カントリー・ミュージック

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

カントリー・ミュージック英語: Country Music)とは、アメリカ合衆国南部で発祥した音楽である。アパラチアン・ミュージック、マウンテン・ミュージック、ヒルビリー、カントリー&ウエスタンなどと呼ばれた時期を経て、現在の名称となった。 ヨーロッパの伝統的な民謡やケルト音楽などが、スピリチュアルゴスペルなど霊歌賛美歌の影響を受けて1930年代に成立した。ブルーグラス、ジャグバンドなどの分野とは、相互に影響を与え合って発展してきた。主流の保守的なカントリーに対して、オルタナ・カントリー、アウトロー・カントリーなどのジャンルもある。また近年、アメリカーナという新しいジャンルも音楽界に創設された。

概要[編集]

演奏に使われる楽器[編集]

演奏には当初、ギターマンドリンフィドルヴァイオリン)、バンジョーリゾネーター・ギターペダル・スティール・ギターウッドベースオートハープアコーディオンハーモニカなどが用いられ、時にはジャグ・バンド同様に金属製のバケツたらい洗濯板のこぎりなど生活用品や工具や農機具なども使われた。

現在のカントリーバンドの構成は、いわゆる“普通のロックバンド”と同じ、ギターベースドラムキーボード等が中心で、そこにフィドルバンジョースティール・ギターなどを加えて、俗に言う“カントリーらしい味付け”をする場合も多いが、必ずしもそれらの楽器が必要というわけではない。

イメージ[編集]

西部開拓時代カウボーイを連想する人も多いが、それはあくまでもハリウッドの映画産業やブロードウェイ・ミュージカルなどが作り上げた西部劇の影響であり、元々はそれほど深い関係にはない。そもそもカウボーイ全盛の19世紀にはまだ「カントリー」という概念は存在せず、20世紀に入ってからの西部劇で演奏された曲も、クラシック音楽の作曲家が民謡などをベースに作った映画音楽舞台音楽の類で、厳密に言うとカントリーというジャンルにも当てはまらない場合が多い。 後に一部のカントリー・ミュージシャンがそのイメージと人気にあやかり、カウボーイハットやブーツを身に着け、西部劇風の演出を取り入れる様になる。 しかし現代のカントリー・ミュージシャンは西部劇で描かれるような世界観ではなく、むしろ現在のカウボーイのイメージを確立し、ピックアップトラックATV釣り具銃器狩猟具関連のテレビCMなどで頻繁に彼らの曲が使われる。

人種[編集]

現在カントリー・ミュージックは、シーンの中心であるアメリカのほかに、カナダヨーロッパ日本やオーストラリアでも一部のファンに人気がある。それでもファンやミュージシャンには白人系が圧倒的に多く、アメリカ南部やアパラチア発祥の音楽のため、一部では「人種差別と関係が深い音楽」と誤解されがちである。 実際、戦前や少し古い時代の曲の中には人種差別的な歌詞が入ったものや、現在でもアンダーグラウンドな演奏場所では、差別用語放送禁止用語を連発する過激な歌手も一部に存在する。 しかしながら、あくまでもそれは一部の心ない人間がおこなっているものであり、カントリーは共和党系で保守的ではあっても人種差別を目的とした音楽ではない。 現在のカントリー業界は、アメリカ音楽産業でも人気のあるジャンルであり、さらにそれを他の国に少しでも広めていこうという方針を採っているので、あからさまな人種差別を避けるよう心がけている。 特に1970年代以降、アフロ・アメリカンのチャーリー・プライド(黒人歌手)(Charley Pride)やフィリピン系のニール・マッコイNeal McCoy)など有色人種のアーティストたちも第一線で活躍し、さらにバンドメンバーに目を向ければ、ヒスパニック系や黒人、アジア系も見受けられる。

保守・愛国[編集]

現在のカントリーは、音楽的には様々な価値観を取り入れて発展しているが、アーティストやファンの政治的スタンスや歌詞に込められた心情の面では保守的な部分が強い。 元々が開拓民の民謡から派生しているため、自分の家族や故郷の州や町、また田舎の素朴さ暖かさ荒々しさなどを愛し、カウボーイやレッドネックといった自分の田舎臭いキャラクターを誇りとし、それを主張する内容の歌詞が多く、その裏には東部や都会に対する対抗意識や反発も表現される。 そしてそれが更に大きくなると、パトリオティズムPatriotism愛国心)やナショナリズムと結びつき、アメリカ的価値観やアメリカ的自由を推奨する形として現れる。 その代表曲が1980年代初頭にヒットしたリー・グリーンウッドLee Greenwood)の"God Bless The USA"である。

2001年の9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件以降、その保守傾向はますます強くなり、元軍人である父親を尊敬し、自身も軍事基地などで慰問コンサートを開くトビー・キースToby Keith)の"Courtesy of the Red, White and Blue (The Angry American)""American Soldier"イラク戦争開戦前後に、反戦派に対して「もう忘れたのかい? あの日の怒りと悲しみを・・・・・。」とアメリカ同時多発テロ事件を持ち出して戦争支持を主張するダリル・ウォーリーDarryl Worley)の"Have You Forgotten? " などがリリースされ、それぞれ大ヒットとなる。

また同時期に、女性カントリー・トリオ、ディクシー・チックスのボーカル、ナタリー・メインズNatalie Maines)がコンサート中に、イラク戦争に絡みジョージ・W・ブッシュ大統領について「合衆国大統領が(私たちと同じ)テキサス出身である事を恥じる。」と発言したのが波紋を呼び、中西部から南部を中心に 全米の多くのラジオ局で彼女たちの曲が外され、カントリー・ファンや大統領支持派によるCDの不買・廃棄キャンペーンなどが行われ、ファンや業界の保守・愛国思想が露骨に現れた。 また、本人や関係者に対する嫌がらせや脅迫も相次ぎ、事実上 業界から干される格好となり、更に育児なども重なり、活動を一時的に停止する。 しかしながら2006年には、この騒動を綴ったドキュメンタリー映画Shut Up & Sing公式webサイト)(黙って歌ってろ!)』が公開され話題となり、また"Not Ready To Make Nice "「まだ(皆の望むような)よい子にはなれない。」というタイトルのシングル曲(MVの映像は、ナタリーが“異端審問”や“思想矯正手術”にかけられるイメージになっている。)を含めたアルバムも発表され、カントリー以外の音楽業界やリベラル派のファンの支持を受け、2007年のグラミー賞においては、最優秀アルバム賞を含む5冠を獲得して復活を遂げた。

ダンス[編集]

アメリカには、田舎、都会に限らず各地にカントリー・バーホンキートンクHonky-tonk)と呼ばれるナイトクラブが約5000軒以上存在し、それらのほとんどがダンス・フロアを設けており、カントリー・ダンスが盛んに踊られている。 その世界最大のものが、テキサス州フォートワースにあるBilly Bob's Texasである。ところが、カントリーがまだ民謡だった時代のフォークダンスはさておき、現行のカントリー・ダンスの歴史は意外に浅い。 一説には、大都会ヒューストンのバーでロデオマシーンに興じる若者の青春を描いたジョン・トラヴォルタ主演の映画、『アーバン・カウボーイ』(Urban Cowboy 1980年)が起源とも言われる。カントリー・ダンスは大まかに分けて、ラインダンスとツーステップの2種類がある。

聖地[編集]

カントリー・ミュージックの聖地は、かつてのアメリカ音楽産業の中心地で、カントリーに関しては今もその力を失っていない街、テネシー州ナッシュビルにあるライマン公会堂。 そこで毎週末に開かれていたグランド・オール・オープリーというライブイベントや、そのラジオ放送(後にテレビも加わる)が名物であったが、現在このイベントは場所を移し、郊外に新しく造られたグランド・オール・オープリー・ハウスというコンサートホールで行われている。

歴史[編集]

源流と成立[編集]

北米大陸へ移住してきたアイルランドスコットランドイングランドなどのケルト系アングロ・サクソン系を中心とした西欧・北欧・東欧系の移民が持ち込んだ音楽、特にケルト音楽ヨーデルポルカなどがアパラチア山脈一帯やアメリカ北東部からアメリカ南部にかけての山岳丘陵地帯の農村などで様々な音楽の影響を受け、オールドタイム・ミュージックやヒルビリー・ミュージックと呼ばれるアメリカ民謡の基礎を形成する。 それが19世紀後半の鉄道網の発達、蓄音機の発明、20世紀前半のラジオの普及になどにともなって北米大陸全土に広まり、その伝統民謡的な部分を保ち続け1940年代にビル・モンローBill Monroe)等により確立された民謡スタイルの音楽をブルーグラスと呼び、逆に様々な音楽を取り入れ大衆音楽化して、変化し続けているタイプの音楽をカントリー・ミュージックと呼ぶ。

1930年代に活躍したジミー・ロジャースJimmie Rodgers)やカーター・ファミリーなどが創始者といわれる。

1950~60年代[編集]

1950年代中盤に入ると、R&Bジャズブルースゴスペルといった、現在の軽音楽の母体となる黒人音楽との融合が始まり、“ロックンロールの王様”エルヴィス・プレスリーに代表される、ロカビリーロックヒルビリーの融合)スタイルのミュージシャンを多く生み出し、さらにスウィングブギといったジャズのリズムを取り入れることにも成功、カントリー自体が様々な方向へと多様化・細分化し始める。 また、このころを境に、民謡やヒルビリー(丘陵地帯の田舎者)音楽という概念は薄れ始め、女性歌手を中心にソフトなラブソングバラードなどで女性的、又は都会的なイメージを強調する路線や、男性は馬ではなくピックアップトラックトラクターを運転する現代的なカウボーイやレッドネック(南部の粗野な田舎者)のイメージ、さらにロカビリーの影響で不良青年やヤクザ者を強調する路線も追加される。 そして60年代にはフォーク・リヴァイヴァル・ムーブメントの影響もあり、カントリーの人気が更に盛り上がる。この頃から“聖地”ナッシュビルとは別に、カリフォルニア州ベーカーズフィールドテキサス州などから新しいサウンドが生まれ新たな流れを作り始めた。バック・オーウェンス・アンド・ヒズ・バッカルーズはその代表的な存在であり、カントリーとは無縁なクラシックの“聖地”カーネギー・ホールでコンサートを行い、大成功を収めた。

1970~80年代[編集]

1950~60年代の急激な変化で巻き起こったブームの終焉により、1970年代に入るとカントリーは田舎の保守的な音楽と見られる傾向にあった。しかしイーグルス(Eagles)やCCRジョン・デンバー(John Denver)、マーシャル・タッカー・バンドケニー・ロジャースクリスタル・ゲイルスターランド・ヴォーカル・バンドハリー・チェイピンビリー・スワンクリス・クリストファーソンベラミー・ブラザーズなど、カントリーの流れを受け継ぐロック系やフォーク系のアーティストたちが活躍したことにより、人気を保ち続けることができた。

1980年代に入ると共和党政権の復活もあり、カントリー人気が再燃し始め、1990年代から現在に至るまでアメリカ白人の間で人気のある音楽ジャンルに位置づけられている。その後、ネオ・トラディショナル・カントリーと呼ばれるカントリーのジャンルも誕生した。ジョージ・ストレイト、リーバ・マッキンタイア、ランディ・トラヴィス、ドワイト・ヨーカムらが、このジャンルの代表的なシンガーである。

現在のカントリー・ミュージック[編集]

人気[編集]

ロックなどの影響を強く受け、今や若者を含めた幅広い世代の絶大な支持を得て、アメリカでは最も人気のある音楽ジャンルの一つとなっている。 例としては、花火ワイヤーアクションを使い、まるでハードロックのような派手なコンサート演出を取り入れたガース・ブルックスが、既に全アルバム売上総数1億2,800万枚に達している(ちなみに、アメリカ音楽史上、ガース以外で米国内売り上げ1億枚以上を達成しているのは、エルビス・プレスリービートルズレッド・ツェッペリンのみである)。 また、カナダ出身の女性シンガーで、ポップスタイルを定着させたシャナイア・トゥエインも、アメリカ世帯の3軒に1軒が彼女のアルバムを所有しているというほどの売り上げを誇っており、彼らはもはや世界的ポップスターのマイケル・ジャクソンマドンナなどの歴代総売り上げを超えている。 グループでは、女性トリオのディクシー・チックスが既に3,000万枚以上のCDを売り上げ、女性グループとしては史上最多セールスとなっている。

音楽スタイル[編集]

最近のカントリーは、いわゆるロックやポップスの影響を大きく強く受けているが、中にはヒップホップ調、ファンク調やドゥーワップ調などのスタイルの曲があったり、NASCARレースのファンやハーレーダビッドソンにまたがるバイカー達に人気の ブルース・ロックサザン・ロック風の曲も多い。 また、多くの他ジャンルのミュージシャン(例:ボン・ジョヴィキッド・ロックネリージェシカ・シンプソンなど)とのジャンルの垣根を越えたフィーチャリングも盛んに行われており、曲中にラップを多用するカントリー・ラップCountry-rap)に、ヒップホップとロックとテハーノ音楽の要素を融合させ、Hick-Hop(hickとは「田舎」を意味する。)と称する 独自のジャンルを確立したテキサス出身の黒人ラッパーであるカウボーイ・トロイCowboy Troy)も、れっきとしたカントリー・アーティストに位置付けられている。

現在は、この様なカントリーのポップ化が進んでおり、「カントリーの産業化」と揶揄されることもあるが、“正統派”と言われるものや、昔から安酒場で歌われ続けている様な往年のホンキートンクスタイル、テキサス州などを中心とした地域色の強いスタイル、ブルーグラスやフォークソングなどもいまだ健在で、また十分な人気を保っており、そちらの方向へ回帰する者もいれば、その中間をうまく渡り歩くミュージシャンも多い。

日本の現状[編集]

日本国内では、カントリーという音楽ジャンルとしての規模が非常に小さいが、カントリーに影響を受けた他ジャンルのミュージシャンは多く、またプロのカントリーミュージシャンも少なからず存在する。 毎年 秋に熊本県阿蘇の巨大野外ステージで開かれる『カントリーゴールド(COUNTRY GOLD)』というイベントをプロデュースし、自身も出演する チャーリー永谷はその草分け的な存在。 しかしながら、そんな日本人カントリーミュージシャンたちの多くは、戦後間もない時期に進駐軍FEN(米軍極東放送)などを通してカントリーに触れ、ロカビリーブーム到来と共にバンドを組み、朝鮮戦争ベトナム戦争当時、アジア各地の米軍キャンプやその周辺のクラブで演奏していた世代、もしくは多少若くても40代から団塊の世代にかけてがほとんどのため、アメリカの最新流行とは多少のズレが生じている。(カントリーへの造詣が深いことで有名なフォークシンガー なぎら健壱はその普及にも熱心だが、彼にも同様のことが言える)

ただ、カントリー自体の認知度が低かったり、一、二世代前のイメージが残る日本でも、映画「パール・ハーバー」や フジテレビ系列で放送されたテレビドラマ「薔薇の十字架」の主題歌を歌ったフェイス・ヒル、映画「コヨーテ・アグリー」の挿入歌やアテレコを担当し、自身も本人役でカメオ出演したリアン・ライムス、ポップ・カントリーで旋風を巻き起こしたシャナイア・トゥエインなどのアルバムはそれぞれヒットとなった。最近も、ディズニーのアニメーション映画「カーズ」にサントラに参加したラスカル フラッツRascal Flatts)や、FOXテレビの人気アイドルオーディション 番組『アメリカン・アイドル』で優勝し デビューを果たした キャリー・アンダーウッドや、ケリー・ピックラーKellie Pickler)、10代を中心に若者からの人気が高く、立て続けにヒット曲を生み出しているテイラー・スウィフトなどもかなりの人気を得ている。 しかしこれらは日本ではマーケティング戦略上、ポップ音楽や映画のサントラに位置付けられている場合が多く、決してカントリー自体の知名度やジャンルの規模が拡大しているとは言えない。

メディア[編集]

テレビ[編集]

現在、アメリカにおいてカントリーミュージックの最もメジャーな情報発信源となっているのは、巨大メディア複合企業バイアコムViacom)傘下のカントリー・ミュージック・テレビジョン(CMT)というケーブルTVチャンネル。まさに“カントリー版MTV”といった感じの構成で人気を博している。 CMTのウェブサイトでは、各ミュージシャンのミュージック・ビデオ等、ストリーミング配信を無料で視聴することも可能。
また、このCMT以外にもGACVH1 Countryなど、カントリー専門のケーブルテレビ局は複数ある。

ラジオ[編集]

自動車社会、アメリカではカーラジオの聴取率が高く、カントリー専門のラジオ局も各地に多数(地上波だけで2000局以上)あり、オンラインでも聴取可能な局や、オンライン専門局も多数存在する。

雑誌[編集]

  • COUNTRY WEEKLY(英語): 多数ある専門誌の中でも、書店以外に、スーパー、コンビニ、売店などで、普通のゴシップ週刊誌と一緒に売られているほどの人気を誇る週刊誌。
  • MOON SHINER(日本語):1983年以来発行されている月刊ブルーグラス音楽専門誌。カントリーやフォークを含め、アメリカン・ルーツ音楽に関する日本唯一の専門月刊雑誌。

アーティスト[編集]

往年の代表的なアーティスト (1930年代~70年代)[編集]



現在の代表的なアーティスト (1980年代前半~現在)[編集]

男性アーティスト&男性ボーカルグループ


女性アーティスト&女性ボーカルグループ


関連項目[編集]

外部リンク[編集]