ソーセージ
ソーセージ(英語: sausage)は、鳥獣類の挽肉または刻み肉を塩や香辛料で調味し、食べられる袋状の物(ケーシング)に充填した食品。伝統的な保存食として世界各地でハムよりも古くから作られた。
日本語では、腸詰め(ちょうづめ)と表現される[1]。ドイツ語ではヴルスト(ドイツ語: Wurst)、フランス語ではソシス(フランス語: saucisse)と総称するなど、各地で同様の製法をとる食品にはさまざまな呼称がある。
歴史[編集]
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後期ラテン語のサルスス(salsus、「塩漬にした」)に由来するサルシキウス(salsicius)の単数女性形サルシキア(salsicia)から転じた古北部フランス語ソーシッシュ(saussiche)が語源[2]。
ホメロスの『オデュッセイア』に、山羊の胃袋に血と脂身を詰めた兵士の携行食として登場している[3]。
製法[編集]
原則として、肉・塩をケーシングに詰めて成型する(ケーシングを用いないものも存在する)。塩を入れる理由は、有害な微生物の増殖を抑制することと、筋繊維タンパクを溶解させ肉同士を結合させるためである。
種類によってはパン、小麦粉、米、オートミール、コーンミール、春雨など、デンプン質の素材を混ぜることもある。調理時にこれらが肉から出る水分や脂肪を吸収することで、ソーセージを縮みにくくさせるためである。
肉をケーシングに詰める作業には、絞り袋、もしくは専用の絞り器や「ソーセージフィラー」と呼ばれる機械を用いる。ソーセージフィラーはシリンダー状の本体に何らかの動力が組み合わされたもので、ケーシングを口金にセットして圧力をかけると挽肉が押し出される仕組みになっている。
保存食とする場合、こののちにしかるべき保存処理を行う。保存のための加工方法は空気乾燥、燻製、発酵、煮沸など多岐にわたる。このように、製造過程ですべての処理を済ませ、そのまま食べられるものを調理済みソーセージと呼ぶ。これを行わず、製造後数日経って食べることを想定したものを生ソーセージと呼ぶ[4]。
日本のソーセージ業界ではボツリヌス菌の繁殖を抑える目的で亜硝酸ナトリウム(発色剤)の添加が食品衛生法により義務付けられている。
種類[編集]
大きさ、原材料の動物、中に詰める肉の粗さ、調味料とその有無、肉と脂肪との比率、血液の有無、保存方法とその有無などは、地域や用途によって大きな差異が存在する。
製造法別[編集]
産地別[編集]
- ヨーロッパ・ロシアなど
- ドイツ - ヴァイスヴルスト、ブラートヴルスト
- ドイツのヴルストは、地名を冠して呼ぶことが多い。地方ごとに多種多様な形態があり、フランクフルト産の場合をフランクフルター・ヴルスト(フランクフルト風ソーセージ)と呼んでいる。
- 細くて長いテューリンガー・ヴルスト、短いニュルンベルガー・ヴルストやミュンヒナー・ヴルストなど、様々な種類がある。
- ドイツのソーセージに似た郷土料理に、赤身肉やジャガイモをメス豚の胃に詰めてゆでたプファルツ風のプフェルツァー・ザウマーゲン がある。また、メットをソーセージの中身のように調味して、パンなどに塗りつけ食するという料理法もある(メットヴルスト参照)[5]。
- オーストリア - もっとも簡単な食事としてソーセージを茹でて甘いマスタードとパンを添えて出す。茹でるソーセージには数種類ある。日本のウィンナーソーセージを2倍の長さにし、赤く染めていないものであり、子供も大人も好むフランクフルター(「フランクフルトのソーセージ」という意味)が最も一般的である。これはドイツの「ヴィーナー・ヴュルストヒェン」(ドイツ語版)と同類である。伝説ではフランクフルトでソーセージつくりを学んだ肉屋がウィーンで売り出したからお互いに「フランクフルトから来た」「ウィーン名物の」ソーセージと呼ばれるという。日本のウィンナー・ソーセージの長さのものは「ミニ・フランクフルター」、非常に長いものは「ザッハー・ヴュルステル」と呼ばれる。他にはチーズの入った ケーゼクライナーや、香辛料のパプリカが入った「デプレツィーナー」(ドイツ語版)などがある。
- オランダ - メトヴォルスト
- フランス - ブーダン、トゥールーズ、リヨネーズ、アンドゥイエット
- イタリア - サラミ、チポラータ、モルタデッラ(ボローニャソーセージ)
- 東ヨーロッパ諸国およびイスラエル - キシュカ
- スロヴェニア - クランスカ・クロバサ(クランスキーソーセージ)
- ポーランド - キェウバーサ
- ハンガリー - ハンガリーサラミ(コルバース
- ロシア - カルバサー
- スペインおよびラテンアメリカ諸国 - チョリソ
- ポルトガル - リングィーサ
- イギリス - ブラックプディング
- ドイツ - ヴァイスヴルスト、ブラートヴルスト
- アジア・中東・北アフリカなど
原料別[編集]
肉は、食のタブーに合わせた種類が用いられる。北アフリカでは豚肉の代わりにハラールの羊肉を使い赤唐辛子をきかせた腸詰があり、移民の多いフランスでも一般的である。ユダヤ人人口の多いニューヨークでは、牛肉製のフランクフルトやサラミが市販されている[6]。
日本[編集]
日本農林規格ではソーセージは、「肉を動物の腸などに詰めた食べ物」の総称であり、ウインナーやフランクフルト、チョリソーなどの種類がある。昔は、羊の腸を使ったソーセージをウインナー、豚の腸を使ったソーセージをフランクフルト、牛の腸を使ったソーセージをボロニアソーセージと定義していたが、製法が発達してケーシングには人工の薄い皮を使っている製品も誕生以降は動物の腸の種類ではなく、ケーシングの太さによって、呼び名の区別をしている。羊の腸より豚の腸の方が太いので、ウインナーよりフランクフルトの方が見た目が太く、牛の腸を使うイタリアのボロニアはさらに太くなっている。現行の定義でウインナーは「羊腸のソーセージ」又は「太さが20mm未満のソーセージ」の最小サイズ、フランクフルトは「豚腸のソーセージ」又は「太さが20mm以上36mm未満」、あまり普及していないがボロニアは「牛腸のソーセージ」又は「太さが36mm以上」の最大サイズとなっている。チョリソーは肉の製法が異なるソーセージの種類であり、一般的にソーセージがひき肉を使用するのに対して、刻み肉を使用したソーセージである。更に階級があり、特級を「豚肉、牛肉のみ使用。結着材料を一切使用していないモノ」、上級を「豚肉、牛肉のみ使用。結着材料は5%以下、でん粉含有率が3%以下」、標準を「羊、うさぎ、鶏など、牛豚以外を混合。結着材料は10%以下、でん粉含有率が5%以下」と定めている[7][8]。
日本のソーセージ史[編集]
1970年(昭和45年)に日本ハム・ソーセージ工業協同組合より発行された「食肉加工百年史」においても、今日肉製品と呼ばれているハム、ベーコン、ソーセージ類の製造がいつごろから開始されたかは明確には知りがたいとされている。食肉加工に関する文献では、1892年(明治25年)に博文舘より発行された農学士、今関常次郎の著書『農産製造萹』に腸詰の製法の記述がある。本格的な製法は、1910年(明治43年)2月1日から3月2日に渡る30日間、農商務省種畜牧場渋谷分場にて開催された豚肉加工講習会で、農商務省嘱託技師であった飯田吉英により都道府県派遣の技術者に公開された。飯田は米国イリノイ州に留学して豚肉加工技術を学んでおり、この加工技術は主に米国式のものである。
一方民業では、1910年(明治43年)にドイツ人コックであったマーチン・ヘルツが横浜市山下町にて小規模ながら純ドイツ式のハム・ソーセージの店を開き、外国人に販売していた。千葉県匝瑳郡東陽村(現・山武郡横芝光町)から、山下町にあった豚肉卸問屋であった江戸清に見習いに来ていた大木市蔵(以下、市蔵)は、1912年(明治45年)、マーチン・ヘルツに弟子入りドイツ式ハム・ソーセージの加工技術を学ぶ。1914年(大正3年)、第一次世界大戦が開戦となると日独は交戦国となり、ドイツ人であったマーチン・ヘルツは収容所へ入れられそうになったが、市蔵が当時の神奈川県知事に掛け合い、最小規模の食肉加工業を知事より許され、ヘルツと市蔵はハム・ソーセージの製造販売会社、合資会社サシズヤ商会を設立し市蔵が代表者となる。市蔵は大正6年11月1日に開催された「第1回神奈川県畜産共進会」に日本で初めて出品し、1920年(大正9年)に独立。横浜市元町1丁目に合名会社大木ハム製造商会を設立。自身の事業に励むかたわら、大正末期から昭和初期にかけて東京帝国大学や東京農業大学で食肉加工技術の講義を担当するとともに、農商務省の嘱託(無給)で各地で豚肉加工の講習会を行い技術を各地に伝えた。また、自身の工場にも多くの弟子を受け入れ、1人前になるとその技術を必要とする企業の要望に応じ派遣した。1937年(昭和12年)に発行された大木ハム製造商会のパンフレットには、市蔵が日本で初めて製造を始め、またその弟子数十人を全国に派遣しているとともに、大学等の講習会で教えを受けた者は万人を超えるとの記述がある。この流れに属するものは大木流と呼ばれている。
1915年(大正4年)9月から1920年(大正9年)1月までの間、千葉県千葉郡幕張町実籾(現・習志野市東習志野)に第一次世界大戦中に日本の捕虜となったドイツ兵約1000人が収容されていた「習志野俘虜収容所」があった。1918年(大正7年)高栄養価食品としてソーセージに注目していた農商務省は、ドイツ国内でソーセージ職人だったカール・ヤーン氏ら5人が収容所内でソーセージを製造している事を聞きつけ、千葉市に新設された農商務省畜産試験場の飯田吉英技師を収容所に派遣し、カール・ヤーン氏達からソーセージ製造の秘伝を公開してもらった。このソーセージ製造技術は農商務省の講習会を通じて、日本全国の食肉加工業者に伝わった。この事から、習志野市は「日本のソーセージ製法 伝承の地」といわれるようになった。また、捕虜となったドイツ人の何人かは日本にとどまり、ヘルマン・ウォルシュケ、アウグスト・ローマイヤー、カール・ブッチングハウスなどは日本にソーセージの文化を広める事に貢献するのであるが、当時は日常に親しまれていた食品ではなく、普及するまでには相当の時間を要した。一方、北海道では1919年に来日したカール・ワイデル・レイモンの功績が大きい。一般社団法人日本記念日協会は2015年(平成27年)から、11月1日を「ソーセージの日」と認定したが、これが1917年(大正6年)11月1日、「第1回神奈川県畜産共進会」に出品され(大木市蔵の作。出品名義は「江戸清」高橋清七)、品評会に出品された最初の国産品であったことに因む。
JAS規格による分類[編集]
日本では日本農林規格(JAS)によりさまざまなソーセージの独自規格が定められており、原材料や調理法やケーシング(腸もしくはフィルムの皮)によっていくつかの名称が付けられている。
- 原料別
- 魚肉及び鯨肉の原材料に占める重量の割合が15パーセント以上になると「ソーセージ」の規格を外れる。
- ケーシング・大きさ別
-
- ウインナーソーセージ - 太さ20ミリメートル未満で羊腸を使用したもの
- フランクフルトソーセージ - 太さ20ミリメートル以上36ミリメートル未満で豚腸を使用したもの
- ボロニアソーセージ - 太さ36ミリメートル以上で牛腸を使用したもの
- これらは名称の由来となった地名の製法と必ずしも一致しない。
- 加工法別
-
- セミドライソーセージ - 製品の水分量が55パーセント以下のもの
- ドライソーセージ - 製品の水分量が35パーセント以下のもの
赤いウインナー[編集]
日本独自の商品として、赤色102号、コチニール色素などで表面を赤く着色したウインナー・ソーセージがある。これは良質の素材を用いることができなかった昭和中期に考案されたもので、プレスハムなどと同様に発色の悪さを隠すための苦肉の策であったと伝えられている。しかしながら現在ではたこさんウィンナーに代表されるお弁当の定番として多くの日本人の支持を得ているほか、アニメなどを通じて日本固有の食材として海外にもその存在が認知されている。
ソーセージ料理[編集]
大きさによって、一本丸ごと使う場合もあれば、ハムのようにスライスする場合もある。
健康への影響[編集]
癌[編集]
IARC発がん性リスク一覧の発がん性があるとされるグループ1に加工肉が追加されている[9]。
食中毒[編集]
ソーセージはボツリヌス菌の語源である。ソーセージによる食中毒は、1,000年以上前から起きていたが、ハムとともに発症要因であると判明したのは1870年のことであった。このときラテン語でソーセージを意味する「ボトゥルス(botulus)」を元に「ボツリヌス(ボトゥリヌス)中毒」と名付けられ、のち1895年に原因菌のボツリヌス菌が発見された。
なお、ボツリヌス菌が作り出す毒素は100度で1-2分加熱すれば失活される。今日の日本では、食品メーカーから流通する製品の多くは加熱殺菌済みである。
ことわざ・比喩[編集]
- ソーセージと法律(政策)は作る過程を見ない方がいい
- ドイツのことわざ。どんなにきれいにまとまった良い政策でも、その立法過程(政治)は根回しなどで、醜悪であるということ。
- ソーセージの中身は肉屋と神様しか知らない
- ヨーロッパの箴言・ことわざ。真実とは当事者以外には分からないものなので、むやみに他人の言葉を信じて騙されないようにという意味。
- 両者とも、完成品であるソーセージからは実際に使われている肉の種類や添加物、製造現場の衛生状態などは判別困難であり、ひき肉(血や内臓などを混ぜることもある)や動物の腸など材料の姿も思い浮かばないことから。
- それはソーセージだ
- ドイツの言い回し。「それはどうでもよいことだ、それは大したことがない」という意味。
- ソーセージを投げてベーコンを得る
- ドイツの言い回し。「エビで鯛を釣る」の意味。当地では、ベーコンは細切れでなく巨大な塊で売っているため、「(小さな)ソーセージを投げて(巨大な)ベーコンを得る」というイメージになる。
- すべてには一つ終わりがある。ソーセージだけは二つある。
- ドイツの言い回し。もとあった箴言(どんな物事も必ず終わりを迎え、そしてそれは運命論的に必然たる結果に帰結するという意味)に、ごく当たり前の事実をジョークとして付け足した言葉。
- ダブルミーニングのネタとして
- ソーセージ/ウィンナー、またはその語が男性の陰茎を暗喩するダブルミーニングとしてギャグに使われることが多々ある(映画『オースティン・パワーズ』シリーズ、空飛ぶモンティ・パイソン『スパムの多い料理店』など)。
脚注[編集]
- ^ 大辞林 第三版
- ^ wiktionary:en:sausage
- ^ 宮崎正勝『知っておきたい「食」の日本史』角川ソフィア文庫・P217
- ^ Harold McGee 2008, pp. 165–167.
- ^ ドイツ美食マップ ソーセージ編 (メットヴルスト) ドイツニュースダイジェスト]
- ^ 21世紀研究会『食の世界地図』116頁 文藝春秋
- ^ “ウインナー、フランクフルト、ボロニアの違いは何...” (日本語). お問い合わせ | 丸大食品. 2021年10月2日閲覧。
- ^ “【ソーセージとウインナーの名前の違い】フランクフルトやボロニアソーセージ!呼び名の違いを簡単に解説「羊や豚、牛の腸の太さによって区別!JASマークの特級、上級、標準、特定JASは品質の違いがある」” (日本語). BIJOH (2020年7月22日). 2021年10月2日閲覧。
- ^ 国際がん研究機関 (2015-10-26). IARC Monographs evaluate consumption of red meat and processed meat (Report) . “WHO report says eating processed meat is carcinogenic: Understanding the findings”. ハーバード公衆衛生大学院 (2015年11月13日). 2017年5月6日閲覧。
参考文献[編集]
- Harold McGee 著、香西みどり 訳 『マギー キッチンサイエンス』共立出版、2008年。ISBN 9784320061606。
- ソーセージの日本農林規格