ヴァイオリン

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ヴァイオリン
各言語での名称
Violin
Violine, Geige
Violon
Violino
小提琴、提琴
ヴァイオリン
分類

弦楽器ヴァイオリン属

音域
各弦の調弦。実音通り記譜
Violin001.png
関連楽器
演奏者
関連項目

ヴァイオリン、または、バイオリン: violin[† 1])は、弦楽器の一種。や指などで振動させることによって音を出す。しばしば「Vn」「Vl」と略記される。歴史的仮名遣では「ヷイオリン」と表記する[1][2]。個数を表す場合は「挺」(ちょう)、「丁」(ちょう)、「本」のいずれかの助数詞を用いる。

構造[編集]

ヴァイオリンの外観 左端上:全体像。左端中:糸巻き部。左端下:糸巻き部を側面から写したところ。糸巻きの位置関係が分かる。中央左:正面の拡大図。黒い部分は指板。左下部に顎当てが写っている。中央右:背面の拡大図。虎柄模様の杢が出ている。下部にある突起がエンドピン。右:側面図。緒止め板から延びる弦が駒によって高く支えられている。
ヴァイオリン本体を軸方向に垂直な平面で切断したところ。中央上から反時計回りに、駒 (Steg)、力木 (Bassbalken)、表板 (Decke)、象眼細工 (Einlage)、側板 (Zargen)、裏板 (Boden)、魂柱 (Stimmstock)、内張り (Reifchen)。括弧内はドイツ語表記

本体[編集]

全長は約60cm。一般にボディ長で楽器の大小を見る。現代では355mmが平均。オールドは352mm前後が多い。重量は楽器にもよるが、300 - 600g前後である。

材料[編集]

一部の電子ヴァイオリンにはプラスチックも用いられているが、本節では伝統的なヴァイオリンの材料について述べる。

ヴァイオリンに使用される木材は、部位によって異なった樹種が用いられている。表板はスプルース(ドイツトウヒ)、裏と側板・ヘッドなどにはメイプル(イタヤカエデ)が一般に用いられる。指板は通常黒檀が使われる。

湿気による反りなどの不正な歪みを防ぐため、木材は長期間天然乾燥されるが、現在では乾燥釜をつかった強制乾燥による5年から8年もののKD材を使用する場合も多い。

側板・裏板のカエデ材は、通常柾目面が表面に露出するような板取りである。「」が出ている材を使用することも多い。

構造[編集]

基本的な構造は右図の通りで、胴体部分はf字孔を開口部とするヘルムホルツ共鳴器を構成している。

表板の裏側には、力木(バスバー)と呼ばれるスプルース(表板と同じ材)の部品が、で張りつけられる。これは表板を補強するとともに低音の響きを強め安定させる役割も果たす。

胴体内には、魂柱(サウンドポスト)と呼ばれるスプルースの円柱が立てられている。魂柱はコマから表板に乗った振幅を裏板に伝え、両板の振幅を適切に引き出して音色・音量を決定する重要な役割を果たす。

駒・魂柱・ペグ・エンドピン以外の各部位は、ニカワによって接着される。ニカワで接着された木材は蒸気を当てることで剥離することができるため、ヴァイオリンは分解修理や部材の交換が可能である。

指板の先には弦の張力を調整する糸巻き(ペグ)がついている。先端の渦巻き(スクロール)は装飾で、一般には音に影響しない部位とされているが、音響のため造形の対称性を損なうよう加工された楽器も多いという[3]。また、この部分に別の彫刻(人、天使、ライオン等の顔)が施される場合もある。

塗装[編集]

塗装には基本的にニスが用いられるが、一部の安価な楽器にはポリウレタンも用いられている。

ニスにはスピリット(アルコール)系とオイル系の二種類がある。塗装の目的は湿気対策および音響上の特性の改善である。

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Violin001.png
譜例: 開放弦

4本の弦はエンドピンによって本体に固定された緒止め板(テールピース)からの上を通り、指板の先にあるナットと呼ばれる部分に引っ掛けてその先の糸巻き(ペグ)に固定されている。正面から見て左が低音、右が高音の弦であり、日本ではドイツ音名を用い高い音の弦から順に、E線、A線、D線、G線(えーせん、あーせん、でーせん、げーせん/ドイツ語読み)と呼ぶことが多い。E線、A線、D線、G線の代わりに1番線(I)、2番線(II)、3番線(III)、4番線(IV)と番号で呼ぶ場合もある。この順番は世界共通。

材料[編集]

もともとヴァイオリンの弦はガット)を用いていた。しかし標準ピッチが上昇するにつれ、またバロック様式の楽器から近代になってネックの仕込み角がきつくなってくると、高い張力に耐える弦が求められるようになった。

現在ではガット弦は金属の巻線によって補強されているが、むしろ金属弦や合成繊維ナイロン弦)が多く用いられる。それも、単純なナイロン(ポリアミド)芯にアルミ巻き線を施した弦から、合成樹脂繊維の最先端技術を取り入れた芯にアルミや銀を含む金属製の巻き線を施した弦が主流になりつつある。これらの最新式の弦は、音色的にはガット弦に近い一方でガット弦ほど温湿度に敏感でないという長所を持つ。

調弦方法[編集]

ペグを回すことで調弦を行うが、E線はペグによる音程の微調整が困難であるため、アジャスターと呼ばれるテールピースに取り付けられた小さなネジを回すことによって調弦する。分数ヴァイオリンや初心者向けのフルサイズのヴァイオリンには、調弦し易いように4本の弦のアジャスターがテールピースに取り付けられているものもある(弦に直接取り付けるタイプのものとは異なる)。

普通は音叉などでA線を440ないし442Hzに調弦し、A線とD線、D線とG線、A線とE線をそれぞれ同時に弾いて、完全五度の和音の特有の響きを聞いて調弦する。協奏曲演奏に際して、442Hzを越えるように調整して華やかな独奏ヴァイオリンを引き立たせる方法もある。

バロック・ヴァイオリンではピュア・ガット(金属の巻かれない裸のガット弦)を用い、多くの場合A線を415Hz(バロック・ピッチ)あるいは392Hz(ベルサイユ・ピッチ)に調弦する。

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ヴァイオリンの弓の構造 弦に接触する馬の尾の毛 (Hair) がフロッグ (Frog、フロッシュとも言う) と呼ばれる部品によって、支持材となっている木製の棒 (Stick) からは離れている。

木製の竿(スティック)を直線に削り出し、慎重に火を入れて適度なカーブを持たせた竿に、(蒙古馬)の尾の毛(白毛)を平たく張る。この毛に松脂を塗って摩擦力を生じさせ、弦をつかむ。松脂は粉末として毛の間に蓄えられるという要素以上に、松脂が弦との摩擦による熱で毛に溶けつき適度な粘りを生じる。松脂をぬってしばらく弾き、その粉末が適度に溶けつくことで音色が安定する。そして、ある程度弾いて松脂が適度に毛に溶けつくと、松脂の粉末が弦の下に落ちて無くなる。演奏しない時は、弓の毛は通常ゆるませておく。

スティックの材料はブラジルボク(ブラジルウッド)の心材であるペルナンブコ(フェルナンブコ)が最良とされる。これはペルナンブコに含まれる水溶性の色素成分が、部材の振動減衰率(損失角の正接、損失正接、tanδ)を低く抑え、音を響かせるためである。ペルナンブコのtanδは0.003 - 0.005であり、ヴァイオリン本体の板材であるスプルースの0.005 - 0.007よりもさらに低い[4]

しかしブラジルボクは乱獲により急速に個体数が減少、絶滅が危惧されている。ブラジル内外で植林活動が始まっているものの、成長に約200年を要す。2007年6月にハーグで開かれたワシントン条約締約国会議において、ブラジルボクは同条約附属書IIに記載され、これにより輸出入がほぼ不可能となった。弓メーカーはそれぞれペルナンブコ材の備蓄を持つが、材料は高騰を続けている。

20世紀半ばからは代替材料の開発が盛んになり、一時人工樹脂を用いた弓なども試作された。現在はペルナンブコと同じブラジル産の熱帯雨林材であるマサランデュバManilkara bidentata, Balatá[† 2])などが用いられる他、繊維強化プラスチック (FRP) 、カーボンファイバー、グラスファイバーなど人工繊維製弓の改良も進んでいる。

中でもカーボン製の弓は弾力性、剛性、湿気への強さなどに優れ、中級からプロ仕様のものまで多数が商品化されている。技術力の向上により、手作りのペルナンブコ製弓よりも数値的性能が高いものもある。

先端(ヘッド)にはチップと呼ばれる薄い保護板があり、牛骨又や銀板が用いられている。古い弓では象牙(現在は違法)を使っているものも多数ある。最近では安価なものにはナイロン系の合成樹脂なども用いられる。銀板などの金属製チップは(英国の作者が良く用いる)ピンを差して固定しているため、ヘッド部分の内側に亀裂が入りやすい。竿を振った際の重量バランスも崩れやすい。

作者名はスティックに焼き印として記される場合が多いが、当時のディーラー名を記したり、イミテーションやコピーとして著名作者名を記したりする場合も少なくない。また、トゥルテなど全く自分の名を記入しなかった製作者もいる。この作者焼き印(スタンプ)は、フランス式とドイツ式で異なり、フロッグを上にした時に読める向き(弓のスクリューから先端方向)がフランス式、フロッグを下にしたときに読める向き(弓の先端からスクリュー方向)がドイツ式である。ただし、著名作者の作品をコピーした弓などは、ドイツ製でもフランス式の焼き印がなされることがあり、安価な弓の真贋判断は専門家でも難しい。

フロッグには黒檀が、金具には銀が一般的に使用されるが、黒檀の代わりに鼈甲や象牙、銀の代わりに金が使われることもある。装飾として美しい螺鈿細工が施される。これらは現代スタイルの弓を確立したトゥルテが初期に宝石時計職人を兼ねており、その金属加工技術などを弓作りに応用したことによる。ラッピングにはナガスクジラヒゲがよく用いられてきたが、現在では銀線や銀糸が多い。

分数楽器[編集]

通常の大きさ(4/4,フルサイズ)の他に、子供向けにサイズを小さくしたヴァイオリンも作られている。1/32, 1/16, 1/10, 1/8, 1/4, 1/2, 3/4, 7/8と呼ばれるサイズなどがあり、これらを分数楽器と呼び、スズキ・メソードなど弦楽器の早期教育で用いられる。

分数楽器の数字は通常、大人用(4/4サイズ)に対する胴部の容積の比率を表していると説明される。しかし実際には、現在作られているヴァイオリンの殆どが、フルサイズ=胴体の長さ14インチ、3/4=同13インチ,1/2=同12インチといった等差的な寸法体系に沿っている。

ただし、1/8以下の楽器はメーカーによっても寸法が違い、あるメーカーの1/10が他のメーカーの1/16と同じ大きさということもある。これら1/8以下の楽器は使用期間が短く奏者も未熟な場合が多いことから市場を流通するのはほとんどが廉価な商品である。

歴史[編集]

ヴァイオリンの形態の変化[編集]

誕生まで[編集]

絵画に描かれたヴァイオリン カラヴァッジォ(ミケランジェロ・メリージ)の「リュート奏者」 (Suonatore di liuto) (1595 - 1596年)。机の上にはヴァイオリンとよく似た楽器が弓と共に横たわっている

ヴァイオリンの起源については諸説あるが、はっきりしたことはいまだにわかっていない。そもそもヴァイオリン黎明期である16世紀当時において「ヴァイオリン」や「ヴィオール」という言葉が何を指すのかに関してもあいまいな点がある。

ヴァイオリンが世に登場してきたのは16世紀初頭と考えられている。現存する最古の楽器は16世紀後半のものだが、それ以前にも北イタリアをはじめヨーロッパ各地の絵画や文献でヴァイオリンが描写されている。レオナルド・ダ・ヴィンチの手による、ヴァイオリンに似た楽器の設計図が残存している。現存楽器の最初期の制作者としてはガスパーロ・ディ・ベルトロッティ(通称ガスパーロ・ダ・サロ)、アンドレア・アマティ、ガスパール・ティーフェンブルッカーが有名である。当時は舞踏の伴奏など、世俗音楽用の楽器として考えられていた。

17 - 18世紀にはニコロ・アマティヤコプ・シュタイナー英語版ストラディバリ一族、グァルネリ一族など著名な制作者が続出した。特に卓越していたのがアントニオ・ストラディヴァリバルトロメオ・ジュゼッペ・グァルネリ・デル・ジェスであり、彼らを超える名器はいまだに生まれていない。

ヴィオール属とはいくつかの相違点が挙げられるが(詳細はヴィオール属の項目を参照)、力学的に改良が施されて音量・音の張りに大きく向上が見られた。音楽文化の中心が宮廷サロンから劇場・ホールに移るにつれ、弦楽器においてこれまでになく大きな響きを持つヴァイオリンはクラシック音楽を形作る中心となっていく。

弓の改良[編集]

弓が現在のような形になったのは本体よりもう少し遅く、18世紀末である。最初は半円形、つまり武器の弓に似た形状であったが、技術的要請から徐々に改良されていった。

逆反りになった現在の弓のスタイルを確立したのは、18世紀フランスのフランソワ・トゥルテ英語版(トルテ、タートとも)であると言われる。トゥルテや一時代下ったドミニク・ペカット英語版らの作品は、現在ではオールドフレンチボウとして扱われ、その世界的評価額は高額(百万円 - 数千万円)である。

乱獲によるペルナンブコの減少と高騰を受け、代替材料として様々な試みが行われてきたが、近年は人工繊維、とくに弾力性、剛性、湿気への強さなどに優れるカーボン製の弓が台頭著しい[5]

現在までの改良[編集]

本体も多少の変化を遂げている。まず、演奏される曲の音域が増加するのに伴い指板は延長された。また、より高いピッチへの対応及び、さらに音量をも要求されるようになり、それに対応するためネックが後ろに反り、駒がより高くなった。 本体内部も、弦圧の増大に対応すべく、バスバーを長さ、高さとも大型のものに交換、ネック取り付け部も強化されている。18世紀以前に作られた楽器のほとんどは現在そのように改造されており、このような改造を行うことを「モダン化」、「モダン仕様」などという。これに対して新作の時点でそれらを織り込んで作られている物を「モダン・ヴァイオリン」と呼ぶ。したがって現在作られているヴァイオリンはバロック仕様でない限りモダン・ヴァイオリンということである。

また、モダン化改造を受けず原形を保っているものを「バロック・ヴァイオリン」というが、現代においてつくられたヴァイオリンであっても「バロック・ヴァイオリン」の仕様で作られているの物もそう呼ばれる。 近年の古楽器ブームの影響もあり、モダン・ヴァイオリンからバロック仕様への変更も若干ながら行われている。


これとは別に、特にイタリア製において、名ヴァイオリン制作者が作製したヴァイオリンを制作時期によって「オールド(1700年代後期まで)」「モダン(1800年位から1950年位まで)」「コンテンポラリー(1950年位以降)」と分類して呼ぶこともある。

音響を電気信号に変えるエレクトリック・アコースティック・ヴァイオリンや、弦の振動を直接電気信号に変えるエレクトリック・ヴァイオリンも登場している。

ヴァイオリン音楽の形成[編集]

クラシック音楽[編集]

ヴァイオリンの出現当初はリュートヴィオールに比べて華美な音質が敬遠され、芸術音楽にはあまり使用されなかった。一方で舞踏の伴奏など庶民には早くから親しまれていた。

しかし制作技術の発達や音楽の嗜好の変化によって次第に合奏に用いられるようになる。

17世紀には教会ソナタや室内ソナタの演奏に使われた。ソナタはマリーニやヴィターリ等の手によって発展し、コレッリのソナタ集(1700、「ラ・フォリア」もその一部)で集大成に至る。

ヴィヴァルディではないかとされる絵 F. M. La Caveによる肖像画(1723年)

また、少し遅れて協奏曲の発展も見られるようになった。コレッリ等によって優れた合奏協奏曲が生み出されていたが、トレッリの合奏協奏曲集(1709)で独奏協奏曲の方向性が示され、ヴィヴァルディによる「調和の霊感」(1712)等の作品群で一形式を作り上げた。ヴィヴァルディの手法はJ.S.バッハヘンデルテレマン等にも影響を与えた。一方で協奏曲が持つ演奏家兼作曲家による名人芸の追求としての性格はロカテッリ、タルティーニ、プニャーニ等によって受け継がれ、技巧色を強めていった。また、ルクレールはこれらの流れとフランス宮廷音楽を融合させ、フランス音楽の基礎を築いた。

18世紀後半にはマンハイム楽派が多くの合奏曲を生み出す中でヴァイオリンを中心としたオーケストラ作りを行った。そしてハイドンモーツァルトベートーヴェンシューベルト等のウィーン古典派によって、室内楽管弦楽におけるヴァイオリンの位置は決定的なものとなった。また、トゥルテによる弓の改良は、より多彩な表現を可能にし、ヴィオッティとその弟子クロイツェルバイヨロードによって近代奏法が確立されていった。

19世紀になると、現在でも技巧的な面では非常に難しいとされるパガニーニによる作品[6]の登場によって、名人芸的技巧(ヴィルトゥオーソ)がヴァイオリン曲の中心的要素とされ、高度な演奏技術を見せつける曲が多く出た。一方でイタリアではオペラの流行とともにヴァイオリンの人気は少しずつ衰えていった。

19世紀中頃からはヴァイオリン音楽において、演奏家と作曲家の分離の傾向が強く見られるようになった。当時の名演奏家に曲が捧げられたり、あるいは協力して作曲したりすることが多く、例えばメンデルスゾーンダーフィトブラームスヨアヒムといった演奏家の助言を得て協奏曲を作っている。また、チャイコフスキードヴォルザークグリーグ等によって民族的要素と技巧的要素の結合が図られ、シベリウスハチャトゥリアンカバレフスキー等に引き継がれている。

民族音楽[編集]

ヴァイオリンは各地の民族音楽にも使われた。特に東欧、アイルランド、アメリカのものが有名である。詳しくはフィドルの項を参照。また、インドには独特のヴァイオリンの用法がある。

日本人によるヴァイオリンの受容[編集]

フロイスの『日本史』によると、16世紀中頃にはすでにヴィオラ・ダ・ブラッチョが日本に伝わっていた。当時ポルトガル修道士がミサでの演奏用として日本の子供に教えたことが書かれている[要ページ番号]

明治になると、ドイツ系を主とした外国人教師によって奏者が養成され、ヴァイオリンは少しずつ広まっていった。1900年(明治33年)には、鈴木政吉によって日本で最初のバイオリン工場(鈴木バイオリン製造)が設立され、大量生産されるようになった。また、大正時代にはジンバリストハイフェッツクライスラープルメスターエルマンといった名演奏家が続々来日し、大きな影響を与えている。

戦後になると各種の教則本が普及し、幼児教育も盛んになって、技術水準が飛躍的に上がっていった。現在では、世界で活躍する日本人奏者も多数いる。

奏法[編集]

基本姿勢[編集]

ヴァイオリンの演奏姿勢 左端がヴァイオリン奏者。ブラジルのAuditório da Fundação Maria Luisa e Oscar Americano

まず、左肩(鎖骨の上)にヴァイオリンを乗せて、顎当てに顎を乗せて押し付け過ぎない様かつ支えられるように挟み込にして、ヴァイオリンを高く持ち上げるように構える。左手でネックを持ち、顎と肩だけでヴァイオリンを支える。演奏中は指板を持って楽器を支えると、左手で正確な音程を取ることができないので、顎と肩だけで支え、左手では支持しない、ないし最小限にとどめる。体を少し左に傾け、左腕を胸側に少し近づける(決して上腕をくっつけない)。そして両腕の距離を詰める(ように意識する)[7]

なお、これはヴァイオリンにブリッジ型の肩当てを使用している場合である。

肩をすくめて楽器を挟まない現代奏法もある。これは楽器のボディを挟むことによる音響収縮を無くすためであるが、楽器のバランスを左手で支えることになる。

目線は、指板と平行になるようにする。肩の位置も重要で、ヴァイオリンを肩に押し込んだり、その逆もしてはいけない[7]。 

左手の人差し指、中指、薬指、小指で弦を押さえ、右手で弓を操作する。左手の親指は音程を定める基準となる。右手による弓の操作をボウイング(bowing)と呼ぶ。一見単純な動作だが熟練を必要とする。(運弓について詳しくはボウイングの項を参照)ボウイングは、ヴァイオリンから出る音色を大きく左右させる[8][9][10]

ポジショニング[編集]

第一ポジション

左手により音程を取るための、ボウイング同様に重要な基本的技術。

各弦は、指で押さえない状態(開放弦)から一音(二度)ずつ高い状態を人差し指、順に中指、薬指、小指として、小指で押さえた状態が右となりの弦と同じ音になる。例えばD線では、何も押さえない開放弦のままではD(レ)、人差し指で押さえるとE(ミ)の音を得ることができる。中指でF(ファ)、薬指でG(ソ)となり、小指でA(ラ)、すなわち右となりのA線と同じ高さを得ることができる。また、楽譜などでは人差し指から順に、それぞれの指を1、2、3、4と表記する。

この状態が第一ポジション(first position)、ここから左手を少し手前に動かし、開放弦より二音高い状態(第一pos.より一音高い音)を人差し指で押さえるのが第二ポジション(second position)、三音高い状態を人差し指で押さえるのが第三ポジション(third position)である。一方で第一ポジションより半音低くした状態で押さえる半ポジション(half position)もある。

高ポジションを利用するのは基本的には第一ポジションではとることのできない高い音程を出すためであるが、音色を変化させる為あえて用いる時もある。E線の華やかな音を避けたり(A線を用いる)、G線の高ポジションにおける独特の美しさを出す場合である。

ポジショニングは理論上はいくらでも高次の物があるが、特に高いポジションで弾きこなすには熟練を必要とする。音域が高いとわずかな位置の違いで大きく音が外れてしまい、低音ポジションよりもその差が大きい。

ポジショニングは、単なる運指上の技術であるにとどまらない。運指(フィンガリング)によって音程の取り方が左右され、音楽が異なる様を呈するからである[11]

正確な音程を手に叩き込んだのち、曲の解釈から生まれる表現を実現するために、適切なポジショニングを模索することが重要であると考える演奏家もいる[12]

ギターヴィオール族と違って弦の振動領域を規定するフレットが無く(意図的にとりつけたものは「フレッテド(フレッテッド)ヴァイオリン」と呼ばれる。ない物は「フレットレス」と呼ぶ)、正確な音程をとるためには練習して位置を正確に指で押さえる必要がある。(フレットがある楽器ではフレット間を押さえていれば同じ音が出る)。このことが初心演奏者にとって一つの壁となる。

ビブラート[編集]

手首のいずれかを動かすことによって弦を押さえている指を前後させ、音を上下に素早く振動させて深みを与える。左腕を動かすことによってその動きを指先に伝える方法、左手の手首から先を揺らす方法、指のみを揺らす、などの方法がある。

振動の幅や速さは、演奏家により多種多様である[13]

オーケストラにおいてビブラートを常時かける現在の習慣は20世紀中頃に世界に広まったもので、それ以前はビブラートは装飾音、あるいはソリストのものであると認識されていた。バロック音楽などを演奏する古楽オーケストラはもちろんのこと、ロジャー・ノリントンニコラウス・アーノンクールといった古楽系の指揮者が現代オーケストラを指揮する場合には、基本的にノン・ビブラートによる演奏を要求することが多い。

重音(奏法)[編集]

歴史的な擦弦楽器では、弓は張力を小指で調整していたため、張力をゆるめることで3または4つの弦に同時にふれさせることができた。現代のヴァイオリンはその構造上、弓で弾く場合は完全な和音は通常2音が限界である(ピッツィカート奏法を用いれば4和音も可能である)。3音、4音の和音を出すには、弓で最初低音の2弦をひき、素早く高音の弦に移す。ただし、やや指板寄りの箇所を弓で弾くことで3音同時に出すことも可能である。

バッハ無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータでは4音同時の和音が多く要求され、しかもそれがポリフォニックに書かれているため、これを正確に現代楽器で表現できる、弓の木が極端に曲がったバッハ弓と呼ばれるものが存在する。ウジェーヌ・イザイ無伴奏ヴァイオリンソナタでは、5音や6音の和音が用いられている。これは一種のアルペジオである。

フラジオレット[編集]

弦を指板まで押さえ込まず、軽く左手の指で触れることにより、高く澄んだ音色が得られる。ハーモニクスと言う場合もある。

ピッツィカート[編集]

ピッツィカートは弦を弓で弾かずに、指で弾(はじ)く奏法。楽譜には pizz.(ピッツ)と書かれる。 はじき方は決まっておらず、右手人差し指や中指を使うことがほとんどであるが、左手で行う奏法もある(左手でのピッツィカートは、音譜の上に+と書かれる)。通常は、ヴァイオリン本体を顎に乗せ、弓を持ったまま指で弾く(他、楽章全てがpizzだけで構成されているときなど、弓を持つ必要の無い場合は弓を置いて行うこともある)が、ラヴェルボレロなど、全てがpizzでは無いがpizzの指定が長いときは、ギターのように腰のあたりにヴァイオリン本体を抱えて弾く場合もある。

弦を親指と人差し指でつまんで指板に叩きつけ、破裂音を出すバルトーク・ピッツィカートと呼ばれる奏法もある。バルトークによって発案されたとされるが、実際にはマーラー交響曲第7番などですでに用いている。

コル・レーニョ[編集]

コル・レーニョ(・バットゥート)とは、弓の木の部分で弦を弾く(叩く)奏法で、固く打楽器的な破裂音が鳴る。

スル・ポンティチェロ、スル・タスト[編集]

スル・ポンティチェロ(sul ponticello:駒の上で)とは、駒のごく近くの部分の弦を弓で演奏することにより、通常よりも高次倍音が多く含まれる音を出し、軋んだような感覚を得る奏法である。ごく近くを指定するときは、アルト・スル・ポンティチェロ(alto sul ponticello:高い駒の上で)と言う。代表的な例では、ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲集四季の、「冬」の第1楽章に用いられる。

スル・タスト(sul tasto:指板の上で)とは、指板の上の部分の弦を弓で演奏することにより、通常よりも高次倍音を含まない音を出し、くぐもったような、あるいは柔らかく鈍いような感覚を得る奏法である。

どちらも現代音楽では普及された語法として多く用いられる。

関連する著名人[編集]

制作者[編集]

海外[編集]

アンドレア・アマティ (1505頃-1577)
史上最初にヴァイオリンを作った制作家のうちの一人とされる。ジョバンニ・レオナルド・ダ・マルティネンゴの弟子。一説にはゴッタルドの弟子という説もある。地方の豪族。
ガスパーロ・ディ・ベルトロッティ (1540-1609)
サロ湖畔に住んでいたので、ガスパロ・ダ・サロと呼ばれる。ビオラが特に有名。家具職人。
ジョバンニ・パオロ・マッジーニ英語版 (1581頃-1632頃)
ブレシアの制作者。ガスパロ・ダ・サロの弟子。非常に優れた楽器を作った。
ニコロ・アマティ (1596-1684)
アンドレア・アマティの孫でジェローラモ・I・アマティの子供。多くの弟子を育て、クレモナがバイオリンの一大生産地となる基礎を築き上げた。弟子にはアントニオ・ストラディバリを始めとしてアンドレア・ガルネリ、フランチェスコ・ルジェーリ、ジョバンニ・バティスタ・ロジェーリ等がいた。
ヤコプ・シュタイナー英語版 (1617頃生)
ドイツの楽器制作家。古典派の時代においてはストラディバリよりも作品の評価が高かった。素晴らしいヴァイオリンを制作したが、偽物も数多く出回り、また、後世にオリジナルも数多くが改造を受けて改悪され保存状態の良い楽器があまり残っていないため、現在ではあまり評価は高くない。ドイツヴァイオリンは現在に至るまで、ほとんどがシュタイナーのラベルを転用している。黄色の強い茶系のニスが特徴。
アントニオ・ストラディヴァリ (1644-1737)
イタリアンオールドヴァイオリンの最高峰。当時から300年経った現在でも、ストラディバリの作品を超えるバイオリンは制作されていないとされる。音は非常に輝かしく明るい。クレモナに大工房を構え、数多くの名工を弟子として育てた。
バルトロメオ・ジュゼッペ・ガルネリ(通称デルジェス) (1698-1744)
ストラディバリと並ぶ天才的制作家。制作数が約200本と少なく、希少である。怪我をした楽器が多いが、多少の傷は直してしまえば音に影響しない強さがある。
フランチェスコ・ルジェッリ(1626-1698)
フランソワ・トゥルテ英語版 (1748-1835)
オールドフレンチボウの最高峰。ヴィオッティの助言を受けて、ほぼ現在のものと同じ標準的な弓の形状を確立するとともに、材料にペルナンブコを採用して、細身で優雅な名弓の数々を製作した。父ピエール・トゥルテ、兄ニコラ・レオナルド・トゥルテとも弓職人だったが、フランソワは当初時計職人として世に出たため、貴金属や繊維の加工にも秀で、後期の作品には華麗な細工を施している。
ジャン=バティスト・ヴィヨーム英語版 (1798-1875)
フランスの楽器制作家。万国博覧会で作品が3度の金賞を受賞するなど、同時代のヴァイオリン製作の中心的人物だった。先行作品のコピーを多数制作したことで知られ、クレモナの名器の中にはヴィヨームの手で近代仕様に改造されたものも多い。また、同郷のペカットらを自らの工房に抱え、多くの弓も送り出した。
ドミニク・ペカット英語版 (1810-1874)
トゥルテと並び称されるオールドフレンチボウの巨匠。ミルクールに生まれ、同郷のヴィヨームの工房に入り、トゥルテの影響を受けたジャン・ピエール・ペルソワの指導を受けて頭角を表す。作品は剛弓と呼ばれるものが多い。しばしば協働した弟のフランソワ・ペカット、その息子のシャルル・フランソワ・ペカットも名匠として知られる。

日本[編集]

指導者・研究者[編集]

奏者としての方が有名な人物は除外。

日本国内の指導者としては、小野アンナ鈴木鎮一スズキ・メソードの創始者)、鷲見三郎江藤俊哉渡辺季彦など。

ヴァイオリン奏者(ヴァイオリニスト)[編集]

関連書[編集]

  • 『楽器の事典 ヴァイオリン』東京音楽社、1993年、ISBN 4-88564-252-3
  • 『楽器の事典 弓』東京音楽社、1992年、ISBN 4-88564-215-9
  • 石井宏『誰がヴァイオリンを殺したか』新潮社、2002年、ISBN 4-10-390302-3
  • ハーバート・ホーン『ヴァイオリン演奏のコツ』山本裕樹/訳、音楽之友社、2001年、ISBN 4-276-14454-X
  • ヨーゼフ・シゲティ『ヨーゼフ・シゲティ ヴァイオリン練習ノート;練習と演奏のための解説付200の引用譜』山口秀雄/訳、音楽之友社、2004年、ISBN 4-276-14461-2

脚注[編集]

[ヘルプ]

注釈[編集]

  1. ^ 英語発音: [ˌvaɪəˈlɪn] ヴァイオ
  2. ^ 弦楽器業界ではマサランデュバをしばしばブラジルウッドの名で扱う(ヴァイオリン製作者によるQ&A弓製作者による「弓の豆知識」)が、ブラジルウッドとは本来バラ亜網マメ目ジャケツイバラ科ブラジルボクの英名、すなわちペルナンブコと同一の樹種を指す語であり、一般名ではない。したがって近縁関係にないビワモドキ亜網カキノキ目アカテツ科のマサランデュバをブラジルウッドと称するのは正確でない。

出典[編集]

  1. ^ ワ゛イオリン奏法の研究(佐藤謙、三著音樂叢書 第8編、京文社、1925年12月)
  2. ^ 国語施策・日本語教育 > 国語施策情報 > 第18期国語審議会 > 第3回総会 > 次第文化庁
  3. ^ 自由ヶ丘ヴァイオリン「スクロールの左後ろを見ましょう」
  4. ^ 杉山真樹、松永正弘、湊和也、則元京「バイオリンの弓に用いられるペルナンブコ材の物理的・力学的特性」木材学会誌、40(9)、905-910 (1994)。
  5. ^ マックスプランク研究所の研究発表: Materials for Violin Bows - What are the Alternatives for Pernambuco?
  6. ^ Auer, Leopold., Violin Playing As I Teach It, Dover Pubns;New edition, 1980, (XIII; THE VIOLIN REPERTORY OF YESTERDAY AND TO-DAY、 XIV; PRACTICAL REPERTORY HINTS -What I Give My Pupils to Play-)
  7. ^ a b Auer, Leopold., Violin Playing As I Teach It, Dover Pubns;New edition, 1980, (II; HOW To HOLD THE VIOLIN)
  8. ^ Auer, Leopold., Violin Playing As I Teach It, Dover Pubns;New edition, 1980, (V; HINTS ON BOWING )
  9. ^ Menuhin, Yehudi., Six Lessons With Yehudi Menuhin, W W Norton & Co Inc., 1981, (Lesson2、Lesson4)
  10. ^ Fischer, Carl., Art of Violin Playing, Carl Fischer Music Dist, 1924
  11. ^ Auer, Leopold., Violin Playing As I Teach It, Dover Pubns;New edition, 1980, (VI; LEFT-HAND TECHNIQUE -Fingering-)
  12. ^ DVD THE ART OF VIOLIN, Nathan Milstein参照。
  13. ^ DVD THE ART OF VIOLIN, Ida Haendelへのインタビュー参照。

参考文献[編集]

  • Menuhin, Yehudi., Six Lessons With Yehudi Menuhin, W W Norton & Co Inc., 1981, ISBN 0-393-00080-X
  • Auer, Leopold., Violin Playing As I Teach It, Dover Pubns;New edition, 1980, ISBN 0-486-23917-9
  • Fischer, Carl., Art of Violin Playing, Carl Fischer Music Dist, 1924, ISBN 0-8258-0135-4
  • Galamian, Ivan., Principles of Violin Playing and Teaching, Shar Products Co., 1999, ISBN 0-9621416-3-1
  • Ossman, Bruce., Violin Making; A Guide for the Amateur, Fox Chapel Pub;illustrated edition, 1998, ISBN 1-56523-091-4
  • Heron, Allen E., Violin-Making; A Histolical and Practical Guide, Dover Pubnsm, 2005, ISBN 0-486-44356-6
  • Ingles, Tim., Dilworth, John., Four Centuries of Violin Making; Fine Instruments from the Sotherby's Archive, Cozio Publishing, 2006, ISBN 0-9764431-1-2

関連項目[編集]

外部リンク[編集]