培養肉

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シャーレによってハンバーグ状に形成された培養肉
ハンバーグとして調理中の培養肉

培養肉(ばいようにく)とは、動物個体からではなく、可食部の細胞組織培養することによって得られた肉のことである。

概要 [編集]

動物を屠殺する必要がない、厳密な衛生管理が可能、食用動物を肥育するのと比べて地球環境への負荷が低い、などの利点があり、従来の食肉に替わるもの(代替肉)として注目されている。

2021年には俳優であり環境活動家でもあるレオナルド・ディカプリオが培養肉のスタートアップであるモサミートとアレフファームに投資をしたことも話題となった。ディカプリオは両社の顧問も務めている[1]。俳優のロバート・ダウニー・ジュニアは、肉を捨て、植物ベースのライフスタイルを採用したと宣言。彼は「鶏肉をやめて植物ベースを選んでいる」という。そして、2019年、テクノロジーを使用して地球を守る環境保護団体「フットプリント連合」を立ち上げ、培養肉・培養牛乳・培養卵の開発をするNew Harvestに寄付をした[2]

培養肉の開発は国家レベルでの関心事になっている。2005年から培養肉研究の支援をはじめたオランダ政府は培養肉の研究に4億の資金を提供し[3]、2019年、インドの中央政府は細胞分子生物学センター(CCMB)と国立研究センターに対し、クリーンミート研究のための資金を提供することを発表した[4]。2019年、オランダの培養肉の開発をするMeatable(豚肉の培養に力を入れている会社[5])は、10億円の資金調達に成功したと発表したが、この調達先の一つには欧州委員会も含まれる(助成金300万ドル)。2020年9月、アメリカ国立科学財団も培養肉への助成枠を決定した[6]。2021年1月、スペイン政府はBioTech Foodsの主導する培養肉プロジェクトに約6億5千万円を出資した[7]。同年、EUは、代替研究開発のための3,200万ユーロの新規資金提供を発表[8]。2021年10月13日には、米国農務省が、培養肉研究所のために1000万ドルを投資することを発表した[9]。英国の政府外公共機関である英国研究技術革新機構(UKRI)もまた培養肉開発会社のRoslin Technologiesに公的資金を提供している[10]

培養肉拡大の要因[編集]

動物倫理[編集]

動物を殺す必要がないという動物倫理は培養肉拡大のトリガーの一つとなっている。

世界ではじめて培養肉に資金提供したGoogleの共同創業者であるセルゲイ・ブリンは、培養肉に投資した理由を「動物福祉のためだ」と言い、次のように述べている。「人々は近代の食肉生産に間違ったイメージを持っている。人々はごく一部の動物を見て自然な農場を想像する。しかしもし牛がどんなふうに扱われているかを知ったら、これは良くないと分かるだろう[11]。」

2015年に設立され、現在では代替肉や培養肉をプロモートする世界的イニシアチブであるGood Food Instituteの目的は動物の犠牲を減らすことにある。同団体の創設者であるBruce Friedrichはもともと毛皮へ抗議するなど動物の権利活動家であったが、より効果的に動物の犠牲を減らすために同団体を設立したという[12]

畜産を伴わない代替たんぱく質移行へのもう一つのイニシアチブと言えばFAIRR(FARM ANIMAL INVESTMENT RISK & RETURN)だ。FAIRRは、投資機関に畜産のリスクを啓発することを目的とした投資機関ネットワークで、FAIRRをサポートする投資機関は2019年12月で199名、その運用資産は2197兆円(20.1兆ドル)にものぼる。FAIRRは代替たんぱくへの移行を企業に促すプロジェクトを進めている。FAIRRの創業者で最高経営責任者(CEO)であるジェレミー・コラー英語版は、動物の権利や、工場畜産の恐怖について、問題視している人物だ。ただ彼はそれらの解決方法として「動物がかわいそう」というメッセージではなく、人々に工場畜産を「人間の世界的な持続可能性の問題」として提起している。

また、2020年12月に動物飼育を伴わない「培養鶏肉」を世界で初めて販売開始したEat Just英語版社だが、同社の設立者の一人であるJosh Balk英語版は、食肉処理場や工場畜産の覆面調査員として働き、工場畜産反対キャンペーンを展開したあと、Humane Society of the United States英語版(アメリカの動物保護団体)の副社長で畜産動物保護を担当している人物でもある。

消費者の意識としては、2019年のベルギーの調査では、培養肉の魅力として一番大きいのが「動物の苦しみ無く肉を食べることができること」だという結果であった[13]。また、日本国内で2020年に行われた調査によると、培養肉のイメージを問う質問では、「知らないのでわからない」という回答が5割、「未知のものに対する不安がある」といった回答が3割、「環境や動物にやさしくて良さそう」といった好意的な回答が2割という結果であった[14]

環境負荷[編集]

培養鶏肉を使用した場合、従来の動物飼育由来の肉に比べて35-67%土地の使用が減り、水質汚染を70%削減する。培養牛肉を使用した場合、従来の動物飼育由来の肉に比べて95%土地の使用が減り、温室効果ガスを74-87%削減し、水質汚染を94%削減される[15]

培養肉に対する消費者の意識[編集]

培養肉が開発され始めた初期は、人工的に生産された肉を食することに否定的な意見もあったが[16]、近年の意識調査によると培養肉への忌避感は薄れてきている。

  • 2018年の調査(中国)では、将来の話としてどの肉を好むかという質問に対して、従来の動物飼育を伴う肉を選択した人が29.8%だったのに対して、培養肉が38.6%(代替肉は30.7%)という結果であった。[17]
  • 2019年の調査(ベルギー)では、消費者のほとんどが培養肉について肯定的または中立的な意識を持つことがわかった[13]
  • 2018年の調査(インド)では、将来の話としてどの肉を好むかという質問に対して、従来の動物飼育を伴う肉を選択した人が16.1%だったのに対して、培養肉が36.5%(代替肉は43.1%)という結果であった[17]
  • 2020年の調査(日本)では、回答者の約3割が、ふつうの肉より高い金額を出してでも培養肉を試してみたいと考えていることがわかった[14]
  • 2021年の調査(アメリカ)では、消費者の3人に1人以上が、培養肉の発売時には食事に採用する計画を立てていることが分かった[18]

培養肉への参入[編集]

Good Food Instituteの2020年細胞培養食品業界の動向レポート[19]によると、2020年現在、細胞培養食品の商業開発に取り組む企業の数は全世界で70社以上。また、40社以上のライフサイエンス関連企業が細胞培養食品開発を行う企業に技術支援などで関わっているという。さらに、2020年に実施された当該分野への投資額は3億5000万ドル(約371億円)以上で、これは2020年以前の累積投資額の約2倍の規模となっている。

大手食肉・食品企業の培養肉市場への参入状況は次の通り。

  • 世界最大の農業企業の1つであるカーギル社が培養肉のスタートアップであるMemphis Meatsに投資。その後2019年には同じく培養肉を開発するアレフ・ファームズ(Aleph Farms)社に投資。Memphis Meatsは培養の牛肉・鶏肉・鴨肉を大規模に生産するための工場を試験的に建設中だ(2019年)[20]
  • 2018年、食肉加工大手のタイソンフーズは、培養肉の開発を行うイスラエルのバイオテクノロジー企業Future Meat Technologiesに200万ドルを投資した[21]
  • 2018年1月、イスラエルのバイオテック・スタートアップSuperMeatが、ドイツの畜産食肉大手PHWなどから300万米ドルを調達[22]。2015年にテルアビブで設立された SuperMeatは3年以内に、食料品で現在販売されている従来の鶏肉製品と同等の価格で、「Clean Chicken」を市場に出そうとしている。
  • 2021年、ブラジル食品メーカー第二位のBRFは、イスラエルの培養肉スタートアップ アレフ・ファームズとパートナーシップを結んだ[23]
  • 2021年7月、ネスレが培養肉市場に参入する計画を発表[24]
  • 2021年11月、ブラジルの世界最大手食肉企業JBSは、スペインの培養肉会社を1億ドルで買収することに合意[25]

価格[編集]

2019年現在のところ、高価であることが培養肉の課題の1つである[26][27]。動物倫理や地球温暖化などを理由にした畜産肉規制・忌避が行われ、金持ちは高価な人工肉が食べれるが、貧困層は安い加工食品を食べるしかなくなるという懸念もある[28]。しかし、技術の発展によって、従来の食肉と同等程度までに低価格化することができると予測されている[29][30]

実用化に向けた動き[編集]

21世紀において、いくつかの培養肉研究プロジェクトが実施されている[31]。2013年8月にオランダのチームによって世界初の培養肉ビーフバーガーが実現し、ロンドンでデモンストレーションとして食された[32]。ほか、2016年日本の有志団体によるDIYバイオによる製造実証[33][34]、同団体発のスタートアップによる培養フォアグラの製造[35]、2017年7月フィンレス・フーズ社による培養魚肉の製造[36]、2017年3月メンフィス・ミーツ社が家禽(鶏肉と鴨肉)の細胞培養肉などの事例がある。

2019年3月末には、JAXAが「宇宙食料マーケット」の創出を目指し、「Space Food X」というプログラムを立ち上げた。30以上の企業、大学、研究機関等が参加し、「培養肉」を含む宇宙で食料を地産地消できる技術の開発を行う。これは宇宙移民の実現に向けた動きの一環で、将来的には宇宙ステーション火星に培養肉の研究所または工場を建設する予定。[要出典]

2020年12月1日、シンガポールの食品庁は、Eat Just英語版社に対して、実験室で培養した鶏肉の販売を承認した。製品は人工培養した鶏の細胞から作られたもので[37]シンガポールのレストランでチキンナゲットとして2021年に提供された[38]現時点ではウシ胎児血清(FBS )が使用されているが、これは2年前に許認可申請を出した時点での製造方法で作られているためで、新開発のFBS不使用の製造方法が、許認可取得手続き中である[39]

脚注[編集]

  1. ^ Leonardo DiCaprio invests in cultivated meat firms Mosa Meat and Aleph Farms”. Food Navigator. 20210930閲覧。
  2. ^ FOOTPRINT COALITION CELLULAR AGRICULTURE”. FootPrint Coalition. 20211016閲覧。
  3. ^ 『Macintyre, Ben. “Test-tube meat science’s next leap”』The Australian、2007年1月20日。
  4. ^ Clean meat programme gets Central govt funding”. Devdiscourse. 20211016閲覧。
  5. ^ Dutch startup Meatable is developing lab-grown pork and has $10 million in new financing to do it”. 20211016閲覧。
  6. ^ “[https://www.nsf.gov/awardsearch/showAward?AWD_ID=2021132&HistoricalAwards=false Award Abstract # 2021132 GCR: Laying the Scientific and Engineering Foundation for Sustainable Cultivated Meat Production]”. 20211016閲覧。
  7. ^ スペイン政府がBioTech Foodsの主導する培養肉プロジェクトに約6億5千万円を出資”. 20211017閲覧。
  8. ^ EU Announces €32M in Funding For Sustainable Protein Research to “Spark Innovation””. 20211225閲覧。
  9. ^ USDA Awards $10 Million to Tufts University to Establish a Cultivated Protein Center of Excellence”. THE SPOON. 20211016閲覧。
  10. ^ Cultivated meat is transforming food production”. 20211206閲覧。
  11. ^ Google's Sergey Brin bankrolled world's first synthetic beef hamburger”. The Guardian. 20210930閲覧。
  12. ^ Popper, Nathaniel (2019年3月12日). “This Animal Activist Used to Get in Your Face. Now He’s Going After Your Palate. (Published 2019)” (英語). The New York Times. ISSN 0362-4331. https://www.nytimes.com/2019/03/12/technology/bruce-friedrich-animal-activist.html 2020年11月4日閲覧。 
  13. ^ a b PERCEPTION OF BELGIAN PEOPLE REGARDING CELL BASED MEAT. Ipsos.. (2019) 
  14. ^ a b “[https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000072660.html 多様で豊かな食文化をもつ日本人の次世代の食に関するアンケート 《第1回 細胞農業・培養肉に関する意識調査》結果発表]”. 20211226閲覧。
  15. ^ “[https://gfi.org/wp-content/uploads/2021/01/sustainability_cultivated_meat.pdf GROWING MEAT SUSTAINABLY: THE CULTIVATED MEAT REVOLUTION]”. The Good Food Institute. 20211016閲覧。
  16. ^ Chiles, Robert; Magneson (2013-12-01). “If they come, we will build it: in vitro meat and the discursive struggle over future agrofood expectations”. Agriculture and Human Values (Springer Netherlands) 30 (4): 511–523. https://doi.org/10.1007/s10460-013-9427-9 2015年2月3日閲覧。. 
  17. ^ a b A cross-country survey on the appeal of plant-based and clean meat in China, India, and the USA”. 20211226閲覧。
  18. ^ Largest investment means mass production of cultivated meat”. 20220113閲覧。
  19. ^ State of the Industry Report: Cultivated Meat”. The Good Food Institute. 20211016閲覧。
  20. ^ The Race to Bring Meat Alternatives to Scale”. 20211118閲覧。
  21. ^ ON MAY 2, 2018 Tyson invests in Jerusalem cell-cultured meat venture”. 20211118閲覧。
  22. ^ イスラエルのバイオテック・スタートアップSuperMeat、ドイツの畜産食肉大手PHWなどから300万米ドルを調達——3年以内に人工鶏肉を販売へ”. 20211118閲覧。
  23. ^ May 3, 2021 Brazilian giants invest in alternative proteins”. 20211118閲覧。
  24. ^ Nestle Eyes Lab-Grown Meat Market to Tap Future Growth”. 20211118閲覧。
  25. ^ BRAZIL'S JBS AGREES TO BUY SPANISH LAB MEAT FIRM IN $100 MLN PUSH INTO SECTOR”. 20211118閲覧。
  26. ^ 信州大学と細胞回収技術に関する共同研究を開始”. 時事通信社. 2019年10月31日閲覧。
  27. ^ Building a $325,000 Burger
  28. ^ 格差社会を助長する「人工肉」という新たな食文化 | ギズモード・ジャパン
  29. ^ Temple, James (2009年2月23日). “The Future of Food: The No-kill Carnivore”. Portfolio.com. http://www.portfolio.com/views/columns/dual-perspectives/2009/02/23/The-No-kill-Carnivore 2015年2月3日閲覧。 
  30. ^ Preliminary Economics Study of Cultured Meat Archived 2015年10月3日, at the Wayback Machine., eXmoor Pharma Concepts, 2008
  31. ^ Siegelbaum, D.J. (2008年4月23日). “In Search of a Test-Tube Hamburger”. Time. http://www.time.com/time/health/article/0,8599,1734630,00.html?imw=Y 2015年2月3日閲覧。 
  32. ^ World's first lab-grown burger is eaten in London
  33. ^ 培養肉作って食べてみた! Shojinmeat Project、2020年10月23日閲覧
  34. ^ "Shojinmeat Project"~自宅で作る培養肉、2020年10月23日閲覧。
  35. ^ “培養フォアグラ”の開発に日本のベンチャーが成功! 気になる味や値段を担当者に聞いた 、2020年10月23日閲覧。
  36. ^ Finless Foods: Pollution-Free Fish, Thanks to Biotech Indie Bio、2020年10月23日閲覧。
  37. ^ シンガポール、人工培養鶏肉の販売を承認 世界初”. CNN (2020年12月3日). 2020年12月4日閲覧。
  38. ^ 培養肉のチキンナゲット、初の販売開始 「安全で健康」”. 朝日新聞. 2021年4月1日閲覧。
  39. ^ Future Food Now #13: Cell-based meat in Asia Pacific”. 20211118閲覧。

関連項目[編集]