ざざむし

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カワゲラの幼虫
トビケラの幼虫
ヘビトンボの幼虫

ざざむし(ざざ虫)とは、長野県伊那市など天竜川上流域(岡谷市川岸から駒ヶ根市の間に限定される[1])で、清流に住むカワゲラトビケラ等の水生昆虫幼虫を食用とする(昆虫食)時の総称である[2]。主に佃煮揚げ物などにして食する。

起源[編集]

村上哲生ほか(2009)[3]によれば、三宅恒方(1919)『食用及薬用昆虫に関する調査』[4]に伊那地域でのザザムシ食習慣の記述は無いが久内清孝(1934)[5]に出現することから、1920年代から1930年代に定着した食習慣と考えられる[3]

名称[編集]

「ざーざー」した所にいる虫、あるいは浅瀬(ざざ)[6]にいる虫というのが語源と言われている。ほかに、福島県でもかつては「ザームシ」「ザザムシ」と呼び食用にする習慣があったとされる[3]

種類[編集]

かつて河川に水利ダム砂防ダムがなかった頃は、カワゲラの幼虫が主体だったと言われている[要出典]が、現在、ざざむしの佃煮として市販されているものは、クロカワムシとも呼ばれるヒゲナガカワトビケラの幼虫が主である。ヒゲナガカワトビケラの幼虫は水中のプランクトンデトリタスを巣の入り口に張った網で捕らえて食べるため、こうした餌がダムに蓄積された水の中で増えたことが、この種組成の入れ替わりの原因と考えられている。食用にしたときの味覚は、かつてのカワゲラが主体であったときよりヒゲナガカワトビケラが主体となった今日のほうが向上していると言われる[要出典]

鳥居酉蔵によるざざむしの構成種分析結果[7]

ざざむしの変遷[編集]

年代と諏訪湖からの距離により捕獲されるざざむしの構成は変わり、諏訪湖に近い天竜川上流部では耐汚濁性の高いシマトビケラ類やウルマーシマトビケラが生息している[8][3]が、伊那付近ではヒゲナガカワトビケラが優占種となる。文献資料が残る1930年代の主体はヒゲナガカワトビケラ幼虫であった[3]。なお、太平洋戦争戦中及び戦後の水質汚濁によりカワゲラが多く捕獲されたため材料として使用していたとの伝承があるが、村上ほか(2009)[3]の報告では否定されている。これは、「カワゲラが食物連鎖上位に位置する生物であるため、下層のヒゲナガカワトビケラなどよりも多い生息数にはならない」との考えによる物である[3]

捕獲[編集]

漁期は冬で、12月から2月までの3か月に設定されている。ざざむしを取ることを、地元では「ざざ虫踏み」と呼ぶ。天竜川上流漁業協同組合では入漁料を払って「虫踏み許可証」の取得が必要となる。漁業として取る場合には、胸まである胴長をはき、足の裏にはかんじきを付けて川の中に入り、四つ手という、十字に組んだ竹に網をつけた漁具を使って漁獲するのが伝統となっている[9]。四つ手を川下側の水中に据え、で上流側の石を裏返し、かんじきで踏み動かしてざざむしを水中に流し、網の中に捕集する。藻などのごみも網に入るので、網の付いた選別器に入れて、ざざむしだけが下に落ちるようにして分離する。個人的な漁では、石の裏にいるざざむしを直接ピンセットで捕獲することも行われている。

四手網には様々な種類の水生生物が入ることになるが、網目の大きさより小さな種や選別作業によりヤゴやゴミなど食用としない物は取り除かれる。

利用[編集]

伊那市では、佃煮に調理したもの(ざざむしの佃煮)が名物郷土料理となっている。ほかに、油で素揚げにし、塩を振るなどして食べることも行われる。長野県佐久地方でもざざむしを食用とする伝統文化がある[10]

水温が上昇し諏訪湖にアオコ(浮遊性藍藻で主に Microcystis属)が増殖すると、有毒藍藻由来の肝毒素 Microcystis がヒゲナガカワトビケラ Stenopsyche marmorata などのザザムシに蓄積され陸上生態系へも肝毒素 Microcystis が移行する可能性を指摘している[8]が、冬季に捕獲され調理されたザザムシからは毒素検出されなかったとされている[8]

脚注[編集]

  1. ^ 市川健夫『信州学テキスト』2012年
  2. ^ 尚学図書編、『日本方言大辞典』p994には「川螻蛄などの川虫。長野県諏訪佐久」の方言と記載がある。
  3. ^ a b c d e f g 村上哲生、矢口愛、「〈資料〉ザザムシ考 -伊那地方の水棲昆虫食の起源と変遷-」名古屋女子大学紀要. 家政・自然編 (56), 2009-03, p.79-84, hdl:1103/00001424/
  4. ^ 三宅恒方、「食用及薬用昆虫に関する調査 (PDF) 」 農事試験場特別報告 31号, p.1-203(1919-01), NAID 120004591451
  5. ^ 久内清孝: 信州名物川虫の佃煮. 本草,(20), 38-40.(1934)
  6. ^ 尚学図書編、『日本方言大辞典』p992に「長野県上伊那郡飯田市付近」の方言と記載がある。
  7. ^ 氣賀澤和男、林赳、長野県駒ヶ根市内の河川の底生動物 (PDF) 伊那谷自然史論集 vol.9, 発行:飯田市美術博物館 2008
  8. ^ a b c 片上幸美、田中俊行、本間隆満 ほか、ヒゲナガカワトビケラ(Stenopsyche marmorata)におよる籃藻毒素microcystinの蓄積とその毒素が天竜川生態系に及ぼす影響 陸水学雑誌 Vol.65 (2004) No.1 P.1-12, doi:10.3739/rikusui.65.1
  9. ^ ザザムシ漁解禁 上伊那の天竜川 長野日報 2016年12月2日
  10. ^ 長野県佐久市『佐久市志民俗編下』1990年2月20日発行1735頁中1359頁

参考文献[編集]

外部リンク[編集]