牛乳

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コップに入れられた牛乳

牛乳(ぎゅうにゅう、: milk)とは、ウシ乳汁である。ただし、牛乳と一口に言っても、生乳を指す場合や、これを原料として脂肪分増減したものや、乳糖を分解したものも含める場合もある。

牛乳はカルシウムが豊富な食品として知られる。脂肪分は飽和脂肪酸の比率が高く、健康上の懸念のため低脂肪牛乳などが製造されている[1]。タンパク質のアミノ酸スコアは100だが、牛乳たんぱく質のカゼインは特に子供にとって卵に次ぐ主なアレルゲンとなりうる。炭水化物は乳糖が豊富で、離乳期を過ぎたヒトでは多かれ少なかれ乳糖不耐症として消化不良となる。牛乳を加工して乳製品脱脂粉乳バター生クリームチーズヨーグルトアイスクリームが作られる。

牛乳の利用の歴史は古く、チーズやバターなどと共にヨーロッパやアフリカで用いられてきた。利用のはっきりとした証拠としては5500年から6千年前の現在のイギリスにあたる地域の陶器から脂肪分が発見されている[2]。そのまま飲まれた牛乳が大きく産業化され普及するのは、19世紀に低温殺菌法が開発され保存技術が向上してからである。そうした時代に日本や中国では牛乳は普及しておらず、日本では戦後にアメリカからの脱脂粉乳を含む食糧支援のララ物資を経て、1954年に学校給食法が制定され牛乳の提供を規則としてから大きく普及してきたが、50年を経て2005年には中央酪農会議が日本人の牛乳離れを期に「牛乳に相談だ。」のキャンペーンを実施した。

栄養学者達は牛乳がカルシウムを摂取するために適切な食品であるかに疑問を投げかけてきたし、牛乳を多く飲用すればその分だけ骨折を予防するという主張にはデータが乏しいことに疑問を持ち疫学研究が実施され、その結果、確固とした因果関係は見られていない[1]

特徴[編集]

普通牛乳[3]
100 gあたりの栄養価
エネルギー 280 kJ (67 kcal)
4.8 g
3.8 g
飽和脂肪酸 2.33 g
一価不飽和脂肪酸 0.87 g
多価不飽和脂肪酸 0.12 g
3.3 g
ビタミン
ビタミンA相当量
(5%)
38 μg
(0%)
6 μg
チアミン (B1)
(3%)
0.04 mg
リボフラビン (B2)
(13%)
0.15 mg
ナイアシン (B3)
(1%)
0.1 mg
(11%)
0.55 mg
ビタミンB6
(2%)
0.03 mg
葉酸 (B9)
(1%)
5 μg
ビタミンB12
(13%)
0.3 μg
ビタミンC
(1%)
1 mg
ビタミンD
(2%)
0.3 μg
ビタミンE
(1%)
0.1 mg
ビタミンK
(2%)
2 μg
ミネラル
ナトリウム
(3%)
41 mg
カリウム
(3%)
150 mg
カルシウム
(11%)
110 mg
マグネシウム
(3%)
10 mg
リン
(13%)
93 mg
鉄分
(0%)
0.02 mg
亜鉛
(4%)
0.4 mg
セレン
(4%)
3 μg
他の成分
水分 87.4 g
コレステロール 12 mg
ビオチン(B7 1.8 µg

ビタミンEはα─トコフェロールのみを示した[4]。(100 g: 96.9 mL、100 mL: 103.2 g)

鉄: Trであるが、利用上の便宜のため小数第2位まで記載

ビタミンD: ビタミンD活性代謝物を含む(ビタミンD活性代謝物を含まない場合: Tr) 
%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDIの割合。
Milk.JPG
牛乳(100g中)の主な脂肪酸の種類[7]
項目 分量 (g)
脂肪 3.25
飽和脂肪酸 1.865
4:0(酪酸 0.075
6:0(カプロン酸 0.075
8:0(カプリル酸 0.075
10:0(カプリン酸 0.075
12:0(ラウリン酸 0.077
14:0(ミリスチン酸 0.297
16:0(パルミチン酸 0.829
18:0(ステアリン酸 0.365
一価不飽和脂肪酸 0.812
18:1(オレイン酸 0.812
多価不飽和脂肪酸 0.195
18:2(リノール酸 0.12
18:3(α-リノレン酸 0.075

牛乳はカルシウムが豊富な食品として知られ[8]タンパク質脂肪も含まれる。アミノ酸スコアは100である。

牛乳の脂肪分は、動物性脂肪であるため飽和脂肪酸の比率が高く(肉類より多い)、健康上の懸念のため脂肪分を除去した低脂肪牛乳が製造されている。なお必須脂肪酸では、牧草を飼料として与えられている乳牛の乳ではα-リノレン酸とリノール酸との比率が高くなり、α-リノレン酸をほとんど含まない穀物の飼料を多く与えられている乳牛の乳はα-リノレン酸とリノール酸との比率が低くなる。牧草等の葉には微量ではあるもののリノール酸に比べてα-リノレン酸が比較的多く存在しているためである。

たんぱく質は、牛乳たんぱく質のカゼインが豊富で、特に子供にとって卵に次ぐ主要なアレルゲンである。牛乳の炭水化物として乳糖が豊富であり、離乳期を過ぎたヒトでは多かれ少なかれ乳糖不耐症として消化不良となる。そして他の動物性食品と同じく食物繊維は含まれない。

ビタミンB2が豊富である。牛乳には他の動物性食品と同様にビタミンB12が含まれ、牛乳を許容している菜食主義者にとっては貴重な摂取源となる。牛乳にビタミンCがほとんど含まれていないのは、子牛が自らビタミンCを合成できるので摂取する必要がないためである。逆に、ヒトの母乳にビタミンCが含まれているのは、ヒトの乳児がビタミンCを合成できないので摂取する必要があるためである。鉄分の不足などもあり乳児に牛乳は推奨されていない。

水分中に離散している脂肪カゼインタンパク質)の微粒子がを散乱して白く見える。コロイドチンダル現象の好例として、理科の教科書などで引き合いに出される。牛乳を温めると表面に膜が張るが、これをラムスデン現象と呼ぶ。

歴史[編集]

食物としての乳の利用は、動物の家畜化とともにはじまった。野生の哺乳動物から授乳することは困難であった家畜化前の利用は不可能だと考えられる[2]。今から約1万1千年前にヒツジが、1万年前にウシヤギが家畜化され、はっきりとした化学的な証拠は5500年から6千年前の現在のイギリスにあたる地域の陶器に残っていた脂肪分である[2]

当初、動物の飼育は、食肉および衣服製作のために行われたと思われる。ウシの乳が飲料として最初に利用された地域は中東である。ヤギヒツジも中東であった。これらの動物は反芻動物であって、乾燥した草を食べることに適応した哺乳類である。草は人間にはそのまま利用できないが蓄積は容易である。耕作されていない草地を利用するために効率的な酪農という方法が生み出された。ある動物を肉のために殺せば、その栄養価は、例えばその動物から1年間に採れる乳と同等かもしれない。しかし生きていれば、その動物からはさらに何年もの間、乳が採れるし、1頭丸々の肉と違って、乳は1日にちょうど利用しやすい分量だけ使うことができるのである。

紀元前7000年頃、トルコの一部でウシの遊牧が行われていた。新石器時代ブリテン諸島で乳が利用されていた証拠が見つかっている。チーズバターの利用はヨーロッパアジアの一部、アフリカの一部に広まった。ウシの畜養はもともとユーラシア的な習慣であったが、大航海時代以降、世界に広がるヨーロッパ諸国の植民地に導入された。

日本同様に、例外的に牛乳の飲用が普及しなかった国としては、中国本土が挙げられる。北方からの牧畜民、遊牧民華北に大規模に移住してきた五胡十六国時代〜北魏時代には華北の食文化にモンゴル高原型の乳製品・乳加工技術が普及したことが斉民要術の記述から伺えるが、その後衰退した。半農半牧地帯に建国されたによって監禁された欽宗の悲劇として、を飲ませてもらえず、牛乳(という粗末なもの)を与えられたというエピソードが伝えられる。ただし日本同様、現在の中国でも酪農と牛乳は一般に普及している。

牛乳は腐敗しやすく保存が困難だった事から長年に渡り各農家の小規模な生産に頼っていたが、輸送技術や冷蔵技術の進歩、そして19世紀後半に風味を損なわない低温殺菌法(パスチャライゼーション)の実用化により、今日では世界的に牛乳がひとつの産業として大規模に生産されている。さらに先進国では、自動化された搾乳設備を持つ酪農業者によって、その大部分が生産されている。

牛の品種は、ホルスタインのように、牛乳生産量の向上に特化して改良された。マクジーによれば、アメリカ合衆国の乳牛の90%、イギリスの乳牛の85%がホルスタインである。アメリカの代表的な乳牛品種は、ホルスタインのほか、エアシャー、ブラウンスイス、ガーンジー、ジャージー、ミルキング・ショートホーンなどである。今日、乳製品と牛乳の生産量が最も大きい国はインドで、これにアメリカと中国が次ぐ。

日本における牛乳[編集]

日本書紀』に「牛酒」と言う記述が見られる。一般には、560年欽明天皇21年)に百済智聡が、日本に来た際に持ってきた医薬書に、搾乳などについての記述があり、これによって広まったとされる。考古学的には、日本列島では2015年時点で弥生時代における牛の飼育は確認されていない[9]。古墳時代には牛を形象した埴輪が出土しており、奈良県御所市南郷遺跡群からは5世紀頃の牛臼歯が出土しており、この頃から家畜利用されていたことが考えられている[10]

その後、北魏以来の鮮卑匈奴の牧畜文化を濃厚に継承するの影響の大きな時代には、醍醐といった乳製品に加工され一部の階級層には食べられていたものの、奈良時代聖武天皇が肉食の禁を出したことで、以降は仏教の普及とともに、次第に牛乳を飲む風習は薄れていったとされる[注 1]。一方で、考古学的には古代における牛肉食の存在も指摘される。

牛乳を飲むと牛になるという迷信があり、それを知った少年時代の織田信長が、「実際に牛になるかどうか試す」と言って牛乳を飲んだという逸話があるが、これは牛乳が一般的な食品では無かった事を意味する。江戸時代末期に来日した、初代駐日アメリカ合衆国大使タウンゼント・ハリスが所望した時も、「あんなものを飲んでいるから、獣のように毛深いのだ」と噂したほどである。

江戸時代には陸奥国北部の盛岡藩で寛永21年/正保元年(1644年)から天保11年(1840年)に欠けて書き継がれた「雑書」に牛乳に関する記録が見られる[11]。「雑書」によれば、対馬藩における国書偽造事件(柳川一件)において対馬藩主・宗氏の外交僧である規伯玄方(きはく げんぼう)が盛岡藩にお預けとなっていた[12]。盛岡藩は南部馬の産地として知られるが、馬利用の一方で南部牛の利用も盛んに行われており、牛角皮革も利用されていた[13]。「雑書」によれば盛岡藩主の南部重直は慶安3年(1650年)に規伯玄方の奨めにより牛乳を用いたという[14]

享保の改革を実施した将軍・徳川吉宗は乳牛の輸入を行い、それ以来、薬として僅かばかり使用されていた様子である(ただし、当初は馬の薬として用いられ、人間の為の薬ではなかったと言う説もある)。将軍・徳川家斉は、『白牛酪考』と言う本を作らせているが、この本には、腎虚労咳、産後の衰弱、大便の閉塞、老衰から来る各種症状に効く、と言う効能が書かれている。ただし当時の日本には、通常の食品としては忌避されるものを薬として服用する習慣があり[注 2]、牛乳もそういった位置づけであった。

幕末の文久年間(1861年 - 1864年)には、開港地である横浜で本格的な牛乳の国内生産が始まり、その後、次第に広大な原野を持つ蝦夷地(北海道)に拠点が移される。

明治維新を経て、1875年(明治8年)には、当時の北海道開拓庁において、国産第一号の欧米ヨーロッパ風チーズが試作された。このとき、元来の農家は家畜から乳を搾り取るような行為を嫌ったとされ、牛乳販売を事業として行ったのは主に士族出身者であった。牛乳販売は、失敗が多かったとされるいわゆる「士族の商法」の代表的な成功例である。これにより、北海道で大規模な酪農としての牛乳の生産が行われるようになった。第二次世界大戦後には、1946年以降にアメリカの救援食料であるララ物資による脱脂粉乳が輸入され、1954年の学校給食法が牛乳を出すことを規則としたため学校給食へ導入され、食生活の欧米化も経て広く飲まれるようになった。日本における生乳の生産量は、年間約820 - 840万トン(うち、市乳向けは400万トン弱)で、約4割が北海道で生産されている。

21世紀には牛乳離れが生じ、少子化による学校給食用牛乳の消費減少や、消費者の牛乳離れ等により消費が低迷した。特に若年層の牛乳需要の拡大を図る為、2005年(平成17年)より、中央酪農会議は「牛乳に相談だ。」というキャンペーンを実施。2006年(平成18年)には北海道で1000トンが廃棄される事態も発生した。

法律による定義[編集]

日本では牛乳について、食品衛生法の乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(昭和26年厚生省令第52号、俗称は乳等省令)で定めている。この省令上の牛乳の定義は「直接飲用に供する目的又はこれを原料とした食品の製造若しくは加工の用に供する目的で販売(略)する牛の乳」である。

添加物、成分調整の有無によって大まかには次のように分類される。

  • 無添加(原材料は生乳100%)
    • 無調整
    • 調整した牛乳
  • 添加した牛乳(原材料は生乳100%ではない)

無調整[編集]

生乳(原乳)に含まれる成分を調整していないため、季節による成分の変動があり、冬場は成分が高まる(無脂乳固形分8.7%以上、乳脂肪分4%以上になることがある)。逆に夏場は、牛が乳脂肪分の元となる繊維質の含量の少ない青草を多く摂る為に、脂肪分が減り、味が薄く感じられるケースもある。

牛乳(種類別牛乳)
無脂乳固形分8.0%以上、乳脂肪分3.0%以上(市販されている製品では、無脂乳固形分8.3%以上、乳脂肪分3.5%以上としているものがほとんどである)。
細菌数(標準平板培養法で1ミリリットル当たり)50,000以下、大腸菌群 陰性。
摂氏63度で30分間の加熱殺菌(またはこれと同等以上の効果のある方法での加熱殺菌)を行うことが必要。
特別牛乳
特別牛乳さく取処理業の許可を受けた施設で製造された牛乳で、特別牛乳として販売されるもの。
無脂乳固形分8.5%以上、乳脂肪分3.3%以上。
細菌数(標準平板培養法で1ミリリットル当たり)30,000以下、大腸菌群 陰性。
加熱殺菌を行う場合は摂氏63度〜65度で30分間(加熱殺菌をしなくてもよい)。

調整した牛乳[編集]

乳脂肪分の一部を除去したり水分を一部除去して濃くするなどして、生乳から乳成分などを除去したもの。無脂乳固形分8.0%以上。2002年(平成14年)より制定されたもの。

低脂肪牛乳
乳脂肪分のみを調整した牛乳のうち、乳脂肪分0.5%以上1.5%以下のもの。
無脂肪牛乳
乳脂肪分のみを調整した牛乳のうち、乳脂肪分0.5%未満のもの。
成分調整牛乳
調整した牛乳のうち、「低脂肪牛乳と無脂肪牛乳に該当しない」もの。例としては、脱水処理による乳脂肪分が4%の濃い牛乳や、脱水処理による乳脂肪分が濃い牛乳にさらに乳脂肪分を調整し、1.5%以下にした牛乳、乳脂肪分のみを調整したが、1.5%を上回る牛乳など。乳等省令改正で新設された種類別である。原乳の生産者価格が引き上げられた2008年(平成20年)あたりから、この「成分調整牛乳」(乳脂肪分を2 - 3%に調整したもの)が多くなっている。

添加した牛乳[編集]

加工乳
生乳、牛乳と、これらを原料とする規定された乳製品脱脂粉乳バターなど)から製造し、無脂乳固形分8%以上のもの。低脂肪乳、無脂肪乳と濃厚タイプがある。
乳飲料
乳製品を主原料とした飲料で、乳固形分3%以上(乳等省令の規定による)。カルシウムなどを加えた栄養強化タイプや、いわゆるコーヒー牛乳イチゴ牛乳フルーツ牛乳レモン牛乳など、また乳糖でお腹を壊す人のための乳糖分解乳もこちらに含まれる。

商品名として[編集]

以前は、加工乳や乳飲料であっても一定以上の成分(無脂乳固形分8.0%以上、乳脂肪分3.0%以上、生乳50%以上)が含まれていれば、商品名に「牛乳」という名称を使用できたが(濃厚牛乳、カルシウム牛乳、コーヒー牛乳など)、2000年(平成12年)の雪印集団食中毒事件をきっかけに、消費者から「ややこしい」という声が起こり、2001年(平成13年)に公正競争規約が改正され、生乳を100%使用していないものは「牛乳」とは名乗れなくなった(2年間の経過措置あり)。この結果、商品名から「牛乳」を外したり、「ミルク」への言い換えなどを余儀なくされ、コーヒー牛乳は「コーヒーミルク」「カフェ・オ・レ」「カフェ・ラテ」またはただの「コーヒー」などに商品名を変更した。[2]

処理方法[編集]

ホルスタイン

主にホルスタインジャージー種などの乳牛から得られる生乳(搾っただけで何もしない乳)のみを原料として、均質化(ホモジナイズ)や加熱殺菌工程(後述)を経て、ガラス牛乳瓶)や紙パックに詰められて製品(市乳)となる。

ホモジナイズ[編集]

「均質化処理」の事である。

多くの場合は、ホモジナイザー(乳化機、均質機)と呼ばれる主に高圧ポンプを使用して牛乳の脂肪成分を均一化する「ホモジナイズ」を行う(これを行ったものを「ホモ牛乳」とも言う)。これによって脂肪組織が2マイクロメーター以下の大きさに破壊されて均一となり、製品内のクリーム層など分離を防ぐとともに、製品間のばらつきを抑える。また、過酸化水素は殺菌および漂白効果があるが、発がん性が認められている為に未検出とされており、この工程により検出できなくなる場合がある。(低温殺菌牛乳#特徴も参照)

一方、脂肪分の香りやコクなど味が変化する事から、いわゆる牧場のしぼりたて生乳とは異なってくる。例えば、脂肪球が微細化され絞りたての生乳では濃さ(同時に水っぽさ)を感じるが、ホモ牛乳では濃さを感じにくくなっている。それを、絞りたての生乳は濃く成分無調整のホモ牛乳は薄めたものだと誤解する人もいる。ホモジナイズを行っていない「ノンホモ」牛乳では、瓶詰めから数日経つと白いトロリとしたクリーム状のものが浮く事があるが、これは一般の牛乳や低脂肪乳、加工乳では通常見られない。搾乳された後に均質化処理をしていないため、粒子の大きな脂肪球が壊されずそのまま残っているために、分離してクリーム状の物として残る為である。この浮いたものが本来の意味でのクリームであり、遠心分離を用いる近代工業的な製法が普及する前は、クリームとはこのように生乳を静置して表面に浮上するものを採取したものであり、これを撹拌して脂肪球をさらに大きくしたものがバターである。

殺菌[編集]

窒素を使うなどして、溶存酸素による酸化を抑制しながら加熱殺菌した商品が多い。ごく少数ながら、ウシの乳頭から生産設備までを無菌に保ち[要出典]、加熱殺菌をしない「無殺菌牛乳」も存在する。

低温保持殺菌(LTLT法)
低温殺菌牛乳で使用される摂氏63度で30分間加熱殺菌する方法(実際の設定温度は摂氏65度から68度に設定されている場合が多い)。乳等省令に定められた殺菌方法であり、後述する殺菌方法についてもこの方法と同等以上の殺菌効果を有する方法であることが求められている。低温による殺菌は、タンパク質の熱変性を起こさない点が利点ともなる。
高温短時間殺菌(HTST法)
摂氏72度から78度で15秒間程度殺菌する方法。アメリカではさらにHTSTに類似した89度から100度以下で1秒以下の殺菌法をHHST (Higher-Heat Shorter Time) として定義している[15]。LTLT法およびHTST法による牛乳は、パスチャライズド牛乳パス乳)と称されることがある。これは、フランスの細菌学者ルイ・パスツールが開発した加熱殺菌法パスチャライゼーション)を行った牛乳という意味である。

非耐熱性の菌は基本的に死滅するが、一部の耐熱性の菌は残存するので、後述する方法に比べ、期限表示(ほとんどが消費期限)は短め(4 - 6日程度)になる。一方で、タンパク質の熱変性は抑えられるので、牛乳本来の風味を損なうことが少ない。

LTLT法およびHTST法は、欧米の市販牛乳の主流といわれているが、殺菌工程に時間がかかることや良質の原乳が必要となるため、日本では全国規模の大手の乳業メーカはほとんど手がけておらず、農協系を中心とした地場ローカルメーカの一部商品や観光牧場で販売されている商品で、限定的に行われているだけである。ヨーロッパではイギリスフィンランドスウェーデンギリシャデンマークなどでの主流である[16]

超高温瞬間殺菌(UHT法、UP法)
摂氏120度から135度で1秒間から3秒間殺菌する方法。耐熱性の菌もほとんど死滅する。加熱殺菌方式には水蒸気で牛乳を直接加熱する直接加熱法(インフュージョン式、インジェクション式)と間接加熱法(プレート式、チューブラー式、表面かき取り式)がある。通常の充填方法では、充填後の細菌繁殖を完全に防ぐことは出来ないため、未開封状態での賞味期限は冷蔵で10日間程度とされていることが多い(近年、「ESL製法」と称し、生産ラインの衛生管理を高度化することで、2週間程度まで賞味期限を延ばしたものもある)。低温保持殺菌と比較して手間がかからず賞味期限が長くなるため、日本の市販牛乳のほとんどはこの方法で処理されている。
UHT滅菌法
摂氏135度から150度で1秒間から3秒間UHT法で殺菌し、気密性の高いアルミコーティング紙パックやプラスチック容器などに無菌的に充填包装する方法。この方法によって生産された牛乳はロングライフ牛乳(LL牛乳)と呼ばれ、未開封の状態で長期間(3ヶ月間程度)常温保存可能とされている[15]。ただし、日本ではプラスチック容器入り牛乳は、2010年(平成22年)時点では商品化されていない。2007年10月の法令改正によって牛乳の容器にペットボトルを使うことが可能になったが、同じペットボトルで販売される清涼飲料水と異なり、飲み残しの持ち歩きによる微生物繁殖のリスクや、新たな製造ラインの新設に莫大な費用がかかるためと言われている[17]。UHT法およびUHT滅菌法では、LTLT法およびHTST法に比べ殺菌の効果・効率ともに高い。海外ではUHT牛乳といえばUHT滅菌した長期保存可能な牛乳を指す[15]。ヨーロッパではフランススペインポルトガルなどの牛乳消費のほとんど、ドイツスイスイタリアなどでは半分ほどをUHT牛乳が占めている[16]

LTLT法では、一定量の牛乳をタンク等に入れ、加温の後一定温度に保持するバッチ方式の殺菌機械が主流であるが、それ以外では細管を通しながら蒸気熱交換する方法や、成型されたプレートの間に牛乳を流して熱交換する方法(連続方式)が採られる。また近年では、LTLT法でも熱交換方式による方法が開発されている。

UHT法およびUHT滅菌法とLTLT法およびHTST法とでは製品としての牛乳の風味に若干の差異があるが、優劣というよりは好みの問題である。また、UHT法およびUHT滅菌法では失われる栄養素がLTLT法およびHTST法では失われないとされるが、双方の成分の違いによる人体に対する影響に有意な差が存在するとした研究は存在しない。一般にUHT法およびUHT滅菌法よりLTLT法およびHTST法の方が流通まで含めれば高コストとなるため、そのコストを付加価値と思わせるための宣伝であることがほとんどである。

製品形態と販路[編集]

日本の伝統的な200ミリリットル牛乳瓶とフタ。このタイプのパッケージは急速に姿を消しつつある。
牛乳パック扇状切欠き

製品の形態は、以下のように様々である。

  • 屋根型の紙パック1L
  • 屋根型の紙パック500mL
  • 四角柱型の紙パック200mL
  • ガラス瓶200mL
  • ガラス瓶1L

現在はペットボトルへの充填も認められているが、かつては食品衛生法により、紙パックとガラス瓶以外への牛乳の充填は禁止されていた。実際にペットボトルで販売している大手企業は、2017年現在確認出来ない。これは設備投資に多額なコストがかかるためと考えられる。なお、プラスチック製の瓶やテトラパックで販売する企業はある。

主な販路[編集]

販売形態の推移[編集]

1970年代以前は、180ミリリットル(1970年(昭和45年)まで) - 200ミリリットルのガラス瓶(=牛乳瓶)で、給食や銭湯、ミルクスタンドなど、一部の販売個所以外では牛乳店から早朝に個別宅配されていた。

1970年代にはテトラパック三角錐型の紙パック)の商品が主流になった。

1980年代以降はブリックパック(四角柱型の紙パック)に変わり、販売ルートもスーパーやコンビニ経由にシフトしている。一部にはガラス瓶も残るが、薄くなって軽量化された新形態の瓶に移行されつつある。

価格[編集]

製品の種類によって価格帯が異なるが、2010年(平成22年)現在、1リットルパック1本が、約90 - 280円程度で販売されている。

その他[編集]

沖縄県では、かつて米軍統治下にあった関係で、ほとんどのパックの容量がヤード・ポンド法に従って946ml(1クオート=1/4ガロン)、473ml(1/2クオート)となっている。これは牛乳に限らず、紅茶飲料などほぼ全ての紙パック飲料で共通である(ただし、沖縄県でもリウボウの牛乳などごく一部に1リットルの製品が存在する)。

なお、メーカーによっては視覚障害者への配慮(バリアフリーユニバーサルデザインの一環)のため、スーパーやコンビニで多く販売される、1リットルや500ミリリットルパックについては、写真のように飲み口の反対側の部分を丸く切り取って、他の飲料(低脂肪乳、フルーツ飲料、コーヒーお茶など)と区別している。

欧米では、超高温殺菌処理をしてプラスチックボトルに入ったものも一般的で[18]、常温で1ヶ月以上保存できる(フランスの例[19])。

利用法[編集]

飲用のほか、各種乳製品の原料や、ヴィシソワーズなどのスープやクリームシチューなどの煮物、フレンチトースト飛鳥鍋などの料理、ケーキ洋菓子などの製菓原料にもなる。砂糖を加えて煮詰め、ミルクジャムを作る家庭もある。飲用にする場合、加熱したり冷却して、そのまま飲むほか、砂糖鶏卵蜂蜜ジャムジュースきな粉はったい粉ゴマなどを好みで加える場合がある。ミルメークなど牛乳専用の調味料も発売されている。また、コーンフレークなどのシリアル食品にかけて食べることも一般的である。

特殊な例では、入浴剤として利用される場合もある。美容に効果があるとされるが、真偽は不明。

様々な用途に用いるため、各種タンパク質が分離されている。カゼインは食品用途、工業用途、印鑑、繊維などに、ラクトアルブミンワクチン製造などの医療用途に用いられる。最近は、中華人民共和国などで需要が増えて、チーズなどの価格が高騰する一方で、日本では生産過剰によって牛乳が大量に廃棄されるほどとなっているため、他にも医薬製造など、さまざまな用途が模索されている。

牛の命を奪わずに採取できる事から、菜食主義者の一部流派は動物性栄養の摂取のため牛乳や乳製品の飲食を認めている。

安全性についての議論[編集]

旧世界(アメリカ以外)の先住民族における乳糖持続表現型の成人の割合。

栄養学者や医者は、様々な観点から牛乳の安全性の問題を議論してきた。

アメリカ小児科医アカデミーは、牛乳を1歳未満の子供に与えないように推奨しており、理由はビタミンE、鉄分、必須脂肪酸が不十分で、牛乳中の多いたんぱく質、脂肪、ナトリウム、カリウムを乳児が処理しきれないということである[20]。世界保健機関は母乳を推奨している[21]。アメリカ小児科学会は、牛乳たんぱく質が膵臓β細胞の破壊の過程に重要な原因であるとし、糖尿病につながるおそれがあるということで、ハイリスクな乳児は生後1年まで摂取しないことを推奨する声明を行っている[22]

またそれ以上の年齢においても、ハーバード大学の公衆疫学部のウォルター・ウィレット教授らによれば、アメリカ農務省のフードピラミッドで1日に2-3杯の牛乳を推奨しているという問題があり、カルシウム摂取の目的とする乳製品が骨折のリスクを下げるというデータがないものの、後述するように他のリスクがあり、これではとりすぎだという[23]。成人なら牛乳は1日1杯でよく、余分なカロリーや脂肪分を摂取することなくサプリメントによって低価格で摂取することもできる[23]。牛乳が、カルシウムの適切な摂取源であるかには議論の余地がある[1]

現代の牛乳は、20世紀初頭に牧場の牛から搾乳されたのとは全く異なり、血中エストロゲンの量が上昇する妊娠期の後期に授乳されており牛乳中にも増加するため、回帰分析により卵巣がんや子宮体がんにつながる可能性があると主張している研究者がいる[24]

主として先進国で酪農の産業化のために70年ほど前から始まった妊娠牛からの搾乳により、現在市販されている牛乳の乳漿中の女性ホルモンエストロゲン、プロゲステロン濃度は、妊娠していない牛から搾乳された牛乳に比べてエストロゲンで約2倍、プロゲステロンで6-8倍である。これらの過剰な女性ホルモンはヒトの免疫機能を低下させるため、感染症への抵抗力を落とす。また月経障害、生殖機能低下を招き、各種アレルギー反応を助長する。

含まれる乳糖(ラクトース)の摂取量が日に牛乳3杯分である場合に、低い摂取量の場合と比較して卵巣がんのリスクがやや高い[1]。乳糖の消化によって生成されるガラクトースが多い場合に、卵巣にダメージを与え、卵巣がんにつながる可能性が考えられる[1]。それはガラクトースの直接的な毒性と、ゴナドトロピンの濃度を上昇させることによると考えられている[25]

乳糖不耐症は、牛乳に含まれる乳糖(ラクトース)の分解酵素であるラクターゼを持たないことである。ガス、下痢、腹部の膨張感といった問題が生じる[1]。これはアジア系で90%、黒人とアメリカ先住民で70%、ヒスパニック系の50%が該当し、北欧系では約15%でしかない[1]。先天的にラクターゼが欠損している例はほとんどなく、乳児期を過ぎて、または成人になり分解酵素の活性が低下するものである[26]。後者の場合には、牛乳を常飲することで活性が再び上昇する可能性がある[26]。活性が続いている場合に乳糖持続症であり乳製品を利用してきた民族に多い。ヨーグルトチーズでは微生物によって乳糖が一部分解されているので、この問題は起きにくい[26]。胃腸症状だけでは乳糖不耐症だとは確定できず、胃腸症状や皮膚症状は牛乳アレルギーの主な症状である。

牛乳を飲みすぎることで骨を脆くし、骨折を招くという週刊誌に掲載された説に対して、2001年に、農林水産省の佐藤と、同・生産局畜産部牛乳乳製品課長の五十嵐は、骨折の発生には要因が様々にあり牛乳の摂取量の相関を比較することは不正確で誤解を招くと、何ら証拠を示さずに意見した[27]

1997年には、牛乳やその他のカルシウム源が骨折率を低下させなかったという研究[28]、2000年には動物性タンパク質の消費が多い国で骨折率が高く、植物性たんぱく質の消費が多い国で骨折率が低いといった研究結果が得られている[29]。世界保健機関による類似する現象への言及についてはカルシウム・パラドックスを参照。

マグネシウムはカルシウムに次いで骨に多く含まれるミネラルである。牛乳のマグネシウムの比率は少ないと言える。一方で、骨形成に必要な成分としては、他にリンビタミンDなどのバランスの取れた摂取が求められる。

2002年の農水省の消費者相談ページでは、殺菌温度の違いによる栄養価の違いはないと返答している[30]。過酸化水素が発生し(または残留し)、危険であるという説があるが、国立医薬品食品衛生研究所の加工食品中の過酸化水素含有量の調査データでは牛乳1グラムあたり最大0.1マイクログラム、コーヒー牛乳で0.59-2.96同、フルーツ牛乳で0.08-0.43同の結果が得られている[31]。ビタミンB1、B2、葉酸、ビタミンEやビタミンB12は生乳と比較して熱処理後には減少し、ビタミンAは増加する[32]。B2以外はもともと含有量が少ないため影響が弱いが、B2においては牛乳は主な摂取源であるため熱処理の影響を考慮する必要がある[32]多価不飽和脂肪酸の豊富な牛乳にて、高温短時間のUHTでは共役リノール酸が増加し、殺菌用のマイクロ波によってcis-9,trans-11共役リノール酸をtrans-9,trans-11へとシグマトロピー転位された[33]。そうした加熱法では変化がなかったが、マイクロ波では共役リノール酸を減少させトランス脂肪酸を増加させたという研究結果がある[34]

2016年の研究は、超高温瞬間殺菌(UHT)、高温短時間殺菌(HTST)、ホモジナイズによって牛乳の構造や試験管内の消化に変化が観察された[35]。たんぱく質はUHTよりもHTSTで消化が遅かった[35]

低温殺菌では殺菌時間が長く、普通はバッチ式の殺菌機械が使われるため、加熱中に空気と触れる事により脂肪の酸化が起きやすいという説には根拠が乏しい[要出典]

ホモジナイズ(均質化)された牛乳の悪影響は、カート・A・オスターが心臓病の原因として提唱し1960年代から1980年代にかけて研究され後に否定され説であるが、それが否定されたとしても均質化され脂肪球の表面積が大きくなった近代の牛乳はアレルギーを増やしているのではとも考えられる[36]。ホモジナイズにより乳清たんぱく質の構造は変化し、それは破壊的である可能性がある[37]。ホモジナイズの高圧処理は酸化を促す[33]。熱処理は脂質に影響を与えず、ホモジナイズではC8からC14の飽和脂肪酸(C8 カプリル酸、C10 カプリン酸、C12 ラウリン酸、C14 ミリスチン酸の4種)が増加した[38]。融点で言えば、融点が高い飽和脂肪酸が増加している。

疾患との関連[編集]

ハーバード大学の公衆疫学部では、乳脂肪には心臓病のリスクとなる飽和脂肪酸が多く含まれると解説されており、低脂肪の牛乳の選択も可能であるが、除去された脂肪はバターやアイスクリームなどに使われておりそうした形で消費されることもある[1]。ハーバード大学の公衆疫学部は、乳製品は骨粗鬆症と大腸癌の危険性を低下させる一方で、前立腺癌と卵巣癌のリスクを上げうるとして、乳製品以外のカルシウムの摂取源としてコラードチンゲンサイ豆乳ベイクドビーンズを挙げている[39][23]

世界がん研究基金の報告では、牛乳は大腸癌のリスクをおそらく (Probable) 下げ、膀胱癌のリスクを限定的に下げ(Limited - suggestive) 、牛乳および乳製品が前立腺癌のリスクを限定的に上げる (Limited - suggestive) とされている[40]。日本の国立がん研究センターが4万3000人を追跡した大規模調査でも、牛乳や乳製品の摂取が前立腺癌のリスクを上げることを示し、カルシウムや飽和脂肪酸の摂取が前立腺癌のリスクをやや上げることを示した[41]

骨折[編集]

牛乳には骨を弱める可能性のあるレチノール(ビタミンA)も多く含まれる[1]。レチノール以外の形のビタミンAはベータカロテンである。ハーバード大学の研究では、1週間に1本かそれ以下の牛乳を飲んだ場合と、1週間に2杯以上飲んだ場合では骨折のリスクに違いはなかったなど、いくつかの研究がカルシウムは大量には必要ないと疑問を投げかけている[1]。NHS[28]など、アメリカ、イギリス、スウェーデンでの7つの前向きコホート研究で、カルシウム摂取量が増加しても骨折率が低下していない[42]。牛乳1日2杯の飲用は大腿骨頸部を骨折するリスクを上げる[43]

2011年のメタアナリシスは、中高年の牛乳消費が股関節骨折を予防するかを調査したが、女性では予防との関連がないことが判明し、男性では追加の調査が必要だとした[44]。2014年のアメリカの研究では、10代の時期の牛乳の消費量は男女共に高齢になってからの骨折の予防とは関連していなかった[45]。同年のスウェーデンの研究では、男女共に牛乳の摂取が骨折率と死亡率を高めており、特に女性では1日3杯以上では1杯未満より約2倍の死亡率であった[46]

アレルギー[編集]

カゼインなど牛乳たんぱく質へのアレルギーである。2008年に厚生労働科学研究班が全年齢の食物アレルギー発症患者を調査した結果、原因食物として牛乳は20.9%を占め、鶏卵の38.7%に次いで高い割合となっている[47]

アレルギーやアトピー性疾患の発症に関わるのは、母乳の保護効果なのか、牛乳たんぱく質の回避によるのか、どちらなのかと提起されてきた[48]アトピー性皮膚炎のリスク排除の第一手段として乳児の完全母乳が推奨されており、実施しない場合には、システマティック・レビューによる18の研究はすべて、100%乳清タンパク質の分解乳を用いたほうが、牛乳たんぱく質を原料とする調整粉よりも、アトピー性皮膚炎とアトピー性疾患の発症リスクを低下させていた[49]。あるいは、母乳哺育を行う生後4か月までの乳児の母親が、牛乳の摂取を制限することで、その子のアトピー性皮膚炎の発症率を下げる[50]。母乳中に主な食物アレルゲンであるα1カゼインが移行することは確認されている[51]

システマティック・レビューにより、牛乳の摂取がニキビの有病率と重症度を増加させることを裏付ける確かな証拠があることが報告された[52]

日本の法令では、牛乳を原材料として使用した加工食品にはその旨を表示することが義務付けられている[53]

放射線障害[編集]

主に牛が食べた飼料(牧草など)に含まれる放射性物質が牛の体内で生体濃縮されるため、牛乳などの摂取による内部被曝の危険性がある。チェルノブイリの原発事故ではウクライナの子供に多くの甲状腺癌患者が現れ問題になったが、(海藻などの摂取量が少ないため)もともとのヨウ素摂取量が少ないところへ、高濃度の放射性ヨウ素に汚染された牛乳を飲み続けていたことも一因とみられている。ポーランドは原発事故直後に国内での牛乳を禁止して、すべて輸入粉ミルクに変えたため、ポーランドでは甲状腺癌の増加がなかった。[要出典]

俗説、その他[編集]

  • 「牛乳はよく噛(か)んで飲んだ方が消化にいい」と言われることがある。そもそも乳糖を分解する酵素は腸液に存在し、唾液には含まれないため、噛む事で直接的に吸収率が高まるわけではない。しかし、噛む様にして飲むことで、少量ずつ消化管に送ること、また、冷たい牛乳を体温で温めることにより、消化管への負担を減らすことで、乳糖をうまく分解できるようになるとも言われている[要出典]
  • 女性は牛乳を良く飲むと胸が大きくなるという俗説があるが、科学的根拠はほとんどない。但し、収穫量を上げる為に乳牛に人工的に投与された成長ホルモンの影響があるという説もある。
  • 酒を飲む前に牛乳を飲むと悪酔いしないと俗にいわれる。これについて牛乳が胃に膜を作るからだと説明されることが多いが、事実と異なる。牛乳には脂肪とタンパク質が含まれているが、前者が胃の蠕動を抑え、後者がアルコールの代謝を助けている。
  • 人間の赤ん坊も、母親から乳を飲むため、牛乳もまた子供っぽい飲み物であるという認識を持つ者がいる。例えば第二次世界大戦末期、ヒトラーユーゲント少年兵が多数配されたナチス・ドイツ第12SS装甲師団は、連合国から「ミルク師団」の渾名で呼ばれた。
  • 妊娠中に牛乳を多く飲むと子供身長が高くなるという研究結果がある[54]
  • 平成29年1月4日のNHK番組「ガッテン」において、牛乳を飲むと、牛乳に含まれる「カゼイン」が胃腸で分解されてアラニンに変わり、このアラニンが、腎臓から尿酸を排出するのを助けて、人体の尿酸値が下がる効果があると放送される。

注釈[編集]

  1. ^ ただし、仏教が生まれたインドには牛乳を飲用する習慣があり、他ならぬ釈迦自身が飲んでいたのであり、牛乳の飲用の忌避は、仏教に対する一種の誤解であると言える。
  2. ^ 例えば彦根藩の名物の牛肉味噌漬。山田浅右衛門家で生産された死体を原料する丸薬などが、例として挙げられる。現代でも残るものとしては、マムシを原料とした栄養ドリンクがある。

出典[編集]

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  8. ^ 表にある通り、アメリカのデータでは、牛乳100g当たりのカルシウムの含有量は、113mgであるとされている。しかし、土壌などの関係で、日本では一般に単位重量当たりの食品に含まれるカルシウムの量も少ないとされる。日本の4訂食品成分表によれば、乳牛の種類による差、個体差、季節変動などがあり、その成分が一定していないことを断った上で、ホルスタインの牛乳100g当たりのカルシウムの含有量は、100mgであるとされている。このように、牛乳の場合も、日本産のものはカルシウムが少ない。つまり、産地によって含有成分が異なっているのである。
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参考文献[編集]

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法律による定義や分類の資料

日本での歴史に使われた資料

  • 北條朝彦「丑 ウシ」設楽博己編『十二支になった動物たちの考古学』新泉社、2015年
  • 兼平賢治『歴史文化ライブラリー398 馬と人の江戸時代』吉川弘文館、2015年

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

業界団体・酪農団体関連[編集]