デスモドロミック

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ドゥカティのデスモドロミック機構

デスモドロミックDesmodromic )とは、レシプロエンジンの吸排気弁をバルブスプリングに依らず、カムとロッカーアームの機構によって閉じる機構である。語源は、ギリシャ語で管理や支配を意味する「デスモ(desmo)」と調整などを意味する「ドロモス(dromos)」を組み合わせた造語である[要出典]。確動カム機構ともいう。

概要[編集]

1つのバルブにつき2組のカムロッカーアームを設けてバルブの押下と引上を分担させ、スプリングに頼ることなく強制的にバルブを閉じることで、高回転時におけるバルブタイミングを正確に管理する機構である。古くは1930年代メルセデス・ベンツレーシングカーに使用したという記録があり、市販車ではドゥカティオートバイに採用されるなど、主に4ストロークガソリンエンジンで用いられている。

一般的なレシプロエンジンで用いられるバルブスプリングを利用したバルブ機構では、エンジンの回転速度が速くなると設計されたタイミングにバルブが完全に閉じることができなくなるバルブサージングと呼ばれる現象が発生する。また、バルブを急速に開閉させようとすると、開く際にバルブが弾かれるバルブジャンプと呼ばれる現象や、閉じる際にバルブシートとの衝突でバウンドするバルブバウンスと呼ばれる現象が発生する。いずれの現象も燃焼室内の圧縮効率を低下させるため、エンジンの回転速度やバルブの開閉速度を制限する要素となるが、デスモドロミックはこれらの現象を回避してエンジンの高回転化やバルブ開閉の高効率化、バルブタイミングの厳密な管理といった点で有利となる。

デスモドロミックではバルブを閉じる際の抵抗(メカニカルロス)は、閉じるためのロッカーアーム(クローズロッカーアーム)の慣性力とバルブの密閉を補助するトーションバー・スプリング(リターンスプリング)の荷重によって発生するが、バルブスプリング方式のスプリングによる抵抗と比較すると小さい。また、スプリングを収容するためのスペースが不要であるため、バルブステムを短く軽量に作ることができ、シリンダーヘッドの高さを抑えることができる。

一方、部品点数がスプリングバルブ方式に比べて多いため、製造コスト整備コストが高くなり、シリンダーヘッドの重量も大きくなりやすい。また、バルブを開くロッカーアームだけでなく、閉じ側のクローズロッカーアームのバルブクリアランス調整も必要となる。

デスモドロミックのようにバルブスプリング方式の欠点を補う機構を市販車に採用しているのは近年ではドゥカティだけであり、2007年現在では二輪・四輪を問わず唯一量産自動車にデスモドロミックを採用するメーカーであり、デスモドロミックは同社の代名詞ともなっている。ただし他社のレース用車両においては、共振周波数を高められるねじりばねニューマチックスプリングをバルブスプリングに採用して、より単純な構造でバルブサージングを抑制して高回転を可能にしているものがある。

歴史[編集]

デスモドロミックの発明は、アーネスト・ヘンリー(Ernest Henry)で、1912年にプジョーのグランプリ車に用いられたのが最初である。その後、サムルソンのエンジンを経て、1954年メルセデス・ベンツが製作したF1用車両、W196のエンジンが採用した。このエンジンは1955年に同社がレース活動を休止するまで多くの成績を残した[1][2]

次にデスモドロミックが採用されたのは、1956年ドゥカティが開発したロードレース世界選手権125ccクラス用のレース車両だった。ドゥカティは1968年に量産車初のデスモドロミック採用のモデル「マークIIIデスモ」を誕生させ、その後も採用車両を生産し続けている。

自動車評論家の福野礼一郎によればスクーデリア・フェラーリ1990年フォーミュラ1用V12エンジンティーポ036が採用していたという[3]

参考文献[編集]

  • 福野礼一郎著『礼一郎式外車批評』、双葉社
  • 鈴木 孝著『エンジンのロマン』、三樹書房

脚注[編集]

  1. ^ 『エンジンのロマン』P266-280
  2. ^ 『礼一郎式外車批評』P108
  3. ^ 『礼一郎式外車批評』P108