パウル (タコ)
水族館の水槽でドイツ国旗が付けられたサッカー靴の横にいるパウル | |
| 生物 | Octopus vulgaris[1] |
|---|---|
| 性別 | オス |
| 生誕 | 2008年1月 ウェーマス・ドーセット ( |
| 死没 | 2010年10月26日 (推定2歳9ヶ月没) |
| 職業 | 元サッカー占い師、水族館展示 |
| 著名な要素 | サッカードイツ代表の試合結果を予言 |
パウル(ドイツ語: Paul der Krake、Oktopus-Orakel、2008年1月 - 2010年10月26日)は、かつてドイツ・オーバーハウゼンの水族館シー・ライフ・オーバーハウゼン (Sea Life Oberhausen) で飼育されていたタコの一種 Octopus vulgaris[注釈 1][2]。サッカードイツ代表の国際試合の結果を予言し[3][4][5][6]、EURO2008では全6試合のうち4試合を的中、W杯南アフリカ大会ではドイツ代表の7試合に決勝戦を加えた計8試合の勝敗を全て当てて[3][5][6][7]、国際的な名声を得た[8]。世界で最も著名なO. vulgaris として知られる[9]。
なお、ドイツ語の「au」は日本人には「アウ」よりも「アオ」という発音に近く聞こえ、日本放送協会(NHK)ではパオルと表記している[10]。また、日本語圏のメディアでは、「パウル君」と表記されることが一般的である[11][12][13][14][15][16][17][18][19][20][21][22][23][24][25][注釈 2]。
生涯
[編集]誕生
[編集]パウルはイギリス南部ウェイマスのシーライフセンターで卵から孵化した。生存時はドイツのオーバーハウゼンにある水族館シー・ライフ (Sea Life Oberhausen) で飼育されていた。同所は遊園地などを所有するマーリン・エンターテイメンツが経フランチャイズ展開する施設である。パウルの名前はドイツの児童作家ボーイ・ロルンゼン(Boy Lornsens Tierleben)作品『Der Tintenfisch Paul Oktopus』
(仮訳=タコ(イカ)のパウル)[28]が由来である[29]。シー・ライフのエンターテイメント・ディレクターのダニエル・フェイによると、パウルは幼い時から知性を示していた。
UEFA EURO 2008
[編集]UEFA EURO 2008において、パウルはドイツ代表が出場した6試合中、グループリーグのクロアチア戦と決勝のスペイン戦を除く4試合の勝者を的中させた[30]。これについて一部では、的中率が80%であったと誤って伝えられている[31]。
2010 FIFAワールドカップ
[編集]グループリーグ・D組の第1戦である対オーストラリア戦では、無難にドイツの勝利を予言し的中。第2戦の対セルビア戦では、番狂わせとなるセルビア勝利を予言し、見事に当てた。続く第3戦の対ガーナ戦でもドイツの勝利を言い当て、グループリーグでのドイツ戦の結果を3戦すべて的中させた。
決勝トーナメント1回戦の対イングランド戦ではドイツの勝利を予想。出身地であるイングランドのサポーターから裏切り者との謂れ(いわれ)なき批判を浴びた[7] が、ロイター通信はこの頃、ドイツ代表の試合結果をすべて当てている驚異的なタコを世界中に紹介した[32]。試合はドイツが勝利し、またも的中。以降、パウルの活躍は連日のように各種マスコミで取り上げられた。
続く準々決勝の対アルゼンチン戦もドイツ勝利を予言し、的中させた[33]。しかし、イングランドに続いてアルゼンチンのサポーターからも「食べてやる」と筋違いな八つ当たりをされた。なお、ワールドカップ後にパウルが死亡したニュースに接して、アルゼンチンを率いたディエゴ・マラドーナ監督は、自身のツイッターで「予言タコが死んで嬉しい、ワールドカップで負けたのはお前のせいだ」と発言している[34]。
パウルの活躍はメディアの注目を集め、準決勝の対スペイン戦の予言を試合前日におこなった際には、その様子がドイツ国内で生中継された[35]。予想はスペインの勝利と出て、翌日、またしても予言通りドイツが敗北すると、インターネットでは一方で熱心なドイツ人サポーターの非難の矛先はパウルに集まった。「フライか丸焼きにしてしまえ」「サメのいる水槽に入れろ」「パエリアにしろ」など批判のコメントであふれかえった。
この事態を受け、水族館側は「予言が的中したのは誠に遺憾」であるとのお詫びの声明を発表した[35][36]。実はサメはタコを食べないし、逆に体の大きなタコは小さなサメを食べる場合がある[37]。
その他方、パウルは試合に勝利したスペインでは英雄視され、同国のホセ・ルイス・ロドリゲス・サパテーロ首相は「安否が心配だ。(スペインから)保護チームを派遣しようかと考えているところだ」とコメント[38]、同セバスティアン産業相は「安全上の理由から」パウルのスペイン移送を提案し[39]、同エスピノサ海洋相も「12日にEU漁業関係相の理事会があるので、ドイツに対しパウル君を食べないよう頼むつもりだ」と語った[40]。予言の中継を行なったアナウンサーも「ドイツ人に食べられる前に、スペインに招いて表彰しよう」と呼び掛けた[41]。また、タコ料理を名物にしているスペインのオ・カルバジーニョ村では、地元で開催されるタコ祭りの親善大使にしたいと、買い取りを申し出て買値3万ユーロ(約340万円)を打診した[42]。
3位決定戦の対ウルグアイ戦の予言は世界中に生中継され、日本でも午後6時台のニュース番組で生放送した。パウルは最初はウルグアイの旗に近づいたものの、思い直してドイツの勝利を予言した[43]。これに対してウルグアイのオスカル・タバレス監督は「ドイツもタコの予言も破る」と意気込んだ[44]。占いの翌日に行われた試合は、攻守が次々に入れ替わる接戦となったが、パウルの予言通り3対2でドイツが勝利し、ドイツ人サポーター達は大いに溜飲を下げた。以降パウルはドイツの3位を予言したとしてドイツ国内で人気を回復した。
それまでドイツ代表の試合のみを予想してきたパウルであったが、決勝戦のスペイン対オランダ戦も占わせると、スペインの勝利を世界各地のジャーナリスト100人以上の前で予想を立て、その模様は欧米や中東の計約600のテレビ局が生中継した[45]。このため、試合当日にはパウルにあやかった着ぐるみ姿のスペイン人サポーターも現れた[46]。イギリスのブックメーカーによると、この予想前はオランダ優勢であった掛け率は、スペイン優勢へと傾いたという[47]。
準々決勝の予想を全て的中させたシンガポールのインコ・マニや、エストニアのチンパンジーなど他の国でも同じ対戦をめぐって動物の占いが行われ、いずれの動物もオランダの勝利を予想した[43]。
試合はパウルの予言通り1対0でスペインが勝利、初優勝を遂げた。決勝戦の試合結果に関するほぼ全ての報道において、8試合の試合結果を100%当てたパウルの快挙は大きな驚きをもって伝えられ、以降パウルはドイツ国内やスペイン国内はおろか、世界各国でも爆発的な人気者になった。ゴールを決めたアンドレス・イニエスタ(MF)はインタビューで、「パウルをスペインで胴上げしたい」 と喜びを語った。準優勝に終わったオランダのサポーターは多くが「パウル、お前がどこにいるのか知っている」など恨みのこもったコメントを残したが、「でも、あいつは正しかった」と脱帽したコメントもあった[46]。
2010年7月12日、全ての予言を的中させた功績をたたえ、パウルにワールドカップ優勝トロフィーのレプリカが授与され、パウルは8本足で丁寧に受け取った[48]。
ワールドカップ後
[編集]大会終了後、パウルの下には他のサッカー関連の事項の予言や、テレビ出演などの依頼が殺到した。しかし、Octopus vulgaris の寿命は野生では多くは2年[49]、飼育環境下でもおよそ3年[50]とされており、既に2歳半と高齢のパウルは本大会後に予言活動から引退し、水族館で観客を楽しませる「本来の仕事」に戻った[51]。
しかしロシアの記者が次期大統領の予言のためパウルを訪れ、プーチン首相とメドヴェージェフ大統領の名前を書いた2枚の紙を見せたところ、パウルが一方を触手で指した[注釈 3]と報道されるなど、水族館の意図に反してパウルに予言をさせる者がいた[52]。
FIFAワールドカップ終了から約1か月を経ると、イングランドの招致委員会は2018年もしくは2022年のワールドカップをイギリスで催すにあたり、パウルがイングランド近海生まれであることから「大会招致アンバサダー」に任命したと発表した[53]。
2010年10月26日、飼育施設のシー・ライフで死んでいたと公表され、年齢は2歳9か月で、死因は老衰と見られる。シー・ライフは後継となるタコを育成して「パウル」の名を継がせ、同様の予想をさせるとしている[54][55]。
2011年1月、パウルの功績をたたえて、シー・ライフに記念碑が設置された[56]。参加各国の旗を描いたサッカーボールの上にパウルが乗った像であり、パウルの遺灰が納めてある[56]。オーバーハウゼンのシー・ライフと同じ経営母体傘下の水族館8か所ではそれぞれ同年から2代目パウル候補の個体の飼育を始め、パウルの後継者選びはそれぞれが飼育するタコに競わせ、同年、ドイツ開催の2011 FIFA女子ワールドカップの予想を採用すること、その中で優秀な成績を修めたタコが2代目になると発表している[57]。
占いの方法
[編集]
ドイツ代表の国際試合の前に、パウルにはカラスガイやカキなどの餌が入ったプラスチック製の2つの容器が与えられる。一方にはドイツの国旗が、もう一方には対戦相手の国旗が付けられている(両方ともナショナルチームの旗)。そしてパウルが餌をとるためにどちらかの容器を開け、先に開けられた容器の国が勝利する、と解釈された[58]。パウルの動きが鈍い場合は混戦、パウルの動きが早い場合は圧勝と、パウルは試合展開も示したと解釈されていた。
行動分析
[編集]パウルの選択行動を説明するものとして以下のような仮説が出されている。
- 国旗のデザイン
- 種としての Octopus vulgaris は、行動研究や電気生理学的研究の結果、色相は識別できないものの[59]、明度・サイズ・形状・傾きの区別は可能であることが明らかにされている[60]。従って、パウルは国旗のデザインを識別できたと考えられる[61]。さらに、 Octopus vulgaris はおおむね横長の図形に興味を持つと考えられ、パウルが選んだ旗には実際に水平の縞があった[62][63]。
- ドイツ国旗は黒・赤・金の等間隔の水平ストライプからなる、くっきりした三色旗であり、パウルは普段から好んでいた。ただし黄色の幅広の帯があるスペイン国旗や、青と白の縞を組み合わせたセルビア国旗は、さらに鮮やかに目に映る点は、パウルがドイツを差し置いてそれらの国を選んだ理由を説明するかもしれない[60]。2010年7月6日にパウルがスペイン国旗を選択した時、ドイツ国旗とスペイン国旗は似通っているから勘違いしたのではないか、だから今回の予言は外れてくれるのではないかという指摘さえあった[64]。
- 餌箱の匂い
- Octopus vulgaris の触手には感覚受容器があり、それで獲物を味わい、水の匂いを嗅ぐ。箱の微妙な匂いの違いがパウルの行動に影響した可能性はあり[65]、実際に匂いでパウルを訓練するのは簡単であったと推測される[63]。パウルの飼育係によると、餌の容器にはパウルが選びやすいよう穴を開けてあった[66]。
シー・ライフ系列のラロシェル水族館(Aquarium de la Rochelle)の館長パスカル・クータン Pascal Coutant [67]は「パウルの選択は全くの偶然に因るものだ」と述べている[68]。
いずれにせよ統計学的視点に立つならば、パウルの予知能力を実証するためには、厳密に標準化されたテスト環境で、もっと多数回の試行を行なう必要があると考えられる[65][69]。
また、世界中で同様の予言ごっこをする動物がたくさんいるとするならば、そのうちの一部が的中を続けるのは確率論的に当然という指摘もある[69]。
鹿児島大学名誉教授の川村軍蔵によると、マダコは色の識別はできず、濃いか薄いかを判別している[70]。岡本ら(2001年)の水槽実験によると、マダコは黒を最も好み、高照度下では次いで赤と橙の順に、低照度下では同じく橙と赤の順に好むと分かっている[71]。
予言とその結果
[編集]ドイツの試合
[編集]| 対戦国 | 大会 | ステージ | 予言 | 試合結果 | 正誤 |
|---|---|---|---|---|---|
| EURO2008 | グループリーグ | ドイツ | 2 - 0 | 正 | |
| ドイツ[30] | 1 - 2 | 誤 | |||
| ドイツ | 1 - 0 | 正 | |||
| 準々決勝 | 3 - 2 | 正 | |||
| 準決勝 | 3 - 2 | 正 | |||
| 決勝 | 0 - 1 | 誤 | |||
| WC2010 | グループリーグ | 4 - 0 | 正 | ||
| セルビア | 0 - 1 | 正 | |||
| ドイツ | 1 - 0 | 正 | |||
| 決勝トーナメント1回戦 | 4 - 1 | 正 | |||
| 準々決勝 | 4 - 0 | 正 | |||
| 準決勝 | スペイン | 0 - 1 | 正 | ||
| 3位決定戦 | ドイツ | 3 - 2 | 正 |
ドイツ以外の試合
[編集]| 対戦国 | 大会 | ステージ | 予言 | 試合結果 | 正誤 |
|---|---|---|---|---|---|
| WC2010 | 決勝 | スペイン | 0 - 1 | 正 |
論争
[編集]動物の倫理的扱いについての論争
[編集]動物愛護団体の動物の倫理的扱いを求める人々の会(PETA)は2010年7月2日に「パウルを自由にすることを望む」との声明を発表した[72]。
これに対して、シーライフの広報担当は「パウルには明るい未来が待っている」と述べ[73]、既に2歳半であり今後も飼育すると発表している[74]。
出自についての論争
[編集]イギリスで卵から孵化したとされているパウルだが、イタリアでは自ら捕獲し水族館に引き渡したと主張するイタリア人女性の存在が報じられた[75][76]。
イタリア各紙は、これを受けたイタリアの国会議員がドイツのシーライフに宛てて手紙を送り、所有権を放棄してイタリアへ返還するよう求めたと報じており、名前も〈パウル〉ではなく、イタリア式に〈パオロ〉と呼ぶのが正しいと主張したと伝えた[75][76]。
影響
[編集]ワールドカップ終了後、パウルの「予言」にあやかって他の動物による「スポーツ試合の勝者当てアトラクション」が様々な形で催された[77][78][79]。
日本では2010年11月、Jリーグヤマザキナビスコカップ決勝戦・ジュビロ磐田対サンフレッチェ広島の「タコによる勝者当て」が行なわれた[77]。タコは東京湾の佐島沖で水揚げされたマダコ「築地の源さん」で、Jリーグ関連会社に2000円で買い上げられた上で築地市場に送られ、水槽に入った2つのチームのエンブレム入り蛸壺が水槽内に入れられると、源さんは広島側の蛸壺に入ってこのチームの勝利を予言した。しかし結果は5-3(延長戦)で磐田が勝利。なお源さんのその後について、関係者は「その日のうちに海に帰ったということに」と話した[80]。
Googleは、2014年6月17日のW杯ブラジル大会記念ロゴに、ベルギーとアルジェリアの国旗を描いた箱の前で(天使の輪を頭上にいただき)悩むタコの動くロゴを登場させ[78]、パウルが天上の水族館で勝者を当てようとする姿の想像図であると説明している[78]。
2018年FIFAワールドカップのロシア大会では、北海道小平町のミズダコ「ラビオ君」[81]が、日本代表のグループリーグ全3試合を的中した。ところが決勝トーナメントのベルギー戦の前には既に出荷されていたと報じられ、世界に動揺を与えた[79]。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ↑ ““Psychic” octopus Paul picks Spain over Germany in World Cup semi-final”. www.aquarium.co.za (2010年7月7日). 2010年7月12日閲覧。
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- 1 2 占いタコのパウル、本名は「パオロ」? 出生地めぐり伊メディア主張
- 1 2 パウル君が国籍詐称?しかも名前は「パオロ」? スポニチ Sponichi Annex ニュース(cache)
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- ↑ “ラビオ君の報道に関して皆様へお願い”. タコ箱漁オーナー2018 in おびら (2018年6月30日). 2018年7月3日閲覧。[リンク切れ]