肝臓

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肝臓
Leber Schaf.jpg
ヒツジの肝臓
Surface projections of the organs of the trunk.png
ヒトでの肝臓 (Liver) の位置
英語 Liver
器官 消化器

肝臓(かんぞう、: ἧπαρ (hepar): iecur: Leber: Liver)は、腹部の右上に位置する内臓である。最大の内臓で機能も多く、特に内部環境の維持に非常に大きな役割を果たしている。

概説[編集]

肝臓は、腹部の右上に位置して、ほぼ肋骨の下に収まっており、頭側(上方)には横隔膜が存在する。ある種の動物では体内で最大の臓器である。非常に機能が多いことで知られ、代謝排出胎児の造血、解毒体液恒常性の維持などにおいて重要な役割を担っている。特にアルコール分解能があることで一般には知られている。また、十二指腸胆汁を分泌して消化にも一定の役割を持っている。

働きは少なくとも500以上あるとされ、これと同機能を持つ化学工場は作れないとも言われるほど多機能であるため、人工臓器としての実用化が非常に難しい臓器である。

他方、臓器の中での部位による機能の分化が少なく、一部に損傷があっても再生能力が強いため、その損傷などがあっても症状に現れにくい。自覚症状が出る頃には非常に悪化していることもあり、「沈黙の臓器」などと呼ばれることがある。

などの肝臓はレバーと呼ばれ、食材とされる。また魚類(アンコウ等)・軟体動物(イカ等)の肝臓も、食用にされる。独特の臭みがあり、特に調理法に工夫を必要とする一方、栄養豊富なことから摂取が勧められる部位でもある。しかし、その高い栄養価からかあまり多く摂取すると痛風などの原因とされることがあるので注意が必要である。牛や豚の肝臓は消化酵素を加えて加水分解され、肝臓水解物として二日酔いや慢性肝疾患治療の医薬品原料となる。

無脊椎動物のいくつかの群にも同様な器官があり、一般には中腸腺といわれる。カニミソなどもこれにあたる。

肝臓の解剖[編集]

正常成人の肝重量は体重の約1/50であり、1.0 - 1.5kgである。

肝は肝動脈と門脈の2つの血管により栄養を受け、血流は肝静脈から肝外へと流れる。肝動脈は、大動脈から分岐した腹腔動脈の枝である総肝動脈が固有肝動脈となり右肝動脈と左肝動脈へと分かれて肝内へ入る。

他方、肝臓は消化管へも繋がりを持ち、胆管十二指腸に開く。途中には胆嚢があり、胆管下部にはすい臓も接続している。

解剖学的区分[編集]

解剖学的に肝は右、左葉、方形葉、尾状葉の4つに分ける事ができる。これは外観から見た分類であり、臨床的にはあまり重要ではない。

機能的区分[編集]

手術や治療を行う際には門脈による区分が重要となる。機能的区分は門脈血流によって肝を区分したものである。肝臓を胆嚢と下大静脈を結ぶ主分割面(Cantlie line、カントリー線)によって左葉と右葉に分割する。左葉はさらに肝鎌状間膜により内側区と外側区に分けられる。右葉はさらに右肝静脈により前区と後区に分けられる。

Couinaud(クイノー)の亜区域分類
肝をS1〜S8の8つの区域に分ける。
S1:尾状葉、S2:左葉外側後区域、S3:左葉外側前区域、S4:左葉内側区域、S5:右葉前下区域、S6:右葉後下区域、S7:右葉後上区域、S8:右葉前上区域

肝臓のCT解剖学[編集]

肝臓の部位診断においては区域解剖が非常に重要となる。これは部位によって手術法が異なるからである。肝臓外科の手術としては亜区域切除、区域切除、葉切除、拡大右葉切除が知られている。肝臓の区域診断をするにあたっては肝臓の構造物を手掛かりとすることが多い。肝門とは左葉内側区(S4)と尾状葉(S1)の間隙であり、門脈、肝動脈、胆管の出入り口である。肝円索裂は肝円索(胎生期の臍静脈)の付く場であり外側区(S2,S3)と内側区(S4)を境界する。静脈索裂は胎生期の静脈管の走っていた間隙で尾状葉(S1)と外側区(S2,S3)を境界する。下大静脈溝と胆嚢窩を結ぶ線をカントリー線といい、外科的左葉と右葉を境界する。これらはCTにて常に確認できるわけではないが後述する脈管系が確認しにくい時は非常に役に立つ。肝区域、肝亜区域を診断するには脈管系が一番わかりやすい。

肝臓の血管の基本構造は各亜区域の中央を門脈が各亜区域の境界を肝静脈が走行することである。門脈には肝動脈と胆管が並走し、この構造は肝小葉レベルまで存続する。肝静脈は大きく左、中、右の3本を基本とする。左肝静脈本幹は左葉外側区(S2,S3)の中央を走り、外側後亜区(S2)と外側前亜区(S3)を境界する。中肝静脈本幹は内側区(S4)と右葉前区(S5,S8)を境界する。これはカントリー線にほぼ一致する境界となる。右肝静脈本幹は右葉の中央を貫き右葉前区(S5,S8)と後区(S6,S7)を境界する。

不思議なことに右葉の上下亜区を境界する構造は存在しない。門脈本幹は左葉主枝と右葉主枝に分かれる。左葉枝は肝円索裂にはいり、まず外側後亜区域枝を分枝し、さらに腹側に延びて左右に外側前亜区域枝と内側区域枝に分かれる。この部分はかつて臍静脈が交通していたためU点という。右葉枝は前区域枝と後区域枝に分かれる。前区域枝は前上亜区域枝、前下亜区域枝に分かれる。後区域枝分枝部はP点といわれる。後区域枝は後上亜区域枝と後下亜区域枝に分かれる。門脈は支配する区域に合わせてPxと表現することもある。たとえば、前上亜区域(S7)の中央を走る門脈はP7である。

クイノー分類は肝亜区域の表現でよく用いられる、これは肝臓の内臓面からみて反時計回りに番号を振ったものである。内臓面から確認できない右葉前上亜区をS8としている。

クイノー分類 亜区域名 従来の呼称
S1 尾状葉 尾状葉
S2 外側後亜区 外側区
S3 外側前亜区 外側区
S4 内側区(方形葉) 内側区
S5 前下亜区 前区
S6 後下亜区 後区
S7 後上亜区 後区
S8 前上亜区 前区

肝臓の組織[編集]

肝臓の組織学画像(小葉構造)

肝臓の組織は肝小葉という構造単位が集まってできており、小葉の間(小葉間結合組織)を小葉間静脈(肝門脈の枝)、小葉間動脈、小葉間胆管が走っている。肝小葉は直径1〜2mm, 高さ1〜2mmの六角柱ないしは多角形の形をしており、その中軸部は中心静脈という小静脈が貫いている。肝細胞は中心静脈の周囲に放射状に配列しており、ブロック塀の様に積み重なり、1層の板を形成している。その間を管腔の広い特殊な毛細血管が走っており、これを洞様毛細血管(あるいは類洞)という。この毛細血管は小葉間静脈と小葉間動脈の血液を受けて中心静脈に血液を送る。

一方、肝細胞板の内部で、隣り合う肝細胞間には毛細胆管というごく細い管が作られている。肝細胞から分泌された胆汁はこの毛細胆管に分泌され、小葉中心部から小葉間胆管に注いでいる。 また、人間の場合肝臓の細胞は核を2つ持つ多核細胞の一種であり、このことが肝細胞の再生力が高い要因とされている。

肝臓再生には肝細胞の肥大が重要な働きをしていることがわかっている[1]

肝臓の機能[編集]

肝臓の病気[編集]

など

肝疾患の検査としてアラニントランスアミナーゼ(ALT,またはGPT)、アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST,またはGOT)の血中濃度が測定される。

肝移植[編集]

障害を受けた肝は再生する能力を持っているが、肝の障害が不可逆的であり自己再生が不可能になった場合には肝移植が行われる事がある。

その他[編集]

  • ギリシア神話では、人間に火を与えたプロメーテウスゼウスの怒りを買い、カウカーソス山に磔にされ、毎日ハゲタカに肝臓をむさぼられるという罰を受けた。プロメーテウスも神であるため不死身であり、肝臓は翌日には再生してまた喰われる。
  • 日本では梅毒ハンセン氏病結核などの万能薬と誤解され、主に男性の刑死体の肝臓の塩干しが「脳味噌の黒焼き」や「人油」よりも高値で売られていた。山田浅右衛門の専売で「人丹」、「人胆丸」などと称されていた。丸薬で浅蜊貝より少し多い程度の貝殻一杯ほどが明治の初年に5円もした。1870年4月15日、販売禁止となった。里見弴の「ひえもんとり」は江戸時代の肝臓を奪い合う様子を描いている。
  • ボクシング等の格闘技では、肝臓を狙って打つパンチを「レバーブロー」と呼ぶ。ボディブローの一種なのだが、鳩尾腹直筋を鍛えることでダメージを軽減させやすいが、レバーブローは鍛えづらい脇腹を狙うため効果は大きい。肝臓に当たる部分に打撃を受けると、鈍い痛みと激しい苦痛を感じる。その為格闘家はメディシンボールや、体重を掛けたトレーニングパートナーの足の裏などで、自分の腹筋や内臓に激しい刺激を与えて鍛える。

数値[編集]

主な脊椎動物の肝臓重量比[編集]

数値は、肝臓重量比率はBuddenbrock 1956, Haltenorth 1977, Kolb 1974、胆汁生産量はBuddenbrock 1956から[2]

動物 体重に対する
肝臓重量比率(%)
体重1kgに対する
1日の胆汁生産量(cm3)
アフリカゾウ   1.6    
ネコ   3.6   14.0
ウシ   1.2   15.4
ニワトリ   2.7   14.2
チンパンジー   2.8   
ユーラシアハタネズミ   4.6   
イヌ   2.9   12.0
カモ   2.4   40.1
シビレエイ   5.7   
ヤギ   1.3   11.8
ハムスター   5.2(ゴールデンハムスター)   72.3
ゴリラ   5.1   
モルモット   3.9   228.0 
カバ   1.8   
ウマ   1.4   20.8
メジロザメ   9.7   
ヒト 3.0   16.0
ヨロイザメ   22.7   
ライオン   3.2   
ハツカネズミ   7.1   34.9
ブタ   2.4   25.2
ウサギ   2.7   118.0
ラット   3.8   47.1
カワラバト   3.0   40.1
ヒツジ   1.3   12.1
スズメ   5.6   
リス   2.2   
アカエイ   14.9   
ヒキガエル   2.8   
オオカミ   2.8   
ウマ   1.4   
メジロザメ   9.7   

脚注[編集]

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  1. ^ マイナビニュース東京大学分子細胞生物学研究所2012年7月10日閲覧
  2. ^ R.Flindt 『数値で見る生物学』 浜本哲郎訳、ジュプリンガー・ジャパン、2007年、52-53頁。ISBN 978-4-431-10014-0

関連項目[編集]

外部リンク[編集]