周|title=タコクラゲ、桜島を背にゆらり 鹿児島湾近くで大量発生|date=2021-11-05|website=朝日新聞デジタル|publisher=朝日新聞社|accessdate=2024-08-11}}</ref>。


[[タコノマクラ目]]の不正形[[ウニ]]の1種である[[タコノマクラ]] {{Snamei||Clypeaster japonicus}} は、タコが枕にして寝るだろうという想像からの名であるとされる{{Sfn|尚学図書|1981|p=1547}}。この名はかつては[[ヒトデ]]類を指し、『[[訓蒙図彙]]』などに用例がみられる<ref name="Isono">{{Cite journal|author=磯野直秀|date=2006|title=タコノマクラ考 : ウニやヒトデの古名|journal=[[慶應義塾大学]]日吉紀要. 自然科学|volume=39 |pages=53–79}}</ref>。その後[[クモヒトデ]]類や[[カシパン]]類を指したが、1883年の『普通動物学』で同属の {{Snamei|Clypeaster subdepressus}} を指す和名として扱われた<ref name="Isono"/>。それが[[飯島魁]] (1890)『中等教育 動物学教科書』により本種の名に用いられ、[[標準和名]]として広まった<ref name="Isono"/>。
; その他
* 蛸[[唐草模様|唐草]]:[[陶磁器]]の[[文様]]。
* 蛸阿弥陀如来:[[曹洞宗]][[安楽寺 (愛知県南知多町)|安楽寺]]([[愛知県]]知多郡南知多町[[日間賀島]])にある。cf. [[安楽寺 (愛知県南知多町)#たこ阿弥陀]]。
* [[蛸の吸出し]]:[[町田製薬]]の[[軟膏]]([[医薬品]])。
* たこフェリー:かつて運行されていた[[明石淡路フェリー]]の通称。[[明石市|明石]]の名物に因む(写真)。
* [[卍固め]](オクトパス・ホールド):アントニオ猪木の必殺技。タコが絡みつくように固める。
* [[水銀整流器]]:多陽極式水銀整流器は胴部(冷却部)と多足(多陽極)の形状からタコと呼ばれることがある。
* [[クレクレタコラ]]:公害によって[[怪獣]]化し陸に上がったフテクサレタコ、という設定。[[1973年]]にぬいぐるみ劇として放送された。
* たこルカ:[[巡音ルカ]]の頭部だけをデフォルメし、髪の毛を脚に見立てたキャラクター(cf. [[VOCALOIDの派生キャラクター#巡音ルカをモチーフとしたキャラクター|巡音ルカをモチーフとしたキャラクター]])。
* [[たこさんウィンナー]]:ウィンナーの飾り切りの一種。
* タコ(土木) : 土を突き固めるのに使う[[槌]]の一種。4人で使うために持ち手が4つあり、4人で使うと脚が8本で移動する事になる事から。
* [[タコの山]] : タコの形を模した[[公園]][[遊具]]。[[すべり台|滑り台]]・[[迷路]]・[[秘密基地]]の要素を兼ね備えている。


== 脚注 ==
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=== 注釈 ===
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=== 出典 ===
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== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
* {{Cite journal|last1=Avendaño |first1=O. |lasst2=Roura |first2=Á. |last3=Cedillo-Robles |first3=C.E. |last4=Rodríguez-Canul |first4=R. |last5=Velázquez-Abunader |first5=I. |last6=Guerra |first6=Á |title=''Octopus americanus'': a cryptic species of the ''O. vulgaris'' species complex redescribed from the Caribbean |journal=Aquat. Ecol. |volume=54 |pages=909–925 |date=2020 |doi=10.1007/s10452-020-09778-6|ref={{SfnRef|Avendaño ''et al.''|2020}} }}
* {{Cite book |和書 |title=タコの教科書 |author=リチャード・シュヴァイド |translator=土屋晶子 |publisher=[[エクスナレッジ (出版社)|エクスナレッジ]] |year=2014 |isbn=978-4-7678-1824-5 |ref={{SfnRef|Schweid|2014}} }}
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* {{Cite book|last1=Collins |first1=M.A. |last2=Villaneuva|firs2=R. |date=2006|url=https://books.google.com/books?id=R7-TfdYeLEgC&pg=PA308 |chapter=Taxonomy, ecology and behaviour of the cirrate octopods |editor=Gibson, R.N., R.J.A. Atkinson & J.D.M. Gordon |title=Oceanography and Marine Biology: An Annual Review|volume= 44|publisher=Taylor and Francis |place=London|pages=277–322|ref=harv}}
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* {{cite journal |last1=Fuchs |first1=Dirk |last2=Iba |first2=Yasuhiro |last3=Heyng |first3=Alexander |last4=Iijima |first4=Masaya |last5=Klug |first5=Christian |last6=Larson |first6=Neal L. |last7=Schweigert |first7=Günter |last8=Brayard |first8=Arnaud |title=The Muensterelloidea: phylogeny and character evolution of Mesozoic stem octopods |journal=Papers in Palaeontology |volume=6 |issue=1 |year=2019 |pages=31–92 |issn=2056-2802 |doi=10.1002/spp2.1254|ref={{SfnRef|Fuchs ''et al.''|2019}} }}
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* {{Cite book|和書|author1=水口憲哉|author2=出月浩夫|title=マダコの地着きと渡り|publisher=東京水産振興会|date=2016-08-01|issn=1343-6074 |url=https://www.suisan-shinkou.or.jp/promotion/pdf/SuisanShinkou_584.pdf|ref={{SfnRef|水口|出月|2016}} }}
* {{Cite journal|author=吉郷英範|title=ご近所の生物誌②:八元八凱,備後地域で見られるタコ類)|journal=びんごの自然誌|volume=2|date=2024|pages=36–43|url=https://www.researchgate.net/publication/377777247_Natural_History_of_Neighborhoods_2_Octopus_of_the_Bingo_area_Hiroshima_Pref_Japan_In_Japanese_gojinsuonoshengwuzhibayuanbakaibeihoudeyudejianrarerutakolei |ref={{SfnRef|吉郷|2024}} }}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
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* [[オウムガイ]]
* [[オウムガイ]]
* [[アンモナイト]]
* [[アンモナイト]]
* [[アッコロカムイ]]
* [[クラーケン]]
* [[パウル (タコ)|パウル]]
* [[たこ焼き]]
* [[たこ焼き]]

; 人物
* [[たこ八郎]]
* [[横山ノック]] - 禿げ上がった頭から[[漫才]](漫画トリオ)で「タコ」と呼ばれた。
* タコ社長 - [[日本映画]]『[[男はつらいよ]]』に登場する[[太宰久雄]]が演じた零細企業の[[社長]](cf. [[男はつらいよ#レギュラー|男はつらいよの主要人物]])の[[愛称]]。
* [[中河美芳]] - [[日本プロ野球|プロ野球]]選手。一塁守備で足を大きく前後に開くさまと、どんな送球も吸い付くように捕球することから、「タコ足」「タコの中河」と呼ばれていた。
* [[新海幸藏]] - [[力士]]。足癖を得意としたため、「タコ足の新海」のあだ名が付いた。
* [[工藤由愛]] - [[ハロー!プロジェクト]]の女性アイドルグループ・[[Juice=Juice]]のメンバー。無類のタコ好きで、自ら「タコ(ちゃん)」という愛称を付けている<!-- <ref>[https://ameblo.jp/juicejuice-official/entry-12493114761.html 初めまして!工藤由愛] - [[Juice=Juice]]オフィシャルブログ([[サイバーエージェント]]) 2019年7月12日</ref> -->。

;その他
* [[卍固め]](オクトパス・ホールド) - アントニオ猪木の必殺技。タコが絡みつくように固める。
* [[水銀整流器]] - 多陽極式水銀整流器は胴部(冷却部)と多足(多陽極)の形状からタコと呼ばれることがある。


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2024年8月30日 (金) 18:47時点における版

タコ
様々なタコ
分類
: 動物界 Animalia
: 軟体動物門 Mollusca
亜門 : 有殻亜門 Conchifera
: 頭足綱 Cephalopoda
亜綱 : 鞘形亜綱 Coleoidea
上目 : 八腕形上目 Octopodiformes
: 八腕形目 Octopoda
学名
Octopoda Leach1818
シノニム
和名
八腕形目
八腕目
タコ目
英名
octopus
亜目
詳しくは本文を参照

タコ(蛸、鮹、章魚、鱆、: octopus)は、頭足綱鞘形亜綱英語版八腕形上目八腕形目(八腕目、学名Octopoda)に分類される軟体動物の総称である[1]。角質環や柄のない吸盤を付けた、多様な機能を持つ筋肉に富んだ8本のと、脊椎動物に匹敵する大きなを持つ頭部を前方に具え、厚い外套膜に覆われた内臓塊からなる胴を後方に持つことを特徴とする。

呼称

和名と漢名

日本語では、たこ[1][2][3][4][1][3][5][4]章魚[1][3][6][7][6][8]とも記す。「多古」[4]、「多胡」[4]、「太古」[4][9]のような音写のほか、「潮魚」[4]、「八梢」[4][注釈 1]、「章挙」[7][4]、「章拒」[7][4]、「章巨」[7]、「章花魚」[4][注釈 2]、「海蛸」[12]、「海蛸子」[13][4][9]、「海和魚」[4][14]、「海肌子」[4][9]、「小鮹魚」[13]、「望潮魚」[4][注釈 3]、「望潮」[7][注釈 4]など、約30表記が知られる[4]

タコの語源は以下のような様々な説が知られる[1]

  1. タはを示し、コは「許多(ここら)」[16][17]または助語(子)で、手が多いことからの命名[18][1][7]
  2. タは手を示し、コは海鼠(こ、ナマコ)の義[17][19]、またはナマコカイコのコに通じ、手を持った動物の意[20][1]
  3. 動詞「綰く(たく)」に由来し、手を縦横に動かすことから[21][1][3]
  4. 「手長(テナガ)」の略転[16]
  5. 「手瘤(テコブ)」の義[22][23][24][1]
  6. タはを示し、コはコ(凝)の義で、手が物に凝りつくことから[25][1]
  7. 「膚魚(ハタコ)」の義で、鱗のない魚であることから[26][1]
  8. 「多股(タコ)」の義で、足が多いところから[27][1][3][28]
  9. 「足る(たる)」と「壺(こ)」を意味する「タルコ」の略転で、丸く膨れた腹に餌をため込み満足する様子から[28]

をイカよりも見分けにくいことから、地方名は少ない[29]。その地域の最有力種は「真」を冠して「まだこ」と呼ばれる[29]。標準和名ヤナギダコクモダコは方言名に由来するものである[29]

中国語では通称として章魚、古称として、ほか別名として八爪魚、八帶魚[7][30]などと呼ばれている。漢字「」は「蠨蛸」でアシナガグモ Tetragnatha predonia を指す[2][12]。これが日本では本草和名で「海蛸」と表記してからタコを意味する漢字として用いられるようになった[12]。この海蛸は、コウイカの甲を本草で「海螵蛸」と表記することと混同したとも、8本の足をクモに見立てて海のクモの意に由来するとも説明される[12]。また、漢字「」がタコを表すのは日本での用例(半国字)で、中国ではヤガラアカヤガラ Fistularia petimba)を示す[5][13]

octopus

英名 octopus(オクトパス)は、直接的には新ラテン語 octōpūs(オクトープース)の借用であり、その元は古典ギリシア語ὀκτώπουςoktōpous)、ὀκτώ (oktṓ)「8」 + πούς (poús) 「足」に由来する[31]。ラテン語の octōpūs の複数形は octōpodēs であり、英語の octopus の複数形は octopuses である[31]。時に、ラテン語の第2変化名詞の語尾と誤解釈されて octopi という複数形が用いられることもあるが、これは正しくない[31][注釈 5]

Octopusマダコ属の学名としても用いられる。Octopus Cuvier1797 は、ジョルジュ・キュヴィエが1979年に Tableau Elémentaire de l’Histoire Naturelle des Animaux, 380. 中で記載したものである[32]タイプ種は日本のマダコ Octopus sinensis d'Orbigny1841 に近縁な地中海の種、Octopus vulgaris Cuvier1979 である[32]分類学の父、カール・フォン・リンネはタコを認識していたが、1758年Systema Naturæ『自然の体系』第10版では、コウイカ属の一種 Sepia octopodia Linnaeus1758 としていた。

外部形態

タコの外部形態

eye: 眼, outer gill lamellae: 鰓葉, aperture: 外套開口, funnel: 漏斗, ocellus: 眼状紋, web: 傘膜, arms: 腕, dorsal: 背側, suckers: 吸盤, hectocotylus: 交接腕, ligula: 舌状片

タコやイカなどの頭足類の体は、頭足部(頭足塊)と胴部(内臓塊)からなり[33][34][35][36]、タコの内臓塊は外套膜に覆われた外套腔と呼ばれる空所に取り囲まれる[33][37]。頭足塊は頭部からなり、前方にある[37]。内臓は後方に偏っている[37]。見た目で頭部に見える丸く大きな部位は実際には胴部であり[1][38]、本当の頭は腕の基部に位置して、口器が集まっている部分である。すなわち、頭から足(腕)が生えているのであり、同じ構造を持つイカの仲間とともに「頭足類」の名で呼ばれる理由である[38][33][39]

外套膜の腹縁は大きく開口し、外套開口 (pallial aperture, mantle opening) といい、外套腔内に海水を取り込む[40]

体サイズは種によって異なり、最大のものは全長3 mメートルに達するミズダコ Enteroctopus dofleini やその近縁種である[41]。これまでの確実な記録では生きているミズダコで、全長4 m、体重71 kgキログラムのものが知られる[42][43]。あくまで説話上であるが、腕を広げた長さが9.75 m、重さは272 kg のミズダコの逸話もある[42][43][44]。それに次いで大きいのは、2002年にニュージーランド沖で引き揚げられたカンテンダコ Haliphron atlanticus の死骸で、体重60 kg、全長2.9 m であった[42]

最小クラスの種として知られるのは熱帯の "pygmy octopus" と呼ばれるタコで、外套長2 cmセンチメートル程度で成熟する[41]。日本近海産のものではマメダコ 'Octopus' parvus が全長15 cm 程度で最小である[41][注釈 6]

タコの腕の横断面。複数の筋肉層からなる。
EP: 表皮; LM: 縦走筋繊維; TR: 小柱(縦走筋束の隙間に広がる横走筋繊維の束); CT: 結合組織; CM: 輪走筋層; TM: 横走筋繊維; ANC: 軸神経索(腕神経[45]); OME: 外側斜走筋層; OMM: 中間斜走筋層; OMI: 内側斜走筋層; SU: 吸盤。
マダコ類の吸盤。2列に並んでいる。

複数の吸盤がついた8本の(うで、arm)を特徴とする[46][47]。ほかの軟体動物における「」に相当すると考えられているが[46]、物を掴む機能などにより、特に頭足類における足は生物学的には「腕」と呼ばれる[48][37][49]イカでは普通、タコの持つ8本の腕に加えて触腕と呼ばれる2本の腕を持つため、合計10本の腕を持つ[46][48][注釈 7]。8本の腕は左右相称で、背側中央から外に向かって順に左右第1腕から第4腕までが数えられる[47][46][48]。ただし、雄はある決まった腕の一部が変形し、交接腕になる[47](「#生殖」節も参照)。

腕の間には傘膜(腕間膜)と呼ばれる広い膜が発達する[46]

吸盤

タコの吸盤の断面の模式図。

吸盤(きゅうばん、sucker)の構造はイカ類とは異なり、柄や角質環を欠く[51][52][53]。これがイカとタコを区別する、もっとも重要で確実な違いである[51][54][注釈 8]

タコの吸盤は非常に多機能であり、移動や体の固定、餌の捕獲などに用いられる[51]。タコの吸盤の付着面には筋肉が放射状と同心円状に配置しており、放射状筋の上にさらに微小な吸盤が並ぶ[48]。タコの吸盤は外側の外環部(がいかんぶ、infundibulum)と呼ばれる付着部と内側の半球状のくぼみである内環部(ないかんぶ、acetabulum)の2領域からなる[51]。内環部が他物に密着した時の陰圧により吸着を行う[51]

この構造の違いは、生態を反映していると考えられている[52]。遊泳性の餌を捕らえ、暴れる餌を抑え込む必要があるイカに対し、タコは待ち伏せ型の狩猟を行うため、角質環のような爪が不要であると考えられる[55][53]。また、底生であるため、海底を移動する際に引っかかることを避ける必要もあると考えられている[55]

また、吸盤には感覚細胞(受容体細胞)が分布し、全部の腕を合わせると2億4000万個になる[48][56]。物の形状が識別できる触覚(機械刺激受容)と化学受容器による味覚を持つ[48][56]

吸盤列は1列のものと2列のものが知られる[57][58]ジャコウダコ属 Eledoneナンキョクイチレツダコ属 Pareledone といったイチレツダコ類は吸盤列が1列である[59]メンダコ科ジュウモンジダコ科ヒゲダコ科からなる有触毛亜目では、吸盤列が1列であるが、代わりに腕に触毛(しょくもう、cirrus)が生えている[57][60]。白亜紀のムカシダコ Palaeoctopus newboldii も触毛を持ち、吸盤列が1列である[61]

タコの吸盤は切断されたものであっても、自分の体には吸着することはなく、この原理については判明していない。ただしタコの皮膚を取り除き、同じタコの腕を切断して近づけると、その腕の吸盤は皮膚を除去した部分に吸着する。また皮膚を貼り付けた物体に、切断されたタコの腕を近づけると、その部分にはくっつかず、皮膚のない場所にはくっつくという現象が確認できることから、皮膚に何らかの自己認識機構が存在するという説がある[62]。吸盤の表面は古くなると剥がれて更新される。古い吸盤表面を剥がすために激しく腕をくねらせて互いにこすり合わせることがある。

1対の鰭を持つジュウモンジダコ属 Grimpoteuthis の1種。

タコ類の多く(無触毛亜目)は、イカが持つような(肉鰭、fin[63])を欠く[33]。有触毛亜目(有鰭亜目)に属するヒゲダコ科メンダコ科メンダコなど)には鰭がある[60][64]。この鰭は俗に「ミミ(耳)」と呼ばれる[60]。鰭は筋肉からなり、水中で機動力を生み出す器官である[64]

漏斗

腹側には漏斗と呼ばれるチューブ状の構造がある[51]。これは漫画では口のように描かれるが、実際の口は上述するように腕の付け根に存在する[39]。漏斗から外套腔内の海水を強く噴き出して、ジェット推進により移動する[51][39]。漏斗を自在に動かし、その向きを変えることで泳ぐ方向を調節する[51]。また、漏斗からは、雄は精包を放出し、雌は産卵の際、卵を放出する[39]。墨や排泄物も漏斗を通じて放出される[39]

漏斗は発生の過程では左右2に開いた構図をしており、それが癒合して形成される[51]

漏斗の左右には漏斗軟骨器と呼ばれる構造があり、外套膜と頸部を固定している[51]

脊椎動物の眼とタコの眼の比較。
1. 網膜、2. 神経束、3. 視神経、4. 盲点

タコの眼は解剖学的に脊椎動物のものに似たレンズ眼であり、非常に発達している[65][66][67]。これは発生学的には異なるもので[65]、相似である[66]。発生の際、眼胞が発達して完全に閉じ、前方にレンズを生じる[68]。レンズを連ねる虹彩を持ち[68]、そのため様々な表情を示す[67]。後方には硝子体を持ち、これらは角膜によって包まれる[68]。中央部はコウイカ目閉眼類と同様に完全に閉じる[69][注釈 9]。その外側には1枚の眼瞼ができる[69]

頭足類のレンズは外胚葉に由来し、視神経網膜の外側から伸びるため、盲点が存在しない[66]。眼のレンズは前後に仕切られ[66]、2枚が貼り合わさった構造となっている[67]。ヒトの視細胞は光の入射方向とは反対を向き、神経節細胞などのいくつかの細胞層を通って光を受容するが、タコの視細胞は頭部が光の入射方向を向いている[70]。また、脊椎動物の眼とは違い、正立像が得られる[67]

視細胞には桿体錐体のような区別はなく、単一の種類の細胞である[70]。その視物質ロドプシンのみであり、そのため色覚を欠くとされる[71]。視覚情報を利用した実験などから、コントラストは見分けることができると考えられる[71]。タコの視細胞の分光感度は、マダコ[注釈 10]で475 nmナノメートルイイダコで477 nm、ジャコウダコで470 nm であることが分かっており、何れも青色に相当する[71]。これはタコが底生であるため、海中で光が減衰し、海底では短波長の青や紫が届くことと整合的である[71]。視細胞の頭部には偏光の受容に関与する感桿という微絨毛が整列した構造を持つ[70]

ほかの軟体動物と異なり、眼には動眼筋が付着する[66]。そのため眼を筋肉で動かすことができる[66]

ヒゲダコ属 Cirrothauma の眼は単純なカップ状で、角膜と瞳孔は持つが、虹彩とレンズを欠く[66]ボルケーノ・オクトパス Vulcanoctopus hydrothermalis の眼は皮膚下に埋没し、視覚機能をほとんど欠く[73]スカシダコ Vitreledonella richardi の眼球は楕円形の凸レンズで、体の横方向に伸びる長い柄を持つ[74]クラゲダコ Amphitretus pelagicus の眼は球面レンズを持ち、赤褐色の眼が望遠鏡のように背面に隣り合って並ぶ[75]

内部形態

消化器官

消化器官消化管とそれに付属する腺組織からなる[76]。タコの消化管は口-食道-胃-腸-肛門のように連続し[76]、背腹方向に折れ曲がったU字状の構造で、墨汁嚢が付属する[77]

腕に囲まれた中央に口がある。
Enteroctopus の顎板を取り出した様子。
Octopus vulgaris の歯舌。9本の歯舌が並ぶ。

は腕に囲まれた内側の付け根に存在する[38][39]。口にはよく発達した口球(こうきゅう、buccal bulb)を持ち、その中に上下1対の嘴状の顎板歯舌を具える[78][77][39]

顎板(がくばん、jaw plate)は嘴 (beak) とも呼ばれ、俗にカラストンビと呼ばれる[77][39][79]。背腹が対になっており、構造はほかの軟体動物が持つものとは異なっている[77]。背側の顎板を上顎板、腹側の顎板を下顎板と区別し、それぞれカラスとトンビと呼び分けられる[79]。下顎板が上顎板より突出している[80]。顎板の先端は鋭く、餌を咬み切るために用いられる[77][80]

歯舌(しぜつ、radula)は餌を引きちぎり、食物を運搬するために用いられる[81]。タコの歯舌はイカやアンモナイトと同様に、1本の中歯central tooth)に加え2対の側歯laterl tooth)、1対の縁歯marginal tooth)と1対の縁板の9本のを持つ[77][82]。タコの歯舌は三叉状、五叉状のものもみられ、特にフクロダコ科では櫛状の歯尖を持つ[82]

消化管

イチレツダコ Eledone cirrosa の消化管。
m. 口; J. 上顎板; J.' 下顎板; r.s.g. (右)前唾腺; B.M. 口球; r.b. 歯舌嚢の基部; r.s1g1 (右)後唾腺; cr. 嗉嚢; oes. 食道; St. 胃; Liv. 肝臓 (中腸線); l.h.d. 左肝膵管; r.h.d. 右肝膵管; Sp.Coe 胃盲嚢(螺旋盲嚢); int. 腸; i.s. 墨汁嚢; i.d. 墨汁管; an. 肛門[注釈 11]

食道oesophagus)は脳軟骨と脳を貫通する単純な管状の構造である[81][注釈 12]。食道中央部は膨らみ、嗉嚢(そのう、 crop, proventriculus)となる[81][83][84]は単純だが大きく発達し、2巻きの螺旋状の盲嚢(胃盲嚢、spiral caerum, gastric diverticulum)が付属する[81][83]。腸は単純で短く、胃の後部から外套腔の開口部に向けてまっすぐ伸びる[85]

中腸腺midgut gland)は1対で部分的に癒合し、卵形の一塊となっている[83]。中腸腺はよく発達し、肝臓域と膵臓域が分化する[78]。タコの膵臓は中腸腺(肝臓)に埋没し、切り離せない構造となっている[83][86]。中腸腺は1対の輸管(肝膵管、hepatic duct, hepatopancreatic duct)を持ち、合一して胃に開口する[83][86]

唾液腺

後唾液腺に強い毒を持つオオマルモンダコ Hapalochlaena lunulataヒョウモンダコ属)。

唾液腺は2種類あり、口球の側方に1対の前唾液腺(前唾腺、anterior salivary gland)、口球の後方に毒が含まれる後唾液腺(後唾腺、posterior salivary gland毒腺)を持つ[81][82]。この後唾液腺から分泌されるセファロトキシンを用いて餌を麻痺させる[81][87][88][89]。ほぼ全てのタコは毒を持っているとされ[90]マダコサメハダテナガダコ Callistoctopus luteusワモンダコからセファロトキシンが検出されている[91][89]。この毒は人間に対しても患部に麻痺症状や炎症を引き起こすが[89][92]、命に別状はない程度である[90]

ヒョウモンダコ属のタコは例外で、分泌腺内に住むバクテリアに由来するテトロドトキシンを持っており、人間でも噛まれると命を落とすことがある[58][93][94]。毒の産生は分泌腺内に共生するバクテリアが行っている[95]。孵化前の幼生もバクテリアによって雌から毒が受け渡されるため、毒を持っている[89]。これは解毒剤は見つかっていない[96][95]

また、タコは口球の腹側に筋肉質の唾液乳頭が突出し、その下に下顎腺がある[81]。唾液乳頭は動かすことができ、二次的な歯舌として機能し、貝殻に穿孔して貝類を捕食する[81][90]#食性も参照)。

墨汁腺

タコは危険を感じると漏斗を通じて墨を吐きだすが、これは直腸に付属する墨汁腺から分泌される[78][85]。墨汁は墨汁嚢に蓄えられ、墨汁管と肛門を通って漏斗から体外へ放出される[78][85]。深海性のホッキョクワタゾコダコ Bathypolypus arcticus などでは墨汁嚢を欠く[97]

神経系

軟体動物の神経系の中心は脳神経節側神経節足神経節が食道を囲むように位置してできた食道神経環である[98]。とくに頭足類では食道神経環が発達し、内臓神経節とも癒合してを形成する[99]。脳は頭蓋軟骨(脳軟骨)により取り囲まれており、白く硬い塊を形成する[99]。この頭蓋軟骨は脳を保護するためのものであり[38]中胚葉組織から発達する[69]

脳は食道上脳塊と食道下脳塊の2つからなり、それぞれが側方で縦連合によって連結される[99]。また脳は、24個の脳葉と呼ばれる瘤状の領域から構成されており、更に細分すると36–37個が数えられる[99]。タコ類の脳葉には名前が付けられており、頭頂葉、上位前額葉、下位前額葉、上位口球葉、視柄下葉、内臓葉、外套葉、後部色素胞葉、前部色素胞葉などが区別される[99]。眼の基部にある脳葉は視葉で、眼の発達と関連し、脳葉中で最大である[99][100]。視葉以外の脳葉は中央部分に集まっている[100]。また、学習能力は垂直葉とその周辺の脳葉が担っている[101]

また、脳以外にも小規模な神経節が9つ存在する[102]星状神経節は鰓の基部付近から外套膜に神経を放射状に伸ばす神経節であり、頭足類にのみ知られる[102][103]

平衡器の近くに生じた足神経節からは、腕神経節が前方の先から分岐して生じ、後部からは漏斗神経節が対をなして形成される[69]。腕神経節から伸びる腕神経(神経束)はそれぞれの腕の中央を貫通する[104]。それぞれの腕を伸ばす動作は脳による指令ではなく、腕そのものの神経によりコントロールされている[104]

筋系

その柔軟な体のほとんどは、他の多くの動物と同様に、筋肉組織が占めている[105][106]。タコの主要な筋肉はイカに比べて多く、頭部牽引筋漏斗牽引筋、外套収縮筋、中央外套収縮筋を持つ[107]。漏斗から噴き出される水によるジェット推進は外套膜の筋肉の運動が大きな影響を与えており[107]。放射状筋が弛緩して環状筋が収縮することにより体の直径が小さくなって水が噴出され、環状筋が弛緩して放射状筋が収縮すると外套腔へ水が取り入れられる[107]

またタコの腕は異なった向きに配向する3–4層の筋肉組織からなり、収縮と弛緩を組み合わせて向きを自在に変形する[108][46]

循環系

イチレツダコ Eledone cirrosa の外套膜の腹側を開いた様子。
f.ant. 漏斗開口部; F. 漏斗; Ml 外套膜; h. 頭部; coll. 襟(外套膜縁辺部); an. 肛門; F.D. 漏斗下制筋; g. 鰓; od.ap. 輸卵管開口部; Ur.p. 尿乳頭(腎門); Br.ht. 鰓心臓; G. 生殖腺[注釈 13]

循環系はよく発達してほぼ閉鎖血管系となる[78][109][110]。それに対し、頭足類以外の軟体動物は開放血管系である[110]。収縮して血流を送る器官は心臓だけでなく、1対の鰓心臓を持つ[78][109]。心房の数は1対で、心室が発達し、内部の弁により隔てられる[109]

血管は外皮・中皮・内皮の3層構造である[109]。頭部と外套膜に血液を送る前大動脈、内臓の後方に血液を送る後大動脈、前側から腎嚢に伸びる腎動脈、心房の前側から心臓を横切る形で生殖器官に向かう動脈を持つ[109]血圧は比較的高く、活動時は10 kPa (75 mmHg) 以上となる[110]

血液中にはヘモシアニンという呼吸色素が含まれており、そのため血液は青く見える。ヘモシアニンは鰓の付着膜と入鰓血管の間にある鰓腺で合成される[111]。ヘモシアニンはヘモグロビンに比べ酸素運搬能力に劣るため、長距離を高速で移動し続けることができない[112]。さらに、海水の pH 濃度にも影響を受けやすく、海水が酸性化すると酸素運搬能力が低下する[113]

はほかの軟体動物と同様に櫛鰓で、1つの鰓は1対の鰓軸から鰓葉が交互に突出した構造をしている[114]。鰓は1対で[115][69]、それゆえ鞘形類は二鰓類 Dibranchia とも呼ばれた[116]背側に入鰓血管、腹側に出鰓血管が走るため、鰓葉内部では腹から背側に向かって血流が流れる[115]。鰓は付着膜(gill ligament, dorsal membrane)によって外套膜から吊り下げられ[115]外套腔にある[69]

発生においては初め、外套膜原基の隆起の前方に1対の乳頭状突起として生じるが、外套膜の発達とともに外套腔内に入って前後に伸び、櫛鰓となる[69]

排出器官

マダコ Octopus sinensis の腎嚢に生息するヤマトニハイチュウ Dicyema japonicum(染色)。

タコは1対の腎嚢(じんのう、renal sac)と呼ばれる袋状の排出器官を持ち、その内部にある大静脈が膨出してできた腎嚢付属体(腎臓)が腎嚢内に血中の老廃物を排出する[117]。原尿は鰓心臓後端に付属する囲心嚢腺で濾過され、腎囲心嚢連絡管を通じ、腎嚢から体外に排出する[117]。外套腔内に開いた腎嚢の出口は腎門(腎口[69]、尿乳頭[45]urinary papilla)と呼ばれる[118][45]

腎嚢内には、ニハイチュウが寄生している[119]。これは1787年にイタリアの博物学者フィリッポ・カヴォリーニにより発見された[120][121]。ニハイチュウは体皮細胞の表面にある繊毛の繊毛運動により、尿中を遊泳したり腎嚢内の腔所を移動する[119]。ニハイチュウ類の寄生率は、温帯海域の砂泥に生息するタコで高く、成熟したマダコやイイダコではほぼすべての個体に寄生している[122]

貝殻

貝殻(卵殻)を持つ Argonauta nodosusアオイガイ属)の雌。

また、頭足類貝類であり、内在性の貝殻を持つが、タコ類では完全に退化するか、軟骨質(寒天質)になる[57][78][61]。軟骨質の貝殻はスタイレット[123](棒状軟骨、stylet[80])と呼ばれ、棒状かU字状、H字状をしている[124]。この貝殻の喪失は、体色変化による隠蔽、墨の利用、ジェット推進による遊泳、強い腕や顎などと関連していると考えられている[125]。大きな鰭を遊泳に利用するヒゲダコ科ではスタイレットがこれを支えている[126]

タコでもアオイガイ A. argoタコブネ Argonauta hians などのアオイガイ科は螺旋状の外在性で石灰質の貝殻をもつが、これは雌の第1腕から分泌されたものであり、オウムガイなどの貝殻とは直接的な起源が異なる[78][124]。また、アオイガイ属の貝殻は内部に隔壁を持たない[124]。この貝殻は卵を保持する機能を持ち、雄は形成しない[124]

生態と行動

サルパ内に住むアミダコ Ocythoe tuberculata

ほかの軟体動物は間隙性や付着性など海底面に接して生活するものが多いのに対し[127][128]、タコはイカとともに海面直下から深海域までの3次元的な生息域を持っている[128]。特にタコ類は潮間帯から水深6000 m 以深まで幅広く分布する[58]。最大水深は8,100 m とも言われる[129]。しかし淡水生のものは知られておらず[128]狭鹹度性で塩分は30‰以上を求める[130]。そのため、「蛸の真水嫌い」や「梅雨時に雨の多い年は蛸、烏賊が少ない」と言われる[131]。また、夜行性のものが多いとされる[132][133]

マダコ Octopus sinensis などタコ類の大半は底生で、腕が発達し匍匐生活を送る[57][58][134]。底生のものでも、好む底質などの生息環境は種によって異なる[129]。岩礁にあるクレバスや転石の間隙には底生のタコ類が生育し[135]、マダコなどが巣穴として利用する[129]潮間帯にできるタイドプールには小型のタコ類がみられ、昼間はクレバスに身を隠している[128]カジメの根元にはマメダコなどの小形のタコ類が生息する[128]イイダコ Amphioctopus fangsiaoミミックオクトパス Thaumoctopus mimicus などでは内湾寄りの砂泥地に落ちている貝殻や甲殻類が形成する穴などを棲み家として生息する[135][129]サメハダテナガダコ Callistoctopus luteus では砂底中に埋没して隠れている[129]珊瑚礁棲のワモンダコ 'Octopus' cyanea などは、その複雑な地形を利用し身を隠している[129]。深海性の底生のタコは巣穴などを利用せずに、泥質の海底を匍匐していると考えられる[129]

その一方で漂泳性の種も多く知られている[127]ムラサキダコ Tremoctopus violaceusムラサキダコ科)は表中層を浮遊する[58][127]アミダコ科も浮遊性で、雄はサルパの皮殻内に入る[57][127]クラゲダコ Amphitretus pelagicusクラゲダコ科)、カンテンダコ Haliphron atlanticus(カンテンダコ科)、ナツメダコ Japetella diaphanaフクロダコ科)などは表層を浮遊する[136]。クラゲダコやスカシダコ Vitreledonella richardi が透明であるのは、隠れる場所が少ない海の水柱の中層で、影を消したりクラゲへのカモフラージュによって捕食者に見つかりにくくする効果があると考えられている[137]アオイガイ科も浮遊生活を送り、雌は卵を保護するための貝殻を作る[57]

巣と移動

多くのタコ類で鉛直方向または水平方向の移動を行うことが知られている[130]

マダコ類の多くは海底に巣穴(デン、den、蛸穴[138])を持つ[139][140][141]。マダコやワモンダコ 'Octopus' cyanea は岩の隙間や礫の下に巣穴を持つ[139]。マダコは単独で行動し、海底の巣穴をとして、夜になると索餌のために海底を這って動き回り、帰巣する[140][141]。この際に学習や記憶を行っていると考えられている[140]バミューダのマダコ[注釈 14]では、巣穴から出て2 m 以上の移動を10分以上かけて行い、往復路で違う道を用いて帰巣した[142][143]。これは池田譲によると、全く同じ道を戻るトレイル・フォローではなく海底の岩などを道標として、景観を見て帰巣しているのだと考えられている[144][145]

マダコ漁業に用いられる蛸壺はこの巣穴に隠れる習性を利用したものである[141]。自分の巣穴から遠く離れた場所で餌を捕まえた場合、運搬の途中で隠れ場所を見つけるとそこに持ち込んで食べる[141]。自分の巣穴まで持ち帰るにはコストがかかり、その低減のために行う行動であるが、巣穴からどれだけ離れているかという判断も行ったうえで、蛸壺を利用することが知られている[141]。また、蛸壺の内部は綺麗でないと入らないとされる[141]

小形のタコはサザエアカガイヒメスダレガイなどの貝殻を用いて巣穴とする[139]。スナダコは様々なものを巣穴といて利用し、時には人工物をも用いる[139]イイダコでも、二枚貝の貝殻を2つ合わせて身を隠し、その中で抱卵する[146][147]。メジロダコはサツマアカガイなどの二枚貝を腕に挟んで海底を移動し、「貝持ち行動」として知られている[148]#道具の使用も参照)。

インドネシアウデナガカクレダコ Abdopus aculeatus では、「二足歩行 bipedal walking」をとることがクリスティン・ハッファードにより報告されている[149][150]。胴体をボール状に丸くし、腕のうち2本を用いて交互に動かし、移動する[149]。これは防衛行動の一種だと考えられている[151]

また、種によってはタコも渡りを行うことが知られている[152]津軽海峡ミズダコで渡りが観察されており、海底を移動し、水深200 m に達する津軽海峡を越えて北海道青森県を行き来する個体が報告されている[153]。日本のマダコ Octopus sinensis も渡りを行い、渡り群と地着き群が存在することが知られている[154][155]。特に常磐地方のマダコで渡りが知られ、多数のタコが群れを成して南北移動を行う[156][130]

平衡感覚

タコは軟骨でできた平衡胞と呼ばれる器官を左右1対持ち、中に炭酸カルシウムでできた平衡石を具える[157]。平衡胞内壁表面に生える微絨毛に平衡石が触れることで姿勢を認識する[157]。移動の際は加速度も検知することができる[158]

平衡胞を外科的に破壊すると、平衡感覚が失われる[158]。タコの眼の向きは体の向きにかかわらず常に水平方向を向くようになっているが、平衡胞を破壊するとタコの向きに依存して眼の向きが変化してしまう[159]。平衡胞を破壊したタコでも「回り道」の認識には大きな影響がないが、図形の向きの認識には支障を来す[158]。また、平衡胞は50–400 Hz低周波の音によっても損傷を受けることが分かっている[160]

食物網

食性

カニを食べるメジロダコ Amphioctopus marginatus

鞘形類はイカもタコも大型肉食性捕食者で、甲殻類を食べる[161][162][163]。特に底生のタコはカニ二枚貝を好んで捕食する[162]。タコはカニにとっての天敵であり、カニの一種 Carcinus maenas では、歩脚を木製ピンセットをつまんでも起こらないが、タコの腕を吸いつかせると直ちに自切反射が起こることが知られている[164]。マダコやイイダコでは貝類を食べる際、まずはの力でこじ開けを行い、それで開けられなかった場合、歯舌で貝殻に穿孔して唾液腺の毒を注入し、餌を麻痺させてから捕食する[165][166]。海底に落ちている魚の死骸を食べることもあり[167]イチレツダコ Eledone cirrhosa は生きた甲殻類だけでなく死んだ魚を食べる[163]

吸盤には化学受容細胞が分布し、触覚により餌を探ることができる[168]テナガダコ Callistoctopus minor は海底の泥中に埋没して、第1腕を水中に伸ばして餌を捕獲する[168]ホワイト・ブイ・オクトパスと通称される種 Abdopus sp. は、他の生物の巣穴に腕を差し込んで捕食する[169]

深海棲のホッキョクワタゾコダコ Bathypolypus arcticus では、胃内容物から大量の有殻翼足類と少量の甲殻類が見つかっている[163]。遊泳性のアオイガイ属 Argonauta は小型甲殻類や魚類を捕食する[163]。中でもチヂミタコブネ Argonauta boettgeri は浮遊性翼足類カメガイを捕食することが観察されている[163]。南極海に棲むオオイチレツダコ Megaleledone sebastos (≡Graneledone setebos =Megaleledone senoi) は胃内容物からは、由来不明の固形内容物のほかクモヒトデの骨格も見つかっており、別の記録では例外的に大量の海藻が占めていた[163]"Octopus" filamentosus では干潮時に半海洋性のウシオグモDesis martensi を捕食しているのを観察されたこともある[163]。漂泳性で歯舌が消失しているヒゲダコ科微小物食性となっている[163]

漂泳性のムラサキダコは、若齢時に表層を漂う猛毒のカツオノエボシを好んで捕食し、その刺胞を含む触手を第1腕から第2腕の吸盤に付着させる盗刺胞を行い、武器として利用する[170][171]。この刺胞は天敵からの防御や捕食の際に用いられる[170][171]

鞘形類では共食いも一般に観察される[163]。そのため、同類のものが互いに食い合うことを喩えて「蛸の共食い」という[172][138]

被食者として

食物網の中でのタコは捕食者であると同時に被食者でもあり、海洋生態系中で非常に重要な餌生物となっている[173]。人間にとってタコは食品として利用されているが、海洋の捕食者にとっても優れた餌となる[173]。硬い殻や骨を持たず、ほぼすべて消化可能であり、効率が良い[173]。そのため、カマスハタフエダイイットウダイアイナメカサゴサメといった魚類だけでなく、ラッコアザラシシャチといった海棲哺乳類、鳥類もタコの天敵である[174]。ただしクジラマグロなどの重要な餌生物であるイカに比べると、タコは底生で隠れ家を持つものが多く、被食されにくい[173]

タコの天敵として最もよく知られているのはウツボである[173][175]。ウツボは大型の底生魚類であり、クレバスの奥にも潜り込めるため、タコの捕食者になりやすい[173]。また、鱗がなく皮膚が強靭で硬く、歯も鋭いためマダコと格闘し腕などを食いちぎる様子がよく観察されている[175]。マダコはウツボに襲われると、腕を翻して丸まり、防御の姿勢を取る[176]。そしてその後隙を見て逃走を図るが、腕の先を咬まれ腕を失うこともある[176]アナゴなどほかのウナギ類もタコの天敵となる[177]

ほかの魚種からも報告があり、ホッキョクワタゾコダコ Bathypolypus arcticusタイセイヨウオヒョウ Hippoglossus hippoglossus の胃内容物から見つかっている[175]。またイギリスでは、イチレツダコ Eledone cirrhosaタラ類やアンコウ類に捕食されていることが知られているほか、水槽で飼育されている卵はカニに捕食されている[175]

大型のタコや有触毛亜目のタコはサメアザラシ鯨類に捕食される[175][126]。そのため、青森県下北半島では「海驢は蛸の群れについて来る」というが伝わる[131]。しかしこの捕食-被食関係も一方的なものではなく、稀にではあるが、大型のタコが小型のサメを捕食することがある。またシアトル水族館では、ミズダコが同じ水槽で飼われていたアブラツノザメを攻撃し、死亡させた例もある[174][178][179][87]

深海棲の有触毛亜目では天敵となる捕食者の記録は少ないが、これは食べられていないというわけではなく、顎板から種を見分けるのが難しいためであると考えられている[126]。漂泳性の種も重要な餌生物となっていることが知られており、ナツメダコ Japetella diaphana は寒天質にも拘らず、マグロ類やミズウオの胃の内容物から頻繁に見つかる[180]

ミズダコのような最大のタコでも、大抵は臆病でダイバーを見ると墨を吐いて逃げるが、その力は強く、もし絡まれると危険な目に遭う可能性もある[181]レギュレーターに腕を絡ませ、ダイバーの呼吸を阻害した事例も知られている。

腕の自切と再生

多腕の奇形マダコ。

頭足類の腕は捕食や移動、自切、交接や競争に加え、攻撃や共食いにより傷つくことがあり、再生能力を持つ[182][183]。体が損傷すると、それに応答して再生を始める[182]

カクレダコ属 Abdopus は捕食者に襲われると腕を自切し、デコイとして利用してその隙に逃げることが知られている[184]テギレダコ Callistoctopus mutilans は捕らえようとすると腕を自切して逃げることから、その和名や学名が名付けられた[41][注釈 15]

オクトプス・ウルガリス Octopus vulgarisマダコ Octopus sinensisカリフォルニアツースポットダコ Octopus bimaculoides では自分の腕を食べる行動が観察されている[93][185]瀧巌の観察によると、アサリなどの餌生物を与えていても起こるため飢餓ではないことが分かっている[93]。この行動は何らかの病原体によって引き起こされる感染性の致死的疾患であると考えられている[186]。腕を食べ始めたタコは数日以内に死亡する[93]。消化管内には腸内で消化されておらず、小肉片となって腸内を充填してしまう[93]。この行動の多くはストレスによるものではないと考えられることもある一方[186]、精神の異常によるものだと考えられることもある[93][185]。例えば、豊かな環境の水槽とごく普通の水槽にカリフォルニアツースポットダコを入れて行動を比較した研究では、後者でのみ自食行動が観察された[185]

傷ついた腕が再生する際、2叉または3叉に分枝し異常な腕となることがある[182]鳥羽水族館には三重県沖から漁獲された多腕となったマダコが度々持ち込まれ、うち85本のものは1955年の開館直後から展示されている[187]

生殖

タコの交接腕の模式図
ligule: 舌状片、calamus: 円錐体、succer: 吸盤。

タコは雌雄異体で、体の後部に単一の生殖巣を持つ[188][118]。卵は大型であるため、発達した卵巣精巣ははっきりと区別できる[188]

輸精管は左側にのみある[188]輸卵管は無触毛亜目のタコでは対になるが[188]、有触毛亜目のタコでは左側にしかない[189]。輸卵管の末端には輸卵管腺が付属し、卵殻を分泌する[189]

雄の精子は、精包(精莢)として雌に渡される[189][190]。精包は精包腺からの分泌物で精子が固められて形成され、輸精管末端の精包嚢(精莢嚢[45]、ニーダム嚢[189])に貯蓄される[189][103]。集められた精包は陰茎から発射される[103]。精包は包膜の中に精子の塊が螺旋状に畳まれて入っており、受精時に飛び出す[191]

また、タコの雄は腕の1本が変形して交接腕(生殖腕、hectocotylus)となり[191][192][193][47]、先端に舌状片と円錐体(交接基、交接翮[45])を持つ[194][193]。舌状片に至るまでには細く狭い溝が通っており、これを精莢溝(精溝[195][45])という[193][194]。この交接腕を雌の外套腔に挿入し、精包を渡す[191][192][190][196]。この行動を交接という[47][190][197]マダコなどでは右第3腕が交接腕となるが[191][198]オオメダコ Paroctopus megalops などでは左第3腕が交接腕となる[199]。テナガダコは交接腕が匙状となることから、「しゃくしだこ」と呼ばれた[29]

アオイガイ科アミダコ科ムラサキダコ科の交接腕は千切れ、雌の外套腔内に残される[191][192][200]。そのため、アオイガイ Argonauta argo の交接腕断片は寄生虫と誤解されて、1825年にステファーノ・デッレ・チアジェにより Trichocephalus acetabularis として記載された[200]。同様にアミダコの雌の体内に残された交接腕はジョルジュ・キュヴィエ寄生虫と誤解されて、1829年、ヘクトコチルス Hectocotylus octopodis として「記載」された[191][192][200]

ヨーロッパヒメコウイカ Sepia elegans (左、イカ類)とオクトプス・ウルガリス Octopus vulgaris (右、タコ類)の卵塊。O. vulgaris の卵塊は藤の花序のように房状となり、海藤花と呼ばれる。

たいていのタコの雌は、生涯に1回のみ産卵し、卵が孵化したのちに死んでしまう[201][155]。卵サイズは種によって多様である[202]。卵は卵黄に富み、卵嚢に包まれる[191]。卵殻には柄があって、房状の卵塊をまとめて産み付ける[191][201][202]。多くのタコの雌は、卵塊を岩棚などに産み付ける、基質産卵型の産卵を行う[201]。雌は卵塊を抱き、汚れを吸盤で掃除したり、海水を吹きかけたりして世話をする[201]。漂泳性のムラサキダコ Tremoctopus violaceusナツメダコ Japetella diaphana は基質産卵型ではなく、口を膜で覆って卵塊を腕で包み込み、保持し続ける[201][180][203][204]

タコには性差があることも多く、一般に雌の方が大型になる[191]ムラサキダコでは雌は全長56 cm であるが、は3 cm より小さい[191]。ムラサキダコの雄の交接腕は発達する[205]。この性的二形は交接時に泳ぐ抵抗を減らし、捕食などのリスクを減らす効果があると説明される[206]アミダコ Ocythoe tuberculata でも雌は全長52 cm であるが、雄は 16 cm 程度である[191]マダコでは、雄の成熟すると特定の吸盤が平たく大きくなり、雌と区別する特徴となる[155]Octopus vulgaris 種群の他の種である、Octopus vulgarisOctopus americanus でも吸盤が大きくなるが、大きくなる吸盤の位置は異なる[72]

発生

タコの稚仔 (paralarva)。

卵割部分卵割で、盤割を行う[207]

軟体動物は一般的にトロコフォア幼生ベリジャー幼生を経て成体に成長するが、タコは直接親と似た姿の稚仔になる直達発生を行う[208][68]。タコの稚仔は一時プランクトンとして生活し[208]、このような稚仔を特に擬幼生(ぎようせい、paralarva)という[209][注釈 16]。孵化したてのタコは腕は8本揃っているものの、外套膜長に対する相対的な腕の長さは短い[213]。また、最初は1本の腕当り3個ずつしか吸盤を持たない[214]。成長とともに次第に腕は伸長し、海底に着底する[213]。マダコでは、孵化してから着底するまでに15–30日の期間を要する[213]

イイダコテナガダコのように大きな卵を少数産む種では、孵化した稚仔はプランクトンを経ずそのまま匍匐生活に入る[215][205]。イイダコの稚仔は孵化直後でも1本の腕当り20個以上の吸盤を持つ[205]

寿命

成長は迅速で、寿命も比較的短い[163][216]。これを形容し、「タコは太く短く生きる」[216]や"live fast die young". と言われる[217]

変温動物であるタコは取り込んだエネルギーを成長に回すことができるため、成長は非常に早い[218]瀬戸内海マダコでは生後4か月で体重が1 kg、1–2年後には3 kg にまで成長する[42]。最大の種であるミズダコも、米粒サイズの幼生期から3–5年で腕を広げた長さが3.6 m にも達する[42]。ワモンダコの稚仔では毎日4%ずつ体重が増加し、8.6 kg にも達する[42]ピグミー・オクトパス Paroctopus digueti では0.04 g から 40 g まで1000倍に成長する[219]

タコでは平衡石を用いた年齢推定が行えないため、一部の種を除いて、どれくらい生きるのかはわかっていないことが多い[220][217][221]。タコの平衡石は層の重なり方が魚と比べて不規則であるためである[222]'Octopus' pallidusワモンダコ 'O.' cyanea を用いた研究により、外套膜に埋没する棒状軟骨(貝殻)に日縞が見られることが分かり、これを用いた齢査定が行われている[217]。その他、飼育や統計学的な手法でも推定されている[221]

熱帯性のものより寒冷性のものが長寿であるという傾向が知られている[221]。タコ類の寿命はマダコ Octopus sinensis は1年から1年半、熱帯性のワモンダコで1年など、1年とされることが多い[221]。それに対し、ミズダコは2–3年と推定されている[221]。更に高緯度深海性のホッキョクワタゾコダコ Bathypolypus arcticus では産卵するまで約4年、寿命は5年程度だと考えられている[221]。飼育下の O. vulgaris では、ドイツの水族館シー・ライフで飼育されたパウルの3年などの例がある[152]

墨による防衛

危険を感じると、漏斗を通じて墨汁(墨)を吐き出す[85]

タコの墨は、一般的に食用に供されるイカの墨とほぼ同じ成分であり、タンパク質、セピアメラニン、多糖類、脂質を含む[223]。しかし、タコの墨はイカのものに比べ、粘液物質であるムコ多糖や脂質が少ないため、さらさらとしている[224][223]。そのためタコは墨を煙幕として拡散させ敵から逃げる[85][224][223][注釈 17]。遊泳性のイカに比べ、底生のタコは隠れ場所に困らないため、このような戦略を用いていると考えられる[224]。また、この墨にはチロシナーゼが含まれ、敵の眼や受容器を刺激する機能もあり[174]、また魚の鰓などに絡まってダメージを与える働きもあると考えられている[171]

タコ墨が料理にあまり用いられないのはイカ墨と比べて絡まりにくいためであり[225]、料理に不向きとされることもあるが[224]、一方成分はほぼ同じであることから美味ともされる[223]。墨汁嚢が肝臓(中腸腺)中に埋没するため取り出しにくく、さらに1匹から採れる量もごく少量であることが、タコ墨が料理にあまり用いられない真の理由だとされる[226][223]

漂泳性のムラサキダコの墨は粘り気が強く、イカのものに類似している[227]

擬態とコミュニケーション

擬態中のミミックオクトパス Thaumoctopus mimicus

頭足類は聴覚が発達しないことから、視覚情報を重要なコミュニケーションの方法として用いている[228]

タコの体表には体表の色彩を変化させる色素胞器官を持つ[51][228][175]。これは黄、橙、赤、茶、黒と様々に色を変化させる色素細胞と放射状の筋肉、神経などのいくつかの異なる細胞からなる複合体である[51][175]。神経によって直接支配されるため、内分泌系に制御される魚類の色素胞とは異なり機敏に体色を変化させることができる[229][228]。単に色だけでなく、反射性や質感、明るさを周囲の環境に合わせて変化させることができる[230]。この色素胞は、擬態(カモフラージュ)と意思疎通(コミュニケーション)に機能すると考えられている[228]

また、タコはイカに比べ、表皮層が厚く、肌の凹凸を変えることができ、これも体色の変化に加え背景に溶け込む隠蔽的擬態に寄与する[51][229]。単に背景と同じ模様にするというより、目印を選んで擬態することが明らかになっている[231]。例えば、ヘアリーオクトパスと呼ばれる未記載種は、体表の突起を分枝させて伸ばし、海藻の生えた石に擬態する行動が知られている[229][232]

また、有毒生物などに似せて身を守る標識的擬態を行うものも知られている[229]ホワイト・ブイ・オクトパスと通称される種 Abdopus sp. はカレイ類に擬態し[169]ミミックオクトパス Thaumoctopus mimicsウシノシタミノカサゴウミヘビなどの有毒生物に擬態(ベイツ型擬態)し、動きを似せることが知られる[233][229][234][235]。また、多くの種で第1腕を持ち上げ腕の先端を丸めて体全体を漂わせる姿勢を取るフランボワイヤン・ディスプレー (flamboyant display) を行うが、これも標識的擬態であると考えられる[236][237]

沿岸域に生息する種では、眼状紋(眼紋、ocellate pattern)を威嚇行動に用いる[228][93]。イイダコは会敵した際、外套膜背面に4縦帯、各腕の両側に黒帯、第2腕・第3腕の基部に眼状紋を生じる[175]ヨツメダコ Amphioctopus areolatus も同様の眼状紋を生じ、会敵の際に眼をカモフラージュするのに用いると考えられている[238]。また、横縞をネオン状に前後に動かす行動を行う種も知られ、この行動は警戒行動に用いたり、採餌中の興奮状態に現れる[228]

認知能力と学習

タコは脳が発達し、視覚や触覚、遊泳能力などに優れる[99]。また、学習能力さえ持っている[99]。頭足類の神経系と感覚器官は無脊椎動物の中で最も発達し、全体重に対する脳の重量の割合は爬虫類も上回っている[99]

タコの脳には5億個のニューロンがあり、犬や3歳の子供と同じくらいの知能で[239]、一説には最も賢い無脊椎動物であるとされている[240][241]

タコは物体の形や大きさ、色の明暗を区別し、学習することができる[242]ジョン・ザッカリー・ヤング英語版 (1963) は Octopus vulgaris に白い玉に触れた場合に餌という報酬を与えるオペラント条件付けによる学習訓練を行った[243][244]。これにより、タコは白い玉が現れると触るようになる[243]。そのうえで白い玉と赤い玉を提示すると、白い玉を触る行動をとる[245]。大きさが異なる玉も区別することができる[243]。また、図形も区別することができる[246]正方形を選ぶように訓練されたタコは、菱形と正方形を提示すると正方形を選ぶことができる[246]。これは三角形や十字形でも同様に学習でき、枝分かれや、向きについても見分けることができる[246]。ただし、十字形と十字にさらに線が交差した図形や、円と正方形の区別は苦手とする[246]。また、形状は視覚だけでなく触覚によっても学習することができ、溝を刻んだ物体と滑らかな表面の物体を区別できる[246][145]。重さについては識別できないと考えられている[247]

また、新規の課題を学習し解決することができる[248]。例えば、密閉されたねじ蓋式のガラス瓶に入った餌を視覚で認識し、瓶の蓋をねじって餌を取ることができる[247]。ほかにも、「回り道」が理解できる実験結果が得られている[249]Octopus vulgaris に餌のカニ入りガラス瓶がある部屋とカニ無し部屋の二枚のガラスの壁が提示され、通路を進み突き当りを曲がらなければ餌に辿り着けない状況が与えられた[249]。29個体中8個体が初回の施行で餌まで到達できた[249]。さらに、10回正解したタコに対し餌の瓶を煉瓦で遮蔽して課題を与えたところ、ガラス越しに餌を見ながら進み、同様に餌に辿り着くことができた[249]。外科手術により片眼を除去すると誤った部屋に入ることや、振動や臭いの影響をなくした実験を行っても正しい部屋に辿り着けたことから、視覚情報を指標として課題を解決したことが示された[157]

飼育されているタコでは、人間の顔の見分けがついていると考えられる経験による実例がいくつか知られ、人間の行動に応じて状況を判断し、行動していると言われる[250]シアトル水族館で飼われていたミズダコに対し、2週間「良い警官」役が餌を与え、「悪い警官」役が棒でいじめると、それに慣れたタコは前者には近寄ってきて餌をもらえる体勢を取ったのに対し、後者には敵意を示す体色を示したり、水を噴きかける行動を取るようになった[251]

道具の使用

種類の異なる2枚の貝殻を組み合わせ、護身用として持ち歩くメジロダコ
東ティモールディリ県近海にて2006年撮影。

1998年には、インドネシア近海に棲息するメジロダコ Amphioctopus marginatus が、人間が割って捨てたココナッツの殻を持ち運び、組み合わせて防御に使っていることが確認され、2009年12月、「無脊椎動物の中で道具を使っていることが判明した初めての例」として、二枚貝貝殻や持ち運び可能な人工物を利用して身を守る様子がジュリアン・フィンらによりイギリス科学雑誌『カレント・バイオロジー (Current Biology) 』で報告された[252][253][254][255][256](動物の道具使用については別項「文化 (動物)」も参照)。これは「タコの貝持ち行動」と呼ばれている二枚貝を用いて身を守る行動の転用だと考えられている[252][148]。二枚貝を用いる行動自体はイイダコ A. fangsiao において以前から知られていた[252]

好奇心と遊び

アリストテレスの『動物誌』には、タコは水の中に下ろした人の手の方に歩み寄ってくるため捕獲しやすく、「利口ではない」と記述されている[257]。この行動はアリストテレスが考えたように愚かであるわけではなく、その好奇心故に水中に現れた人間の手に興味を持ったことによる行動だと考えられている[257]。目新しいものが現れると、腕やその吸盤、口などで「調べる」行動をとる[257]。水中を泳ぐ人についても近づいて絡みつき、「身体検査」を行う[257]

好奇心には同種内でも個体差が存在する[258]タムセン・デヴィッドスミソニアン国立動物園のタコに様々なおもちゃを与えたところ、個体によってその好みが異なることが観察されている[259]。目新しいものにすぐ飽きてしまう個体もいれば、しばらく同じものにずっと興味を示す個体も存在する[260]

タコは「遊び」をすることが知られている[261]。タコの遊びはジェニファー・メイザーとロナルド・アンダーソンによりミズダコ Enteroctopus dofleini で最初に報告された[261][260][262]。水槽内で飼育されていたミズダコが、自分の近くにある物体を漏斗から海水を噴出して吹き飛ばす行動をとった[261][260]。飛ばされた物体が水槽内の水流によりタコの近くに戻ってくると、タコは再び海水を噴出した[261][260]。この個体は何日も定期的に同じ行動をとっていた[263]

メイザーとミカエル・クバらにより、さらに高度な遊びが Octopus vulgaris で観察されている[261][264]。タコにレゴブロックを与えると、それを掴んで移動したり、腕を使って近付けたり遠ざけたりする行動を繰り返す[265]。タコはレゴブロックを餌とは認識せず、捕食や生残に関係なく「遊び」の行動をとる[265]。日本のソデフリダコ 'Octopus' laqueus 類似種「トロピダコ」では、でない2個体が抱き着いたり振り払ったりしてじゃれ合う様子が観察されている[266]

睡眠

タコは2つの睡眠段階を持ち、そのうちの1つはレム睡眠に相当することが発見された[267][268][269]。この段階では、タコは体色や筋肉の動きを変えることがあり、「夢」を見ている可能性がある[267][268][269]。これはレム睡眠が認知能力や進化に関係する一般的な特徴である可能性を示唆している[267][268][269]

社会性

社会性を持つと言われるオオシマダコ。

アオリイカなどのイカが群れで行動し、社会性を持つのに対し[270]、多くのタコは単独で行動する[271][272]。飼育されているマダコでは、等間隔に環状に配置された巣穴の鉢をある個体がずらすと、残りの個体はそれから遠ざかるようにずらし、再び鉢が等間隔に移動する行動が観察されている[273]。しかし、種によっては社会性を示すものも知られている[274]

マーティン・モイニハンアラディオ・ロダニーチェは、1982年、オオシマダコ英語版[注釈 18]と呼ばれる未記載種が社会性を持つ例を報告した[274][275]。オオシマダコは30–40匹が集団で生息し、1 m 程度の間隔を空けた巣穴で暮らしている[274]。3つの巣穴を2匹が共同で利用している様子も見られた[274]

また、シドニーダコ Octopus tetricus でも狭い範囲に多くの個体が巣穴を作っていることが観察され、デイビッド・シールピーター・ゴドフリー=スミスらにより報告されている[276][277]。巣穴外で他個体に遭遇した場合、互いに威嚇したりする社会的干渉が観察された[276]。ゴドフリー=スミスはこの集団を「オクトポリス (octopolis)」と表現している[278]

ソデフリダコ 'Octopus' laqueus はタコ類では珍しく、水槽内で他個体間で身体を密着させる行動を示し、愛着行動の一種であると考えられている[279]。こういった行動は人為的にも引き起こされ、カリフォルニアツースポットダコ Octopus bimaculoides は単独性が強いタコであるが、MDMAを投与すると行動が社会的なものに変化し、腕を伸ばして他個体に触れる行動を示した[280][281]。これはセロトニントランスポーターに MDMA が結合し、過剰に放出されたセロトニンが同種他個体への強い関心を引き起こしたと解釈されている[280]

発光と燐光

(発光ではなく)燐光する性質を持つ白点に覆われたシマダコレユニオン島にて。

イカは多くのものが発光し、約半数にあたる210種程度に知られているが、タコでは以下の3種しか知られておらず、何れも漂泳性である[145][282]。中層浮遊性のエビや魚類では(カウンターイルミネーションを行うため[283])発光するものが多いが、タコは底生のものが多いため、発光する種が少ないと考えられる[284]。なお、タコに近縁なコウモリダコでは鰭の後ろに発光器を持つ[285]

イイジマフクロダコ(フクロダコ) Bolitaena pygmaea の成熟雌の口の周りを過酸化水素で刺激すると発光する[145][286]。イイジマフクロダコの発光器は黄緑色に光り、雄を誘引するためであると考えられている[286]。同じフクロダコ科ナツメダコ Japetella diaphanaでも、同じく雌の口の周りがドーナツ状に発光する[286]。このような発光器を持つのはこの2種のみである[286]

また、ヒカリジュウモンジダコ Stauroteuthis syrtensis では雌雄ともに吸盤が発光するという報告がある[284][287]。刺激により、比較的明るい青緑色(最大波長 470 nm)の発光を行う[288][287]。光は1–2秒おきに点滅したり、5分間発光し続けるこおが観察されている[287]。雌雄ともに発光するのはタコで唯一である[287]

発光ではなく燐光を発することは底生のタコ類で知られている[130]シマダコ Callistoctopus ornatus は刺激を受けると燐光を発することが飼育水槽下で観察された[130]。燐光細胞を持っていると考えられ、生時は淡い虹色の斑紋として現れる[130]

分類と系統

分類群名と学名

一般的な分類体系では、タコ類は全て八腕形目(はちわんけいもく)Octopoda というに含まれる[57][289]。目の和名は八腕目[290][291]タコ目[287]ともされる。ただし、腕に触毛を持つ有触毛亜目を除いたタコからなる単系統群、無触毛亜目について Octopoda の名前が使われることもある[292][293]

また、八腕形目はコウモリダコ目 Vampyromorpha と合わせて、八腕形上目 Octopodiformes(八腕型上目、八腕形類[291])という単系統群を構成する[294]

系統関係

分子系統解析と化石記録に基づいた、Kröger et al. (2011) による頭足類の系統樹を示す[注釈 19]多分岐となっている部分の系統関係は解けておらず、用いるデータセットや解析方法により、様々な分岐順序の系統樹が得られている。八腕類と十腕類はそれぞれ単系統群であるが、内部の系統関係やさまざまな化石鞘形類との類縁関係は十分に理解されていない。

頭足綱

エレスメロケラス目 Ellesmerocerida

オンコケラス目 Oncocerida

オウムガイ亜綱

オウムガイ目 Nautilida

Nautloidea

直角石目 Orthocerida

アンモナイト亜綱 Ammonoidea

バクトリテス目 Bactritida

Hematitida

Donovaniconida

Aulacocerida

鞘形亜綱
八腕形上目

コウモリダコ目 Vampyromorpha

八腕形目

有触毛亜目 Cirrata

無触毛亜目 Incirrata

Octopoda
Octopodiformes

フラグモテウチス目 Phragmoteuthida

ベレムナイト目 Belemnitida

Diplobelida

十腕形上目

開眼目 Oegopsida

閉眼目 Myopsida

コウイカ目 Sepiida

ダンゴイカ目 Sepolida

ヒメイカ目 Idiosepiida

トグロコウイカ目 Spirulida

Decabrachia
Coleoidea
Cephalopoda

下位分類

現生種は有触毛亜目無触毛亜目の2亜目に大別される[57][295]。250種[64]から300種類を超えるタコが見つかっているが、未記載種も多く[58]、約半数は分類が確定していない[296]

以下、Sanchez et al. (2018) による分子系統樹を示す。

八腕形目

ヒゲダコ科 Cirroteuthidae

有触毛亜目 Cirrata

Stauroteuthidae

メンダコ科 Opisthoteuthidae

有触毛亜目 Cirrata

Cirroctopodidae

無触毛亜目

Eledonidae

ムラサキダコ科 Tremoctopodidae

アオイガイ上科 Argonautoidea

カンテンダコ科 Alloposidae

フクロダコ科 Bolitaenidae

スカシダコ科 Vitreledonellidae

クラゲダコ科 Amphitretidae

Megaleledonidae

マダコ科 Octopodidae

Velodona

"Megaleledonidae"

Thaumeledone

Bathypolypodidae

ミズダコ科 Enteroctopodidae

アミダコ科 Ocythoidae

アオイガイ上科 Argonautoidea

アオイガイ科 Argonautidae

Incirrata
Octopoda

有触毛亜目

水深3,874 m から見つかったヒゲナガダコ Cirrothauma murrayiヒゲダコ属
メンダコ Opisthoteuthis depressaメンダコ属

有触毛亜目[57]は、有触毛類[297]、有毛亜目[290]、触毛亜目[61]または有鰭亜目[289]ともよばれ、腕に吸盤だけでなく触毛の列を持つ特徴がある[57]。何れも深海棲で、寒天質の体からなる[57]分子系統解析の結果、有触毛亜目は側系統群であることが示唆されている[293]。学名は研究者によりさまざまなものが用いられる。瀧 (1935)土屋 (2002)佐々木 (2010) では、Cirrata Grimpe, 1916 が用いられる。Strugnell et al. (2013) でも Cirrata の学名が用いられるが、階級は目に置かれる。Sanchez et al. (2018) では目の階級に置かれ、Cirromorphida という学名が用いられる。Kröger et al. (2011) では Cirroctopoda Young1989 が用いられる。

以下、科や属は Sanchez et al. (2018) に基づく。学名の著者等は Norman et al. (2016) に基づく。

有触毛亜目 Cirrata Grimpe, 1916(側系統であることが示唆されている[293]

無触毛亜目

ナツメダコ Japetella diaphanaフクロダコ科
カリフォルニア州の海中に生息するミズダコ Enteroctopus dolfeiniミズダコ科
水深1,972 m で発見されたホクヨウイボダコ Graneledone boreopacificaイボダコ属
Eledone schultzeiジャコウダコ属

無触毛亜目[57][61]は、無触毛類[297]、無毛亜目[290]または無鰭亜目[289]ともよばれ、腕に触毛を持たない[57]。普通目にするタコは無触毛亜目のマダコ科に属するものが殆どである[57]上部白亜系ムカシダコ[297] Palaeoctopus は無触毛亜目の側系統群とされる[302]瀧 (1935)土屋 (2002)佐々木 (2010) では、Incirrata Grimpe, 1916 が用いられる。Strugnell et al. (2013) でも Incirrata の学名が用いられるが、階級は目に置かれる。Kröger et al. (2011) では Octopoda が用いられる。Sanchez et al. (2018) でも目の階級に置かれ、Octopodida という学名が用いられる。

以下、科や属は Strugnell et al. (2013)Sanchez et al. (2018) および Leite et al. (2021) に基づく。学名の著者等は Norman et al. (2016) に基づく。

無触毛亜目 Incirrata Grimpe, 1916

化石記録

ジュラ紀の Muensterella scutellaris の化石。

これまでに記載されている最古の化石記録は、ジュラ紀のものである[329][330]

中部ジュラ系カロビアン階のオックスフォード粘土層 (Oxford Clay Fm.) から Muensterellina johnjagtiPearceiteuthis buyi などが記載されている[330]。それよりやや後の上部ジュラ系キンメリッジアン階のヌスプリンゲンドイツ語版石灰岩 (Nusplingen Plattenkalk) からは、Patelloctopus ilgi が記載されている[329]

また、白亜紀ムカシダコ科 Palaeoctopodidae がよく知られる[61]ムカシダコ Palaeoctopus newboldiレバノン上部白亜系石灰岩から知られ、現生の両亜目の中間的な形質状態であるとされる[61]

これらより古い古生代石炭紀には、アメリカ合衆国イリノイ州ラーゲルシュテッテンであるメゾンクリークからポルセピア Pohlsepia が知られ、最古のタコの化石だとされたこともあるが[331][332]、近年の見解では支持されない[333][334]

食文化と調理法

タコ、生
100 gあたりの栄養価
エネルギー 343 kJ (82 kcal)
2.2 g
糖類 0 g
食物繊維 0 g
1.04 g
飽和脂肪酸 0.227 g
一価不飽和 0.162 g
多価不飽和 0.239 g
14.91 g
トリプトファン 0.167 g
トレオニン 0.642 g
イソロイシン 0.649 g
ロイシン 1.049 g
リシン 1.114 g
メチオニン 0.336 g
シスチン 0.196 g
フェニルアラニン 0.534 g
チロシン 0.477 g
バリン 0.651 g
アルギニン 1.088 g
ヒスチジン 0.286 g
アラニン 0.902 g
アスパラギン酸 1.438 g
グルタミン酸 2.027 g
グリシン 0.933 g
プロリン 0.608 g
セリン 0.668 g
ビタミン
ビタミンA相当量
(6%)
45 µg
(0%)
0 µg
0 µg
チアミン (B1)
(3%)
0.03 mg
リボフラビン (B2)
(3%)
0.04 mg
ナイアシン (B3)
(14%)
2.1 mg
パントテン酸 (B5)
(10%)
0.5 mg
ビタミンB6
(28%)
0.36 mg
葉酸 (B9)
(4%)
16 µg
ビタミンB12
(833%)
20 µg
コリン
(13%)
65 mg
ビタミンC
(6%)
5 mg
ビタミンD
(0%)
0 IU
ビタミンE
(8%)
1.2 mg
ビタミンK
(0%)
0.1 µg
ミネラル
ナトリウム
(15%)
230 mg
カリウム
(7%)
350 mg
カルシウム
(5%)
53 mg
マグネシウム
(8%)
30 mg
リン
(27%)
186 mg
鉄分
(41%)
5.3 mg
亜鉛
(18%)
1.68 mg
(22%)
0.435 mg
マンガン
(1%)
0.025 mg
セレン
(64%)
44.8 µg
他の成分
水分 80.25 g
%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDIの割合。
出典: USDA栄養データベース(英語)

タコは手近で美味なタンパク質の供給源として[173]、世界各地の沿岸地方で食用とされ、特にアジアや地中海では古くから定番料理として供される[335]。一方ユダヤ教では食の規定カシュルートによって、タコは食べてはいけないとされる「の無い魚」に該当するなど[336]、禁忌とされている地域もある。

タコの身85 g は139 calと低カロリーで、脂肪は鶏肉では3 g なのに対し、タコでは2 g しかない[337]タンパク質は25 g 含み[337]、全体の約20%である[335]鉄分は1日の摂取目安量の45%、も1日の摂取目安量の19%であり、それぞれ6%と3%の鶏肉を大きく上回る[337]ビタミンB12に関しては1日の摂取目安量の510%に達する[337]。また、特にタウリンが豊富であるとされる[173][338][339]。ただし、茹でて食べるとタウリンが茹で汁に溶出してしまうと言われる[226]亜鉛も多く含む[339]

身は噛み切りにくいため、様々な地域で叩いて柔らかくして下処理されてきた[337]。昔ながらの方法は形がなくなるまで岩に叩きつけるという方法で、スペインビーゴではタコを捕まえると「石で30–40回叩くべきだ」と言われる[340]。また、日本では「女と蛸は叩けば叩くほどよくなる」の言い回しが知られ[341]ダイコンで叩いてタコの筋線維を切るとよいとされる[342]。業務用のタンブラーを用いて機械化されることもある[337]。近年では冷凍技術が普及し、凍結により細胞組織を破壊することで身を柔らかくすることも多い[340]。また、表面のぬめりを取り柔らかくするために、塩もみをして下処理される[343]

タコは加熱調理されることが多く、多くの種は茹でると鮮紅色を呈する[344][345]日本酒に漬けておくと茹でた後も柔らかいままとなると言われる[342]。また、茹でる際番茶茶葉をひとつまみ入れると臭みがとれるとされている[342]

タコの絞め方は地域によって異なるが、主に脳軟骨を破壊することによって行われる[346]。日本では胴を掴み、眉間に手鉤や目打ちを打ち込んで絞めることが多い[346][347]。ただし北海道の市場では、ミズダコやヤナギダコは氷水に漬けて絞める[348]スペインガリシアではタコの口に白いプラスチック製の長い棒状の道具を差し込み絞める[346]イタリアプッリャ州では、頭を嚙んでタコを絞める[349]

日本

日本の築地市場に並べられたタコ(茹で蛸
タコの唐揚げ
代表的なタコ料理、たこ焼きを作っている様子。

タコは日本の食生活に深く根付いている[350]。タコ類は多様な種が知られているが、日本では一般的に「タコ」と言えば、食用などで馴染み深いマダコを指す場合が多い[4]。ただし、マダコ Octopus sinensis が分布しない北海道では、「マダコ」はミズダコヤナギダコの地方名である[351][352][4]。特に雌をマダコと呼び、雄は肉質が水っぽいことからミズダコと呼ぶ[352][4]福島県いわき地区小名浜など)では、ミズダコを「アマダコ」、ヤナギダコを「ミズダコ」と呼ぶ[353]

日本人とタコの関係は古く、池上・曽根遺跡などの大阪府堺市にある弥生時代の遺跡からは、イイダコを獲る蛸壺形の土器が複数出土している[354][355]三重県桑名市蛎塚新田にある古墳時代貝塚からも蛸壺が出土している[356]。また、967年の『延喜式』には乾蛸が肥後讃岐から献納されていた記録がある[354]。文禄4年(1595年)に徳川家康豊臣秀吉を迎えた御膳にはタコがあった[354]。神事にも用いられ、伊勢神宮式年遷宮の一つである山口祭の饗膳には、干しサメやエビとともに供される[356]津八幡宮の10月の祭礼にも里芋とともにを炊き合わせた料理が神饌として供えられ、現在でも八幡町の古い氏子の家では祭にこれを調える[356]

夏場のものが特に美味とされ、の梅雨時から7月下旬にかけてのものは「麦わらダコ(麦藁蛸)」と俗称される[338]。7月25日の大阪天満宮天神祭では「天神蛸」としてハモとともに食され[357]、この旬は「麦藁蛸に祭鱧」(むぎわらだこにまつりはも)という成句でも知られる[358]関西地方には、半夏[注釈 36]にタコを食べる「半夏蛸」の習慣があるが、これはタウリンを補給して夏バテを防ぐと言われる[338][357]。また、夏の土用のころのタコは特に美味で、ほかの誰にも食べさせるわけにはいかないとの意から「土用の蛸は親にも食わすな」や「アカエイ吸い物蛸の足」という格言も知られる[131]愛媛県では春先に200–400 g の小さいタコが漁獲され、「木の芽だこ」と呼ばれて出回る[359]

料理では刺身[360][361]寿司[362]、煮だこ(煮付け[361])、酢蛸[363]、酢味噌和え[357]天婦羅[361]揚げ物[361]塩辛[361]おでんの具材[364][361]など様々に用いられる。

たこ焼きやその原形とされる明石焼きの具材としても親しまれている[365]。たこ焼きは大阪から広まり、全国的に食される[365][366]。小麦粉と卵を混ぜた生地の中にタコの小片を入れて球形に焼き上げたものである[365][366]。明石焼きは地元明石では玉子焼と呼ばれる[365]

たこ飯の弁当。

また、瀬戸内海地域(兵庫県[367]愛媛県[359]香川県[368]広島県[369]岡山県[370])や伊勢湾三重県[356]愛知県[368])、熊本県天草諸島[371]では蛸飯(たこ飯、たこめし)に供される[368]。地域や店によって、作り方や具材、味付け等が異なる[368][370]。愛知県のたこ飯は茹で蛸ではなく生のタコを米と一緒に炊き込むことで桜色に染まるため「桜飯」とも呼ばれる[368][372]。天草諸島では干しダコをたこ飯に用いる[371]

関西ではタコぶつとしてわさび醤油酢味噌をつけたり、タコとキュウリ酢もみなどとして食される[357]奈良県ではタコとキュウリの酢もみは「蛸もみうり」と呼ばれ、早苗饗に稲の成長を願って食される[373]。マダコの皮は茹でてキュウリと和え、酢味噌をかけてぬたとして食される[374]香川県ではテナガダコを里芋とともに煮た「いもたこ」が作られ、かつては正月婚礼などのハレの日に用意されていたが、現在は日常的に食べられる[375]

ミズダコのように筋肉が柔らかい種は酢蛸などに加工して用いられることが多い[376][377]。また、冷凍したミズダコの腕はしゃぶしゃぶとして商品化されている[377]。ヤナギダコの小さいものは1匹まるごと「一杯ダコ」に加工され、珍味として食される[352]。またミズダコは北海道では郷土料理の揚げ物であるたこザンギとしても食される[339]

下津井の干しダコ」

また、保存食として干しダコに加工される[371][378]兵庫県明石市二見町周辺[378]岡山県倉敷市下津井地区[379]三重県鳥羽市[356][380]熊本県天草市有明町[371]のものがよく知られる。かつては夏場に大量にとれた安価なマダコを加工し、魚の水揚げが少ない冬の保存食として利用していたが[371][378]、最近では作る漁家が減少している[378]。腕一本ずつを洗濯バサミに吊して干す場合もあるが、多くはタコの姿そのままに竹串で足をぴんと張って干し[378]、いわゆる「ひっぱりだこ」に加工される[381]

秋口に雌の体内にある卵巣象牙色の袋に包まれており、タコの袋児(ふくろご)と呼ばれ、煮付けて食べる。特にイイダコは卵巣が重要な部分として食されるほか、ミズダコの卵巣も取り出されて販売される[382]イイダコの和名は外套腔に米粒状の卵が含まれる卵巣を持つことからとされる[29]。また、マダコの産卵後の卵塊はその形状から海藤花(かいとうげ)と呼ばれ[203][374]塩漬けにする。

青森県下北半島では魚介類の内臓を「生きるための道具」の意から「道具」と呼ぶ[383]。タコの内臓は「タコの道具」の愛称で食用にされ、野菜とともに煮た「道具汁」などの郷土料理として食べられる[383]

東アジア

テナガダコの踊り食いであるサンナクチ

朝鮮半島では日常的な食材である[384]。特に、テナガダコ Callistoctopus minor はナクチと呼ばれ、生きたままぶつ切りにし、塩と胡麻油および胡麻と和えて踊り食いにするサンナクチ: 산낙지「活きたテナガダコ」、sannakji)は有名である[384][385]。また、ニンニクワケギニンジンごま油とともににしたムノチュク(문어죽Muneo-juk)にしても食される[386]

台湾澎湖諸島では、テナガダコに近縁な「澎湖章魚」や「石鮔」と呼ばれる未記載種[387]が食用とされ、干しダコに加工される[388]。「石鮔排骨湯」や「石鮔五花肉」と呼ばれる伝統料理となる[388]

中華人民共和国福建省廈門などでは、タコは茹でて氷水で締めた「白灼章鱼(白灼八爪鱼)」として消費される[389]

地中海

ギリシャナクソス港の店先に吊されたタコ
トルコのタコの冷製メゼ。イスタンブールにて。

南欧・地中海沿岸地域(スペインイタリアポルトガルギリシャプロヴァンス地方などフランス南部の一部)ではタコを伝統的な食品としている[40][354][390]

スペインのガリシア州では、「お祭り風のタコ」を意味するポルボ・ア・フェイラ(プルポ・ア・フェイラ)と呼ばれる伝統料理が食され、「タコのガリシア風」の名でも知られる[391][392]。タコをジャガイモとともに煮て、パプリカを加え、オリーブオイルと塩で味付けした料理である。腕は鉄板焼き (Pulpo a la plancha) にも料理される[393]スペイン料理パエリアにもタコが用いられる[391]

イタリアではソプレッサータ英語版[394]テリーヌ[362]などに調理することもある。カンパーニャ州ナポリサンタルチア地区ではトマト煮にされ、ポルピ・アッラ・ルチャーナPolpi alla Luciana, Polpo alla luciana)と呼ばれる[395][396]モリーゼ州では、仔ダコを辛いソースで煮込んだポルピ・イン・プルガトリオPolpi in purgatorio「煉獄のタコ」、モリーゼ方言イタリア語版i pulepe 'npregatorie)が食べられ、タコの墨の色と唐辛子(ペペロンチーノ)が特徴的な料理である[397][398]

ポルトガルでは、タコを茹でてからぶつ切りにしてグリルし、オリーブオイルを塗ったポルボ・ア・ラガレイロPolvo à Lagareiro)が食べられる[399]

マルタでは、ピザの具材となる[362]。また、マルタの伝統料理 Quarnita-bit-tewm では、細かく切った茹でタコをネギニンニクパプリカなどとともにオリーブオイルでソテーし、冷やして食べられる[400]

フランスのラングドック=ルシヨンでは、ジャガイモタマネギウイキョウパセリとともにサラダ (Salade de poulpe) にして食される[401]

ギリシャ等の正教徒の多い地域の場合、東方正教会ではの間は肉を、大斎の際には魚をも食べるのを禁じてきたが、タコやイカ、貝類などは問題が無いとされてきたため、これらを使った伝統料理が多い。特にペロポネソス半島ギシオ英語版は「ギリシャのタコの都」とも称され、レストランの店先の綱にタコをぶら下げて干しダコを作っている様子がよく見られる[402]。ギシオではトマトチーズハーブとともに一口大に切ったタコがギリシャ風サラダにして食べられることもある[403]。東地中海ではメゼとしてグリルしたタコの腕が出され、ギリシャではフタポディ・スティ・スハラ: χταποδι στη σχαραChtapodi sti schara)と呼ばれる[403][404]トルコではタコの冷製メゼ(ahtapot salatası)が知られる[405]

ダルマチアのタコのサラダ(Salata od hobotnice

クロアチアでも干しダコ(Štokalj)が作られる[406]ラブ島で作られるボーラで乾かした干しダコは、Sušeni štokalj と呼ばれる[407]Sušeni štokaljフリターヤ英語版 Fritaja などにして食べられる[407]クヴァルネル湾に面したプリモリェ=ゴルスキ・コタル郡では、干しダコにオリーブオイルで炒めた卵と玉ねぎを混ぜ合わせ、卵が好みの固さになるまで煮込んだ Štokalj s jajima が作られる[406]Hobotnica na novaljski は、パグ島にあるノヴァリャ発祥のクロアチア料理である[408]。柔らかく煮たタコを適当な大きさに切り、煮汁にオリーブオイルと少しマッシュしたジャガイモを合わせて作られる[408]ダルマチア地方では、大きな鐘のような蓋を被せ、新鮮なタコを丸ごと野菜とともに暖炉で煮込んだ鍋料理である Hobotnica ispod peke[409]、タコのサラダ(Salata od hobotnice)が食される[410]コルチュラ島では、タコをニンニクタマネギなどとともに白ワインで煮込んだ Pijana hobotnica (「酔っ払いタコ」)が食べられる[411]

チュニジアのタコのクスクス

チュニジアでもタコはクスクスなどにして食される[412]カンモーニーヤ (Kamounia au poulpe) と呼ばれる煮込み料理でも食べられる。

イイダコはオクオパス・ガーデン・カクテル (Octopus's Garden Cocktail) に利用され、ジンとドライベルモットを 3:4 でシェイクしたものに、焦げ目をつけたイイダコとブラックオリーブを添えて供される[413]

イチレツダコ類はスペインやイタリアでは底曳網で混獲されて利用されるが、積極的に漁獲されることはない[324][414]。スペインではイチレツダコ Eledone cirrhosa はマダコの「不肖の弟」と表現される[414]。ガリシアではイチレツダコは缶詰に加工し、海外向けに輸出される[414]ヴェネツィアではジャコウダコ Eledone moschataFolpetti と呼ばれ、茹でたり、衣をつけて揚げたり、焼いたりと、さまざまな調理法で調理される[415]

ゲルマン・スラヴ諸国

一方、アルプス以北のヨーロッパ諸国では、漁業が盛んな局所を除いて、伝統的には食用にはされてこなかった[416]。例えばドイツスイスフランスの大部分では、蛋白源を獣肉に頼る地域では伝統料理にタコを見ることはまずない[354]。また、イギリスでは「悪魔の魚 devilfish」などと呼ばれ、避けられていたことは良く知られている[417]。例えば、イギリスの王立協会フェローであるマルコム・R・クラークは1963年に、タンパク質含量は魚と比べても申し分なく、理論的には食用となっての良いものの、こんな奇妙な生き物が食卓に忍び寄ってくるのは気が進まないという人もいるかもしれないと述べている[418]。しかし、これらの地域でも、現代では南欧料理やアジアの料理(日本の寿司など)が入ってきており、タコを食べる機会は増えてきている[354]

インド洋

タンザニアザンジバル諸島[注釈 37]乾物加工されるタコ

東アフリカの海岸地域の集落、特にタンザニア沿岸(ザンジバル)では、タコの零細漁業が経済的に、また生計的に重要となっている[419]スワヒリ語ではタコは pweza と呼ばれる[419][420]。漁獲されるのは主にワモンダコ 'Octopus' cyanea で、潮間帯潮下帯からシュノーケリングなどで巣穴に隠れているタコに銛を掴ませ、引き抜いて採集される[419]。伝統的には、女性と子供を中心とした漁が行われていたが、近年では、需要が高まり、男性もタコ漁に参加するようになっている[419]。タコは主にあぶり焼き (Pweza wa kuchoma) やから揚げ (Pweza wa kukayanga)、シチュー (Mchuzi wa maji wa pweza) などにして食される。屋根の上で天日干しにして干しダコ (Pweza mkavu) にしたものなども食べられる[420]。巻き網漁では小さなタコが混獲されることもあり、各家庭で晩御飯のおかずなどに利用される[421]

モーリシャスセーシェルではインドやフランスの影響を受けたクレオール料理が食され、タコはオクトパスカレーやヴィンダイフランス語版 (Vindaye ourite) などの料理英語版で食される[422][423][424][425]ココナッツを加えたセーシェルのオクトパスカレーは Kari koko zourit と呼ばれる[425]

モルディヴではタコの腕をカレー風味の Miruhulee boava にして食す[426][427]

オセアニア

キムチ風味のタコのポキ

ミクロネシアポリネシアメラネシアなどの地域ではタコを食べる文化がある[354]

ワモンダコ 'Octopus' cyanea南西諸島以南の太平洋-インド洋全域に分布し、分布域では広く食用として用いられている[428][429][430]ハワイ諸島では一口大に切って野菜サラダと和えたポキとして調理されたり、干物や冷凍、燻製などの調理をされたりして食べられる[429]

またこの地域では、ワモンダコとともにシマダコ C. ornatus も重要な種である[430]

グアムでは、タコをぶつ切りにし、微塵切りにしたタマネギミニトマトとともに鍋に入れ、ココナッツミルクを加えたチャモロ族の伝統料理 Kadon gamson として食べられる[431]

アメリカ

メキシコバジェ・デ・グアダルーペ英語版で食べられるタコのトスターダ

アメリカの食卓には滅多に登場せず[335]、身近な存在ではない[432]。しかしやはり近年では高タンパク質食品として人気が現れ[418]、主にフィリピンから年間3750 t 程度、タコを輸入している[429]。しかし種の識別はされず、まとめて「タコ」とのみ表示されて流通する[429]

プエルトリコでは、タコはありふれた食材として流通する[433]。腕のぶつ切りが加熱済みの冷凍食品として販売されるが、中にはチリ産のイカがそれに交じって出回っている[433]マリネセビチェ)などにして食べられる[434]

メキシコをはじめとする中南米では、タコを食べる文化がある[354]。メキシコでは、熱帯地域で最大のタコ漁獲量(42,400 t)を誇るが、消費量(49,900 t、いずれも2017年)もそれを上回る値を示す[430]。メキシコ湾周辺の伝統料理では、アーモンドソースとともに火を通した Pulpo almendrado が知られる[435]

南アメリカブラジルコロンビアでは、タコは輸出されず輸入のみであり、食品として消費される量は漁獲量を上回っている[430]。ブラジルでは、2017年に783.7 t のタコが漁獲されているが、消費量は3,192 t である[430]。コロンビアでも153.1 t の漁獲量に対し534.5 t のタコが消費されている[430]ブラジル料理では、タコはムケッカ (Moqueca) と呼ばれる海鮮シチューにして食される[436]ヴィネグレットソースを和えたり、カルパッチョにして前菜としても食べられる[436]

ペルーエクアドルでは、生のタコにタマネギを加え、ライム汁、コリアンダー、油や塩、唐辛子などの調味料と混ぜてタコのセビチェ (Ceviche de pulpo) にして食べられる[437]。ペルーではタコのアンティクーチョ (Anticuchos de pulpo) と呼ばれる串焼きでも振舞われる[438]。調味料に漬けたタコに小麦粉をまぶし、高温の油でカリカリになるまで揚げたタコのチチャロン英語版 (Chicharrón de pulpo) もペルーの伝統料理である[439]

各地の漁業

タコ漁には何千年もの歴史があり、2014年現在の漁獲量は世界全体で30 tトンに及んでいる[362]。漁法も様々で、、網、ルアーヤスといった道具を用いるほか、素手で獲られることもある[362]

日本の漁業

蛸壺の並ぶ夕方の漁港
明石市二見港
明石淡路フェリーの「あさしお丸」
明石港、2008年5月撮影。

2018年(平成30年)では、日本の海面漁業でタコは36,100 t が漁獲されている[365]。半数は蛸壺や蛸箱による罠漁、1/3は曳網漁、残りは空釣りや定置網漁などにより漁獲されている[440]

日本のタコ漁獲量は北海道が突出し、24,500 t のタコが漁獲されている[365]。この値には世界最大級のタコであるミズダコ Enteroctopus dofleiniヤナギダコ Paroctopus conispadiceus の水揚げが反映されている[365][440]。北海道でのタコ漁業の歴史は古く、明治中期には渡島総合振興局檜山後志などで副業としてヤス突き、鉤、銛や延縄によるタコ漁が行われていた[441]大正時代には空釣り縄が普及した[441]。道南では明治末期ではが用いられていたが、それに代わって蛸箱が使われる等になり、昭和以降網走日高沿岸などの各地に広まった[441]

瀬戸内海では古くから蛸壺漁が行われてきた[442]。また、漁獲高では北海道に次いで兵庫県が第2位であり、明石市で獲れるマダコはブランド「明石ダコ」として知られる[443][338]。またこれに因み、明石淡路フェリーが「たこフェリー」という愛称で運行されていた[444]

伊良湖水道で獲られた三重県鳥羽市にある神島のマダコはブランド「潮騒タコ」として知られる[356][380]。ほかにも、広島県三原市漁業協同組合では、地元の伝統行事「三原やっさ祭り」に因んで「三原やっさタコ」と名付け、ブランド化している[369]

日本の陸揚げ漁港は下記の通りで、第1種共同漁業権の対象魚種である。

第1位 - 松川浦漁港福島県相馬市
第2位 - 宗谷漁港北海道稚内市宗谷岬
第3位 - 落石漁港(北海道根室市落石)
第4位 - 八戸漁港青森県八戸市
第5位 - 庶野漁港(北海道幌泉郡えりも町庶野)

日本近海では1960年から1980年代にかけてタコの漁獲量がピーク時の半分にまで激減し、これを改善するため国を挙げて長期プロジェクトが行われた[445]。産卵海域の環境を改善し、個体数を増やすため、瀬戸内海を中心に増殖事業が行われ、毎年12,000–17,000個の産卵用の蛸壺やが沈められている[445][338]増殖事業や資源の維持[446]。兵庫県では漁業者に対し、100 g 以下のタコの禁漁や共同漁業権区域内の禁漁を定めた兵庫県漁業調整規制が敷かれている[338]。明石商工会議所では一般遊漁者に対しても釣り具の数や形状の規制のタコ釣りルールの周知や、釣り過ぎたタコの放流によるタコマイレージ制度などの導入が行われている[338]

ミズダコはやや増加傾向にある[446]。資源管理策としては成長乱獲を防ぐために3歳以上の個体を漁獲することが好ましい[446]。北海道のミズダコ漁では、各地で2 kg 以下のものは海にリリースするように取り決められている[447]。青森県でも自主規制として3 kg 未満の個体は水揚げせず、放流している[446]

山形県新潟県では、タコが住む巣穴である蛸穴の一つ一つに権利の占有があった[138]飛島ではその占有権を持って嫁ぐこともあったとされる[138]

アジアの漁業

東南アジアでは主にワモンダコ 'Octopus' cyanea が漁獲される[430]

インドネシア水産業は中国に次ぐ世界第2位漁獲量を持つ大規模なものである[430]。また、タコの漁獲量は2017年の小規模タコ漁獲量は17,900 t であり、メキシコに次ぐ第2位である[430]。そのうち食料として消費される量は4,970 t、輸出量は13,200 tである[430]。インドネシアにおいてタコの販売と輸出は経済的に重要であり、2017年12月の平均所得は漁師1人当たり150,000 IDR/日 であり、平均純賃金96,000 IDR/日 を上回る[430]

ヨーロッパの漁業

ポルトガルで用いられる蛸壺。

ヨーロッパ諸国では、自国の漁業水域には比較的厳しい規制をかけており、450 g 未満のタコの捕獲は禁止されている[448]。国によってはさらに厳しい制限が設けられている場合もある[449]スペインガリシア州では、蛸籠漁で捕獲できるタコが750 g から1 kg に引き上げられ、更に厳格なローカルルールが定められている[449]。これにより多くの雌が生き延び、新たな世代の生産を可能にしている[449]

ガリシアでは大規模なタコ漁が行われるが、その漁獲高の大半は小さな漁村の漁船により獲られたものである[450]。中でもビーゴと呼ばれる町はリアス海岸入江にあり、深層海水が湧昇流によって沿岸に流れ、豊かな漁場が形成されている[450]。この地域では、生き餌を入れた蛸籠による漁が行われている[451]

イタリアのプッリャ州で行われる零細漁業では、素潜りやヤスによるタコ漁を行っている[349]

北アフリカの漁業

世界全体の Octopus vulgaris の漁獲量の推移。
モーリタニアでタコ漁を終えた舟と漁師。

北アフリカ西部では長年魚を中心とした漁業が行われていたが、1960年代以降標的を転換し、頭足類の商業的な漁業が盛んとなっている[452]モロッコモーリタニアセネガルなどが Octopus vulgaris の供給元となっている[452]現地の漁業関係者の間でタコは「プルプル」と呼ばれている[453]

モロッコでは、1960年代に他の魚が乱獲や海洋環境の変化により獲れなくなり、タコ漁が盛んとなった[452]。乱獲により1980年代から漁獲量が激減し、規制や外国漁船の締め出しが行われるようになった[452]。一時的に回復したものの、20世紀末に再び年間5万 t を超える水揚げが行われ、国際連合食糧農業機関(FAO)により乱獲地域に指定された[452]。それ以降規制が厳しくなり、漁獲割当量が年間2.5万 t に制限されたほか、禁漁区域の指定や450 g 以下の稚ダコの捕獲禁止などが定められた[452]。近年ではやや回復傾向にあるとされる[452]。2017年では9,884 t のタコが漁獲されている[430]

モーリタニアでは水産物を食べる文化はほとんどなかったが[454]、モロッコのタコ資源の激減以降、タコの漁獲量を増やし始めた[452]。モロッコのタコは1970年代ごろから日本に輸出されるようになった[454]国際協力機構(JICA)によって派遣された中村正明により蛸壺漁が伝えられ[454]、それが普及している[455]。今ではタコ漁に使われる蛸壺はモーリタニア国内で生産されており、ピローグと呼ばれるカヌーで漁が行われる[454]。2017年では、11,679 t のタコが漁獲されている[430]。最盛期には年間約2–3万 t が日本へ輸出されていたが[454]、2000年代半ばに日本向けの輸出が25%減少し[448]、2024年現在ではその6割程度となっている[454]2012年現在、モーリタニア産のタコの約6割が日本に輸出され、日本へ輸入されているタコの約4割がモーリタニア産である[455]。モーリタニアでも監督当局の取り締まりが甘いこともあり、乱獲されている[448]。ヨーロッパの漁船ではトロール漁が行われ、基準未満のタコの捕獲や、漁獲量の詐称が行われているとされる[448]。しかしモーリタニアは2006年に補償金86,000,000ユーロ欧州連合と漁業協定を結び、ヨーロッパ船籍の漁船の操業を認めている[448]モントレー湾水族館英語版が行っているシーフードウォッチでは、モーリタニアの状況は危機的であるとされ、モーリタニア産のタコは食べないことを推奨している[448]

2国のタコ漁獲量の減少により、セネガルでもタコ漁が行われるようになっている[448]。ただし、サイズ制限や休漁期間の設定など既に資源管理が行われている[448]

オセアニアの漁業

ハワイでは、「ヘエ (He`e)」(タコの意)や"イカ"と呼ばれ、主にワモンダコなどが漁獲される[429]。ただし漁業としては小規模で、ヤスやジグにより捕獲され、2000年の漁獲量は11.7 tトン程度である[429]

オセアニア地域のニューカレドニアロイヤルティ諸島マーシャル諸島マリアナ諸島トンガサモアなどでは、ネズミ形の漁具を用いて、タコを獲る漁法が行われている[456]ミクロネシア連邦では、タコが年間5 t 漁獲されている[457]

アメリカの漁業

北アメリカではタコ漁の伝統は古いわけではないが、比較的大きな漁場がいくつかある[445]。南北アメリカでは、主にマダコ属Octopus insularisOctopus americanus が漁獲される[430][436][注釈 38]

メキシコは2017年のタコ漁獲量が42,400 t で、熱帯地域の中で最大である[430][注釈 39]。輸出量も6,700 t と高い値を示す[430]カリフォルニア湾ではマダコ属の1種が漁獲される[445]。2–3人の漁師がパンガと呼ばれる小舟で出航し、1人が舟に残り、もう1人が長いホースで圧縮空気を送り込む潜水で、素手によりタコを捕獲する[445]ハリスコ州北部、ナヤリット州シナロア州ソノラ州などの浅瀬ではダイバーがギャフ(魚鉤)でひっかけてタコを捕獲する[445]バハ・カリフォルニア・スル州では、水深20–50 m の岩場に5–50個の罠を仕掛ける漁が行われる[445]。カニを付けた30本の引き縄を小舟で曳き、タコが上ってきた際に網で掬って獲る漁法も行われる[458]

アメリカ合衆国では南東部の沿岸にはマダコ属の1種、太平洋岸の北西部にはミズダコが分布しているが、漁業としてはあまり整備されていない[429]

カリブ海メキシコ湾では蛸壺による漁が行われている[458]

漁法

蛸壺漁法

イイダコ漁に用いられる貝殻を利用した「蛸壺」。
北海道稚内市宗谷漁港で積まれる木製の蛸箱。

現代ではヨーロッパの西海岸から東アジアにかけて、広く蛸壺(たこ壺、タコつぼ)を用いたタコ漁が行われている[459]。これには4000年以上の歴史があり、古代エジプトでも海中に沈めた素焼きの壺を用いてタコを漁獲していたことが知られている[459]。古くは陶器であり、プラスチック製の蛸壺に置き換わったが、さらに近年では軽くて扱いやすい籠罠(蛸籠)に移行しつつある[442]

日本で漁獲されるタコの半分は蛸壺または蛸箱などトラップによる漁法で漁獲されたものである[440]。狭い岩の隙間に潜り込む習性を利用した蛸壺漁業や蛸箱漁業は、タコ漁業独特のものである。蛸壺の内部が汚れていると入らないため、内部の付着生物や餌の残滓を清掃して用いる[141][442]。同様に、潮流が激しく石の表面が掃除されるような環境を好むため、北海道では「あぶら石のあるところには蛸がいる」といわれる[131]。蛸壺漁は1500 m 程度の延縄に、約150個の壺を吊るして行われる[440]。そのうち1割程度に入っていれば大漁であるとされる[440]マダコ漁獲に用いる蛸壺は伝統的には素焼きの壺であったが、戦後からかまぼこ型のセメント製蓋付きトラップや、硬質ビニル製トラップも用いられるようになった[440][442]。蛸壺には地域性があり、瀬戸内海東部では素焼きのものであるが、周防灘では釉薬をかけたものが用いられる[442]

イイダコのような小型のタコには、小型の蛸壺のような人工物だけでなく、アカニシなどの腹足類や大型二枚貝の貝殻も利用される[440][442]。インドやマレー半島でも巻貝の貝殻を用いたタコ漁が行われる[458]

ミズダコのような大型のタコには蛸箱(タコ箱)が用いられる[440][460]。蛸箱は縦45 cm、横33 cm、高さ19 cm の箱に、16×12 cm の楕円か一辺19 cm の正方形の穴が開いた構造をしており、餌などは用いられない[460]。木製だけでなくポリエチレン製の蛸箱もある[447]。ミズダコはそのほか、樽流しや蛸籠(たこ篭)などでも漁獲される[460]

曳網漁

近代的なタコ漁では、底曳網によるタコ漁も行われる[461]。しかし、目的外の生物の混獲や、珊瑚海藻などの損傷など、底生生物の生息環境を攪乱してしまうため、不買運動や規制が行われている[462]。また、幼いタコも捕獲してしまい、リリースされたとしてもダメージを受け死んでしまうことが多い[449]

日本で漁獲されるタコの1/3は曳網漁で獲られたものである[440]。これには沿岸の小型底曳網、沖合底曳網、船曳網などが含まれる[440]福島県では、ミズダコ Enteroctopus dofleiniヤナギダコ Paroctopus conispadiceus はほとんどが底曳網により漁獲されている[353]

釣り

テンヤで釣られるイイダコ。明石市にて。

古くから釣りによるタコ漁(蛸釣[172])も行われている。古代ギリシアでは生き餌を用いた釣りが行われており、による漁とともにアリストテレスによる記録がある[461]

日本では伝統的に蛸賺し(たこすかし)と呼ばれる漁法が行われ、竿の先に餌や疑似餌をつけて誘い寄せてタコを獲った[366][172]。蛸賺しは蛸おらぎや蛸さぶき、蛸ねりなどとも呼ばれる[366][172]

イイダコは釣りで漁獲され、イイダコテンヤと呼ばれるおもりのついた針を用いる方法が一般的である[463][464][465]。イイダコは好物の二枚貝と似た白色のものを好む傾向があるとされ、テンヤにはラッキョウや白いラッキョウ形の陶器を用いるのが主流である[463][466][465]。前者は特に関東地方、後者は関西から中国地方にかけてで一般的である[463]。ネギの白い部分、豚の脂身などが用いられることもある[463][465]香川県ではテンヤが底曳網に絡まり、漁業に支障を来す被害が続いているほか、漁獲量の激減により、釣り客への呼びかけが行われている[464]

沖縄ではワモンダコが「島だこ」と呼ばれて親しまれ、釣りなどで漁獲される[467]。対し、同音の標準和名を持つシマダコは「しがや」や「しーがい」と呼ばれ、こちらも釣りで捕獲される[468]

ハワイ近海では疑似餌を用いたタコ漁が行われる[461]。古くはタカラガイの貝殻をルアーとして用いており、現代ではカニを模したルアーを用いる[461]。長い釣り糸に疑似餌を取りつけて海底近くを這わせ、返しのない針数本で引き揚げる[461]

流し釣り

餌をつけない針金で引っ掛ける空釣り(からづり)漁法も行われる[440]北海道の太平洋沿岸(主に道東)では、冬から春にかけて、ヤナギダコが空釣り縄で漁獲される[469][470]。これは餌の付いていない針を海底に這わせ、移動するタコを引っ掛けることにより漁獲する漁法である[469]。空釣り縄では、ヤメと呼ばれる針と枝縄のセットが笊に100本分ずつ仕掛けられ、縄を繋いで投縄される[470]。1放しの縄(約1,800 m)には笊50鉢分の仕掛けが取り付けられ、両端にはボンデンと呼ばれる浮標が立てられる[470]

いさりびきでは、「イサリ」と呼ばれる鉤が付いた漁具に餌を付けてタコのいる海底を曳き、釣り上げる[471][28]。北海道古平町では、明治45年(1912年)に自家用としていさりびきの記録が残っている[28]ニシン漁の終わるころから出漁し、それぞれの漁期のつなぎ漁として漁獲されていた[28]。盛漁期は5–6月[28]。手釣りのいさりびきは明治時代から行われていたが、1958年に茨城県の漁法を改良した樽流しが北海道のタコ漁に導入された[471]。樽流しは宗谷北部や道南日本海の主要な漁法となっている[471]。海底を引きずる長さの釣り糸の先に樽といさりを1個ずつ付け、小型船から20個ほど流す[471]

また、北海道でアブラツノザメシャコなどを餌とした延縄漁が空釣りに並び盛んに行われていたが、1955年以降にはほとんど行われなくなった[447]

ケニアでタコを棒で捕えている様子。

やヤス(簎)、鉤による漁も行われる[458]。これが最も古い漁法であるとされ、熱帯地域で行われる[458]。例えば、モーリシャスなどでは銛や徒手によりタコを捕獲する[461]

タコを捕らえるのに用いる鉤は蛸鉤(たこかぎ)と呼ばれ、長い竿の先に鉤を取り付けて用いられる[138][172]

その他のタコ漁

定置網漁も行われる[440]

長崎県五島市福江島では、干潮の時に、岩礁に生息するマメダコに塩を吹きかけて捕らえるマメダコ捕りが行われる[472]。かつては家庭の竈から出たを吹きかけて捕まえられ、「灰吹きダコ」や「ヒャーダコ」などの方言名で知られる[472]

養殖

漁獲圧が高まってタコが減少し、タコ養殖への関心が高まった[473]日本オーストラリアスペインメキシコイタリア中国など、世界中で養殖の研究が行われているが、商業用の養殖には長年にわたって成功していなかった[474][473]。稚ダコの成長には生き餌が必要であり、養殖には場所も人手もかかるためである[475][476]

養殖にかかわる一つ目の課題は孵化後の餌の供給であり、これは日本で1960年代に解決された[477][478]。マダコの稚仔に甲殻類の幼生を餌として与えると、浮遊期の幼生を着底まで育てることができる[477][478][479]。しかし、甲殻類の幼生の親を野外で捕獲して利用する天然頼みのもので、多くの餌生物を必要とし、完全養殖には至らなかった[477][478][479]

また、稚ダコの安定した飼育法はタコの養殖のボトルネックの一つであり、活発に研究されてきた[480]。1960年代以降の研究では人工的に孵化させたアルテミアでも飼育できるようになった[477]。アルテミア単体では必要な栄養素が不足するため、ドコサヘキサエン酸エイコサペンタエン酸をアルテミア幼生に与えてからそれを食べさせることで、大量培養可能な飼料での育成が可能になった[477]。2000年代の日本では、浜崎活幸竹内俊郎らにより、浮遊期の生残率と成長率を上げる研究が行われた[480]。餌としてアルテミア以外にイカナゴのスライスを与え、飼育水にナンノクロロプシス Nannochloropsis を添加することでマダコが摂取する餌の栄養価を高めることに成功した[480]

世界初のタコの完全養殖は2004年に Octopus vulgaris で、8か月を経て孵化から成体までの飼育成功が報告された[480][481]。日本では2017年に世界で2番目にニッスイ(当時の旧日本水産)がマダコの完全養殖に成功している[476][482][483][484]。しかし、いずれも2020年代に入るまで商業ベースには到達していなかった。

浮遊期から着床期に至るまでの生残率は低いままで[476]、餌以外の要因が考えられた[485]團重樹らは水槽内のマダコ稚仔を観察し、エアレーションによる下降流が稚仔の成長を妨げていることを明らかにし[485]、2018年にこれを改善する設計の水槽を発表した[486]。浮遊期の擬幼生は外套腔の海水を漏斗から噴出して得られるジェット推進により水中に留まっている[485]。餌を捕獲して水槽の底に運ばれた擬幼生は浮上するために餌を捨てて上昇を試みるが、餌を十分に摂取できず衰弱してしまう[485]。そこで、水槽の中央にパイプを設置して水槽底面から水流を生み出すことで[485]、水槽内に湧昇流を生み、生残率が格段に上昇した[486]

メキシコではマダコ属のマヤダコ[41] Octopus maya の養殖が試みられており一定の成果が上がっている[487]。タコの商業的な養殖は2021年から世界で初めてカナリア諸島において、スペインの水産会社ヌエバペスカノバ英語版により行われている[488]

養殖反対活動

タコを食べる文化がない英米圏では、研究における規制や養殖の禁止を求める動きが相次いだ。

頭足類の研究者の一部はタコを高等動物として配慮を要するとする主張を行っている[489]。2012年に国際的な脳科学者のグループが発表した「ケンブリッジ意識宣言」では、タコの神経系は、鳥類や哺乳類と同様に意識と看做すのに十分な主観的体験ができると明記された[490]。イギリスでは、タコを含む頭足類は研究対象としては脊椎動物と同様に扱われ、「痛み、苦しみ、ストレス、持続する苦痛」を与えかねない実験から法的に保護された動物となっており、EUも脊椎動物と同様の規制を求めている[490]。しかし別の科学者からは、タコの神経系や痛覚の経路の仕組みは完全には理解されておらず、どのように扱えば実験条件として適切かや、実際にタコの不快感を和らげるのに効果があるのかすら分からないという指摘もある[490]

2021年、イギリスの Jonathan Birch らは、300以上の科学的研究を調査に、タコは「感性のある存在」であり、喜び、興奮だけでなく、痛み、苦痛、害も経験できるという「強力な科学的証拠」があると結論付けた[491]。この調査を受け、2021年11月に、イギリス政府の審査委員会は「タコやカニや大型エビにも苦痛の感覚がある」として、同国で審議されている動物福祉法案の保護対象に感覚をもつ動物として追加した[492]。前述の報告書の著者らは、大量のタコを近接して飼うと、ストレスや衝突を生み、10–15%という高い死亡率に繋がるため、容認出来ないと述べ、高い動物福祉が要求されるタコ養殖は「不可能」と論じている[493]。 また、タコの商業養殖の実現が間近となっていることを受け、イギリス政府は将来「輸入養殖タコの禁止を検討する可能性がある」ともいう[492]

アメリカのワシントン州は世界で初めてタコ養殖を法的に禁止した[494]カリフォルニア州ハワイ州では、タコの養殖を禁止する法案が提出されている[495]

タコの完全養殖に成功し、養殖は技術的には確立されていたが、高い知能を持つとされていることから、倫理的問題が指摘されていて、商業化には単に技術的な問題だけでなく、なお高いハードルが存在していた[484]。実際に商業的な養殖がおこなわれるようになったことを受けて、2024年7月25日にはアメリカ合衆国議会において、「非倫理的な方法で生産されたタコの養殖および取引に反対する法律 (Opposing the Cultivation and Trade of Octopus Produced through Unethical Strategies Act[注釈 40])」案が提出された。これは絶滅危惧種の保護のように天然漁業を規制するものではなく、動物の権利の観点からアメリカにおける商業的なタコ養殖事業を禁止したり、アメリカ海洋大気庁にタコの漁獲方法に関するデータの収集を義務づけることなどが盛り込まれている[496]

利用

飼育と展示

南アフリカワールドカップ準決勝のドイツ対スペイン戦の結果を予言するパウル

底生の無触毛亜目のタコは、日本ではマダコ[497][498]ミズダコ[499][500][501]などが、海外でも Octopus vulgaris[502][503][504]Octopus bimaculoides[505]水族館でよく飼育される。ドイツオーバーハウゼンの水族館 Sea Life Oberhausen では、「タコのパウル (Paul der Krake)」と呼ばれる Octopus vulgaris が飼育され、2010 FIFAワールドカップ の結果の「予言」を行ったことでよく知られている[152][251]ヒョウモンダコも長期間ではないが、飼育されることがある[506]。それに対し、浮遊性の無触毛亜目や深海性の有触毛亜目のタコの飼育例は少なく、前者ではアオイガイタコブネ[507][508]が、後者ではメンダコオオメンダコがごく短期間飼育されるのみである[509][510][511][512]。しかし、前述の通りマダコでも完全養殖は難しく、稚仔の飼育の難易度が高いため、ミズダコなどでは世代を回した飼育は行われていない[501]

哺乳類の動物飼育の現場では、その飼育環境を良くする「エンリッチメント」が叫ばれているが、タコについても知能が高いため、退屈しないように刺激を絶やさないようにする工夫が行われることがある[259]

タコは脊椎動物のようなを持たず柔軟であるため[105]、口器が通る大きさなら非常に狭い空間でも通り抜ける事ができ[513]、水族館で飼育されているタコが脱走することもある[498][514]

バイオミメティクス

タコの腕はあらゆる方向に自在に曲げることができ、2倍にも伸長することができるうえ、失っても完全に再生する能力を持つため、神経学の研究やロボットのモデルにも用いられている[515]。しなやかに曲がり、吸盤を具えたタコの腕に着想を得た、あらゆるものを掴むことのできるソフトロボットなどが開発されている[516]

腕は脳神経節がすべて制御しているわけではなく、それぞれの腕の先端にまで神経索が通り、脳と無関係に運動できる[515]。また、繊細な作業も力強い行動も行うことができ、それぞれの腕同士を連携させることもできる[515]。この腕同士のコミュニケーションや分散知能システムについても自律型ロボットへの応用が期待され、研究されている[515]

腕に並んだ吸盤も工学的に研究され、ロボットのモデルとなっている。吸盤はそれぞれに思い思いに伸びたり、物を撮んだり放したりすることができる[515]。タコの吸盤を模倣したロボットハンド(真空グリッパ)が開発されている[517]

また、タコは素早く精巧な体色変化を行い、反射性や質感、明るさを周囲の環境に合わせて変化させることができる[230]超音波による探知器は古くから軍事的な研究がなされてきたため、それを回避する技術の開発が進められている[518]。しかし、そういった仕組みを用いないタコの擬態も軍事利用を目指して、アメリカ海軍などから資金提供を受けた研究が進んでいる[519]。タコは瞬時に周囲の背景に合わせた体色変化ができるため、眼を経由した視覚情報以外にも、皮膚で光や色を感知できる仕組みがあるのではないかと考えられている[520]。タコの擬態の仕組みを模倣し、色や光を感じ取ってその通りに模倣できる新素材の開発が進められている[519]

文化

飛鳥山公園にある鉢巻を巻いたタコの遊具
タコが描かれた前期ミノア文明土器[注釈 41]
ボローニャのモンタニョーラ公園にあるニンフの噴水の彫刻。
小原喜三郎の『滑稽欧亜外交地図』。ロシアが黒蛸に描かれる。

タコはその見た目から、世界各地でキャラクターのモチーフとなっており、神話や伝承にも登場する。

地中海沿岸諸国では古来、タコは食用であり、身近な存在であった[40]。例えば、紀元前1,600年頃クレタ文明ミノア文明では貨幣にタコが描かれ、紀元前1,200年頃ミケーネ文明でも鐙壺の図案に用いられた[331]。また、アリストテレス紀元前384年 - 紀元前322年)は著作『動物誌』 (Historia Animalium) の中でアオイガイ属 Argonautaイチレツダコ Eledone について述べている[40]ボローニャモンタニョーラ公園英語版にあるニンフの噴水の彫刻には、乙女の太腿に腕を巻き付かせるタコが彫られている[521]。近年ではタトゥーネクタイクッションの柄など様々なところでタコが描かれ、図案として用いられる[331]

日本では食材としての身近さから、「タコ文化」が根付いている[350]。その形態がユーモラスであり、様々なキャラクターに用いられる[350]。飾り切りをしたソーセージは「たこさんウィンナー」と呼ばれ、しばしば弁当に入れて親しまれる[522]。また、茹でると真っ赤になるなどといった性質から、茹でたあとの赤色で表現されることがほとんどで、しばしば、胴体を「頭」に、漏斗を突き出た「口」に準え、額に当たる部分に鉢巻を巻いた姿で描かれる[523]。タコの姿を模した公園遊具滑り台)は「タコ滑り台」や「タコ遊具」と呼ばれ、日本各地に200基ほど見られる[524][525]

日本ではタコは縁起物として用いられ、おせち料理などにも入れられる[526][527]。ゆで上げると赤くなり、めでたい紅白模様であるとされるほか、赤は魔除けの意味があり、墨を吐く生態を「苦難を煙に巻く」と捉え、また名は「多幸」に通ずるとされる[526][527]

それに対し、ヨーロッパ中北部では「悪魔の魚」とも呼ばれ、忌み嫌われてきた[417][138]下記のクラーケンが船を襲うとされるように[528]、悪役のモデルとなることもある[515]。また、多くの長い腕を持つ姿から、1877年にイギリスフレデリック・ローズによりを敵国であるロシアを巨大なタコの姿に描いた風刺地図が描かれた[529]。それを基にフランスや日本、ナチス政権下のドイツなどで、多くの地図製作者に踏襲され、プロパガンダの意図を持ち侵略者をタコに準えた地図が制作された[529]。日本でも、日露戦争開戦直後の1904年に発行された『滑稽欧亜外交地図』がよく知られる[530]

神話・伝承

船を襲うクラーケン。「コロッサル蛸」と呼ばれるもの。
三代広重『大日本物産図会』に描かれる滑川の大蛸

その特徴的な姿から、世界各地の様々な伝承に登場し、またモチーフとされる[31]

例えば、何本もの腕を持つ北欧伝説に登場する海の怪物クラーケンはよく知られ、文学や伝説、絵画や映画の至る所に登場する[31]。巨大なタコとイカを合体させたような姿で描かれ、深海に潜んで船を追いかけ、船員を貪り食うとされる[528]。ただしこれは中世から近代にかけて語られた怪物であり、古代北欧神話には登場しない。

大プリニウス(紀元23年79年)の『博物誌』には、270 kg 以上の体重を持ち、村人から魚を奪う巨大な蛸についての記述もある[31]イタリアリグーリア州テッラーロ英語版では、巨大蛸が教会の鐘を鳴らして迫りくる敵の侵攻を報せ、村を救ったと伝わる[31]。そのため、テッラーロではドアの装飾など様々なところでそのオマージュが見られる[31]

ハワイの神話では、タコは神代の唯一の生き残りとされる[31]。ハワイの創造神話に登場する海神カナロアと呼ばれる[531]キリバスギルバート諸島では、タコの神ナ・キカが海底から島々を強く押し上げたと伝わる[31]

日本でも、古くから大蛸の伝説などの説話や俗信が伝わる[172]。例えば、京都府与謝郡には、「衣蛸」(ころもだこ)という蛸の妖怪が伝わる[532]。船が近づくと、大蛸に変化して海中に引きずり込むとして恐れられる[532]

香川県には、「ヤザイモン蛸」という大蛸のが伝わる[533]。八左兵門という男が昼寝している大蛸の足を1日1本ずつ足を切って持って帰り、あと1本というときに、大蛸が八左兵門を海に引き込んだという[533]

愛媛県西予市明浜町(旧狩江村)にある春日神社では、あるとき御神体が上方に移そうと船で盗み出された際、三崎村名取で神罰を受けて難破し、御神体を海中に落してしまったところ、それを大蛸が海上に持ちあげ、地元の住民が拾って海岸に祀り、翌年狩江村民が現存する元の所に祀ったという伝承がある[534]。そのため狩江村民は蛸を捕まえず、今日に至るもタコを食べない習慣が残っている、と伝わる[534]

愛知県知多郡南知多町三河湾に浮かぶ日間賀島にある曹洞宗安楽寺は、地震で沈んだ寺の仏像が漁師によって引き上げられた時、仏像を守るように一匹の大蛸が巻きついていたという逸話から「たこ阿弥陀」と通称される[368]。また日間賀島は「タコの島(多幸の島)」と呼ばれ[368][381][372]、モニュメントやマンホールの蓋など、至る所でタコのキャラクターが見られるほか、夏にはタコの供養と豊漁を祈願するたこ祭りが行われる[368]

大阪府岸和田市にある天性寺蛸地蔵とも呼ばれ、岸和田城落城の危機に、大蛸に乗った法師が数千のタコを従えて現れ、城を救ったという伝説がある[535]。この法師は地蔵の化身であり、後日城の堀から矢傷・玉傷を無数に負った地蔵が発見されたと言われる[535]。また、南海本線蛸地蔵駅の由来にもなっている[536]

アイヌの伝承にはラートシカムイアッコㇿカムイと呼ばれる巨大な蛸が登場する[537][538]

タコは陸上でも30分以上動き回ることができるため、「夜中に畑の大根を盗む」という逸話が知られる[539][338]三重県鳥羽市にある畦蛸(あだこ)では、「嵐の日に大波に乗って蛸が田圃の畦にやってきた」や「月夜になると蛸が畦の水路まで泳ぎ登ってきた」などの伝承が伝わり、その地名に名を残している[356][380]2002年に放送されたテレビ番組『フューチャー・イズ・ワイルド』では、空想上の1億年後の未来の生物として「スワンパス (swampus)」と呼ばれる半陸生のタコが登場する[540]

作品

ラヴクラフトによるクトゥルフのスケッチ。

日本ではタコは多くの場合、コミカルで親しみやすいキャラクターとして描かれる[364]。タコはそのものでなくても様々なキャラクターのモチーフとして登場する。例えば、日本では田河水泡の漫画『蛸の八ちゃん』や古谷三敏の『ダメおやじ』のキャラクター「タコ坊」などが挙げられる[350]巡音ルカの頭部だけをデフォルメし、髪の毛を脚に見立てたキャラクターは「たこルカ」と呼ばれる[541][542]

ハワード・フィリップス・ラヴクラフトクトゥルフ神話描かれる邪神クトゥルフはタコの頭部にコウモリの翼を持った巨大な軟体動物のような姿をしている[31]。これは他の作品にもオマージュされ、『サウスパーク』でもネタとして取り上げられている[31]

映画

水爆と深海の怪物』(It Came from Beneath the Sea, 1955)でもジェット推進する巨大なタコが描かれている[543]。アメリカのパニック映画『オクトパス』(Octopus, 2000)では、船や潜水艦を襲い、恐ろしい歯が生えた口に取り込むクラーケンが登場する[42]ジェムソン・アイリッシュ・ウイスキーのコマーシャル映像でも巨大な酒好きのタコが登場する[42]。『メガ・シャークVSジャイアント・オクトパス』(Mega Shark vs Giant Octopus, 2009)では巨大なタコがサメをも仕留めている[340]

2009年のアカデミー賞短編アニメ賞にノミネートされた『オクタポディ』(Oktapodi, 2007)では、タコのが登場する[544]1973年にぬいぐるみ劇として放送された日本の特撮テレビ番組『クレクレタコラ』では、公害によって怪獣化し陸に上がったフテクサレタコ「タコラ」が登場する[545]。2003年のディズニー映画『ファインディング・ニモ』にはオオメンダコのパールが[546][547]、『ファインディング・ドリー』にはミズダコのハンクが登場する[548]ニコロデオンのアニメ『スポンジ・ボブ』シリーズに登場するキャラクター「イカルド・テンタクルズ (Squidward J. Q. Tentacles)」は、どの言語でも名前からイカに間違われるが、タコがモチーフである[549]。2010年の『トイ・ストーリー3』では「ストレッチ (strech)」という名の紫色のタコのおもちゃが登場し、腕を伸ばしてお金をかき集める[513][550]

映画「ジェームズ・ボンド」シリーズの『007/オクトパシー』には、女性窃盗密輸団の古い秘密指令の印にヒョウモンダコが用いられている[551]。シカゴ・フード映画祭で2011年に最優秀フード・ポルノ映画賞を受賞した短編映画『アモール・プルポ』(Amor pulpo, 2011)は女性がデートの支度をする場面の合間にタコが捕獲され調理されるシーンが映され、レストランにて供されるという作品である[552]

1989年にディズニーが制作した映画『リトル・マーメイド』では、魔女アースラというキャラクターが登場するが、その動きはジャック・クストーが撮影したタコの動きがモデルであると言われる[553]。モバイルゲーム「ディズニー ツイステッドワンダーランド」では、『リトル・マーメイド』をテーマとした寮オクタヴィネルに、アースラのようにアズール・アーシェングロットというタコ脚(オクトピット)のキャラクターが登場する[554]

俳句

「蛸」や「章魚」は夏(三夏)の季語、「麦藁章魚」は仲夏の季語となっている[555]

江戸時代の俳人である松尾芭蕉は、明石にて「蛸壺や はかなき夢を 夏の月」という俳句を詠み、柿本神社にその句碑が残っている[338]。出典は『猿蓑』で、「笈の小文」に収録されている[341]

正岡子規は「飯蛸の 手をひろげたる 端哉」や「冬枯や 蛸ぶら下る 煮賣茶屋」の句を詠み、『寒山落木』に収録される[556]

熊本県の俳人上村占魚は「章魚沈む そのとき海の 色をして」という句を詠んだ[341]

楽曲

1969年の『アビー・ロード』に収録されたビートルズの「オクトパス・ガーデン」はタコが蒐集したものを巣穴の周りに並べる様子がきっかけに生まれた楽曲である[557]リンゴ・スターは『ビートルズアンソロジー』の中で当時を振り返り、サルデーニャ島での休暇中に船長から聞いた話を基に歌詞を書いたと語っている[558]

ドキュメンタリー

ジャン・パンルヴェ英語版は、海洋生物のドキュメンタリーを得意としていた映画監督であり、タコを主題としたドキュメンタリーを制作している[513]。パンルヴェはタコの特性をしなやかなチューインガムのようだと形容した[513]。彼の処女作はまさに、『タコ』(La Pieuvre, 1928)であり、10分間のシュールレアリスム風なモノクロの短編サイレント映画であった[513]。パンルヴェによる短編映画『タコの性生活』(Les amours de la pieuvre, 1967)では、雄が雌の漏斗に交接腕を挿入する様子が描かれる[559]

ドイツオーバーハウゼンの水族館 Sea Life Oberhausen で飼われていたOctopus vulgaris の「タコのパウル (Paul der Krake)」を主題とした長編ドキュメンタリー『超能力タコ、パウルの生涯』(The Life and Times of Paul the Psychic Octopus, 2012)が制作されている[560]

オクトパスの神秘: 海の賢者は語る』(My Octopus Teacher, 2020)は、南アフリカ藻場で野生の O. vulgaris との信頼関係を築こうとする様子を映したドキュメンタリー映画である。

タコをモチーフとしたキャラクター

また、企業や自治体のキャラクターとなることもある。宮城県の南三陸復興ダコの会では、タコをモチーフにした「オクトパス君」というゆるキャラが存在する[561]

町田製薬軟膏「吸出し青膏」は、「まるで蛸が吸い付くようにおできの膿を吸い出す」というイメージから「たこの吸出し」の愛称が付けられている[562][563]。たこ美とたこ之助という2匹のキャラクターが作られている[563]

サンリオのキャラクターには「チューチューターコ」がおり、ボーイフレンドはイカのコータくんである[564]

ゲーム「ポケットモンスター」のシリーズでは、『ポケットモンスター 金・銀』からオクタンが登場する[565]。オクタンの名はオクトパスとタンクを掛け合わせたものだとされる[565]。また、『ポケットモンスター ソード・シールド』には、タタッコと、それが進化したオトスパスが登場する[566][567]。オトスパスはわざ「たこがため」を使う[567]

腕と触手

葛飾北斎の描いた春画『蛸と海女』の一部。
Spicy-Adventure Stories (August 1936) の表紙。

タコの腕はスーパーヒーローや悪役のモデルになっている[515]マーベル・コミックの作品にシリーズに登場するスパイダーマンの宿敵、ドクター・オクトパスは独立して動く腕を駆使する様子が描かれる[104]。この腕は3 t の物を持ち上げられるという設定がある[568]

また、この腕はしばしば淫らなイメージを持って扱われ、「触手もの」という一大ジャンルとなっている[569]。触手もののはじまりは19世紀初頭の日本の木版画である[569]葛飾北斎は女体に絡みつくタコの春画蛸と海女』を描いている[364][569]。『蛸と海女』では海女が岩場で仰向けになり、両脚の間に大蛸が、口元には小蛸が、乳首や肢体には蛸の腕の先が巻き付いており、海女の両腕は大蛸の2本の腕を握りしめている[569]。昔の西洋の研究者はこれを凌辱の場面と誤解したが、合意のうえでの快楽を描いている[569]根付のモチーフなどにもなっている[569]。現代でも、佐伯俊男寺岡政美などの作品に受け継がれている[521]

20世紀半ばにはアメリカのパルプマガジンコミックの表紙にタコが用いられるようになった[569]。1936年8月号のスパイシー・アドベンチャーズ誌の表紙には赤い水着姿の女性に腕を巻き付けるタコが描かれている[569]

漫画アニメーションの世界でも触手ものは広がり、ロボットの腕が登場することもある[521]。更に暴力的な表現は「触手責め」と呼ばれ、フェティシズムの一つとなっている[521]。これは男性器を直接描写できない検閲規制から発展したと考えられることもある[521]

タコと火星人

フィクションにおける火星人の姿はしばしば頭が大きく手足は細長く描かれ、「タコ型」と言及される[570][571]。これはイギリスのウェルズが書いた1898年のSF小説『宇宙戦争』の挿絵に由来するとされる[570][571]

タコ型宇宙人は後世の様々な作品に転用されている。例えば、1939年の海野十三火星兵団』に登場する火星人は「大蛸のような」と形容されている[572]。2021年のタイザン5の漫画『タコピーの原罪』に登場するキャラクター「タコピー」などにもその影響がみられる[573]

日本語とタコ

「蛸」の「凧」。オランダにて。

タコは特徴的な姿や生態を持つため、様々な物事がタコに喩えられて用いられてきた。玩具の「(たこ)」は、長い尻尾を付けた様がタコに似ることから名付けられたとされる[574]。凧は「いか」や「いかのぼり」とも呼ばれる[138]。また、体にできる「胼胝(たこ)」も一説にはタコの手の裏に似ていることからともされる[1]

胴体に由来する表現

蛸の「頭(胴体)」が坊主頭に似ていることから、坊主頭の者を嘲り、蛸入道蛸坊主(たこ坊主)という[366][172][575]。蛸入道はタコそのものを指すこともあり、坊主蔑んで「蛸」ということもある[172]蛸薬師(たこやくし) は、禿頭の人が祈願すると霊験があると信じられている[172]。蛸薬師には、タコを食べないと誓ったり、蛸の絵の絵馬を上げたりして祈願される[172]京都市中京区に所在する永福寺の薬師や、東京都目黒区成就院の薬師、深川不老山薬師寺などが知られる[172]。京都のものは蛸薬師通の由来にもなった。

また、タコの胴のように頂辺を丸く縫い上げた頭巾蛸頭巾(たこずきん)という[172][366]。蛸頭巾には紫色を用いた[172]オーバーコートレインコートに付けて頭に被るフードを「蛸」ということもある[172]

姿に由来する表現

蛸胴突による礎石搗き固め。

を打ったり土や割栗石を突き固めるのに用いる道具胴突き)は(たこ、タコ)または蛸胴突(たこどうつき)と呼ばれる[576][172]蛸搗(たこつき)とも呼ばれる[577][578][579]。直径30–40 cm のの材を円筒形の棒にし、2–4本の把手を付け、先端に金輪をはめてできる[172][注釈 42]。数人で持ち上げるため柄が多くついており、それをタコに喩えたものであるとされる[577]。石製の土搗きの道具は「石蛸」と呼ばれる[578][579]

まだ、上代のには蛸旗(鮹旗、たこはた)と呼ばれるものがあり、旗の足が割れている様子を、タコの腕が垂れている様子に喩えたものであるとされる[172][366]吹流しに類するものとされる[172][366]

着物のの周囲をまくり上げることを蛸絡(蛸絡げ、たこからげ)という[138][172]。蛸が腕を広げた姿に喩えたものである。また、古くは蛸(章魚)は脚絆を指すこともあり、蛸片(たこびら)と呼ばれた[575]。蛸片は獄衣を指すこともある[575]

一つ(または少ない)ものを手に入れようと四方八方から争って引っ張るさまや、人気のある人物や物が多くの人に求められる状態をひっぱりだこ(引っ張り蛸、引張蛸)と言うが[582]、これは腕を竹串で張って干される干しダコの姿に由来するとされる[381][582]。また、近世以前は、「ひっぱりだこ」は磔刑およびその受刑者を意味する比喩表現であり、1687年浮世草子色道大皷』に見られる「三人の女房の敵おぼへたるかとひっはり蛸にして突通し捨ぬ」のように17世紀に用例が知られる[582]。前者の初出の実例は1802年の『俳諧觿』で、「引はり凧に風邪の流行医」の雑俳が知られる[582]。このように「引っ張り(引張凧)」と表記されることもある[582]

大阪市北区中之島 (大阪府)堂島川に面して生えていたクロマツは、タコが泳ぐ姿に似ていることから「蛸の松」という愛称で呼ばれている[583][584]

腕に由来する表現

器物の足が蛸の足(腕)のような形になっているものや、1箇所からいくつも分岐している形をタコの腕に喩えて、蛸足(タコ足、たこあし)という[172][138]。特に1つのコンセントから多数のコードを引き、電気器具を接続することを蛸足配線という[138]。また、内燃機関において、等長化されたエキゾーストマニホールドは俗にタコ足と呼ばれる[585]キャンパスが複数の箇所に分散している大学蛸足大学と揶揄される。腎臓糸球体にある足細胞 (podocyte) は、数本の突起を放射状に毛細血管壁へ伸ばしていることから、「タコ足細胞」とも呼ばれている[586][587]

香港の公共交通機関が発行しているICカード八達通(オクトパスカード)と名付けられ、様々な機能を持ち、タコの長く便利な腕を想起させるネーミングとなっている[104]

また、古伊万里唐草に見られる、蔓に突起状の葉を加えた蛸の腕のような文様は、「蛸唐草」と呼ばれる[588]

タコは自分の腕を食べるという逸話から、株主が自分の資本を食いつぶすことをそれに準えて、配当するだけの利益を上げていない株式会社が架空の利益を計上して資産から不当に株主へ配当することを「蛸配当」という[172][366]。「蛸配」や単に「蛸」ともいう[172][366]

蛸壺に由来する表現

蛸を捕らえる蛸壺を元にした言葉もある。「蛸壺」は原義から転じ、戦場で兵士が一人だけ立ったまま潜み、そこから射撃できるように掘った塹壕を指す語としても用いられる[172][366]。また、第二次世界大戦前に北海道や樺太炭鉱に見られた、労働所を収容して重労働を強制した部屋を「蛸部屋(タコ部屋)」と呼ぶ[172]。これは蛸壺のタコのように抜け出せないことからと言われる[172]。蛸部屋は単に「蛸」とも呼ばれ、そこで働かされる人のことも「たこ」という[172][366]

その他

風呂に入ったり、酒に酔ったりして赤くなる様子を、茹でて赤くなったタコに喩えて「茹で蛸」と表現する[344]。「怒って茹で蛸になる」という表現も用いられる[344]。また、叱責することを「蛸釣る(蛸吊る、たこつる)」という[1][575]。これは叱られた者が茹で蛸を吊るしたように赤くなることからと考えられている[1]。兵舎の窓からおでん屋の煮蛸を釣り上げるところを見つかって叱られたことに起因するという談もある[1]。また「蛸釣(たこつり)」は、先端に鉤を付けた竹竿で外から格子窓などを通じて室内の衣類などを盗み出すことを指す[172][366]

大相撲隠語で、思い上がって天狗になり、周囲の意見に聞く耳を持たなくなることを「タコになる」という[527][589][注釈 43]。自惚れて得意顔でいるが、他人からは卑しめられていることを「蛸の糞で頭へ上がる」という表現を用いる[172][138]

「タコ」は、バカやアホに類する、相手を蔑む悪口にも用いられる[590]。この悪口の由来は諸説あり、江戸時代将軍に謁見できない「御目見以下」である御家人のことを揶揄して旗本の子が「以下」と言ったことに対して、御家人の子が「タコ」と言い返したことから来た、という説明がなされることがある[590][591]野球では、安打が打てないことや凡打を「タコ」という[592][593]。例えば、4打席4打数無安打の場合は「4タコ」と言う[594]。相手ピッチャーの手玉に取られ、骨抜きにされることを骨を持たない「タコ」に喩えたものだとされる[594][595]。また、悪口、野球用語ともにタコは自分の腕を食べるという逸話に基づくという説もある[594][590]麻雀においても、下手な人を「タコ」という[596][注釈 44]。同様に、自分の順位のことを考えないで和了ることを「タコ和了」、根拠なしにただ要らない牌を切っていくことを「タコツッパ」、考えが全くない副露を「タコ鳴き」という[596]

「蛸」という言葉は上記以外にも、女陰の特殊なものを指して用いることもある[172][575]私娼を指す例もある[575]

京言葉で「好きではない人」「好きになれない人」を「すかんたこ(好かん蛸)」という[要出典]関西弁で言う「すかんたれ(好かん垂れ)」の異形[要出典]。漫画『ドラえもん』にも「スカンタコ」というひみつ道具がある。

ポペットバルブ気密を保つために研磨を行う際、持ち手として取り付けるバルブラッパーはタコ棒という俗称で呼ばれる。先端にタコのような吸盤があり、これでバルブを吸いつけて作業する[597]

袋叩きにすること、または原型をとどめないほどにボコボコに数多く殴ることを俗に「タコ殴り」という。「タコにする」ともいう[要出典]

タコに因んだ生物

タコヒトデ科の1種 Labidiaster annulatus

タコはまた、その姿に喩えて他の生物の和名にも用いられる。下記のものが挙げられる。

タコノマクラ目の不正形ウニの1種であるタコノマクラ Clypeaster japonicus は、タコが枕にして寝るだろうという想像からの名であるとされる[172]。この名はかつてはヒトデ類を指し、『訓蒙図彙』などに用例がみられる[603]。その後クモヒトデ類やカシパン類を指したが、1883年の『普通動物学』で同属の Clypeaster subdepressus を指す和名として扱われた[603]。それが飯島魁 (1890)『中等教育 動物学教科書』により本種の名に用いられ、標準和名として広まった[603]

脚注

注釈

  1. ^ なお、「八梢魚」は特にクモダコを表すとされる[10]
  2. ^ なお、「章花魚」はイイダコとも読む[11]
  3. ^ なお、「望潮魚」は普通イイダコを表すとされる[3][10]
  4. ^ なお、「望潮」はシオマネキとも訓ずる[15]
  5. ^ ラテン語の男性第2変化名詞は focus のように -us という語尾で終わり、複数形は foci のように -i で終わる。octōpūs はギリシア語由来の第3変化名詞であり、これとは異なる変化を持つ。
  6. ^ なお種小名parvus はラテン語で「小さい」を意味する形容詞である。
  7. ^ しかし、イカ類でもヤツデイカタコイカの成体では触腕を失い、8本の腕を持つ[46][50]
  8. ^ 腕の本数や、鰭の有無には例外もある。
  9. ^ 例外もあり、ヤワハダダコなどでは開眼となる[69]
  10. ^ なお、本項における「マダコ」は日本近海のマダコ Octopus sinensis であることもあれば、地中海Octopus vulgarisアメリカ東海岸の Octopus americanus である場合も含まれると考えられる。何れも O. vulgaris 種群に含まれ、かつては汎存種とされていたが、近年は分類の整理が進み、隠蔽種が分離された[72]。元の出典でマダコや O. vulgais と表記されている種は、生息海域等により適宜正しいと考えられる方を用いているが、長らく同種とされてきたことからどちらか不明な曖昧もある。
  11. ^ 省略した各部の略称は次の通り:r.s.g.d. 右の前唾腺管; s1g1d1 後唾腺管; r.s1g1d1 右の後唾腺管
  12. ^ ほかの軟体動物でも食道が食道神経環を貫いている[81]
  13. ^ 省略した各部の略称は次の通り:m.s., e.m. 筋性の隔膜; m1, m.l., m.p., m.p.ex. 筋膜; P.C. 外套腔の後方連絡部; M.ep. 外套膜内面上皮; m.s.a. 隔膜の付属体; L.M. 側筋
  14. ^ 恐らく Octopus americanus
  15. ^ 種小名 mutilans は手足の切断を示すラテン語の分詞である[41]
  16. ^ これは Young & Harman (1988) により提唱された用語である[68][210]paralarva は定訳がなく、パララーバ[210]、稚仔、稚ダコ[155]、浮遊幼生[211]、仔稚期[212]なども訳される。
  17. ^ それに対し、イカの墨は拡散しにくく、墨の塊を「ダミー」として捕食者の眼を逸らせ、敵から逃げる[85][224]
  18. ^ larger Pacific striped octopus(大型の太平洋シマダコ)または Harlequin octopus(道化ダコ)という英名から、池田 (2020, p. 110) で用いられた和名。
  19. ^ ただし、Kröger et al. (2011) では八腕形上目の学名は Vampyropoda、有触毛亜目は Cirroctopoda、無触毛亜目は Octopoda となっている。また下記では、近年の分子系統解析で分離されるヒメイカ目を分離している。
  20. ^ かつてジュウモンジダコ科と呼ばれたが[61][57]、ジュウモンジダコが別属に移されて Grimpoteuthis hippocrepium となり、ジュウモンジダコ属Grimpoteuthis を指す和名となった。
  21. ^ 瀧 (1999) ではこの種が「ジュウモンジダコ」と呼ばれた[61]
  22. ^ フクロダコ[303] Bolitaena microcotyla はシノニム[304]
  23. ^ Strugnell et al. (2013) ではスカシダコ科、フクロダコ科を内包する。
  24. ^ テナガヤワラダコ科 Idioctopodidae Iw.Taki, 1962 テナガヤワラダコ属 Idioctopus Iw.Taki, 1962 を内包し、クラゲダコとテナガヤワラダコは同種とされることもある[305]
  25. ^ かつてはイイダコテナガダコなど、本項でマダコ科とされる属の多くがマダコ属に含まれ、本項ではミズダコ科に置かれるミズダコでさえこの属に入れられていたが、分子系統解析の結果多系統であることが明らかとなった[32]。そのため分割され、Norman et al. (2016) などでは、マダコ近縁種群のみを含む属として扱われる[32]。しかし、このように取り扱うと、分子データのない種がどの属に含まれるか分からないため、Norman et al. (2016) では所属不明の旧マダコ属を 'Octopus' と表記している[32]
  26. ^ Norman et al. (2016) では'Octopus' minor とされる。
  27. ^ テギレダコは 土屋 (2002) ではカクレダコ属 Abdopus に含められ、Abdopus mutilans とされた。Norman et al. (2016) では 'Octopus' mutilans とされる[315]
  28. ^ かつてミズダコは Paroctopus に分類されたため、この属がミズダコ属と呼ばれたこともある[308]
  29. ^ 瀧 (1999) ではイッカクダコは Scaeurgus unicirrhus とされた[308]
  30. ^ 旧来マダコ科に含まれていたが、Strugnell et al. (2013) により独立させられた[307]
  31. ^ スミレダコ[321][309] B. violescens はエゾダコの新参異名(ジュニアシノニム)[322]
  32. ^ ただし、Norman et al. (2016) では、佐々木望の記載したコシキワタゾコダコ Polypus validus Sasaki1920(=Bathypolypus validus (Sasaki1920)) は系統関係が不明とされている。
  33. ^ ワタゾコダコ Sasakiopus salebrosusBathypolypus 属に所属していたときは、本属がワタゾコダコ属と呼ばれた[59]
  34. ^ Strugnell et al. (2013) の解析に含まれるが、Norman et al. (2016) では Eledone に内包される[327]
  35. ^ Norman et al. (2016) では Argonauta boettgeriA. hians のシノニムとされる[328]
  36. ^ ここで言う「半夏」は仏教用語の「半夏(はんげ)」。90日にわたる夏安居(げあんご)の中間で、45日目のことを言う。
  37. ^ ペンバ島近隣のミサリ島
  38. ^ 原文では O. vulgaris であるが、細分化された O. vulgaris のうち、アメリカ大陸近海には O. americanus が分布する[72]
  39. ^ 順にインドネシアモーリタニアモロッコがそれに次いで多いタコの漁獲量となっている[430]
  40. ^ 略してOCTPUS Actで「タコ法」
  41. ^ クレタ島イラクリオンにて紀元前1500年の地層より出土。ギリシャ、アテネ国立考古学博物館所蔵。
  42. ^ 英語では rammer[580]及び punner[581] と呼ばれ、日本語でも「ランマー(ランマ[578]・ラマー・ラム)」や「プンナー」とも呼ばれることもある。
  43. ^ 若いうちに関取になったり三役横綱に昇進した場合に、兄弟子や親方のいうことを聞かなくなったりする力士のことを指す。
  44. ^ 漫画『ぎゅわんぶらあ自己中心派』でも「日本タコ友の会」が登場する。

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参考文献

関連項目

人物
その他
  • 卍固め(オクトパス・ホールド) - アントニオ猪木の必殺技。タコが絡みつくように固める。
  • 水銀整流器 - 多陽極式水銀整流器は胴部(冷却部)と多足(多陽極)の形状からタコと呼ばれることがある。