松果体

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脳: 松果体
Pineal gland.png
脳内での松果体の位置。赤で示したところが松果体。
左は側面から見た図。松果体は 視床の陰に隠れる。右は背面から見た図。
Illu pituitary pineal glands ja.JPG
脳の正中矢状断面。図中央右にある小さな黄色い丸が松果体
名称
日本語 松果体
英語 Pineal gland
ラテン語 glandula pinealis
略号 Pi
関連構造
上位構造 内分泌器
動脈 上小脳動脈
画像
アナトモグラフィー 三次元CG
Digital Anatomist 内側
大脳鎌
小脳テント
脳幹後方
関連情報
Brede Database 階層関係、座標情報
NeuroNames 関連情報一覧
MeSH Pineal+gland
グレイの解剖学 書籍中の説明(英語)
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松果体の位置を様々な角度から眺めた動画。赤色の所が松果体。(画像出典:Anatomography

松果体(しょうかたい、英語:pineal body)は、にある小さな内分泌器。松果腺 (pineal gland) 、上生体 (epiphysis) とも呼ばれる。脳内の中央、2つの大脳半球の間に位置し、2つの視床体が結合する溝にはさみ込まれている。概日リズムを調節するホルモンメラトニンを分泌することで知られる。

位置[編集]

松果体は、赤灰色でグリーンピース(ヒトで8mm)ほどの大きさである。上丘の上、視床髄条の下に位置し、左右の視床に挟まれている。松果体は視床後部の一部を構成する。

松果体は脳の中央線上にあり、頭蓋骨をX線で撮影すると石灰化したものが写ることがある。

構成[編集]

人間の松果体は松果体細胞からなる分葉状の柔組織である。表面は軟膜に覆われている。おもに松果体細胞で構成されるが、そのほかに4種類の細胞がある。

松果体細胞
4から6の突起がある細胞体からなる。メラトニンの生産と分泌を行う。特殊な鍍銀法で染色できる。
間質細胞
松果体細胞の間に位置する。
血管周囲性の食細胞
松果体には多くの毛細血管があり、血管周囲性の食細胞はそうした血管の周りにある。食細胞は抗原を提供する。
松果体ニューロン
高度な脊椎動物には松果体にニューロンが存在するが、齧歯類にはない。
ペプチド含有ニューロン状細胞
いくつかの種には、ニューロン状のペプチド含有細胞が存在する。パラ分泌を調節する機能があると考えられる。

松果体は上頚神経節から交感神経支配を受ける。蝶口蓋動脈と耳神経節からの副交感神経支配もある。さらに、いくつかの神経線維が松果体の軸を貫いている(中央の神経支配)。神経ペプチドPACAPを含む神経線維によって、三叉神経節のニューロンによる支配も受ける。

ヒトの松果体の胞には、脳砂と呼ばれる砂のような物質が含まれる。化学的には、リン酸カルシウム炭酸カルシウムリン酸アンモニウムからなる[1]。 最近では、方解石の沈殿物も報告されている[2]

動物の進化における松果体[編集]

発生過程を見れば、松果体は頭頂眼と源を一にする器官である。まず頭頂眼について説明する。

脊椎動物の祖先は水中を生息圏として中枢神経系を源とする視覚を得る感覚器に外側眼と頭頂眼を備えていた。外側眼は頭部左右の2つであり現在の通常の脊椎動物の両眼にあたる。頭頂眼は頭部の上部に位置していた。初期の脊椎動物の祖先は頭部の中枢神経系で、つまり今では脳に相当する部分に隣接して存在したこれら左右と頂部の視覚器官を用いて皮膚などを透かして外界を感知していたが、皮膚の透明度が失われたり強固な頭骨が発達するのに応じて外側眼は体表面側へと移動した。また、外側眼が明暗を感知するだけの原始的なものから鮮明な像を感知できるまで次第に高度化したのに対して、頭頂眼はほとんど大きな変化を起こさず、明暗を感知する程度の[3]能力にとどまり、位置も大脳に付随したままでいた。やがて原因は不明ながら三畳紀を境にこの頭頂眼は退化してほとんどの種では消失してしまった。現在の脊椎動物ではヤツメウナギ類やカナヘビといったトカゲ類の一部でのみこの頭頂眼の存在が見出せる。

受精後に胚から成長する過程である動物の発生過程では、動物共通の形態の変化が見られるが、この過程で頭頂眼となる眼の元は間脳胞から上方へと伸び上がる。この「眼の元」は元々は左右2つが並んで存在するが、狭い間脳胞に生じたこれらはやがて前後に並んで成長する。2つあるうちの片方が松果体となり、残る片方はある種の爬虫類では頭頂眼となるかまたはほとんどの種では消失してしまう[4]

脊椎動物における松果体[編集]

脊椎動物の中には、松果体細胞がの光受容器細胞に似ている動物がある。松果体細胞は進化において網膜の細胞と起源を同じくすると考える進化生物学者もいる[5]

脊椎動物には、光にさらされると松果体で酵素、ホルモン、ニューロン受容体に連鎖反応が起きるものがあり、この反応が概日リズムの規則化を起こしていると考えられる[6]

ヒトなどの哺乳類では、概日リズムの機能は網膜視床下部によって行われ、視床下部視交叉上核の中にリズムが伝えられる。人工的な光にさらされると、視交叉上核の時計に影響が起こる。哺乳類の皮膚で合成されるオプシン関連の受光機能については、現在論争中である。松果体が磁力感知の機能を持っている動物がいるとする研究もある[7]

鳥類の1種ニワトリの松果体には、ヒトの網膜などで見られる光の感知に関与するロドプシンに似た、ピノプシンと言うオプシンの1種が見つかっている[8]。また、スズメの頭骨は薄いため、スズメの松果体には太陽光が直接届いており[9]、スズメの概日リズムに関与していることが知られている。

この他、現在のヤツメウナギムカシトカゲなどに見られるように、脊椎動物(または脊索動物)には松果体の近くに頭孔を持つものがいる。

機能[編集]

松果体は虫垂のように、大きな器官の痕跡器官と考えられていた。松果体にメラトニンの生成機能があり、概日リズムを制御していることを科学者が発見したのは1960年代である。メラトニンはアミノ酸の一種トリプトファンから合成されるもので、中枢神経系では概日リズム以外の機能もある。メラトニンの生産は、光の暗さによって刺激され、明るさによって抑制される[10]。 網膜は光を検出し、視交叉上核(SCN)に直接信号を伝える。神経線維はSCNから室傍核(PVN)に信号を伝え、室傍核は周期的な信号を脊髄に伝え、交感システムを経由して上頚神経節(SCG)に伝える。そこから松果体に信号が伝わる。

松果体は子供では大きく、思春期になると縮小する。性機能の発展、冬眠、新陳代謝、季節による繁殖に大きな役割を果たしているようである。子供の豊富なメラトニンの量は性機能の発展を抑制していると考えられ、松果体腫瘍は早熟をもたらす。思春期になると、メラトニンの生産は減少する。松果体の石灰化は大人によく見られる。

松果体の細胞構造は、脊索動物の網膜の細胞と進化的な類似があるように見える[11]。 現在の鳥類爬虫類では、松果体で光シグナルを伝達する色素メラノプシンの発現が見られる。鳥類の松果体は哺乳類の視交叉上核の役割を果たしていると考えられる[12]

齧歯類の研究によれば、松果体においてコカインなどの薬物乱用や[13]フルオキセチン(プロザック)のような抗うつ薬による行動に影響を与え[14]、 ニューロンの感受性の規則化に貢献しているようである[15]

哲学との関連[編集]

松果体が内分泌器であることが分かったのは、比較的最近である。脳内の奥深くにあることから、哲学者は松果体には重要な機能があると考えていた。松果体の存在は神秘なものとされ、迷信や形而上的な理論がまといついた。

デカルトはこの世界には物質と精神という根本的に異なる二つの実体があるとし(現代の哲学者たちの間ではこうした考え方は実体二元論と呼ばれている)、その両者が松果体を通じて相互作用するとした。デカルトは松果体の研究に時間を費やし[16]、そこを「魂のありか」と呼んだ[17]。 松果体が人間の脳の中で左右に分かれていない唯一の器官であると信じていたためである。この観察は正確ではない。顕微鏡下では、松果体が2つの大脳半球に分かれているのが観察できる。松果体に関するほかの理論としては、流体を放出するバルブとして働いているというものがあった。手を頭に当てて思索を行うと、そのバルブを開くことができると考えられていた。

松果体は、ヨーガにおける6番目のチャクラ(アージュニャーまたは第3の目)、または7番目のチャクラ(サハスラーラ)と結び付けられることもある。松果体は眠っている器官であり、目覚めるとテレパシーが使えるようになると信じる人もいる。

ディスコーディアニズム(en:Discordianism)と松果体の関係は(よく分からないが)重要である。ディスコーディアニズムは、カリフォルニアのサイケデリック文化を基とするパロディ宗教で、教義はパラドックスに満ちている。

ニューエイジ運動の初期の指導者であるアリス・ベイリー(en:Alice Bailey)のような作家は、精神的な世界観において「松果体の目」を重要な要素としている(アリス・ベイリーの『ホワイトマジック』を参照)。

「松果体の目」という観念は、フランスの作家ジョルジュ・バタイユの哲学でも重要なものである。批評家ドゥニ・オリエはla Prise de la Concordeの中で、バタイユは「松果体の目」の概念を西洋の合理性における盲点への参照として使っていると論じている。

[編集]

  1. ^ Bocchi G, Valdre G (1993). “Physical, chemical, and mineralogical characterization of carbonate-hydroxyapatite concretions of the human pineal gland.”. J Inorg Biochem 49 (3): 209-20. PMID 8381851. 
  2. ^ Baconnier S, Lang S, Polomska M, Hilczer B, Berkovic G, Meshulam G (2002). “Calcite microcrystals in the pineal gland of the human brain: first physical and chemical studies.”. Bioelectromagnetics 23 (7): 488-95. PMID 12224052. 
  3. ^ 脊椎動物の頭頂眼は、無脊椎動物が持つ原始的な水晶体眼に近い眼である。
  4. ^ 岩堀修明著、『感覚器の進化』、講談社、2011年1月20日第1刷発行、ISBN 9784062577
  5. ^ Klein D (2004). “The 2004 Aschoff/Pittendrigh lecture: Theory of the origin of the pineal gland--a tale of conflict and resolution.”. J Biol Rhythms 19 (4): 264-79. PMID 15245646. 
  6. ^ Moore RY, Heller A, Wurtman RJ, Axelrod J. Visual pathway mediating pineal response to environmental light. Science 1967;155(759):220–3. PMID 6015532
  7. ^ (Deutschlander et al.,1999)
  8. ^ 研究論文
  9. ^ 松岡 達臣、松島 治 編著 『生物学 - 分子が語る生命のからくり』 p.139 朝倉書店 1998年10月10日発行 ISBN 4-254-17103-X
  10. ^ Axelrod J (1970). “The pineal gland.”. Endeavour 29 (108): 144-8. PMID 4195878. 
  11. ^ Klein D (2004). “The 2004 Aschoff/Pittendrigh lecture: Theory of the origin of the pineal gland--a tale of conflict and resolution.”. J Biol Rhythms 19 (4): 264-79. PMID 15245646. 
  12. ^ Natesan A, Geetha L, Zatz M (2002). “Rhythm and soul in the avian pineal.”. Cell Tissue Res 309 (1): 35-45. PMID 12111535. 
  13. ^ Uz T, Akhisaroglu M, Ahmed R, Manev H (2003). “The pineal gland is critical for circadian Period1 expression in the striatum and for circadian cocaine sensitization in mice.”. Neuropsychopharmacology 28 (12): 2117-23. PMID 12865893. 
  14. ^ Uz T, Dimitrijevic N, Akhisaroglu M, Imbesi M, Kurtuncu M, Manev H (2004). “The pineal gland and anxiogenic-like action of fluoxetine in mice.”. Neuroreport 15 (4): 691-4. PMID 15094477. 
  15. ^ Manev H, Uz T, Kharlamov A, Joo J (1996). “Increased brain damage after stroke or excitotoxic seizures in melatonin-deficient rats.”. FASEB J 10 (13): 1546-51. PMID 8940301. 
  16. ^ Descartes and the Pineal Gland (スタンフォード哲学百科事典)
  17. ^ Descartes R. Treatise of Man. New York: Prometheus Books; 2003. ISBN 1-59102-090-5

関連項目[編集]