ジビエ

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捕獲されたジビエ(Giuseppe Recco作)

ジビエ: gibier)とは、狩猟によって、食材として捕獲された野生の鳥獣である。主にフランス料理での用語。主に畜産との対比として使われる。狩猟肉。

本来はハンターが捕獲した完全に野生のもの(: sauvage、ソヴァージュ)を指すが、供給が安定しない、また入手困難で高価になってしまうといった理由で、飼育してから一定期間野に放ったり、また生きたまま捕獲して餌付けしたものもドゥミ・ソヴァージュ(: demi sauvage、半野生)と呼び、ジビエとして流通している[1]

近年ではフランス料理に限らず、狩猟から供給される鳥獣肉を使った料理にジビエと入れるケースがある[2]。ジビエを珍味と称して生食するのは感染症肝炎のリスクが有り、大変危険である[3]

工程[編集]

ジビエのハンティングには、大変気を遣う。銃弾によって可食部分が大きく損傷してしまったり、内臓が飛び散って味が悪くなってしまってはいけない。ジビエ特有の獣臭は血抜きの技術に大きく左右され、血が残っているほど臭いは強くなる。逃げ回った獣は体温が上昇しており、なるべく早く肉を冷やさないと急速に腐敗する。そのため仕止めた後も血抜きや解体といった処理を迅速かつ適切に行う必要がある。解体は内臓を摘出し、一旦きれいな水で肉を冷却し、皮を剥いで脱骨や精肉をする。通常は獲ってすぐに食べるのではなく、数日から1か月をかけて熟成(: faisandage、フザンダージュ)させてから調理する[4]

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野生の鳥獣は冬に備えて体に栄養を蓄えるため、秋がジビエの旬となる。これはジビエのの内容物を調べることでよくわかる。冬季にはジビエの餌となる果実などが減少するため、年越し頃から一般に肉質は低下する。また、繁殖期前は脂が乗り味が良くなるが、繁殖期を過ぎると一気に味が落ちる[5]夏バテをしやすい動物もいる。旬を見極めるには知識が必要だが、古くから狩猟によって食料を得てきたヨーロッパの人々にとっては、身近であると同時に無くてはならない食材である。

主なジビエ[編集]

鳥類[編集]

マガモcolvert、コルヴェール)
血の色が濃く、野趣に満ちた味を持つ。雌の方が脂肪層が厚く、風味も強いとされている。ちなみにコルヴェールとは「緑の首」という意味であり、日本語での鴨の異称である「青頸」と同義である。
アヒルcanard、カナール)
鴨が家禽化されたものだが、ドゥミ・ソヴァージュによってジビエとなる。シャランデ鴨(Canard challandais)が特に有名で、雛を一週間飼育した後に2か月ほど自然の中で生育させる。屠殺する場合は針を打って仮死状態にした後、窒息死させる。
ヤマウズラperdreau、ペルドロー)
ヤマウズラ(ペルドリ)
代表的な鳥のジビエ。1歳以下の若鳥をペルドローといい、それ以上をペルドリ(perdrix)と呼んで区別する。肉質は淡白な灰色のもの、野性味の強い赤色のものとがある。現在出回っているものはほとんどがドゥミ・ソヴァージュである。
キジfaisan、フザン)
キジもポピュラーなジビエである。雄より雌の方が肉質が柔らかく、珍重される。なお、肉の熟成を意味する「フザンダージュ」は、キジのフランス名に由来している。
ライチョウgrouse、グルーズ)
日本では天然記念物であるため狩猟できないが、フランスでは比較的よくみかけるジビエ。肉は赤身で独特の香りがある。エゾライチョウは狩猟対象ではあるが、減少傾向にある[6]
ヤマシギbécasse、ベカス/ベキャス)
肉質は柔らかく、ジビエにしては繊細。内臓が特に珍重され、付けたまま料理される。また、裏漉しした内臓をソースに加える料理も多い。非常に希少価値が高く、乱獲されたため、こちらは逆にフランスで禁猟となっている。

獣類[編集]

野ウサギlièvre、リエーヴル)
ジビエの中ではクセが強く、また肉質も硬くパサつきやすい。火の入れ方、スパイスハーブの使い方など調理に気を遣う食材である。1匹を丸ごと煮込む、ロワイヤルと呼ばれる調理法が代表的である。また、血をソース(シヴェ・ソース)のつなぎに使って野性味を強調することも多い。一方、家禽のウサギはラパン(lapin)と呼ばれ、リエーヴルよりも淡白な味わいで知られる。
シカchevreuil、シュヴルイユ)
クセの少ない淡白な赤身肉。ヨーロッパでは2歳くらいのものを使う。頭や首の急所を狙って一発で即死させないと暴れて肉に血が回ってしまうため、ハンターの腕が問われるところである。血抜きも即座に行わなくてはならない[7]
イノシシsanglier、サングリエ)、仔イノシシmarcassin、マルカッサン)
日本では成獣を狩るが、フランスでは肉が硬くなるのを嫌って、まだウリ坊の幼獣を対象とする。味、料理法等は豚肉に準じる。
クマours、ウルス)
肉の大半は脂身で、口どけが良い。赤身は筋張って臭みがある。発酵温度が非常に高く、冷蔵庫では腐敗するので冷凍に近い温度で熟成させる。シカやイノシシと違い、脱骨済みの部位で流通している[8]

日本におけるジビエ[編集]

日本で一般的に肉食が広まったのは明治時代以降とされているが、それ以前にも狩猟・肉食の文化はあった。マタギやシカリといった猟師がシカやクマ、イノシシを獲っていたし、海から離れた山岳地ではツグミやキジなどの野鳥も食べられていた。ウサギを一羽二羽と数えるのも、鳥と偽りながら食べられていた名残である。そうした意味においては、日本人もジビエを食べてきたといえる。

フレンチ食材としてのジビエは、1990年代の中頃から日本に輸入されるようになった。ピジョン、コルヴェール、ペルドロー、フザン、リエーヴル、シュヴルイエなどがフランスから入ってきている。ただし全てがフランス産という訳ではなく、ベルギーイタリアスペインドイツ、さらにはオーストリアなどで獲れたジビエがいったんフランスに集められる。これは日本における検疫の都合によるものである。テレビ番組「料理の鉄人」で「ジビエ対決」が組まれるなど、知名度が上がるにつれて、ジビエ料理を出すレストランも増えてきている。

現在日本ではジビエを入手するには専門の業者・肉屋に依頼する方法が一般的だが、国内の猟師とつながりのある肉屋、または食肉処理施設を持つ猟師から直接買い付ける方法もある。ジビエの品質は年齢や性別など肉質が不揃いで当たり外れがあり、実際に捌いてみないと確認できない事も多い。また、費用や労力がかかる上に安定供給できない効率の悪い商材のため、相場感も独特である。ジビエの流通では信頼関係や目利き、経験が重要となる[9]

長野県では、農作物のシカによる食害に悩まされていることから、生息密度をコントロールするために、毎年一定量の駆除を行っている。しかし捕獲されたシカが食肉として利用されることは少ない。例えば2006年に長野県で駆除されたニホンジカ約9,200頭のうち、食肉となったのは820頭で僅か9%に過ぎない。大半はハンターに自家消費されたり、山中に埋設されたりしている。そうした中、捕獲したシカを「モミジ鍋」ばかりではなくジビエとして消費を拡大し、地域振興につなげようという動きも出始めている。長野県大鹿村などでの取り組みが代表例としてあげられるが、近年は全国各地の自治体も取り組み始めている[10]

脚注[編集]

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参考文献[編集]

  • 谷昇 著 『ル・マンジュ・トゥー 素描するフランス料理』 柴田書店 2003 ISBN 978-4-388-05905-8
  • 神谷 英生 『料理人のためのジビエガイド』 柴田書店、2014年ISBN 9784388062003 

関連項目[編集]