仔牛肉

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動
仔牛肉の写真

仔牛肉(こうしにく、「子牛肉」とも表記 : Veal : veau)は、未成熟の若いあるいは幼いとくという[1][2])(英語: calf, カフ、複数形はcalves, カーヴズ)の肉である。料理書などで英語、フランス語の翻字による外来語で載っていることの方が多い。

概要[編集]

仔牛肉は、外見は牛肉より明るいピンク色をしており、肉質が緻密で脂肪分が少なく、柔らかで、いわゆる「牛臭さ」がなく、淡泊な味わいである。欧米では普通の牛肉よりも高級な食材とされ、カツレツシュニッツェルなど)やソテーなど、様々な用途に使われている。特にフランス料理イタリア料理では古くから好まれている食材である。

さらに幼い、乳離れしていない仔牛肉をmilk fed veal, 乳飲み仔牛肉 といい、いっそう淡泊な味である。

仔牛肉用には、成牛としての需要が少ない雄の乳牛の仔牛が充てられることが多い。日本ではまだ需要があまりないことから一部北海道などで少量生産にとどまっている。ほとんどは、海外オーストラリアニュージーランドカナダなどで生産されたものが、冷凍肉として輸入供給されている。

生産方法[編集]

ヌレ子ヴィール(乳飲み仔牛肉)
主にホルスタインの雄を生後数日 - 10日程度、母牛の乳主体で飼養し、体重45 - 70kgで屠殺した仔牛肉。肉質は特別柔らかくはなく、繊維が細かく締まっている。
ホワイトヴィール(ほ育仔牛肉)
最高級の仔牛肉。主に雄を、生後まもなくクレート(ストール:固定された囲い)へ収容し、18 - 20週の間、特別に調整された代用乳で飼養し、体重200kg前後で屠殺したもの。明るく、ピンク色の肉であるほど、高級とされ、高値で取引される。
肉の色は子牛の筋肉の鉄分量と関係があり、子牛には鉄分の給与制限が推奨される[3]。代用乳には鉄分は微量しか含まれていない。鉄分不足を補うために、仔牛が鉄枠や自分の尿をなめたり(尿には少量の鉄分が含まれる)、牧草や土に含まれる鉄分を摂取するなどの行動を防ぐため、一般的に木の枠でできた、振り返って自分の尿をなめることができないサイズの、狭いクレート内で飼養される。鉄分不足により、肉は非常に明るく、淡いピンク色になる。また自由に動くことのできないクレートに収容することにより、筋肉が発達せず柔らかい肉ができる。

子牛肉生産における動物福祉の懸念[編集]

子牛肉生産における制限された飼育スペースは、非人間的であると考えられている。

子牛が出荷されるまでの死亡率は10 - 15%と高く[4]、子牛肉の生産におけるいくつかの方法は動物福祉の問題が指摘されている。 欧州連合では、2007年から子牛のクレート(ストール:固定された囲い)飼育は禁止されている[5]。また、フィンランドでは子牛肉生産における鉄分の栄養制限は禁止されている[6]

なお、日本での子牛肉生産は限定的であるため[7]、国内で消費される子牛肉は輸入ものが多いと推定される。

早期離乳[編集]

自然放牧による昔の飼育法では、子牛が母牛から自然離乳するのは5- 6ヶ月齢だが[8]、現代の子牛生産では個体管理のため、子牛は通常、産まれて3日以内に母牛から分離される[9]。このことが子牛の精神面・情緒面で問題をもたらす。母牛の乳首に吸い付く強い欲求が絶たれることで、舌遊び行動(下を口の外に長く出したり、左右に動かしたりする行動)などの葛藤行動(欲求不満状態で認められる行動)を引き起こしやすくなる[10]

制限された飼育スペース[編集]

運動をさせると肉質が硬く赤くなってしまうため、クレート(ストール:固定された囲い)に閉じ込めたり繋ぐなどして、運動ができないように飼育スペースが制限されることがある[11]。子牛の運動を抑えるために畜舎では照明が落とされている。[12]これにより歩く、走るなど、子牛が自然界で行う行為ができなくなり、子牛の健康状態に異常が発現する。一般的に、クレートの幅が狭くなるにつれ肘の腫れは増加し、出荷前に子牛をクレートから出した際、躓いたり歩行困難の状態にある場合もある[13]

また、自然な行動を制限されることにより、歯軋りをしたり、仕切りの側面を噛み続けたり、尾を振り続けたり、舌を動かし続けたりなどの常同行動(同じ行動を繰り返し行う異常行動)が観察されている[14]

栄養制限による病気[編集]

通常子牛の血中ヘモグロビン濃度は7mmol/lだが、子牛肉生産においては約4.6mmol/lに制限される[5]。血液ヘモグロビン濃度が4.5mmol/l未満になると、子牛の感染症の増加、免疫力低下の兆候があらわれる[13]

また、胃が四つの部屋からできている反芻動物である牛は、牧草やワラなどの粗飼料が主食であるが、粗飼料には鉄分が含まれるため一般的に給餌されず、代わりに代用乳が与えられる。敷料であるワラも排除される場合がある。この栄養制限は、ルーメン(第一胃)の正常な発達を歪め、胃潰瘍を含む消化器障害や、慢性的な下痢をもたらす[4]。反芻欲求は満たされない。[12]

カツレツ[編集]

仔牛肉のカツレツ

日本へ伝わった「カツレツ」は、この仔牛肉などのソテー料理である。その後、トンカツのように多量の油で揚げられる「カツ」が主流になってからは、仔牛肉を含む牛肉を使用したカツレツもカツも豚肉に主流が移って行った。

[編集]

  1. ^ - Yahoo!辞書
  2. ^ とくの使用例と畜検査頭数
  3. ^ 飼料会社プロヴィミ社会報「The Stall Street journal」
  4. ^ a b 米ブリストル大学による研究報告「Improved Husbandry Systems for Veal Calves」
  5. ^ a b "About calves reared for veal". Compassion In World Farming https://www.ciwf.org.uk/farm-animals/cows/veal-calves/
  6. ^ "Finnish Animal Welfare Act of 1996" http://www.finlex.fi/en/laki/kaannokset/1996/en19960247.pdf "The Finnish Animal Welfare Decree of 1996" http://www.finlex.fi/en/laki/kaannokset/1996/en19960396.pdf
  7. ^ エーリック畜産の情報 2014年6月号「フランスの子牛肉の生産実態と市場」 http://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2014/jun/wrepo01.htm
  8. ^ 日本家畜臨床感染症研究会誌巻3号2009年「哺乳育成期子牛の栄養管理が発育に及ぼす影響」
  9. ^ 米国農務省 Veal from Farm to Table https://www.fsis.usda.gov/wps/portal/fsis/topics/food-safety-education/get-answers/food-safety-fact-sheets/meat-preparation/veal-from-farm-to-table/CT_Index
  10. ^ 「黒い牛乳」2009年中洞正著書
  11. ^ "Europe plan for ban on veal crates". The Independent誌 Butler, C. (1995年12月14日) https://www.independent.co.uk/news/europe-plan-for-ban-on-veal-crates-1525606.html
  12. ^ a b ゲイリー・L・フランシオン. 動物の権利入門. 緑風出版. p. 66. 
  13. ^ a b "The case against the veal crate: An examination of the scientific evidence that led to the banning of the veal crate system in the EU and of the alternative group housed systems that are better for calves, farmers and consumers" (PDF). Compassion in World Farming McKenna, C. (2001年) https://www.ciwf.org.uk/media/3818635/case-against-the-veal-crate.pdf
  14. ^ オランダのG.van Puttenによる研究報告「Some General Remarks Concerning Farm Animal Welfare in Intensive Farming Systems」