畜産

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畜産(ちくさん)は、動物のうち家畜家禽繁殖飼育または肥育し、乳製品皮革など畜産物を得て生活に役立てる産業である。飼育する動物が水棲生物である場合には、養殖と呼ぶことが一般的である。畜産を営む農家は、特に畜産農家または畜産家と呼ばれる。

放牧により畜産をする場合には牧畜とも言う。を得ることを目的とする場合には酪農と言う。

畜産業を営むためには、「化製場等に関する法律」に基づく保健所都道府県)の許可が必要になる。業としない場合でも、同一地域に一定数以上の家畜を飼育する際には該当する。

畜産は食糧確保の手段である一方で、環境問題や倫理問題等の問題があるという指摘がなされており、畜産に反対する運動や主張[1]もなされている。

飼育される主な動物[編集]

ウシ
母牛を飼育し、交配させて子牛を得てそれを販売する農家を繁殖農家と言い、子牛を購入して飼養し、主に肉牛として販売する農家を肥育農家と言う。乳牛を飼養し、乳を主に販売する農家については酪農家と言うが、乳牛の加齢等により乳の生産量が採算水準を下回ると乳牛を廃牛にし、肉用として販売することが多い。アメリカ大陸では大需要地である都市から遠く離れた経費の低い地方で繁殖を行い、ある程度育った若牛を群にして数人の騎乗の牧人が数週間をかけて都市に近い牧場へ輸送し、そこで肥育してから屠畜場に送るというスタイルをとる場合も多い。
ブタ
養豚(ようとん)。飼育された豚は、ほとんどが食肉(豚肉)用として出荷される。ペット用の品種であるミニブタの繁殖・販売については、養豚扱いする自治体としない自治体がある。また、イノブタというブタとイノシシのハーフも存在し、発祥地である和歌山県が主産地になっている。
ニワトリ
養鶏(ようけい)。主に採卵(鶏卵)を目的とする場合と、食肉(鶏肉)を目的とする場合。そしてそれらの種鶏を得る種鶏場がある。採卵目的のニワトリが産卵率の低下により廃鶏とされると、通常の食肉にされることはほとんどなく、主に加工食品に利用される。(ごく稀にだが)ペット用として観光牧場やニワトリスト(愛鶏家)に引き取られることもある。また、チャボなどの愛玩鶏の繁殖・販売は、愛玩鶏の多くが天然記念物に指定されている品種が多く、「種保存の意味合い」で養鶏にあたる。
めん羊
羊毛・食肉(羊肉)・乳を目的とする。オーストラリアニュージーランドに多く、日本では少ない。
ヤギ
・食肉・乳を目的とする。観光展示用に飼っている所もある。
ウマ
アメリカ合衆国とオーストラリアが中心。乗用(乗馬)や競馬用の軽種馬中間種の繁殖・育成が多い。その他、観光用・肉用(馬肉)など雑多。日本では、北海道日高地方鹿児島県大隅地方が軽種馬の代表的な産地である。一方、肉用馬は青森県南部地方(県の東部)・山梨県長野県熊本県が主産地。
ラクダ
中東諸国が中心。肉・乳・毛の採取以外にも、乗用や競駝としての利用がある。
ダチョウ
肉・革・卵・観光用。
アヒル
肉・卵・観光用。
ホロホロチョウ
肉・観光用。和歌山県の名産品。
ミツバチ
養蜂(ようほう)。蜂蜜蜜蝋などを採取するほか、園芸栽培において受粉をするために飼育する農家も存在する。岐阜県が近代養蜂の発祥地。
カイコ
養蚕(ようさん)。絹糸蚕沙を採取する。日本の行政では、養蚕は畜産扱いされていない[注釈 1]。衰退気味であるが、近年は[いつ?]人工血管や手術用の糸(縫合糸)などの医療用材料として再注目され始めている。
カブトムシ
幼虫の頃から養殖し、成虫になってまもなく全国のデパート等に出荷する。
イヌ
番犬盲導犬警察犬など用途は多数。
ガチョウ
肉・卵・羽毛を目的とする。また、ガチョウの脂肪肝化した肝臓世界三大珍味の一つとして知られるフォアグラであるが、生産過程で強制給餌を伴うことから、動物虐待に当たるとして生産や販売を禁止する動きが広がっている。

流通業の進出[編集]

畜産は、もともと農業の一部として行われていたが、近年[いつ?]流通業の食肉加工業者が幅広く契約農家を育成してきたことから、単独で畜産業を営む場合が増えている。食肉加工業者は、将来の出荷量を見越して契約農家に飼料を提供し、飼育させている。契約農家では、自らの投資を押さえた上で経営の拡大を進めることができ、安定した出荷先を確保することができる。

契約農家以外でも、近年の[いつ?]消費量の拡大により市場が発達したため、大規模化・集約化を進めることにより畜産業専業の経営を行えるようになった。なお、既存の田畑は、飼料作物の生産に当てている場合が多い。

また畜産業でも分業が進んでおり、繁殖用の雌畜に良質な子畜を産ませて出荷する畜産農家(→子取り農家)、前記の農家から子畜を買い入れて食用として肥育してから出荷する畜産農家、繁殖から肥育までを一貫して行なう畜産農家などに分かれて専業としている場合もある。

養鶏や養豚といった中小家畜々産は、近年[いつ?]急速な企業化が進み、企業化した農業法人が事業として行うケースが急増している。

畜産の問題[編集]

Worldwatch Institute英語版によると、「先進国の食肉消費量の大幅な削減は、公衆衛生を改善し、健康管理の負担を緩和し、放牧地穀倉地帯の負担を減らし農業資源の再生を促す。また、土地と水資源をより効率的に利用すると同時に、世界の飢えた人々に安い価格で穀物を供給できる」としている[2]。畜産には次のような問題があると言われている。

資源の消費[編集]

畜産は淡水使用の20%から33%を占め[3]、肥沃な土地の3分の1を使用し[4][要検証]、食用作物の収穫量のうち36%が畜産の飼料にされたという報告がある[5]

1970年代、フランシス・ムア・ラッペは、畜産はタンパク質を得る目的としては効率が悪いと述べた。植物から畜産物へのタンパク質変換効率は、鶏肉が40%、豚肉が10%、牛肉が5%というデータがある。

穀物や牧草を家畜飼料にして得られる食肉より、同じ土地面積に人間が直接食べる農作物を作付けする方がより多くの人の食料を生産できる。食用作物を全て人間が直接食べることで、人口扶養力が世界平均ヘクタール (ha) あたり6人(バイオ燃料等その他消費を飼料の4分の1含む)から10.1人に上昇するという試算がある[5]。飼料生産のために消費される化石燃料温室効果ガス放出の原因となる)や水資源(仮想水を参照)も節約できる。コーネル大学の David Pimentel 教授は、「豆腐タンパク質1カロリーを生産するのに化石燃料は2カロリーしか必要としないが、牛肉タンパク質1カロリーを生産するのには化石燃料が40カロリー必要だ」としている。Water Education Foundation英語版は、「カリフォルニア州では1ポンドの牛肉を生産するのに2,464ガロンの水が必要」としているが、1ポンドの小麦を生産するために必要な水はわずか25ガロンである[6]

しかし、家畜飼料稲は人間の食用種とは品種が異なるため、食用農作物を育てることが難しい土地でも飼料用農作物を作付けすることができる場合がある[5]

地球温暖化[編集]

ウシやヒツジ、ヤギなどの反芻家畜は、温室効果ガスであるメタンガスの主要な発生源の一つとされている。家畜から排出されるメタンガス抑制法についてはさまざまな研究が行われているが、決定的な解決法はまだ見つかっていない[7]。農畜産業からの排出量は温室効果ガスの9~14%を占め[8]、そのうち、反芻家畜の消化管内発酵が40%(CO2等価)、家畜糞尿が16%と農畜産業全体の56%と畜産からの排出が多く[9]、中でも牛のメタン排出量は最も多く消化管内発酵の65-77%を占めている[8]

森林破壊[編集]

アマゾンでは伐採された森林の7割が畜産の放牧によるもので[7]牧草地になった面積は45万km2という[10]。牛肉が主な輸出品となっている中米ニカラグアでは、2011年から2016年の5年間に540km2の森林が草地に変わり、牛の放牧が広く見られる[11]

飢餓[編集]

肉類の消費量増加の意味は、飼料用の穀物消費量が増える → 国際市場における穀物の価格が上昇 → 貧しい人々が必要とする穀物を買えなくなることである。

栄養を十分に取れない飢餓人口は、2014年時点で約8億人に達している[12]。1997年から2003年の世界の食用作物41品目の収穫物のうち、36%は家畜飼料とされた[5]

しかし、地域的な貧困や食料分配の不公平も解決しなければ、菜食社会でも飢餓は発生し得る。このため、フランシス・ムア・ラッペは後に、『食糧第一-食糧危機神話の虚構性を衝く』の運動を起こした[13][信頼性要検証]

差別や偏見[編集]

食肉処理業務に対する差別や偏見があり、食肉市場に誹謗・中傷する手紙やハガキが送られることがある[14]

動物の権利[編集]

現代倫理学では工場畜産は否定されている[15]。動物倫理学は動物と人間の関係を扱うもので、動物解放論はその主要な立場であり[15]、代表的な論者として功利主義のP.シンガーと権利論のT.レーガンが挙げられる[16]。いずれも工場畜産を否定しているが、T.レーガンは殺すこと自体を否定している[17][信頼性要検証]。法学者で動物の権利を主張するフランシオンは、一般に不必要な動物への危害は避けるべきだとされているが、肉食も不必要な危害の禁止に反し、やめるべきだと指摘する[18]

水源汚染(糞尿問題)[編集]

畜産業の発達と郊外の都市化が進んだことにより、畜産農家が排出する大量の糞尿臭気およびハエなどの害虫が住宅街に影響を与える場合が増えている。その土地で長年畜産業を営んできているにもかかわらず、後から移り住んだ者が農家に対して苦情を申し出ている場合が多いが、糞尿の消臭・処理対策に限界があり、後継者不足も伴って廃業を余儀なくされるなど根本的な解決手段は見つかっていない。畜産動物の糞尿の不適正処理で、クリプトスポリジウム硝酸性窒素等による河川や地下水等が汚染される[19]

動物福祉[編集]

次の行為等は畜産動物に対して苦痛等を与え、問題だとされている。

病気[編集]

ヒトを含めて野生動物を日常的に食する習慣から、ウイルス細菌性の感染症にかかるリスクがわかってきている[注釈 2]。さらに野生動物を家畜化することで、を媒介とする感染症にかかる畜産物もありながら、これらを駆除する方法も歴史的に重ねられている。中華人民共和国においては、ヒトが野生動物を食する習慣を一掃する取り組みと同時に内陸部における所得の向上策がおこなわれている[35]。医薬品を製造するにあたって動物実験を行いヒト臨床治験の前段階としているが、コンピュータによる生理科学計算がノーベル賞を受賞している段階にある。また、核酸編集技術から人工臓器の作成を目的としたものもある。

脚注[編集]

[脚注の使い方]

注釈[編集]

  1. ^ 農林水産省生産局には農産部と畜産部があり、農林水産省組織令第54条第1号により、蚕糸の生産等に関することは工芸農作物いも類と同じ農産部地域作物課の所掌事務とされている。
  2. ^ 2019新型コロナウイルス[要追加記述]

出典[編集]

  1. ^ “動物はごはんじゃないデモ行進2016レポート”. 動物はあなたのごはんじゃない (アニマルライツセンター). (2016年6月14日). http://www.hopeforanimals.org/event/shutdonwallslughterhouses2016/ 2018年5月9日閲覧。 
  2. ^ United States Leads World Meat Stampede”. Worldwatch Institute (1997年7月2日). 2018年10月2日閲覧。
  3. ^ Mesfin M. Mekonnen, Arjen Y. Hoekstra (2012). “A Global Assessment of the Water Footprint of Farm Animal Products” (PDF). Ecosystems 15: 401-415. doi:10.1007/s10021-011-9517-8. http://waterfootprint.org/media/downloads/Mekonnen-Hoekstra-2012-WaterFootprintFarmAnimalProducts.pdf. 
  4. ^ 増谷康. “フィンテックの次にフードテック・ブームが来ると確信できる10の理由”. フォーブス日本. https://forbesjapan.com/articles/detail/21177 2018年10月3日閲覧。 
  5. ^ a b c d No.244 穀物を家畜でなく人間が直接食べれば、世界の人口扶養力が向上”. 西尾道徳の環境保全型農業レポート (2014年1月24日). 2018年5月10日閲覧。
  6. ^ Lillie Ogden. “The Environmental Impact of a Meat-Based Diet”. Vegetarian Times. https://www.vegetariantimes.com/life-garden/the-environmental-impact-of-a-meat-based-diet 2018年5月16日閲覧。 
  7. ^ a b 国連食糧農業機関(FAO) (2006). LIVESTOCK'S LONG SHADOW (Report). http://www.fao.org/3/a0701e/a0701e00.htm. 
  8. ^ a b ipcc (2021-02-08). SPECIAL REPORT: SPECIAL REPORT ON CLIMATE CHANGE AND LAND -CH05 Food Security- (Report). https://www.ipcc.ch/srccl/chapter/chapter-5/. 
  9. ^ 国際連合食糧農業機関(FAO); 国際農林業協働協会 (2016). 世界食料農業白書 2016年報告 (Report). pp. 38. http://www.fao.org/3/i6030ja/I6030JA.pdf. 
  10. ^ Cattle Ranching in the Amazon Region”. Global Forest Atlas. 2018年5月16日閲覧。 イェール大学
  11. ^ Wilder Pérez R. (2017年3月27日). “Cattle ranching threatens core of Biosphere Reserve of Southeast Nicaragua”. Mongabay. 2018年5月10日閲覧。
  12. ^ “世界の飢餓人口は減少、しかし今だ8億500万人が慢性的に栄養不足”. UN World Food Programme. (2014年9月19日). http://ja.wfp.org/news-release/140919 2018年5月16日閲覧。 
  13. ^ 平賀緑. “食糧第一: 世界飢餓と食糧・食料問題のページ”. ジャーニー・トゥ・フォーエバー. 2018年5月16日閲覧。
  14. ^ 偏見・差別について”. 東京都中央卸売市場. 2018年5月9日閲覧。
  15. ^ a b 伊勢田哲治動物福祉と供養の倫理」『関西実験動物研究会会報』第127回研究会、関西実験動物研究会、2016年12月、 6-22頁。
  16. ^ 動物の心と動物解放論」(PDF)『生命・環境・科学技術倫理研究VI』、千葉大学、2001年、176-183頁。
  17. ^ “「動物の権利」を主張するとはどういうことか (動物の「道徳的権利」と、その他の意味合いでの「権利」)”. 道徳的動物日記. (1397440508). http://davitrice.hatenadiary.jp/entry/2014/04/14/105508 2018年5月10日閲覧。 
  18. ^ ゲイリー・L・フランシオン『動物の権利入門』緑風出版、2018年、88頁。
  19. ^ 佐藤弘康. “畜産環境問題の現状と対策について 畜産の情報 1998年6月”. 農畜産業振興事業団. 2018年5月9日閲覧。
  20. ^ 牛肉にされるために飼育される牛”. アニマルライツセンター. 2018年5月9日閲覧。
  21. ^ ミルクを生産するために使われる牛たち”. アニマルライツセンター. 2018年5月9日閲覧。
  22. ^ “乳牛の尾の切断”. 動物はあなたのごはんじゃない (アニマルライツセンター). (2016年7月7日). http://www.hopeforanimals.org/dairy-cow/466 2018年5月9日閲覧。 
  23. ^ “宗教と畜-日本で行われている気絶無しの牛の屠殺”. 動物はあなたのごはんじゃない (アニマルライツセンター). (2017年1月17日). http://www.hopeforanimals.org/slaughter/329/ 2018年5月10日閲覧。 
  24. ^ “子豚の尾を麻酔なしで切断”. 動物はあなたのごはんじゃない (アニマルライツセンター). (2015年12月31日). http://www.hopeforanimals.org/pig/430 2018年5月9日閲覧。 
  25. ^ “子豚の歯を麻酔なしで切断”. 動物はあなたのごはんじゃない (アニマルライツセンター). (2016年1月22日). http://www.hopeforanimals.org/pig/426 2018年5月9日閲覧。 
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  27. ^ “ブタの去勢 麻酔なし”. 動物はあなたのごはんじゃない (アニマルライツセンター). (2015年6月30日). http://www.hopeforanimals.org/pig/336 2018年5月9日閲覧。 
  28. ^ “採卵鶏のあまりにも酷い最期の一日 加工肉用に殺される採卵鶏たちは身動きが取れない中、卵と糞尿まみれで長時間放置されていた”. 動物はあなたのごはんじゃない (アニマルライツセンター). (2018年4月4日). http://www.hopeforanimals.org/eggs/chickens-are-left-for-long-hours-before-slaughtering/ 2018年5月9日閲覧。 
  29. ^ “ウィンドレス鶏舎が増える日本、減る世界”. 動物はあなたのごはんじゃない (アニマルライツセンター). (2017年11月10日). http://www.hopeforanimals.org/broiler/542 2018年5月9日閲覧。 
  30. ^ “シャックリング(懸鳥)の苦痛-鶏の屠殺”. 動物はあなたのごはんじゃない (アニマルライツセンター). (2017年5月3日). http://www.hopeforanimals.org/slaughter/529 2018年5月9日閲覧。 
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  34. ^ フォアグラ”. www.hopeforanimals.org. 2018年10月2日閲覧。
  35. ^ 中国疾病预防控制中心”. 中国疾病預防控制中心. 2020年3月25日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]