移植 (医療)

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移植(いしょく)とは、「提供者(ドナー)」から「受給者(レシピエント)」に組織臓器を移し植える医療行為のこと。移植で用いられる組織や臓器を「移植片」という。

以下に示すように様々な移植の形態が存在するが、一般には臓器を移植する場合が話題となるため臓器移植(ぞうきいしょく)として知られている。

なお、思想的・宗教的立場から臓器の移植は否定する主張[1]もある。

分類[編集]

ドナーとレシピエントの関係による分類[編集]

  • 自家移植:自己の組織を自己の他の場所に移し変えること。
  • 他家移植:自己以外の組織を移し変えること。
    • 同系移植:一卵性双生児や近交系動物の組織を用いる。
    • 同種移植:人間の組織を用いる。
    • 異種移植:人間以外の組織を用いる。
    • 人工移植:形成術ともいい、人工材料を用いて臓器修復することをいう。主に人工血管や皮膚、心臓弁置換術において行われる。

ドナーの状態による分類[編集]

  • 生体移植:生きているドナーから提供されること。
  • 死体移植:死亡したドナーから提供されること
    • 脳死移植:ドナーが脳死と判断された後に臓器等を取り出すこと。
    • 心臓死移植:ドナーの心停止後に臓器等を取り出すこと。

対象[編集]

主に以下の臓器が施行対象である。

治療法としては一般的ではないが、研究的に以下のような移植手術も実施された事例がある。

臓器売買[編集]

先進国を中心とした富裕者が発展途上国の貧困層から臓器を買う移植ツーリズム[5]、などが世界的に問題になっており、国際移植学会[6]やWHOで規制の方針が打ち出されている。

海外渡航移植の問題[編集]

先進国などでは、臓器移植はドナーの順番待ち制度に基づいて行われる。日本から来た順番待ちリストの上位に載せられた患者を受け入れた分だけ、その患者よりも下位に載せられた自国の患者が、臓器移植を受けられずに亡くなる事も有り得る。そのため、臓器売買とは異なるものだとしても、同様に外国から渡航移植を拒否や制限されたりするのは当然であるという主張がある[7]

日本[編集]

死体移植の歴史[編集]

黎明期[編集]

1956年に腎臓、1964年肝臓の移植が初めて行われた。

1968年には札幌医科大学和田寿郎教授によって、世界で30例目の心臓移植が行われ、移植患者は83日間生存した。いわゆる和田心臓移植事件である。移植患者の生存中は賞賛されたが、死後に提供者の救命治療が十分に行われたかどうか、脳死判定が適切に行われたかどうか、レシピエントは本当に移植が必要だったかどうかなど、厳密な脳死判定基準のなかった当時の脳死移植は多くの議論を呼んだ。和田教授に対しては殺人罪刑事告発もされ、検察当局による任意の調査が行われたが、嫌疑不十分の不起訴処分となった。

心臓死移植の発展[編集]

1979年角膜及び腎臓の移植に関する法律が成立し、心臓死移植に関する法律が整備された。この法律によって、家族の承諾により、死後の腎臓および角膜の提供が認められるようになった。以後、心臓死下の腎臓移植が毎年150〜250件、角膜移植が1600〜2500件行われるようになった。しかしながら、日本では脳死をヒトの死と認めない傾向が強かったため、その後はもっぱら心臓死移植のみが行われ、脳死移植は長期に渡り行われることがなかった。

脳死移植の幕開け[編集]

1997年10月、臓器の移植に関する法律が施行され、本人が脳死判定に従い臓器を提供する意思を書面により表示しており、かつ家族が脳死判定並びに臓器提供に同意する場合に限り、法的に脳死がヒトの死と認められ、脳死移植が可能となった。

この法律では、臓器提供のための意思表示可能年齢について何ら規定していないが、厚生労働省のガイドラインによって、ドナーの意思表示可能な年齢は民法の遺言可能年齢に準じて15歳以上と通知された。また臓器提供に関係なく脳死をヒトの死とし、本人の意思が不明であっても、家族の承諾で提供可能な欧米・アジア・豪州などに比べて極めて厳しいものとなっているため、ドナー数は非常に少ない。そのため欧米及びアジアの移植医療を行う先進医療技術を持つ国の中で日本は極めて臓器移植の数の少ない国となっている。一方で、脳死をヒトの死とすることに疑問を投げかける人々からは強い批判があり、また「脳全体の機能の不可逆的停止」を脳死としている厚生労働省基準に関して強い疑念を持つ医学者も少なくなく、臓器移植自体を医療として認めない人々もおり、臓器移植法そのものや法改正に対しての反対運動が存在する。

臓器の移植に関する法律の成立とともに、臓器提供の意思を表示する手段として、臓器提供意思表示カードが配布されるようになった。また、臓器の斡旋を行う機関として、厚生労働省の認可により、社団法人日本臓器移植ネットワークが発足した。

1999年2月、この法律に基づく脳死移植が初めて行われた。高知県内の高知赤十字病院に入院中の脳死の患者より、本人の意思表示並びに家族の承諾に基づいて、心臓、肝臓、腎臓、角膜が移植された。この移植の際は、マスコミ各社が関係の病院に大挙して押し掛け、臓器を輸送する車をヘリで追跡するなどの行き過ぎた取材が見られるほど、大きく取り上げられた。以後、毎年5件前後の脳死移植が行われている。

しかしながら、移植を希望し登録している患者は増加する一方であり移植を受けられずに死亡するケースも多い。また、日本国外へ移植を受けるために渡航する患者が後を絶たない。特に、15歳未満の子供の脳死後の臓器提供については、日本では法的に不可能だったため、提供臓器のサイズなどの問題から移植が必要な子供は日本国外へ渡航せざるを得ず、数千万円に及ぶ高額な医療費を工面するための募金活動が行われることが多く、これら日本国外へ渡航しての臓器移植については一部の事例で臓器売買に当たるのではないかという疑いがある。また自国の患者は自国で治療するべきという原則の下に国際的な批判が出た。

2008年5月の国際移植学会において「臓器取引と移植ツーリズムに関するイスタンブール宣言」が採択され、海外渡航移植の原則禁止が提言され、2009年5月の世界保健機関(WHO)総会で、臓器移植手術を受けるための海外渡航が原則禁止となる決議案が採択される見通しである。

15歳未満のドナーによる脳死移植[編集]

上記のように日本の脳死移植体制に批判が出たため、2009年に脳死移植を可能とする臓器移植法の改正が行われ、2010年7月17日以降は脳死移植は本人が提供拒否の意思を示していない限りは家族の同意が得られれば認められるようになった。これによって、日本国内で15歳未満のドナーの臓器移植を可能となった。

2011年4月13日に日本で初めて15歳未満のドナーによる脳死移植が行われ、10代のドナーから60代の患者に移植された。2012年6月15日に日本で初めて6歳未満のドナーによる脳死移植が行われ、6歳未満のドナーから10歳未満の患者と60歳代の患者に移植された。

生体移植[編集]

1964年に生体腎移植、1989年に生体部分肝移植が初めて行われた。1992年には骨髄バンク1999年には臍帯血バンクが生まれ、骨髄移植造血幹細胞移植の仕組みが整備されている。

移植施設[編集]

造血幹細胞移植腎移植は、全国の多数の医療機関にて広く実施されている。心臓、肺、肝臓、膵臓、小腸の移植手術を実施している施設は限定されるため、以下に示す[8]

移植施設(2013年5月1日現在)[8]
  • 心臓移植施設のうち、心肺同時移植が可能な施設は◎
  • 肺移植施設のうち、肺単独移植をしない施設は△
  • 膵臓移植施設は、総ての施設で膵腎同時移植が可能。
  • 心臓、肺、肝臓、膵臓、小腸の移植手術を全て実施しているのは東北大学病院のみ。
施設 心臓 肝臓 膵臓 小腸
施設数 9 9 21 18 9
北海道大学病院地図
岩手医科大学附属病院(地図
東北大学病院地図
福島県立医科大学附属病院地図
自治医科大学附属病院地図 18歳未満のみ
獨協医科大学病院地図
埼玉医科大学国際医療センター地図
国立病院機構千葉東病院地図
慶應義塾大学病院地図
東京女子医科大学病院地図
順天堂大学医学部附属順天堂医院地図
東京大学医学部附属病院地図 11歳未満可
国立成育医療研究センター地図 18歳未満のみ
東京医科大学八王子医療センター地図
新潟大学医歯学総合病院地図
金沢大学附属病院地図
信州大学医学部附属病院地図
名古屋大学医学部附属病院地図
名古屋第二赤十字病院地図
藤田保健衛生大学病院地図
三重大学医学部附属病院地図
京都府立医科大学附属病院地図
京都大学医学部附属病院地図
大阪大学医学部附属病院地図 11歳未満可
国立循環器病研究センター地図 11歳未満可
神戸大学医学部附属病院地図
奈良県立医科大学附属病院地図
岡山大学病院地図
広島大学病院地図
香川大学医学部附属病院地図
九州大学病院地図
福岡大学病院地図
長崎大学病院地図
熊本大学医学部附属病院地図

提供施設[編集]

  • 一般に心停止での提供に関しては、手術が可能な病院・医療施設であれば可能。
  • 脳死での提供は、全国の大学病院日本救急医学会が指定する指定施設、日本脳神経学会の指定する専門医訓練施設、救急救命センターを設置している特定の病院等に限られており、それ以外の病院では脳死判定・臓器提供は行われていない。

関連項目[編集]

臓器移植をテーマとした作品[編集]

ここでは、臓器移植に関連する作品を紹介する。臓器売買に関連する作品はリンク先を参照せよ。

上記以外では、SF作品などでを他人に移植する脳移植が扱われている作品も多い。

脚注[編集]

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外部リンク[編集]