ビタミンA

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ビタミンA
All-trans-Retinol2.svg
Retinol 3D ball.png
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
販売名 一般用医薬品検索
Drugs.com monograph
胎児危険度分類
  • US: A
法的規制
識別
CAS番号
(MeSH)
68-26-8 ×
ATCコード V04CB01
PubChem CID: 445354
DrugBank DB00162 ×
ChemSpider 393012 チェック
KEGG D06543  チェック
ChEBI CHEBI:17336 ×
ChEMBL CHEMBL986 チェック
NIAID ChemDB 008876
化学的データ
化学式 C20H30O
分子量 286.4516 g/mol
ビタミンA製剤の雑誌広告。1938年(昭和13年)。

ビタミンA (Vitamin A) とは、レチノールRetinolビタミンAアルコールとも呼ばれる)、レチナールRetinalビタミンAアルデヒドとも)、レチノイン酸Retinoic AcidビタミンA酸とも)(これらをビタミンA1と呼ぶ)およびこれらの3-デヒドロ体(ビタミンA2と呼ぶ)と、その誘導体の総称で、ビタミンの中の脂溶性ビタミンに分類される。化学的にはレチノイドと呼ばれる。狭義にはレチノールのみを指してビタミンAと呼ぶこともある。ビタミンAは動物にのみに見られる。なお、β-カロテンなど、動物体内においてビタミンAに変換されるものを総称してプロビタミンAと呼ぶ。プロビタミンAは動植物ともに見られる。

歴史[編集]

生理活性[編集]

ヒト血液中のビタミンAはほとんどがレチノールである。血中濃度は通常0.5 μg/ml程度で、0.3 μg/mlを切るとビタミンA欠乏症状を呈する。

β-カロテンが体内で、小腸の吸収上皮細胞(あるいは肝臓、腎臓)において分解されてビタミン A になる。レチノイドの名前が網膜 (retina) に由来するように、網膜細胞の保護に用いられ、欠乏すると夜盲症などの症状を生じる。また、DNAの遺伝子情報の制御にも用いられる。

人体においては、眼球の網膜上にある視細胞のうち、薄明視に重要な桿状体細胞において、桿体オプシン(蛋白質)とリシン残基を介して結合し、ロドプシンとなる。ビタミンAはロドプシンの発色団となる。ロドプシンは視色素と呼ばれる一群の物質の一つで、視細胞における、光による興奮(視興奮)の引き金機構として重要な物質である。

ロドプシンが視神経に信号を伝えるのは、次の網膜でのメカニズムによる。βカロテンが鎖の真ん中で切断されると、二つのトランス型のレチノールというアルコール型のビタミンAが生成する。レチノールは酸化されてレチナールというアルデヒドになる。このトランス型のレチナールを、シス型のレチナールに変化させ、タンパク質であるオプシンに収納される。この状態が、ロドプシンである。このロドプシンへが当たるとシス型のレチナールが安定なトランス型に戻り、トランス型レチナール分子は、オプシンに収まらず、はずれてしまう。この変化が細胞の中に伝えられ、化学的に増幅されて、光が当たった、という信号となって視神経に伝えられる。トランス型レチナールは、再びイソメラーゼの働きでシス型に折り曲げられてオプシンに収納される。やがてレチナールは消耗するので、不足した分は、レチノールから酸化して補われる。このため、網膜にはレチノールをレチナールに酸化するためのアルコール脱水素酵素が豊富に存在する[1]。ビタミンAであるレチノールが不足すると上記のような役割を担うロドプシンが機能しなくなり、夜盲症が発症する。

レチノイン酸は、ムコ多糖の生合成を促進して、細胞膜の抵抗性を増強するといわれている。

構造[編集]

図1. レチノールの構造式

右端の-CH2OH(アルコール形)の部分が、-CHO ならばレチナール(アルデヒド形)、-COOH ならばレチノイン酸(カルボン酸形)である。左側にある環構造の左下の結合が二重結合になったものが3-デヒドロレチノールである。

合成[編集]

1950年代前半に、BASF社によりビニル-β-イオノンとβ-ホルミルクロチルアセテートとのカップリング反応により合成する手法が開発された。β-ホルミルクロチルアセテートは1-ビニルエチレンジアセテートをロジウム触媒を用いてヒドロホルミル化して得られ、リナロールから誘導されるビニル-β-イオノンとカップリング化してビタミンA酢酸エステルへ変換される。エフ・ホフマン・ラ・ロシュ社が開発した合成法もヒドロホルミル化を利用しており、両合成法が年間3000トンのビタミンA生産量の大部分を占める[2]

物性(レチノール)[編集]

  • 分子量 286.46
  • 紫外線吸収極大 325 nm
  • 蛍光波長 励起 325 nm 蛍光 470 nm
  • に不溶。
  • 酸化を受けやすい。
  • 乾燥、高温で壊れる。
  • アルカリ条件下では比較的安定
  • ビタミンEなどの抗酸化剤共存下では安定度を増す。

一日の所要量[編集]

単位としては、国際単位 (IU) をかつて用いていた。β-カロテンの場合、生体内におけるレチノールへの変換の際の収率、消化吸収率がレチノールと異なるため、β-カロテン 12 μgがレチノール1 μgに相当する。なお、少し前までビタミンAはビタミンA効力(単位はIU;アイユー)で表されていたが、ビタミンA作用をする量であるレチノール当量 (μg) で表されるようになった。なお、レチノール当量 (RE) 表記では、1 IU = 0.3 μgREとなる[3][要高次出典]

0〜1歳: 1,000 〜 1,300 IU
1〜5歳: 1,000 〜 1,500 IU
6〜8歳: 1,200 IU
9〜14歳: 1,500 IU
成人男子: 2,000 IU
成人女子: 1,800 IU
授乳婦: 3,200 IU
許容上限摂取量: 成人で5,000 IU

100,000 IU 以上の摂取では過剰障害を起こすことがある。

なお、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン1995年11月23日発行)の報告では、妊娠前後でビタミンA所要量は増加せず、非妊娠時でも妊娠期でも、成人女性の所要量は1,800 IU とされる。そのため、他の栄養素と異なりビタミンAの所要量は増加しないので、妊婦では過剰摂取に特に留意が必要だ、という見解もある。

妊娠中のビタミンA摂取について[編集]

日本の厚生労働省では妊婦のビタミンA摂取量は、上限許容量が5000 IUとされている。但し、ビタミンAが含まれている食品は意外と多く、トータルで見ると摂取過剰になると予想される。ビタミンAは1日10000 IU以上を連日摂取してしまうと奇形発生が増加すると考えられる報告がある。妊娠12週までにビタミンAを連日15000 IU以上摂取すると、水頭症口蓋裂等、胎児奇形発生の危険度がビタミンA摂取量5000 IU未満の妊婦に比して、3.5倍高くなると報告されている。一方で欠乏した場合は未分化性の胎児奇形(単眼症など)のリスクが生じる。近代以前の日本では肉食文化が乏しくビタミンA欠乏が頻繁に見られる現象であったとも考えられており[4][5]、ビタミンA過剰が過剰分化性の奇形(先述の口蓋裂等)を誘発することとは対照的な問題である。ただし、ビタミンAの過剰摂取による催奇形性の報告は、主にサプリメント由来のビタミンA(レチノイン酸)であり、動物性由来のビタミンA(レチノール)は20000 IU以上摂取しても問題がなかったと言う報告もある。

β-カロテンは体内でビタミンAに変化する前駆体のプロビタミンAである。野菜にはβカロテンの形で含まれている。

ビタミンA(レチノール)が動物性食品に多く含まれるのに対し、β-カロテンは緑黄色野菜海草に多く含まれる色素の一種。体内に入ってビタミンAが十分ならAに変化しない為、量を気にせず摂れ、安心と言われている。

医薬品のビタミンAの場合、妊娠3か月以内、又は妊娠を希望する婦人へのビタミンA 5000 IU/日以上の投与は禁忌(処方してはいけない)とされている。

下記の30才〜49才の女性の1日のビタミンの目安摂取量。

  • ビタミンA 1800 IU若しくは540 μg(妊婦 2000 IU若しくは600 μg)
  • 摂取上限 5000 IU(1500 μg、β-カロテンで摂取する場合、この数値は当てはまらない)

多く含む食品[編集]

いずれも表記は100 gあたり。

日本人におけるビタミンAの供給源の構成は、緑黄色野菜50%、肉類15%、魚介・乳類10%、卵類10%。

摂取時の注意[編集]

ビタミンAを簡単にとるには、ビタミンA前駆体のβ-カロテンを多く含む緑黄色野菜、例えばニンジンピーマンホウレンソウコマツナカボチャなどをとるとよい。

ビタミンAは高温において酸化・分解を受けやすく、また、脂に溶ける性質がある。「油を利用して調理したほうが摂取の効率がよいので、短時間で調理でき、たくさん野菜がとれるバター炒めは良い調理法」と広く知れ渡っている。

にんじんなどに関しては「植物が含むビタミンA前駆体のβ-カロテンは、油を使わずに単純に茹でた場合でも細胞中にもともとある脂質分と混ざり合って摂取効率をある程度高めることができる」との説もある[6]。なお、一部の教育現場ではビタミンAの不足を防ぐために、緑黄色野菜の摂取を奨励しているが、実際には動物性食品である鶏卵牛乳レバーなどにも多く含まれている。

現在日本では、通常の食生活を送る限り不足になることはあまりないが、授乳婦においては所要量が大幅に増える。また、通常の食事で過剰になることも少ないが、外洋魚の肝臓による過剰摂取に注意すること。過剰摂取によるビタミンA過剰症(軽度であれば下痢などの食中毒様症状、重篤であれば倦怠感・皮膚障害など)がある。後述の医薬品を服用するなどで大量のビタミンAが体内に蓄積された場合、さらに催奇形性(奇形児が生まれる)のリスクが非常に高くなる。食品安全委員会のファクトシート「ビタミンAの過剰摂取による影響」が詳しい。なお、β-カロテンには過剰摂取による障害がない。

医薬品での注意事項[編集]

医療用医薬品で夜盲症くる病等の治療薬として古くから使われるビタミンA油製剤の「チョコラA(エーザイ)」は、1回の服用だけで最低2,000 IU以上のビタミンAを摂取した事になる。ただ、大量・過剰摂取あるいは後述のトレチノイン系製剤との併用をしなければ過剰症に陥る事はない。

「-A」とほぼ同等の症状に適応するOTC医薬品の「チョコラAD」には一日分の用量で4,000 IU含まれるため、サプリメントや食事の兼ね合いに注意が必要である。広く流通されているビタミンB6製剤の「チョコラBB」シリーズには含有されていない。

特にレチノールを化学合成で高濃度化したトレチノインを主成分とした、乾癬治療薬の「チガゾンロシュ社)」と、急性前骨髄球性白血病治療薬 (atRA) の「ベサノイド(ロシュ社)」・「タミバロテン(アムノレイク 東光製薬)」では、チョコラAを大幅に上回る量のビタミンA類似成分を摂取する事と、催奇形性が動物実験で明らかとなっている。このため一般生活を送る患者が服薬する「チガゾン」では催奇形性を防ぐ為に、対象患者は男女とも一定期間性交しない事を前提に同意書に署名をして初めて処方される。

一方、atRA製剤の重大な副作用としてレチノイン酸症候群と言う重篤な過剰症があり、これは最悪の場合多臓器不全を起こすものである。緊急処置の体制上、原則入院のうえ処方される。

外用薬(クリーム等)は、日本ではニキビを適応症とした類似化合物の「アダパレン(商品名:ディフェリン)」を除いた製品は未承認薬である。肌のターンオーバーを促進させることから主に美容用途で使われているが、自己責任の上で個人輸入品が扱われている。

乾癬の治療や白血病の治療ではビタミンAのもつ細胞分化作用を用いているがビタミンAにはそれとは別に抗酸化作用があると言われている。低比重リポタンパク質 (LDL) が酸化され動脈硬化が進展するというLDL酸化説という仮説があり、抗酸化作用を持つビタミンAの摂取により動脈硬化を防ぎ、心筋梗塞など動脈硬化性の病気を予防できる可能性が主張されたが、現在の知見ではビタミンAの摂取で心筋梗塞が予防できるという疫学的なデータは存在しない。

疫学研究[編集]

1862人の喫煙家に対して、α-トコフェロールを毎日50 mgとβ-カロテンを毎日20 mg(通常所要量の10倍)か、その両方か、偽薬を与え、5.3年追跡したところ、α-トコフェロールやβ-カロテンを摂取した方が死亡率が上昇していた [7]

北米とヨーロッパから7つの研究約40万人をもとにした報告では、5種類のカロチノイドの摂取は肺がんのリスクを減らしていた [8]。ビタミンAは細胞膜の損傷を防ぐ働きをするので、胃癌肺癌に対する予防効果が注目されていたが、その効果を否定する臨床試験の結果がでた[9][要高次出典]

欠乏症[編集]

過剰障害・食中毒[編集]

過剰障害[編集]

食中毒症状[編集]

イシナギサメマグロ類などの南方魚やシロクマ肝臓を食べ過ぎると食中毒として起きる。

中毒症状は食べた後30分〜12時間であるが、ほとんどは短時間でおきる。

  • まず、激しい頭痛がある。嘔吐や発熱を呈すこともある。これは早く回復する。
  • 次に、1〜6日後に顔面の皮膚が、はがれ落ち、手足、全身に広がる。
  • 1か月くらいで全身の皮膚がはがれる。

生化学[編集]

β-カロテンは小腸に存在するβ-カロテン-15,15'-ジオキシゲナーゼ (EC 1.14.99.36 (EC 1.13.11.21)) の作用によりレチナールに変換される。

β-カロテン + O2 -> 2 レチナール

生体内において、レチナールはレチノールデヒドロゲナーゼ (EC 1.1.1.105) の作用により多くはレチノールに還元された状態で存在している(可逆反応)。また、レチナールオキシダーゼ (EC 1.2.3.11) によりレチノイン酸へと代謝(不可逆な反応)される。

レチナール + NAD+ -> レチノール + NADH + H+
レチナール + O2 + H2O -> レチノイン酸 + H2O2

レチノールは、肝臓中にパルミチン酸エステルの形で貯蔵され、必要に応じて遊離する。遊離したレチノールはレチノール結合蛋白質 (RBP) と結合し、さらにトランスサイレチン(プレアルブミン・TTR)と複合体を形成して血液中を流通する。なお、生理作用の発現においては、レチノールよりもその代謝産物であるレチナールあるいはレチノイン酸が重要であるといわれている。

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 「続・身のまわりの毒」Anthony T. Tu著、東京化学同人、1993年
  2. ^ Whyman, Robin 『有機金属と触媒 -工業プロセスへの展開』 碇屋隆雄・山田徹訳、化学同人、2003年ISBN 978-4759809480
  3. ^ ビタミンA(レチノール当量) グリコ 栄養成分百科
  4. ^ 山田敏之 (2007年6月29日). “第2回 『一眼国』と複眼思考 解説編”. 落語に学ぶ. ソニー教育財団. 2009年12月5日閲覧。
  5. ^ まめこぞうの旅 座間の歴史探検 第34話 一つ目小僧地蔵”. あなたの知らない座間がある 0462.net. 座間市商店会連合会 (2007年1月8日). 2009年12月5日閲覧。
  6. ^ NHK「ためしてガッテン」2005年3月9日放送「にんじん!健康神話の大誤解」
  7. ^ Rapola JM, Virtamo J, Ripatti S et al. "Randomised trial of alpha-tocopherol and beta-carotene supplements on incidence of major coronary events in men with previous myocardial infarction Lancet 349(9067), 1997 Jun 14, pp1715-20. PMID 9193380
  8. ^ Mannisto S, Smith-Warner SA, Willett WC et al. "Dietary carotenoids and risk of lung cancer in a pooled analysis of seven cohort studies" Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 13(1), 2004 Jan, pp40-8. PMID 14744731
  9. ^ サプリメントと有効性 日本通運健康保険組合 健保だより2007年5月号

外部リンク[編集]