コチニール色素

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

カーマイン

カルミン

コチニール色素(コチニールしきそ、: cochineal extract)または、カルミンレッドKカルミンレッドMK-40カルミンレッドKL-80クリムゾンレーキナチュラルレッド4[1]C.I. 75470[1]E120は、染料あるいは食品添加物(天然着色料)として使用される赤色色素である。カルミン酸アルミニウム塩として得られる。カメムシ目カイガラムシ上科の一部の昆虫、特にアジア産のラックカイガラムシ、南ヨーロッパのケルメスカイガラムシ、メキシコのコチニールカイガラムシなどのメスの体を乾燥させ、体内に蓄積されている色素化合物をまたはエタノールで抽出して色素としたもの。その本質はアントラキノン誘導体のカルミン酸であることから、カルミン酸色素とも呼ばれる。カルミンの語源は欧州のケルメスカイガラムシ(タマカイガラムシ)から古代から中世に伝統的に抽出して用いられてきた色素に由来する。

製法・派生物[編集]

コチニールカイガラムシが密生した葉

現代では工業的に通常は乾燥させたラックカイガラムシ、エンジムシ(コチニールカイガラムシ)から温水・熱水などで色素を抽出する。アルミニウム塩として不溶化(レーキ化)させるとコチニールレーキという赤色顔料となり、かつては赤色絵具クリムソンレーキカーマインに使われた。しかし近年のクリムゾンカーマインは合成されたアントラキノンレッドに代替されている(一部メーカーではアリザリンレーキで代替している)。

ルネサンス期、ケルメスカイガラムシから得られたカルミンが毛織物用の高級染料として知られ、フランチェスコ・ディ・マルコ・ダティーニがこれを入手しようとしていた。同時期にレーキ化技術によって絵具に転用された。およそ一世紀を経て中南米がコンキスタドールの征服戦争の手に落ちると、エンジムシが生息し、伝統的にウチワサボテンを宿主として大量に養殖されてきたこの地域を領土として所有していたスペインはコチニールの正体を秘匿して新大陸産のカルミンとしてヨーロッパに売りつけ、巨額の富を築いた。

食品添加物[編集]

清涼飲料水菓子類、蒲鉾などの着色に使われており、著名なところでは、過去にリキュールカンパリ」がコチニール色素で着色されていた。加熱や発酵に対して安定だが、pHにより色調が変化し、酸性側でオレンジ色、アルカリ性側では赤紫色を呈する。またタンパク質が豊富な食品では紫色を呈するので、これを防止する場合にはミョウバンなどの色調安定剤を併用する必要がある。

各種の安全性試験(急性毒性・催奇性・発ガン性など)の結果に問題はなく、FAO/WHO合同食品添加物専門家委員会はコチニールレーキの一日摂取許容量を体重1kgあたり5mgと評価している。なお、コチニール色素は動物由来であることから、菜食主義や信仰上の理由から忌避されることがある。

アメリカ合衆国ではコチニール色素およびコチニールレーキの使用は規制されておらず、表示義務もない(検討中)。欧州連合ではコチニール色素およびコチニールレーキはE120として食品ごとに使用が認可されており、他の添加物と同様の表示義務が課せられている。日本ではコチニール色素は食品衛生法の既存添加物名簿に収載されており、他の添加物と同様の表示義務が課せられている。しかしコチニールレーキは指定添加物でも既存添加物名簿所収でもないため使用できない。

アレルギー[編集]

コチニール色素を使った食品や化粧品の製造に関わる人の間、または、これらを利用した製品の使用や摂取で、付着部位の腫れ[2]喘息アナフィラキシーショックなどのアレルギー発作が報告されている[3]。ただし、これらのアレルギー反応は、原料のエンジムシ由来の特定のタンパク質が原因物質だろうと考えられているが[4]、色素自体がハプテン抗原として反応する可能性を示唆する報告もある[4]。これらの対策として、得られた色素を低アレルゲン化処理を施したり、別の色素で代替している。

出典[編集]

  1. ^ a b Dapson, Rw; Frank, M; Penney, Dp; Kiernan, Ja (2009). “Revised procedures for the certification of carmine (C.I. 75470, Natural red 4) as a biological stain”. Biotechnic & Histochemistry 82 (1): 13–15. doi:10.1080/10520290701207364. ISSN 1052-0295. 
  2. ^ 「魅惑の赤色口紅」が原因でアナフィラキシーに 日経メディカル 2022/5/11, (要登録)
  3. ^ 原田晋, 山川有子, 杉本直樹, 穐 浩「O55-5 コチニール色素を原因物質と考えた,フランス製赤色マカロン摂取後に生じたアナフィラキシーの2症例(食物アレルギー アナフィラキシー1,口演,第62回日本アレルギー学会秋季学術大会)」『アレルギー』第61巻9-10、日本アレルギー学会、2012年、 1538頁、 doi:10.15036/arerugi.61.1538_1
  4. ^ a b 穐山浩, 杉本直樹「コチニール色素・カルミン摂取による食物アレルギー」『ファルマシア』第50巻第6号、日本薬学会、2014年、 522-527頁、 doi:10.14894/faruawpsj.50.6_522

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]