バサ (魚)

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バサ
Basa fish - Vinh Long Market.jpg
ベトナム・ヴィンロンの市場で売られるバサ
保全状況評価[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
Status iucn3.1 LC.svg
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 条鰭綱 Actinopterygii
亜綱 : 新鰭亜綱 Neopterygii
上目 : 骨鰾上目 Ostariophysi
: ナマズ目 Siluriformes
: パンガシウス科 Pangasiidae
: パンガシウス属 Pangasius
: バサ P. bocourti
学名
Pangasius bocourti
Sauvage1880

バサ (Pangasius bocourti) は、ナマズパンガシウス科に属する淡水魚である。東南アジアインドシナ半島を流れるメコン川チャオプラヤ川の流域が原産である[2]。肉は美味で食用にされ、大規模養殖が行なわれている。重要な水産資源、かつ重要貿易品目である。

表記[編集]

北アメリカやオーストラリアでは、"basa fish"[3]または"bocourti"[4]と表記される。イギリスでは、パンガシウス属の全ての種は、"river cobbler"、"cobbler"、"basa"、"pangasius"、"panga"またはこれらに"catfish"を付けて表記しなければならないと法律で定められている[5]。他のヨーロッパの国では、パンガシウス属の魚は一般に"pangasius"または"panga"として販売される[6]。別種のカイヤン(Pangasianodon hypophthalmus)やP. pangasiusが誤ってバサと表記されることもある。日本では「ベトナム産養殖ナマズ」のほか、「バサ」「パンガシウス」などと表記され、スケトウダラなど従来ある白身魚の価格上昇や不足に対する代替品として、輸入・販売が増えている[7]

形態[編集]

体つきはいわゆる外国ナマズであり、腹部がどっしりして、可食部である体側筋(身の部分)が分厚い。丸い頭は扁平で幅が広く、先が丸いくて幅の広い口吻は、周囲に肉髭があり、鼻口部に白い線を持つ。120センチメートル程度まで成長する。

生態[編集]

バサは植物を餌とする。洪水期の前に産卵し、幼体は6月頃から見られ、6月中旬には平均約5センチメートル程になる[2]

市場[編集]

バサは、すぐに調理可能な冷凍のフィレとして販売されることが多い。

アメリカ合衆国の「ナマズ戦争」[編集]

2002年、米国は、ベトナム政府から資金援助を受けたベトナム人の輸入業者が米国市場でナマズ類のP. bocourti(バサ)とP. hypophthalmusチャ、スワイ)を不当廉売し、公正な競争を阻害しているとしてベトナムを糾弾した[8][9]。アメリカのナマズ養殖業協会は、最初これらの魚をナマズ(catfish)の名で売ることを禁止するよう議会に圧力をかけた[10]。2003年にアメリカ合衆国議会は、輸入魚に新たな関税を課すとともにナマズと表示された魚の輸入を禁止する法律を通した[11]アメリカ食品医薬品局のルールの下、アメリカナマズ科の魚のみナマズとして販売することができた[3]。その結果、ベトナム人の輸出業者は、米国市場向けには"basa fish"または"bocourti"と表示して販売するようになった[12][13]

アメリカのナマズ養殖業協会は、これらの魚の価格が不当に安く設定されており、ベトナム政府もダンピングを支援していると訴えた[14]。2003年にアメリカ国際貿易委員会はダンピングを認め、反ダンピング税を課した。その後、税率は何度も見直され、2014年には税率が最大63.88%に上げられた[15]。また、2008年にはアメリカ食品医薬品局から、より厳格なアメリカ合衆国農務省に扱いを移した。これらの動きについてベトナム政府は保護貿易として強く批判している[16]

「ナマズ戦争」の絶頂時には、米国のナマズ養殖業者らは、輸入ナマズを品質の劣るものと喧伝したが、ミシシッピ州立大学の研究者は、58名を被験者とする二重盲検法の味覚試験において、輸入バサの方が好ましいとした人数は米国ナマズを選んだ人数の3倍にのぼった[17]

このような対立にもかかわらず、ベトナムからアメリカ合衆国へのパンガシウス属の輸出は増加傾向にあり、2016年の輸出額は17億ドルに達した[18]

イギリス[編集]

イギリスでは、バサは"Vietnamese river cobbler"、"river cobbler"または"basa"として知られる。タラコダラ等の白身魚の安価な代替品として、生または冷凍の状態で大きなスーパーマーケットで販売される。Young's Seafood社では、冷凍魚製品にこの魚を用い、"basa"として販売している[19]。バサの輸入は他の輸入食品と同様に厳しいEU規制の下にあり、発展途上国輸出振興センター(CBI)のパンガシウス製品概況報告書で示された通り[20]、イギリスの取引基準局の担当者は、フィッシュ・アンド・チップス業者がバサを不正にタラとして販売しており、タラの量の半分にも当たると述べている。2009年と2010年には、DNA検査で証拠の見つかった2業者が訴追された[21][22]

環境と健康への懸念[編集]

複数の環境団体がバサによって引き起こされる海洋生態系の問題に懸念を示している。バンクーバー水族館と関連のあるOceanWiseは、バサの養殖が生態系を汚染し、野生種に干渉していると警告した[23]。この団体は、「東南アジアの開放柵養殖は、天然バサへの病気の拡散に関係している。また、食の質、養殖場運営規格、天然飼料を養殖に用いることの生物的影響にも懸念がある。」と書いている。モントレーベイ水族館は懸念は持っているが警告はしていない[23]。両団体とも米国の養殖ナマズをより持続性のある代替としている。

イギリスのアズダテスコが行った試験では、毒性不純物の残留は見られなかった[24]オーストラリア検疫検査局の試験では痕跡量のマラカイトグリーンが検出されたが、他の不純物は見つからなかった[25][26][27]

魚アレルギーを持っていない人がバサに対してアナフィラキシー反応を起こした例が1件だけ報告されている[28][29]

出典[編集]

  1. ^ Vidthayanon, C. (2012年). "Pangasius bocourti". IUCN Red List of Threatened Species. Version 2012.2. International Union for Conservation of Nature. 10 January 2013閲覧. 
  2. ^ a b Froese, Rainer and Pauly, Daniel, eds. (2012). "Pangasius bocourti" in FishBase. February 2012 version.
  3. ^ a b Basa/Swai”. SeaFood Business magazine. 2009年1月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年1月31日閲覧。
  4. ^ CFIA Fish List”. Canadian Food Inspection Agency (2010年7月7日). 2011年6月30日閲覧。
  5. ^ Fish Labelling (Amendment) (England) Regulations 2006”. COT (2007年5月26日). 2009年7月22日閲覧。
  6. ^ Vietnam catfish farmers angered by French reports”. Monsters and Critics (2008年5月19日). 2008年12月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年1月31日閲覧。
  7. ^ 白身の輸入魚食卓に広がる 東南アジア原産「バサ」『読売新聞』夕刊2018年1月20日(1面)
  8. ^ Becker, Elizabeth (2002年1月16日). “Delta Farmers Want Copyright on Catfish”. The New York Times. オリジナル2009年1月30日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20090130074000/http://query.nytimes.com/gst/fullpage.html?res=9804EED91338F935A25752C0A9649C8B63&sec=&spon=&pagewanted=all 2009年1月31日閲覧。 
  9. ^ Armstrong, David (2003年2月8日). “Food Fight: U.S. accuses Vietnam of dumping catfish on the American market”. San Francisco Chronicle. http://www.sfgate.com/cgi-bin/article.cgi?f=/c/a/2003/02/08/BU87596.DTL 2009年1月31日閲覧。 
  10. ^ Roger Cohen (2015年3月26日). “Opinion: Of Catfish Wars and Shooting Wars”. The New York Times. https://www.nytimes.com/2015/03/27/opinion/roger-cohen-of-catfish-wars-and-shooting-wars.html 
  11. ^ Philadelphia, Desa (2002年2月25日). “Catfish by Any Other Name”. Time (New York). オリジナル2009年1月26日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20090126044244/http://www.time.com/time/global/feb2002/articles/catfish.html 2009年1月31日閲覧。 
  12. ^ Buyer's Guide: Basa Catfish”. SeaFood Business magazine (2001年11月). 2007年3月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年3月31日閲覧。
  13. ^ Greenberg, Paul (2008年10月9日). “A Catfish by Any Other Name”. The New York Times. http://www.nytimes.com/2008/10/12/magazine/12catfish-t.html?n=Top/Reference/Times%20Topics/Subjects/S/Seafood&pagewanted=all 2009年1月31日閲覧。 
  14. ^ 寺本実、坂田正三「国際経済への本格参加に向け,新政府発足 : 2002年のベトナム」、『アジア動向年報』2003年、 198-226頁。
  15. ^ Expedited Second Sunset Review of the Antidumping Duty Order on Certain Frozen Fish Fillets from the Socialist Republic of Vietnam: Issues and Decision Memorandum, United States Department of Commerce, (2014-09-29), https://enforcement.trade.gov/frn/summary/vietnam/2014-23962-1.pdf 
  16. ^ Michael F. Martin (2016-05-20), U.S.-Vietnam Economic and Trade Relations; Issues for the 114th Congress, Congressional Research Service, https://fas.org/sgp/crs/row/R41550.pdf 
  17. ^ McConnaughey, Janet (2005年7月19日). “Vietnam has tastier fish than US: studies”. Independent Online (South Africa). SAPA-AP. http://www.iol.co.za/index.php?set_id=1&click_id=29&art_id=qw1121708884768B223 2009年1月31日閲覧。 
  18. ^ Pangasius: Sector Profiles, Vietnam Association of Seafood Exporters and Producers, http://seafood.vasep.com.vn/673/onecontent/sector-profile.htm 
  19. ^ Basa fillets”. youngsseafood.co.uk. 2013年4月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年7月16日閲覧。
  20. ^ アーカイブされたコピー”. 2016年1月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年10月10日閲覧。
  21. ^ Elliott, Valerie (2009年7月13日). “Fish and chip shops accused of selling Vietnamese cobbler as cod”. The Times (London). http://www.timesonline.co.uk/tol/life_and_style/food_and_drink/real_food/article6695267.ece 2009年7月22日閲覧。  (Paid subscription required要購読契約)
  22. ^ “Chip shop owner admits fish fraud”. BBC News. (2010年4月15日). オリジナル2012年3月12日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20120312171734/http://news.bbc.co.uk/1/hi/england/leicestershire/8622722.stm 2010年4月26日閲覧。 
  23. ^ a b CatfishBasa | Ocean Wise
  24. ^ BBC Watchdog report アーカイブ 2011年7月17日 - ウェイバックマシン
  25. ^ Food Standards Australia Archived 2011年4月23日, at the Wayback Machine. Report 2005
  26. ^ Review of Provisions in the Australian New Zealand Food Standards Code as they relate to Imported Seafood Archived 2014年10月30日, at Archive.is, March 2009, from the Australian Department of Agriculture, Fisheries and Forestry
  27. ^ Positive only statements from Seafood Importers Association, a lobby organization for fish importing companies
  28. ^ J Investig Allergol Clin Immunol. 2010;20(1):84-8, Monosensitivity to pangasius and tilapia caused by allergens other than parvalbumin, Ebo DG, Kuehn A, Bridts CH, Hilger C, Hentges F, Stevens WJ
  29. ^ Leicester Mercury: Fish and chips nearly a deadly dish for allergy patient Luke, 24 January 2011

関連文献[編集]