ヒツジ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ヒツジ

分類
界: 動物界 Animalia
門: 脊索動物門 Chordata
亜門: 脊椎動物亜門 Vertebrata
綱: 哺乳綱 Mammalia
目: ウシ目 Artiodactyla
科: ウシ科 Bovidae
亜科: ヤギ亜科 Caprinae
属: Ovis
: aries
学名

Ovis aries

和名

ヒツジ

英名

Sheep

ヒツジ)は、脊椎動物門 哺乳綱 ウシ目 ウシ科ヤギ亜科の動物。角をもち、主に羊毛のために飼育される家畜

目次

[編集] 家畜としてのヒツジ

(ひつじ)として十二支の一つに入っているように、中国では8,000年以上前から飼育されていた。最初に家畜化されたヒツジは、現在の中近東にいたアジアムフロンではないかと言われている。毛を刈って衣料に利用する、肉を食用にする、乳を飲用または乳製品への加工に用いるなど、人間はヒツジをさまざまな形で用いてきた。

犬種にShetland Sheepdogシェットランド・シープドッグ)の様にsheepdogと付くものがあるが、これは「ヒツジに似た犬」ではなく、牧羊犬に適した犬種であることを示している(シェパード Shepherd も同様)。これらは、英語圏を初めとする欧州地域でのヒツジが比較的身近な家畜である顕著な例でもある。

砂漠山岳地帯など、さまざまな環境に適応した固有の種がある。

戦前、防寒具の原料を自給するためにと輸入されたのが、日本での本格的なヒツジの飼育のはじめとされている。ジンギスカン鍋は、毛を刈った後で潰したヒツジの大量の肉を消費する方法として、新しく考案された。

角はオス・メスの両方にあり、メスの角は短くまっすぐだが、オスの角は長くて曲がったり、ねじれたりする。

通常は、150日ぐらいで仔を1頭だけ産むが、2頭あるいは3頭産むときもある。

[編集] 主要な飼育種

[編集] 形態

ヒツジは比較的小さい反芻動物で、側頭部のらせん形の角と、羊毛(wool)と呼ばれる縮れた毛をもつ。

原始的な品種では、短い尾など、野生種の特徴を残すものもある。

品種によって、ヒツジはまったく角をもたないものも、(野生種のように)雄雌両方にあるもの、雄だけが角を持つものもある。 角のある品種のほとんどは、角は左右1本ずつ。

ヒツジのもうひとつの特徴は、色の多様性である。 野生のヒツジは茶色で、色合いには幅広いバリエーションがある。 家畜のヒツジの色は純白から濃いチョコレート色まであり、斑模様などもある。 白い羊毛は染色しやすいので、家畜化の早い時期から選別され、主要な品種として伝播した。 しかし、色のあるヒツジも多くの現代種におり、また白いヒツジの群れのなかに現れることもある。

品種により、ヒツジの体長や体重は幅広い。 雌の体重はおよそ45-100kg、雄はより大きくて45-160kgである。

成熟したヒツジは32本の歯を持つ。 ほかの反芻動物と同じように、下顎に8本の門歯がある一方、上あごには歯がなく、硬い歯茎がある。 犬歯はなく、門歯と臼歯との間に大きな隙間がある。 4歳になるまで(歯が生え揃うまで)は、前歯は年に2本ずつ生えるため、ヒツジの年齢を前歯の数で知ることができる。 前歯は齢を重ねるにつれ失われ、食べるのが難しくなり、健康を妨げる。 このため、通常放牧されているヒツジは4歳を過ぎると徐々に減り始め、ヒツジの平均寿命は10年から12年である。 しかし20年生きるものもいる。

ヒツジの聴力はよい。

水平に細い瞳孔を持ち、優れた周辺視野をもつ。視野は 270°-320°で、頭を動かさずに自分の背後を見ることができる。 しかし、奥行きはあまり知覚できず、影や地面のくぼみにひるんで先に進まなくなることがある。 一般に、ヒツジは暗いところから明るいところに移動したがる傾向がある。

[編集] 生態

ヒツジは非常に群れたがる性質をもち、群れから引き離されると強いストレスを受ける。 また、先導者に従う傾向がとても強い(その先導者はしばしば単に最初に動いたヒツジであったりもする)。 これらの性質は家畜化されるにあたり極めて重要な要素であった。

なお、捕食者がいない地域の在来種は、強い群れ行動をおこさない。

群れの中では、自分と関連あるもの同士が一緒に動く傾向がある。 混種の群れの中では同じ品種で小グループができるし、また雌ヒツジとその子孫は大きな群れの中で一緒に動く。

ヒツジにとって、危険に対する防御行動は、まずは単純に危険から逃げ出すことである。 その次に、追い詰められたヒツジは突撃するか、蹄を踏み鳴らして威嚇する。とくに新生児を連れた雌にみられる。

ヒツジは非常に食べ物に貪欲で、いつもエサをくれる人にエサをねだることもある。 羊飼いは牧羊犬などで群れを動かす代わりに、エサのバケツでヒツジを先導することもある。

エサを食べる順序は身体的な優位性により決定され、ほかのヒツジに対してより攻撃的なヒツジが優勢になる傾向がある。 オスのヒツジでは、角のサイズが群れでの優位を決める重要な要素で、角のサイズが異なるヒツジの間ではエサを食べる順番をあまり争わないが、同じような角のサイズをもつもの同士では争いが起こる。

ストレスに直面するとすぐに逃げ出しパニックに陥るので、初心者がヒツジの番をするのは難しい。

ヒツジは非常に愚かな動物であるというイメージがあるが、イリノイ大学の研究では、ヒツジのIQはブタよりは低くウシと同程度であることが明らかになった。

またヒツジは人や他のヒツジの顔を覚え、何年も記憶する。顔の表情から心理状態を識別することもできる。

[編集] 羊肉の利用

ジンギスカン用のラム肉

羊肉は広い地域で食用とされている。羊の年齢によって、生後1年未満をラム(lamb、子羊肉)・生後2年以上をマトン(mutton)と区別することもある。生後1年以上2年未満は、オセアニアでは「ホゲット」と区別して呼ばれているが、日本ではマトンに含まれる。

日本国内では、牛肉豚肉鶏肉に比べ、消費量は少なく、ジンギスカン鍋ラムしゃぶ、スペアリブの香草焼きなど特定の料理でのみ使われることが多い。カルニチンを他の食肉よりも豊富に含むことから、体脂肪の消費を助ける食材とされている。

マトンには独特の臭みがある。ラムには臭みが少なく、こちらは日本で近年人気が高まりつつある。羊肉特有の臭みは脂肪に集中するため、マトンの臭みを取り除くには、脂肪をそぎ落とすと良いと言われる。他には、「香りの強い香草と共に炒める」「牛乳に漬けておく」等の方法がある。

海外では、飼育が盛んなオーストラリアニュージーランドをはじめ、豚肉を避けるイスラム教が広く普及した中東での消費量が多い。東アジアでも、モンゴル中国西北部などでは、代表的な食肉となっており、さまざまな調理法が用いられている。

インドのマクドナルドには「マハラジャマック」と呼ばれるメニューがあり、これは牛を神聖な生き物とみなすヒンドゥー教の信徒ためにマトンを用いたハンバーガーのことである。

[編集] 羊毛

羊の飼育上もっとも重要な利用対象はメリノ種などから取る羊毛(ウール)である。詳細は羊毛の項目を参照。

[編集] 羊皮紙

羊皮紙はヒツジの皮を原料とするが、ヤギウシなど、ヒツジ以外の生き物の皮が使われることも多かった。 中近東中世西洋などでは、東洋から製の技術が伝播するまで、羊皮紙はパピルス粘土板と共に、宗教関連の記録や重要な書類の作成に、長い間使用されていた。

[編集] ウールオイル(ウールグリース)、ラノリン

羊毛の根元に付着している油分をウールオイルまたはウールグリースという。これを精製したものをラノリンといい化粧品、軟膏の原料にする。

[編集] キリスト教とヒツジのイメージ

キリスト教、またその母体となったユダヤ教では、ヤハウェ(唯一神)やメシア(救世主)に導かれる信徒たちが、しばしば羊飼いに導かれる羊たちになぞらえられる。旧約聖書では、ヤハウェや王が羊飼いに、ユダヤの民が羊の群れにたとえられ(エレミヤ書エゼキエル書詩篇等)ている。

また、旧約聖書の時代、羊は神への捧げもの(生贄)としてささげられる動物の一つである。特に、出エジプト記12章では、「十の災い」の最後の災いを避けるために、モーセはイスラエル人の各家庭に小羊を用意させ、その血を家の入り口の柱と鴨居に塗り、その肉を焼いて食べるように命じた。のちに、出エジプトを記念する過越祭として記念されるようになる。

また、羊の肉はユダヤ教徒が食べることができる肉として規定されている。カシュルートを参照のこと。

新約聖書では、「ルカ福音書」(15章)や「マタイ福音書」(18章)に「迷子の羊と羊飼い」のたとえ話の節がある。愛情も慈悲も深い羊飼いは、たとえ100匹の羊の群れから1匹が迷いはぐれたときでも、残りの99匹を放っておいて、そのはぐれた1匹を捜しに行くものだとある。隠喩で、このはぐれた羊はキリストへの信仰が薄い逸脱者とみなされる。しかしこの羊は迷っただけであり、完全な反抗者でも異端信者でもないため、キリスト信者への復帰が認められている。

ヨハネ福音書」では、イエスが「私は善き羊飼いである」と語るが、イエス自身も「世の罪を取り除く神の小羊」と呼ばれる(1章29節)。

この「神の小羊」は、イエスが後に十字架上で刑死することにより、人間の罪を除くための神への犠牲となる意味があり、イエスが刑死したのも前述の過越祭の期間であったことから、パウロ第一コリント5章7節で、イエスは「過越の小羊として屠られた」と表現する。→ミサミサ曲

また、「ヨハネ黙示録」において、天上の光景のなかで啓示されるイエスの姿は「屠られたような」「七つの目と七つの角」を持つ小羊の姿である(5章他)。

[編集] 雑学

  • 日本でも不眠時に「一匹、二匹」と数を数える場合があるが、本来はsheep(ヒツジ)とsleep(睡眠)をかけた一種の英語駄洒落に由来する。
  • 羊は読みが「ひつじ」であり、語呂が執事(しつじ)とよく似ている事から、羊と執事をかけた駄洒落がテレビ・コマーシャルなど各分野でよく使われている。
  • 鳴き声を日本語で書き表すと「メー」。漢字では「咩(万葉仮名:め、呉音:ミ、漢音:ビ、現代中国語:miē)」
  • 怒った雄羊の突撃には相当な威力がある。ここから転じて古代ローマの攻城槌の先端には、鉄製または青銅製の雄羊の頭部の像が取り付けられた。

[編集] 映画や小説(その他)でのヒツジ

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

ウィクショナリー
ウィクショナリーの項目があります。
ウィキクォート
ウィキクォートに関する引用句集があります。
ウィキメディア・コモンズ