訓蒙図彙

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『頭書増補訓蒙図彙大成』巻15・蟲介類より

訓蒙図彙』(きんもうずい)は、中村惕斎によって寛文6年(1666年)に著された図入り百科事典(類書)。全20巻。

内容・構成[編集]

初版は20巻からなり、「天文」「地理」「居処」「人物」「身体」「衣服」「宝貨」「器用(4巻)」「畜獣」「禽鳥」「龍魚」「蟲介」「米穀」「菜蔬」「果蓏」「樹竹」「花草」から構成される。後に元禄8年(1695年)に出版された『頭書増補訓蒙図彙』では雑類を加えて21類としている。

最初の版では半葉を上下に分けて2枚の図を描き、その右に目(名前)を漢字で書いていた。漢字の横には仮名で音読みを記し、和名と漢文による説明をその下に記している。『頭書増補訓蒙図彙』では説明は絵の上に書かれ、日本語に変わっている。後世になると、複数の図をひとつにまとめて大きく描き、図の中に名称(漢字、音読み、和名)を書き、説明は上部に小さく書くようになった。

影響[編集]

後世の同様の出版物に大きな影響を与えた類書であり[1]、江戸時代には『訓蒙図彙』の名をつけた『好色訓蒙図彙』(1686年)、『女用訓蒙図彙』(奥田松柏軒)、『人倫訓蒙図彙』(1690年)、『唐土訓蒙図彙』(平住専安、1719年)、『戯場訓蒙図彙』(式亭三馬、1803年)などの類書が多数あらわれた。

西洋人の中には『訓蒙図彙』を百科事典と称する者もいた[1]。Michel (2011)は、『訓蒙図彙』は抽象的事柄や著名な人物、歴史上の出来事には言及していないため、百科事典というのは過言ではあるとしているものの、1484もの植物や動物、人体、道具や衣服など幅広い事物を描写していると評価している[1]ケンペルは『日本誌』の挿絵に『訓蒙図彙』を使用した[2]

南方熊楠が7歳のころに『訓蒙図彙』を昼夜あきずに読んだという逸話があり[3]、『十二支考』でもしばしば『訓蒙図彙』を引いている。

関連文献[編集]

  • 『人倫訓蒙図彙』朝倉治彦校注、平凡社東洋文庫、1990年、ワイド版2008年
  • 影印版『訓蒙図彙集成』大空社 全23巻。朝倉治彦監修、1998-2002年
    • 別巻「江戸時代図説百科 訓蒙図彙の世界」渡辺憲司解説
  • 石上阿希『江戸のことば絵事典 『訓蒙図彙』の世界』角川選書、2021年

脚注[編集]

  1. ^ a b c Michel 2011, pp.1-5
  2. ^ 江戸時代の日蘭交流国立国会図書館https://www.ndl.go.jp/nichiran/s2/s2_1.html#h5_5 
  3. ^ 田村義也「南方熊楠とアンリ・ファーブル : キノコ図譜を軸とした対比の試み (自然観探求ユニット)」『「エコ・フィロソフィ」研究』第10巻、東洋大学「エコ・フィロソフィ」学際研究イニシアティブ、2016年3月、23-33頁、CRID 1390290699869721728doi:10.34428/00007970ISSN 1884-6904NAID 120005771729 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]