プリクラッシュセーフティシステム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
ボルボ・S60(2010年)に搭載されたカメラ。レーダーと共に障害物を探知する

プリクラッシュセーフティシステムとは、自動車が障害物を感知して衝突に備える機能の総称。自動車に搭載したレーダーカメラからの情報をコンピュータが解析し、運転者への警告やブレーキの補助操作などを行う。衝突被害軽減ブレーキとも呼ばれる。

目次

概要 [編集]

アクティブセーフティパッシブセーフティの間に位置し、1991年から先進安全自動車(ASV)として研究されてきた[1]。 2003年2月に発売されたトヨタ・ハリアーが市販車で初搭載した[2]。ただし、ブレーキアシストの早期作動はあったが、自動でブレーキは行われないものだった[3]。同年6月に発売されたホンダ・インスパイアで初めて自動(CMBS)でブレーキが行われるようになった[4]

システム搭載車両の運転時は車載コンピュータが常時前方への警戒を行っており、前方車両への接近や障害物を感知すると音声などで警告が発せられ、衝突が避けられなくなった時点で自動的にブレーキを掛けて被害の軽減を図る。この他警告の時点でブレーキの効きを強めたり、シートベルトの巻き上げなどの予備動作も行われる。

探査にはミリ波レーダーが使われることが多いが、赤外線レーダーを使用する場合もある。ただし赤外線は太陽の直射光線に弱く、夕方などレーダー機能が働かない場合があることも留意する必要がある。また雨天時の雨粒による誤認識を考慮し、ワイパー作動時には機能がキャンセルされるものもある。なおレーダーに代わってデジタルステレオカメラも使われている。カメラはレーダーに比べて安価ながらより細かい情報が得られる半面、夜間や悪天候時に性能が発揮できない場合があるため[5]、車両によってはレーダーとカメラ双方を装備することで機能の強化を図っている。

ただし、このシステムはあくまで運転の補助を目的とするものであり、システムに依存した運転を意図して設計されていない。事故を起こした場合は運転者が全責任を負うものであり、システムとその開発・販売者が責任を負うことはない事がすべてのメーカーによって明言され、販売時に必ず説明するようになっている。この事を留意した上で運転すべきである。

自動停止 [編集]

初期のプリクラッシュシステムに装備されていた自動ブレーキ機能はあくまで衝突時の被害軽減を目的としており、装置への過信を戒めるためにも衝突前の停止は敢えて行われていなかったが、2008年発売のボルボ・XC60に搭載された(日本では2009年に認可がおり発売[2])「Volvo City Safety」は9mph (15km/h) 以下に限定して衝突前の停止も自動で行う[6]。2010年発売のスバル・レガシィに搭載された「EyeSight (ver.2)」では30km/hにまで対応する。両車とも運転者が依存することを避けるために衝突ぎりぎりまでブレーキは掛からず[7][8]、これによって自動ブレーキを認めていなかった日本の国土交通省の認可も受けることができた[9]

以後、複数のメーカーが15~40km/h以下での低速での停止を行う乗用車を発表し、自動停止まで行うプリクラッシュシステムの割合が増えている[3]

なお、これらの装置は全て停止可能速度以下でも路面状況等により100%停止できるわけではなく、自動ブレーキの作動もセンサーの弱点となる状況により100%作動するわけではない。

市販車に搭載済みの、自動停止まで行う衝突防止装置

減税および義務化 [編集]

国際的にプリクラッシュセーフティシステムを義務化する流れとなっており、EUでは2013年11月に全ての新型商用車、2015年11月に全ての商用車の新車に自動緊急ブレーキの装備が義務化される。日本でも大型商用車の義務化が進んでいる。

大型トラック [編集]

大型トラックによる追突事故の死亡率は乗用車の約12倍と高く、衝突被害軽減ブレーキにより追突事故の死亡事故件数の約80%が削減可能と非常に高い安全効果が見込まれており、日本も事故の削減、国際競争力を維持する為に大型トラックの衝突被害軽減ブレーキの普及を目指している[5]

減税
2012年度より衝突被害軽減ブレーキを導入した大型トラックの購入に対して、自動車取得税を取得価額から350万円控除するとともに、自動車重量税の50%軽減が行われている[6]
義務化
日本では新車の大型トラックは衝突被害軽減ブレーキを搭載する事が義務化される。
新型生産車では、車両総重量22t以上のトラックと同13t以上のトラクタは2014年11月1日から義務化となり、同20tを超え22tまでのトラックは2016年11月1日から義務化となっている。
継続生産車では、同22t以上のトラックは2017年9月1日から義務化され、同13t以上のトラクタは2018年9月1日から義務化される。同20tを超えて22tまでのトラックは2018年11月1日から義務化される。
車両総重量8t以上20t以下のトラックについては開始時期が未定で、今後検討していく。いずれの義務化も新たに製作される車両が対象で使用過程車は対象外[7][8][9]

バス [編集]

2012年に発生した関越自動車道高速バス居眠り運転事故を受けて、大型トラックに続いて義務化が決定した。

減税
2013年度から、衝突被害軽減ブレーキを導入した5トンを超えるバスは、自動車取得税を取得価額から350万円控除するとともに、初回分の自動車重量税を50%軽減する[10]
義務化
日本では乗車定員10人以上・車両総重量12tを超える新車のバスは衝突被害軽減ブレーキを搭載する事が義務化される。
ただし、立ち乗り客が転倒する恐れから立席を有するバスを除く。つまり路線バスを除く、高速バスや観光バスなどが対象となる。
新型生産車は2014年11月1日から義務化となっている。
継続生産車は2017年9月1日から義務化となっている。
5トン超~12トン以下のバスへの義務付け開始時期は未定。いずれの義務化も新たに製作される車両が対象で使用過程車は対象外[11][12]

効果とそれに対する評価 [編集]

ユーロNCAPによると自動緊急ブレーキ(ユーロNCAPではプリクラッシュセーフティシステムを「Autonomous Emergency Braking(自動緊急ブレーキ)」と呼んでいる。[10])によって最大で27%事故の発生を減らすことができる。 そのため、ユーロNCAPでは2014年から最高ランクの5つ星を取得するためには、自動緊急ブレーキの搭載が必須となる[13]

米国道路安全保険協会によると「シティ・セーフティ」を搭載したボルボ・XC60による交通事故の保険請求は他のSUVに比べて27%少ないと報告している[14]

日本でもスバルのアイサイトが文部科学大臣科学技術賞を受賞する[15]など、プリクラッシュセーフティシステムは欧州を中心として世界的に評価が高くなってきている。

上記のようにプリクラッシュセーフティシステムによって事故が大きく減っているというデータが各国で出てきているため、世界各国でプリクラッシュセーフティシステム搭載車に対する保険料割引制度の導入が増えてきている(日本では2012年現在未導入)。スバル・アイサイトはオーストラリアで保険会社アリアンツが一部車種の保険料を2割引きしている。ボルボ・シティセーフティ搭載車に対してはドイツなど9か国で割引されている[16]イギリスでは2012年より自動緊急ブレーキ搭載車に対して保険料レーティングが引き下げされる[17]

メーカー毎の状況 [編集]

トヨタ自動車 [編集]

トヨタは日本で「PCS」の商標を登録しており[18]、系列企業のダイハツ工業日野自動車がこれを「プリクラッシュセーフティ」の略称として使用している。イギリスではトヨタも「Pre-Crash Safety」の略称として使っているが[11]アメリカでは「Pre-Collision System (プリコリジョンシステム)」の略称として使用する[12]

衝突不可避と判断した場合には、プリクラッシュブレーキが作動して衝突速度を低減するとともにプリクラッシュシートベルトを作動させることにより、衝突被害を軽減する。

減速による衝突被害軽減までしか行わない上記の従来のプリクラッシュセーフティシステムと異なり、下記の自動停止も行い衝突の回避・軽減を行うプリクラッシュセーフティシステムに切り替わってきている(今まで自動停止が行われなかった経緯は自動停止参照)。

相対速度40km/h以下で自動ブレーキにより衝突回避を支援する。相対速度が40km/hを超える状況でも、自動ブレーキやブレーキアシストにより衝突速度を減速し、被害軽減を図る。
相対速度15km/h以上で作動し、最大30km/h程度減速して衝突を回避あるいは衝突の被害を軽減する。

ダイハツ [編集]

4~30km/h以内の速度で走行中、衝突の危険性を検知するとまず音と表示による警報を行い、それでも衝突の危険がある場合は自動ブレーキを作動させる。
ダイハツ工業-ムーヴ スマートアシスト解説項

スズキ [編集]

ホンダ [編集]

追突軽減ブレーキ〈CMBS〉Collision Mitigation Brake System

日産 [編集]

スバル [編集]

相対速度が約30Km/h以下の状況では、自動ブレーキによって衝突の回避・衝突被害の軽減を図る。また、相対速度が約30km/hを超える状況では、自動ブレーキによって減速することで、衝突被害の軽減を図る。
SUBARUアイサイト総合サイト

マツダ [編集]

4~30km/hで、自動的にブレーキをかけて衝突回避をサポート、もしくは衝突による被害の低減を図る。
15km/h以上で、自動的にブレーキをかけて衝突による被害の低減を図る。マツダ・アテンザではSCBS、SBS等の先進安全技術をまとめて「i-ACTIVSENSE」と呼んでおり、SCBSと組み合わせて4~30km/hで衝突の回避・衝突被害の軽減、30km/h以上では減速して衝突被害の軽減が可能となった[19]

三菱自動車 [編集]

e-Assistに含まれている衝突被害軽減ブレーキシステムは、相対速度30km/h以下で停止も可能。

ボルボ [編集]

30km/h以下で作動。15km/h以下であれば自動ブレーキで停止も可能。
80km/h以下で作動。35km/h以下であれば自動ブレーキで停止も可能。歩行者も検知する。[14]

フォルクスワーゲン [編集]

フォルクスワーゲン・CCフォルクスワーゲン・パサート オールトラックでは「Front Assist」とのみ装置名が記載されているが、正式には警報機能の名前が「Front Assist」、自動ブレーキ機能の名前が「シティエマージェンシーブレーキ」であり、「シティエマージェンシーブレーキ」機能も含んでいる。[15]

メルセデス・ベンツ [編集]

セーフティパッケージに含まれているPRE-SAFEは、自動ブレーキで衝突被害軽減、回避は行わず、警告、ブレーキアシスト、シートベルトの巻き上げ等のみ行う。
レーダーセーフティパッケージ[16]に含まれているPRE-SAFEブレーキは、200km/h以下で自動ブレーキで衝突被害軽減、30km/h未満で衝突回避をサポートする。
2013年5月14日にEクラスがマイナーチェンジされ、PRE-SAFEブレーキがカメラとレーダーの複合式となり、今まで苦手とされていた歩行者検知能力が強化された。

BMW [編集]

衝突被害軽減ブレーキは、衝突の危険がある場合には軽度のブレーキをかけ自動減速させることで、被害を軽減させる。
衝突回避・被害軽減ブレーキは、前車接近警告機能が作動した後も減速が不十分な場合に車両を自動減速および停止させることで、被害を軽減させる[17]

ゼネラルモーターズ [編集]

前進のみではなく後退でも自動的にブレーキをかける[20]

フォード・モーター [編集]

30km以下での低速走行時に、前方の車両との追突の危険性を感知すると自動的にブレーキをかけて追突を未然に回避、ないしは衝突ダメージを軽減する。

UDトラックス [編集]

日野 [編集]

いすゞ [編集]

三菱ふそう [編集]

脚注 [編集]

[ヘルプ]
  1. ^ 実用化されたASV技術
  2. ^ webCG 追突よサヨウナラ!? ボルボが新しい安全技術を国内導入 (09.06.03)
  3. ^ SankeiBiz 衝突防止装置、低価格化で浸透 富士重は顧客比率9割、輸入車も一部標準装備2012年4月3日
  4. ^ carview キャデラック ATS × セーフティデバイス 完全停止まで行う自動ブレーキ
  5. ^ 自動車の車体課税の見直しについて、平成23年11月15日国土交通省
  6. ^ 大型トラック向けの衝突被害軽減ブレーキ導入に税優遇 2011年12月14日 eJAFMATE
  7. ^ 国土交通省2012年3月12日付け:世界に先駆けて、衝突被害軽減ブレーキの技術基準を策定します!2012年3月12日付け国交省自動車局技術政策課文書(PDFファイル)、「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示」等の一部改正について(PDFファイル)
  8. ^ 読売新聞2012年3月13日13S版37面
  9. ^ 物流Weekly
  10. ^ carlifenews 自動ブレーキ搭載バスの税軽減 自民税調
  11. ^ clicccar バスに衝突被害軽減ブレーキの義務化が決定。平成26年11月1日から。
  12. ^ 日本経済新聞 自動ブレーキ14年義務化 12トン超の新型バスに
  13. ^ WIRED EU、すべての新車に自動ブレーキを義務付けへ
  14. ^ SBD 米保険協会の統計により Volvo ADAS の衝突防止効果が立証される
  15. ^ Response スバル アイサイト が文部科学大臣科学技術賞受賞
  16. ^ テレビ東京・ワールドビジネスサテライト 2012/10/17放送内容
  17. ^ bodyshopmag.com Autonomous Emergency Braking lowers insurance ratings
  18. ^ 商願昭62-25593
  19. ^ マツダ技報 SBS/MRCCの機能/性能向上について[1]
  20. ^ carview キャデラック ATS × セーフティデバイス GM最新の安全デバイスがスゴイ

関連項目 [編集]

外部リンク [編集]