番茶

番茶(ばんちゃ)とは、日本で飲まれる緑茶の一種。庶民の間で日常的に飲まれてきたお茶を指すが多義的である[1]。普段使いのお茶、地場産、自家製のお茶の総称を番茶と呼ぶ場合もある[2]。
概要
[編集]「番茶」の語は多義的であり、以下のような意味で用いられる[1]。
茶業統計上は「硬くなった新芽や茎などを原料とする茶で、製法は煎茶と同じ」と定義されている[3]。
「番茶」の語が確認できるのは15世紀からであり、1300年代後半の史料にあるように当初は「晩茶」と表記していた[3]。ここでいう「晩」は遅いという意味で、新芽を摘んで丁寧に製茶された上等の茶と区別したことに由来する[3]。茶は不発酵茶(玉露や煎茶など)、後発酵茶、半発酵茶(ウーロン茶など)、発酵茶(紅茶など)に分けられるが、一般的に番茶は不発酵茶である[4]。ただし、後発酵茶について、桑原次郎右衛門の分類では碁石茶などを「発酵番茶」の名で、大石貞男の分類では碁石茶や阿波番茶を「後発酵茶」の名で番茶の一分類に加えている[5]。一方、阿波番茶の産地では後発酵茶であることから、不発酵茶の番茶と区別して「阿波晩茶」と「晩」の字を用いている[4]。
日本では茶産地に限らず、根の強いチャノキは有用な境木として多くの地域で植えられていた。また、祭礼の際に植樹する風習がある地域もあり[6]、そういった茶葉を利用して自家製の番茶は全国で作られていた。
茶の普及とともに各地各様の製造方法で生活に根ざした番茶が出現した[1]。東京都や静岡県では深緑色の煎茶であるのに対して、北海道や、京都府(京番茶)は茶色のほうじ茶である[7]。
明治時代に煎茶の生産が増えて高級品の輸出が奨励され、低級品の煎茶が国内消費に回されたことで、煎茶が番茶として普及したとの推測もある[7]。
番茶は低価格・低品質の茶の代名詞とされたが、茶が有する薬効成分を効率よく抽出するには、むしろ茶葉の大きい番茶のほうが有利と認識されるようになり、直接の飲用よりも工業製品原料としての需要が増加している[3]。
飲用と効用
[編集]実際の栄養価は、原料茶葉の栽培条件、生育環境、収穫時期、品種などで異なるため記載されている値は代表値である。
| 100 gあたりの栄養価 | |
|---|---|
|
0.1 g | |
| ビタミン | |
| リボフラビン (B2) |
(3%) 0.03 mg |
| ナイアシン (B3) |
(1%) 0.2 mg |
| ビタミンB6 |
(1%) 0.01 mg |
| 葉酸 (B9) |
(2%) 7 µg |
| ビタミンC |
(4%) 3 mg |
| ミネラル | |
| ナトリウム |
(0%) 2 mg |
| カリウム |
(1%) 32 mg |
| カルシウム |
(1%) 5 mg |
| マグネシウム |
(0%) 1 mg |
| リン |
(0%) 2 mg |
| 鉄分 |
(2%) 0.2 mg |
| 銅 |
(1%) 0.01 mg |
| 他の成分 | |
| 水分 | 99.8 g |
| カフェイン | 0.01 g |
| タンニン | 0.03 g |
|
浸出法: 茶 15 g/90 °C 650 mL、0.5分 | |
| |
| %はアメリカ合衆国における 成人栄養摂取目標 (RDI) の割合。 | |
チャの葉や種子のテアサポニン(theasaponin)類、アッサムサポニン(assamsaponin)類には小腸でのグルコースの吸収抑制等による血糖値上昇抑制活性が認められた[9]。
動物実験で日本茶、特に番茶、中でも多糖類(ポリサッカライド)を有効成分とする番茶冷浸エキスでの血糖降下作用が認められた[10]。
地方に伝わる色々な番茶
[編集]- 吉野の日干(にっかん)番茶

吉野の日干番茶 - 奈良県吉野地方で古くから伝わっている番茶である。これは「天日干し番茶」とも呼ばれている。摘み取った茶葉をよく蒸し、その後長ければ1日以上天日でしっかりと乾燥させ、その後焙じて出来上がりとなる。機械で揉みながら乾燥させるものに比べると香りが高く、渋味が少なくあっさりとした味わいになる。また、葉の形がそのまま残っていることもこの製法の特長である[11]。したがって、これは実際には「焙じ番茶」の一種ということになる。
- 美作の日干番茶
- 岡山県美作市(旧美作町、旧作東町)に伝わっている番茶。「美作番茶」ともいわれている。土用の暑い日(7月中旬 - 8月中旬)、枝ごと刈ったお茶の葉を大きな鉄釜で蒸すように煮る。むしろの上に煮たお茶を広げ、煮汁をかけながら太陽の光で干す。日干番茶は煮汁をかけて天日で干した番茶は煮汁の茶渋の飴色に輝いていることから“日干(にっかん)番茶”とも呼ばれている[12]。
- 陰干し番茶
- 福井県勝山市に製法が伝わっている番茶。秋に茶の枝を鎌で刈り、縄ですだれのように編んで軒先に吊るしておくだけの、陰干し番茶がある。飲む前に鍋で軽く炒って煮出すもので、ちょうど薬草と同じ方法で利用されている[13]。
ことわざ
[編集]- 鬼も十八、番茶も出端(でばな)
- 『広辞苑』によると、出花(でばな)が正しい。出だしの香しさを表す。「醜い鬼も年頃になればそれなりに美しく見え、粗末な番茶も湯をついで出したばかりは味わいがよい」[14]という意味で、醜い女性も年頃なら美しく、人の情も解する事を指す[14]。古くは男女両方に用いた[14]。類義語として「鬼も十七、茨(いばら)も花」[15][14]「鬼も十七、番茶も煮花」[15]「鬼も十七、番茶も煮端」[14]「南瓜(かぼちゃ)女も一盛り」[15]。
脚注
[編集]- ^ a b c d e f “企画展 日常茶の魅力”. ふじのくに茶の都ミュージアム. 2026年1月5日閲覧。
- ^ 中村羊一郎 1999, p. 3.
- ^ a b c d 中村羊一郎「番茶の民俗学的研究」、神奈川大学、2014年。
- ^ a b “ふるさと名物 徳島県上勝町”. 上勝町. 2026年1月5日閲覧。
- ^ 中村羊一郎「番茶の民俗学的研究」、神奈川大学、2014年。
- ^ 中村羊一郎 1999, pp. 134–138.
- ^ a b 【くらし物語】番茶の色、地域でなぜ違う?*もともとは茶色 明治に緑茶普及『日本経済新聞』2018年10月6日朝刊別刷り(日経+1)6面。
- ^ 文部科学省 「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」
- ^ 吉川雅之、薬用食物の糖尿病予防成分 『化学と生物』 2002年 40巻 3号 p.172-178, doi:10.1271/kagakutoseibutsu1962.40.172
- ^ 清水岑夫, 和田修治, 林利光 ほか、日本茶の血糖降下作用成分に関する研究 『藥學雜誌』 1988年 108巻 10号 p.964-970, doi:10.1248/yakushi1947.108.10_964
- ^ “吉野の日干番茶”. 奈良県 (2002年9月). 2008年2月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年10月25日閲覧。
- ^ 伝統料理 岡山県 農林水産省中国四国農政局 地産地消
- ^ 中村羊一郎. “番茶は茶の歴史を物語る”. 日本の喫茶文化. 世界緑茶協会. 2007年8月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年8月26日閲覧。
- ^ a b c d e “鬼も十八番茶も出花(オニモジュウハチバンチャモデバナ)とは? 意味や使い方”. コトバンク. 2024年5月15日閲覧。
- ^ a b c “鬼も十八 番茶も出花 | 会話で使えることわざ辞典 | 情報・知識&オピニオン imidas - イミダス”. 情報・知識&オピニオン imidas. 2024年5月15日閲覧。
参考文献
[編集]- 中村羊一郎『番茶と日本人』吉川弘文館〈歴史文化ライブラリー〉、1999年。ISBN 4-642-05446-4。
- 中村羊一郎『番茶と日本人 オンデマンド版[1]』吉川弘文館〈歴史文化ライブラリー〉、2017年。ISBN 9784642754460。
- 中村羊一郎『番茶と庶民喫茶史』吉川弘文館〈日本歴史民俗叢書〉、= 2015 エラー: 日付が正しく記入されていません。(説明)。ISBN 4-642-05446-4。
- 中村羊一郎『番茶と庶民喫茶史 オンデマンド版 [2]』吉川弘文館〈日本歴史民俗叢書〉、2022年。ISBN 9784642774123。
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- 番茶のお話(奈良県農業技術センター)
