ナツメグ

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ナツメグクロンキスト体系
Myristica fragrans - Köhler–s Medizinal-Pflanzen-097.jpg
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 双子葉植物綱 Magnoliopsida
亜綱 : モクレン亜綱 Magnoliidae
: モクレン目 Magnoliales
: ニクズク科 Myristicaceae
: ニクズク属 Myristica
: ニクズク M. fragrans
学名
Myristica fragrans
Houtt. (1774)
和名
ニクズク
英名
Nutmeg

ナツメグ(英語:nutmeg、学名:Myristica fragrans)は、ニクズク科の常緑高木の一種である。またはその種子中のから作られる香辛料ナッツメッグナツメッグとも。和名はニクズク(肉荳蔲)。

ナツメグ、ニクズクはニクズク属の総称的に使うことがある。特に、ナツメグとして流通している木材は基本的に他種である。ここでは Myristica fragrans について述べる。

特徴[編集]

原産地は東インド諸島モルッカ諸島に含まれるバンダ諸島[1]。 樹高約20メートルに達する常緑樹であり[1]、多くは雌雄異株である。幹の樹皮は灰褐色でなめらかな表面を持ち、葉は長さ8-15センチで表側が濃緑、裏が淡い緑の単葉である。 播種後7年以降に結実しだす、成長の遅い植物である。スモモアンズに似た[1]長さ約5センチの卵形の黄色い果実をつける。果実は成熟すると果皮が割れ、網目状の赤い仮種皮につつまれた暗褐色の種子が現れる。 この仮種皮を乾燥させたものが香辛料の1つ、メースである。果肉は火を通せば食べられる。

メースを除いた種子を2-3か月の間天日で乾燥させると、中の仁が分離して中で動くようになるので、種を割り仁を取り出す。仁は長径2.5センチほどの卵型で、灰褐色ですべすべしていて縦に溝がある。この仁を出荷前に石灰もしくは石灰液に3か月浸してから乾燥させたものを香辛料のナツメグとする。種子全体を直接、おろし金で挽いて用いる場合もある。

石灰に浸す工程はオランダ東インド会社時代に、ナツメグが出荷前までに発芽しないようにという意図から始められたものだが、科学的には意味のない慣習となっている。現在では、輸入側の国がこの工程を省略させる場合もある[2]

香りの主体となる成分はピネンカンフェンオイゲノールミリスチシン(Allyl -3,4,5-trihydroxybenzene-methylene-methyl ether)である。

メース[編集]

メース(:mace)はナツメグの果実の果肉と種の間に、種を包む形に取り巻いている仮種皮を天日で乾燥させた香辛料である。収穫時は深い紅色だが、乾燥させると黄褐色に変化する。ナツメグと似た淡い香りでピリッとした辛味と苦味がある。ドイツ語イタリア語などでは「ニクズクの花」(独:Muskatenblume、伊:fiore di moscata)と呼ばれているが、花ではない。

歴史[編集]

19世紀までは、古代の人々はナツメグの存在を知らなかった、という説が一般的だったが、20世紀に古代エジプト副葬品の中にニクズクのかけらが発見された。しかし、他の文明でもこれといった痕跡はなく、一般に利用されてはいなかったと見られている。 6世紀にアラビア人によってコンスタンティノープルに「インドのくるみ」(nux indica)という産物が伝来していた記録があり、それがナツメグを指すという説もあるが、ビンロウジココヤシの実の可能性もあり確定はできていない[3]

ナツメグが記録に現れ始めるのは10世紀頃の事で、地理学者マスウーディーによってマレー諸島東部の産品として報告され、11世紀初め頃にはペルシアの知識人イブン・スィーナーによって医学的な考察がなされている。ヨーロッパで記録に現れ始めるのは12世紀末頃からだが、当時はナツメグよりメースの需要の方が高く、イギリスではメース約500グラムに羊3頭分の価値があった。

モルッカ諸島の貿易権を最初に握ったのはポルトガル人で、16世紀を通じてナツメグ取引きの中心はリスボンだった。次いでオランダがその支配権を奪い、17世紀からはオランダがナツメグを独占した。オランダは独占維持のために、ニッケイチョウジと同様に管理下以外の島々の木を切り倒して回る徹底した制限政策をとった。1768年、フランスの植物学者ピエール・ポワブルは密かにナツメグの苗をモーリシャス諸島に移植し、オランダの独占を打破した。18世紀末から19世紀初頭にモルッカ諸島の支配権がイギリスに移った時、マレー半島への移植が試みられたが、結果的に失敗に終わった。1816年にオランダに支配権が戻り制限政策が1862年まで続けられた。ナツメグの栽培が自由化されたのは1864年の事である。

利用[編集]

独特の甘い芳香があり、ハンバーグミートローフなどの挽き肉料理や魚料理の臭みを消すために用いられることが多い。またクッキーケーキなどの焼き菓子にも用いられる。

種子は肉荳蔲という生薬名で、収斂止瀉、健胃作用がある。東洋医学では、気管支炎、リウマチ、胃腸炎などの薬として処方される。

精神作用と毒性[編集]

低量では特に問題はないが、生のナツメグを多量(約10グラム以上)に摂取すると中毒症状を示す。これは、生のナツメグにはモノアミン酸化酵素阻害薬および精神活性物質であるミリスチシンが含まれているためである。ミリスチシンは痙攣動悸、嘔気、脱水症および全身へ疼痛感を引き起こすほか[4]、強力な精神錯乱状態を引き起こすことも報告されている[5]。過去には堕胎薬としてナツメグが使われたこともある。幻覚症状が現れ出すのは5グラムからという[要出典]。生のナツメグには、ミリスチシンとエレミシンに起因する抗コリン薬様の症状を引き起こすという症例報告がある[6][7][8]

ヒトでの死亡例は希であるが、8歳の子供[6]と55歳の大人の2件の報告がある(後者はフルニトラゼパムとの併用に起因)[9]

ナツメグ・ミル[編集]

ナツメグは、粉に挽いて小瓶に詰めて売られていることが多いが、香りが飛びやすいため、種子のままでも売られている。これを利用するために、専用のナツメグ・ミルがある。ナツメグ・ミルは、木製の円筒形のボディに、金属性の刃とハンドル、それにハンドルと一緒に回転するホルダーがついている。ナツメグはさほど堅くないので、セラミック製の目の細かいおろし金でおろして使うこともできる。

かつてのヨーロッパではナツメグを収納できる携帯用おろし金が存在した。画家のロートレックはナツメグを持ち歩き、酒場で酒に入れてその薬効を楽しんでいたという[10]

参考画像[編集]

脚注[編集]

  1. ^ a b c ツァラ 2014, pp. 18-19.
  2. ^ ギュイヨ 1987, pp. 97-98.
  3. ^ ギュイヨ 1987, pp. 92-96.
  4. ^ Demetriades, A. K.; Wallman, P. D.; McGuiness, A.; Gavalas, M. C. (2005). "Low Cost, High Risk: Accidental Nutmeg Intoxication" (pdf). Emergency Medicine Journal 22 (3): 223–225. doi:10.1136/emj.2002.004168. PMC 1726685. PMID 15735280.  編集
  5. ^ Nutmeg”. Plants. Erowid. 2012年4月22日閲覧。
  6. ^ a b Weil, Andrew (1966). "The Use of Nutmeg as a Psychotropic Agent". Bulletin on Narcotics (UNODC) 1966 (4): 15–23. 
  7. ^ Shulgin, A. T.; Sargent, T.; Naranjo, C. (1967). "The Chemistry and Psychopharmacology of Nutmeg and of Several Related Phenylisopropylamines" (pdf). Psychopharmacology Bulletin 4 (3): 13. PMID 5615546.  編集
  8. ^ McKenna, A.; Nordt, S. P.; Ryan, J. (2004). "Acute Nutmeg Poisoning". European Journal of Emergency Medicine 11 (4): 240–241. doi:10.1097/01.mej.0000127649.69328.a5. PMID 15249817.  編集
  9. ^ Stein, U.; Greyer, H.; Hentschel, H. (2001). "Nutmeg (myristicin) poisoning--report on a fatal case and a series of cases recorded by a poison information centre". Forensic Science International 118 (1): 87–90. doi:10.1016/S0379-0738(00)00369-8. PMID 11343860.  編集
  10. ^ 伊藤慎吾、シャンカール・ノグチ監修『世界で使われる256種:ハーブ&スパイス事典』、誠文堂新光社、2013年、p107

参考文献[編集]

  • リュシアン・ギュイヨ; 池崎一郎、平山弓月、八木尚子訳 『香辛料の世界史』 白水社、1987年ISBN 4-560-05682-X 
  • ツァラ, フレッド 『スパイスの世界史』 竹田円訳、原書房、2014年

関連項目[編集]