ディスチャージヘッドランプ

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自動車用ディスチャージヘッドランプの電球

ディスチャージヘッドランプ(Discharge headlight、放電式ヘッドライト)は、従来の白熱電球ハロゲンなど)に替わって、メタルハライドランプなどのHIDランプを使った自動車鉄道車両前照灯である。

メーカーによって、HIDライトキセノンヘッドランプなど、呼び方はさまざまである。

世界で最初に実用化されたのは1991年に登場したBMW・7シリーズである。また、日本車で初めて設定された車種は三菱ふそうの大型トラック、スーパーグレート(1996年平成8年))、乗用車は日産自動車テラノ(1996年9月)である。

鉄道車両でも、1996年平成8年)に登場した東武鉄道30000系JR東日本485系3000番台(リニューアル改造車)より本格的に採用が開始された。

概要[編集]

原理[編集]

従来型ランプは家庭用の白熱電球と同様のバルブ内のフィラメントへの通電による電熱で点灯するのに対し、ディスチャージヘッドランプはキセノンガス水銀、ヨウ化金属などを封入したバルブ内の電極間の放電で点灯する。仕組みとしては、そのほかのガスを使うネオン管や家庭用の蛍光灯と同様で、メタルハライドランプの一種である。このため、従来型ランプとディスチャージランプでは、それぞれが白熱灯と蛍光灯に近い特徴を持つ。点灯時にキセノンによる放電、発熱を利用することで瞬間点灯を実現している。 点灯直後はヨウ化金属が固形で発光せず始動用のキセノン、アルゴン、水銀のみの発光となるため青白い光となり、時間の経過と共に白色に変化する。 通常のメタルハライドランプのヨウ化金属(スカンジウムインジウムナトリウムなどのヨウ化物)を使っただけでは始動時~安定時に道路運送車両法 で定められた白色の範囲を外れてしまうため、成分編組を工夫してある。

HIDバルブを用いた前照灯は、白熱バルブに比べて明るい上に、消費電力が低いため発熱も少ない。フィラメントを使わないことで、消耗と突入電流や振動による断線の心配もなく、長寿命である。

放電灯の特性上、バラストと呼ばれる安定器が必要な他、点灯直後は色温度が高く暗いため、安定した光色や光束になるまで、数秒から数十秒を要する。

沿革[編集]

耐久レースでの試用に始まり、初期は趣味性の高いスポーツタイプの車や、大型トラックの一部に用いられるのみであった。 当初は高額なオプション装着品であったが、夜間走行の多いトラック事業者や夜間高速バス事業者が安全性の向上のために採用し始めた。結果、量産効果によるコストダウンに伴い、近年では軽自動車やワンボックスバンといった実用車にも広く普及し、夜間の視認性、安全性の向上に寄与している。

一方で、寒冷地のユーザーは従来のハロゲンライト仕様を選択する者も少なくない。白熱球と異なり、ディスチャージヘッドランプは発熱が少ない為、降雪時や積雪時にヘッドライトボディに「着雪」してしまい、照射範囲が狭まって夜間走行の妨げとなる場合があるためである。同様のことがLEDヘッドライト仕様車にも言えるが、ヘッドライトウォッシャー機能の搭載義務化により解消されている。

色温度[編集]

HIDバルブの色温度はメーカー純正のものでおおむね4000-4500Kであるが、市販のバルブ(バーナーとも呼ぶ)では、3000K(黄色)、5000K(白色)、6000K、8000K、20000K(水色)といった様々な光色がある。

色温度が高いほど青白い光となり自動車の外観的イメージを変えられるが、色温度が高いほどライトの明るさが減少しかつ人間の目の感度も落ちるので、視認性向上の目的では色温度が高いほうが良いとは言えない。そのため、自動車メーカー純正装着ヘッドランプでは最も運転中の視認性が高いとされる4000-4500K程度に設定されることが多い。また、蛍光灯程度の白色光ならば路面の白線が見やすく晴天時には視認性が高まるが、雨天時や悪天候時などでは色温度が高く青白い光を発するライトは路面の白線などが視認しづらいことがある。6000Kを超えた極端に青いヘッドランプは純粋に暗く視認性が悪く危険である。

車検対応は一般的には6000K(白色)までとされているが、製品の差や検査官の判断によっては青色とされ合格しないことがある。

アフターマーケット[編集]

従来型バルブとの交換による、いわゆる後付けHIDバルブは、多くの用品メーカーが市販しているが、バラストの取り付けや配線の加工には、車両構造に関してある程度の技能と知識が必要とされる。また、色温度の高いもので車検を通らない競技車仕様もある(車検対応は一般的に約6000Kまで)。かつては雨や霧や雪などの悪天候の中での視認性に優れるイエローバルブが市販されていたが、2006年1月以降生産された新車は、ヘッドランプがイエローバルブでは車検不適合になる。

アフターマーケット商品の中には、下記の通り不具合を有しているにもかかわらず、ネットオークションなどで堂々と販売されている場合があり、商品の選択には注意が必要である。

  • ランプ部分の石英ガラスに紫外線カット処理が行われておらず、リフレクターや前部のプラスチックが紫外線焼け(黄変、反射率・透過率の低下)してしまう
  • バラストやコントローラー・配線が、雨からの防水・エンジン熱に対する耐熱・高電圧に対する耐圧・エンジン振動や車両動静に対する耐振性能を有していない、または劣るものがある。
  • 入力電圧・電流に対する安定性が乏しく、不点灯やちらつきが発生することがある。
  • H4型のランプでロービームとハイビームを切り替えるのに、電磁石(ソレノイド)を使用している場合、その切り替え機構が不動となり、ハイビームで固定されてしまったりする。
  • 色温度が厳密に合わせられておらず、左右のランプの色が違ってしまう。
  • 有名ブランドの製品あるいは部品使用と謳っておきながら、実際にはそのブランドの部品を使用していない。
  • ○○年保証を謳っておきながら、故障時の対応窓口が日本国内にない。あるいは連絡先すらない。
  • 俗に中国製HIDは、価格も非常に安価だが上記のリスクをふまえた上で装着する必要がある。ただし中国製でも上記不具合が発生しない商品も無論存在し、日本国内メーカー・日本国内製造であっても、不具合が多いメーカー・商品は存在する。

遠近切り替え[編集]

ハイビームロービームが別になっている4灯式において、ディスチャージランプでは点灯後に発光が安定するまでに十数秒の時間を要する点、すれ違い時やパッシングなどハイビームは点灯・消灯を繰り返す利用シーンが多いことからディスチャージランプは不適であり、ハイビームにはハロゲンバルブなどの通常の電球を使用し、ディスチャージランプはロービームにのみ用いる事が一般的である。 主要な自動車メーカーでは、ディスチャージヘッドライト装備の車両でのハイビーム使用時にロービーム(ディスチャージランプ)が消灯しないような仕様にしている。

ハイビーム・ロービームに同一の灯体を使用する2灯式においては切替方式が2種類存在し、H4バルブ互換のアフターマーケット品などはソレノイドにより機械的に可動する灯体でロービームとハイビームの配光を切り替えるようになっているのが一般的である。発光点の位置をハロゲンバルブのフィラメント位置と合わせることで、疑似的にハロゲンバルブ使用時と同一の光軸や配光特性を維持できるようになっている。 これに対して主にメーカー装着品はバイキセノンヘッドランプ(ディスチャージランプHi/Loなどと記載)と呼ばれる構造のものであり、ロービーム時にはハイビーム側の光軸をソレノイドにより駆動する構造の遮光板で遮断しておき、ハイビーム時にはロービーム側の光軸を維持したままでハイビーム側の光軸も出せるようなランプ構造のものである。マルチリフレクター、プロジェクターのいずれのレンズ方式においても利用できる。

アフターマーケット品、メーカー装着品に関わらず、二灯式の場合はヘッドランプ内部に可動部が存在するため、ハイ・ローの切り替え時に動作音が聞こえる。

光軸調節[編集]

光束が従来型バルブに比べて大きいので、車両の姿勢によっては対向車への眩惑も大きくなる。そのため、光軸調節の機能が付いている事が多い。 ヨーロッパにおいてはディスチャージの認可にあたって、オートレベライザー(自動光軸補正機能)が要件とされた。 日本でも2006年以降、レベライザー(光軸補正機能)が義務づけられた。

水銀フリーHIDバルブ[編集]

一般的なHIDバルブには水銀が封入されているため、現状では、仕向け地によっては使用されていない。 2004年7月26日、トヨタ自動車より発売されたトヨタ・ポルテにおいて世界で初めて水銀フリーディスチャージランプが採用された。 開発元は小糸製作所およびデンソーである。 水銀代替物質を使用しているものの、点灯に必要な電力には差異があるため水銀フリーランプ専用の点灯システムが必要となり、電球部分のみを取り換えて既存の車両を水銀フリー化する事はできない。主として、上記のポルテ以降のトヨタ自動車やダイハツ工業製の自動車に採用されている。ランプ形式はD4系となる。

中国製[編集]

中国製造のH4レンズほか対応HIDキットなどがオークションやネットショップ、一部のカー用品店などで非常に安価で大量に販売されている。中国製は、UV(紫外線)カットが省かれていたりバラストの構造が価格優先の設計であったり防水対策が不十分な製品があるなど、安全性に問題がある場合もあり注意が必要である。さまざまな出品販売があるがバルブやバラストの種類は数種しかなく、ラベルを張り替えて差別化されている場合が多く内部構造はほとんどが同じであることが多い。

その他[編集]

白熱タイプに比べて発熱量が少なく、熱で変形・劣化しうる樹脂レンズの使用も容易になる。一方、レンズに付着した雪を熱で融かす効果はあまり期待できない。そのため積雪地では、ハロゲンなどの従来型の白熱タイプの方が、降雪時の視界確保には有利だとする意見もある。UVカット対応品でないと樹脂レンズや樹脂リフレクターが劣化する可能性もある。本来直近を照らすフォグランプにHIDを導入すると高い車高の車種やフォグの位置が低い場合などは、光を散乱させたり遠くまで光が届くため、対向車などへの迷惑となりかねないので設置の際は注意が必要である。ヘッドランプをハロゲンバルブなどからHIDに交換(改造)した場合、発光点が変わるため、光軸調整を行う必要がある。これらのバルブに限らず、ランプ類の交換、または変更の際、最大の効果を得、かつ他車への配慮のため、光軸調整は必須である。

国際連合欧州経済委員会 (UNECE) による自動車基準調和世界フォーラムWorld Forum for Harmonization of Vehicle Regulations:欧州諸国を中心に、日本、オーストラリアなども加盟)では、ロービームで2000ルーメン以上の光束を持つ光源を使用するヘッドランプに対して洗浄装置を装備することを規定している。ECE R99で規定されているD1、D2、D3、D4タイプを使用するディスチャージヘッドランプは、これに該当する。

脚注[編集]


関連項目[編集]