脂肪

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脂肪(しぼう)は(あぶら)ともいい、動植物に含まれる栄養素の一つ。通常、脂肪酸グリセリンエステルの中性脂肪であることが一般的である。有機栄養素のうち炭水化物たんぱく質と共に「三大栄養素」と総称され、多くの生物の栄養素である。常温液体の油脂はであるが、栄養学における脂肪は固体と液体の両方を含む油脂のことを指す。

脂肪は単位重量あたりの熱量が9kcal/gと他の三大栄養素の2倍以上あり、生体は食物から摂取した脂肪をエネルギーの貯蔵法としても利用している。脂肪のうち多価不飽和脂肪酸に分類されるω-6脂肪酸ω-3脂肪酸が必須脂肪である。

食事調査は、牛や豚、牛乳など動物性食品に多い飽和脂肪酸の摂取が心疾患など病気との関連を見出しており、脂肪の細かい区別を周知させることは難しいと考えた栄養学者たちが、「脂肪は良くない」という単純なメッセージを作ったが、実際には一価不飽和脂肪酸多価不飽和脂肪酸の摂取量が多くてもそうしたリスクを下げる傾向がみられている[1]

生体での利用[編集]

脂肪のカロリーは9kcal/gであり、炭水化物タンパク質の4kcal/gよりも単位重量あたりの熱量が大きく、哺乳類をはじめとして動物の栄養の摂取や貯蔵方法として多く利用されている。

食物から摂取したり、体内で炭水化物から合成された脂肪は肝臓脂肪組織に貯蔵される。脂肪からエネルギーを得るときには、モノグリセリド(かつてはグリセリンとされていた)と脂肪酸に加水分解してから、脂肪酸をβ酸化代謝によりさらにアセチルCoAに分解する。

安静時や強度の低い運動時には脂肪の方がよりも多く使われている。血糖グリコーゲンは利用しやすいが貯蔵量は多くはないので安静時などではあまり多くは使われず、強度の高い運動時などに糖が優先的に使われるようになる[2]

エネルギーの貯蔵と生存[編集]

成人では基礎代謝量は1日およそ1600キロカロリーであるが、栄養摂取量が減少すると1200キロカロリーに落ち、延命を図ろうとする生理的反応が起こる。栄養が欠乏するとまず筋肉が分解されたんぱく質として利用され、次に脂肪がエネルギーとして利用される。

これにより、水分の補給があれば絶食状態で1-2ヶ月程度生存でき、この限界を越えれば餓死に至る。ただし、肥満の人(脂肪の貯蓄の多い人)はこれより長く生存できる。痩せた人(脂肪の貯蓄の少ない人)はこれより短めで死に至ると考えられる。餓死は体内の脂肪を使い切った後に起こるものであり、(水分の補給があれば)肥満状態の人間が餓死することはない。肥満の場合、まずは脂肪を使い切る期間を経た上で餓死に向かう。脂肪量によっては3-4ヶ月以上かかることもある。水だけで3ヶ月以上生存するというのは信じ難いかも知れないが、同じ哺乳類である熊などは脂肪を蓄えた状態で冬眠して数ヶ月すごすので決して無理な数字ではない。

仮に、体重70kg、体脂肪率20%とし、脂肪のカロリーを9kcal/g、低下した基礎代謝を1200kcal/日とすると、70 kg x 0.2(体脂肪率)x 9 kcal/g / 1200 kcal/日 = 105日、となり3ヶ月半ほど生存することができる。ただしあくまで生存が可能であるというだけで、健康な状態を維持することは不可能に近い。

摂取バランス[編集]

栄養摂取目標の範囲(世界保健機関、2003年)[3]
食物要素 目標(総エネルギー%)
総脂肪 15-30%
飽和脂肪酸 10%未満
多価不飽和脂肪酸(多価不飽和) 6-10%
ω-6脂肪酸(多価不飽和) 5-8%
ω-3脂肪酸(多価不飽和) 1-2%
トランス脂肪酸 1%未満
一価不飽和脂肪酸 差分

脂肪のうち、ω-6脂肪酸ω-3脂肪酸が必須脂肪である。

タンパク質・脂肪・炭水化物のカロリーベースでの摂取バランスのことを、それぞれの頭文字をとってPFCバランスという。この中で、脂肪の比率を25〜30%以下に抑えることが、生活習慣病を予防するための食生活指針の考えの一つとなっている。炭水化物は一般的に60%前後ともっとも多く必要だと考えられており、日本の食生活指針では炭水化物を主に提供する食品を主食としている[4]

一日のエネルギー必要量を仮に、男性では2660(kcal)、女性では1995(kcal)とすると、脂肪のエネルギー量は9 kcal/gであり、仮に20%の値を当てはめると、以下のとおりとなる。

  • 男性では、2660 kcal/日 x 0.2 / 9 kcal/g =60 g/日(植物油大匙4杯/日に相当)
  • 女性では、1995 kcal/日 x 0.2 / 9 kcal/g =45 g/日(植物油大匙3杯/日に相当)

厚生労働省の1999年の栄養所要量の6次改定では、脂質はエネルギー比率で成人で20-25%の範囲が望ましい。飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸多価不飽和脂肪酸の望ましい摂取割合は、おおむね3:4:3であり、ω-6脂肪酸ω-3脂肪酸の比は、健康人では4:1程度である[5]

動植物の脂肪酸[編集]

動物の体内に主に含まれている脂肪は動物性脂肪にて説明する。動物性脂肪は飽和脂肪酸を多く含むので融点が高い。魚類の脂肪には多量の不飽和脂肪酸を含むものが多い。摂取量を減らすよう取り組まれてきた。

植物に含まれている脂肪については植物油にて説明する。植物油は不飽和脂肪酸を多く含む油が多く融点が低い傾向がある。このため、菜種油のように常温で液体なものが多い。ただ、ココナッツ油カカオバターのように飽和脂肪酸を大量に含む油もある。

健康への影響[編集]

1960年代のアメリカでの食事調査は、飽和脂肪酸の摂取が血中コレステロールの濃度を上昇させ、植物油と魚油が低下させることを明らかにし、その後の食事指導は総脂肪量を減らすのではなく、飽和脂肪酸の代わりに不飽和脂肪酸を摂取することが重要だとし、不飽和脂肪酸の摂取量が増加した結果1970-1980年代にはアメリカ人の虚血性心疾患の発生率を低下させた[1]。。脂肪の摂取量が多い場合に、虚血性心疾患が生じるリスクが高まるという関係が見られるのは飽和脂肪酸のみであり、一価不飽和脂肪酸や多価不飽和脂肪酸の割合を多く摂取する集団ではそのリスクは低い[1]。そのため、ギリシャのクレタ島では脂肪の摂取カロリーが40%と多いが心臓病の発生率は日本の伝統食のように低い[1]。ギリシャの食事については地中海食を参照。ナッツ類の脂肪は主に不飽和脂肪であり、血中のコレステロールの比率を改善させ、ナッツを食べている人では肥満は少ない[1]

だが、脂肪の細かい区別を周知させることは難しいのではと考えた栄養学者たちは、脂肪がよくないという単純なメッセージを生み出した[1]。アメリカ農務省の意図とは、アメリカにて低脂肪食にすることで必然的に飽和脂肪酸の摂取量を減らすということであった[1]

実際には、飽和脂肪酸は、肉や乳製品に多く有害なLDLコレステロールを増加させ、保護的なHDLコレステロールも増加させる、水素添加された油であるトランス脂肪酸は有害なLDLの増加と保護的なHDLの低下であり、一方で植物油、ナッツ、全粒粉、魚に豊富な一価不飽和脂肪酸多価不飽和脂肪酸、特にそのうちのω-3脂肪酸は有害なLDLを減少させ、保護的なHDLを増加させ、またインスリン抵抗性を改善し、心臓のリズムを安定させる[6]。トランス脂肪酸と飽和脂肪酸が少なく、それを不飽和脂肪酸に変えることで心臓病や糖尿病のリスクが減少する[6]

トランス脂肪酸は、水素添加された植物油のマーガリンショートニングなどに含まれ、世界保健機関の摂取目標は飽和脂肪酸の10%未満に対して、トランス脂肪酸では1%未満とされるなど、少量で悪影響ある。

乳がんの発生には動物性脂肪だけでなく動物性のたんぱく質が関与していると見られている。アルコールの影響など要因は多様である。また女性ホルモンエストロゲン)が関与し、高脂肪食、肥満も関与する。これは特に閉経後の女性で、脂肪組織でエストロゲンが作られるからである。

化学[編集]

化学では常温で固体油脂をいう。純粋な脂肪は無味無臭無色であるが、天然のものは不純物が溶けているために色が付いている。脂肪と水酸化カリウム水酸化ナトリウムとを反応させると加水分解により高級脂肪酸塩(石鹸)が得られる。この反応をケン化(鹸化)という。脂肪族化合物とは、有機化合物のうち炭素原子の環状配列をもたないものをいう。脂肪中に含まれるので名づけられた。鎖式化合物ともいう。

命名法[編集]

脂肪酸の命名法はIUPAC生化学命名法[7]に定義されている(なお、この項の符号Rule Lip-... は同命名法の節番号を示す)。

すなわち、脂肪酸とそのアシル基の命名はIUPAC有機化合物命名法 (Rule C-4) に従うまた許容慣用名や略号については下の表に示す。

  • いままでは2つ以上の二重結合を有する不飽和脂肪酸でギリシャ文字を使用して異性体を示していた(例α-ないしはγ-リノレン酸)、これは二重結合の位置番号を列挙する方法(例 (9,12,15)-リノレン酸ないしは(6,9,12)-リノレン酸)に変えるべきである。
  • しかし、二重結合の位置を示すさいに接頭辞としてギリシャ文字を使う方法は位置を列挙する方法の省略形として使用してもよい (Rule[7] Lip-1.6)。あるいは二重結合の位置はIUPAC有機化合物命名法の省略形であるΔを使用してもよい(例 Δ9, Δ12, Δ15-リノレン酸)。
  • また脂肪酸を炭素数と二重結合の数の組み合わせ(例 16:0= パルミチン酸, 18:1 =オレイン酸)で示してもよい。アシル基の場合は(stearyl-の代わりに)(18:0)acyl-と表してもよい (Rule[7] Lip-1.15)。
  • 脂肪酸末端(カルボキシル基から最も離れた位置)から同じ位置に二重結合を持つことを示す場合は(例、末端から9番目に二重結合を持つ脂肪酸グループの場合)はn-9と示す(nは具体的には当該脂肪酸の炭素数を意味する)。あるいはω9とも示す(ωは二重結合の位置を示すギリシャ文字省略形)。すなわちオレイン酸の二重結合18-9とネルボン酸の24-9とはω9と総称する (Rule[7] Lip-1.16)。
脂肪酸のIUPAC命名例 (Rule[7] Lip. Appendix A)
数値表現
(Numerical symbol)
示性式
CH3-(R)-CO2H
組織名 慣用名 略号
16:0 -(CH2)14- ヘキサデカン酸 パルミチン酸 Pam
16:1 -(CH2)5CH=CH(CH2)7- 9-ヘキサデセン酸 パルミトレイン酸 ΔPam
18:0 -(CH2)16- オクタデカン酸 ステアリン酸 Ste
18:1 (9) -(CH2)7CH=CH(CH2)7- cis-9-オクタデセン酸 オレイン酸 Ole
18:1 (11) -(CH2)5CH=CH(CH2)9- 11-オクタデセン酸 バクセン酸 Vac
18:2 (9,12) -(CH2)3(CH2CH=CH)2(CH2)7- cis,cis-9,12-オクタデカジエン酸 リノール酸 Lin
18:3 (9,12,15) -(CH2CH=CH)3(CH2)7- 9,12,15-オクタデカトリエン酸 (9,12,15)-リノレン酸 αLnn
18:3 (6,9,12) -(CH2)3(CH2CH=CH)3(CH2)4- 6,9,12-オクタデカトリエン酸 (6,9,12)-リノレン酸 γLnn
18:3 (9,11,13) -(CH2)3(CH=CH)3(CH2)7- 9,11,13-オクタデカトリエン酸 エレオステアリン酸 eSte
20:0 -(CH2)18- イコサン酸 アラキジン酸 Ach
20:2 (8,11) -(CH2)6(CH2CH=CH)2(CH2)6- 8,11-イコサジエン酸 Δ2Arc
20:3 (5,8,11) -(CH2)6(CH2CH=CH)3(CH2)3- 5,8,11-イコサトリエン酸 Δ3Arc
20:4 (5,8,11,14) -(CH2)3(CH2CH=CH)4(CH2)3- 5,8,11,14-イコサテトラエン酸 アラキドン酸 Δ4Arc
24:1 -(CH2)7CH2CH=CH(CH2)13- cis-15-テトラドコサン酸 ネルボン酸 Ner

出典[編集]

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  1. ^ a b c d e f g W. C. ウィレット、M. J. スタンファー 「ヘルシーな食事の新しい常識」『エイジング研究の最前線 心とからだの健康日経サイエンス編集部 編、日経サイエンス〈別冊日経サイエンス 147〉、2004年11月11日、116-125頁。ISBN 978-4-532-51147-0 Willett, Walter C.; Stampfer, Meir J. (2006). “Rebuilding the Food Pyramid”. Scientific American sp 16 (4): 12–21. doi:10.1038/scientificamerican1206-12sp. ISSN 1048-0943. 
  2. ^ 八田秀雄、新たな乳酸の見方 学術の動向 Vol.11 (2006) No.10 P.47-50, doi:10.5363/tits.11.10_47
  3. ^ Report of a Joint WHO/FAO Expert Consultation Diet, Nutrition and the Prevention of Chronic Diseases, 2003
  4. ^ 食事バランスガイド 厚生労働省・農林水産省決定 フードガイド(仮称)検討会報告書』(PDF) 第一出版、2005年12月。ISBN 4-8041-1117-4
  5. ^ 第6次改定日本人の栄養所要量について (厚生労働省)
  6. ^ a b Skerrett PJ, Willett WC (2010). “Essentials of healthy eating: a guide”. J Midwifery Womens Health 55 (6): 492–501. doi:10.1016/j.jmwh.2010.06.019. PMC 3471136. PMID 20974411. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3471136/. 
  7. ^ a b c d e IUPAC-IUB Commission on Biochemical Nomenclature (CBN) Nomenclature of Lipids(Recommendations, 1976)

関連項目[編集]